遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第41話 解放

 

 ホワイト生たちの足止めを退けたあと俺は、十代、双六さん、三沢、そして先行していたマナとレイン。この五人と合流した。そして全員で元凶である斎王を訪ねてホワイトが泊まっているホテルに向かったのだが……見事に門前払いを食らう。

 その場に帰ってきた万丈目によって、明日海馬ランドに来いと十代への伝言を受け、同時に近くの草むらで同じく門前払いされたらしい吹雪さんを発見。相談の結果、俺たちは素直に明日を待つことに決めた。

 ちなみに吹雪さんが門前払いを食らったのは、明日香に会いに行こうとしたかららしい。兄が自由に妹に会いに行くこともできないとは、世知辛い世の中になったものである。

 そんなわけで、俺たちはいったんホワイトのホテルを離れ、レッド生が一夜を過ごす予定となっている川辺のキャンプ地にて俺たちは腰を下ろす。

 時刻は既に夕方を過ぎて夜に入っている。いくつかの大きなテントの群れの中で動く生徒たちの影をぼんやりと眺めながら、俺たちは大きな溜め息をこぼした。

 

「くっそー、翔と剣山は無事なのかよ」

「僕は明日香に会いたかっただけなのにねぇ」

 

 十代と吹雪さんがほぼ同時に呟く。その中で、十代の問いに三沢が答えた。

 

「あの二人は大事な人質だ。恐らくは無事でいるはず……」

 

 確かに、そう考えれば翔と剣山の安全は保障されている。安全じゃなくなるのは、人質としての価値がなくなった時……つまり、目的を達した時だ。

 そしてわざわざ明日と日時を指定してきた以上、目的達成はその時ということになる。逆に考えれば、明日のその時までは確実に無事でいるはず。

 そう俺たちは結論づけると、暗くなってきたために火をつけた焚火を囲んでひとまずの休息を取る。

 双六さんが持ってきてくれた差し入れのハンバーガーに舌鼓を打ちつつ、とりあえず明日までの時間ぐらいは楽しもうと明るく振る舞った。

 

「そういや遠也。海馬社長の用事ってなんだったんだ?」

「いや……大した用事でもなかったよ。顔を出してきただけさ」

 

 そんな中、十代から出てきた問いに、俺はそう答えを返して誤魔化す。

 さすがに、イリアステル云々と言っても仕方がないからな。ふーん、と十代はそれで納得してくれたようだから、助かった。

 そんな中、三沢もハンバーガーをかじりつつ会話に加わってくる。

 

「しかし、学園も一応考えてはいるんだな。遊戯さんが初めて三幻神――オシリスの天空竜と戦ったこの場所を、オシリスレッドの宿泊場所に選ぶとは……」

「あれ、三沢。なんでそのことを知ってるんだ?」

「ああ、遠也はいなかったな。双六さんの案内で、ここも紹介してもらっていたのさ」

「他にもレアハンターのエクゾディアと対戦した場所も案内したぞい」

「へー」

 

 当時遊戯さんが対戦した場所って、そんなに知られてるのか。なまじ本人を知っていてこの町に住んでると、意識しないものだな。

 

「うーん、懐かしいなぁ。あの時はまだマスターも一人じゃなかったっけ」

 

 俺たちの話を聞いていたマナが、思い出に浸るかのように目を細める。

 マナは当時から遊戯さんのデッキ、正確にはアテムという名の古代ファラオの魂と同様の人格が作ったデッキにおいての主力だった。バトルシティにおいても何度も召喚されており、誰よりも闇遊戯さんのデュエルを知る数少ない人物なのだ。

 なにより、マナにとって王様こと闇遊戯さんは切っても切れない縁を持っていた人だ。その思いもひとしおなのだろう。マハード含め、その数百年に及ぶ繋がりを否定することは誰にもできない。

 その絆の強さには、若干の嫉妬すら覚える。まぁ、気にしても仕方がないことではあるし、俺自身話に聞く闇遊戯さんは元々好きだ。どちらかというと、尊敬する気持ちの方が大きいから気にしないことにしている。

 

「そういやマナは遊戯さんの精霊だったんだっけ」

「おや、そうだったのかいマナ君」

「うん。正確には今もだけどね。正式な私のカードの所有者は変わらず遊戯くん……マスターだから」

 

 もともと俺がデュエルアカデミアに向かう時に、マナがついてきただけだからな。

 付き合いだした今ならいざ知らず、あの時の関係ではそこまで遊戯さんは考えていなかっただろう。……今度会った時に相談してみようかな、マナのこと。

 遊戯さんとマハードにはさすがに言わないといけないだろうし。やっぱり、いずれは俺が正式にマナのカードの持ち主となりたいからな。

 気恥ずかしいが、いずれは通る道だ。その時になったら覚悟を決めないとな。

 

「レインはどうだった? なんか色々回ったんだろ?」

 

 十代が今度はレインに話を振る。

 すると、マナの隣で顔を上げたレインが十代を一瞥する。

 

「……楽しかった」

「お、そうか! っていうかお前、遠也とかマナとかレイだけじゃなくて、俺たちにももっと心開いてくれよ。なんか寂しいからさ」

「……努力する」

「たはは……まぁすぐにとは言わないけどな」

 

 提案するものの、変わらず平坦に返ってきた答えに、十代は苦笑して頭をかいた。

 レインのこれは性格的なものだろうから、無理やり矯正するよりはもっと多くの人と触れ合ったほうがいいのかもしれない。レイも、だからこそ俺たちと会わせようとしていたのかもしれないな。

 そんなことを考えていると、突然三沢が小さく噴き出した。どうしたのかとそっちを見ると、三沢は笑みを浮かべたまま、口を開いた。

 

「いや、なんだな。翔と剣山がいないのが悔やまれるが、こうしていると修学旅行って感じがするじゃないか」

 

 ……言われてみれば、確かに。夜、普段は寮が違う仲間たちでこうしてメシを片手に談笑なんて、修学旅行ならではじゃないか。

 十代も同じことを思ったのか、より一層笑みを深くする。

 

「だな! んじゃあ、せっかくだ。エドも呼んで来ようぜ!」

 

 言って、その視線をこの河川敷横の堤防に向ける十代。その堤防の上には、エドが個人で所有しているものなのだろう、キャンピングカーが置かれている。

 この修学旅行についてきたエドだったが、慣れ合うつもりはないとかで個人行動していたのだが……どうやらその姿勢も今日までのようだ。

 喜び勇んで駆け出した十代の背中を見つつ、俺はバイタリティ満タンの十代に強制連行されるエドの姿を想像して合掌した。

 

「ははは、十代にかかればあのエドも可愛い後輩の一人ってことか」

「三沢、なんか実感こもってるな」

 俺がなんだかしみじみと笑う三沢にそう尋ねると、三沢は頷いた。

 

「ああ、言っていなかったか? 実はイエロー寮の代表というか、纏め役として樺山先生に抜擢されてな。後輩の世話や相談役……そういうものを最近よくしているんだ」

「そういえば、翔や剣山がそんなことを言ってたな」

 

 イエロー二年生の代表のような存在であり、よく先生から頼まれごとをされていると。つまりは、それが昇格して纏め役に任命されたということか。

 俺が頷くと、三沢は再び首肯する。

 

「今は光の結社のこともあって、新一年生には不安が広がっている。ここは俺がしっかりして、後輩を支えていかなければいけない。そう思ってやっていると、徐々に後輩にも頼りにされるようになってきてな。ああして後輩をかまう気持ちはよくわかるんだ」

「なるほどな」

 

 素直に三沢のその行動には感心させられた。

 俺と十代は斎王をどうにかしよう、光の結社を何とかしようとしか考えていなかったが、三沢はその影響を受ける下級生たちのことを最優先に考えていたのだ。

 三沢は俺たちとは違う方法で光の結社に対抗している。俺たちが気付けなかったことに気付いている、その事実に感謝と賞賛を感じるのは至極当然のことだった。

 俺はそう思って三沢にありがとうと告げるが、それに対して三沢は一度口を噤む。そして、ゆっくりともう一度口を開いた。

 

「……実をいうと、これもお前と十代のおかげだ」

「俺と十代?」

 

 いきなり神妙な顔になってそう言った三沢に、俺は怪訝に思う。

 俺たちに出来なかったことが、俺たちのおかげとはどういうことだろうか。

 

「そうだ、お前や十代は、今やアカデミアを代表するデュエリストだろう? だが、そのライバルを自称する俺は、正直に言って悔しかった。お前たちが前に進んでいるように、俺ももっと前に進みたかったが……離される一方というのが現実だった」

「三沢……俺も十代も、そんなことは思ってない。お前は今でも俺たちにとってライバルだぜ」

 

 ぐっと拳を握りこんでそう言葉を吐き出した三沢に、俺は正直な心の内を打ち明ける。

 俺たちにとって、三沢はずっと仲間であり、友達であり、ライバルである。たとえ周囲に何を言われようと、それは変わらない。

 そのことを伝えるが、しかし三沢は小さく笑って首を振った。

 

「わかってる。けど、悪いことばかりじゃなかったのさ。逆にそう思えたからこそ今の俺がある。お前たち二人の活躍に、俺は焦っていた。そんな俺に声をかけてくれたのが、樺山先生だった」

