遊戯王GXへ、現実より   作:葦束良日

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第22話 大切

 

「悪いけど、十代。俺はパスだ」

 

 部屋に訪ねてきた十代の言葉に、俺は至極簡潔にそう答えを返した。

 だが、十代は納得いかないのか唇を尖らせて更に言い募る。

 

「なんでだよ~。せっかく大徳寺先生が企画してくれたんだぜ! 遠也も一緒に行こうぜ、遺跡探検!」

 

 目をキラキラさせて言う十代は、その探検を本当に楽しみにしているのだと一目でわかる。

 突然部屋に来たと思ったら、いきなり「遠也、探検に行こうぜ!」だったからな。本当に高校生とは思えないほどに子供心にあふれたやつである。

 流石にその一言だけでは何のことだか分らなかったので、詳しく聞いてみた。

 すると、どうも大徳寺先生が自身の受け持つ錬金術の授業で、日曜に島の中のとある遺跡を見学に行こうという企画を生徒たちに告げたらしかった。

 つまるところ、ちょっと変わった社会見学……いや、もう遠足と言ってしまってもいいかもしれない。大徳寺先生は、あまり堅苦しい勉強をするつもりはないようだし。

 だからこそ、十代もこうして純粋に楽しみにしているんだろう。勉強が主だった場合、こいつはきっと意地でも参加しなかったに違いない。

 とはいえ、そんなこんなで十代と翔、隼人は参加決定だそうだ。そして、十代は俺にも声をかけに来たということらしい。

 単純に、楽しいことはみんなで共有したい、ということだろう。何とも十代らしい思考だと、俺はうんうんと頷く。

 そしてその後に出てきた言葉が、最初の言葉というわけだ。

 俺の返事を聞いて不満たらたらな顔をする十代。まぁ、俺だって興味がないわけじゃない。ただ、行けない理由があるだけで。

 

「一つ。俺は錬金術の授業を取っていない」

 

 その授業を取っていない俺が、勝手に参加していいものかということ。大徳寺先生なら許可してくれるかもしれないが、部外者であるのは事実なのだし、自重はするべきだろうというのが一つ。

 そして、もう一つ。

 

「そしてこれが最大の理由だが………………俺は見ての通り、マナの機嫌を取らないといけないから忙しい。悪いが、諦めてくれ」

「あー、気になってはいたんだけどな」

 

 そう言って、十代が部屋の隅に目を向ける。

 そこには十代と一緒に来たハネクリボーを抱き、ただ黙ってこちらをじっとりと睨むマナの姿があった。

 昨晩から全く変わっていないその態度に、俺はもう溜め息しか出てこない。

 

「なんだ、どうしてこうなったんだよ?」

「いや、それが……翔と三沢と三人でアイドルカードについて話していたんだけどな……」

 

 そう、昨日の夜に話していたそれが原因なのだ。

 俺たち三人は互いにアイドルカードについて意見を交わし、あーだこーだ言った後に、互いにどんなカードが好きかを話していた。

 翔は「当然僕はブラマジガールっす!」で、三沢は「俺は、ピケクラかな。可愛く、バランスの取れた効果がいい」と言った。

 そして俺は、その時その場にマナがいなかったこともあり、油断していたのだろう。拳を握り、声を張り、高らかにこう言ったのだ。

 

 ――「断然、大人のお姉さんであるサイマジLV8だ!」と。

 

 そして、その瞬間にタイミング悪く戻ってくるマナ。まぁ、今思えばお約束ですよね。……あとは、わかるな。

 何と言っても、その時のマナの表情が忘れられない。明るい笑顔のままだったが、どう考えても雰囲気が怒っているという、漫画のような状況だった。「へぇ……」ってなんだよ。怖すぎるだろ。

 笑顔が元々は相手を威嚇する行為だったっていうのは、本当なのかもしれない。俺はその真実の一端を昨日知ったのだ。

 とまぁそんなわけで、こうしてマナは俺に恨めしげな視線をじーっと寄越し続けているのだ。さすがに何とかしないと、居心地が悪い。いや、むしろ胃心地が悪い、という表現の方が合っているかもしれない。罪悪感的な意味で、こうキリキリと。

 とはいえ、今のところは優しく接して、どうにか機嫌を直していってもらうぐらいしか思いつかないのだが。むしろ、それ以外にどうしろと。

 と、そんな事情を十代に話す。そしてそれを聞いた十代は、そうか、とこぼした後で、よし、と声を出した。

 

「なら、俺とデュエルしようぜ!」

「わけがわからないよ」

 

 まさか素でこのセリフを言う時が来るとは。

 しかし、そんなにべもない俺の言葉にもめげず、十代は言葉を続ける。

 

「デュエルをすれば、マナもきっと怒りがほぐれてくるって! それに、俺はまだマナの入ったデッキと戦ったことなかったしな!」

「後者が主だろ、お前の場合」

 

 思わず突っ込むと、十代は否定せずに「へへっ」と笑った。

 だけどまぁ、何もしないでいるよりは行動した方がいいのも確かか。それに、そういえば十代の言うとおりシンクロ以外のデッキで十代とデュエルしたことはなかった。

 一度そうしようと言ったこともあったが、直前でおじゃんになったし、それ以後はなんかこう、ずるずるとシンクロのほうばかりだったからな。

 十代とデュエルするのは楽しいし、断るというのももったいない。マナには悪いが、こうして気分を晴らすというのも俺の精神を守るためには必要かもしれない。

 無論、マナのことを忘れたわけじゃないぞ。それに何より、挑まれたデュエルから簡単に逃げるわけにもいくまいよ。

 

「やるか、十代」

「おう!」

 

 その結論に至った俺たちは、デュエルディスクを片手に外に向かう。さすがに室内でやるわけにはいかないからだ。

 テーブルでデュエルすればよかったかもしれないが、十代が外に行こうと指で示したので、こうしている。俺としても、そのほうが気分もノるし望むところだ。

 そして外に向かうべく俺たちが部屋を出た後。部屋の中で溜め息が一つ空気を揺らした。

 

