遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第53話 流星

 

 レーザー衛星ソーラの脅威に晒されながらの、十代と斎王のデュエル。ネオスとマナはソーラを何とかしようと試みたが、惜しくも斎王が発動したフィールド魔法《光の結界》によってその行動を封じられてしまう。

 光の結界には精霊の活動を抑制する効果があったのだ。それゆえ、ネオスは力を温存するためか姿を消し、マナは精霊状態から実体化して結界からの干渉を最低限に防ぐという手を取った。

 光の結界によって行動を制限されたマナは、翔と剣山、そして目を覚ましたエドと一緒に十代のデュエルを見守っていた。光の結界さえなくなれば、すぐにでも飛び出せるように気を配りながら。

 そして、戦況がめまぐるしく動く中。ついにその時は訪れた。

 

「――《E・HERO グロー・ネオス》の効果発動! 1ターンに1度、相手の場の表側表示のカード1枚を破壊し、破壊したカードの種類によって更なる効果を得る! お前の表側表示のカードは1枚だけだ! 砕け散れ、《光の結界》!」

「なにィッ!?」

「いけ、グロー・ネオス! 《シグナル・バスター ブルー・ライトニング》!」

 

 グロー・ネオスの放った青い光が斎王を襲い、場に存在していた光の結界を破壊する。そして、魔法カードを破壊したことにより直接攻撃の効果を得たグロー・ネオスが斎王を攻撃し、そのライフに大ダメージを与えた。

 たたらを踏む斎王。その姿を見ながら、マナはすぐさま自身を精霊状態へと戻した。

 そして、直接攻撃を終えたグロー・ネオスが十代と一言二言話すと、その視線をマナに向けた。その視線に頷きを返し、マナはすぐさまグロー・ネオスの側に向かい、その力を受ける。

 それによって宇宙空間で活動する力を得たマナは、フィールドに分身を残して飛び立つネオスを追う形でデュエル場となっていた女神像の部屋から上へと飛び出していくのだった。

 地上、空、オゾン層すら超え、宇宙へ。そしてそこに浮かぶ鋼鉄の兵器を視界に収め、マナとグロー・ネオスは頷き合った。

 

『いくよ、ネオス!』

『ああ! 破滅の光の好きにはさせない!』

 

 マナは杖を構え、そしてネオスは半身の構えを取る。そして、さぁここからというところで、徐々にネオスの身体は薄れていった。

 どうやら十代のフィールドに残してきたネオスの分身に何かあったようだが、ここで消えてもらっては困る。マナは自身の魔力をネオスに分け与え、どうにかその形を保つことには成功した。

 しかし……。

 

『クッ、これではとてもじゃないが全力とは……』

 

 悔しげにネオスが唸る。あのまま消えてしまうことだけは避けられたが、ソーラを破壊するほどの力は残っていなかったのだ。

 しかし、マナに焦りはない。構えた杖を一度肩にトンと乗せると、歯噛みするネオスに笑みを見せた。

 

『大丈夫。十代くんなら、すぐに逆転してくれるよ』

『私もその点は信頼している。しかし、ソーラの危機は……』

 

 なおも言い募るネオスに、マナは肩に置いていた杖をもう一度構えた。

 目の前には、レーザー発射のためにエネルギーの充填を始めたソーラの姿がある。

 そして発射されるレーザーの第一撃目。僅かに地球から逸れたそれを共にかわしたところで、マナの杖先に黒い魔力が集まりだした。

 

『確かに、ソーラは大きすぎるから破壊は出来ないかもしれない。……けど!』

 

 杖先にマナが込められる最大の魔力が集っていく。集まった魔力は黒い球体となり、その直径は時間の経過に比例してどんどん大きくなっていっていた。

 初めは野球ボールほどしかなかったそれは、やがてバスケットボールほどになり、ついには腕で抱えられないほどの大きさへと到達する。

 それでも満足できないのか、球体は更なる膨張を続ける。それは結局マナの背丈を超えるほどの大きさになったところでようやく終わりを迎えた。

 杖の先に集まった全身全霊の力。それを見て、さすがのネオスも驚きを隠せないようだった。

 

『上級魔術師の力……これほどとは……!』

 

 その声に、少し気を良くしたのかマナはウィンクで返した。

 

『お師匠様の顔に泥を塗るわけにはいかないもん! それに――』

 

 宇宙に上がってくる前。地上でカイザーと共にこちらを見上げていたその姿を思い出す。あの距離では、あちらからは見えていなかったかもしれない。しかし、その姿をマナはしっかり見ていた。

 デュエルディスクを腕に着けてカイザーと対峙していた、その姿を。

 

『遠也が頑張ってるのに、私が頑張らないわけにもいかないからね!』

 

 自らを勇気づけるように声を弾ませて言ったマナは、その恐ろしいまでに巨大化した魔力の塊をソーラに向ける。

 ソーラはレーザーという最先端の兵器を乗せた人工衛星だけあって、それに見合う大きさを誇る。ただ攻撃しただけでは、破壊までは至らないだろう。

 しかし、兵器としての役割を潰すだけならば恐らく可能だとマナは判断した。つまり。

 

『その発射口さえ潰せば、もうレーザーは撃てないでしょ!』

 

 パラボラアンテナのような襟の中心で光を集束させて撃ち出すための突起部分。それにマナは全ての神経を注いでいた。

 そして、杖先に集った渾身の魔力に発射を促す最後の一押しを加える。

 

『いっけぇっ! 《黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)》ッ!』

 

 そのワードとともに凝縮された魔力砲が一気に解放され、バチィッとあたかも雷が落ちたかのような撃音が耳朶を打つ。本来宇宙空間で音は鳴らないはずであるのに聞こえたのは、ネオスの力の加護を受けているためか。

 ともあれマナの手を離れた黒い砲弾は狙い通りに発射口へと直進していった。そして着弾した瞬間、凝縮されていた黒い魔力は一気に外側に吹き出し、嵐のような苛烈さで発射口をズタズタに引き裂いていく。

 機械内部の導線にも影響したのか、魔力による蹂躙の後に発射口は大爆発を起こして原形をとどめないほどに破壊された。

 人工衛星の本体はマナの予想通り無事である。しかし、発射口を潰されてはもうどうしようもあるまい。

 一仕事終えたマナが肩で息をしつつ、隣に立つネオスにVサインを向ける。

 それに対してネオスが何か反応しようとするが、その前にネオスの姿が掻き消えた。

 突然のことにマナも思わず目を丸くする。魔力による維持に限界が来たのだろうか。そう考えるが、その答えはすぐに現れた。

 直後、マナは突然宇宙空間に位相の違う空間の出現を感じ取った。魔力の変調によって察知したそちらに目を向ければ、そこには十代と斎王が向かい合っている姿が見て取れる。

 十代がフィールド魔法、《ネオスペース》を発動させたことで、ネオスペーシアンの力により一時的に実際の宇宙空間と僅かながらに繋がったのだ。恐らくネオスは十代が近くに来たことで、あちらに引き寄せられて戻ってしまったのだろう。

 どうやらデュエルも佳境のようで、斎王の背後には黒い巨体を長く太い腕で支えるかのようなアンバランスなモンスターがいる。

 それこそが斎王の切り札にして最強のモンスター。《アルカナフォースEX(エクストラ)THE LIGHT RULER(ザ・ライト・ルーラー)》だった。

 

 対して十代の場には何もいない。しかし、その表情に諦めの色はなかった。

 それを観察していると、二人の視線がマナ……というよりはソーラに向く。そして、二人はともに目を見開いて驚愕を露わにした。

 次いで、斎王は怒りに。十代は笑みへとその表情は変貌していく。

 

「ソーラが破壊されているだと……ッ! 魔術師の精霊めェ! 貴様の仕業かァ!」

 

 どういう理屈か、その声はマナにも聞こえた。あらん限りの怒りを込めた斎王の問い。狂気に彩られた恐ろしい形相のそれを向けられ、さすがにマナも一瞬ひるむ。

 しかし、すぐにそんな気持ちを振り払うと、マナは斎王に向き合った。そして、片指で目の下を押さえ、小さく舌を出す。いわゆる“あっかんべー”のポーズをし、マナはどうだとばかりに胸を張った。

 僅かばかり気圧されたことさえ、気付かせてなるものか。万丈目、明日香、カイザー……マナにとっても大事な友達や多くの人々に迷惑をかけた破滅の光。そんな奴にほんの少しでも屈したくはない。そんなマナの気持ちが現れた行動だった。

 そして、動揺した後にそんな真似をされた斎王は、絶叫にも近い怨嗟の声を上げた。

 

「き、貴様ァァアアッ!!」

「はは! さすがマナだぜ! どうだ、斎王! これで世界を破滅させる手段はもうないぜ!」

 

 怒りに震える斎王に、十代はそう言って既にその目的が実行できないことを示す。しかし、斎王は表情を歪めたままその言葉を否定した。

 

「抜かせ! 破滅は運命による必然だ! ソーラなどなくても、必ず完遂される! この私がいる限りなァア!」

「そんなこと、させるかよ! 俺は《黙する死者》を発動! 墓地から《E・HERO ネオス》を特殊召喚!」

 

