遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第5話 試験

 

 そんなこんなで、始まりました実技試験。

 

 実技試験はどうやら基本的には同じ寮の者同士で行うものらしい。しかし十代はなんでか万丈目と対戦していたんだが……そこら辺はどうなっているんだろう。

 ひょっとして実力のある生徒は他寮の生徒をあてがう、とかそういうことなのだろうか。詳しく覚えていないからはっきりしない。

 まぁ、どうであろうと自分に出来ることをするだけ、と言えばそれだけだ。十代は万丈目にきっちり勝ってみせた。その後、寮の昇格の話が出ていたが、十代は断るつもりのようだ。

 観客席に帰って来て、いま隣にいる本人に聞いたから間違いない。ま、十代は赤色の制服のほうが似合ってるよな。そう言ってやれば、十代は「俺もそう思う」と言って笑った。

 それより、果たして俺の相手は誰となるのか。誰が相手でも負ける気はないが……はてさて。

 

『あ、遠也。次みたいだよ』

 

 と、そうこう言っている間にどうやら回って来たらしい俺の番。

 やれやれと座っていた席から腰を浮かす。そして、一緒に観戦していた面々に顔を向けた。

 

「じゃ、行ってくる」

「頑張ってっす!」

「遠也なら大丈夫なんだな」

「ええ、頑張ってね」

 

 上から順に翔、隼人、明日香である。何故かいつもの面子に明日香が加わっているのは、御愛嬌といったところか。

 

「勝てよ、遠也!」

「おうとも」

 

 その言葉と共に上げられた十代の手に自分の手を合わせ、パチンと音が鳴る。

 そして俺は観客席からデュエルフィールドへと足を向けた。

 基本同じ寮同士とはいえ、やはり実力がそれなりに拮抗しなければ試験としては成り立たない。だから、ラーイエローの中でも上位の人間が恐らく俺の対戦相手となるんだろう。

 となれば、恐らく俺の相手は……。

 そこまで考えていたところで、向かい側から誰かが歩いてくる。当然それはこの試験の対戦相手。その服装はやはりイエロー寮のものであり、その顔は俺が予想していた顔であった。

 

「やっぱお前か、三沢」

「ああ。デュエルをするのは久しぶりだな、遠也」

 

 そう言って、三沢は口角を上げて笑った。

 三沢大地。俺と同じ一年生でラーイエローの筆記トップの男だ。当然入学試験も1番。単純に頭の良さなら恐らくこの学校でも1番なのではないだろうかと思う。

 俺も頭では三沢に敵わない。だが、三沢はデュエルでは俺に敵わない。

 筆記の三沢、実技の俺。ラーイエローでは俺たち二人がトップに並んでいると言っても過言ではない。

 

「それで、三沢。こうしてここにいるということは、出来たのか?」

「ああ。まだ完璧とは言えん……せいぜい70%といったところだがな」

 

 そう言って、三沢はジャケットの裏からデッキを一つ手にとってディスクに収める。

 デッキを取る際に見えたジャケットの中。そこには何個もデッキが用意されていた。

 

「お前のシンクロ召喚を封じるためのデッキ……試させてもらおう!」

 

 三沢には一つの特徴がある。それは、相手のデッキごとに違うデッキを使うということだ。

 つまり、いわゆるメタデッキという概念に近い。三沢はその頭脳を最大限に利用し、相手を封じ込める対策を練ったうえでデッキを作る。

 そういう比較的この世界では珍しいタイプのデュエリスト。それが三沢なのだった。

 

「ああ、受けて立つぜ!」

 

 そんな三沢の挑戦に俺も応え、ディスクを構える。

 そして先生の開始の声とともに、実技試験が始まった。

 

「「デュエル!」」

 

 皆本遠也 LP:4000

 三沢大地 LP:4000

 

「先攻は俺だな、ドロー!」

「くっ」

 

 まずい、三沢が先攻か。

 対策を組み込まれたデッキ相手に先攻を取られるのは非常にまずい。悪ければそのターンでロックが完成して身動きできなくなることもあるからだ。

 隣ではマナも心配げに見ている。それだけ、メタというのは、特に俺のデッキにはマズい。

 そして、現在の俺のデッキの元となっている【シンクロン】と呼ばれるデッキに対するメタといえば……。

 

「俺は《王虎ワンフー》を召喚!」

「やっぱりソイツかー!」

 

《王虎ワンフー》 ATK/1700 DEF/1000

 

