間話 休み-日常-
アカデミアで過ごす一年が過ぎ、新学期まで少々長い休み期間となった。
海外の学校のようなスケジュールを採用するアカデミアは、10月からが新学期となる。そのため、アカデミアにおける夏休みは、そのまま来学年への準備期間でもあるのだった。
要するに、この期間にしっかり予習と復習に励み、来学年では去年以上に勉学にいそしみなさい、ということだ。
だがしかし。夏休み、夏休みである(大切なことなので二回言いました)。
せっかくの超大型連休に真面目に来学年の準備などしている生徒は少数……いや、もしかしたらいないかもしれない。
何が悲しくて花の高校生が休みの間まで勉強せにゃならんのだ。そんなことより遊びに行こうぜ! となるのは至極自然な流れである。
そして、そんな全国の学生諸君の例に漏れず。
本土に戻って来た俺もまた、自宅でダラダラと過ごしているのだった。
「はーい、お待たせ遠也! 冷やし中華の完成だよー!」
「おー。サンキュー、マナ」
リビングでテレビをつけたままソファに背を預けて両足を伸ばしている俺は、まさしく脱力という言葉を体現したかのような存在だ。
そんな俺の前に立ったマナが、両手に持った二枚のお皿をコトリとテーブルに置く。食卓ではなくここに持ってきたあたり、マナも俺のことがよくわかっている。
だがしかし、それでも今の俺の状態は目に余るのか。マナはつけていたエプロンを外しながら俺に苦言を呈した。
「覇気のない返事だなぁ、もう。クーラーも効いているんだし、そんなにダラけなくてもいいんじゃない?」
「あー……まぁ確かに。ちょっと気分に浸っているところはあったかも」
こう、夏なんだからダラけたほうがらしいじゃん? そんなことを言いつつ身を起こして座りなおすと、エプロンをソファに置いたマナが俺の横に座って苦笑する。
「なにそれ、変なのー」
それに「うっさい」と返しつつ、同時に手をパシンと合わせて、いただきます。
マナお手製の冷やし中華を口に運び、俺たちはしばし無言で食事に専念した。
「……そういえば、遠也」
「んー?」
チュルチュルと麺をすすりながら、呼びかけに相槌を打つ。
そのまま口の中で麺を咀嚼している俺に、マナが言葉を続けてきた。
「昨日、杏子ちゃんから聞いたんだけどね。この近くに新しい個人経営のカードショップが出来たらしいよ」
「へぇ……この童実野町で新規オープンなんて、豪気だな」
口の中の麺を飲み込んでから、素直な感想を述べる。
ここ童実野町が決闘王デュエルキング武藤遊戯の出身地であり、海馬さん率いる世界に名だたる大企業KC社の本拠でもあることは一般常識と言ってもいい。
この二人に縁深い土地なためか、当然のようにI2社の影響も強い。まして、俺が今住むここ……俺の自宅兼ペガサスさんの別宅まであるのだから、その繋がりはより一層強くなっている。
世界の経済の根幹を為す2社に加え、その両社ともが文化の根幹を為すカード関連企業の最大手である。
ゆえに、この町のカード関係のものは全て彼らの傘下にあると言っても過言ではなく、個人経営店にとっては絶対に敵わない競合店がいるも同然なのである。
そんな中、降って湧いたように出てきた新規カードショップには驚きを隠せない。
別にこの町でカードの供給が滞っていたというわけでもないので、本当に個人店か何かなのだろう。そういった個人も店を出すのは自由だが、前述したこの町のある意味での特別性から、わざわざ個人で出店しようという人間は少ない。
そのため、俺は驚きつつも店を構える決断に感心したのである。
「よし、じゃあ後で行ってみるか。デートがてら」
元からこの町にあるカードショップなら行く気もなかったが、そういった経緯であれば話は別だ。ぜひとも行ってみたいじゃないか。
そして俺の言葉に、マナも笑顔で頷いた。
「うん! 楽しみだね、どんなカードがあるんだろう」
やはり精霊だけあってカードのことは気になるのか。マナはどことなく嬉しそうに麺をすする。
そして俺もまた再び食事に戻った。
何はともあれ、その話はまず昼食を食べ終わってからだな。チュルチュル。
さて。
冷やし中華を食べ終えた俺たちはそれぞれ着替えると家を出て、そのカードショップへと歩を進めた。
扉を開けた瞬間に身体を襲った耐え難い熱気に心が折れそうになるというトラブルはあったものの、マナの「せっかくのデートなんだから」という言葉に気持ちを奮い立たせて再起。
まぁ、デートとは言っても近所のカード屋に行くだけなんだから、そんなに大層なものでもないわけだが。
それでもそう言われれば家の中に戻るわけにもいかなくなり、俺は腹をくくって日差しが肌を刺す外へと足を踏み出したのである。