 十代の場に守備表示で現れるネオス。更に十代はネオスペーシアンの一人、グラン・モールを召喚し、コンタクト融合。そして現れた《E・HERO グラン・ネオス》の効果により、斎王の場のライト・ルーラーを手札に戻そうとする。

 しかし。

 

「罠カード《逆転する運命》を発動! アルカナフォース1体の正位置と逆位置の効果を入れ替える! そしてライト・ルーラー逆位置の効果! 攻撃力を1000ポイント下げることで、このカードを対象にしたあらゆる効果の発動を無効にし、破壊する! そして相手はカードを1枚ドローする!」

「くッ! ――ドローッ!」

 

 ライト・ルーラーを手札に戻そうと効果を発動したグラン・ネオスめがけ、ライト・ルーラーの効果が炸裂して破壊される。これで、十代の場は空っぽとなった。

 

「無駄なのだよ、何もかもォ! 破滅の光によって世界は滅び、そしてまた再生される! この営みは自然の摂理! 貴様ごとき人間が何をしたところで、変えることは出来ないのだ!」

「まだだ! 諦めてたまるか! ――どんな状況でも、絶対に諦めない! たとえ膝を折っても、必ずまた立ち上がる! それが……俺が子供のころ憧れていた、真のヒーローの姿だ! 手札から速攻魔法発動!」

「なにッ!」

 

 十代は最後の手札を取ると、それをディスクへと差し込んだ。

 

「《リバース・オブ・ネオス》! デッキからネオスを特殊召喚!」

 

 攻撃表示で蘇るネオス。十代にとってのエースであり、特別なHERO。しかしその姿を前にしても、斎王の余裕の笑みは崩れない。

 

「ヒヒヒ、ハハハハ! お前のHEROの力では、光の盟主たるライト・ルーラーには届かん!」

「それはどうかな! ネオスペースの効果で、ネオスの攻撃力を500ポイントアップ! 更に、リバース・オブ・ネオスの効果で蘇ったネオスの攻撃力は更に1000ポイントアップする!」

 

 ネオスの元々の攻撃力は2500。よって現在の攻撃力は……。

 

《E・HERO ネオス》 ATK/2500→4000

 

 そして、斎王の場に存在するライト・ルーラーの攻撃力は元々の値である4000から1000ポイント下がった3000である。

 その差、1000ポイント。斎王の残りライフは――600ポイントだ。

 

「ば、かな……! 馬鹿なァッ!」

「これで終わりだ、斎王! いや、破滅の光! ネオスでTHE LIGHT RULERに攻撃! 《ラス・オブ・ネオス》!」

 

 十代の場からネオスが飛び上がり、ライト・ルーラーめがけて宇宙空間を駆ける。そしてその勢いのまま一気に斎王の場へと距離を詰めると、その光る手刀を振りかざし、ライト・ルーラーを一刀両断の元に斬り伏せるのだった。

 

「ぐ、ぅうぁぁあああァアッ!」

 

 その攻撃によってライト・ルーラーは破壊され、斎王のライフは0を刻む。断末魔のごとき叫びをあげた斎王の身体から、白く大きな靄が立ち上り、苦しそうに空間をもがく。

 破滅の光の意思の本体ともいうべき存在。それはやがて苦しみから逃れるように地球に向かって落ちていく。

 そして、後には倒れ伏せる斎王だけが残されたのであった。

 

「斎王ッ!」

 

 ぴくりともしない斎王に、十代が心配の声を上げるが、その斎王の横に現れた人影に息を呑んだ。

 十代にも覚えがある紅白の袴姿。かつて修学旅行でエドとともに対戦した斎王の妹がそこに立っていた。

 

「美寿知!?」

『十代……兄を止めるという約束を守ってくれたのですね。ありがとう』

 

 穏やかな顔で微笑む美寿知に、十代は戸惑い気味に口を開いた。

 

「あ、ああ。けど、美寿知が何でここに?」

『私はいざとなったらソーラを止めるべく、自身をデジタル化してあの衛星の中に潜んでいたのです。……幸いなことに杞憂で済んだようですが』

 

 マナによって発射口が見事に破壊されたソーラを美寿知は見る。そんな美寿知の言を聞き、十代はなるほどと納得して頷いた。

 そしてその時、伏せていた斎王の瞼が動いてゆっくりとその目が開かれていく。その目に最早狂気の色はない。優しさがにじみ出るような、そんな澄んだ瞳が美寿知の姿を捉える。

 美寿知は元に戻った兄に良かったと告げ、その姿を薄れさせる。今の美寿知はソーラの電力を借りた立体映像だったのだ。また会える、そう最後に残して美寿知はこの場から姿を消したのであった。

 それを見届け、こちらに合流してきたマナに十代は目を向ける。それと同時にネオスペースのソリッドビジョンも解除され、元の女神像の部屋に全員が戻ってきた。

 これで終わった。この場にいる誰もがそう思ったが、しかしネオスは十代に危険を告げた。

 

『十代! まだ外に破滅の光の意思の気配を感じる! それにこれは……斎王に憑いていたものも、合流しようとしている!?』

「なんだって!? ……そうか、外には破滅の光に乗っ取られたカイザーがいるんだ!」

 

 マナから聞いていた話を思い出す。そして、そのカイザーの相手は今遠也がしているはずだ。遠也には破滅の光と対立するネオスペーシアンの助力はない。それを考えると、十代の心に徐々に不安が押し寄せてきた。

 そして、その十代の叫びに反応したのは翔だった。翔は、驚いた表情で十代に問う。

 

「お、お兄さんが!? 兄貴、それは一体……!」

 

 しかし十代はその言葉と同時に駆けだしていた。

 

「説明は外に向かいながらするぜ! ネオス、マナ! 遠也が心配だ、すぐに行こう!」

『ああ!』

『うん!』

 

 十代の言葉にすぐに頷いた二人は、十代の隣を並走するように飛ぶ。

 そして同じくその言葉を聞いた翔たちは、それに遅れまいと慌てて行動を起こし始めた。

 

「あ、兄貴! エドくん、もう走れる!?」

「ああ。そこまで世話になるわけにはいかないさ」

「じゃあ斎王は……まだ無理そうだから俺が担いでいくドン! 背中に乗れザウルス!」

「すまない、ありがとう」

「な、なんか調子狂うドン……」

 

 そんなこんなで全員が女神像の部屋を飛び出していく。

 全員の足音を聞きながら、十代は外にいる親友のことを思う。ただでさえカイザーは実力者だ。更に言えば、プロとして研鑽を積んできた以上その力はより強化されていると見て間違いない。

 そこに、破滅の光の意思まで加わっているとなると……。

 いくら遠也でも、危ない。その実力を信頼していても、破滅の光の危険性を考えれば、楽観的に考えるわけにはいかなかった。

 

(頼む、無事でいてくれ遠也!)

 

 そう心の中で祈りながら、十代は必死に床を蹴る足を動かすのだった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

遠也 LP:700

手札2 場・なし

 

亮(破滅の光) LP:1650

手札0 場・《サイバー・エンド・ドラゴン》

 

 

「俺のターンッ!」

 

 くそ、何とかしなければマズい。それはわかっているのに、攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンを超える手段は手札に無かった。

 俺の手札は罠カード《ギブ&テイク》と魔法カード《貪欲な壺》の2枚のみ。……ならここは、貪欲な壺でのドローに賭ける。

 

「手札から《貪欲な壺》を発動! 墓地の《音響戦士(サウンドウォリアー)ベーシス》《クイック・シンクロン》《シンクロン・エクスプローラー》《ゾンビキャリア》《カードガンナー》をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 手札に来たカードを見て僅かに眉を寄せる。逆転できる一手は揃わなかった……だが、代わりにどうにかこのターンを凌げそうなカードは来てくれた。

 デッキはまだ、俺に応えてくれている。弱気になるな、俺のデッキを信じるんだ。自分自身にそう言い聞かせ、俺は手札の3枚のカード全てをディスクに差し込んだ。

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンドだ!」

「クク、壁モンスターすらなしか! まぁ、どのみちサイバー・エンドの前では無力だがなァ! 俺のターン! ドロォ!」

 

 奴の手札も今引いた1枚だけであり、ハンドアドバンテージでは似たり寄ったりだ。手札は可能性の数であるというが、それならばたった1枚の手札しかない今の状態ならば、それほど取れる手も多くないはず。

 そう考えていると、奴はにやりと笑った。まるで俺の考えが甘いと言わんばかりに。そして、その1枚のカードを公開する。

 

「手札から《命削りの宝札》を発動! デッキから手札が5枚になるようにドローし、5ターン後に全ての手札を捨てる!」

「ここで命削りの宝札だと!?」

 

 カイザーの手札はあれ1枚だけだった。だというのに、ここで引いたのが最大級の手札増強カードとは。俺が苦い顔をする前で5枚を引き、その手札を見渡してクツクツと喉を鳴らす。

 

「クク、ハハハハ! いい手札だァ! 俺はカードを1枚伏せ、《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚! 更に《死者蘇生》を発動! 《プロト・サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

《プロト・サイバー・ドラゴン1》 ATK/1100 DEF/600

《プロト・サイバー・ドラゴン2》 ATK/1100 DEF/600

 

「そして《融合》を発動! 「サイバー・ドラゴン」として扱うプロト・サイバー・ドラゴン2体を融合し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚ッ!」

