報酬:ガンプラお年玉
依頼主:深古咲夜
概要
もうすぐ新年ですね。私が深古を勤める神代神社では演武を奉納する習慣がありましたが、村の人口減少と共に演武奉納が出来る人がいなくなってしまいました。
ですが、今年はガンプラバトルを奉納する形で復活させようと思います。皆さんの参加をお待ちしております。
12月30日 神代神社
深い山の中に神代神社はあった。万年桜に囲まれたこの神社はその桜の美しさから参拝客は多数いたが、神代村の人口は年々減少していた。
「お待ちしておりました。辰摩さんにGブレイカーズの皆さん」
「俺達はついでかよ……」
それゆえ交通の弁は不便だが、葉月の執事がいれば車での送り迎えも可能。難無く神代神社に到着した。神社で巫女をしている深古咲夜は黒髪の非常に日本的な美少女である。単にかわいい、というよりも神秘的な雰囲気を持つ少女だ。
「ヤッホー、咲夜元気だった?」
「はい! お陰様で!」
その咲夜は辰摩を気にかけているらしい。どういう理由なのかは、戦にはわからない。桜と葉月は何となく勘付いてはいる。
「相変わらず咲夜さん、綺麗ね! 女の私でもドキドキしちゃう!」
「そうならないから、辰摩を気に入ったのかもね」
「辰摩は姉ちゃんが綺麗だしな。モデルしてるんだって?」
戦は辰摩の姉を思い出す。辰摩は美人の姉を持つから、あまり美少女に迫られても緊張しないのか。要は慣れだ。
「ムーンライトプロモーション所属のね。あそこは新人のカミキ・ミライさんといい、デザイナーでガンプラビルダーの佐治晴香さんといい、美人さん多いから」
「チョリッス、嬉しいこと言ってくれるじゃない!」
桜が辰摩の姉が所属しているプロダクションの話をすると、どこからともなく声がした。
なんと、狛犬の影から巫女服の佐治晴香が姿を現したではないか。佐治は髪を茶色に染めているが、立ち振る舞いで見事に巫女服を着こなしていた。箒などの小道具を駆使し、髪色という手軽に雰囲気を変えられるものに頼らないスタイルはさすがだ。
「げぇ! 本物!」
「年末に私のムーンライトガンダムが、今年最後の黒星をくれてやろう!」
ジャーン、ジャーンと銅鑼を自力で鳴らしながら、佐治はGブレイカーズに迫っていく。桜は目を輝かせていたが、戦は苦笑いしか浮かべてない。
「噂をすればなんとやら、か」
「モデルとはいえ、実力は侮れないわ」
奉納バトルの戦略を考え始める辺り、戦と葉月は中々のバトル脳だ。
「辰摩さん、おしるこ作ったんですよ。食べます?」
「わーい、いただきまーす」
咲夜が辰摩におしるこを振る舞おうとしている。巫女は神に仕えるんだから恋愛しちゃダメなんじゃないかとかツッコミがいろいろある。
「フハハハ! 腑抜けている様だな、神代の巫女よ!」
「その声は……」
それを笑う声が上空から響いた。罰当たりなことに鳥居に立っているのは、金髪のシスターだ。
「『雷神の家』のシスター、レア!」
「何しに来たんだ?」
チーム『サンダーハウス』が暮らす施設のシスターさん、レアだった。レアは鳥居から飛び降りて、ツカツカと歩いてくる。これまた戦は苦笑い。
「今日は決着を付けに来たぞ」
「何のさ」
「決まっている、果たして巫女さんとシスターはどちらが優れているのか、だ!」
レアなんと、そんなどうでもいいことを決めに来たのだ。相変わらずのフリーダムっぷりだ。
「日本は全く嘆かわしい。萌えキャラといえば巫女さんだ。私は神の子として悲しく思うぞ。そこで、私は多くの人にシスターの魅力を布教することにした!」
「布教する内容が間違ってるぞ!」
このシスター、神の教えよりシスターの魅力を布教しようとしている。宣教師の片隅にも置けない奴だ。こればかりは、シスター派の戦も擁護出来ない。
咲夜はレアを無視して話を進めた。
「あのシスターは放っておきましょう。それより、バトルの内容を説明します。バトルは奉納の演武の方式に乗っ取ります。バトルのルールは簡単、巫女である私を辰摩さんが迫る敵勢から守り抜いて下さい。巫女を守れる戦力を神に示すのが、この奉納演武です」