「樺山先生が?」

 

 イエロー寮の寮長であり、普段はあまり見かけることのない先生だ。ちょび髭が特徴的だった先生の顔を思い出している内に、三沢は更に言葉を続けていく。

 

「ああ。行き詰まっていた俺に、後輩の面倒を見てほしいと言ってきたんだ。……最初は、慣れずに戸惑うこともあった。だが、次第に自分が誰かのためになっているということに喜びを感じるようになってきたんだ」

 

 もともと三沢にはリーダーシップがあった。俺たちで話している時も、話題を変えたり、話に補足するのはいつも三沢で、そのたびに俺たちのことをよく見ている奴だと思ったもんだ。

 理詰めのデュエルをするからこそ、そういった観察眼に長けるようになったのだろう。そしてそれが、その人にとってベストな対応を導き出す力に繋がり、三沢はイエローの纏め役としての地位を築いたのか。

 

「そうして少しずつ俺は立ち直っていった。その時だ、光の結社が現れたのは。不安がる一年生たちを前に、俺は決意した。俺こそがイエロー寮を守るのだとな。お前たちに追いつきたいという気持ちは今もあるが、それよりも俺は後輩たちのことを考えてやりたいのさ」

「三沢……」

 

 俺が思わず感動した声音で名前を呼ぶと、三沢は照れ臭そうに頬をかいた。

 

「……なんだかすまないな、急に語ってしまって。ただ、俺の決意というか……そういうものを誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない」

「いや、聞けてよかった。……やっぱり、お前は俺たちのライバルだぜ、三沢」

 

 俺も十代も、やりたいことをやってひたすら走っているだけだ。立ち塞がるものが現れたなら、それを倒して前に進む。ただひたすら先を見て。……もっとも、その道に楽しさを感じ、充実を得ているから俺たちに不満はないが。

 しかし、俺たちのそれは言い換えれば自分勝手であり、後輩を育成することには向いていない。俺も十代も後輩という存在を可愛いとは思っているが、しかし結局「ついてこい」としか言えないのである。

 それは、十代と剣山辺りを見ればわかると思う。結局、どこまでいっても俺と十代は単純なデュエル馬鹿でしかないのかもしれない。

 しかし、その点三沢は違う。きっちりと冷静に考え、相手の身になってその力を引き出そうとしている。その不安を解消するために親身になり、彼らの支えであろうとしている。

 俺たちには、決してできないことだ。十代もまた俺と似ているところがある以上、この話を聞いたらそう思うだろう。

 俺たちに出来ないことを、やってのける。その分野では、俺たちこそ三沢を追う側だ。そう考えれば、三沢はやはり俺たちにとってのライバルと呼ぶに相応しい男だった。

 

「ほっほ。男じゃのう、三沢君。気に入ったぞい」

「うんうん、カッコいいよ三沢くん!」

「エクセレント! 君も明日香のお婿さん候補に入れてあげよう、三沢君!」

「よ、よしてくださいよ。俺はそんなに立派な奴じゃあ……」

 

 周囲からの賞賛の声に、三沢は謙遜して手を振るが、しかしそんな三沢の肩に俺は軽く手を置いた。

 

「遠也……」

「お前の受けるべき正しい評価だろ。それを受け取らない方が失礼なんじゃないか?」

 

 少しからかうような笑みを付け足してそう言ってやる。すると、三沢は少し驚いたように目を見張ったが、徐々にその顔を苦笑の形に変えて皆に向き合った。

 

「ありがとう」

 

 それだけを言い、三沢は照れ笑いを浮かべる。

 何も言わなかったレインだったが、しかしその視線は三沢を捉えており、レインはレインなりに三沢の良いところを見ていてくれることを俺は願った。

 まったくもって、俺は友達に恵まれている。そんなことを、嬉しそうに笑う三沢を見ながら俺は思うのだった。

 ……と、そこに「連れてきたぜ!」と声が聞こえてくる。十代が恐らくはかなり渋ったであろうエドを引っ張ってきたのだろう。

 そう思って全員がそちらに目を向けると、そこには十代と手を引かれているエド。そしてその後ろに続く、赤い髪の男とガタイのいい男がいた。

 ……どちら様で? そんなことを思う俺だったが、ひとまず彼らを加えて俺たちは再び焚火を囲み始めるのだった。

 その二人こそが、翔と剣山をさらった犯人の一味であることを知るのは、その数分後のことである。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ……時間は少々遡る。

 斎王の指示により彼の妹――美寿知(みずち)に会いに行っていた万丈目は、光の結社の面々が泊まる宿へと帰ってきた。

 そしてちょうど十代たちがホテルに押し入ろうとしているのを見かけ、ちょうど美寿知から伝言を頼まれていた万丈目は、探す手間が省けたと思いその場で彼らに伝えると、さっさとホテルの中へと戻っていったのである。

 後の対応は他のホワイトの人間に任せることにした万丈目は、エントランスにて明日香が立っているのを見つけた。

 

「天上院君……出迎えに来てくれたのか?」

「違うわ。あれ以上騒がしくなるようなら、私が直接手を下そうと思っていただけよ」

 

 ばっさりと切られ、万丈目は「あ、そう……」と若干の寂しさが籠った呟きを漏らす。が、当然そんなことに構う明日香ではなかった。

 部屋に戻ろうとする万丈目の横に並ぶと、明日香は「そういえば」と前置きをしてから万丈目に話しかける。

 

「あなたのデッキ……以前と変わっていないようだけど、それは何故?」

「俺のデッキ? 何を言うんだい、天上院君。わざわざデッキを変える必要はないだろう」

 

 エレベーターに乗り込みつつ、万丈目はふっと気障に笑って答える。

 一緒に乗り込んできた明日香は、ただそのことに怪訝な顔を見せるだけだった。

 

「斎王様からデッキの下賜があったはずではなかったの?」

「ああ、そういえば斎王が言ってきたこともあったが……俺には必要ないことだよ」

「あの《おジャマ》という雑魚モンスターも、必要だというの?」

「……天上院君、奴らは俺のデッキのエースだ。このデッキから抜くなど、ありえないよ」

 

 一瞬真剣な顔になった万丈目は、そう断言する。

 しかし、次の瞬間にはいつもの自信にあふれた笑みをその顔に浮かべていた。

 

「なに、俺は元々強い。心配せずとも、俺は負けないよ天上院君。はーっはっは!」

「……そう」

 

 明日香の言葉を自身への心配ゆえと受け取った万丈目は、調子に乗って胸を張る。

 そんな万丈目の高笑いが響くと同時に、エレベーターは目的の階についたことを示すベルを鳴らした。開くドアを潜り、万丈目はエレベーター内に残ったままの明日香を振り返る。

 

「まぁ、見ていてくれ。この俺の雄姿を! そして、できればその後俺とデー――」

 

 ガシャン。

 万丈目の言葉を待たず、再び閉まった扉。

 そして動き出したエレベーターの中で、明日香は万丈目の言葉を吟味する。そして、おもむろにPDAを取り出すと、外部に電話を繋いだ。

 

「……もしもし。天上院明日香です」

『これはこれは。何かありましたか?』

「いえ、ただ万丈目君の様子を見ていろというご指示についての報告を、と思いまして」

『ほう……』

 

 興味を示した電話口の相手――斎王に、明日香はつらつらと今万丈目が語った内容について先方へと報告をする。

 そしてそれを聴いた斎王は、ほう、とやはり同じ声を漏らした。

 

「いかがいたしましょう。彼には、斎王様への忠誠心が足りていないと愚考いたしますが」

『ふむ。よろしい、私が今夜にでも万丈目君を訪ねてみましょう』

「はっ」

 

 電話でありながら、明日香は恭しく首を垂れる。それこそが、斎王への忠誠心の表れと言わんばかりに。

 そんな明日香のことを知る由もない電話先にて、彼は口元を歪めて笑っていた。

 

『ふふ……万丈目君。いくら精霊の加護があり、強固な意志があろうと、君の運命は私の手の中にあるのだよ』

 

 電話の向こうで、斎王は己の手のひらを見る。そこから怪しく立ち昇る紫紺の靄がゆらりと揺れると、空間に溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 翌日。

 昨夜に十代が連れてきた二人が斎王の妹である斎王美寿知の配下であると知り、その二人――炎丸と岩丸のうち岩丸と十代は対戦した。

 炎丸は美寿知の不思議な力によって鏡に吸い込まれ、カードにされてしまったためだ。

 消去法で岩丸と対戦した十代だったが、岩丸操る《地帝グランマーグ》の力と巧みなコンボ。そして《氷帝メビウス》《雷帝ザボルグ》《炎帝テスタロス》を合わせた四帝達の最終形態とも呼べるモンスター、《デミウルゴス EMA》の登場に苦戦を強いられた。

 岩丸は、才能がない自分たちは美寿知から帝の力をもらって強くなったと言う。十代はそれを本当の力じゃないと否定するが、岩丸はそれは才能があるやつの理屈だとして十代の言葉を受け入れなかった。