 

 プロト・サイバー・ドラゴン2体が、融合によって発生した青い渦に呑みこまれていく。互いを混じり合わせるように溶けていった2体は渦の中心部にて1つになり、1体のモンスターととしてフィールドに現れた。

 銀色に輝く機械の身体。その身から伸びる首はサイバー・エンド・ドラゴンよりも1つ少ない2本であり、身体そのものも隣に立つ巨体よりも小さくなってこそいるが、迫力だけはまるで同格だと言わんばかりにこちらを威嚇していた。

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》 ATK/2800 DEF/2100

 

 サイバー・エンドに、サイバー・ツイン。サイバー・ドラゴンからなる融合モンスターとしてもっとも有名であり、カイザーが信を置く2体。

 それらが2体とも自分のフィールドに並んだことに、一層勝利の確信を深めたのか、奴は余裕から出る喜びをその表情に浮かべていた。

 と、その時である。

 上空から近づく何かに気づき、俺は天を見上げた。青く染まった空、その中に一点だけ存在する白い光。それが段々とこの場所に向かって落ちてきていることを、俺は視認できる段になってようやく把握したのである。

 

「あれは、我が本体の……!」

 

 見上げていたところにそんな声が聞こえ、はっとして対峙している存在に目を向ける。そこには、喜びの顔はそのままに両手を突き上げて空を見上げる破滅の光の姿があった。

 まるで、迎え入れようとしているかのような姿。そう思い当たった瞬間に、空から降ってきた光が奴に直撃する。

 

「うぁッ……!」

 

 その衝撃によって風が吹き荒れ、地面の砂を巻き上げて土煙を起こす。それらに目を閉じて対処した後、風が徐々に収まってきたのを感じて恐る恐る目を開く。

 そして、カイザーのほうへと視線を戻したところで、俺は思わず驚いた。

 奴の身体から立ち昇る白く半透明な何か。オーラ、とでも呼ぶべきそんな何かを身に纏った奴からは、今まで以上のプレッシャーを感じる。

 知らず頬を伝った汗を乱暴に袖で拭いつつ、俺は奴から目を離すことができなかった。一体その身に何が起こったのか。それを確認しないわけにはいかなかったからだ。

 しかし、当の本人は身体から立ち昇るそれを見て愉悦に浸り、両手を閉じたり開いたりしては笑みをこぼす。まるで、身体の具合を確かめているかのような動き。

 そんなことを考えていたところで、突然ホワイト寮の方から声が飛んできた。

 

「遠也ッ! 無事か!?」

「十代!?」

 

 寮から出てこちらに走り寄ってくる見覚えがありすぎる姿に、俺は驚きに見張った目を向けた。

 よく見れば十代の後ろにはネオスが。そして更にその少し後ろにはマナの姿もある。それより遅れて、翔にエド、斎王を背負った剣山と続く。

 十代はどうやら斎王に勝つことが出来たようだ。ネオスもこちらにいるということは、ソーラのほうも何とかなったということだろう。

 それを察し、僅かに俺の肩から力が抜ける。心の中に会った懸念が晴れ、少しだけ気が緩んだところで、ネオスの後ろにいたマナが凄い勢いで飛んできた。

 

『遠也! 大丈夫!?』

「マナ……上手くやってくれたんだな」

 

 俺の隣にやってきたマナの変わらない姿を見て、ほっと息を吐く。なにしろ斎王という破滅の光の意思の本家本元のところに行かせたのだ。いくら十代がいるとはいえ、やはり本人の姿が見えないというのはそれだけで不安だった。

 無事な姿を見て、安堵を感じるのも仕方がないだろう。そう自分に言い訳し、俺は一時の安らぎに身を浸した。

 しかし、ずっとそうしているわけにもいかない。俺は白い靄に包まれたカイザーへと視線を戻した。

 

「ククク……十代、ネオス、それにマナだったか……。さっきは世話になったな……」

 

 穏やかな口調だが、そこからは怨嗟しか感じることが出来ない。そんな恨みを込めた声が、カイザーの口から溢れ出る。

 

「お兄さん……そんな……」

 

 そして、そんなカイザーの姿を見て翔が信じられないとばかりに声を漏らす。どうして、という疑問が出てこないところを見ると、ここに来るまでに十代かマナあたりが現状を説明していたのだろう。

 しかし、たとえ聞いていたとしても実際に見た時に感じるものもある。翔は、心のどこかで兄が破滅の光なんかに負けるわけがないと信じていたのだろう。しかし、現実にこうして乗っ取られた姿を見て、ショックを隠せないようだった。

 そんな弟分の姿を目に留め、十代が一歩カイザーのほうに近づいた。

 

「お前、斎王の中にいた破滅の光の意思だな! お前は俺が倒した! なのに、なんでこんなところにいるんだ!」

「クク、十代ィ……これにはオレも驚いているのだ。恐らくこのオレと全く同じ分身を地上に残していたことが原因だろう。斎王の身体から離されたオレは、自分が砕け散る前に地上へと引き寄せられ、こうして融合したようだ。元の形に戻ろうとする力、とでもいうのかな。ククク」

『くっ、そんなことが……!』

 

 カイザーの口を通して語られる破滅の光の意思の言葉。それを聴いたネオスが悔しげな声を出す。倒したと思ってみればこうして生き残っていたのだから、その態度も当然と言えるが。

 

「ネオス……。分身との同調を果たし、力を取り戻したオレにとって、消耗した貴様など最早敵ではない」

『くっ!』

「……だが、まずはこのデュエルでコイツにトドメを刺さなければなァ。ネオスペーシアンどもを消滅させるのは、その後だ!」

 

 言って、カイザーの身体に取り憑いた破滅の光の意思はデュエルディスクを構えた。立ち上る白いオーラは、俄然勢いを増している。まさに奴はいま力が有り余っている状態ということだろう。

 これは、ただデュエルで勝つだけじゃ駄目かもしれない。あの破滅の光の意思を丸ごと滅ぼすような、そんな力が必要だ。

 しかし、俺にそんな力はない。破滅の光の天敵であるネオスペーシアンを抱える十代ならば、悩む必要はないのだろうが……。

 いや……違う。これは誤魔化しているだけだな。本当は、心当たりがある。そう、シンクロを超えたシンクロ召喚。それさえ俺に出来れば、あるいは……。

 

「さァ、デュエルの続きだ遠也ァ! 貴様に引導を渡し、ネオスペーシアンすら滅ぼし! オレはこの世界を! 宇宙を! 破滅の運命へと導くのだ!」

「そんなこと、させてたまるかッ!」

 

 託宣のように言い放つ破滅の光の意思に反発し、俺もデュエルディスクを再び構えた。

 しかし、今にもデュエルを再開させようとした俺たちに周囲から声がかかる。いや、声がかかったのは俺だけだった。そして、その声は全て俺を心配する声だったのだ。

 破滅の光の意思が容赦するとは思えない。ネオスペーシアンの力を借りていないのに、危険すぎる。そんな風に、俺のことを心配してくれる仲間たちの声。

 だが、俺はそんな彼らの言葉に首を横に振って応えた。俺はカイザーの友として、カイザーの身体に巣くう存在を倒すと決めたのだ。その決意を自分で貶めることをしたくなかった。

 そして、なにより。

 

「デュエリストが、一度始めたデュエルを途中で降りるわけないだろ?」

 

 にっ、と笑って俺は言う。

 すると、それを見た翔が「そういや遠也くんは兄貴と同類だった……」と天を仰ぎ、剣山は「さすが遠也先輩ザウルス!」と俺を褒め、十代は「やっぱり遠也ならそう言うと思ったぜ」と苦笑した。

 エドは「十代といいお前といい、呆れた奴だ」と言葉通りに呆れてみせていたが、しかしその表情をすぐに笑みに変えた。

 

「……だが、そんなお前たちだからこそ、僕は素直に応援しようと思える」

「エド」

「十代は勝った。なら、次は君の番ということだろう?」

 

 その言いように俺は苦笑するしかなかった。勝ち負けを持ち出してくるあたりは、いかにもエドらしかったからだ。

 続いてネオスが『分け与える力も満足に残っていない。すまない、遠也』と謝ってきたが、気にするなと返しておく。ネオスに落ち度は何もない。それを責める気など俺にはなかった。

 ここまでくると、俺がデュエルを止めるつもりはないと全員が悟っていた。だからか、最初は止めようとしていた皆も最後には俺を応援する言葉をかけてくれた。

 

「遠也くん、気を付けて。それと、お兄さんを助けてあげて」

「遠也先輩、気合ザウルス!」

 

 そんな二人の声に大きく頷き、次いで剣山の背中から斎王が顔をのぞかせた。

 

「……皆本遠也。私が言えた義理ではないのは分かっている。だが、私も君を応援していいだろうか」

「ああ、もちろんだ」

 

 斎王はありがとうと言って笑うと、剣山と共に後ろに下がった。

 そして、俺は破滅の光の意思と対峙する。皆は俺たちのデュエルを見届けるべく、少し離れたところからこちらを見ていた。

 

「十代! 心配するな、俺は勝つ!」

「遠也……ああ! 頼んだぜ!」

 

 十代と互いに笑みをかわし、そして俺は隣に立つ相棒に声をかけた。

 