 表側表示でフィールドに存在する限り、お互いに攻撃力1400以下のモンスターを召喚できなくなるモンスター。正確には召喚・特殊召喚は出来るが、その瞬間に破壊してしまうモンスターだ。

 自分もその効果を受けるというデメリットはあるが、それ以上にこっちのダメージがやばい。なにせ、このデッキのモンスターはほとんどが低レベル、低ステータスのモンスター。ワンフー1枚で、9割以上のモンスターカードが召喚できなくなったと言っていい。

 

「お前の戦術は研究してきた。シンクロ召喚はその特性上、いったんフィールドに表側表示でモンスターを出す必要がある。そして、低レベルのモンスターを多用する。そのステータスは低いものがほとんどだ。なら、その召喚を封じてしまえばシンクロ召喚も行えない!」

 

 どや顔で言う三沢。それに成程と感心する周囲。そして、ぐうの音も出ない俺。

 悔しいけど、その通りだよこんちくしょう!

 

「更に俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 

 一応、このデッキの弱点は俺自身が一番知っている。だからこそ、こういう状況を脱する手も用意してはあるが……。

 それが手札に来なければ全く意味はない。一応、現状の手札でも対処は可能、か。足掻けるだけ足掻くが……。

 

「俺はモンスターをセット、更にカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 ここは耐えるしかない。けど、なんとかワンフーを対処しないと。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 さて、三沢はここからどう来るか。

 ワンフーときたからには、その後の展開もある程度は予想できる。だが、相手はあの三沢。どんな戦術で来るのかはわからない。

 

「俺は《異次元の女戦士》を召喚し、バトル! 異次元の女戦士でセットモンスターを攻撃!」

 

《異次元の女戦士》 ATK/1500 DEF/1600

 

 金髪の女性、荒野の女戦士のその後の姿とも言われる鎧姿の戦士が、その剣を振りかぶり、裏側表示のカードに攻撃する。

 それにより、カードが反転。

 

「セットモンスターは《ライトロード・ハンター ライコウ》! ライコウの効果、フィールド上のカード1枚を選択して破壊できる! 俺が選択するのは、当然王虎ワンフー!」

 

 これも一応、対策その1ではある。墓地肥やしのほうが主目的ではあるので、対策として入れたカードというわけではないが。

 これで破壊されれば儲けもの、といったところだが……。

 

「甘いぞ遠也! 罠カード発動、《天罰》! 手札のカード1枚を墓地に送り、ライコウの効果を無効にして破壊する!」

 

 ソリッドビジョンによって、天から雷がライコウに降り注ぎ、破壊してしまう。

 くそ、やっぱそう簡単には行かないか。そのうえ異次元の女戦士も場に残っちゃってるし、墓地肥やしも出来ないし……。

 

「俺は更に王虎ワンフーで直接攻撃!」

「くっ……!」

 

遠也 LP:4000→2300

 

 フィールドにモンスターを召喚できないってのは、やっぱり辛いな。

 せっかくのライコウも不発に終わるし、散々だ。やっぱり、シンクロン主体のデッキにとってワンフーは鬼門もいいところだな。

 俺のライフをいきなり大幅に削ることに成功した三沢は、それでも注意深く俺を見ている。ダメージを与えても油断しない姿は、さすがといったところか。

 

「よし、俺は更にカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

 

 

 

「マズいわね」

「遠也くんのフィールドが、がら空きになるなんて……」

 

 明日香の言葉に同意するように翔は、遠也の置かれた状況を沈んだ声で表した。

 さっきまでは伏せモンスターがいたのだが、三沢により破壊。今遠也のフィールドにあるのは伏せカードが1枚だけ。ライフポイントも削られてしまった。

 状況的に危ないのは一目瞭然だった。

 しかしここで、翔は心に浮かんだ疑問を口にする。

 

「でも、遠也くんらしくないっすね。いつもならもうシンクロ召喚してるのに……」

 

 不思議そうに言う翔に、明日香はため息をつく。

 いかにも呆れた様子に、翔は居心地が悪そうに身を揺らした。

 それを見ていた隼人が、翔に対して解説をする。

 

「翔。三沢が出してる王虎ワンフーは、攻撃力1400以下のモンスターの召喚を封じる効果があるんだな。遠也のデッキのモンスターは低攻撃力ばかりだから、モロにその影響を受けてるんだな」