「あー……暑い。涼しくなる魔法とかなかったっけ?」
「残念だけど、そんな便利な魔法はないねー」
「さいですか……」
一縷の希望もあっさり砕かれ、俺は溜め息を一つつくと諦めて丸くなりがちだった背中を伸ばした。
こうなったら一刻も早くそのカードショップに行って涼もう。
そうと決まれば、ということでそれ以降は意欲的に熱風を切り裂きながら進み、そうしてたどり着いたの件のカードショップである。
外観はこじんまりとしているが、奥行きはあるらしく店内はそれなりに騒がしい。夏休みということもあって、多くの人が訪れているようだった。
「へぇ、ここか」
「出来たばっかりだから、結構綺麗だね」
塗装もまだまだ汚れがない真っ新だ。
俺はマナの言葉に頷き、そして中に入った。
「おお……」
そして、俺は思わず声を漏らす。
この世界のカードショップはOCGの感覚で慣れ親しんだ俺には、いつ見ても新鮮な風景だった。
入口の壁、ショーウィンドウ、ガチャガチャ、ポップや内装に至るまで。その全てがデュエルモンスターズで彩られている。
それ以外のカードや商品は存在しない。せいぜいレジに置いてあるデュエルディスクやカードケースぐらいのものである。
元の世界では考えられない光景だ。確かに遊戯王OCGは有名だったが、それでもカードショップでは店内の一画に配される程度の存在だった。
それがこの世界のカードショップはどうだろうか。むしろそれ以外の関連商品なんて存在していないという専門店っぷりである。
言うなれば、元の世界に存在する世界中のカードショップの9割が遊戯王専門店だと思ってくれればいい。そう考えれば、凄いと感じても仕方がないだろう。
互いの世界の差を知っているだけに、俺にとってこの世界のカードショップは見るだけでも楽しい所だった。
そんなふうに俺が突っ立っていると、マナにくいっと腕を引かれる。
何事かと横を見れば、マナが苦笑して店の奥を指さしていた。
「遠也にとって楽しいのは分かるけど、それよりカードを見に行こうよ」
「おっと、そうだな」
事情を知るマナだけに、俺が何故呆けていたのかは既に理解しているらしい。
腕を引くマナに従って、俺は足を進めて店の奥へと入っていった。無論、この店の品揃えを吟味するためである。
以下、ダイジェスト。
「お、レアカードコーナーか。……げ!? 《コスモクイーン》 10万円!?」
「え、普通じゃないの?」
「いやいやいやいや。いくらウルトラレアだからって……うお、ウルトラレアの《ディメンション・マジック》が3000円とか。デッキ作りづら……」
「あ、このお店凄いよ遠也。お師匠様のカードが1枚だけだけど置いてある!」
「マジかよ、滅多に見れないのに……ん? 一、十、百……ぜ、ゼロが6つだと……」
「あ、こっちはバラ売りのカードだね」
「ほほう、どれどれ1枚10円か。……《ものマネ幻想師》《黄泉ガエル》《終末の騎士》《魔導雑貨商人》《ワイト》……毎度カードショップに入ると思うんだが、どうなってるんだこの世界は。ステータスで価値決めすぎだろ……」
「だいぶ遠也のところとは違うみたいだもんねー。あ、シンクロコーナーが出来てるよ」
「マジでか。……なになに、《ジャンク・ウォリアー》が5万円!? 《蘇りし魔王 ハ・デス》でも1万円、《大地の騎士ガイアナイト》さんも3万……。……チューナーは《ジャンク・シンクロン》が100円、《プチトマボー》が50円……どういうことなの」
「さ、さあ」
「しかし、いくら出たばかりでレア度が高いからって、ジャンク・ウォリアーさん5万かよ。これ、デストロイヤーとかどうなるんだ……」
とりあえず、この世界のカード市場の滅茶苦茶っぷりに毎度のことながら戦慄を隠せない俺だった。
さて、そんなこんなでカードを一通り見て回った俺たちは、更にショップの奥へと向かった。
奥行きがある店内の奥は小さな広場に繋がっているらしい。外に出てみれば、デュエルディスクを構えてデュエルしている人がまばらながらいる。
買ってすぐに遊べるというわけか。なかなかいい立地じゃないかこの店。
ギャラリーもいて、それぞれ好きな相手に声援を送っている。デュエルが日常に溶け込むこの世界では、こうして気軽に応援したりされたりというのは当たり前の光景だ。
デュエルはそういう意味でコミュニケーションツールの一つでもあるのだろう。全く知らない他人も巻き込んで、共に笑い合い、喜び合う。実に素晴らしい光景がそこにはあった。
俺は一つ頷くと、同じくその光景を見ていたマナに促す。