「マナ」

 

 名前を呼ぶと、マナははぁっと溜め息をついた。

 

『やっぱり、こうなるんだもん。……勝ってね、遠也。お願いだから』

「ああ」

 

 このデュエルでの敗北は死を意味する。それがわかっているからこその言葉だったのだろう。俺がもう梃子でも動かないとマナはよくわかっている。心配をさせてしまうが、しかし最後にはわかってくれる。俺はいい相棒を持ったよ。

 後ろに下がるマナを視線で見送る。そして、俺はカイザーの身体に宿る破滅の光の意思を見据えた。

 そして、すぅっと息を吸い込んだ後に、力を込めて叫ぶ。

 

「いくぞ! 破滅の光の意思! お前を倒す!」

「フン、なんの力もないただの人間が! お前の前にいるのは最早分身ではない! その違いを思い知らせてくれるわァ!」

 

 高らかにそう言い放った奴は己のフィールドに手をかざし、続いてメインフェイズからの移行を宣言する。

 

「バトルッ! サイバー・エンド・ドラゴンで直接攻撃ッ!」

「それは通さない! 罠カード《エンジェル・リフト》を発動! 墓地のレベル2以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! 蘇れ、《マッシブ・ウォリアー》!」

 

《マッシブ・ウォリアー》 ATK/600 DEF/1200

 

 岩のごとき頑強さを持つ、鉄壁の戦士。無骨な外見に見合った防御力を持つコイツならば、どんな攻撃にも耐えることが出来る。

 

「フン、そいつか。ならば攻撃対象をマッシブ・ウォリアーに変更し、サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃! 《エターナル・エヴォリューション・バースト》!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンが持つ三つの口から放たれた光の砲撃が、マッシブ・ウォリアーに直撃する。

 その迫力に皆が息を呑んだのがわかったが、しかし問題はない。マッシブ・ウォリアーは光に晒されながらも変わらず地に足をつけていたのだから。

 

「マッシブ・ウォリアーの効果! 戦闘によるダメージを0にし、更に1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない!」

「相も変わらず、鬱陶しいモンスターだ。だが、サイバー・ツイン・ドラゴンの効果を忘れているようだな! このモンスターは1度のバトルフェイズに2回攻撃ができる! これで終わりだァ!」

 

 今度はサイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃指示を出そうとする破滅の光の意思。だがその前に、俺は更なる伏せカードを発動させた。

 

「速攻魔法、《禁じられた聖杯》を発動! エンドフェイズまでサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効にする!」

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》 ATK/2800→3200

 

 サイバー・ツイン・ドラゴンの2回連続攻撃は当然ながら効果である。よって、これで連続しての攻撃は不可能になったわけだ。

 

「くッ……! サイバー・ツイン・ドラゴンでマッシブ・ウォリアーに攻撃! 《エヴォリューション・ツイン・バースト》ォ!」

「ぐぁ……!」

 

 マッシブ・ウォリアーは破壊される。だが、サイバー・ツイン・ドラゴンの連続攻撃効果はこのターンのみだが失われている。これ以上の攻撃は出来ない以上、このターンはどうにか凌ぐことが出来た。

 

「よし、上手いぜ遠也!」

「サイバー・エンドとサイバー・ツイン。サイバー流の切り札からの猛攻をことごとく防ぐなんて、凄い……!」

 

 十代と翔がそれぞれ今の対応に感嘆と驚きの声を上げる。

 確かに、どうにか防ぐことは出来た。しかし、防御用のカードも湯水のごとくあるわけではない。いつかそれが途切れる時が来る。その時がくれば一巻の終わりだ。

 ゆえに、どうにかして逆転を狙わなければならない。そんな、心理的に追い詰められがちなシチュエーション。だからこそというべきか、見守ってくれる仲間がいるというのはそれだけで心強かった。

 

「ふん、無駄な足掻きを! ターンエンドだ!」

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》 ATK/3200→2800

 

 エンド宣言をした奴の声を聴きながら、俺はそんなことを思う。

 そして、そんな仲間たちの声に応えるためにも、俺は必ず勝ってみせる!

 

「俺のターン!」

 

 手札に来たのは……魔法カード《調律》。ならば。

 

「《調律》を発動! デッキから《ジャンク・シンクロン》を手札に加え、デッキをシャッフルした後一番上のカードを墓地に送る!」

 

 ここで何が墓地に送られるか。祈るような気持ちで、俺はシャッフルされたデッキの一番上のカードを手に取る。

 どうかこの状況を打破する何かであってくれ。そう願いを込めながら、俺はそのカードが何であるかを確認した。

 そしてその瞬間、俺の表情が笑みを形作る。

 

「墓地に送られたのは《ダンディライオン》だ! よって俺の場にレベル1の《綿毛トークン》2体を守備表示で特殊召喚!」

 

《綿毛トークン1》 ATK/0 DEF/0

《綿毛トークン2》 ATK/0 DEF/0

 

 ポンッ、とコミカルな音を響かせてフィールドに現れるのは、デフォルメされたタンポポの綿毛に漫画的な顔が描かれたトークンである。

 ダンディライオンはどこから墓地に送られても、必ずレベル1のトークンを生成する。シンクロ召喚にとって、これほど有用な効果はない。

 そして、俺の残り1枚の手札。それは当然、さっき調律でデッキから手に入れたお馴染みのチューナーモンスターだ。

 

「チューナーモンスター《ジャンク・シンクロン》を召喚! その効果で墓地からレベル1の《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」

 

《エフェクト・ヴェーラー》 ATK/0 DEF/0

 

 まるで羽衣のように柔らかな翼を持った青い髪の少女。そしてこのエフェクト・ヴェーラーもまた、チューナーモンスターである。

 これで、俺の場にはレベル1のチューナーと素材が揃った。ならば、やることは一つ。

 

「俺はレベル1綿毛トークンにレベル1エフェクト・ヴェーラーをチューニング! 集いし願いが、新たな速度の地平へ誘う! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》 ATK/200 DEF/1500

 

 レベル2のシンクロモンスターにして、チューナー。青、緑、赤、黄色といった原色でカラーリングされたフォーミュラカーが人型ロボットに変形したような、特徴的な出で立ちをしている。

 

「フォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚に成功したため、デッキから1枚ドロー!」

 

 そして、このモンスターこそが希望へと繋がる可能性を持つ。

 俺には確かにネオスペーシアンの力はない。だが、俺には俺が信頼する最高のカードたちが存在し、その力を束ねてより大きな力を形作ることが出来るのだ。

 それこそが俺の力。そして、その集まった力によって出来るあのカードを出すためにはフォーミュラ・シンクロンが必要だ。

 そして、必要なモンスターはもう1体いる。

 

「更に! 罠カード《ギブ&テイク》を発動! 俺の墓地のモンスター1体を相手フィールド上に守備表示で特殊召喚する! そしてそのレベルの数だけ俺の場のモンスター1体のレベルをエンドフェイズまで上昇させる! 墓地から《スター・ブライト・ドラゴン》をお前の場に特殊召喚!」

 

《スター・ブライト・ドラゴン》 ATK/1900 DEF/1000

 

 現れたのは、レベル4のドラゴン族モンスター。全体的に鋭角な身体は、薄く金色に輝いている。

 このカードは召喚に成功した時、自身以外のフィールド上のモンスター1体のレベルを2つ上げる効果を持つが、今は関係がない。

 重要なのは、相手の場にギブ&テイクでレベル4のモンスターを蘇生したという点にある。

 

「スター・ブライト・ドラゴンだと!? そんなカードをいつの間に……!」

「クイック・シンクロンを調律で手札に加えた時だよ。あの時墓地に落ちたカードがこいつだったのさ」

「く……!」

 

 一度もフィールドには出ずに墓地に直接送られたカードだから、その姿を奴が目にする機会はなかったわけだ。

 さて、スター・ブライト・ドラゴンは既にあちらの場に守備表示で特殊召喚された。ならば、後は残りの効果が適用される。

 

「ギブ&テイクの効果により、スター・ブライト・ドラゴンのレベル分、俺の場のモンスターのレベルを上げる! スター・ブライト・ドラゴンのレベルは4! よって俺は綿毛トークンのレベルを1から5にアップする!」

 

 これで、俺の場に存在するモンスターはレベル5の綿毛トークンと、レベル3のジャンク・シンクロン。そしてレベル2のフォーミュラ・シンクロンの3体。

 そして俺はフィールドを確認した後、ジャンク・シンクロンと綿毛トークンに向けて手をかざした。

 

「レベル5になった綿毛トークンに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 3つの光るリングを潜り抜けていく中、綿毛トークンが5つの星に姿を変える。

 やがてリングの中から溢れ出した光がフィールドを照らし、その光から一対の翼がゆっくりとその姿を見せ始めた。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

 広げられた翼がはためき、光を一気に切り裂いて星屑の竜が空を駆ける。上空にて一回転した白銀の竜が俺のフィールドに降り立ち、高い声で大きく嘶いた。

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 これで、俺のフィールドには2体のモンスター。スターダスト・ドラゴンに、フォーミュラ・シンクロン。つまるところ、必要なモンスターは全て揃ったというわけだ。

 シンクロを超えたシンクロ……アクセルシンクロ。やり方はわかる。その結果、どんなモンスターが召喚されるかも。――だが、出来るのか俺に。そんな不安が脳裏をよぎる。

 一度行おうとして失敗した苦い記憶がよみがえる。今回は失敗するわけにはいかない。そんな場面で、果たして俺に出来るのだろうか。

 思わず乾く喉。それを潤すように唾液を飲み込み、俺は頭を振った。

 ……不安になるな! 信じろ! このデッキとカードたちを信じて、必ず成功させるんだ!