 だが、十代は岩丸にデュエルを通じて示す。デュエルとは楽しいもの。負ける時もあるが、それでも前に進むことが大切なんだと。

 結果、十代は《デミウルゴス EMA》を見事打ち倒し、彼を下すことに成功する。

 岩丸は十代のそんな明るく前向きな姿勢に感じ入るところがあったようだ。自分も諦めずに立ち向かうと宣言し、十代と笑い合う。

 だがその時。デュエルを見ていた美寿知は負けた岩丸を用済みと判断したのか、炎丸と同じようにカードに封じて消してしまう。

 そして十代とエド、その二人を指名して海馬ランドにて待つと、万丈目から聞いたものと同じ伝言を受けた俺たちは、美寿知への怒りと翔たちの無事を祈りつつ、今日という日を迎えたのである。

 そして、いよいよ俺たちは美寿知が指定してきた海馬ランドに辿り着く。十代とエド、そして俺とマナにレインに三沢、双六さんまでついてきたそれなりの大所帯だ。吹雪さんは、明日香のことも気にかかると言ってそちらを優先させたようだったが、それは仕方がないというものだろう。

 まぁ、数いればいいというものでもないが、それでも何かあった時に取れる手が増えることは悪いことではない。そう考えて、俺たちは一纏めになって行動していた。

 だが、そんなことは相手もお見通しだったらしい。

 海馬ランド到着後、ヴァーチャルリアリティ施設の入口が勝手に開く。そして同時に、昨夜に聴いた美寿知の声でアナウンスが流れた。

 

『遊城十代、エド・フェニックスの二人だけ中に入って来るがよい。他の者が侵入することはまかりならぬ』

 

 さすがに、数で来られるのは避けに来たか。強行すれば、翔と剣山がどうなるか分かったものじゃない。ここはこっちが折れるしかない。

 十代もそれがわかっているのか、こっちに振り返って申し訳なさそうな顔をした。

 

「悪い、そういうことみたいだ」

「仕方ないさ。だが、勝てよ十代、エド」

 

 俺がそう言うと、十代が笑い、エドが鼻を鳴らす。

 

「へへ、もちろん!」

「ふん、当然だ」

 

 対照的な答えを返した二人は、俺たちに背を向けると互いに一度顔を見合わせる。

 

「いくぜ、エド!」

「ああ」

 

 頷き合い、二人はヴァーチャルリアリティの施設へ入っていく。そして同時に扉は閉められ、後から入っていくのは不可能となった。

 ……つまり、あとはあの二人に任せるしかなくなったわけだ。

 それを見届け、俺たちは施設の前にある階段部分に腰を下ろす。俺たちに出来るのは、十代とエドが勝って翔や剣山たちと一緒に帰ってきてくれることを祈るだけ。他に今できることは何もないからだ。

 

「十代くん、エドくん……大丈夫かな」

「大丈夫だろ、あの二人なら」

 

 共に自身のHEROに絶対の自信を持つ、恐らくこの世界のHERO使いの中ではトップに位置しているHERO使いだ。

 そして両者ともに土壇場の経験は豊富であり、下手を打たなければ負けることはないはず。マナの言葉に大丈夫だと返しつつ、俺はそう心の中で言い聞かせた。

 ……存外、ただ待つだけってのも不安を煽られて辛いもんだな。たとえ十代たちのことを信頼していても、色々と考えてしまうのが人間というものなのだ。

 それは俺以外も同じだったのか、三沢もまた少し居心地が悪そうにしている。

 

「もどかしいな。外から協力できることがあればいいんだが……」

「中のことがわからないと、援護しようがないからなぁ」

 

 下手なことをして不利にさせてしまっては目も当てられない。

 やはり、ここは大人しく二人を待っているの正解なのだろう。

 そう思って押し黙ると、双六さんが不意に声を上げた。

 

「……む、どうしたんじゃレインちゃん」

 

 レイン?

 不思議に思って顔を上げると、レインが何やら右腕を水平に持ち上げ、指先で何かを示している。

 

「……あれ」

 

 そう示す先を辿っていく。すると、そこには俺たちもよく知る人物がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

 

「万丈目?」

 

 白い制服に身を包み、左腕にはデュエルディスク。髪質が固いのかとんがった黒い髪と合わせ、万丈目本人に間違いはない。

 だが、なぜこんなところに来た? これは斎王美寿知に任せる場面ではなかったのだろうか。

 徐々に近づいてくる万丈目。そして、一定の距離を開けたところまで来ると、万丈目は斜に構えると居丈高にこちらを見下してきた。

 ……なんだ? 万丈目はこんなあからさまにこちらを蔑視するような奴じゃないはず。

 それは斎王に下っても決して変わらなかった、万丈目らしさだったはずだ。

 訝しんでいる俺に、万丈目は指を突きつけてきた。

 

「遠也、俺とデュエルだ」

「なに?」

 

 その突然の言葉に、俺は驚く。

 何故なら。

 

「俺とデュエルだって? 約束はどうしたんだ、万丈目」

 

 そう、そのことだ。

 楽しいデュエルをしよう、という俺と交わした言葉。それを万丈目は心に留めており、以降はずっと楽しいと思えるデュエルをしようと心がけていたはずだ。

 そして、だからこそ俺とのデュエルもそう思えるものでなければならない。そう言って、俺をデュエルで引き込むことに嫌悪を示していたはずだ。なのに、なぜこんな急に?

 それゆえに抱いた疑問。しかし、そんな問いを、万丈目は一蹴する。

 

「ふん、なんだそれは。それより、斎王様を信じ、仰ぎ、導いていただくことこそが至上であると、何故わからん」

「なっ……!?」

 

 その言葉に、俺たちは驚愕する。

 たとえ光の結社に入ろうとも、決して元の自分らしさまでは失っていなかったのが、万丈目という男だった。斎王のことも協力者とは呼んでも、決して自分より上だとは認めていなかった。

 それがどうして、いきなり言いなりのような信者になっているんだ。

 

「まさか、斎王の奴……」

「三沢、なにかわかるのか?」

 

 俺が横の三沢を見れば、「仮説にすぎないが……」と前置きをした後で、苦い顔をしたまま口を開く。

 

「洗脳、マインドコントロールとは、たとえ効きづらい相手でも重ね掛けすれば効果が顕著に表れると聞いたことがある。無論一概にそうとは言えないが、恐らく斎王は……」

「まさか、更に万丈目にそれを施したのか!?」

 

 恐らくは、と三沢は非常に険しい顔になり、厳しい目で万丈目を見る。

 それも当然だろう。人の人格というものを根本的に否定する、人道に反したやり方だ。もともとそうじゃないかとは思っていたが、こうまで一方的に人格が変わっているのを目撃すると、とてもじゃないがまともな人間がやることとは思えない。

 

「さぁ、どうした! 俺とデュエルしろ!」

「くっ……!」

 

 どうする。

 ここで万丈目とのデュエルを受けることは出来る。だが、果たして新たに洗脳を施された万丈目が、このデュエルで正気に戻ってくれるかどうか。それなら、恐らく俺よりも強い精霊の力を持つ十代の方が確実なのではないか。

 そんな考えがよぎり思わず躊躇するが、しかし万丈目はさぁと促してくる。

 どうするべきか。

 考えていると、不意に万丈目のデッキから声が聞こえてきた。

 

『遠也の旦那ぁ~、どうか兄貴を元に戻してやっておくれよ~』

 

 この声、おジャマ・イエローか?

 

『兄貴、斎王って奴が手をかざしたかと思うと一層変になっちゃって……。オイラたち、もう見てられないんだよ~』

『ここは旦那の力で』

『兄貴を解放してやってくれぃ!』

 

 おジャマ・グリーン、おジャマ・ブラック……。

 万丈目のデッキから聞こえてくる精霊たちの声。

 たとえ万丈目の自由意思がなくなろうと、しかしそれでもアイツのデッキの中に組み込まれている万丈目の相棒たち。

 その言葉を受けて、俺は決心した。

 たとえ意志がなくなろうと、自身の魂といえるカードたちを決してデッキから抜いていないその心。その心を俺は信じて、万丈目を倒す。

 万丈目なら、きっと自分の意志をその強い心で取り戻してくれると信じて。

 俺はデュエルディスクを左腕に着ける。

 そしてそこにデッキを差し込み、同時にオートシャッフルにより自動的に臨戦態勢へと移行された。

 

「いくのか、遠也」

「ああ、勝ってアイツの目を覚まさせてやる! そうだろ、おジャマたち!」

『お願いするよぉ、遠也の旦那~!』

『俺たちの兄貴を!』

『頼んます~!』

 

 彼らの答えに俺は任せろとばかりに頷き、デッキからカードを5枚引く。

 そして、三沢、双六さん、マナ、レインの顔を見回し、そして最後に万丈目へと向き合った。

 そこには、既に5枚のカードを持ち、万全の体勢で構える友の姿がある。

 

「万丈目! このデュエル、お前とお前の相棒のためにも負けられない!」

「ふん、何をわけがわからんことを! 斎王様の偉大さを思い知るがいい!」

 

 一片の疑いもなく断言する万丈目に、俺は最早なにも言わずただデュエルディスクの開始ボタンを押して答えた。

 

「「デュエルッ!」」

 

皆本遠也 LP:4000

万丈目準 LP:4000

 

 先攻は、俺からか。

 

「俺のターン!」

 

 カードを引き、手札に来てくれたカードを見る。俺は、その中の1枚を選び手に取った。

 