「なるほど、人手がいるよね。で、なんで俺が護衛?」
人口減少で演武の奉納が出来なくなったのは、その必要な人数ゆえ。辰摩も配役以外納得した。
「それは……辰摩さんのガンプラなら一対多でも大丈夫と信ずるからです。あと、この役は男性じゃないと」
「俺は大丈夫じゃないと申すか」
辰摩の疑問に、咲夜は顔を赤らめてもじもじしながら答えた。不満があるのは戦だが、デュナメス・イェーガーは実際に多数と戦えるのだが見た目はそう見えないというのも事実。
「佐治さんには防衛側の巫女をして貰います。敵役は皆さんでお願いします」
「護り手としての巫女も必要なのね。任せて!」
そんなこんなで、辰摩、咲夜、佐治の巫女チーム。戦、葉月、桜、レアの襲撃チームに別れた。
『Please! set your GP-Base.Beginning [Plavsky particle] dispersal』
神社の建物内に運び込まれたバトルシステムで奉納演武を開始する。
『GUNPLA BATTLE Combat Mode.Damage Level,Set to B』
さすがにダメージレベルはB。新年早々、ガンプラの修理から入りたくない。
『Field11, Please set your GUNPLA』
対戦フィールドは桜舞うお城。中々今回にピッタリなフィールドとなった。
「権堂辰摩、ラファエルガンダムフィジカル!」
「深古咲夜、ガンダムメイデン! 参ります!」
「佐治晴香、ムーンライトガンダム。出るよ!」
『BATTLE START』
巫女側のガンプラが一斉に出撃した。ラファエルガンダムフィジカルはベースのラファエルこそ改造されていないが、『頭の上の人』ことセラヴィーⅡが大幅に改修されている。ビッククローがガトリングに、キャノンがグレネードランチャーになっている。手持ち火器もマシンガンに変更され、GN粒子を防御と機動に集中出来る。まさに、『高速の盾』となれる機体だ。
咲夜のガンダムメイデンはガンダムナドレをベースにしており、脚部が紅い袴型のホバーユニットになっている。武装も薙刀であり、巫女みたいな機体だ。咲夜の技術だとさすがにコードの髪の色は変えられないが、桜色のコードは万年桜の反映にも見える。
ムーンライトガンダムは最新作『Gのレコンギスタ』に登場したジャイオーンベースのガンプラ。佐治がジャイオーンを選んだ理由はかつての愛機である1.5ガンダムに色が似ているから。特徴的なバックパックを排し、両腕にビームサーベルを出せる篭手を、両手に月の様な形のクリアパーツ製実体剣を装備したガンプラとなっている。
「来ます!」
敵側もガンプラが出撃した。アメイジングエクシアを真っ白に染めた、葉月の『ガンダムスノーホワイトエクシア』と桜のGアルケインが空から迫る。アルケインはオレンジの宇宙用パックを背負っている。スノーホワイトエクシアもただ白くなっただけではなく、なんとオリジナルのブラスターを装備している。
「地上もいるんだよ!」
レアの機体はザクⅠに追加装備を施した『ザク・インペリアルクロス』。背中のミサイルポッド、両手のサブマシンガンが追加装備となる。カラーは通常である緑のまま。この追加装備、実はお菓子などのプラスチック容器から出来ている。
こんな装備だが、そこは旧と名の付く新キット。稼動範囲は未改修でも問題無い。
「言葉は不要か……」
『戦闘システム、機動。ランカーMSを確認。ラファエルガンダムフィジカルです。敵は大火力のバックパックを装備、長時間の停止は危険です』
『U1、ターゲット確認、オペレーションを開始します』
『U2、軽量二脚確認』
『U3、システム、スキャンモード』
問題は戦だ。いつものデュナメスイェーガーかと思いきや、なんと横に自律型のモビルスーツをいくらか配備しているではないか。
「UNACが俺に合わせる必要は無ぇ、俺がUNACに合わせればいいんだ。これが『イェーガー・フォーメーション』!」