 

「いくぞッ! 俺は――!」

「その前に罠カード《奈落の落とし穴》を発動ォ! 攻撃力1500以上のモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターを破壊し除外する! スターダスト・ドラゴンを破壊するッ!」

 

 一瞬、言葉を失った。

 

「な……なんだとッ!?」

 

 一拍遅れて俺が驚きの声を上げるのと同時に、スターダストの真下におどろおどろしい大穴が開く。除外するというだけあって引力でもあるのか、スターダストは空を飛んでいるにもかかわらず、徐々に穴に引き寄せられていっているようだった。

 スターダストの危機を目の前に、奴は俺を見て得意げな笑みを見せた。

 

「貴様の奥の手がその組み合わせで召喚されることは知っている! 今のオレには本体の記憶もあるのでなァ!」

 

 本体の記憶……そうか! 俺が以前失敗したのは、斎王とのデュエルだった。そこで俺がこの2体でモンスターを召喚しようとしていたのを、覚えていたのか。

 分身が知らずとも、本体は知っている。そしてその両者が統合された以上、その記憶もまた共有されたというわけか。

 何とも厄介な。しかし、奈落の落とし穴で除外されてはマズい。なら、ここはどうにかスターダストを逃がすしかない。

 

「俺はスターダスト・ドラゴンの効果を発動! このカードをリリースすることで、その破壊を無効にし、破壊する! 《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」

 

 俺の指示に従い鳴き声を響かせたスターダストが、その身を光の粒子へと変えてフィールドから消えていく。

 これでスターダストを除去されるという最悪の事態は避けられた。だがしかし、代わりにこのターンでのシンクロは……出来なくなった。

 

「クク……! ヒヒ、ハーッハッハ! これでスターダストがエンドフェイズに帰ってきたところで、最早なにも出来まいッ! そしてオレのターンが来れば、貴様の場には攻撃力の足りない雑魚しかいない!」

「くッ……!」

「今度こそ終わりだな、遠也ァ! さぁ、エンド宣言をしろォッ!」

 

 狂気に濁った目、頬にまで伸びる三日月形の凶笑。恐ろしい形相で、破滅の光の意思は俺にエンド宣言を促してくる。

 カイザーのものとは思えない、怖気すら覚える表情と言葉。カイザーをどこまでも侮辱するその行為に、しかし俺は対抗できないでいた。

 ここで何としても勝ってみせる。この強敵に勝ち、そしてカイザーを救う。それができてこそ、このデュエルは俺の勝利となる。そして、その勝利を俺は掴んでみせる。

 そう己に言い聞かせるが、しかし一抹の不安が拭いきれない。……エンド宣言をすれば、奴にターンが移る。そうなれば、俺は勝てるだろうか。果たして、カイザーを救うことができるのだろうか。そんな不安が胸をよぎった。

 そんな時、ふと俺を見守る皆の姿が脳裏に浮かんだ。そして、俺の勝利を祈るマナの姿がより鮮明に映し出される。

 その姿を思い出し、はっとする。そうだ、俺には俺の勝利を信じてくれている仲間がいる。そんな皆を裏切らないためにも、俺は……勝つ。たとえ可能性が低くても、最後の最後までデュエルは何があるかわからない。

 そうだ、その可能性を信じて、俺は最後まで諦めない! 最後には、必ず勝利を掴む! この、俺のデッキと共に!

 

「………………ん?」

 

 そうしてデッキに目を移したその時、俺はふとあることに気が付いた。

 それは、デュエルディスクにつけられた幾つかのボタン。そのうちの一つである。そのボタンは、何故かうっすらと光っていたのだ。

 というか、そもそもこんなボタンあったっけ? 横にあるボタンよりも小さく、デュエルディスクの材質の色に隠れてしまうような目立たないものだ。

 それが、光っている。これは、一体どういう意味なのだろうか。

 俺は、それを小指で押してみた。小指であっても先端しか触れられない。それほどまでに小さなボタン。

 小指の先にきちんとボタンを押しこんだ感触。それを感じた瞬間、デュエルディスクの動力部分から光が溢れ、俺の目の前に半透明の四角い何かを映し出した。

 それはまるでSFに出てくる空中ディスプレイのようだった。そして、次の瞬間にはその表面に文章が浮かび上がってくる。

 突然の事態に困惑しつつ、俺はまず真っ先に書かれている言葉に目を通した。

 

「……『遠也先輩へ』……『レイン』?」

 

 そのタイトルを見るにレインから俺へのメッセージのようだが、しかしまるで隠すようにコレが存在していたことに俺は首を傾げる。

 疑問を抱きつつも、俺はひとまず映し出されたその文に目を通していった。

 それによるとこのウィンドウを出すためのボタンは、俺が《スターダスト・ドラゴン》と《フォーミュラ・シンクロン》を場に揃えた時に光る仕組みになっていたらしい。俺がこのディスクをレインから受け取った直後のデュエルでは光らなかった。それは、そのためだったようだ。

 そしてそこには、俺が知っていることや、今まで知らなかったことなど多くのことが書かれていた。

 レインが実はイリアステルの所属ではなく、そのトップであるゾーン直轄の部下だったこと。俺を監視していたこと。仲間になったのは偶然だったこと。そして、今ではそうなれたことを嬉しく思っていること。

 それらのことが短く綴られたメッセージ。それが続いた後、次いで書かれていたのは、アクセルシンクロについてだった。

 曰く、アクセルシンクロに必要なエネルギーは、俺のデュエルディスクに新たに組み込まれた2つ目のモーメントによって不足分が賄われる。

 ただ増やしただけではエネルギーが足りないが、そのモーメントを並列に配置し、ちょうど∞の記号を描くことでそのエネルギーを爆発的に増やしているのだそうだ。その原理はわからないが、そうすることで理論上アクセルシンクロは可能になったらしい。

 そういえば、5D'sで三皇帝が作り出したサーキットは、無限大の記号を形作っていた。サーキットはアーク・クレイドルを未来から呼び寄せるためのもの。あれだけの質量のものを異なる時代から空間を超えて持ってくることは通常なら不可能だ。

 そう考えると、あの記号にはエネルギーを増幅させる何らかの効果があったのかもしれない。レインの言葉からの予測にすぎないが。

 また、レインはアクセルシンクロにはクリアマインドが必要だと述べている。そして、クリアマインドとは、恐怖、悩み、欲望……それらを超越した心によって至る境地であると、説明されていた。

 恐怖、悩み、欲望……それらを超越する境地。何とも凄そうなその説明に、思わず俺に出来るだろうかと早速不安を抱いた。

 そんなことを思いつつそこまで読んだところで、最後に出てきた一言に俺は小さく噴き出した。シリアスな場面だというのに、思わず表情が緩む。

 というのも、そこには短くこう書かれていたからだ。

 

 『遠也先輩なら、大丈夫』と。

 

 

 ――まったく、いい後輩を持ったよ俺は。

 

 僅かな照れと共に笑い声を漏らし、俺はいくらか余分な力が抜けた身体で破滅の光の意思に向き直った。

 

 ――ありがとう、レイン。

 

 そう感謝の念をレインに送る。そして、それと同時に俺はエンド宣言を待ちわびている奴に向かって口を開いた。

 

 

「ターンエンドだ! そしてこの瞬間、スターダストはフィールドに戻る!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 すると、すかさず破滅の光の意思は行動に移った。

 

「オレのターン、ドロォオ! そしてこのスタンバイフェイズ、《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果により、もう1体の《サイバー・エンド・ドラゴン》がオレの場に現れる! 出でよ、《サイバー・エンド・ドラゴン》ッ!」

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》 ATK/4000 DEF/2800

 

 2体目のサイバー・エンド。それが場に出てきたことを確認しながら、しかしどこか俺の心は凪いでいた。

 

 ――そうだ、恐れることはない。このデュエルの結末にも、対戦している破滅の光にも。

 

「サイバー・ツインに、サイバー・エンドが2体……!」

「こ、これがカイザーと呼ばれた男の実力ザウルス……!?」

 

 翔と剣山の驚愕と不安の声が聞こえてくる。それと共に、固唾を呑んでこちらを見つめるエドと斎王の姿も見ることが出来た。

 そんな彼らの横で、強く信頼を込めた瞳でこちらを見ている十代。俺の後ろで、手を組んで祈ってくれている、マナ。

 今ここにいる皆と、そしてこの場にはいないが心は繋がっている仲間の姿を思い出す。

 

「さァ! あとは攻撃すれば、貴様は終わりだ! ククク、ハーハッハッハ!」

 

 哄笑を響かせる破滅の光の意思。その姿を目の前にしつつ、俺は一度目を瞑った。

 そして、己の心の深くにそっと意識を落としていく。

 