『はぁ……どーせ私は子供っぽいですよーだ』

『……クリ~』

 

 そんなことを言いつつも、結局遠也の後を追って部屋を出るマナ。ふよふよと移動していくその姿に、ハネクリボーは素直じゃないなぁとばかりに声を漏らすのだった。

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで外に出て適度に距離を開けて立った俺と十代。

 もちろん互いにデュエルディスクは装着済みで、デッキも既にセットしてある。つまり何が言いたいかというと、準備完了ということである。

 となれば、することはもう一つしかない。

 

「いくぞ、十代!」

「おう、負けねぇぜ遠也!」

 

 にっ、と笑みを交わして、同時に開始の宣言をする。

 

「「デュエル!」」

 

皆本遠也 LP:4000

遊城十代 LP:4000

 

「先攻は俺からだぜ! ドロー!」

 

 まずは十代のターン。さて、初手はどう来るかな。

 

「俺は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンを終了するぜ!」

 

《E・HERO クレイマン》 ATK/800 DEF/2000

 

 十代の場に姿を現す、丸く大きな身体を持ったHERO。

 なるほど、まずは守備力2000のクレイマンか。十代が先攻だった時によく見られる配置だな。

 

「お次は俺だ、ドロー!」

 

 さて……今のところ手札にマナはいないか。しかし、本当に仲直りできるかな。微妙に不安を感じる繊細な男心である。

 それはさておき、このデッキはシンクロデッキではないため、いきなり速攻するのには向いていない。手札から見ても、ここはこっちも無難に終わらせるしかないな。

 

「俺は《魔導騎士 ディフェンダー》を守備表示で召喚。召喚に成功したことにより、このカードに魔力カウンターを1つ置く。更にカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

《魔導騎士 ディフェンダー》 ATK/1600 DEF/2000

 

 青い鎧を着込み、大きな盾を持った騎士。片膝をつき、その巨大な盾を構えて防御の態勢をとる。

 その名と姿が示す通り、防御に真価を発揮するモンスターだ。守備力2000という値もそれを裏付けている。

 

「クレイマンと同じ守備力か。固い奴を出してくるなぁ。俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見て、十代は口元に笑みを見せた。

 

「いくぜ、遠也! 俺は《E・HERO エアーマン》を召喚!」

 

《E・HERO エアーマン》 ATK/1800 DEF/300

 

 エアーマン……俺が渡した2枚のHEROの1枚か。

 

「そして俺はエアーマンの効果発動! 自分の場にいる他のHEROの数だけ相手の魔法・罠カードを破壊できる! 右の伏せカードを破壊だ、《エア・サイクロン》!」

 

 エアーマンの翼についたファンが回り、そこから吹き荒れる風が俺の伏せカードに迫る。その効果はまさに《サイクロン》そのままである。

 そしてその効果は正しく処理され、俺の場の伏せカードは墓地に送られた。

 

「くっ……」

「更に俺は《融合》を発動! 手札の《E・HERO スパークマン》とクレイマンを融合! 現れろ、《E・HERO サンダー・ジャイアント》!」

 

 クレイマンとスパークマンが光の渦に吸い込まれるように一つになり、やがてそこから巨大な黄色の鎧を付けたモンスターが現れる。

 クレイマンの名残を残す丸みを帯びた鎧で上半身を固めたその男が、ゆっくりと十代のフィールドに立つ。

 

《E・HERO サンダー・ジャイアント》 ATK/2400 DEF/1500

 

「いくぜ! サンダー・ジャイアントの効果発動! 手札のカードを1枚捨て、相手の場の元々の攻撃力がサンダー・ジャイアントより低いモンスター1体を破壊する! ディフェンダーを破壊しろ! 《ヴェイパー・スパーク》!」

「させるか! 魔導騎士 ディフェンダーの効果発動! 魔法使い族モンスターが破壊される場合、魔力カウンターを1つ取り除くことでその破壊を無効にする! 《マナ・ガード》!」

 

 ディフェンダーがその盾を掲げ、襲い来る雷を防ぎきる。

 

「ちぇ、ならサンダー・ジャイアントでディフェンダーに攻撃! 《ボルティック・サンダー》!」

「くっ……!」

 

 すでに魔力カウンターを使い切ったディフェンダーに、攻撃力2400の攻撃を防ぐ術はない。

 降り注ぐ雷撃に、今度こそディフェンダーは破壊された。

 

「よし、更にエアーマンで直接攻撃だ! いけ、エアーマン! 《エア・スラッシュ》!」

「罠発動! 《くず鉄のかかし》! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、このカードは再び場にセットされる!」

 

 エアーマンが繰り出した鎌鼬のような風の刃を、曲がりなりにも金属で構成されたかかしは難なく防ぎきる。

 そしてかかしは再びカードの絵柄へと戻り、再び俺の場にセットされた。

 こいつがなければ大ダメージは必至だったが、何とか防げてよかった。まぁ、代わりに俺の場にはモンスターが1体もいないという、相手の場に高攻撃力モンスターが揃っている現状において、なかなか怖い状況になってしまっているが。

 ……あ。っていうか、さっきサンダー・ジャイアントの攻撃をくず鉄先生で防いでいれば、ディフェンダー残ってたじゃん。なんてこったい。

 まぁ、全くミスのないデュエルばかり出来るわけではないし、過ぎてしまったことは仕方がない。マナとのこととか気がかりがあったことなど言い訳にもならないが、ここはそう気持ちを切り替えて続けていくしかないだろう。

 とはいえ、このミスのツケは高くつきそうだ。今後ミスをしないことで何とかカバーしていくしかないだろうな。ガッデム。

 そして思惑を崩された十代は、しかし表情に何の変化もない。さっきと同じ、楽しげに笑っているだけであった。

 

「ま、遠也だしこれぐらいは防がれるよな。ターンエンドだぜ!」

「買い被りだぞ、それは。俺のターン、ドロー!」

 

 十代のこれぐらい当然という変な信頼に苦笑しつつ、俺はカードを引く。

 さて、さすがにモンスターがいないのはかなりまずい。くず鉄のかかしはあくまで1体の攻撃しか無効に出来ないのだから、守りが万全とは言えないのだ。

 そういうわけで、こちらも上級モンスターに出てきてもらおうじゃありませんか。

 

