「よ、来たぞ十代」
「お、遠也! 待ってたぜ!」
放課後。オシリスレッドの寮に向かった俺は、そのまま十代たちの部屋を訪ねた。
十代たち、というのはこの部屋を使っているのが十代一人ではないからだ。十代の他に、翔と隼人の三人で寝泊まりしているのだ。
一人部屋のほうが気楽なのは確かだが、そういう共同生活も醍醐味と言えば醍醐味だよなぁ、と少し羨ましくも感じる俺であった。
そしてその同居人である二人だが、今は部屋の中にいない。特に隼人がいないのは珍しい。基本部屋にいる奴なのに。
「十代。翔と隼人はどうしたんだ?」
「翔はなんか棚を買ってくるってさ。隼人は散歩だってよ」
翔の理由はよくわからんが、隼人も進んで出かけるとは。留年を気にして出不精であることは気にかかっていたが、それも少しずつ改善されてきているってことか。
まぁ、いつもどこでも一緒っていうわけではないのだから、こうして十代一人ということもあるだろう。
そう納得した俺は、部屋に上がって適当に座る。レッド寮にソファなんてものはないので、ま、床だな、床。
『やっほー、ハネクリちゃん。おいで~』
『クリクリ~』
そして横ではマナが十代のハネクリボーを招き寄せて撫でている。どう見てもペットかぬいぐるみの扱いだ。が、ハネクリボーよ、それでいいのか。……いいんだろうな、嬉しそうにしてるし。
そしてそんな精霊たちを横目に、俺は十代と向かい合う。
「で、今日は何する?」
「そうだなぁ。あ、そうだ! お前のもう一つのデッキ見せてくれよ。いっつもシンクロばっかりだろ?」
「確かにそうだけど……うーん、まぁ、いいか」
あいよ、とデッキケースから常に持ち歩いている二つ目のデッキを十代に渡す。
ちなみに二つ目のデッキはマナの宿るカードが入っているデッキだ。そこまで言えば、どういうコンセプトのデッキかは言わずともわかると思う。
十代と交流を持って以降、俺はこうしてよく十代とカードについて話し合ったりデュエルをしたりしている。十代が「遠也のカードに興味がある」と言ってきて、別段隠すようなものでもなかったので、デッキを見せ合ったりしたのが最初だ。
シンクロというものに興味があったのか、その時には翔と隼人、どこで聞いたのか明日香もいた。とりあえずこの時点で使うにはマズいカードや、あまり知られたくないカード、危険かもしれないカードは事前に抜いてあるので問題はなかった。
この時のメンツ、特に十代と隼人は俺のデッキを見て物凄く興奮していた。十代の場合は知らないカードを見たからで、隼人はそのデザインやギミックに注目していたようだった。
その後、隼人の描いた絵や考えたカードの案を見せてもらったのだが、驚くことに実際にOCGで存在するようなカードの案がその中にあったりした。何でも俺のデッキを見て、こういうカードは使えそうだと閃いたらしい。
実際にデュエルした時はプレイングミスが目立つイメージだったが、プレイをせず単体でカードの効果を吟味するのは得意らしい。
ちなみに、ペガサスさんに連絡しようか目下考慮中。未来において存在するカードを考えたとなれば、隼人はカードの制作のほうに適性があるのだろう。それを放っておくのはもったいない。
話が逸れたが、それを機に俺と十代たちの距離は一気に縮まった。放課後になると、十代とデュエルをし、隼人と話し、翔と遊ぶ。そんな関係を築くに至ったのである。
四人で一緒に飯を食ったり、ひたすら駄弁ったりと、学生生活を謳歌させてもらっている。
そんな中で、十代とは何か波長でも合ったのか、特に仲が良くなったと思う。よくデュエルするし、カードについても話し合うし、今日のように二人でつるむこともある。
俺も十代といると気が楽だし、楽しいから文句はない。やっぱ、友達ってのはいいもんだね。
「うおお、すげえ! めちゃくちゃレアなカードばっかりじゃねぇか!」
と、なにやら十代がデッキを見て大騒ぎしている。
それにハネクリボーもマナの傍から十代の背後の定位置に戻る。同じようにマナも俺の隣に戻ってきた。
「まぁな。とりあえずコイツを組み込むからには、デッキ構成がどうしてもファンデッキになるのが欠点といえば欠点だけど」
『失礼な。私だって強いんだからね』