UNACとして出撃したのは緑の『ガンタンク・イェーガー』と『ガンキャノン・イェーガー』、そして『アイザック・イェーガー』。どれもガンプラ製作の練習で作り上げた機体だ。
ガンタンク・イェーガーは両肩に散弾を放つスラッグガンを装備、両腕をマシンガンに換装することで遠距離支援機であるガンタンクを近接突撃機に変えた。ガンキャノン・イェーガーは色以外変更が見られない。
アイザック・イェーガーはアンテナやセンサーを増設。狙撃手である戦の観測手になる。
イェーガー・フォーメーション。それは良く言えばワンマンアーミー、悪く言えばボッチームの戦がアーマード・コアの領土戦を生き抜く為に生み出した戦法。UNACを敵陣に突っ込ませ、敵をあぶり出して狙撃する作戦だ。
城の中庭に巫女チームがおり、戦は現在、城の外堀が見える丘にいる。UNACに敵を突撃させて追い出すのだ。
「よし、侵入したぞ」
ガンキャノンとガンタンクが城内に侵入した。戦闘開始だ。城の入口は三つ。そこから葉月、桜のペア、レア、UNACが隈なく侵入する。レアだけ単独なので、戦はレアの方を押し切って辰摩達が離脱すると考えていた。
なので、レアが侵入した入口に銃口を向けた。コトブキヤ製MSG、ヘビーウェポンユニット『ストロングライフル』だ。モビルスーツの身長より長い銃は、威力、射程共に十分。フィールドアウトギリギリまで後退して待ち構える。
「来い……」
スナイパーの戦闘が始まった。
辰摩は敵の侵入に気付き、移動を考えた。城の中庭では敵に囲まれてしまう。
「敵反応! 2、2、1! 1の方から離脱しますか?」
「いや、多分そっちは戦が狙撃準備して待ち構えている。1機しかいない方に誘導する気満々だよ。敢えて葉月のいる方へ行こう」
咲夜の判断を却下し、辰摩は強敵である葉月のいる方に進む。城の入口3つは離れており、狙えるのは精々2つまで。逃げ道に選ぶのは数で圧せるレアか実力で劣るUNAC。その入口を狙おうとすると、葉月と桜が入った入口は城の影になって狙えないだろう。
「来たね」
「行かせません!」
葉月のエクシアと桜のアルケインが戦闘を始める。だが、エクシアのブラスターとアルケインのライフルは長いので城の廊下では取り回し難いだろう。
「ムーンライトなら!」
その点、武装が短いムーンライトガンダムはその二つを抑えながら攻撃出来る。剣でブラスターとライフルを取り押さえ、足裏からビームサーベルを出して蹴り倒す。この鮮やかさ、さすがは佐治。
「しまった!」
「やっぱ強い!」
佐治の尽力で無事城から脱出。だが、その瞬間巨大なビームが襲ってきた。
「危ない!」
散開して回避したものの、正確な射撃だった。この射撃は戦からのものだ。
「葉月と桜から通信貰えば、どこから出たか解るんだよ!」
戦はあまり移動していない。長距離射撃では数センチのズレが着弾点では数メートルの誤差になる。つまり、逆手に取れば手先を数センチ動かせば予定ポイントから離れた相手でも射程に入れられる。
「戦の射撃は正確だ! 城を影に……」
「させるか!」
辰摩は城を盾に射線から逃れる手を使う。それは戦も予測済みで、レアとUNACを向かせる。
「えい!」
「痴れ者め!」
ムーンライトがレアのインペリアルクロスと交戦、咲夜もUNACとの戦闘に入った。辰摩も参戦したので、UNACはすぐに全滅した。
ガンキャノンをガンダムメイデンが真っ二つ、ガンタンクはラファエルのガトリングで蜂の巣だ。
「また来た!」
そうこうしている間にライフルのチャージが終わり、ビームが飛んで来た。動けば避けられるが、当たれば撃墜は避けられない。敵に気を取られていた咲夜は動けず、辰摩のGNフィールドに守られて助かった。
「すみません!」
「いいっていいって、それより射程が広いね」