「そういうことよ。あなたも前田君を見習って少しは勉強したほうがいいわよ」

「いやぁ、俺は遠也のデッキについて知ろうとしているうちに詳しくなっただけなんだな」

 

 明日香に褒められ、隼人は満更でもなさそうに謙遜する。

 実際、勉強が得意ではなかった隼人だが、カードそのものは大好きであり興味もある。それはカードデザイナーに憧れを持つ面からも確かである。

 そんな彼は、遠也が持つシンクロという新たな概念に大きな衝撃を受けていた。そして、事あるごとに遠也に尋ね、興味のままに知ろうとした。

 その結果、意図せぬうちに隼人の知識は深まっていたのだ。基本知識が身に着いた程度のものではあったが。

 

「うう、じゃあ遠也くんはマズいじゃないっすか!」

「そうね。どうにかワンフーに対処しないと、最悪このままってことも……」

「心配なんだな」

 

 3人は遠也のデッキがシンクロを主力にし、それがなければ成り立たないデッキであることをよく知っている。故に心配する思いが滲み出てきていた。

 しかし、同じく遠也のデッキをよく知りながら、十代はまったく心配する様子を見せていなかった。

 

「大丈夫だって、遠也なら」

 

 そう十代は3人に言い、にやりと笑う。

 

「あいつと一番デュエルしてるのは俺だぜ! その俺が言うんだから間違いない! 遠也なら、どんな状況からでも、絶対に勝ってみせるさ!」

 

 断言して見せる十代に、3人は強張っていた気持ちを緩める。

 確かに、遠也と最もデュエルしているのは十代だ。その十代がこう言うのだから、遠也には何か手があるに違いない。

 

「そうね、信じましょう」

「それなら、応援で元気づけるっす!」

「それはいい考えなんだな」

 

 そして翔と隼人、十代はそれぞれ遠也に向かって声援を送り始める。そんな賑やかな3人を見て、明日香は小さく笑った。

 

 男の友情ってやつなのかしら。そんなことを思いながら、彼女もまた遠也に心の中で声援を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 うお、なんか十代たちが大声で応援してくれてるんだが。恥ずかしくないのか、あれ。周りから見られてるぞ。

 だがまぁ、応援される身としてはやはり嬉しい。なら、気合を入れていきますか。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 よし、来たか破壊系のカード。待ってました。

 

「モンスターをセット、更にカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 俺はエンド宣言をするが、三沢は訝しげにこちらを見ている。いや、そっちのターンですよ?

 

「遠也にしては、消極的すぎる……。本当に何も手がないのか? まぁいい。今は己を信じるのみ! 俺のターン、ドロー!」

 

 三沢は引いたカードを一瞥し、そのままディスクにカードを置く。

 

「永続魔法《強者の苦痛》を発動! 相手フィールドに表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力はレベル×100ポイントダウンする!」

 

 俺のフィールドに表側表示のモンスターはいない。だというのに出したということは……。

 

「保険か。用心深いこったな」

「ふっ、お前を相手に出し惜しみが出来るはずもないからな。なにせ、最強のラーイエローなのだから」

「お前まで言うのか、それ」

「そう言うな。その称号は俺がもらうつもりだったんだからな」

 

 確か、そしてゆくゆくは学年1位となってオベリスクブルーへ、だったか? 以前のデュエルでそんなことを言っていた気がする。

 1位になることに執着している、というよりは自分の力を試して鍛え上げることが重要、という感じだったな。今時珍しい勤勉な奴だと思ったのを覚えている。

 なるほどね、俺は図らずも三沢の前に立つ壁になってるってことか。

 

「だから今日、お前に勝って俺は更に強くなる! 俺はもう1枚の《王虎ワンフー》を召喚し、バトル! 異次元の女戦士でセットモンスターに攻撃!」

 

 セットされたモンスターが反転し、姿が明らかになる。

 俺が伏せたのは《ボルト・ヘッジホッグ》。当然破壊される。

 

「ボルト・ヘッジホッグ……それは確か墓地で効果を発揮するモンスター。なら、俺は異次元の女戦士の効果でこのカード自身とボルト・ヘッジホッグをゲームから除外する!」

 

 三沢の言葉により、異次元の女戦士の効果が発動。2体のモンスターは次元の裂け目に飲み込まれてフィールドから消え去っていった。

 