俺が指で隣を指すと、マナがむっとした顔をして言い返した。
確かにリアルファイトになったら俺がボコボコにされるぐらい強いのは確かだが(腐ってもレベル6の魔法使いだし)、カードとしてみたら微妙と言わざるを得ない。ステータスもレベル6にしては低いし、効果も単体では意味ないうえに300ずつしか上がらないからなぁ。
「でもすげぇぜ! まさかこんなデッキを持ってたなんてな……よし、遠也デュエルだ! このデッキと戦ってみたくなったぜ!」
そう言って立ち上がり、デッキを俺に返す十代。
デュエルねぇ。まぁ、俺も嫌いじゃないし、たまにはマナを使うのもいいかな。
シンクロを使っていかないといけない立場上、公の場でこのデッキを使うことはそうないだろうし。
「よし、いい――」
「ただいまっす~……」
と、俺も了承の返事をしようとしたところで、翔が帰って来た。
しかし、様子がおかしい。手にはおそらく十代が言っていた棚が入っているだろう袋を持ち、背中を丸めて俯く様はあからさまに暗い。その様子に、十代と俺はひとまず翔に声をかけた。
「どうしたんだ、翔。今日もそういえば元気なかったけど、今ほどじゃなかったろ?」
「なんかあったか?」
すると、翔はどんよりとした顔を上げ、大きな溜め息をついた。
「二人は余裕っすね……。明日はアレがあるのに……」
「アレ?」
「なんぞそれ」
十代と二人して首をひねる。その様子に、翔が焦れたように声を荒げた。
「アレといったらアレっすよ! テスト! 月一試験っす~!」
そして、もうおしまいだー、と言いながら翔は買ってきた棚を自分の机に置き、その上に《死者蘇生》のカードを置くと、《オシリスの天空竜》のポスターを壁に張った。
何がしたいのかさっぱりわからんぞ……。
「ああ、そんなのあったな。すっかり忘れてたぜ」
十代が納得顔で手を打つ。いや、そんな暢気でいいのか、受験番号110番。
「それで十代。お前はテスト対策は万全なのか?」
「え、いやー、まぁ、何となるんじゃねぇか?」
わずかに逡巡するものの、結局あっけらかんと十代は答える。どう見ても何も対策してないな、こいつ。それでなんでこんなに気楽なんだ。ある意味すげぇ。
しかし、そういえばそんなのあったな。そして十代たちのこの様子……。
ふむ、どうやら今日やることは決まったようだ。
「よし、十代、翔。テーブルを出せ」
目の前の十代、そして隅のほうで《死者蘇生》のカードを鉢巻きで額に巻こうとしていた翔に声をかける。お前は一体何をしようとしていたんだ。
言われた通り、テーブルを部屋の真ん中に設置した二人に、俺はよしと頷いて笑顔で告げる。
「今日はこれからずっと勉強だ。泣いて感謝しなさい」
「げ、マジ!?」
「嫌だー!」
「うっさいわ! お前らが勉強してないからだろ! 翔も祈るぐらいならちゃんと対策しろ!」
さすがに友人が揃って試験に落ちるというのは忍びない。いくら実技の実力があっても、それだけで成績は良くならないのである。
というか、翔は今のところ実技も微妙なのに、なぜ神頼みという発想になるんだ。
「というわけで、勉強だ勉強。なに、安心しろ。何を隠そう俺は、勉強を教える達人だ!」
そう言ってビシッとポーズを決める。このブラボーな姿に、彼らもきっとやる気を出す。
『かっこわるーい』
「ポーズはカッコイイけど、勉強は嫌だぜ!」
「勉強を教える達人って意味わからないっす!」
マナとはあとで話をするとして、二人はやっぱりやる気を出さない。ちょっとやるだけでも大分違うというのに、なんでそうも嫌がるんだ。
ああもう、強引に行くしかないか。
「黙らっしゃい! とにかく神頼みするよりもきちんと勉強したほうがマシだっての。ほら、やるぞ!」
「マジかよー」
「うぅ、仕方ないや」
しぶしぶ、不満を述べつつも勉強する準備をする二人。それぞれやっぱりマズいという意識はあったらしく、一度そうと決めれば以後は素直だった。わからないところは俺が教え、互いに助け合いながら勉強をしていく。
途中「ただいまなんだなー」と帰って来た隼人もその輪に加わり、四人での勉強会が始まる。