普通は撃った後に追撃されない様に移動する戦だが、今回ばかりはむしろ撃ちやすい場所へ移動している。射程が長いからだと辰摩はわかっていた。辰摩のGNフィールドなら防げる攻撃だが、佐治がレアと戦っている以上、辰摩が接近して戦を討つしかない。いくらガトリングやグレネードでも、あの距離には届かないし、ましてや当たらない。
「辰摩さん、私は避けます! 接近して撃破して下さい!」
「え? でも……」
「このままではじり貧です!」
そこで、咲夜は覚悟を決めた。このままでは辰摩のGNフィールドも押し切られかねない。辰摩は戦に向けて、ラファエルを進めた。
「こちらの勝利条件からして、辰摩をこちらに引き付けたあと巫女に向かってトランザムで離脱した方がいいな。こちらの武装は実弾、トランザムの悪影響は受けない。となると、ここで巫女を狙撃するより、引き付ける最中に狙撃で運よく辰摩を始末出来たら万々歳だな」
戦も作戦を練り直す。辰摩は友人だけあり、一番戦の癖を理解している。つまり、戦にとって当てにくい相手なのだ。
「そのまま狙っては避けられる。咄嗟に避けるなら利き手の側、つまり相手の右側に標準をずらして撃つ」
「……と、戦はそう考える。だから左に避ける!」
戦が引き金を引いた瞬間、辰摩は左にラファエルを傾けた。ビームは先ほどまでラファエルがいた場所の右側を突き抜ける。戦の読みは外れた。
「と思うじゃん? ハズレだ!」
しかし、ビームは一発で終わらずに照射され続ける。ビームのモードを切り替えたのだ。辰摩をビームが追うのだが、これならむしろ居場所は丸わかり。ラファエルはそこへ向かう。
「甘いな」
だが、それは戦の作戦通り。ラファエルが敵に接近すると、ビームを撃っていたのはアイザックだった。戦のデュナメスはいなかった。
「しまった!」
辰摩は戦の姿を確認する前に回避した。戦なら自分に向かって狙撃するはずだ。そして確かにビームがやって来る。避けていた辰摩はビームの来た方向を見る。そこにはデュナメス・イェーガーがいた。
戦の狙撃はアイザックに当たり、ライフルごと爆発させる。すると爆煙がGN粒子と共に撒かれた。
「レーダーが!」
GN粒子で一時的にレーダーが効かなくなる。その隙に戦は武器を持ち替え、ラファエルの背後に回っていた。
「貰った!」
「甘いね、ラファエルは後ろが死角じゃない!」
だが、ラファエルの背負う頭の上の人がその死角を消してくれる。いつの間にか分離していたガトリングは前と後ろの戦がいそうな場所を狙っていた。
「しまった!」
ガトリングで蜂の巣となり、デュナメスも撃墜される。既にレアも征圧されており、勝負は決した。
『BATTLE ENDED!』
「いやー、ラファエルじゃなかったらヤバかったよ」
「つーか、よく俺の狙撃を何回も避けたな」
戦いの後、辰摩と戦は話し合っていた。互いの手の内を知る者同士の戦いは苛烈だ。
「戦ってスナイパーというより選抜射手(マークスマン)だからハイドシーカーの白雪よりは射撃の正確性劣るよね」
「言うな。ACで狙撃出来る様になったのはつい最近なんだから」
アーマードコアのスナイパーライフルは単なる長射程武器。戦の狙撃手としての腕はFPSで磨かれたものだ。それでも、芋らない仕事する狙撃手程度の腕である。
「ぐぬぬ……結局こうなるのね……」
辰摩に近付こうとする咲夜だが、親友同士が好きな事についてあーだこーだ話していると近付き難い。
「ま、ゆっくり内堀埋めてきな」
「そうだ、修道服着たら?」
佐治もそんな咲夜にアドバイス。レアは単に咲夜のシスター姿を拝みたいだけだろう。
そんなこんなで、新年を迎える準備は完了。新しい年もガンプラバトルは止まらないのだ。
ライバルチームお茶会
サマリー「もう、レアったらすぐ他の女の子に浮気して……」
虎之助「仮にも女好き、元来はそういうものだろう。俺もいい声の女には目が無い」
クリム「さすが夕日ヶ丘学園のプリンス、女心がわかるではないか」
虎之助「女心では無い。同士の気持ちだ」
サマリー「ま、確かにかわいい娘は放っておけないね」
姫華「む……やたら私が『お姉様』と呼ばれる原因を垣間見た気がするな」