「俺は魔法カード《古のルール》を発動! 手札のレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する! さぁ来い、お師匠様! 最上級魔術師、《ブラック・マジシャン》!」

 

 魔法カードがソリッドビジョンとなって眼前に展開され、その後それを破るようにしてフィールドに降り立つこのデッキの要の1体。

 この世界においてはレアリティも最上級として分類されている超有名カード。遊戯さん愛用のモンスターとして一躍名を馳せた、ブラック・マジシャンの登場だった。

 

《ブラック・マジシャン》 ATK/2500 DEF/2100

 

「うおー! ブラマジきたー!」

 

 闇色の装束を身に纏い杖を構えるその姿を見て、十代が目を輝かせてそんなことを叫んだ。

 神楽坂戦の時に見ているはずだし、これは十代が憧れる遊戯さんのブラマジではないのだが、そんなことは関係ないようだ。

 やはりこの世界ではブラック・マジシャンはかなり特別な立ち位置に置かれているらしい。それだけ遊戯さんの影響が大きいということだろう。

 

「さて、いくぞ十代! ブラック・マジシャンでサンダー・ジャイアントに攻撃! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!」

 

 ブラック・マジシャンがその手に持った杖をバトンのようにくるくると回し、その後力強く掴んでその先を十代の場に向ける。

 そして瞬時に形成された魔力の塊が、漆黒の稲妻と化してサンダー・ジャイアントに襲い掛かった。

 攻撃力で劣るサンダー・ジャイアントにそれを防ぐことができるはずもなく。サンダー・ジャイアントはそのまま場から姿を消した。

 

「ぐっ、さすが……!」

 

十代 LP:4000→3900

 

 掠り傷にもならないレベルだが……ま、先手は俺がもらったってことで良しとしよう。

 

「ターンエンドだ!」

「よっし、俺のターン! ドロー!」

 

 十代は手札にカードを加えるものの、現在の手札は2枚のみ。その中にいいカードがなかったのか、十代は手札のカードに触れないままだった。

 

「エアーマンを守備表示に変更! ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは……おお、《ブラック・マジシャン・ガール》か。マナが来てくれたことは嬉しいが、この状況ではどうしようもないな。ブラマジをリリースして出しても無意味だし。

 となれば、このままバトルフェイズに入るしかないか。

 

「バトル! ブラック・マジシャンでエアーマンに攻撃! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!」

 

 ブラック・マジシャンから放たれる黒い閃光がエアーマンを貫き、破壊する。

 ダメージこそ負わないものの、破壊されたことで十代の場はこれでがら空きである。

 しかし、十代の目はむしろ希望に輝いていた。

 

「くっ……だが、エアーマンの犠牲は無駄にしないぜ! 罠発動、《ヒーロー・シグナル》! モンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた時、自分の手札かデッキからレベル4以下のHEROを特殊召喚する! 俺はデッキからコイツを呼ぶぜ、《E・HERO バブルマン》を守備表示で召喚!」

 

《E・HERO バブルマン》 ATK/800 DEF/1200

 

 現れるのは全身水色で小柄ながらガタイのいい、アメリカンコミックから飛び出してきたようなHEROの1体だ。

 

「げっ、そいつかよ」

 

 そしてその効果を知る俺にしてみれば、厄介極まりないモンスターだ。こいつがアニメ効果なのは反則に近いと思う。

 

「俺の場には、バブルマン以外のカードは存在しない! よってバブルマンの効果により、2枚ドロー!」

 

 一気に十代の手札が回復する。これだ、これだよ、これですよ。たった1枚で2枚のドローを行う強欲な壺と全く同じ効果。しかも今回は手札からの召喚ではないので、手札消費は0である。

 OCGの効果では、場に何もないことに加えて手札も0であることが条件なのでバランスは取れているが……アニメ版はひどい。場に何もない状況なんてデュエルではザラだろうに。

 さすが強欲なバブルマンの異名を持つだけのことはある。

 そしてバトルフェイズを終えた俺に、もう出来ることはない。伏せるカードも特にないし、この状況でターンエンドをするしかないのだ。

 

「ターンエンドだ!」

「俺のターンだぜ! カードドロー!」

 

 デッキからカードを勢いよく引き抜き、十代が手札に加える。これで十代の手札は5枚。この状況をひっくり返すには十分な選択肢があると見ていいだろう。

 事実、十代の顔はにやけているのだから。

 

「へへ、いくぜ遠也! 俺は《融合回収フュージョン・リカバリー》を発動! 墓地の《E・HERO スパークマン》と《融合》を回収するぜ! そしてそのまま《融合》! 手札のスパークマンと《E・HERO エッジマン》を融合し、現れろ《E・HERO プラズマヴァイスマン》!」

 

《E・HERO プラズマヴァイスマン》 ATK/2600 DEF/2300

 

「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を1枚捨てることで、相手の攻撃表示モンスター1体を破壊する! 当然、俺が指定するのはブラック・マジシャンだ!」

 

 その言葉に追随し、プラズマヴァイスマンから雷撃が放たれ、ブラック・マジシャンに直撃する。

 さすがの最上級魔術師も効果破壊には無力である。残念ながら破壊され、俺の場にモンスターはいなくなってしまった。

 

「いっけぇ、プラズマヴァイスマン! 遠也に直接攻撃!」

「《くず鉄のかかし》を発動! その攻撃を無効にする!」

「ならバブルマンで追撃だぜ! 《バブル・シュート》!」

「ぐぁっ!」

 

遠也 LP:4000→3200

 

「よし、俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

 どうだと言わんばかりに満足げにターン終了宣言をする十代。

 確かにライフこそまだかなり残っているものの、あちらの布陣はかなり手強い。プラズマヴァイスマンも効果が強力なうえに攻撃力が2500ラインを超えているからなぁ。

 だが、そのぶん手札が一気に消費されている。すぐに起死回生はできないだろうというのが、救いではあるか。

 

