ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

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 7年前に始まったガンプラ甲子園であったが、それは選手権に中高生の部が設立されることで廃止された。
 甲子園の舞台であったインターネット上のバトルフィールドはオンラインバトルの場として、一般に広く開放された。
 電脳空間を新たな戦場にし、ガンプラバトルは激しさを増していくこととなった。

 -World Mode-

 ミッション名:ラインアーク襲撃
 依頼主:ユニオン
 報酬:20000C
 概要
 本作戦は、最近勢力を拡大しているラインアークに切り込むための先鋒となる作戦です。
 現在、ラインアークの主戦力である『ユニコーングリント』は他のミッションに出ていて、おりません。このチャンスに、入口の鉄橋付近に展開している警備部隊の排除を依頼します。


勢力戦1.ガンプラパレード・クインテット

 九州某所 総合模型店『ヨーツンヘイム改二』

 

 商店街の中にある『ヨーツンヘイム改二』は模型店とミリタリーショップが合併した特殊な店舗である。広い店舗であり、この店を経営する家族と少数のアルバイトで回している。商店街において経営者家族以外を雇っていれば、十分大型店舗を名乗ることが出来る。

 赤茶色の髪をポニーテールにした少女が、店のエプロンを付けて掃除をしていた。

 「今日はお客さん少ないなぁー」

 客入りは少ない。天気が良くて、ミリタリーショップ側に来る人はサバゲーでもしているのだろう。

 「おーい、志帆。ちょっと来てくれ」

 「あいよ」

 志帆は母親に呼ばれてレジに向かう。彼女の母親は、志帆をそのまま大きくした様な外見だった。

 「依頼だ。客も少ないし、行って来いよ」

 「ラインアークか、面白そうじゃん」

 母親がスマホで見せたのは、依頼だった。志帆の家族はガンプラバトルのオンライン対戦で傭兵のチームを組んでおり、依頼を受ける事もある。

 志帆は店の奥にあるバトルシステムに向かう。通常のバトルシステムとは違い、バトルシステムのガンプラをセットする部分だけが並んでいる。ここは店と住居の両方から入れるバトルスペースの一つだ。

 このオンラインバトルシステムや通常のバトルシステムはかなり格安で提供されており、プリンターの様に消費するプラフスキー粒子を割高にしてランニングコストを稼ぐ様なことはしない。

 そのため、通常のバトルシステムは無料、オンラインバトルシステムは格安で使えるのだ。

 『Please set your GP-Base. Beginning [Plavsky particle] dispersal』

 志帆はガンプラをオンラインバトルシステムに置く。赤いグフだ。

 『GUNPLA BATTLE World Mode,Start up.Please set your GUNPLA』

 「四条志帆、グフ・クインテット、出る!」

 『BATTLE START!』

 グフが出撃する。目的地までは大型のヘリコプターが運搬してくれるため、フィールドに出たグフはヘリに吊されていく。

 海に差し掛かり、ラインアークの入口である巨大な鉄橋に差し掛かる。

 「ラインアークは海の上か……」

 主戦力のユニコーングリントは他の作戦に行っているため不在。このチャンスに損害を与えるのだ。

 敵も馬鹿ではない。警備隊や防衛設備は十分にある。ミサイルがこちらを狙っていた。

 対空ミサイルに対し、志帆はグフの右手に握らせた90ミリマシンガンを放って対抗する。これは運送中につかうバルカンの代用みたいなものだ。

 アーマードコアと違って弾薬費や修理費の概念が無いため、思う存分ぶっ放させる。

 「機体投下! ミッション開始!」

 グフが橋に落とされて戦闘開始。グフ・クインテットはグフカスタムをベースに改造されており、シールドガトリングなど共通の武装もあるが、関節は諸事情により稼動域が広がっている。

 『て、敵だぁ!』

 『怯むな! 撃て!』

 ラインアークの警備隊は殆ど素組みのストライクガンダムやウイングゼロだ。ビームライフルとはいえ、素組みではビームコーティングを施したシールドガトリングに防がれてしまう。

 ウイングゼロのバスターライフルすら例外ではない。設定の強さはガンプラバトルにおいて意味を成さないのだ。

 「オラオラァッ!」

 ガトリングを掃射して敵を粉砕する。勢力戦では自勢力と相手勢力の規模の差によって、ハンデとしてガンプラへのダメージ量が決まる。

 同規模の勢力同士ならば両方ともダメージレベルB相当になるが、勢力差が大きいと変動する。

 比較的大きな勢力であるラインアークに対し、志帆を雇っているユニオンは小さいためラインアークのダメージレベルはA、ユニオンはBとなる。傭兵のダメージレベルはは雇われた勢力に依存する。

 こうした状況により初心者が大規模勢力に、勝馬に乗るために流入する現象は防げている。イベントでの景品はチームの成績に与えられるものもある。

 『ユニコーングリントはどうした? ラインアークのガンプラは置物か!』

 『話が違うぞ! ラインアークなら今度のイベント勝てるって……』

 グフがシールドからガトリングをパージし、サーベルを抜く。シールドに収納されていたサーベルは緑色に光っていた。シグルブレイドの様な素材ではなく、GNソードⅢ以降に使われた素材の設定なので重さに関しては問題無い。