「うん、いいものを見た。じゃあ、暑いし中に戻ろうか」
そんな俺に、マナはしょうがないなぁとばかりに笑った。
「そうだね、戻ろ――」
「――な、なにするんだよ!?」
マナの返事にかぶさるように、広場の方から大声が聞こえてくる。
なんだ、と俺とマナは戻ろうとしていた足を止めてそちらに顔を向けた。
そこには、髪は金髪だが成人は既にしているだろう目つきの悪い男が一組のデッキを頭上に掲げている姿があった。そして、小学校高学年ほどの少年がそれに向けって爪先立ちで必死に背伸びをしている。
そしてその金髪の男は、そんな少年の姿を鼻で笑いながら口を開いた。
「はっ! 言わなかったか? こいつはアンティデュエルだとな! お前のデッキから好きなカードをいただいていくぜ!」
「そ、そんな……! そんなこと一言も……」
男の言い分にその子は反論するが、それを無視してそいつはデッキをぱらぱらと見始める。
「ちっ! ろくなカードがねぇな。……お、こいつはいい! こいつをもらっていくぜ」
「ぼ、僕の《ホワイト・ホーンズ・ドラゴン》が……」
男が手に持ったカードを見て、少年の顔がショックを受けて歪む。
ホワイト・ホーンズ・ドラゴン。召喚・特殊召喚に成功した時、相手の墓地に存在する魔法カードを5枚まで除外し、攻撃力をそのカードの数×300ポイントアップさせる効果を持つ、優秀なカードだ。
ステータスも平均は超えており、この世界では結構なレアカードになっていると想像できる。
だからこそ男もそのカードを選んだのだろう。そして、手に持っていた他のカードを無造作に地面にばらまいた。
「あ、ああ……! ひどい……!」
「ふん、お前が弱いから悪いのさ! ヒャハハ!」
その上、その中の1枚を踏みつけた。
その姿に誰もが思わず身を動かしかけたが、しかしその男は体格もいいため文句までは出てこなかった。
そんな周囲を睥睨し、男はそこから足をどけた。
「じゃあな! 今度はもっといいカードでデュエルしようぜ! ククク!」
そのまま去ろうとする男と、地面に膝をついて自分のカードをかき集めている少年。
こんな光景を見て、男を立ち去らせていいものか?
……言うまでもない。そんなこと、いいはずがないだろう。
「おい」
「あん?」
俺はその男の前に立ちはだかっていた。
そして、訝しげな顔をするソイツに向かって、俺は店に置かれていたデュエル用の貸し出しディスクを着けた腕を突き出す。
「デュエルしろよ」
「なんだとぉ?」
威嚇するように睨みつけてくる男だが、そんなものトラゴエディアなんかと比べたら怖くもなんともない。
俺は逆に挑発的な言葉を投げかけた。
「どうした? ビビッてるなら、別に無理は言わないけどな」
「ってめぇ!」
一気に沸点に達したらしいこの男。
釣られやすすぎだろ、常識的に考えて。まぁ、この場合はそのおかげで助かったわけだが。余計な手間をかけなくて済むし。
さて、ではルールの確認といくか。
「アンティルールだったな。お前は人から巻き上げたカードを全て賭けろ」
「なに偉そうに指図してやがる! この名蜘蛛様によ!」
「代わりに俺が負けたらこれをやるよ」
言って、俺はデッキから1枚のカードを抜き出した。
そのカードに、名蜘蛛と名乗った男も、そして様子を見ていた周囲の人間も驚きを露わにした。
「そいつは……最近出てきたばかりのシンクロモンスター! 《ジャンク・ウォリアー》じゃねぇか!」
「少なくとも5万の価値はあるカードだ。ネットオークションにかければ、その倍は行くかもしれないな。よければもう1枚つけるが、どうする?」
俺が付け足したその言葉に、名蜘蛛が唾を飲み込む。
本当にわかりやすい反応をする奴だ。どこかの漫画でやられ役Aをやらせたら大活躍するに違いない。
そんなことを俺が考えているとは露知らず、名蜘蛛は同じくデュエルディスクを起動させて、下卑た笑みを向けてきた。
「へへ……乗ったぜその勝負! 負けても文句を言うんじゃねぇぞ!」
「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ」
互いに手札5枚を手に取る。
……カードを踏みつけるという、デュエリストにあるまじき行為は、さすがに許しがたい。単なる喧嘩なら本人同士の問題で済ませようと思っていたが、あれはさすがに駄目だ。
カードとは仲間であり、絆の証。それを足蹴にするなど言語道断。まして、無理やり人からカードを奪い取るとか普通に犯罪である。
これを許すのはもう人として駄目だろう。
そういうわけで、ここはデュエリストとしても人としても負けられない。絶対にコイツを倒す!