 ――そう、俺は恐れていた。このデュエルの行く末に、不安を感じていたのだ。カイザーを助けられるのか、その自信を俺は確固たるものに出来ていなかったのである。

 だが、改めて周囲を見渡した時、俺は気づいた。不安なのは当然だったのだと。何てことはない、俺一人で立っていると思うから、足場が揺らいでいたのだ。

 

 俺は一人じゃない。俺には、俺のことを応援して支えてくれる仲間がいる。そして、誰よりも俺のことを思ってくれている存在も、確かにいるのだ。

 なら、恐怖する必要などない。俺は俺だけの力で戦っているわけじゃない。皆と一緒に戦っているのだから。

 

 そのことに気づいた瞬間。唐突に、俺は自分の心の中が広く晴れ渡ったような解放感に包まれる。そして、その中でひときわ存在感を放つ一体の竜の姿。

 間違えるはずもない、シューティング・スター・ドラゴン……今はカードから姿を見ることが出来なくなってしまった、アクセルシンクロモンスター。

 光り輝くドラゴンが、翼を広げて咆哮する。それはまるで、俺が自らの元まで辿り着いたことを喜んでいるかのようだ。なぜか根拠もなく、俺はそう感じたのだった。

 

 ――そしてこの瞬間、確かに俺の心は全てを超越していた。

 

 同時に悟る。これが……この境地こそが、それなのかと。

 そしてそれを自覚した途端、どこからか流れてくる一筋の風。それに背中を押されるようにして、俺は一気に現実へと覚醒していく。

 

 ……これが、揺るがなき境地――!

 

「――クリアマインドォッ!」

 

 閉じていた目を開き、広がった世界を目に映す。

 鮮やかな色が飛び込んでくる視界の、端から端までを把握する不思議な感覚。同時に俺の身体を取り巻く風のような何かを感じながら、俺はフィールドに向かって手をかざした。

 

「レベル8シンクロモンスター《スターダスト・ドラゴン》に、レベル2シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をチューニングッ!」

 

 俺の指示に従い、2体がそれぞれ空に飛び上がる。

 フォーミュラ・シンクロンは2つの光り輝くリングとなって、スターダストよりも高い位置につける。そして、追随して飛行するスターダストが、2つのリングに向かって勢いよく飛び込んでいった。

 瞬間、光に包まれてなお上空へと加速していくスターダスト・ドラゴン。その姿をこの場にいる誰もが見上げ、降り注ぐ光に目を奪われる。

 

「馬鹿なッ!? オレのターンにシンクロ召喚するだとぉオッ!?」

 

 動揺の限りを尽くす破滅の光の意思の声。

 それすらもどこか遠く感じる感覚の中、俺は翔け上がっていく一筋の星に向かって手を伸ばすように、その右手を高く掲げた。

 

「――集いし夢の結晶が! 新たな進化の扉を開く! 光差す道となれッ!」

 

 スターダスト・ドラゴンを覆う光は更に強く。その姿を隠すほどに輝きを放ち、加速はより激しく天へと導いていく。

 デッキホルダーから引き抜く、灰色のカード。姿を隠したソレを右手で掴み、一気に頭上へと振り上げた。

 

「――アクセルシンクロォォォオオオオッ!!」

 

 灰色のカードの表面に火花が散り、その中から色鮮やかなドラゴンの姿が蘇る。

 同時に、加速の限界まで達したスターダスト・ドラゴンが、更にそこから加速して光の壁を超えた音だけを響かせて姿を消した。

 

「なに、消えたッ!?」

 

 しかし、そんな破滅の光の意思の疑問の声すら遅い。

 速さを超えたドラゴンは、既に俺の背後から高速で姿を現して飛び立っていたのだから。

 

「――生来せよ! 《シューティング・スター・ドラゴン》ッ!」

 

 地面と平行に飛び出したドラゴンが、錐揉み回転をしながら急速上昇していく。そしてやがて停止すると一気に翼を広げて大きく嘶いた。

 白銀よりも白い白金色に輝く体躯は、スターダストのそれよりも洗練されて流線型を描く。しかしその姿は華奢ではなく、逞しく発達した肢体は雄々しさこそを感じるべき力強さに満ち溢れている。

 全身から煌めく光の粒子が美しくその身体を空に浮かび上がらせ、甲高い声を響かせつつシューティング・スターは俺の頭上にて滞空した。

 

 

《シューティング・スター・ドラゴン》 ATK/3300 DEF/2500

 

 

 

 そうして現れた白金の巨竜の姿に、翔と剣山が驚愕も露わに口を開いた。

 

「相手ターンでシンクロ召喚!?」

「しかも、シンクロモンスター同士のシンクロだドン!」

 

 通常であればあり得ない、相手ターンでのシンクロ召喚。それに驚く二人だったが、しかし驚きを示しているのは二人だけではなかった。

 

「これが……皆本遠也の、真の実力……!」

「美しく、そして温かな光だ……」

 

 エド、そして斎王もまたシューティング・スター・ドラゴンを見上げている。その美しくも力強い姿に、言葉少なく感嘆する彼らを見つつ、十代がにっと笑って俺に拳を突き出した。

 

「へへ! お前なら、やってくれると思ってたぜ! いっけぇ、遠也ぁ!」

 

 それに俺も笑顔を返し、頷く。

 そして俺の後ろにいるマナに目を向けた。

 マナは無言で俺を見つめ、そして俺もまたその視線をただ受け止めて頷いた。それだけで十分。俺の身を案じつつも俺のことを信じて止めないでいてくれるマナの、その気持ちと信頼には結果で応えてみせる。

 そう強く思い破滅の光の意思に向き直ると、奴は俺の場に現れたシューティング・スター・ドラゴンとその輝きを前に、ひどく動揺しているようだった。

 

「な、なんだこの光は……!? こんな光、オレは知らない! 破滅の光であるオレが知らない光など、そんな馬鹿なことがッ……!」

 

 シューティング・スター・ドラゴンのその威容、その輝きに、破滅の光の意思が動揺と困惑を露わにする。

 そんな奴に向けて、俺はこのドラゴンを誇るように拳を握り、確固たる口調でその疑問に答えを返した。

 

「これは、俺の未来を示す希望の光! 誰にも左右されない、破滅の運命すら超えて突き進む絆の光だ!」

 

 俺は一人じゃなく、常に仲間が俺の存在を支えてくれている。それに気づいたからこその光がこれなのだ。

 しかし、それは破滅の光にとって受け入れがたい答えであるようだった。

 

「だッ……黙れ黙れ黙れェエッ! 死ね! 遠也ァ! サイバー・エンド・ドラゴンでシューティング・スター・ドラゴンに攻撃! 《エターナル・エヴォリューション・バースト》ォオッ!」

 

 血走った目で俺の言葉を否定すると、そのまま苛立ちと憎しみをぶつけるかのように俺への攻撃を叫ぶ。

 それを受けて鎌首をもたげるサイバー・エンドだが、攻撃動作へと入る前に俺はシューティング・スターの効果を発動させていた。

 

「シューティング・スター・ドラゴンの効果発動! シューティング・スター・ドラゴンを除外することで、相手モンスターの攻撃を無効にする!」

 

 咆哮を上げ、輝きと共にその身を消していくシューティング・スター。それによってサイバー・エンドも沈黙してしまった現況を見て、破滅の光の意思が苦虫を噛み潰したような渋面になる。

 

「くッ! ネオスペーシアンと何の関わりもない、ただの人間の分際でェッ! だがこれで貴様のフィールドはがら空きだ! 2体目のサイバー・エンドで直接攻撃ッ!」

「やらせるかッ! 手札から《速攻のかかし》を捨て、効果発動! その直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 手札に残っていた最後の1枚。それを墓地に送り、場に現れた1体のかかしがサイバー・エンド・ドラゴンの口から放たれた光の吐息を受け止める。

 それにより、バトルフェイズは強制終了。破滅の光の意思は、メインフェイズ2に入らざるを得なくなった。

 

「ぐ、グ……ッ! ――まだ、終わらんッ! オレは手札からユニオンモンスター《トライゴン》を召喚し、攻撃力4000のサイバー・エンド・ドラゴンに装備カード扱いとして装備する! 更にサイバー・ツイン・ドラゴンを守備表示に変更! これでターンエンドだ!」

 

《トライゴン》 ATK/500 DEF/1700

 

 トライゴン……炎で出来た身体を持つ、ドラゴン族のユニオンモンスターだ。機械族主体のカイザーのデッキには一見ミスマッチだが、こいつの効果は「装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分の墓地から光属性・機械族・レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する」というサルベージ効果だ。

 光属性・機械族専用のサルベージ。しかもその発動条件は戦闘で相手を破壊した時であり、カイザーのデッキならば容易い発動条件だ。そのため、プロト・サイバー・ドラゴンなどを抱えるカイザーはこのカードを採用しているのだろう。

 なぜ攻撃力の低い方のサイバー・エンドに装備させたのかはわからないが……それよりも、今は自分のことだ。

 

「そのエンドフェイズ! 効果で除外されていたシューティング・スター・ドラゴンはフィールドに戻る! 再び飛翔せよ! シューティング・スター・ドラゴン!」

 

《シューティング・スター・ドラゴン》 ATK/3300 DEF/2500

 