「これでお前のフィールドはがら空きだ。1体目のワンフーで直接攻撃!」

「なんの! 罠カード発動、《サンダー・ブレイク》! 手札を1枚捨て、攻撃してきたワンフーを破壊する!」

「くっ……! ならばもう1体のワンフーで攻撃するまでだ!」

 

 これはさすがに防げん。ワンフーの攻撃が決まり、俺のライフが更に大きく削られる。

 

 遠也 LP:2300→600

 

「メインフェイズ2に入り、俺は伏せていた《リビングデッドの呼び声》を発動! 王虎ワンフーを復活させる!」

「そいつはさせん! 速攻魔法《サイクロン》! リビングデッドの呼び声を破壊し、そのワンフーはもう一度墓地に戻ってもらう!」

「……やはり、そう簡単には行かないか」

 

 当たり前だっつの。せっかく1体ワンフー潰したのに、復活されてはたまらん。対処出来るものも出来なくなってしまう。

 

「俺はターンエンドだ!」

 

 三沢のターンが終わり、俺のターンが来る。

 だが、まだ俺の手札に逆転の一手はない。ここで引けなければ、さすがにまずい。まったく、十代のようなドロー運が俺にもあれば良かったんだがなぁ。

 そんな考えがよぎり、思わず十代がデュエルしている様子を思い出す。

 万丈目とのデュエル、苦戦しているのかモンスターを破壊される十代。だが、その表情はそんなことを思わせないほどに清々しく、心からデュエルを楽しんでいるのがこちらにも伝わってくるようだった。

 十代は遊戯さんたちのように、カードを信じ、その力に絶対の信頼を寄せるデュエリストだ。

 それは主人公だから、というわけではない。心からデュエルを楽しみ、そしてデュエルが好きだからこそ、その力となってくれるカードたちを信じている。

 それは、ただ十代がそういう人間だからだ。主人公も何も関係ない。デュエルが好きで、カードを信じているからこそ、デッキは応えてくれる。

 そのことを、俺は誰よりも楽しそうにデュエルをする十代に教えられたような気がした。

 

 ……ここに来て、ずっと十代と一緒にいたからか、俺も影響されていたみたいだ。

 デッキを信じる。口で言うには簡単だが、俺は果たして真にそれができていただろうか。

 いや、出来ていなかったんだろうな。出来ていたなら、ドロー運がどうのと言うはずがない。どこかで、たかがカードゲームだと思っていたような気がする。

 ここはもう前の世界ではないというのに。

 なら、今この瞬間から。俺は俺の作ったこのデッキを心から信じる。俺が信じて作ったデッキ。その相棒達の力を信じて、カードを引く。ただそれだけでいい。

 それが、いつも俺に力を貸してくれているこいつらへの礼ってもんだろう。

 

『遠也、頑張れ!』

 

 こうして、応援してくれる奴もいるんだ。なら、なおさら負けたくない。だから、力を貸してくれ俺のデッキ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを、確認する。

 ――来たか!

 

「俺は手札から速攻魔法《月の書》を発動する!」

「《月の書》だと!?」

 

 三沢もわかっているみたいだな。これでこのターン、俺は自由になる。

 

「月の書の効果により、フィールドに表側表示で存在するモンスターを1体、裏守備表示にする。俺が選択するのはもちろん、王虎ワンフー!」

 

 月の書の効果が発動し、三沢の場に存在するワンフーが姿を消し、裏側表示のカードだけがその場に残る。

 効果モンスターの効果は基本的に表側表示でなければ発動しない。それはワンフーも同じことだ。なら、裏側守備表示にしてしまえばその効果は発動しない。

 これでこのターン、俺の行動に制限は何もなくなった。

 

「だが、お前の手札は1枚。フィールドには1枚もない。そこから、どうするというんだ?」

 

 確かに一気に決めるのは無理だ。だが、この手札にある1枚。これが、この状況を打破する一手となる。

 俺の全てはこの手札の1枚だけ……。だが、だからといって、負けると決まっているわけじゃない。

 月の書の効果はこのターンだけ。なら、その間に出来ることをやるだけだ。

 

「俺は手札の《調律》を発動! デッキからシンクロンと名のつくチューナーを1体手札に加え、その後デッキトップのカードを墓地に送る。俺が選ぶのは《ジャンク・シンクロン》! そして、そのまま召喚する!」

 

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300→1000 DEF/500

 

 そして墓地に落ちるカードを確認する。

 よし、これならまだ何とかなる。少なくとも、あと1ターンでやられるということはないだろう。

 