「モンスターをセット! 更にカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 始まり方としてはオーソドックスといえる。万丈目の様子を見るためにも、ここはこうすることが最善。

 だが、そんな俺に万丈目は挑発的な笑みを見せてきた。

 

「ふん、そんなことで俺に勝てると思っているのか! 俺のターン、ドロー!」

 

 万丈目は引いたカードを手札に加えると、素早くその中からカードを選びディスクに叩きつけた。

 

「《ドラゴンフライ》を召喚! バトルだ! セットモンスターに攻撃!」

 

《ドラゴンフライ》 ATK/1400 DEF/900

 

 巨大化したトンボという言葉以上に相応しい表現方法がない。そんなモンスターが現れ、その肥大化した腕に着いた鋭い鉤爪が、セットカードを襲う。

 反転して現れたのは、小さなネズミのモンスター。

 

「くっ……セットしていたのは《ボルト・ヘッジホッグ》だ。よって墓地に送られる」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 俺の場から砕け散って姿を消していくボルト・ヘッジホッグ。攻撃を止めてくれたことに感謝しながら、俺は万丈目を見据える。

 

「この程度か遠也! 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 くそ、好き放題に言ってくれる。

 

「俺のターン!」

 

 きた。これなら、先手はこちらが取れる。

 

「魔法カード《調律》を発動! デッキから《クイック・シンクロン》を手札に加え、その後デッキトップのカードを墓地に送る! 手札のモンスターを墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 墓地に落ちたのは《ダメージ・イーター》。そしてその代わりに、俺の場にはお馴染みのチューナーモンスターが降り立った。

 

《クイック・シンクロン》 ATK/700 DEF/1400

 

 テキサスのガンマンのような風体のモンスター。そしてチューナーが現れた以上、次に俺がすることは決まっている。

 

「更に、場にチューナーがいる時、ボルト・ヘッジホッグは蘇る! 来い、ボルト・ヘッジホッグ!」

 

《ボルト・ヘッジホッグ》 ATK/800 DEF/800

 

 これで、場には素材となるモンスターが全て揃った。

 そして、クイック・シンクロンは現れたルーレットを銃で撃ち抜く。撃ち抜かれたのは……ニトロ・シンクロン。

 

「レベル2ボルト・ヘッジホッグにレベル5クイック・シンクロンをチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 

 光を切り裂き、現れるのは厳つい顔をした緑色の体躯の戦士族。

 噴煙を纏いながら拳を握りこむその姿は、その筋骨隆々とした外見と相まって非常に頼もしく感じられるものだった。

 

《ニトロ・ウォリアー》 ATK/2800 DEF/1800

 

「バトル! ニトロ・ウォリアーでドラゴンフライに攻撃! 《ダイナマイト・ナックル》!」

 

 ニトロ・ウォリアーが飛び上がり、両拳を突き出す。そしてその手首から噴き出した炎が、さながらジェットエンジンのような勢いを加算させてニトロ・ウォリアーの身体を押し進める。

 加速する両拳。その直撃を受けたドラゴンフライは、抵抗すらできずに破壊された。

 

「くっ……!」

 

万丈目 LP:4000→2600

 

「だがこの瞬間、ドラゴンフライの効果発動! このカードが戦闘によって破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を特殊召喚できる! 来い、《アームド・ドラゴン LV3》!」

 

 ドラゴンフライがいなくなった代わりに現れる、アームド・ドラゴン。

 きたか、万丈目のデッキのエースの1体が。

 

《アームド・ドラゴン LV3》 ATK/1200 DEF/900

 

「ターンエンドだ!」

 

 俺はエンド宣言をし、万丈目にターンが移る。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして、万丈目の場にはアームド・ドラゴン LV3がいる。ということは。

 

「俺のスタンバイフェイズを迎えたことにより、アームド・ドラゴンは進化する! 現れろ、《アームド・ドラゴン LV5》!」

 

《アームド・ドラゴン LV5》 ATK/2400 DEF/1700

 

 アームド・ドラゴン LV3がの身体が浅黒く染まり、体格も一線を画す巨大さを手に入れる。そしてその身体には刃物にも似た鋭利な突起が生まれ、外見は比べ物にならないほど凶悪になっている。

 そして凶悪なのは外見だけではない。その効果もまた強力なのである。

 万丈目は高らかとその起動効果発動を宣言する。

 

「LV5の効果発動! 手札からモンスターカードを捨てることで、その攻撃力以下の攻撃力を持つ相手モンスター1体を破壊する! 手札の《可変機獣 ガンナー・ドラゴン》の攻撃力は2800! よってこのカードを墓地に送り、ニトロ・ウォリアーを破壊だ! 《デストロイド・パイル》!」

 

 ガンナードラゴンとニトロ・ウォリアーの攻撃力は同じく2800。攻撃力以下という条件を満たしているため、アームド・ドラゴン LV5から放たれた無数の棘は、容赦なくニトロ・ウォリアーを貫いていった。

 

「ニトロ・ウォリアー……!」

「これで貴様の場はがら空きだ! いけ、アームド・ドラゴン LV5! 《アームド・バスター》!」

 

 はっとすると、目前にアームド・ドラゴン LV5が迫っている。

 そしてその拳を振り上げると、俺に向かって一気に振り下ろした。

 

「ぐぁああッ!」

 

遠也 LP:4000→1600

 

「これで終わりじゃないぞ、遠也! リバースカードオープン! 《リビングデッドの呼び声》! 墓地の《ドラゴンフライ》を特殊召喚し、追撃だ! 喰らえッ!」

「ぐぅうッ!」

 

遠也 LP:1600→200

 

 ドラゴンフライの鉤爪による攻撃も直撃を受け、俺は思わず膝をついた。

 まだ序盤だというのに、残りライフは200ポイント……。万丈目は、本気で俺を倒そうとしている。

 

「ターンエンドだ! くくく……! 斎王様の崇高な目的を理解しないから、こうなるのだ! 遠也、お前もこの白い制服に袖を通してみろ! 生まれ変わった気分を味わえるぞ! はーっはっは!」

「はっ、冗談……!」

 

 俺はゆっくりと起き上がり、万丈目と向き合う。

 万丈目は己の演説を無碍にされたためか、その眉を潜めて不機嫌を露わにしていた。だが、そんなことは俺の知ったことではない。

 

『と、遠也の旦那~。無理はしちゃダメなのよ~』

『そうそう、兄貴が元に戻ったらきっと気に病むからさー』

『ああ見えて、兄貴って繊細だからなぁ』

 

 イエロー、グリーン、ブラックの言葉に、俺は苦笑を返した。万丈目のデッキから僅かに顔をのぞかせている精霊たちに、俺は心配するなと告げる。

 

「俺は勝つ。大丈夫だ」

「ふん、何を世迷言を! あと一息で倒れるのは貴様の方だろう! 何やらこのクズどもが何か言っていたようだが……」

 

 じろり、と万丈目の目がデッキに向けられる。その苛立った視線に、おジャマたちはさっとデッキの中へとひきこもった。

 

「そんな小細工など、光の力の前には無駄な足掻き! 貴様は斎王様の下、この世界の浄化を担う一人となるのだ! くくく、はーっはっはっは!」

 

 万丈目の高笑いを受けつつ、俺はデッキトップのカードに指をかける。万丈目は、確かに光の結社に取り込まれてしまった。

 だが、おジャマたちをデッキに入れ、そのままにしているその心を信じて俺はデュエルをするしかない。そうすることで、きっと万丈目は元に戻ってくれる。

 そう信じて、戦う。それこそが、俺が友のために出来る唯一の手段だ。

 

「負けるな、遠也!」

「踏ん張るんじゃ、遠也くん!」

 

 三沢、双六さん。二人の応援の声に、俺の指に力が入る。

 

「遠也、頑張れ!」

「……勝って」

 

 マナ、レイン。皆も、俺が勝ち、万丈目が元に戻ってくれることを願っている。

 万丈目、お前にはこうしてお前のことを思ってくれている仲間がいる。今は中で戦っているだろう十代だって、お前のことをライバルだと思っているんだ。

 皆の気持ちに応えるためにも、俺はお前に負けられない。

 

「俺の、ターン!」

 

 カードを引き、その中から素早く選んだカードをディスクに置く。

 

「モンスターをセット! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

「ふん、結局はその程度だ。俺のターン、ドロー!」

 

 万丈目は手札に来たカードをそのままディスクに差し込んだ。

 

「……《天使の施し》を発動! デッキから3枚ドローし、その後2枚を捨てる」

 

 3枚引き、その顔が実に不機嫌そうに歪む。

 

「ちっ、忌々しい。《おジャマ・イエロー》を守備表示で召喚!」

 

《おジャマ・イエロー》 ATK/0 DEF/1000

 

 そして墓地からは『いきなり捨てるなんてぇ』というグリーンとブラックの声が聞こえてくる。まさか、おジャマたちを一気に引いていたのか? それとも、1枚はすでにおジャマがあったのか……。

 それでも、各1枚ずつしか入っていないカードを一気に手札に揃えるというのは尋常じゃない。白くなっても、そのドロー力は健在ということか。

 そして場に現れたイエローは、万丈目に必死に呼びかけていた。だが、それを万丈目は一蹴する。

 