「やっちゃって、遠也!」
「おう、後は頼んだぞ」
マナの応援もあれば百人力だ。さて、やるとしますか。
「「デュエル!」」
皆本遠也 LP:4000
名蜘蛛 LP:4000
「へっ、先攻は俺だ! ドロー!」
デュエルが始まると、次第にギャラリーが増えてきた。
どうも店の中に話を持って行った奴がいたらしい。まぁ、あんまり気にしないようにしよう。
「クク、いい手札だ。一気に行くぜ! まずは《強欲な壺》を発動し、2枚ドロー! そして俺は手札からフィールド魔法《死皇帝の陵墓》を発動ぉ! これにより、召喚に必要な生贄の数×1000ポイントのライフを払うことで生贄なしでモンスターが召喚できる! 俺はライフポイントを2000支払い!」
名蜘蛛 LP:4000→2000
「超レアカード《タイラント・ドラゴン》を召喚だぁあ!」
《タイラント・ドラゴン》 ATK/2900 DEF/2500
名蜘蛛の場に現れる巨大なドラゴン。その巨体はまさに暴君(タイラント)の名に相応しく、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
「更に装備魔法《巨大化》をタイラント・ドラゴンに装備! 俺のライフポイントは当然お前より少ない。よって、タイラント・ドラゴンの攻撃力は2倍になる!」
《タイラント・ドラゴン》 ATK/2900→5800
攻撃力5800か。ライフ4000制であることを考えれば、1ターンキル級の高攻撃力だ。
そして、それを見た周囲の面々から諦めの吐息が漏れる。どうも名蜘蛛はこのカードショップでは名の知れた存在らしく、周りには名蜘蛛を憎々しげに睨む子供たちが多くいた。
恐らく、たびたび今日のようなことを繰り返していたのだろう。だとすると、あのタイラント・ドラゴンも名蜘蛛が本来の持ち主ではないのかもしれない。
だとすれば、まったくもって許しがたい小悪党だ。そんな怒りを抱く俺の内心とは裏腹に、名蜘蛛は愉快気に笑い声をあげる。
「ヒャハハハ! これで決まったようなもんだぜ! 今のうちに俺に渡すカードを出しておけよ、もう無駄だからなぁ! カードを3枚伏せてターンエンドだ!」
これで名蜘蛛の手札は僅か1枚。だが、伏せカード3枚で警戒を忘れないあたり、全くの素人でもないらしい。
しかし、デュエルを通じて尚こんなことを続けているのだとすれば、一層度し難い。
「俺のターン!」
カードを引き、手札に加える。
周囲は俺のターンとなっても、どこか諦念が滲み出ている。だが、そんなことは関係ない。そもそも、こんな奴に負ける理由はどこにも存在しないのだから俺は気にせず行動するだけである。
「魔法カード《光の援軍》を発動! デッキトップから3枚墓地に送り、《ライトロード・ハンター ライコウ》を手札に加える。そして《おろかな埋葬》を発動し、デッキから《チューニング・サポーター》を墓地に送る」
落ちたのは《ドッペル・ウォリアー》《死者蘇生》《グローアップ・バルブ》か。死者蘇生は痛いが、時間をかけるつもりはないから問題視するほどでもない。
「そして《ジャンク・シンクロン》を召喚! その効果により墓地のレベル2以下のモンスター《チューニング・サポーター》を特殊召喚! 更に墓地からの特殊召喚に成功したことにより、手札から《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚する!」
《ジャンク・シンクロン》 ATK/1300 DEF/500
《チューニング・サポーター》 ATK/100 DEF/300
《ドッペル・ウォリアー》 ATK/800 DEF/800
「へへ! なんだ、その弱っちいモンスター共はよー! どいつもこいつも雑魚ばっかりじゃねぇか!」
俺の場に並ぶ3体のモンスターを指さし、名蜘蛛が笑い声をあげる。
俺のカードたちを馬鹿にする発言は癇に障るが、こいつらを信頼している俺にしてみれば、名蜘蛛の嘲りは全く見当はずれなものでしかない。
自然、俺の口元には笑みが浮かんでいた。
「テメェ……なにが可笑しい!」
「別に、可笑しいわけじゃない。ただ、どんなカードだって力を合わせれば、大きな力となることを知っているだけだよ」
さぁいくぜ、俺のカードたち。
「レベル1チューニング・サポーターとレベル2ドッペル・ウォリアーに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし鼓動が、大地を駆ける槍となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 貫け、《大地の騎士ガイアナイト》!」
《大地の騎士ガイアナイト》 ATK/2600 DEF/800
現れるのは、騎馬にまたがって両手に巨槍を携えた一人の騎士。