 嘶きと共に光の粒子がシューティング・スター・ドラゴンの形へと集束していく。そして再びフィールドに現れたその姿を見て、破滅の光の意思が口を開く。

 

「やはり、帰還効果があったか……!」

 

 苦々しく、納得の顔を見せる破滅の光の意思。やはり、スターダストを素材とした上にその面影を残したモンスターゆえ、効果の予想はされているか。そしてそれを見事に当てるあたりは、さすがと言っていいだろう。

 それにしても、シューティング・スタードラゴンを召喚できたのは喜ばしいことだが、状況は変わらず俺に不利だ。シューティング・スターの攻撃力では8000のサイバー・エンドどころか4000のサイバー・エンドすら突破できない。

 それに加えて、俺の手札の枚数は0枚である。手札が可能性の数であるならば、今の俺に可能性はない。

 ゆえに、このドローに全てがかかっている。ここで可能性を引き当てることが出来るかどうか。それが、このデュエルの結末を左右することになるだろう。

 

「――俺のッ、タァァアアーンッ!」

 

 デッキから引き抜いたカードを見る。そしてそのカードが何であるかを確認した瞬間、きたか! と思わず声が漏れた。

 

「俺は《ミスティック・パイパー》を召喚!」

 

《ミスティック・パイパー》 ATK/0 DEF/0

 

 ピエロのような風体の笛吹きが俺のフィールドに現れる。そして即座に、俺はその効果を発動させた。

 

「ミスティック・パイパーの効果発動! このカードをリリースすることで、デッキからカードを1枚ドローする! そしてそのカードがレベル1モンスターだった場合、俺はもう1枚ドローできる!」

 

 ミスティック・パイパーが消えていく中、俺はデッキから1枚のカードを引いた。

 

「ドローッ! ……よし! 引いたカードはレベル1モンスター《レベル・スティーラー》! よってもう1枚ドロー!」

 

 再度ミスティック・パイパーの効果でカードを引き、これで手札は2枚になる。そのうち1枚は当然、《レベル・スティーラー》。そしてもう1枚は、この状況では最高の魔法カードだ。

 

「《闇の誘惑》を発動! デッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスターを除外する!」

 

 これが、正真正銘最後のドロー。俺はデッキトップにかけた指に、知らず力を込めていた。

 

「頼む、俺のデッキよ……! 俺に応えてくれ!」

 

 祈りを込め、カードに触れている指に力を込める。

 そして、一気に2枚を引き抜いた。

 

「ドロォォオーッ!」

 

 勢いよく振り抜かれた手、その指に挟まれた2枚のカードの表側を確認する。

 2枚それぞれが何であるかを理解した途端、俺は口元をほころばせた。

 ――きてくれたか……! ありがとう、カードたち!

 

「まずは闇の誘惑の効果で闇属性の《レベル・スティーラー》を除外する! 更に、俺は墓地の光属性モンスター《エフェクト・ヴェーラー》と闇属性の《A・O・J カタストル》を除外! 手札から《カオス・ソーサラー》を特殊召喚!」

 

《カオス・ソーサラー》 ATK/2300 DEF/2000

 

「カオス・ソーサラーの効果発動! 1ターンに1度、このカードの攻撃権を放棄することでフィールド上のモンスター1体を除外する! 俺が選択するのは、攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴン! いけ、《カオス・バニッシュ》!」

 

 カオス・ソーサラーは漆黒の外套に隠された顔にうっすら笑みを浮かべ、その両手から黒い魔力の波動をサイバー・エンド・ドラゴンに向けて放つ。

 それはやがてサイバー・エンドの巨躯全体を包み込み、闇色の魔力ごと足元からサイバー・エンドの姿を消していったのだった。

 

「サイバー・エンドが除外されたか……! だが、貴様がここで攻撃力が高いサイバー・エンドに対処してくることは読んでいた! この男の記憶が、貴様ならそれぐらいはやってのけると言っていたのでなァ!」

 

 破滅の光の意思が、自信に満ちた声で親指を胸に当ててそう話す。

 さっきトライゴンの装備先に攻撃力4000のサイバー・エンドをわざわざ選んだのは、それが理由だったようだ。攻撃力8000のほうに装備して、まとめて処理される危険性を考慮したということだろう。

 敵ながら、やる。俺との対戦歴が長いカイザーの記憶があるからこそとはいえ、そこまで考えてデュエルしているのはさすがである。そこには、素直に感心した。

 そして今の状態が自分の予想通りであることに気を良くしたのか、破滅の光の意思は口元を歪めて笑った。

 

「もっとも、どのみちそれだけではもう1体のサイバー・エンドに貴様のモンスターは敵わないがなァ! これでわかったか! 世界の破滅を防ぐことなど不可能なのだァッ!」

 

 それこそが必然、それが運命だと言わんばかりに破滅の光の意思は語る。

 だがしかし、それが確定した未来だなんて俺は信じない。いや、俺だけじゃない。ここに生きる誰もが、それを信じはしない!

 だから、破滅の光の意思が語るそれは運命なんかではないと証明してみせる! 破滅ではない未来を、勝ち取ってみせる!

 

「このカードが、未来へと繋がる希望を紡ぐ! これこそが、俺たちの絆が作り出す最後の攻撃! ――速攻魔法、《イージーチューニング》を発動! 墓地のチューナーモンスター《ジャンク・シンクロン》を除外し、その攻撃力の値である1300ポイント、シューティング・スター・ドラゴンの攻撃力をアップする!」

 

 墓地から半透明となったジャンク・シンクロンが現れ、その姿を光へと変えていく。その光は吸い込まれるようにシューティング・スター・ドラゴンと一体になり、シューティング・スターは漲る力を誇示するように腕を振り上げて雄叫びを上げた。

 

《シューティング・スター・ドラゴン》 ATK/3300→4600

 

「サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力を超えた、だとッ……!? だが、オレのほうが一枚上手だったようだな!」

 

 にやりと笑い、破滅の光の意思はサイバー・エンド・ドラゴンに装備されているカードを示した。

 

「サイバー・エンド・ドラゴンに装備されている《トライゴン》! ユニオンモンスターは共通効果として、装備モンスターが破壊される時、代わりにこのカードを破壊することが出来る効果を持っている! そしてオレの場に存在する貴様のスター・ブライト・ドラゴン、更にサイバー・ツインの2体は共に守備表示! つまり、どうやっても貴様にオレを倒すことは出来んということだッ!」

 

 たとえ唯一攻撃表示でいるサイバー・エンドを攻撃したところで、与えられるダメージは600ポイント。そのうえ、トライゴンが身代わりになることによってサイバー・エンドを破壊することは出来ない。

 そうなると、次の返しのターン。そこで、奴は俺に引導を渡してくるに違いない。

 つまり、ターンを渡すわけにはいかないということだ。しかし、普通にやったのでは確かにこの状況では俺は勝てない。

 そう、普通にやったならばだ。なら、それ以上の力……限界を超えた力を出して、俺が勝つ!

 その決意を込めて、俺は破滅の光の意思に笑みを返した。

 

「それはどうかな! 見せてやる、俺たちの絆を! 己の弱さに打ち勝って得た、未来への希望という名の答えを! ――シューティング・スター・ドラゴンの効果発動!」

 

 俺が叫べば、それに応えるようにシューティング・スターが嘶く。その声と姿に頼もしさを感じながら、俺はその効果を使用する。

 

「シューティング・スターは1ターンに1度、デッキの上からカードを5枚確認し、その中のチューナーモンスターの数だけ1度のバトルフェイズ中に攻撃することができる!」

「攻撃を無効にする効果だけでなく、複数回の攻撃を行う効果だとッ!?」

 

 相手の残りライフは1650。場には3体のモンスターが存在し、うち2体が守備表示。そして攻撃表示の1体は攻撃力が4000あり、1度の破壊耐性を持っている。

 つまり俺が破滅の光に勝つためには、この効果で5回の攻撃を行う必要があるということだ。まさに、通常であれば出来ないような奇跡が必要になる。

 だがしかし、その奇跡に一片の疑いも俺は抱かない! デッキを信じ、カードの声を感じて、俺はただドローするだけだ!

 強くそう思い、俺はデッキトップに指をかけた。

 

「これが、このドローが全てを決める! カードよ……みんな……俺に力を貸してくれ!」

 

 この場で俺を見てくれている十代、翔、剣山、エド、斎王の声を感じる。更に、ここにはいないが強く絆で結ばれた仲間の気持ちも、俺の支えになる。

 そして、俺の身を心配しつつも決して止めないでいてくれた、俺の最高のパートナー。俺の背中の向こうで祈ってくれているマナの気持ちと願いを一身に受けて、俺は目を閉じる。

 一瞬の空白。瞼を開けると同時に、俺はデッキからカードを引き抜いた。

 

「――ドローッ! ……1枚目! チューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》!」

「なァッ……!?」

 

 いきなりチューナーを引いたことに、破滅の光の意思から思わずといった様子の苦悶の声が漏れる。

 だが、これで終わりではない! カードの確認は、あと4回ある!