「ええい、うるさいぞザコが! 貴様らは俺がお情けで入れてやっていることを忘れるな! いつ捨てたってかまわんのだぞ!」

『そ、そんな……いつも通りだけど、ひどいわ兄貴~』

 

 ……いつも通りなのか。いや、まあ確かに普段から万丈目のおジャマたちに対する扱いはあんな感じだったかもしれないが。

 だが、それでもあそこまで冷酷な目で見てはいなかった気がする。なんだかんだ言って、いつも万丈目はおジャマたちに信頼を寄せていたようだったし。

 まして、捨てるなんてことを間違っても口にすることはなかった。

 

「手札から《レベルアップ!》を発動! これにより、アームド・ドラゴンは更なる力を得る! 現れろ、《アームド・ドラゴン LV7》!」

 

《アームド・ドラゴン LV7》 ATK/2800 DEF/1000

 

「裏側守備表示のモンスターに、アームド・ドラゴンの効果は使えない。だが、こちらには2体のモンスターがいることを忘れるな!」

 

 おジャマ・イエローもいるぞ万丈目。確かに攻撃力0だからこの状況じゃ使ってやれないのは確かだが、無視はひどくないだろうか。

 

「いけ、アームド・ドラゴン LV7! セットモンスターを攻撃! 《アームド・ヴァニッシャー》!」

 

 アームド・ドラゴンが腕ごと回転させながら、その巨体を揺らして接近してくる。この攻撃でモンスターを破壊され、そしてがら空きになったところをドラゴンフライで攻撃されれば俺は負ける。

 だが、そう簡単に負けてやるわけがない。このデュエル、必ず俺が勝つ。

 アームド・ドラゴンの攻撃が当たる瞬間、カードが反転。そしてそのモンスターは破壊されて墓地へ行く。

 俺がセットしていたのは――、

 

「《ダンディライオン》の効果発動! このカードが墓地に送られた時、自分フィールド上にレベル1で攻守0の「綿毛トークン」2体を守備表示で特殊召喚する!」

 

《綿毛トークン1》 ATK/0 DEF/0

《綿毛トークン2》 ATK/0 DEF/0

 

 タンポポの綿毛1本を巨大化させ、その綿部分にデフォルメされた顔がついたトークンが2体、現れる。

 《ダンディライオン》はレベル3で攻守300というステータスとしては弱いモンスターだ。だが、その効果は非常に強力。トークン生成は強制効果であるため、墓地に送られた時ならばいかなる場合でもタイミングを逃さずにトークンが召喚される。

 このトークンは特殊召喚されたターンにアドバンス召喚のためにリリースできないという制約があるが、次のターンまで持たせればそのデメリットも関係なくなる。

 そして、トークンは共にレベル1だ。シンクロ召喚においてこれほどのメリットはない。そのため、ダンディライオンは元の世界において制限カードに指定されていた。その強力さが窺えるというものだろう。

 この世界では十代が幼い頃にデザインしたカードの1枚であるが、そのデザイン募集を企画したのは海馬コーポレーションである。

 俺はその関係でこのカードを持っている、ということになっているのだ。

 十代にカードガンナーなどと併せて「お揃いだな!」と嬉しそうに言われて、苦笑いを返したのは記憶に新しい。

 

「ちっ、生きながらえたか。ドラゴンフライで綿毛トークンに攻撃!」

「くっ……」

 

 綿毛トークンの1体が破壊されるが、これで俺の場にはトークンが1体残った。

 メインフェイズ2にアームド・ドラゴンの効果で除去される可能性もあるが……。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 残り2枚の手札……いや、今1枚伏せたから、残り1枚か。その1枚がモンスターである可能性はなくはない。しかし、それを攻守0のモンスターにわざわざ使うかと言われると、首を傾げるだろう。

 俺のシンクロ召喚という戦術を考えれば低レベルトークンの除去には悩むところだろうが、万丈目は破壊効果を使わなかった。残り手札が1枚しかない以上、それも一つの正解だ。だが、その代わり、俺にはチャンスが来たことになる。

 

「俺のターン!」

 

 ……よし! きたか、このカードが。

 

「俺はチューナーモンスター《デブリ・ドラゴン》を召喚!」

 

《デブリ・ドラゴン》 ATK/1000 DEF/2000

 

 スターダスト・ドラゴンを小さくしたようなドラゴン族モンスター。こいつもまた、元の世界では制限カードに指定されているモンスターだ。

 数々の制約を持つ効果モンスターだが、それでもその効果が非常に優秀だったためだ。

 

「デブリ・ドラゴンの効果発動! このカードの召喚に成功した時、墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を特殊召喚することが出来る! ただし、そのモンスターの効果は無効化される! 蘇れ、《ダンディライオン》!」

 

《ダンディライオン》 ATK/300 DEF/300

 

 ポン、と俺の場に現れるのは、タンポポをライオンに見立ててぬいぐるみ化したような可愛らしいモンスター。顔つきがちょっと生意気な感じだが、頼りになるモンスターだ。

 

「いくぞ、万丈目! レベル1綿毛トークンとレベル3ダンディライオンに、レベル4デブリ・ドラゴンをチューニング!」

 

 デブリドラゴンが4つの星となって飛び立ち、それは輪を描いてリングを作る。そして、その中をくぐるのはダンディライオンと綿毛トークンの2体。それぞれ3つと1つ、計4つの星となって輝きを放つ。

 デブリ・ドラゴンは、シンクロ召喚の素材とする場合にドラゴン族のシンクロにしか使えない。また、他の素材はレベル4以外のモンスターでなければならないと、多くの制約がある。

 だが、その条件もすべてクリアしているこの状況ならば、問題なくシンクロ召喚を行える。

 合計のレベルは8。呼ぶのは当然、このデッキのエースモンスター。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

 光の粒子を身に纏い、それをさながら降雨のようにフィールドに舞い散らせながら、白銀のドラゴンは現れた。

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 更に、これで終わりではない。シンクロ素材とはいえ墓地に送られた以上、ダンディライオンの効果が発生する。

 

「そして墓地に送られたダンディライオンの効果発動! 俺の場に綿毛トークン2体を守備表示で特殊召喚する!」

 

《綿毛トークン1》 ATK/0 DEF/0

《綿毛トークン2》 ATK/0 DEF/0

 

「ターンエンドだ」

 

 場にはスターダストにトークン2体、そして伏せカードが2枚。

 さぁ、来るなら来い万丈目。このデュエル、必ず勝ってお前を正気に戻してみせる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 カードを引き、手札に加え、万丈目は俺の場を睥睨した。

 

「ふん、スターダストの効果は知っている! ならば破壊効果を使わずに戦闘破壊すればいいだけのことだ! いけ、アームド・ドラゴン LV7! スターダスト・ドラゴンに攻撃! 《アームド・ヴァニッシャー》!」

 

 スターダストをわずかに上回る巨躯。その黒い山のような身体を揺らしながら、アームド・ドラゴンが迫ってくる。

 向こうの攻撃力は2800とスターダストより300ポイント高い。これが通れば俺が負けるのは必至。だが、そうくることこそが俺の狙いだった。

 

「それを待ってたぜ、万丈目!」

「なに!?」

 

 驚きの声を上げる万丈目を前に、俺は伏せカードの1枚を発動させる。

 

「罠発動、《シンクロン・リフレクト》! このカードは、俺の場のシンクロモンスターが攻撃対象になった時に発動できる! その攻撃を無効にし、相手のモンスター1体を破壊する!」

「な、なんだとぉッ!?」

「俺が選択するのは当然、アームド・ドラゴン LV7だ!」

 

 指を差し、こちらに向かってきていたアームド・ドラゴンに狙いを定める。

 スターダストの前に現れた薄いバリアのような膜を見て、後ろの三沢から思わずといった様子で俺の回生の切っ掛けを喜ぶ声が聞こえてくる。

 

「よし! これであの厄介なアームド・ドラゴンはいなくなる! 遠也が有利になったぞ!」

 

 だが、それも束の間。驚きの表情を浮かべていた万丈目の顔は、次第に余裕を持った笑みへと変化していっていたのだ。

 

「くくく……甘い、甘いぞ遠也! カウンター罠《盗賊の七つ道具》を発動! ライフポイントを1000払い、罠カードの発動を無効にし、破壊する!」

 

万丈目 LP:2600→1600

 

 万丈目の場に立体化された十徳ナイフのようなそれが飛び出し、スターダストの前に張られていた膜を切り裂いてしまう。

 バリアは消え去り、スターダストは再び剥き出しの生身を晒すこととなってしまった。

 

「そんな! これじゃせっかく出したスターダスト・ドラゴンが……!」

 

 マナの声に含まれた諦観を感じ取ったのか、万丈目は得意げに笑って俺を見た。

 

「カウンター罠はスペルスピード最速のカード! これで貴様にはもう何も出来まい!」

 

 カウンター罠のスペルスピードは3。つまり、同じカウンター罠でしか対処できない最速のカードだ。

 俺の場に伏せてあるもう1枚のカードはカウンター罠ではない。……だが、なにもカウンター罠そのものに対抗する必要はない。

 だから、俺は不敵に笑って万丈目に応えた。

 

「それはどうかな」

「なに!?」

「確かにカウンター罠に対しては何もできない。だが、ダメージステップに入る前に、俺にはクイックエフェクトを発動する機会がある。そして、俺がこのデュエルで最初に伏せたこのカードは、フリーチェーンのカードだ」