その瞬間、ギャラリーからざわめきが起こる。「シンクロ召喚!?」「生で初めて見た……」という声が聞こえるあたり、やはりまだシンクロ召喚は一般的ではないのだろう。
名蜘蛛も俺がシンクロ召喚を使ったことに目を見開いていた。
だが、そんな周囲を置き去りに、俺は自身の取るべき行動を続けていく。
「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー! 更にドッペル・ウォリアーがシンクロ素材となって墓地に行ったため、場にドッペル・トークン2体を特殊召喚する。更にデッキトップのカードを墓地に送り、墓地から《グローアップ・バルブ》を特殊召喚!」
《ドッペル・トークン1》 ATK/400 DEF/400
《ドッペル・トークン2》 ATK/400 DEF/400
《グローアップ・バルブ》 ATK/100 DEF/100
「そして俺の墓地の闇属性モンスターは現在、《ジャンク・シンクロン》と《ドッペル・ウォリアー》2体の計3体。召喚条件を満たしたため、手札から《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚する!」
《ダーク・アームド・ドラゴン》 ATK/2800 DEF/1000
本来ならタイラント・ドラゴンに迫る程の巨体と攻撃力を持つドラゴン。今は巨大化のため敵うべくもないが、しかしこのモンスターの真価は攻撃力ではない。
これで俺のモンスターゾーンは全て埋まった。僅か1ターンでここまで展開させたことには驚かざるを得ないのか、俺を見る視線には驚愕が多く含まれている。
名蜘蛛もその一人だが、しかしそれでもその攻撃力を確認して、元の軽薄な笑みに戻った。
「へっ、1ターンでそこまでいくとはやるじゃねぇか。だが、俺のタイラント・ドラゴンの攻撃力は5800! 圧倒的なまでに桁違いだ! そんなモンスターが束になったって敵わねぇんだよ! ヒャハハハ!」
その言葉に現状を思い出したのか、このデュエルを見ている彼の被害者と思われる子供たちの顔に諦めが戻る。
その様子を一瞥しつつ、俺は挑発するように言葉を返した。
「浅はかだな」
「んだと!?」
「攻撃力だけがモンスターの全てじゃない! ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動! 墓地の闇属性モンスター1体を除外し、フィールド上のカード1枚を破壊できる! 俺はまずジャンク・シンクロンを除外し、タイラント・ドラゴンを破壊する! いけ、《ダーク・ジェノサイド・カッター》!」
ダーク・アームド・ドラゴンが咆哮し、その腹部から生えた刃が切り離されて縦横無尽に飛び回る。
そしてそれは俺が指定したカードを破壊しようと名蜘蛛の場に襲い掛かった。
「な、なんだと!? くっ……罠発動、《サンダー・ブレイク》! 手札1枚をコストに、ダーク・アームド・ドラゴンを破壊する!」
ダムドさん。本来なら召喚に成功した時点で3枚破壊がほぼ確定されているというね。ホンマ鬼畜やでぇ……。
まぁ、今回は1回目の効果に対してサンブレを食らったわけだが。まぁ、タイラント・ドラゴンは潰したし、伏せカードも1枚減ったので良しとしよう。
サンブレがあるなら優先権で召喚直後に撃てば良かったのに、とは思うものの、それもダムドの効果を知らなければ意味がない。っていうか、そもそもこの時代って召喚直後の優先権放棄ってないんじゃないか? あっちの世界でも最近のことだったし。
まぁ、ルールについてはペガサスさんに話してあるし、いいと思えばそのうち変わるんだろう、たぶん。
さて……これで相手の場にはダムドの効果対象に指定できなかった伏せカードが2枚残るだけだ。
俺の場にはガイアナイトとドッペル・トークン2体にグローアップ・バルブ。直接攻撃が決まれば勝てるが、相手の伏せカードが唯一の懸念だ。
まぁ、ここはひとつ、念には念を入れるとしようか。
「俺はレベル6大地の騎士ガイアナイトとレベル1ドッペル・トークンにレベル1グローアップ・バルブをチューニング! 集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」
《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000
そして現れる星屑の竜。
その輝く白銀の威容に誰もが声を失い、思わず見惚れる。そして、次第にその表情は大きな驚愕へと変わっていき、この場に広がっていった。
「馬鹿な……! スターダスト・ドラゴンだと!? そいつは世界に1枚しか存在しない超激レアカードのはず!」
声を荒げる名蜘蛛が、俺の顔を見る。
俺はそれに、こっち見んな、という鬱陶しげな顔で返した。
「――ッ、お、お前……! あの時、イベントでペガサスに勝った野郎……!」
ペガサスさんを呼び捨てとは何様だコラ、と思うものの口には出さず。