「ジャンク・シンクロンの効果発動! 墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! 蘇れ、ボルト・ヘッジホッグ!」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800→600 DEF/800

 

「ボルト・ヘッジホッグの2枚目! コストで墓地に送られていたのか!」

 

 そういうことだ。

 さて、これでようやくチューナーと素材モンスターを並べることが出来た。やっぱりワンフーって鬱陶しいな。特にシンクロン主体のデッキにとっては。

 初手で来られると、除去するまで何も出来ないからなぁ。

 

「レベルの合計は5……。来るか、ジャンク・ウォリアー」

 

 三沢がこれまでの俺の対戦から、これから出すシンクロモンスターの予測を立てる。

 だが、ちょっと違う。レベル5というのはそうだけどね。

 

「三沢。言っておくが、俺が持っているレベル5のシンクロモンスターはジャンク・ウォリアーだけじゃないぞ」

「なに!?」

 

 確かにレベル5のシンクロではあいつしか使ってなかったから、勘違いするのもわかるが。

 これから出すのは、本来なら遊星は使っていないモンスター。だから、これは俺が選んだモンスター。シンクロ主体だったかつての環境で猛威をふるった1枚である。

 

「俺はレベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 既にアカデミアでは見慣れたものとなりつつあるシンクロ召喚のエフェクト。だがしかし、これから出すのは今日初めてお披露目となるモンスターだ。

 

「集いし英知が、未踏の未来を指し示す。光差す道となれ!」

 

 一際強く光が放たれ、その中からモンスターが現れる。

 

「シンクロ召喚! 導け、《TGテック・ジーナス ハイパー・ライブラリアン》!」

 

《TG ハイパー・ライブラリアン》 ATK/2400→1900 DEF/1800

 

 白と黒の学士帽とマントを身につけ、近未来的な電子ブックのような端末を手に、青いレンズの眼鏡をかけた長身の男。司書と言いつつも、どこか科学的な出で立ちのモンスターがフィールドに降り立った。

 

「TG ハイパー・ライブラリアン、新たなシンクロモンスター。一体、どんな効果が……」

「TG ハイパー・ライブラリアンで裏守備になっている王虎ワンフーに攻撃!」

 

 ライブラリアンはその両手から本に似た波動を放ち、セット状態からリバースした王虎ワンフーを破壊する。

 強者の苦痛により、レベル分、500ポイント攻撃力が下がっているが、王虎ワンフーの守備力は1000。問題なく破壊された。

 そして、三沢はライブラリアンの効果を警戒しているのか身構えている。だが、俺に出来ることは既に何もない。

 

「俺はこれで、ターンエンドだ」

「なに!? ……何か効果があるわけじゃないのか? まあいい。俺のターン、ドロー!」

 

 三沢はドローしたカードを見て、それをそのまま宣言して発動した。

 

「俺は《強欲な壺》を発動! デッキからカードを2枚ドローする!」

 

 出た! GX時代のドローコンボだ!

 デュエルモンスターズ最大のドローソースにして、OCGでは(たぶん)永久禁止カード。この時代では制限とはいえまさかの現役というトンデモ仕様。発動条件もなく手札が1枚増えるとか、俺としては羨ましすぎる効果である。

 貪欲な壺や闇の誘惑でさえ制限化されてんのになぁ。早くこの時代もこのカード禁止にしてくれよホント。

 俺のデッキには当然入ってないから、ちょっと羨ましいんだよコンチクショウ!

 

「そして俺は《魔導戦士ブレイカー》を召喚し、このカードに魔力カウンターを1つ乗せて攻撃力300ポイントアップ。更に速攻魔法《収縮》を発動! ライブラリアンの元々の攻撃力を半分にする!」

 

《魔導戦士ブレイカー》 ATK/1600→1900 DEF/1000

《TG ハイパー・ライブラリアン》 ATK/1900→700

 

 ライブラリアンの攻撃力が大幅に下がり、ブレイカーの戦闘破壊可能圏内に入る。

 魔導戦士ブレイカーは魔力カウンターが乗っている時は攻撃力1900のアタッカー。それを取り除けば魔法・罠の除去も出来るという優秀なカードだ。

 だからこそ三沢も入れているのだろう。この時代では制限だったか準制限だったか……どっちだったかな。

 

「バトル! ブレイカーでライブラリアンに攻撃!」

 