更にその最中、あのデュエル以降交流を持つようになった明日香から十代のPDAにメールが入るが、十代は勉強してるからとその誘いを拒否。
その理由に驚いてやって来た明日香が本当に勉強している十代たちを見て唖然としたなんてこともあった。この三人、授業も全然だからな。その驚きもむべなるかな。
その後、なぜか明日香も教える側に加わって五人での勉強会となる。五人ともなればレッド寮の一室では手狭だが、それも気にならなくなるぐらいに楽しかった。
嫌だ嫌だ言っていた十代と翔、隼人の三人も、こうしてわいわい仲間内で何かをやるのは楽しかったらしい。途中からは何も言わずともノートに向かい、勉強に取り組んでいた。
時に雑談をし、勉強もきちんとやる。なかなかに良い時間だったと言える。
そして夜になり、別れる時。
明日香は笑顔で「楽しかったわ、試験頑張って」と言って帰って行った。
十代たちも「初めてこんなに勉強したぜ」とか「意外と楽しかったっす」とか「今回はいける気がするんだな」とか言っていた。
それぞれ笑っていて、勉強をしていたとは思えない明るさだった。
それらの言葉に対して「なら良かった。試験頑張ろうぜ」と返し、互いの健闘を祈ってから寮に戻る。これで明日の試験も、少しは良くなるだろう。実技については、まぁ頑張ってもらうしかないが。
『――遠也も楽しそうだったね』
寮に戻り休む時、ふとマナがそんなことを聞いてきた。俺はそれに、笑って答える。
「まあな。ここに来て良かったよ。気のいい友達が出来たからな」
ベッドに寝ころんでいた俺は、よっと身体を起こして端に腰かける。目の前で浮いていたマナは実体化して俺の隣に座った。
「うん、遠也があんなに笑ってるの見て、私もそう思った」
そう言って、マナはそのまま頭を俺の肩に預ける。
一瞬心臓がはねると同時に、邪な気持ちも湧きおこる。が、そんな雰囲気でもないのは明らかだったので、とりあえずそのまま動かないでおく。
「心配、だったのかな。結局、遠也はマスターたちにはどこか遠慮していたでしょ? だから、ね」
マナは小さく苦笑をこぼして言い、それに俺もまた苦笑いで返した。
それはマナが言っていることが事実だからだった。
俺はお世話になった遊戯さん、保護してくれたペガサスさん、そして力を貸してくれた海馬さん、他にも城之内さんを始め気を使ってくれた人たちのことを慕っているが、遠慮の気持ちは抜けなかった。
それは彼らが全員俺より年上であり、同年代に対するような態度をとることがどうしても出来なかったためであった。
そういう意味では、本当に素の自分で接した相手というのはマナだけだったと思う。
しかしそこに、アカデミアに来たことで十代たちも加わった。真実俺と同年代である彼らは、俺にとっても気を使わないですむ対等な立場の人間だったからだ。
俺の事情を知らない、というのも良かったのかもしれない。素の自分でいるという点では、今ほどそれが出来ていることもこの一年ではなかった。
俺はそれをただ当たり前に受け入れて過ごしていたが、どうやらマナはずっとそのことを心配していたらしい。まさか、そんなに心配かけていたなんて知らなかった。
そのことに、俺は感謝と嬉しさと申し訳なさが混じったような複雑な気持ちを抱く。そして俺は肩に乗っけられた頭に、少しだけ自ら顔を寄せた。
「あー……その、ごめん。あと、ありがとう」
それだけを呟くような小さい声で言う。顔を寄せているから、聞こえているだろう。声を大にして言うのは気恥ずかしかった俺の精一杯の結果であった。
それを受けたマナはと言うと、突然ぱっと顔を上げてこちらを見た。近づけていたせいで顔同士がぶつかりそうになり、俺は慌てて顔を離す。
そして、顔をそむけている俺の耳にマナの言葉が届く。どんな顔をして言ったのかは、見ていなかったからわからないが。
「うん。ありがと」
なんでマナがお礼を言うのかはよくわからなかったが、その後再び俺の肩に頭を乗せたマナは眠るように目を閉じた。
俺はそんなマナを横目でちらりと盗み見て、あまりに近くにあるその姿にどきりとする。こうして見れば、やはりマナは美少女である。そんな子が近くにいて、気にならないほうがおかしい。