「俺のターン!」

 

 ふぅむ、なるほど。

 心の中で頷きを一つ、そして俺はカードに手をかけた。

 

「モンスターをセット。更にカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 十代はカードを引き、1枚の魔法カードを発動させた。

 

「俺は《E‐エマージェンシー・コール》を発動! デッキから《E・HERO バーストレディ》を手札に加え、そのまま召喚!」

 

《E・HERO バーストレディ》 ATK/1200 DEF/800

 

 来たか、十代のデッキの主力の1体。E・HEROの紅一点、バーストレディの登場である。

 

「バトルだ! プラズマヴァイスマンでセットモンスターに攻撃!」

「罠発動! 《くず鉄のかかし》! プラズマヴァイスマンの攻撃は無効だ!」

「なら今度はバーストレディでセットモンスターに攻撃だ! 《バースト・ファイヤー》!」

「セットされていたのは《見習い魔術師》だ! そしてその効果が発動! このカードが戦闘で破壊された時、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスターをセットできる! 俺は2枚目の見習い魔術師を選択!」

「バブルマンで攻撃!」

「なんの、再び《見習い魔術師》! デッキから《水晶の占い師》をセット!」

 

 これにより、見習い魔術師は一気に2枚が墓地行きである。ありがとう、見習い魔術師。サーチ&デッキ圧縮&貪欲のコスト確保まで行える頼もしいモンスターだ。魔法使い族には欠かせないカードの1枚である。

 そして3体全ての攻撃権を使い切った十代に、これ以上出来ることは何もない。十代は呆れたような、感心したような、そんな不思議な表情で俺を見ていた。

 

「まさか全部防がれるなんてなぁ。ターンエンドだ!」

「ま、見習い魔術師が手札に来たのは僥倖だったよ。俺のターン!」

 

 カードを引き、手札に加える。

 

「まずはセットモンスターを反転召喚! 水晶の占い師の効果により、デッキの上から2枚をめくり、その中の1枚を手札に加える。うーん、俺は《魔術の呪文書》を手札に加え、《ワンダー・ワンド》をデッキの一番下に戻す」

 

 両方とも装備カードとかひどい。

 けどまぁ、これで一応は手札も揃った。そして場には見習い魔術師のおかげで水晶の占い師というリリース要員も確保してある。

 となれば、やることは一つ。出番だぜ、相棒。

 

「いくぞ、十代! 俺は水晶の占い師を生贄に捧げ、《ブラック・マジシャン・ガール》を召喚!」

 

 手札から引き抜いたカードをディスクの上に置き、そのカードを読み込んだディスクがソリッドビジョンとしてモンスターを立体映像化させる。

 現れるのは黒魔術師の少女にしてマイパートナー。ブラック・マジシャン・ガールのマナである。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》 ATK/2000 DEF/1700

 

 そしてマナの場合は精霊であるため、ソリッドビジョン越しとは思えないリアルな反応を示す。

 そう、感情すら目に見えてわかるのだ。

 

『………………』

「……あのー、マナさん?」

 

 そんなわけで、召喚したはいいがマナの不機嫌っぷりがやばい。

 何故か敵である十代のほうに向かずにこっちを向いていることには突っ込むまい。腕を組んでこちらをじっと睨むその視線は怒っていることを明確に表しているが、それよりもマナは自分のスペックと恰好をきちんと認識するべきだと思う。

 なんといっても、マナは今腕を組んでいるのだ。つまりどういうことかというと……強調されているのだ。ただでさえ大きい胸が。あ、いや、おっぱいが。

 さすがに絶賛お怒り中のマナにそんな目を向けたら、きっと怒りの目が虫でも見るかのような冷たさに早変わりすることであろう。

 だから俺は、お怒りのマナの視線を正面から受け止めつつ、ついついソコに行きそうになる意識をぐっとこらえなければならないという苦行を強要されているのだった。

 そんな実に余裕のない状態で無言のマナと視線を合わせていると、不意にマナが口を開いた。

 

『……そういえば、マスターがサイレント・マジシャンを召喚した時、妙に嬉しそうだった』

「う」

『レベルアップした時、「サイマジきたー!」って叫んでたよね』

「いや、その……」

 

 事実だった。

 あれはある日の暇な時間に遊戯さんとデュエルした時だった。気持ちに余裕があった時であることも手伝い、つい心の声が漏れてしまったのであった。

 

『アイドルカードは私じゃないって言うし……』

「ぐ」

『レイちゃんのメール見てにやにやしてるし』

「うぉい!」

 

 ありゃ別にロリ的な意味のことではないぞ! 兄妹がいなかった俺に妹のような存在ができたんだから、そのメールぐらい喜んでもいいだろうが!

 

『それに、なんか私の扱いがぞんざいになってるしさ……』

 

 そんな突っ込みはしかし無視され、次々に唇を尖らせて不満を述べていくマナ。その大部分が俺に対するものであるのは当然なんだろうが、非常に居心地が悪いぞ。

 しかし、聞いているとその不満の大半は、俺のマナに対する対応が問題になっているようだった。要するに、自分はあまり大切にされていない、とマナは思っているらしい。

 そのことに気が付いた瞬間、俺は一瞬気が抜けた。

 だってそうだろう、俺がこの世界で一番気を許しているのはマナだ。断言してもいい。だというのに、俺がマナを大切に思っていないなんて、ありえない。

 確かにそんなことを言葉にしたことはないから、マナがそう勘違いすることもあるのかもしれない。けど、そんなこと普通は言わないだろう。だって、恥ずかしいし。そんなこと言うの。

 だがしかし、このままではマナの不満は一向に解消されず、微妙な空気を残すことになってしまうだろう。それは避けたい。

 改めて言うが、マナは俺にとって特別なのだ。なのに、そのマナとそんな空気になるなんて、御免こうむる。

 そういうわけで、俺は恥ずかしながら自分の本心をきちんとマナに言う決心を固めたのだった。

 

「マナ」

『……なに?』

 

 私怒ってます、というポーズを崩さず、しかし話は聞いてくれるらしい。

 俺はなるべく真剣な顔で、マナを正面から見つめて胸の内を素直に吐露した。

 