 ブレイカーがその剣を振りかぶり突進してくる。かつて遊戯さん、というより王様のほうが羽蛾相手にバーサーカーソウルしたことでも有名なカードだ。まさか俺がソイツに狙われる側になるとは想像もしていなかった。

 まぁ、それはいいとして。これを通せば大ダメージは必至だ。ここは防がせてもらう。

 

「俺は墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」

「そんなカードいつの間に……またあのコストの時か」

「そういうことだ」

 

 三沢は、ふぅと息をついて小さく笑った。

 

「抜け目ない奴だ、さすがだな。しかし、だからこそ超える価値がある! 俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 よし、このターンはしのいだ。

 そして布石となりえるライブラリアンも召喚してある。

 だが、それだけだ。相変わらず手札はゼロ、フィールドにモンスターが1体という危険な状況だ。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 引いたカードを見て、俺はそれをすぐさまディスクの上に置いた。

 

「俺は《シンクロン・エクスプローラー》を召喚! 効果により、墓地のシンクロンと名のついたチューナーを特殊召喚する! 来い、ジャンク・シンクロン!」

 

《シンクロン・エクスプローラー》 ATK/0 DEF/700

《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300→1000 DEF/500

 

「またチューナーと素材となるモンスターが揃った……! 来るか、シンクロ召喚!」

 

 もちろんである。

 三沢の期待に応え、俺は早速宣言する。

 

「俺はレベル2のシンクロン・エクスプローラーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 レベルの合計は5だ。当然、呼ぶのはこのデッキの切り込み隊長。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300→1800 DEF/1300

 

 その拳をブレイカーのほうへと突きつけ、現れるジャンク・ウォリアー。

 今日もよろしく頼んますぜ。

 

「更にシンクロしてきたか。だが、そいつでは魔導戦士ブレイカーの攻撃力には及ばない!」

 

 その通りだ。

 だから、俺はここで更に博打に出る!

 

「まだ俺のメインフェイズは続いている! ここで、TG ハイパー・ライブラリアンの効果発動!」

「なんだって!? このタイミングで発動する効果だと!?」

 

 驚きを見せる三沢だが、それに構わず俺はライブラリアンの効果を使う。

 本来ならもっと余裕を持って使いたいんだが、上手くいかないもんだな。このデッキがもともとあのカードを出すために作られたデッキ、というのも回りづらい原因かもしれないが。

 ガチにすれば話は別だろうが、それはそれで嫌なんだよな。まぁ、それは置いておいて。

 

「ライブラリアンの効果! 自分か相手がシンクロ召喚に成功するたびにカードを1枚ドローする。ドロー!」

 

 そう、この相手がというのが問題でもあった。かつての環境はシンクロ全盛だったからな。コイツがいれば手札に困ることがなかったのだ。更に2体いれば、色々出来たしな。

 制限になってからは、その猛威もなりを潜めたが。

 

「ドロー補強の効果を持っていたのか。だがまだ……」

「俺は今引いた《サイクロン》の効果を発動! 三沢のフィールドの《強者の苦痛》を破壊する!」

「まさか! ここで除去カードを引いたのか!?」

 

 三沢があまりのことに驚くが、それを言うなら俺も驚いてる。

 俺のデッキに、こうして単体で相手の魔法・罠を破壊できるカードはサイクロン2枚と大嵐1枚の2種類3枚。1枚は既に使ったので、あと2枚あったわけだが、まさかここで引けるとは。

 これも遊星の言うところの、カードたちとの絆が為せること、だろうか。本当にそうなら嬉しいけどね。

 なにはともあれ、地味に鬱陶しかった強者の苦痛もこれで消えた。結果、俺のフィールドのモンスターは攻撃力が元に戻る。

 

《TG ハイパー・ライブラリアン》 ATK/1900→2400

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/1800→2300

 

「バトルだ! ジャンク・ウォリアーで魔導戦士ブレイカーを攻撃! 《スクラップ・フィスト》!」

 

 ジャンク・ウォリアーの拳がブレイカーを打ち砕く。その瞬間、三沢の声が上がった。

 

「永続罠カード発動! 《スピリットバリア》! 俺のフィールドにモンスターが存在する限り、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 

 スピリットバリア? なんでそんな微妙なカードを……。アストラルバリアとのロック狙いだったのか、それとも何か別の狙いがあったのか。

 まぁ、それはわからないが、これでブレイカーとの戦闘によって発生する超過ダメージは0となったわけだ。

 