 

 ゆえに、この瞬間に1度だけ俺はこのカードを発動する機会を得ている。俺はデュエルディスクを操作し、その伏せカードが起き上がらせる。

 その瞬間、俺は高らかに宣言した。

 

「罠発動! 《バスター・モード》!」

「バスター・モード!? なんだ、それは!?」

「このカードは、自分フィールド上に存在するシンクロモンスター1体をリリースして発動する! リリースしたシンクロモンスターの名前が含まれる「(スラッシュ)バスター」と名のついたモンスター1体をデッキから特殊召喚する!」

 

 俺のディスクのオートシャッフル機能が働き、デッキから1枚のカードがせり出される。それを手に取り、俺は勢いよくディスクにカードを叩きつけた。

 

「更なる進化を遂げて飛翔せよ! 《スターダスト・ドラゴン(スラッシュ)バスター》!」

 

 スターダスト・ドラゴンが光に包まれる。

 そしてその光は、やがてスターダストの身体の随所にて青い輝きとなって集束し、徐々に形を成していった。

 手甲、鎧、脛当て、それらの青い光を放つ装備を纏ったスターダストは、大きく鳴き声を上げると空に飛び上がり、その雄々しい姿を俺たちに見せつけた。

 

《スターダスト・ドラゴン/バスター》 ATK/3000 DEF/2500

 

「攻撃力3000だと!? ちっ、攻撃は中止! ドラゴンフライを守備表示に変更し、ターンエンドだ!」

 

 モンスターの数に変動はないが、モンスターの種類が変わったことで巻き戻しが発生する。攻撃力で敵わないアームド・ドラゴンでそのまま攻撃してくるはずもなく、万丈目は守備を固めてターンを終えた。

 

「俺のターン!」

 

 引いたカードを見る。そして、俺は手札から1枚のカードを場に出した。

 

「俺はチューナーモンスター《音響戦士(サウンドウォリアー)ベーシス》を召喚! そしてその効果発動! 場の「音響戦士」と名のつくモンスター1体のレベルを手札のカードの枚数分アップする! 俺の手札は2枚! よってベーシスのレベルが1から3にアップ!」

 

音響戦士(サウンドウォリアー)ベーシス》 ATK/600 DEF/400

 

 なかなか便利なレベル変動効果を持つレベル1チューナーだ。個人的にはウォリアーの名が入っていることも、好みの問題ではあるがプラスポイントである。

 

「レベル1綿毛トークン2体にレベル3となった音響戦士ベーシスをチューニング! 集いし英知が、未踏の未来を指し示す。光差す道となれ! シンクロ召喚! 導け、《TG(テック・ジーナス) ハイパー・ライブラリアン》!」

 

《TG ハイパー・ライブラリアン》 ATK/2400 DEF/1800

 

 これで俺の場には2体のモンスターが並ぶ。ここから反撃開始だ。

 

「バトル! スターダスト・ドラゴン/バスターでアームド・ドラゴン LV7に攻撃! 《アサルト・ソニック・バーン》!」

 

 スターダストと同じく、口に集められた真空が砲弾となって放たれる。そこに青色が混ざっていることが違いと言えばそうだろうか。

 そしてそれはアームド・ドラゴンに直撃し、爆発と共にその姿を消し去った。

 

「ぐぅうッ!」

 

万丈目 LP:1600→1400

 

「更にライブラリアンでドラゴンフライを攻撃! 《マシンナイズ・リーダー》!」

 

 ライブラリアンの攻撃も問題なく通り、ドラゴンフライは破壊される。

 

「ドラゴンフライの効果発動! このカードが戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスター1体を特殊召喚できる! 俺はデッキから――」

「無駄だ! 後続は出させない! スターダスト・ドラゴン/バスターの効果発動! 魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースすることでその発動を無効にし、破壊する!」

「なんだとッ!? 破壊効果以外にも対応するというのか!?」

 

 しかも墓地発動のリクルーターであっても潰すことが出来る。このカードはフィールド制圧能力という意味ではトップクラスに位置するカードなのだ。

 そのぶん出しづらく、事故要素が増えるために採用する時にはかなり気を使わなければならなくなるが……。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド! そしてこの瞬間、自身の効果で墓地に送られたスターダストはフィールドに戻る。再び飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン/バスター!」

 

《スターダスト・ドラゴン/バスター》 ATK/3000 DEF/2500

 

 再度俺の場に現れたスターダスト/バスターを見て、万丈目は忌々しげに唇を噛んだ。

 そして、それを見ていた三沢も驚きに目を見張り声を上げた。

 

「なんて強力な効果だ! これが進化したスターダスト・ドラゴンの力……!」

 

 その率直な評価を聴きつつ、万丈目は苛立たしげに勢いよくデッキからカードを引く。

 

「……俺のターンだ! ドロー!」

 

 その余裕のない万丈目を見て、場のおジャマ・イエローが思わずといった様子で万丈目を振り返る。

 

『あ、兄貴~、大丈夫なの~?』

 

 その声に激情したのか、万丈目は声を荒げた。

 

「黙っていろ、貴様ッ! ……くそっ、どうにか奴に勝つ! 勝たなければ、斎王様の顔に泥を塗ることに……! 貴様ら雑魚の手など借りずとも、俺の力で勝ってみせるッ!」

 

 そんな声を上げつつ、手札のカードを血走った眼で見ている。本当に余裕がない、その姿。かつてお兄さんたちのプレッシャーを受けていた時ですら見たことのない、万丈目らしくない姿である。

 そんな姿を見せられ、俺はどうしても言わなければらないような気がして、気が付けば口を開いていた。

 

「……なぁ、万丈目」

「なんだ! 待っていろ、貴様の有利などただの幻想であったと今からこの俺が証明して――」

「お前、今デュエルしていて楽しいのか?」

 

 瞬間、万丈目の身体が硬直した。

 

「――な、に……?」

「どうなんだ。楽しいのか?」

 

 もう一度、同じ問いを発する。

 それに万丈目は一瞬呆けていたようだが、すぐに表情を取り繕って、精一杯こちらを小馬鹿にしたような笑みを見せてきた。

 

「何を、馬鹿なことを。このデュエルは斎王様に任せられた名誉ある任務だ。それを誇りに思わないわけが――」

 

 やはり、か。ここでも万丈目は斎王、斎王と。かつてはたとえ斎王の下にいっても、万丈目は自分らしさを持っていた。それでこそ万丈目だと、敵対する立場になりながらも俺は自信を持ってそう言えていた。

 それが、今はどうだ。斎王に縋り、阿り、まるで万丈目らしさが感じられない。こうまで自分を見失ってしまっている万丈目が悲しく思えて、思わず詰問する声にも熱が入る。

 

「そんなことを訊いてるんじゃない! 俺はおまえ自身が楽しいと思えているのか訊いてるんだ!」

 

 それがどうしてわからない。

 そんな気持ちを乗せて吐き出した言葉に、面食らったような顔を見せる。しかしすぐに再び嘲るかのような笑みを見せようとする。が、突然万丈目はその顔を苦痛に歪ませ始めた。

 

「……な、なにを……ッ、なんだ、頭が痛い……!」

『あ、兄貴!?』

 

 万丈目は手で頭を押さえて膝をつく。その姿におジャマ・イエローは心配そうに寄り添う。

 それを、万丈目は振り払うこともしない。それほどまでに頭痛がひどいのか。心配になるが、しかしこれは洗脳を解くチャンスなのかもしれないと思うと、言葉をかけることを止めることは出来なかった。

 

「思い出せよ! お前は、斎王なんかに操られるほど弱い奴じゃなかっただろ! いつも自信満々で、自分を誇りに思ってて……今みたいに全部他人任せにする奴じゃなかったはずだ!」

「グッ……黙れ、黙れぇ!」

 

 痛みに顔を歪めながら、万丈目は冷や汗を飛ばして頭を振る。

 その痛々しい姿に気持ちも揺らぐが、しかし俺の背後から更なる声が万丈目に届けられる。

 

「そうだ、万丈目! お前のその常に自分を信じる姿勢に、俺は憧れすら抱いていた!」

「万丈目くん! 十代くんや遠也とデュエルしてた時を思い出して!」

 

 三沢とマナ。万丈目をよく知る二人もまた、今の万丈目の姿には耐えかねるものがあったのだろう。

 たとえ苦しくても、きっとこれを乗り越えれば元の万丈目に戻ってくれる。

 そう信じて、二人は万丈目に声をかけたのだ。

 そして、そう信じているのは俺や三沢やマナだけじゃない。

 

『そうよ、兄貴! みんな、元の兄貴が大好きなのよ~!』

『そうだそうだ!』

『俺たちもそっちの方がいい!』

 

 おジャマ・イエロー。そして、墓地に行っているはずのおジャマ・グリーン、おジャマ・ブラック。その3体も万丈目の下へと集まって必死に言葉をかけていた。

 その姿を視界に収め、万丈目は喰いしばった歯の奥から声を漏らす。

 

「ぐぅ……、お、お前たち……!」

「万丈目! 俺とお前のデュエルがこんなものであっていいはずがない! だから……だから、もっと楽しいデュエルをしようぜ!」

 