俺にとって一番気を許せて仲がいいのがマナなのは間違いない。マナも似たように思ってくれているとは思うが、だからこそのこの距離感に時々戸惑うことがあるのも事実だった。
俺は極力気にしないようにしようと努め、同じように目を閉じた。
このまま寝てしまおう。そうすれば、この変な気持ちもテキトーに収まってくれるだろう、とそんなことを考えながら。
*
翌日。
ベッドに腰掛け、そのまま後ろに倒れた姿で寝ていた俺と、その腹の上に倒れ込むように寝ていたマナ。
俺たちは互いに変な格好で寝たために少々痛む身体に辟易しながら、何とか教室にたどりついていた。
マナはもちろん精霊化しているが、それでも痛みは残っているらしく『いたたた……』と寝違えた首をしきりに気にしている。
俺も同じく身体の痛みを気にしながらの着席となったが、それと同じぐらいに気になる事実に気がついてしまい、今は視線を教室中に走らせているところだ。
『あれ? 十代くんがいない?』
うん、つまりそういうことなんだ。
マナが言ったように、十代の姿が教室のどこにもない。そろそろ試験が始まるというのに、どうしたというのだろうか。
十代は良くも悪くも真っ直ぐで、サボりなんて進んでする奴じゃ……いや、サボりはするか。真っ直ぐな分、嫌なこと授業からは素直に逃げるし。
けど、昨日あれだけ勉強したのだから、今日サボるとはさすがに考えづらい。というわけで、ボイコット説は却下。
寝坊という説が有力だが……と、そういえば翔と隼人は普通にいるじゃないか。同室のあいつらに聞けば手っ取り早い。
というわけで、おーい。二人に呼びかけ、話を聞く。
……結論、寝坊でした。
二人曰く、起こしたけど起きなかった。間に合わなくなりそうだったので先に来た。だそうだ。それなら仕方ないね。
『せっかく勉強したのに……』
マナも十代の失態に若干の呆れ顔だ。とはいえ、翔の話を聞くに俺達が帰った後にも少し勉強していたようだから、慣れないことをした疲れと思うと憎みきれないがね。
やれやれと思っていると、ふいに明日香と目が合った。こちらを見ていたってことは、明日香も十代がいないことを気にかけていたのだろう。
俺はジェスチャーで寝坊だと伝える。上手く伝わってくれたようで、明日香も呆れたような顔になり、次いで苦笑に変化する。
ま、もう笑うしかないよな。ここまでくると。
「さて、それじゃあテストを始めるのにゃー」
おっと、大徳寺先生が来たか。
結局十代は間に合わないまま試験開始、と。やれやれ……。
筆記試験が終わり、俺は十代、翔、隼人と一緒に購買に向かっている。
なんでも新しいパックが入荷されているんだそうだ。他の生徒たちも実技試験前に強化できるカードがあるかも、と言って何人も買いに行っている。
十代もどんなカードがあるのかとワクワクしているようで、まるで強敵を前にした悟空のように目を輝かせている。
……そう、十代だ。こいつ、遅刻はしたけど、試験は途中参加という形で受けたんだよね。
遅れてやって来て、そのくせ翔と雑談に興じるという神経の図太さを見せはしたが……万丈目に怒られ、そして大徳寺先生からも注意を受けて、テストを受けることとなったのだ。
とはいえ、終わり頃に席を見たら満足げに笑っていた。聞いてみると、俺と明日香のおかげでだいぶ解けたぜ、とのこと。そりゃ良かった。
そして十代は俺に礼を言い、席が少々離れている明日香には大声でお礼を言った。いきなり大声で呼ばれた明日香は、若干恥ずかしそうだ。それでも軽く手を振って応えるあたり、実際には嬉しいのだろう。
十代がこう言うなら、昨日の勉強会の様子を見ても落ちているということはないだろう。一安心といったところかな。
さて、そんなこんなで俺たちは四人揃って行動している。
で、購買に着いたんだけど……。
「ええっ!? 残り1個ぉ!?」
購買のお姉さんに聞いてみると、どうやら新しいパックを買い占めていった生徒がいたとのこと。だから、残りのパックは一個だけ。
道理で購買に誰もいないと思った。先に行った奴らもこの話を聞いてさっさと帰ってしまったんだろう。
そして残るのは、当初の目的を潰されてしまった俺たち四人だけ。俺は自分のデッキを改造する気はないからいいが、それが目当てだった翔なんかは少し落ち込んでいるようだった。