 シグルブレイドは切れ味と引き換えに重量がとんでもないことになっているので、ここだけ作り込むとガンプラが重量過多になってしまう。『HG ガンダムAGE1スパロー』のシグルブレイドがクリアパーツではない理由はこれであると、皮肉を込めて語り種になっていたりする。

 「これで……!」

 グフはブーストを蒸す。常時使う予定は無いが、グフ・クインテットにはザク改から移植したホバーがついている。

 既存のガンプラにある機能を他のガンプラに使いたい場合、例えばEXAMシステムならブルーディスティニーの頭部を移植するなど、その機能を持ったパーツを移植すれば簡単にそれが可能だ。

 脚部にわざわざザク改の一部を使うことでホバーを確実に再現した。90ミリマシンガンもザク改からの流用だったわけだ。使わないパーツの方が多くなるが、破損したジオラマを作れば問題無い。

 「終わりだ!」

 ただ棒立ちでライフルを撃つガンダムをグフが真っ二つにした。上半身と下半身に分裂したが、ダメージレベルがAなので見た目通りにガンプラが破損するだろう。

 「ミッション終了だな」

 志帆が敵の全滅を確認すると、上空から何かが飛んできた。あの緑色の粒子は、ユニコーングリントか。

 『こちらユニコーングリント、白葉光。あなたは現在、ラインアークの主権領域を侵犯しています』

 「ホワイトグリントの真似かい!」

 ユニコーングリントは『アーマードコアFA』のホワイトグリントらしきパーツを各所に配した機体となっている。両手にライフルを持つダブルトリガーの機体で、ラインアークの主戦力に相応しい火力もある。接続の関係で、本来のシールドも装備出来る。

 「チッ、やっぱり実弾は不利か!」

 シールドを持つ手に装備した3連装ガトリングを撃つも、プライマルアーマーで弾かれる。粒子をバリアにするGNフィールドみたいなものだが、薄くて見にくい。

 『いたぞ!』

 『やはり新参は期待できんか』

 次々に他のラインアーク部隊が合流する。これはさすがに不利だ。

 志帆は撤退を考えたが、ユニコーングリントが単機でラインアークを支えうる理由である機動力から追い付かれるのが明らかなため、普通に撤退は出来ない。

 考えていると、遠方の海が光った。直後、極太のビームがユニコーングリントに直撃した。

 爆発は大きく、煙がパイロットである光の視界を覆う。

 『なんだ?』

 プライマルアーマーは一撃で減退したが、本体は無傷。即座にもう一撃が叩き込まれる。ユニコーングリントはシールドを向け、サイコフレームを展開する。

 「遠距離からの砲撃……いや、狙撃か!」

 咄嗟の反応でシールドの機能を使う腕は確かだが、それが仇となった。シールドのサイコフレームであるクリアパーツはボロボロだ。さらに煙も晴れないうちにビームが飛んで来て、シールドを吹き飛ばした。

 突然襲撃してきた敵は、わざと本体ではなくシールドを狙ったのだ。ラインアークの主戦力をガンプラの修理で手間取らせる作戦か。

 『鈍ったか? 白葉光』

 『この命中精度とごり押し、あいつか!』

 遠くの海上にいたのは、『ミッシングリンク』に登場したペイルライダーだった。深い緑色と黒が特徴的なカラーリングに変更され、バイザーは赤く光る。戦艦の残骸に陣取っていた。

 狙撃に使ったのはガンプラ一つ分はあろうかという巨大なスナイパーキャノンだ。白熱した銃身を強制冷却しているが、熱が高くて周りに陽炎が立ち込める。これ一つでツインドライヴを使っている、恐ろしい主砲だ。

 志帆はその機体の名前を確認する。

 「ペイルライダー・イェーガー……」

 『AC公式大会の上位ランカーが何の用かね?』

 『お前こそ、2年前から暴れているようじゃないか』

 両者の間で火花が散る。スナイパーキャノンが単独でトランザムし、先ほどの極太ビームが乱射される。

 『ちょ、ま……』

 『やめろ!』

 それを回避してペイルライダーに突撃するユニコーングリントと違い、橋にいた部隊はビームの流れ弾で消し墨になる。志帆はこの混乱に乗じて撤退した。

 

 「いやー、何だったんだあいつ」

 志帆はミッションを終えて店に戻る。戦いの様子は外のテレビで中継されている。客がテレビを見て唖然としていた。

 「あの機体……」

 「間違いない、奴だ!」

 何のことかわからない志帆はスルーした。すると、母親があることを告げる。

 「お、そうだ志帆。あたしも親父も、しばらく出張行くから留守番よろしく」

 「おう……って、チームは?」

 「任せた。さっきの進攻でラインアーク攻略が進むだろうから、気張りな」

 サラっととんでもないことを言う母親である。店はいつものこととして、チームは大変なことになりそうだ。




 勢力戦の動き
 現在、海上に拠点を構えるラインアークが勢力を伸ばしている。来る者拒まずの姿勢で新規層を大量に取り入れたラインアークの主戦力はACの公式大会にて入賞の常連ランカーである白葉光(はくよう・ひかる)。
 ラインアークの戦力を支えるエネルギー施設『メガリス』は防衛設備など特殊兵器を強化するため、生命線である。

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