ただ俺はターンを進行していく。
「バトル! スターダスト・ドラゴンで相手プレイヤーに直接攻撃!」
「……! い、いくら激レアカードでも、甘いぜ! 罠カード《炸裂装甲リアクティブアーマー》を発動! これで、攻撃してきたモンスターを破壊だ!」
ああっ、と周りから声が漏れる。だがチンピラ野郎、その対応は悪手だ。
「甘いのはそっちだ! スターダスト・ドラゴンの効果発動! フィールド上のカードを破壊する効果が発動した時、自身を生贄に捧げることでその発動を無効にし、破壊する! 《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」
「なっ!? ぐぁッ!」
スターダスト・ドラゴンの身体が輝き、それによって名蜘蛛の発動した炸裂装甲が爆発と共に破壊される。
同時に効果が正常に処理されたスターダストはその身を光の粒子と化して俺の墓地へと送られていった。
「へ、へへ! だが結局ソイツは墓地に行ってるじゃねぇか! ざまぁねぇぜ!」
得意げにする名蜘蛛に、俺は何言ってんだとばかりに眉を上げる。
こいつ、学園対抗試合はテレビで見ていなかったのか? まぁ、それならそれで別にいいんだが。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。そしてこの瞬間、自身の効果で墓地に送られたスターダスト・ドラゴンはフィールドに戻る。再度飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」
《スターダスト・ドラゴン》 ATK/2500 DEF/2000
「なぁッ……!?」
再び俺の場に現れたスターダストに、名蜘蛛は間抜けな声を出して固まった。
学園対抗試合を見ていれば……いや、それでなくても情報としてスターダストの効果ぐらい知っていてもよさそうだが、名蜘蛛は全く知らなかったらしい。
やれやれと思いつつ、俺は自失している名蜘蛛に声をかける。
「お前のターンだぞ」
「……ちっ! 俺のターン、ドロー!」
我に戻った名蜘蛛が苛立たしげにカードを引く。
この時点で名蜘蛛は全ての手札を使い切っている。
ゆえに、ここで引くカードが命運を分けると言っていい。そしてその運を掴む可能性は捨てきれない。デッキを信じ、そしてデッキが応えてくれるなら、奇跡だって起きるかもしれないのだから。
だがしかし、勝利の女神は名蜘蛛に味方しなかったようだ。引いたカードを見た名蜘蛛は怒りと焦りがない交ぜになった顔になり、その上あろうことか引いたカードを握り潰した。
「くッ……このクソデッキがぁあ!」
「……とことん、救いがたい奴だな。信じるべき自分のカードを、そんな風に扱うなんて。おい、何もしないならエンド宣言をしろ」
「ぐ、ぐッ……! ターン、エンドだッ!」
「俺のターン!」
さて、相手の場にはあと伏せカードが1枚のみ。あいにく手札に除去カードはないが……確認できるカードはあるんだよね。
「俺は《久遠の魔術師ミラ》を召喚! 召喚に成功したため、相手のセットカードを確認できる。そしてこの効果に対して、相手は魔法・罠カードを発動できない」
《久遠の魔術師ミラ》 ATK/1800 DEF/1000
光霊使いライナによく似た白銀に輝く髪が美しい少女は、豪奢な金色の杖を構えて呪文を唱える。
すると相手の伏せたカードが起き上がり、その正体を白日の下にさらした。
「ちッ……!」
舌打ちをする名蜘蛛だが、奴にこの効果を止める術はない。さて、伏せられていたのは……《リビングデッドの呼び声》か。そして、相手の墓地にあるモンスターはタイラント・ドラゴンのみ。
タイラント・ドラゴンは、蘇生する時に自分の場のドラゴン族モンスター1体をリリースしなければならない。……つまり、リビングデッドの呼び声は現状使用できないカードというわけだ。
そうとわかれば、他に死皇帝の陵墓しか存在しないフィールド相手に、臆する理由は何もない。
「いくぞ、バトルだ! スターダスト・ドラゴンでプレイヤーに直接攻撃! 響け、《シューティング・ソニック》!」
スターダストが口を開き、そこから不可視の衝撃が音の壁を破って放たれる。
名前の通り音速で目標に着弾したそれによって、名蜘蛛は全てのライフを削り取られたのだった。
「ぐ、がぁああッ!」
名蜘蛛 LP:2000→0
デュエルに決着がつき、敗北した名蜘蛛は片膝をついて地面に拳を打ちつける。
それを見つつ、俺は一歩名蜘蛛に近寄った。
「さぁ、俺の勝ちだ。約束通り、今まで人から奪い取ったカードを返してもらおうか」
そして、勝者として事前に交わした約束を突きつける。
しかし、名蜘蛛は不気味な笑い声を漏らしながら立ち上がると、嘲るような目で俺に視線を寄越してきた。
「ヒャハハ! 約束ぅ? 知らねぇなぁ、そんなもんは!」