「ぅう、筆記はいつもより出来たと思うけど、実技はやっぱり不安だよ。どうしよう、アニキ……」
翔が弱々しく言うと、十代は仕方ねぇ、と言って残っていたパックを取って翔に渡した。
「え、アニキ?」
「いいさ、それは翔が買えよ!」
「え! で、でも……」
「俺はいいって! 俺のHEROはそう簡単にはやられないからな!」
十代はそう言って笑い、次いで翔は俺に目線を移す。
「俺もいいよ。もともとデッキをいじる気はなかったし。隼人はどうだ?」
「俺もいいんだな。俺のデッキのテーマに入るカードは入ってないだろうし……」
隼人もそれほど成績は良くないが、翔の様子に気を使ったのだろう。
確かに隼人のテーマに合うカードは少ないが、それでも獣族のサポートカードは多いし、それ以外の魔法・罠にも有用なカードは数多い。それらが手に入る可能性もあるだろうに。
俺たちの言葉を聞いた翔は、涙ぐんで感動していた。
「アニキ、遠也くん、隼人くん……ありがとうっす……」
「気にするなよ! それじゃ、早速戻ってデッキ調整だ! 行こうぜ!」
ばしっと翔の肩を叩いて、十代が促す。
「ちょっとお待ち!」
しかし、購買を出ようとしていた俺たちに声が掛けられる。奥から出てきた人は、髪を三つ編みにしたおばさんだ。その顔を見て、十代はあっと声を上げる。
「今朝のおばちゃん!」
え、知り合い?
話を聞くと、十代は朝寝坊した後に道で困っているこのおばさん――トメさんを助けていたとのこと。それが原因で、あそこまでの大遅刻になってしまったらしい。
いずれにせよ遅刻は遅刻だったわけだが、それでも自分の試験がかかっている中、迷わず人助けを選択できるあたりは素直に褒められるところだ。少なくとも、俺なら少しは迷ってしまうと思う。
『そんな事情が……それなら仕方がないね』
マナも遅刻してきたことは良くないと思っているようだが、それでもその十代の心根には文句はないのだろう。笑顔で十代のことを言外に褒めていた。
その後、トメさんによって俺たちにはそれぞれパックが与えられた。なんでもトメさんが予めいくつかとっておいたらしい。トメさんもデュエルするのかね。
そして俺たちはそれぞれパックを開く。
十代の手には《進化する翼》。ハネクリボー専用のサポートカード。なるほど、ここで手に入ったのか。
翔、隼人もそれぞれ自分のデッキに合うカードが手に入ったようだ。
さて、俺のパックには何が入ってるのかね。デッキに加える気がないとはいえ、カードパックを開く時のこの気持ちはやっぱり楽しいもんだ。
「さて、なになに……《雷電娘娘》《RAI-MEI》《お注射天使リリー》《荒野の女戦士》《ハーピィ・クイーン》……なぁにこれぇ?」
翔は若干羨ましげだが、これは完全に事故パックじゃないか。
というか、単なるエラーだろコレ……。5枚全部モンスターで、しかも女性型しかないとか。どういう確率?
「うわぁ、すげえな遠也」
「……ああ。まぁ、こういうこともあるさ」
もともとトメさんの好意でもらったものだ。文句を言うつもりもない。
そう、これはトメさんの好意なのだ。決して、それを無駄にしてはいけない。というわけで、このカードも使ってあげなければいけないだろう。
というわけで、少し離れて早速ディスクにセット。
いやぁ、みんな可愛いカードばかりだからな。ソリッドビジョンで見たことないカードばかりだし、どうなるのか今から楽しみだ。特にハーピィ・クイーンとか。おっぱい。
『……私、ここにいるんですけどー』
おっと、そういえばマナが横にいたんだった。しかも何だか相当に不機嫌そうだ。仕方なくディスクからカードを外す。
そして俺たちはトメさんにお礼を言い、デッキの調整を行うためにその場を後にした。
……そしてその移動中。俺はずっと隣のマナからぐちぐちと文句を聞かされていた。
曰く、遠也は女心がわかっていない、すぐ女の子に鼻の下をのばす、デリカシーがない、などなど。
翔と隼人はわからないからいいが、精霊が見える十代はずっとマナに責められている俺を見て、苦笑いだった。
『もう聞いてるの、遠也。だいたい……』
……すみません、もう勘弁してください。