「だが、モンスターは破壊される。続けてライブラリアンで直接攻撃!」

「ぐぁっ!」

 

三沢 LP:4000→1600

 

  ライブラリアンの両手から迸る波動が、三沢のライフポイントを削る。

 しかし、ようやくこれだけライフを削れたか。これだからワンフーは嫌なんだ。あいつ、ホントなんとかして制限かからないかな。無理に決まってるけどさ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 俺の手札はゼロ、対して三沢は1枚だがフィールドはがら空き。ここから、どう手を打ってくるか……。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 三沢はカードを引き、そしてそれをすぐさま発動する。

 

「俺は《天使の施し》を発動し、デッキから3枚ドローし2枚捨てる! くっ……《ライオウ》を召喚! そして2枚目の《強者の苦痛》を発動する!」

 

《ライオウ》 ATK/1900 DEF/800

 

 また出たGX時代のドローコンボ!

 

 しかし、一瞬三沢は表情を歪めたな。場に出されたカードを見れば、その理由は察しが付く。逆転の一手を引けなかったからだろう。俺としては助かったわけだが。

 っていうか、またお前か強者の苦痛。デッキコンセプト的に積まれてるんだろうから当然だろうが、それでもやはり邪魔なものは邪魔である。

 

《TG ハイパー・ライブラリアン》 ATK/2400→1900

《ジャンク・ウォリアー》 ATK/2300→1800

 

「ライオウでジャンク・ウォリアーに攻撃! 《ライトニングキャノン》!」

「つっ……」

 

 ライオウの胸部にある赤い宝玉が光を放ち、そこに集った雷が砲撃となって撃ち出される。

 ジャンク・ウォリアーは何とか耐えようとするものの、耐えきれずに破壊された。

 

遠也 LP:600→500

 

「俺はこれで、ターンエンドだ!」

 

 これで、三沢のフィールドにはライオウ1体と強者の苦痛。そして俺のフィールドには攻撃力1900となっているライブラリアンがいて、手札はゼロだ。

 つまり、ここで俺が苦痛の効力下で攻撃力1600以上となるモンスターを出せれば、三沢のライフを削りきることができるわけだ。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 このカードで全てが決まる。

 そして、俺が引いたカードは――。

 

「――《カードガンナー》を攻撃表示で召喚する!」

 

《カードガンナー》 ATK/400→100 DEF/400

 

 子供が描いたオモチャのロボットといえば、それがぴたりと当てはまるようなモンスター。その攻撃力は元々が400という低ステータス。それを見た観客席からは、少々の落胆の声が上がる。

 だが、十代たちのほうからは「あっ」とか「そのカードは!」とか聞こえてくる。翔、隼人、十代は俺とのデュエルでこのカードのことを知っているからな。

 だが、その中で明日香だけはこのカードのことを知らなかったらしい。十代たちにカードの効果を尋ねていた。

 そしてそんな中、十代は大声で俺にエールを送る。

 

「いけー! 遠也!」

 

 その声に押され、俺は三沢に視線を戻す。三沢は召喚されたカードガンナーのステータスを見て、少し安堵しているようだった。

 

「攻撃力は強者の苦痛によって100……チューナーもいない。それならば、次のターンで逆転してみせる!」

 

 意気込む三沢だが、そうは問屋がおろさない。このデュエルはここでエンドマークだ。

 

「甘いぜ、三沢」

「なに!?」

「こいつにはある効果がある。普段は墓地肥やしに使うばっかの効果だけどな。俺はカードガンナーの効果を発動!」

 

 かつて機械複製術などとのコンボでワンキルすら可能だった優秀な効果。低ステータスであろうと、こうして一瞬で化けることもある。

 

「1ターンに1度、デッキの上からカードを3枚まで墓地に送り、エンドフェイズまでその枚数×500ポイントこのカードの攻撃力はアップする! 俺は3枚のカードを墓地に送り、攻撃力アップ!」

「なんだと!? ということは……」

 

 そう、強者の苦痛で300ポイント下がった攻撃力に、500×3の1500ポイントが上乗せされることとなる。

 よって攻撃力は……。

 

《カードガンナー》 ATK/100→1600

 

「攻撃力1600だと! 俺の負け、か……」

 

 自身の敗北を悟った三沢に、俺はただバトルフェイズに入る宣言をして応えた。

 

「バトル! ライブラリアンでライオウに攻撃!」

 