 

「2枚目! チューナーモンスター《異次元の精霊》! 3枚目! チューナーモンスター《ゾンビキャリア》! 4枚目! チューナーモンスター《音響戦士ベーシス》!」

 

 ラスト1回。俺はデッキの一番上のカードに指を乗せた。

 

「そして、最後のドローッ! ――5枚目! チューナーモンスター《クイック・シンクロン》!」

 

 《アンノウン・シンクロン》《異次元の精霊》《ゾンビキャリア》《音響戦士ベーシス》《クイック・シンクロン》。

 5枚すべてがチューナーモンスター。よって、このターンに行えるシューティング・スター・ドラゴンの攻撃回数は――!

 

「馬鹿なッ!? 合計5回の攻撃だとォッ!?」

 

 慄き、狼狽えを見せる破滅の光の意思。

 カイザーの身体から立ち昇る白いオーラのようなそれに向かって、俺は大きく声を上げて言葉を投げかけた。

 

「この世界は、破滅なんて望んでいない! 破滅の運命が襲い掛かろうと、何度だって打ち砕いてみせる! ――いけ! シューティング・スター・ドラゴン! 《スターダスト・ミラージュ》ッ!」

 

 俺が叫ぶと、シューティング・スター・ドラゴンは手足を折りたたみ、より飛行に適した流線型を強調する形態へと変化する。

 そしてそのまま上空高くに飛び上がると、色彩の異なる4体の分身を作り出し、合計5体のシューティング・スター・ドラゴンが空に控える壮観といえる光景を作り出した。

 その姿を確認し、俺は勢いよく破滅の光の意思のフィールドに手を向けた。

 

「1回目のバトル! スター・ブライト・ドラゴンを攻撃!」

「ぐッ……!」

 

 天高くから滑空してきたシューティング・スターの分身が、守備表示で存在するスター・ブライト・ドラゴンに襲い掛かる。

 スター・ブライト・ドラゴンの守備力は1000ポイント。第一撃によって破壊され、俺の墓地へと送られた。

 

「2回目のバトル! サイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!」

「ッ……!」

 

 サイバー・ツイン・ドラゴンの守備力は2100ポイントだ。これも第二撃に耐えることは出来ず、爆炎と共にその姿を消した。

 

「3回目のバトル! サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

 3体目のシューティング・スターの分身が上空から一気に滑空してサイバー・エンド・ドラゴンへと直撃する。

 

「くッ! この時、装備されているトライゴンの効果発動! トライゴンを破壊することで、サイバー・エンド・ドラゴンの破壊を無効にする!」

 

 装備されたトライゴンが前に出て、その炎によってその衝撃を緩める。しかし、その全てを防ぎきることは出来ず、サイバー・エンドの身体の随所で爆発が起こる。

 そして発生した僅かな爆風が破滅の光の意思の身を包んだ。

 

「ぐ、がァァアアッ!」

 

亮(破滅の光) LP:1650→1050

 

「これでサイバー・エンドへの道を遮るものは何もない! 4回目のバトルだ! 再びサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

 上空に待機していた4体目の分身が滑り降りてきて、サイバー・エンド・ドラゴンに速度を保ったままぶつかっていく。

 今度はその身を守るものは何もない。2度目の攻撃によって、ついにサイバー・エンド・ドラゴンは大きな爆発を起こし、その身は木端微塵に吹き飛ぶこととなった。

 

「うォァああァああッ!」

 

亮(破滅の光) LP:1050→450

 

 残りライフは450ポイント。そして、破滅の光の意思のフィールドに存在するカードは1枚もない。

 

「そしてこれが最後のバトル! シューティング・スター・ドラゴン! プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)ッ! 《スターダスト・ミラァアージュ》ッ!」

 

 上空にて滞空する最後に残ったシューティング・スター・ドラゴン。それがついに地上へ向けて降下を始め、そのスピードは何者にも防ぎがたい強力な攻撃となって、カイザーから立ち昇る破滅の光自身へとその照準を合わせた。

 迫りくる最後の一撃。それを前に、破滅の光の意思は焦燥と驚愕に染まる顔で、信じられないとばかりに叫んでいた。

 

「グッ……馬鹿な……ッ! 破滅の運命を! 世界の破滅を導くこのオレがッ! ネオスペーシアンですらないただの人間に、負けるというのかァァああァああッ!」

 

 そして、ついに破滅の光そのものに直撃するシューティング・スター・ドラゴンの攻撃。それは白く揺らぐオーラを瞬く間に消し飛ばし、断末魔の叫びを上げる破滅の光の声すら打ち消していく。

 霧散していく白い光。それすらシューティング・スターの放った攻撃の余波によって全てが無に帰していく。破滅の光は、ここに完全に消滅したのだ。

 そして破滅の光を失い、攻撃の衝撃をそのまま受けたカイザーの身体が、まるで自動車事故にでも遭ったかのように勢いをつけて地面を転がっていった。

 

 

亮(破滅の光) LP:450→0

 

 

「カイザーッ!!」

 

 役目を終え、消えていくシューティング・スター・ドラゴン。その姿の向こうに見える横たわったカイザーに向かって、俺は駆け出した。

 十代、翔、剣山といった皆もカイザーのほうへと走り寄る。対戦していただけあって真っ先に辿り着いた俺は、うつ伏せになっていたカイザーを抱き起こして声をかける。

 

「おいッ! おい、カイザー!」

「お兄さん!」

「カイザー!」

 

 僅かに遅れてカイザーの元にやってきた翔たちも、口々にカイザーを呼ぶ。

 そうして全員で顔を覗き込んで声をかけていると、一瞬カイザーの瞼が震えた。そして、ゆっくりとその目が開けられ、その瞳が覗きこむ俺たちを確認していった。

 

「……お前たち……そうか……俺は……」

「無理にしゃべるなカイザー! 今マナが鮎川先生に連絡してる!」

 

 マナが急いで連絡を入れてくれているのを横目で確認しながら言うと、カイザーは小さく口元に笑みを浮かべた。

 

「……そうか……。……遠也……」

「な、なんだ?」

 

 名前を呼ばれ、返事をする。

 訝しむ俺に、カイザーは口元の笑みはそのままに一言だけを告げた。

 

「……ありがとう……」

 

 感謝の言葉に、俺は何とも言えない気持ちになる。なにせ、最後にカイザーの身体をこんなに吹っ飛ばしたのは俺なのだから。

 だが、結果として破滅の光の呪縛からカイザーが帰ってきてくれたのも事実。俺は、カイザーを助けることが出来た。それを実感できたことは、素直に嬉しく誇らしかった。

 そんな気持ちに浸っていると、ぼそぼそとカイザーが口を動かそうとする。

 何を言おうとしているのか、俺は聞き逃すまいと耳を寄せた。つられて、周囲の皆も耳を寄せてくる。

 そして、カイザーが口にした言葉は。

 

「……今度は、俺が勝つ……」

 

 直後、カイザーの身体の限界が来たのか、腕の中でカイザーの意識が落ちる。

 目を閉じて寝息を立てはじめたカイザーを抱えながら、俺は覗き込んできている面々に目を向けた。

 全員、今の言葉を聞いていたのだろう。浮かぶ表情は、喜びと呆れと心配と、色々なものがごちゃ混ぜになった何とも複雑なものばかりだった。

 

「はは、さすがカイザーだな」

「ああ。こんな時でもデュエルのこととは」

 

 十代と顔を見合わせ、苦笑する。

 だが、そんな姿を意識が落ちる前に見せてくれたからこそ、俺たちは本当に安心することが出来た。

 ――破滅の光は、もういなくなったのだ。

 それを実感することが出来たのだから。

 

「……あ! 兄貴、遠也くん、あっちから何か聞こえてくる!」

 

 その時、何かに気付いた翔が校舎が見える方へと指を向ける。

 どうしたのだろうかと、示された先を俺たちは揃って顔を向ける。すると、校舎側へと続く道の向こうから慌ただしい音が聞こえてくることに気づいた。

 今はまだ小さなそれが、車の駆動音だと気づくのに時間はかからなかった。恐らく、マナから連絡を受けた鮎川先生が急いでくれたのだろう。人を収容することが出来る救護車まで引っ張ってきてくれたらしかった。

 その音を聞きながら、俺たちは揃って大きく息を吐く。

 まさに激動の一日だった。常に動き続け、緊張を強いられた時間ばかり。今日という日を振り返りつつ、そのあまりの忙しなさに何とも言えない気持ちになる。

 だがしかし、これで終わったのだ。この一年間、ずっと続いてきた破滅の光に端を発する一連の事件は、今日この時を以って。

 きっと、この場の誰もがそんな達成感とも疲労ともつかぬものを感じているのだろう。答えを聞かずとも、なんとなくそんな気がした。

 すると、トンと叩かれる俺の肩。振り向けば、そこには笑顔で俺を見るマナがいた。

 

「お疲れ様、遠也」

「……おう」

 

 労いの言葉をかけられ、どこか照れくささを感じた俺はぶっきらぼうに返答する。

 そしてそんな俺の内面も理解しているのか、マナは変わらず笑んで俺の隣に腰を下ろした。

 何か言葉を交わそうというわけではない。しかし、隣にこうしていてくれるだけで随分と気が安らぐ自分に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 ――だが、それも悪くはない。

 

 俺はそう心の中で現状に対する言い訳をして、隣のマナと身を寄せる。

 徐々にこちらに近づいてくる車の音。それを聞きながら、俺はゆっくりと強張っていた肩から力を抜くのだった。

 

 

 

 


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