 

「俺にとって、この世界で一番大切なのはお前だぞ」

 

『…………………………はぇ?』

 

 

 マナがとんでもなく間抜けな声を出して固まったが、それよりも、今は自分の言葉をしっかり最後まで言い切るほうが先決だ。

 そういうわけで、とりあえず言葉を続ける。

 

「だから、俺がお前をぞんざいに扱うなんてありえない。何を言ったって、俺の中の一番はお前なんだ。信じてほしい」

 

 そうとも、色々と大変だった俺に明るさをくれたのは、他でもないこのマナだ。

 マナがいたから俺はこうしていられるし、今も笑っていられるのだ。こいつがいなかったら、俺はひょっとしたら今も暗いままだったかもしれない。

 だから、俺はマナにきっとマナが思う以上に恩と感謝と好意を抱いているのだ。これは俺の中では何物にも侵しがたい確定事項であり、変化することは絶対に無いと断言できる。

 その気持ちが、他でもないマナに通じていないというのは、やはりどうにも悲しいじゃないか。その気持ちが、今のセリフを俺に言わせたのかもしれなかった。

 ……なんだ、つまり俺が最初から素直になってればよかったってことか。

 それだけの問題だったとは、なんとも呆気ない。自分の馬鹿さ加減に思わず笑ってしまうほどだ。

 

『……な、なっ……な、なんてことをいきなり言うの!?』

 

 しかし、件のマナがこれだけ動揺しているのはいったい何事だ。

 

「いや、サイマジのあれだろ? 確かに俺はサイマジが好きだが、あくまでアイドルカードだ。カードなんだよ。俺がこの世で一番大切なのはお前だ。間違いない」

『あ……う……』

 

 顔を真っ赤にして狼狽するマナ。

 おい、そこまで動揺するなよ。言ってるこっちに羞恥心がないわけじゃないんだぞ。そんな反応されたらこっちも釣られるだろうが。せっかく気合入れて照れやら何やら抑えてるのに。

 だというのに、好き勝手に赤くなって照れやがって。ちくしょう、可愛いじゃないか。これ俺も絶対頬とか赤くなってるわ。隠しきれるわけないもん、こんな感情。

 

「だ、だからほら! 昨日のことは悪かったよ! だから、機嫌直してくれ!」

 

 自分でもう隠しきれないと悟った俺は、とりあえず照れ隠し込みでそう懇願するように言い放つ。

 いきなりの強い口調に驚いたマナは俺を見て、次第にその表情を緩めていく。きっと、俺が照れて言っていることに気が付いたのだろう。

 くっそぅ、やりづらいったらありゃしない。

 

『えへへ、もう気にしてないよ。こっちこそ、ごめんね。あんな態度とって』

「ああもう、いいよ。それよりほら、デュエルデュエル!」

 

 これ以上この話題を長続きさせては、俺の男としての沽券に関わる。こんな照れまくった男、カッコ悪いに決まってるわ。

 そう思って俺は手で十代のほうを示す。すると、マナは最後に俺の近くまで寄ってきて、頬に温かい感触を残してからフィールドに戻った。

 

「なっ……!」

『うふふー。さぁ、頑張りましょうか!』

 

 何を、と言いかけたところでマナは背を向けて杖を十代のほうに向けていた。

 わざわざこっちから聞くのも恥ずかしいし、そんな態度をとられては俺はもう何も言えない。というか、言いづらい。

 結果、俺は何とも言えない感情を胸に押し込めて、ガシガシと自分の頭をかくことになるのだった。

 

「くっそ……! ああもう、いくぞ、マナ!」

『了解、遠也!』

 

 このことはとりあえず置いておいて、今はデュエルだ。

 ある意味この仲直りのお膳立てをしてくれた十代に応えるためにも、本気で臨まなければ失礼というものだ。

 

「お、やっと仲直りしたのか」

 

 待っていてくれた十代が、気持ちのいい笑顔と共にそう言ってくる。距離もあるし、近づいた俺たちが何をしてたかなんて見えてないだろう、その顔は含むものもなく朗らかである。

 それに俺もまた笑みを返す。ちょっとまだ赤みが残る顔も、まぁこの距離なら問題ないだろう。

 

「おう。悪かったな、手間をかけさせて」

「なーに、友達のためなんだ。遠慮はなしだぜ!」

「まったく……」

 

 心の底からそう言えることが、お前の凄いところだよ。

 俺はその清々しさに、感嘆と感謝を抱く。それを口に出さないのは、まぁ野暮ってものだろう。

 

「んじゃ、ここからデュエル再開だ!」

「おう、来い遠也!」

 

 再び互いに思考をそちらに切り替える。

 ターンは俺。途中で終わってしまった俺の行動を、ここから繋げていく。

 

「ブラック・マジシャン・ガールの効果、墓地にブラック・マジシャンが1体いるため攻撃力が300ポイントアップ!」

 

《ブラック・マジシャン・ガール》 ATK/2000→2300

 

 墓地に存在する師から魔力がマナに注がれる。

 敗れた師の魂を受け継ぎ、その攻撃力が上昇していく。

 

「更に装備魔法《魔術の呪文書》をマナに装備! これでマナの攻撃力は700ポイント上昇する!」

 

《ブラック・マジシャン・ガール》 ATK/2300→3000

 

「そして魔法カード《賢者の宝石》を発動! 場に「ブラック・マジシャン・ガール」が存在するとき、手札かデッキから「ブラック・マジシャン」を特殊召喚する! デッキから来い、二人目の魔術師!」

 

 その呼びかけに応えるように、俺の場にブラック・マジシャンが再び姿を現す。

 マナの隣に並び立つその姿は、マハードほどではないにしても、やはり最上級魔術師としての貫録があるように思えた。

 

《ブラック・マジシャン》 ATK/2500 DEF/2100

 

「げっ、ブラマジの2枚目!?」

「おうとも。……バトルだ! ブラック・マジシャン・ガールでプラズマヴァイスマンに攻撃! 《黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)》!」