 俺は精一杯の気持ちを込めて、そう大きな声で万丈目に呼びかける。

 俺たちがかつて行ったデュエル。その後に交わした言葉。それを、いつまでも覚えていてくれた万丈目なら、きっと応えてくれる。

 そう信じて。

 

 そして、そんな皆の声を受けた万丈目は、一気に目を見開いて立ち上がった。

 

「と、遠也――……ッ! ――そう、そうだ。……俺は、何故斎王なんかに。この服も……何故好き好んでこんな白一色なんて悪趣味な服を! ええい、着替えがないのが忌々しい!」

 

 立ち上がった万丈目は、自分が来ている服をつまんで引っ張ると、気色悪そうに身をよじった。

 その姿に、俺は湧き上がる期待を隠せない。

 

「万丈目! お前……!」

「ん? なぜ俺とお前がデュエルをしているんだ!? しかもここは海馬ランドじゃないか! 俺はホワイトのホテルにいたはずだぞ! くっ、斎王に操られていた時のことを思うと腹が立って仕方がない……!」

「お前、今までのこと覚えてないのか?」

「俺が奴の操り人形にされそうだったことは覚えている! まったく、何が協力者だ。昨日までの自分を殴り倒してやりたい気分だ!」

 

 いや、今のデュエルのことを訊いたんだが……。

 しかし、ともあれ万丈目はどうやら正気を取り戻したようだった。

 思わず、俺は喜びのままに万丈目の名前を呼んだ。

 

「……万丈目!」

『うわ~ん、兄貴が元に戻った~!』

『よかった~!』

『それでこそ兄貴だ~!』

 

 俺の声に続き、おジャマたちも涙を流して万丈目の復帰を喜ぶ。

 だが、万丈目はそんなおジャマたちを一瞥すると、溜め息をついて右腕を天に掲げた。

 

「泣くな貴様ら、鬱陶しい! この俺を誰だと思っている! 俺の名は! 一、十!」

 

 掲げた右手の指が1本、2本と立てられる。

 その調子のいいお決まりの台詞に、万丈目の復帰を喜ぶ三沢とマナが笑顔で乗っかった。

 

「百!」

「千!」

 

 そんな二人の声を受けて、万丈目は満足げに笑うと決めポーズをとった。

 

「万丈目サンダー!」

『うおーい、おぃおぃ! サンダーぁ~!』

『やったー! 兄貴が帰ってきた~!』

『サンダー! サンダー!』

 

 結局泣いているイエローと、はしゃぎ回るグリーンとブラック。

 その姿を見つつ、万丈目はポーズを解くと俺と向かい合った。

 

「ふん。手間をかけさせたようだな、遠也」

「気にするなよ。友達のためだ」

「ちっ……相変わらず恥ずかしい奴め。まぁいい。それより、デュエルの続きだ」

 

 そう言って、万丈目はディスクを構えてさっきの騒動で落としてしまったカードを拾うと手札として持つ。

 その姿に、おジャマたちが騒ぎ出した。

 

『えぇ!? 兄貴、もう遠也の旦那と戦う理由はないんじゃ!?』

『そうだよぉ、兄貴~。旦那は兄貴のことを助けるために力を貸してくれたんだよ~?』

『兄貴も休んだほうが、ねぇ』

 

 おジャマたちがそう言うと、万丈目はくわっと目を開いて怒鳴りつけた。

 

「うるさーい! 特にお前ら2体は墓地から来たな! さっさと戻らんか!」

『うわーん、いつもの兄貴だ~!』

『恐怖政治はんたーい!』

 

 グリーンとブラックはそんな言葉を残しつつ、墓地へと戻っていく。これで、万丈目の場には守備表示のおジャマ・イエローが残るだけとなったわけだ。

 おジャマ・イエローは唯一万丈目のフィールドに残ったことに不安を覚えるのか、恐る恐る万丈目を振り返った。

 

『あ、兄貴ぃ~……』

「情けない顔をするな、みっともない。お前たちは俺のデッキのエースなんだ。それに恥じない働きをしろ」

『え、エース……!? お、オイラたちのことを、兄貴がそんな風に思ってくれていたなんて……』

 

 イエローは感動に打ち震え、涙を目に溜める。恐らくは、常に弱小、雑魚、と評価されてきたであろうおジャマたち。暗い井戸に捨てられていたことからも、そのことが窺い知れる。

 だが、ここにきておジャマたちはついに自分たちの真価を引き出してくれる男に出会えたのだ。さんざん馬鹿にされ、誰からも評価されなかった自分たちを、エースとまで呼んでくれる。

 そのことに、喜びを覚えないはずがなかったのだ。

 

「いくぞ、遠也! たとえ切っ掛けがどうであれ、一度始めたデュエルを途中で投げ出すなど、俺のデュエリストとしてのプライドが許さん!」

「ああ! 受けて立つぜ、万丈目!」

「ディスクを見るに、ターンは俺のメインフェイズからだな。よし、俺は手札から《生還の宝札》を発動! 墓地からの特殊召喚に成功するたびに俺はデッキからカードを1枚ドローする!」

 

 手札補充か。ここで逆転の一手を引かれると痛い。ならば、ここで確実にそれを潰す。俺もまた全力を尽くして万丈目と相対するために。

 

「この瞬間、スターダスト・ドラゴン/バスターの効果発動! 魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースすることでその発動を無効にし、破壊する! 輝け、スターダスト!」

「なに……! 破壊効果以外にも発動できるだと!?」

 

 そうか、万丈目はさっきまでの記憶がないんだ。スターダスト・ドラゴン/バスターの効果を覚えていなかったのか。

 さぁ、どうする万丈目。

 

「くっ……ならば《死者蘇生》を発動! 墓地の《おジャマ・グリーン》を特殊召喚!」

『いえーい!』

 

《おジャマ・グリーン》 ATK/0 DEF/1000

 

「更に《流転の宝札》を発動! デッキからカードを2枚ドローし、俺はターンの終了時に手札1枚を捨てるかライフ3000を払わなければならない」

 

 今度はOCG化していない宝札シリーズの1枚だと!? 生還の宝札を使った以上、残りの2枚は全て蘇生カードだと張っていたのだが……判断をミスったか? スターダストの効果を早く使いすぎたかもしれない。

 

「ドロー! よし、《早すぎた埋葬》を発動! ライフを800ポイント支払い、墓地のモンスターを特殊召喚してこのカードを装備する! 来い、《おジャマ・ブラック》!」

『どうもどうも~』

 

万丈目 LP:1400→600

 

《おジャマ・ブラック》 ATK/0 DEF/1000

 

「更に《強欲な壺》を発動! デッキからカードを2枚ドローする!」

 

 ここで蘇生カードと強欲な壺だと!? 一体どういう引きをしてやがる!

 

「くっ……ならここでリバースカードオープン! 《リビングデッドの呼び声》! 墓地の《スターダスト・ドラゴン》を特殊召喚する! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000

 

 この土壇場で信じられないドロー加速だ。まるで十代を思わせるプレイング。ならば、ここで必ず万丈目はあのおジャマたちにとってのキーカードを引いてくるはず。それを見越してのスターダストである。

 

「――ドローッ!」

 

 2枚のカードを万丈目が引く。

 その手札を確認し、万丈目は笑みと共にその中の1枚をディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード《おジャマ・デルタハリケーン!!》を発動! 俺のフィールドに「おジャマ・イエロー」「おジャマ・グリーン」「おジャマ・ブラック」が存在する場合、相手フィールド上のカードを全て破壊する!」

 

 やはり、引いてきたか。

 ここまでくると感心する。これこそ精霊との結びつきが可能にした、万丈目とおジャマとの絆の証なのかもしれない。

 万丈目たちの間に存在する確かな信頼を感じていると、万丈目は腕を振り上げ、自身の場の相棒たちに指示を出した。

 

「いけ、おジャマたちよ!」

『これが!』

『オイラたちの!』

『必殺技!』

 

 3体が飛び上がり、空中で互いの尻を密着させ、やがてぐるぐると回りだす。

 その回転はもはや3体をそれぞれ確認できないほどの高速となり、もはや巨大な輪っかとなっていた。そして、輪っかが俺のフィールド上空に移動してくると……一気に襲い掛かった。

 

『『『おジャマ・デルタハリケーン!!』』』

 

 その輪っかは俺のフィールド上全てを囲むかのように広がっていく。これを受けると、俺の場はがら空きとなってしまう。

 そして万丈目の手に残った1枚のカード。あれが例えばモンスターの攻守を逆転させるような効果の魔法カードだった場合、俺の負けが確定する。

 負けるわけにはいかない。その意地ゆえに、俺は叫んだ。

 

「それを通すわけにはいかない! スターダスト・ドラゴンの効果発動! このカードをリリースすることで、フィールド上のカードを破壊する魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する! 《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」

 

 甲高い鳴き声を上げながら、スターダストはその身を光と同化させて消えていく。そして同じく、万丈目の場に現れていた《おジャマ・デルタハリケーン!!》のカードもまたゆっくりと消えていくのだった。

 スターダストを事前に召喚しておいてよかった。これで万丈目の思惑を崩すことが出来たはず。そう思って万丈目を見ると、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「かかったな、遠也! お前がスターダストを復活させてくることは読んでいた! 俺は《おジャマ・イエロー》を攻撃表示に変更! 更に《強制転移》を発動! 俺の場のおジャマ・イエローとお前の場のライブラリアンを入れ替える!」

「な、なんだと!?」

 

 手札最後の1枚はそれか! もし俺の場が空になっても、万丈目に決め手はなかったわけだ。完全にしてやられた!