 ライブラリアンとライオウの攻撃力は互角。互いの攻撃がその間で拮抗するものの、やがてそれぞれの攻撃がともに直撃しあい、2体は相打ちとなって墓地に行った。

 当然、三沢のライフに変動はない。だが、これで三沢への攻撃を遮るものは何もない。

 

「いくぞ! カードガンナーで直接攻撃! これで終わりだ!」

「うあぁっ!」

 

 カードガンナーの両腕から砲撃が放たれ、それが三沢に直撃する。

 そしてその攻撃は三沢のライフポイントを削りきり、この瞬間に俺の勝利が確定した。

 

三沢 LP:1600→0

 

 決着がつき、審判役の先生が俺の勝利を告げる。

 ふぅ、やれやれ……。この世界に来てから、どうもデッキが上手く回っていないとはずっと思っていたんだが、それはこの世界ではカードそれぞれに精霊のような意思があるからだったのかもしれないな。

 俺は元々デュエルモンスターズをただのゲームだと思っていたわけだし。それがカードとの絆を弱めていたんじゃないだろうか。

 カードそれぞれのことを尊重し、大切にすること。単純なことだが、あるいはそれこそがこの世界で一番デュエルを楽しむ道なのかもしれない。

 ……しかし、元の世界なら妄想乙の一言で片づけられそうなことを、俺も真剣に考えるようになったもんだな。

 実際、カードの精霊が実在するこの世界だから俺も真面目にそう考えられるが、もし精霊のことを知らなかったらずっと考えも変わらなかっただろうな。

 

『ん、なに?』

 

 思わず隣に浮かぶマナを見る。

 ……そうだな。マナもカードの精霊なんだ。カードには意思があるなんて、ある意味一番納得できる実例が目の前にいた。逆にそれを認めないということは、マナのことも間接的に否定しているってことになる。

 つまり、簡単なことだったわけだ。マナのことを既に認めている俺が、今更否定するはずもない。ちょっと受け入れれば、それだけで済むことだったのだ。

 

(ま、そんなわけで。改めてこれからも頼むぞ、俺のデッキ)

 

 ディスクにセットされたデッキを外し、手に持って思う。

 そして俺はデッキをケースに収めて対戦相手である三沢のほうへと足を向けた。

 

「さすがだな、三沢。いいデュエルだったが、冷や冷やしたぜ」

 

 これは本心だ。これで70%なのだから、完成したらどうなっているんだろう。苦痛ワンフーが弾圧ワンフーになるのだろうか。……そのデッキとはなるべく戦いたくないものである。

 それに対して、三沢は悔しそうではあるものの苦笑を見せた。

 

「まだまだ対策が足りなかったみたいだ。見ていろ、次はお前に勝ち俺がトップに立ってみせる!」

 

 そう言って三沢は手を差し出してくる。それに、俺も笑って応えるとしっかり握り返した。

 

「ああ。その時を楽しみにしてるぜ!」

 

 互いの健闘を称え合い、握手を交わす俺たちに、観客席から拍手が起こる。先程の十代と万丈目に負けず劣らずといった規模のものだ。

 俺と三沢はそんな万雷の拍手の中心に立たされ、誇らしいような気恥ずかしいようなといった微妙な心地である。

 そしてその拍手の中、体育館を一望できる大きな放送室から放送が入る。鮫島校長からのものだ。

 

『皆本遠也君。シンクロ召喚という新たなシステムを使いこなす技量、そしてこのデュエルによって名実ともにラーイエローのトップとなったその実力。君もオベリスクブルーへの昇格が決定です。おめでとう』

 

 わお、俺もか。

 まぁ、元々ラーイエローの実技でトップと言われていて、こうして筆記トップの三沢に勝ったんだから、こういう処置もアリなのか?

 まさか俺まで昇格になるとは思わなかったが……。不都合は特にないし、まあいいか。ブルーというのは若干の不安ではあるが、くれると言うなら貰っておく。

 校長の放送を聞き、更に大きく拍手をしてくれる同級生諸君。なんて暖かい連中なんだ。ブルー生があんまり拍手していないのはご愛嬌だが。

 こうして俺の月一試験は終わり、俺は十代たちの元へ戻ってその場を後にした。

 そして、途中から加わって来たジュンコとももえ、三沢も加えて互いに今回のデュエルの反省をしながら過ごす時間は、なかなかに楽しかったと追記しておく。

 

 

 

 

 


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