「ちょっと待ったぁ! 罠発動、《ヒーロー・バリア》! その攻撃を無効にするぜ!」

「ならブラック・マジシャンでバブルマンに攻撃だ! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!」

「くっ……!」

 

十代 LP:3900→2200

 

 バブルマンはこれで消えたが、プラズマヴァイスマンを残してしまったか。

 残念だが、こればかりは仕方がないことだな。そして手札も1枚しかなく、それも何かできるカードじゃない。そういうわけで、これ以上出来ることは何もない。

 

「ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 

 カードを引いた十代は、そのカードを見て悩むそぶりを見せる。

 その目は俺の伏せカード2枚に向けられているため、狙いは丸わかりだ。恐らく除去カードを引いたんだが、どちらを除去しようかといったところだろう。

 確かに俺の手札は1枚だけだし場にもそれを阻止できるカードはないが、もう少しポーカーフェイスを意識した方がいいと思う。

 

「よし、決めたぜ! 俺は《サイクロン》を発動! 遠也の場の《くず鉄のかかし》を破壊だ!」

 

 サイクロンから放たれた風がくず鉄のかかしのカードを破壊し、墓地に送る。それを見届けて、十代はよし、と頷いた。

 

「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を1枚捨て、ブラック・マジシャン・ガールを破壊するぜ! いっけぇ!」

 

 放たれる雷。これが決まってしまえば、俺の場はかなり危険な状態になるだろう。だが、俺がそれを考えていないと思ったら、大間違いだ。

 マナ自身に何の耐性もない以上、こちらでそれを用意してやるのは当たり前のことだ。

 

「その効果にチェーンして、罠発動! 《ガガガシールド》!」

「ガガガシールド? なんだ、そのカード?」

 

 聞いたことない、とばかりに首を傾げる十代。まぁ、勉強があまり得意ではない十代が知らないのは今に始まったことではないが……このカードについては仕方がないだろう。

 なにせ、こちらではまだ販売されていないカードだ。

 まぁ、そうトンデモ効果というわけではないので、ペガサスさんあたりが作っているかもしれないけど。

 さて、発動宣言と共にマナの前に現れたのは一枚の盾。青を基本とし、金と赤で彩られた縦に鋭く伸びるその盾は、その中心に漢字の「我」の字が刻まれているのが特徴である。

 それを掴み、マナは雷に向けて構えた。

 

「ガガガシールドは、発動後装備カードとなり自分フィールド上の魔法使い族モンスター1体に装備される! そして装備モンスターは1ターンに2度まで戦闘およびカード効果では破壊されない!」

「なんだって!?」

 

 プラズマヴァイスマンの雷はマナに向かうが、しかしその攻撃は構えた盾によって止められてしまう。

 無論マナは無傷であり、つまり十代は手札を1枚無駄に捨てただけになるわけだ。

 

「そんなのありかよぉ……くっそー、俺は2体を守備表示に変更してターンエンド!」

 

 十代としては、あのサイクロンでもう片方のカードを破壊していれば少なくともマナは倒されていたはずだったのだ。それは悔しくもなるだろう。

 くず鉄のかかしの再利用効果を厄介だと判断したのも間違いじゃないけどな。

 

「俺のターン!」

 

 手札にカードを加え、そしてそのまま口を開く。

 

「バトルだ! ブラック・マジシャン・ガールでプラズマヴァイスマンに攻撃! 《黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)》!」

 

 マナの杖から迸る黒い魔力の波動。それは今度こそプラズマヴァイスマンに命中し、プラズマヴァイスマンを破壊した。

 

「更にブラック・マジシャンでバーストレディに攻撃だ! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!」

「ぐぁあっ」

 

 2体が破壊された際に発生した爆風のような演出に、十代は腕で顔を覆って耐える。

 共に守備表示だったため十代にダメージこそないものの、これで十代の場はすっからかんになったわけだ。いわゆるピンチってやつである。

 

「俺はこれで、ターンエンド!」

 

 さぁ、ここからどうする十代。

 俺はそんなちょっとしたワクワク感を味わう。コイツがこんなに簡単に終わるはずがない、まだ何かしてくるに違いないという確信があるのだ。

 十代といつもつるんでいるからこそ、それぐらいはわかる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 いま引いたカードが十代の手札の全てだ。一体何を引いたのか……。

 

「俺は《強欲な壺》を発動! デッキから2枚ドローするぜ!」

 

 やっぱ、ここで引くか。

 けどまぁ、それでこそ十代だ。そうこなくちゃ。

 

「そして《ミラクル・フュージョン》を発動! 墓地の《E・HERO バーストレディ》と《E・HERO フェザーマン》を融合し、《E・HERO フレイム・ウィングマン》を融合召喚する! 来い、フレイム・ウィングマン!」

「フェザーマン!? ……プラズマヴァイスマンのコストか!」

「へへ、正解だぜ」

 

 一度も見ていないモンスターだから思わず驚いてしまったが、そういえば墓地に送る機会は確かにあった。

 しかし手札にミラクル・フュージョンがあったわけでもないのに、よく墓地に送ったもんだ。まぁフェザーマンも1枚だけじゃないし、墓地利用のカードは十代のデッキにもあるからおかしなことではないが……そこらへんも、さすがってところか。

 そして現れるフレイム・ウィングマン。十代がマイフェイバリットと呼ぶ、最も信頼するカードの1枚である。

 

《E・HERO フレイム・ウィングマン》 ATK/2100 DEF/1200

 

「更に《摩天楼-スカイスクレイパー-》を発動! E・HEROが攻撃力が上の相手と戦闘する時、その攻撃力を1000ポイントアップさせる、HERO専用の戦いの場だぜ!」

 

 次々と地面から生えるようにして出てくるビルの群れ。その中でもひときわ高い建物の細くとがったアンテナの上。この場で最も高いそこに、フレイム・ウィングマンは静かに佇んでいた。

 こりゃあ……まずい。

 

「いくぜ遠也! フレイム・ウィングマンでブラック・マジシャンに攻撃! この時摩天楼の効果でフレイム・ウィングマンの攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

《E・HERO フレイム・ウィングマン》 ATK/2100→3100

 