 俺の場のモンスターは攻撃力2400のライブラリアンのみ。攻撃力0のおジャマと入れ替わったら……!

 

『痛いのは嫌だけど……兄貴のためなら、オイラはたとえ火の中水の中!』

 

 いじらしいことを言いつつ、おジャマ・イエローが俺の場に向かって来た。

 そして俺の場には攻撃表示のおジャマ・イエローが。そして万丈目の場にはライブラリアンが立つことになった。

 互いの攻撃力差は2400にも及ぶ。俺の残りライフは僅か200、このまま攻撃を受ければ俺の負けだ。

 

「これで終わりだ、遠也! ライブラリアンでおジャマ・イエローに攻撃! 《マシンナイズ・リーダー》!」

 

 ライブラリアンがおジャマ・イエローに迫る。おジャマ・イエローはその小さな腕を交差させ、来る衝撃に備えようと目を閉じていた。

 万丈目のために身を削り、勝利に貢献しようというその姿勢には胸を打たれる。

 その気持ちを汲んでやりたいとも思う。――だが、俺とてわざと負けるわけにもいかない。何故なら、デュエリストの誇りを万丈目は語ったのだ。ならば、こちらも全力を尽くすのが相手への礼儀に他ならない。

 俺の場に1枚だけ残った伏せカード。それを俺は発動させた。

 

「――罠発動、《くず鉄のかかし》! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、このカードは再びセットされる!」

 

 伏せカードが起き上がり、そこから現れるのは寄せ集めの鉄材で組まれたかかし。そのかかしはおジャマ・イエローの前に立ち塞がり、ライブラリアンの攻撃からイエローを守る。その後、ゆっくりとカードに戻ると再び場にセットされた。

 カードに戻ったかかしを見送ったイエローが驚いた顔でこちらを見る。そして、万丈目はイエローが無傷でいる姿に、どこか安堵を覚えたようなそんな顔をしていた。

 万丈目の場にはまだ2体のモンスターがいる。だが、それは共に攻撃力0のおジャマたちだ。そして伏せカードもなく、手札は0。

 万丈目に出来ることは、もう何もない。

 自分でもそれがわかっているのだろう。万丈目は一度目を閉じ、口を開いた。

 

「……ターンエンド。そしてこの瞬間、俺は流転の宝札の効果を選択する。手札のカード1枚を捨てるか、ライフ3000を支払うか。……だが、俺に手札はない。よって、俺は3000のライフを支払う」

 

 万丈目の残りライフは600ポイント。

 つまりそれは、万丈目の敗北が決定した瞬間でもあった。

 

万丈目 LP:600→0

 

 同時に俺の場にはライブラリアンが戻ってくる。だが、デュエルは既に決した。ライブラリアンはやがて空気に紛れるかのようにその身を薄めていき、消えて行った。

 ソリッドビジョンが解除され、残るのは精霊となっているおジャマたちだけだ。結局最後まで場に残り続けたおジャマたち。それは、万丈目の彼らに対する思いがそうさせたのかもしれなかった。

 

『兄貴……』

 

 俺の場にいたイエローが万丈目の下へと帰っていく。それを迎え入れた万丈目は、おジャマたちのカードを大切そうにデッキに戻すと、立ち上がって俺と向かい合った。

 俺もまた万丈目に歩み寄り、近くからその目を見据える。

 

「危なかった。あの時使ったカードが《流転の宝札》じゃなかったら、やられていたのは俺だったかもしれない」

 

 これは本心だった。もしそれ以外のカードで手札を補充されていた場合、防ぎきれた自信はない。今日ほど万丈目とデュエルして負けを覚悟した時はなかった。

 俺の言葉が世辞ではなく本心からのものだとわかったのだろう、万丈目は満更でもなさそうに鼻を鳴らした。

 

「ふん、次こそは勝つ。首を洗って待っているんだな、遠也」

『兄貴、一応旦那は兄貴を助けてくれた恩人なんだからさぁ~』

「ええい、うるさい!」

 

 万丈目がおジャマ・イエローの言葉に拳を振り上げて迫る。しかし、それも冗談交じりのものだったようで、すぐにその拳を下ろすと、再び万丈目は俺と向き合った。

 

「……迷惑をかけたな」

「気にすんなって」

 

 そう言って俺が手の平を掲げると、一瞬瞠目したあとに万丈目は自身のそれを俺の手に合わせる。

 パンと高い音を鳴らしたソレを合図に、三沢やマナ、双六さんにレインも俺たちの元に集まってくる。

 そして同時にヴァーチャル・リアリティ施設の扉も開き、そこから十代とエド、翔と剣山も姿を現す。出てきた十代たちは俺たちを見つけ、そしてその中に万丈目も加わっていることを確認すると、大きく目を見開いた。

 

「あれ、万丈目!? 何でお前がここにいるんだ!?」

「さんだ! 何度言ったらわかる!」

 

 そんな懐かしいやり取りを交わしつつ、「なんだよ、お前元に戻ってるじゃん!」と十代に絡まれる万丈目。

 鬱陶しそうにしながらも、自分のことで心底喜んでいる十代を無碍にしづらいのか、万丈目は文句を言うだけに留まっていた。

 だが、十代の様子が必要以上に明るいのが気になる。俺はエドに近づいて顔を寄せた。

 

「……何かあったのか?」

「斎王の妹、美寿知がヴァーチャルリアリティの世界に閉じ込められたまま、出てこないんだ。僕も、さすがに気が重い」

 

 その言葉に施設を振り返ると、中から四人の男たちが出てくるのが見えた。うち二人は岩丸と炎丸で間違いない。ということは、あとの二人が氷丸と雷丸。ともに美寿知の配下だった四人か。

 だが、その中に美寿知の姿はない。本当にこの施設の中にいるというのか。

 

「ただ、死んだわけじゃない。この施設のどこかで眠り続けているはずだ」

 

 エドの沈痛そうな顔を見て、俺は十代がはしゃいでいる理由を知る。ああして、少しでも暗い気持ちを紛らわせようとしているのだろう。気持ちはわかるような気がした。

 だから、俺は全員に聞こえるように声を出す。

 

「話は聞いた。美寿知のことは俺から海馬さんに働きかけてみる」

 

 それに、十代や翔たちが反応する。俺が昨日、海馬さんと電話していたのを知っているからだろう。

 

「ああ、悪いな遠也。……頼む」

 

 真剣な顔になって言った十代に、俺も真剣に応えた。

 

「任せろ」

 

 俺たちがそうして頷き合うと、双六さんがパンパンと手を叩いて自身に注目を集めた。

 

「さぁ! これで事件はひと段落じゃ! 落ち込んでばかりいても始まらん。一度きりの修学旅行なんじゃ、残りの時間を目一杯楽しみなさい」

 

 そうして、双六さんは俺に目を向けてきた。

 

「遠也くんも。海馬くんへの連絡はワシに任せておきなさい。友達との時間も大切じゃぞ」

「双六さん……。わかりました、お願いします」

 

 俺が頭を下げると、皆もならって頭を下げる。

 人一人の命がかかっていることだ。皆も翔や剣山から話を聞いたようで、事の重さを感じてのことだろう。たとえひどいことをした美寿知であっても、命の重さは変わらない。

 俺たち揃っての嘆願を受けて、双六さんも大きく頷く。任せておきなさい、と静かに返された答えに俺たちは安堵し、これからの時間は修学旅行を楽しむために使おうと決めるのだった。

 万丈目も元に戻ったことだし、悪いことばかりじゃない。十代たちと共に海馬ランドを離れつつ、俺はこれからの時間をどう使おうかと、心を躍らせる。

 今だけは、余計なことを考えずに修学旅行を楽しもう。難しそうな顔をしている十代の肩を叩き、そう告げる。自分に言い聞かせていることでもあったが、効果はあったようで、十代は「ああ」と笑顔を見せて頷いた。

 トラブル続きの修学旅行になってしまったが、もうまったく時間がないというわけでもない。せめて残りの時間ぐらいは楽しんだって罰は当たらないはずだ。

 俺は努めて明るくそう考えると、皆を誘い、どこに行こうかと相談を始める。

 人生で一度の高校での修学旅行だ。万丈目も加わったことだし、楽しめるだけ楽しまないと損ってものだ。

 双六さんを送るために亀のゲーム屋へと戻った俺たちは、その奥の一室を借りて何をしようかと相談をする。残りの時間は少ないが、その中で出来ることを皆でテーブルを囲んで話す時間は、なかなかに楽しかった。

 今回の修学旅行はこうして時間が切迫してしまったが、いずれ違う形で皆と旅行に行くというのもいいかもしれないな。

 笑い合って意見を言い合う皆の姿を見る。色々あったけど、こういうのも俺たちらしくていいのかもしれないな。

 そう思って小さく噴き出しつつ、俺もまた彼らの会話に加わるべく口を開くのだった。

 

 

 

 


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