どうやら、目の前の男はとぼけることにしたようだ。
やはりな、と思う俺だったが、周囲はそうではなかったらしい。名蜘蛛のそんな行動に、非難と罵声が浴びせられる。彼らも奪われたカードが返ってくると思ったところにこの対応は許せなかったようだ。
「うるせぇぞッ!」
しかしそんな彼らを名蜘蛛が怒りと共に一喝する。
その怒声にシンとなったギャラリーを満足そうに眺め、名蜘蛛は再び俺に向き合った。
「クク……デュエルで負けようと、どうでもいいんだよ。俺はデュエリストじゃねぇ、リアリストだからなぁ。現実で勝てば問題ねぇんだよ! てめぇのスターダスト・ドラゴンのカード、俺様がもらってやるぜぇッ! ヒャハハッ!」
言いつつ、名蜘蛛が拳を振り上げて向かってくる。
明らかに暴力に訴えたその行動に、俺は慌てず身体を横にずらして初撃をかわす。
身体ごと俺の後方に流れていった名蜘蛛は、体勢を整えて再び俺に殴り掛かってこようとするが、その前にその腕が大きな手に掴まれていた。
「ぎッ、誰だこらぁッ!」
名蜘蛛がその手の持ち主に振り返りつつ怒りをぶつける。
そして、名蜘蛛の腕を掴んだ人物は、呆れたように名蜘蛛を見ていた。
「……名蜘蛛よぉ。お前、まぁだこんなことやってんのか。コイツが俺の同級生だと思うと泣けてくるぜ」
「う、牛尾ッ!? てめぇッ!」
警官の制服に身を包んだ大柄な男、名蜘蛛いわく牛尾さん。……たぶん、あの牛尾さんで間違いないんだろう、その人に威勢よく名蜘蛛が噛みつく。
それを、牛尾さんはやれやれとばかりに肩をすくめると、掴んでいた腕を捻りあげて名蜘蛛を黙らせた。
「がッ、いて、いてててェッ!?」
訂正、黙ってはいなかった。
だが、その力量差は見ているこっちにもわかるほど圧倒的で、すっかり名蜘蛛を制した牛尾さんが俺の方に顔を向ける。
「お前がコイツを抑えてくれていたみたいだな。協力に感謝するぜ。コイツはこの辺でカードを奪う常習犯でな。だが、意外とすばしっこくてなかなか捕まんなかったんだよ」
「はぁ、そうなんですか」
それよりも俺としてはあの牛尾さんに会えたことが嬉しいんですが。
アニメで唯一の皆勤賞キャラだけに、牛尾さんのことはよく覚えているのだ。っていうか、この人最初はお巡りさんだったんだ。刑事から始めたわけじゃなかったのね。
「お疲れ様、遠也」
牛尾さんと話していると、マナが俺の傍に寄ってくる。
それに対して、俺はおうと返事をした。
「マナも、通報ご苦労さん」
「うん、遠也に後を頼まれていたしね」
ニッコリ笑うマナに、俺も笑みを返す。
さすがは相棒、俺の後を頼むという言葉の意味を正確に読み取ってくれたようだ。
まったくもって、頼りになる奴である。
「なんだぁ、随分仲がいいな。ひょっとして、そのお嬢ちゃんとはイイ仲なのか?」
「あ、わかります? そうなんですよ」
牛尾さんのからかうような言葉に、俺は照れるでもなく普通に返す。マナもそれに乗っかって、俺の腕を抱えてみせた。
それを見た牛尾さんは呆れたように溜め息をこぼす。
「あからさまにイチャつくんじゃねぇよ。……はぁ、俺も彼女が欲しいぜ。なんかこのまま十年以上経っても彼女が出来ないんじゃねぇかって、時々不安になるんだよなぁ」
……うん、牛尾さん。残念ながら、たぶんそれ正解です。
途中に彼女がいたのかは知らないけど、少なくとも5D’sの時代に狭霧さんを追っかけてた時点で、結婚はしていなかったはずだ。それで彼女に恵まれていたとは考えづらいわけで……。
となると、十年単位で彼女が出来ないのか。それは、なんていうか、その……。
「おい、何で俺をそんな目で見るんだ」
「いえ、なんでもないですよ?」
そうか? そうですよ、と言葉を交わしつつ、さっきから締め上げたままの名蜘蛛を見る。
腕の痛みが本当にきついのか、既に声もない。弱々しく牛尾さんの腕を叩いている姿に、さっきまでの威勢はどこにもなかった。
「あ、そうだ。えっと、牛尾さん?」
「ん? ああ、俺は牛尾哲っていう。牛尾でいい。で、どうした?」
「じゃ、牛尾さん。この人と、負けたら今までに奪ったカードを持ち主に返すって約束をしてたんですけど、返してくれませんか?」
その俺の言葉に、周りにいた被害者たちから期待の視線が牛尾さんに向けられる。
それに気づいた牛尾さんは、そういうことか、と呟いて頭をかいた。
「もちろん、最終的にはそうする。だが、まずはコイツの身柄を署に移す方が先でなぁ。この場でいきなり渡すわけにはいかねぇんだわ。どのカードが誰のなのかも判然としねぇんだろ?」
申し訳なさそうなその言葉は、しかし反論のしようもない正論だった。
この場でいきなり名蜘蛛の持つカードをばらして、周囲の面々に確認し始めてもらうわけにもいかない。否応なしに時間がかかるからだ。そもそも名蜘蛛の家にもカードはあるだろうし、そうなると効率的な意味でもよろしくない。