 摩天楼の効果により、攻撃力がブラック・マジシャンを上回った。

 ガガガシールドを装備しているのはマナなので、ブラック・マジシャンを守るものは何もない。

 

「いっけぇ、《スカイスクレイパー・シュート》!」

「ぐあっ!」

 

 フレイム・ウィングマンが右手の竜頭から吐き出した炎によって、ブラック・マジシャンが破壊される。

 そしてその差分が俺のライフポイントから引かれていった。

 

遠也 LP:3200→2600

 

「まだだ! フレイム・ウィングマンの効果発動! 戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 その言葉に従い、フレイム・ウィングマンは右手の竜頭を俺に向けて直接構える。そして、そこから吐き出される炎。ソリッドビジョンだとわかってても、結構怖いぞこれ。

 そして、今度はブラック・マジシャンの攻撃力がそのままライフから引かれた。

 

遠也 LP:2600→100

 

 そして同時にブラック・マジシャンが墓地に送られたため、マナの攻撃力がアップする。

 

《ブラック・マジシャン・ガール》 ATK/3000→3300

 

 それにしても、残りライフ100とか……。十代と初めてデュエルした時みたいだな、これ。

 俺がそんなことを感慨深く思っていると、十代が可笑しそうに笑っていた。

 

「なんか、初めて遠也とデュエルした時を思い出すぜ。あの時も遠也のライフを100まで追い詰めたんだったよなぁ」

 

 どうやら、俺と同じことを思い出していたらしい。

 それを理解して、俺は思わず噴き出した。

 

「はは、俺も同じこと思ってたよ。けどまぁ、今回もあの時と同じように勝たせてもらうぜ」

「そうはいくかよ! 今度は俺の勝ちだぜ! ターンエンドだ!」

 

 互いに笑い合ってから、俺のターンになる。

 はてさて、口ではああ言ったがどうしたもんかね。俺の手札は1枚しかない。この状況を打破することはできるが、決定打ではない。なかなか難しいが……すべてはこの引き次第か。

 

「俺のターン!」

 

 おっ、これは……いけるか?

 

「俺は《魔導騎士 ディフェンダー》を守備表示で召喚! 召喚に成功したことにより、このカードに魔力カウンターを1つ乗せる。そして、バトルフェイズ! ブラック・マジシャン・ガールでフレイム・ウィングマンに攻撃! 《黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)》!」

 

 マナの放つ魔力の波動がフレイム・ウィングマンに襲い掛かる。

 この摩天楼はアニメ効果のため、攻撃対象にされたバトルでもHEROの攻撃力は増加する。よって、マナによってフレイム・ウィングマンは破壊されたが、その差分は僅かに200ポイントに留まった。

 

十代 LP:2200→2000

 

「ターンエンドだ!」

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 十代がカードを引き、にやりと口角を上げる。

 

「俺は魔法カード《ホープ・オブ・フィフス》を発動! 墓地のクレイマン、スパークマン、バブルマン、バーストレディ、フェザーマンをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

 十代の手札が2枚に回復するが、しかし俺の場にはモンスターが現在2体いる。防ぐには一手足りない、といったところだろう。

 そして、十代は引いたカードを見て少し肩を落とした。いったいなんだ?

 

「俺は《E・HERO バブルマン》を守備表示で召喚! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

《E・HERO バブルマン》 ATK/800 DEF/1200

 

 あー……なるほど。手札に来たのがバブルマンだったのか。

 摩天楼さえなかったら追加で2枚ドローできたわけだし、肩を落とすのも無理からぬこと、かな?

 そして十代のことだ。もし更に2枚引いたとしたら、それは確実に融合だったろうに。俺としては助かったわけだが。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 よし、いくぜ十代。これで終わりだ。

 

「俺は魔導騎士 ディフェンダーを生贄に捧げ、《ブリザード・プリンセス》を召喚する!」

 

《ブリザード・プリンセス》 ATK/2800 DEF/2100

 

 水色の髪を短く切り、白と青で構成されたドレスが光を反射し輝きを放つ。頭に乗せられたティアラも相まってプリンセスに相応しい可憐な容姿を持っているカードである。

 ただ、その手に持ったあまりにも巨大すぎる氷塊と繋がる鎖付きハンマー……要するに馬鹿デカいモーニングスターが、王女様にしては物騒である。

 まぁ、ツンデレよろしく強気にフンと鼻を鳴らしている姿から、気性の強さは窺えますが。

 

「レベル8のモンスターを生贄1体で召喚だって!?」

 

 驚く十代に、俺はそれがブリザード・プリンセスの効果だと説明する。

 

「ブリザード・プリンセスは魔法使い族を生贄にする場合、生贄1体で召喚できる効果があるのさ。さて……」

 

 これで俺の場には攻撃力3300のマナと、攻撃力2800のブリザード・プリンセスが並んでいることになる。実に壮観である。目の保養的な意味で。

 とはいえ、そんなことを言っている場合でもない。これで勝利の方程式は揃った、ってところである。そういうわけで、いかせてもらおう。

 

「バトル! ブリザード・プリンセスでバブルマンに攻撃!」

「待った! その瞬間、罠発動! 聖なるバリア――……げ、なんで発動しないんだ!?」

「ブリザード・プリンセスの召喚に成功したターン、相手は魔法・罠カードを発動することはできない! ……っていうか、伏せてたのミラフォかよ! なんて危ないもん伏せてやがる!」

 

 俺の説明に、「ホントだ、凍り付いてんじゃん!」と伏せカードを見て驚いている十代。

 しかし危ない。さっきのドローでミラフォ引いてたのかよ。更に2枚引いていたらとか言ったけど、しっかり勝負を決めるカード引いてたわけだ。

 なんていうかまぁ、恐ろしいな、ホント。

 

「けどまぁ、これで怖いものなしだ! バブルマンを破壊しろ! 《コールド・ハンマー》!」

「ぐっ……!」

 

 バブルマンが巨大な氷塊に押しつぶされ、墓地に送られる。

 これで、十代までの道を塞ぐものは何もなくなった。

 

「これで最後だ、十代! ブラック・マジシャン・ガールで直接攻撃! 《黒魔導爆裂破(ブラック・バーニング)》!」

 

 俺の指示を受け、マナが杖先に魔力を溜め始める。

 そして、それを『せーの!』の掛け声とともに十代に向けて一気に放出した。

 当然ながら十代にそれを防ぐ術は最早なく。その攻撃は容赦なく十代のライフポイントを削り取っていったのだった。

 

十代 LP:2000→0

 

 デュエルに決着がついたことで、ソリッドビジョンも解除されていく。

 摩天楼の効果で現れていたビル群も消えていき、ブリザード・プリンセスもまた同じように消えていった。

 マナは……いつの間にか制服姿で実体化して隣にいた。いつの間に。

 

「くっそー! あそこまで追い込んどいてこれかよぉ!」

 

 そして十代は芝生に寝転がり、悔しさを露わにする。

 俺はそれに苦笑するしかない。実際、かなりのピンチだったのは間違いない。最後のミラフォが決まっていたら、俺の場は空っぽになっていた。そうなったら、バブルマンの攻撃でジ・エンドである。綱渡りだったのだ。

 ブリザード・プリンセスが来てくれて助かった形だ。やはりリリース1体でありながらあの攻撃力と効果は強い。頼りになるカードである。

 

「けどまぁ、サンキューな十代」

「ん?」

「お前のおかげで、マナとも仲直りできたしな」

 

 隣のマナを見て、笑みを交わす。

 十代がデュエルをしようと言わなかったら、今日一日俺はマナの機嫌を取るために四苦八苦するという、大変な一日になっていたことだろう。

 それをデュエルを通じて解決してくれたのだから、十代には感謝してもしきれない。

 

「へへ、気にするなって、友達だろ! それより、もう一回デュエルしようぜ! それに、これで明日の予定は大丈夫だろ? 一緒に探検に――」

「無理を言うものじゃないわ、十代」

 

 突然会話に入ってきた声に、俺たちは反射的に声が聞こえた方に顔を向ける。

 そこには、しょうがないなぁと言いたげな表情で十代を見る明日香の姿があった。

 

「明日香!? いつからそこに……」

「そうね、十代がヒーロー・バリアを使ったあたりからかしら」

 

 ということは、俺とマナが会話していたところは見られていない、と。

 ふぅ、危ない危ない。もし目撃されていたら、俺はソリッドビジョンに一方的に話しかける変人ということになってしまう。精霊が見えない明日香には仕方がないことだが、俺の社会的立場のピンチだったぜ。

 ん? ということは、デュエルが終わってマナが実体化したところは見られてたのか? 何も言ってこないところを見ると、摩天楼が消える演出に隠れて、明日香には見えなかったのかもしれない。

 まぁ、バレてないならいいや。それより。

 

「なんでだよ、明日香。俺はただ遠也を探検に誘ってるだけだぜ」

「そのことだけど、十代。あなた、もっと空気を読みなさい」

「だから、いったい……」

「ほら」

 

 明日香がそう言って俺たちを指さす。

 そこには当然俺と、俺の腕に引っ付くマナがいる。当社比2倍ほどに眩しい笑顔を見せているマナが。

 

「わかるでしょう?」

「ああ、相変わらず遠也とマナは仲がいいな!」

 

 明日香が確認を取るように十代に振れば、十代は笑顔でそう答えた。

 しかし、それは明日香にとって期待するものではなかったのか、返ってくるのは溜め息である。それに十代は首をかしげているが、やはり理由は分からないようだった。

 すると、このままでは埒が明かないと思ったのか、明日香は強引に十代の手を掴むとこちらに背を向けて歩き始める。

 

「お、おい。なにすんだよ、明日香!」

「遠也、マナ。明日はあなたたちは来なくても平気よ。ゆっくりしていてちょうだい」

 

 笑顔でそう言う明日香に、俺は十代と同じように困惑するしかない。「はぁ」と気の抜けた返事が出てしまったのは、まぁだから許してほしい。

 しかしマナはその意味を正しく受け取ったようで、満面の笑みで明日香に「ありがとう!」と返している。

 その後、「でも明日香さんは――」と続いたマナの言葉は何を言おうとしていたのか。それは、明日香が首を振ったことで俺がついぞ知ることはなかった。

 ただ、マナはそんな明日香に寂しげにこくんと頷き、それを見届けた明日香は十代を連れてそのまま俺たちの下から去って行った。

 微かに聞こえてくる、「私も行くから、それで我慢しなさい」とか「え、そうなの? 珍しいな」という二人の声が、なんとも平和である。

 そして残された俺たち二人は、さてどうしようかということだ。明日の遺跡探検も行かなくてよくなったようだし、そうなると何をすればいいのか。翔と隼人もいないみたいだし……万丈目のところにでも行くか?

 そんなことを考えていたその時、俺の腕に引っ付いていたマナが、俺の正面に回って下から俺の顔を覗き込んでくる。

 それに思わず面喰らってのけぞった俺に、マナはにっこりと笑ってこう言った。

 

「明日、デートしようよ!」

 

 朝の様子とは一転、すこぶるご機嫌で言われた言葉に、俺は二つ返事で頷いた。

 そうだ、十代たちがいなくなるんなら、俺たちは俺たちの時間を過ごそう。マナもこうして乗り気だし、確かにそれはいい考えかもしれない。

 

「よし、するか。デート」

「うんっ」

 

 マナは元気よく頷いて俺の腕を再び取った。俺もそれに悪い気はしない、というかむしろ高校生男子としては歓迎すべき状態に若干鼻の下を伸ばしつつ、笑顔で許容する。

 そして腕を組んだまま俺たちは自室に戻るべく歩き始める。

 さて、明日は何をして過ごそうか。そんな予定を、二人であーだこーだと話し合いながらの道のり。何とも青春くさい、気恥ずかしさすら感じる時間だ。

 しかし同時に、そうしてマナと笑顔で明日の予定を立てていく瞬間は、俺にとって実に心弾む一時であったりもしたのだった。

 

 

 

 


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