だから、まずは名蜘蛛を逃げられない場所に移してから、というのは当然だ。そのあと、元の持ち主を確認したうえで順次カードを返却する、というのが妥当な手段だろう。
「なら、牛尾さん。名蜘蛛が今持っているカードから《ホワイト・ホーンズ・ドラゴン》だけ返してもらえませんか?」
「ホワイト・ホーンズ・ドラゴン? ちょっと待ってろ……よし、こいつか?」
まずは名蜘蛛を手錠で拘束した後、懐を探り俺が言ったカードをそのまま俺に渡してくれる牛尾さん。
お礼を言いつつ受け取った俺は、そのカードを持ってこの本来の持ち主の下へと歩いていった。
さっき名蜘蛛に絡まれていた男子。その子の前に立って、俺はそのカードを差し出す。
「ほら。大事なカードなんだろ?」
「あ……あ、ありがとうございます!」
一瞬呆けた少年だったが、しかしすぐに笑顔になるとお礼と共に俺の手からカードを受け取った。
何度も頭を下げてくる少年に手を振り、俺は牛尾さんの前へと戻る。
そこにはにやけた顔で俺を見る牛尾さんの姿があった。
「へぇ、お前いい奴じゃないか。気に入ったぜ」
「よしてください。俺はカードを無碍に扱う名蜘蛛が気に入らなかっただけですよ」
俺はそう言うが、しかし牛尾さんはそれを謙遜と受け取ったようだ。
照れるな照れるな、と俺の肩をバシバシ叩いてくる。そのあと俺に名前を尋ねてきたので名前を教えると、えらく笑顔で牛尾さんは名蜘蛛を引き連れて去っていった。
また何かあったらすぐに言えよ、と兄貴肌な言葉と共に帰っていった牛尾さんは普通にいい人である。とてもじゃないが、かつて人から金を巻き上げていたとは思えん。
ともあれ、名蜘蛛も連れて行かれたようだし、他の奪われたカードについては警察が上手く対応してくれることだろう。つまり何が言いたいかというと、事件解決ということである。
ひと段落した事態に俺は息をつく。そして、隣のマナに声をかけた。
「なんかいきなりケチがついたけど、心機一転デートの再開といこうか」
それに、マナは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん! じゃあ、今度は買い物に行こうよ」
言って俺の腕を取ってくるマナを連れ、俺もまたその場から立ち去る。
周囲からの視線はあったが、この後俺がこの場に残っていてもできることは何もない。なら、このままデートにもつれこんだほうが楽しいに違いないと思ってのことである。
事実、このあとのデートは非常に楽しいものだった。
その後は普通に家に帰って、リラックスタイムである。そしてマナの作る夕食に舌鼓を打ち、二人でダラダラと過ごしたあとに入浴、就寝となる。自宅に戻ってきて以降、定番となっている生活スタイルであった。
……ちなみに、まだ一線は越えていない俺たちである。であるが、俺たちは一緒に住んでいるので、時間の問題と思われる。っていうか、俺の理性がそろそろやばい。
風呂上がりとか、以前なら気にしないようにしていたが、関係が少々変化した今では色々と意識してしまって困る。夏というのも問題だ。寝る時のスタイルがキャミソールとショートパンツとかふざけんな。
一応それはマナが自分の部屋だけでしている格好で、俺の前に出る時はパジャマを着ているのだが、たまにそのまま出てくることがあって困る。
そんなわけで、色々と我慢しつつではあるが、それなりに楽しく過ごしている俺たちなのであった。
*
その後。
どうも名蜘蛛は本当にこの近辺のカードショップで迷惑がられていたらしく、俺が名蜘蛛をやっつけたという話はそれなりに広まっていた。
こう見えて二度もテレビに顔を出し、そのうえカードの生みの親にしてI2社の会長でもあるペガサスさんにも勝った身だ。更に世界に1枚しかないスターダスト・ドラゴンの持ち主でもある。
名蜘蛛とのデュエルでスターダストを召喚したこともあって、俺の名前があっという間に確定情報として流れたらしい。テレビに出た動画もあるので、顔の特定も早い早い。
おかげで、俺がカードショップに行くとちびっ子たちが駆け寄ってくるようになった。愛称は「シンクロの兄ちゃん」である。
シンクロ召喚が一般的になったら、どういう名前になるんだろう。そんなどうでもいいことを考えながら、寄ってくる子供たちと遊んだりすることもしばしばだ。
ちなみにマナも人気者である。既にこの近所のカードショップでは中高生男子からちょっとしたアイドルのように扱われていたりするのだ。ちなみに子供たちにとっても優しいお姉さんということで、人気がある。
そんなこんなで、何故か一気に童実野町のカードショップで名前を知られる存在となった俺である。だが、寄ってくるのは純粋な子供たちであるため、悪い気はしていなかったりした。
そういうわけで、俺は懐かれた子供たちの相手をするために時々カードショップに顔を出す。その事件以降、そんな習慣が俺の日常に加わったのであった。