ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

27 / 31
 この世界について
 ガンダムビルドファイターズ第23話『ガンプライヴ』で数多くのガンダムキャラのそっくりさんが確認されたこの世界。スタッフの証言によればこの世界では非業の死を遂げたガンダムキャラが幸せに暮らしているらしい。
 ラルさんは言わずもがな、次元覇王流の師匠はドモンだし、なかなかカオス。


12.イサリビ

12.イサリビ

 

パチンコパーラー『プロミネンス』駐車場

 

駅前のパチンコ店は、朝っぱらだというのに部分強化で脳みそやられたギャンブル中毒が殺到していた。

この世界では、乞食めいてパチンコパーラーを渡り歩く情けない出来損ないのニンジャアナキストもいないので、のうのうと営業ができていた。

満車となった駐車場を歩く、一人の少年がいた。彼は見る人が見れば、『鉄血のオルフェンズ』の主人公、三日月・オーガスに似ていると言うであろう。

彼は駐車場を歩き、車の窓を覗き込んでいた。そして、ある車で足を止めた。

その車の中には、小さな子供がいた。少年は迷うことなく、運転席の窓ガラスを懐から取り出したハンマーで破壊し、扉を開ける。

 

夕日ヶ丘市 市街地

 

土曜日ということもあり、戦達Gブレイカーズは街に出ていた。目的はガンプラの購入。戦以外のメンバーは先日の戦闘でガンプラが大破し、来週の天城高校との練習試合までに修理せねばならなくなった。

単純に直すのもいいが、せっかくなので改造もしようという話になった。

「辰摩の姉ちゃん、免許持ってたんだ」

「取ったばかりだから怖いよ」

戦と辰摩は、車から降りながら免許の話をする。辰摩の姉が免許を取りたてなので、レイモンドを助手席に乗せて練習も兼ねて街へ来た。

「これがイサリビちゃんですか」

桜が目的の店を見上げる。茹でたエビみたいな色合いの店舗であり、看板には『イサリビ』と鉄華団の戦艦めいた名前が掲げられている。

「イサリビのオーナーであるマルバさんは犬好きでして、お父さんが犬のイベントで知り合ったんですよ」

「へぇ、こっちのマルバはちゃんと社長してるんだ」

葉月は父を通じてマルバと知り合った。戦は軽口を叩きつつ、葉月がキサラギの社長令嬢であることを思い出した。

戦の父もキサラギのエンジニアである。だが、葉月は社長令嬢の地位を振りかざすことが無い。そのせいか、戦達も割と葉月の立ち位置を忘れていることが多い。

「おう、来たな」

店から、浅黒い肌の男性が出てきた。この人が店長の雪之丞である。なんでも、この店は両足が義足の雪之丞の為に、友人としてマルバが用意したんだとか。中々、昔からの友情を感じる話である。

「雪之丞さん、こんにちは」

葉月は丁寧に挨拶をする。やはり育ちが違う。雪之丞の後ろから、数人の子供達が出てきた。

「鉄華団のそっくりさん?」

戦はその顔ぶれを見て驚愕する。どれも、鉄華団のメンバーに似ているのだ。

「安心しな、阿頼耶識は埋まってねぇよ」

雪之丞もジョークを言いながら、一同を案内する。

店内は広く、ガンプラのみならず戦車や戦艦の模型も揃っていた。

「これなら選びたい放題だね」

辰摩達は早速、ガンプラ選びに取り掛かる。戦はガンプラが破損していないため、強化用の武器を中心に買おうと思っていた。

「そうだ、せっかくならうちの若いのとバトルしてかねぇか? 俺はバトルは苦手だがよ、こいつら結構強いんだぜ」

「バトルか……まともなファイターとバトルしたのいつ以来だ?」

雪之丞からバトルの誘いを受け、戦は考えた。思えば、東京での一戦以来はほぼ全部生徒会との戦いで、まともなファイターとやりあったのはそれが最後だ。アリーナにも挑戦したが、低いランクの相手としか戦っていない。ランク1とも戦ったが、決着まではついていない。

「よし、やりましょう」

戦は誘いを受ける。このまま弱いのばかりと戦っていては、自分の実力まで下がりそうであったからだ。

「そうか。おーい、シノ、昭宏! バトルだぞ!」

雪之丞がシノと昭宏を呼んだ。見事にそれぞれ、オルフェンズの登場人物とそっくりである。

「おう、バトルか! 腕が鳴るな!」

「ちょうど、ウズウズしていたところだ」

二人来たのを見て、早くも買い物を終わらせていた葉月が話に加わる。

「二人ですか……では私もやります。アカツキが残っているので」

「早ッ! 買い物早ッ!」

最初から買うものが決まっていて、かつお金の心配が無いとここまで買い物が早く済むものなのか。戦は普段親から渡された食費をいかにケチってゲームに回すかを考えていたので、葉月が羨ましかった。

 『『Please set your GP-Base. Beginning [Plavsky particle] dispersal』

バトルフィールドは火星の荒野。戦は火星と聞いて、アーマードコア2を思い出さずにはいられなかった。

 『Please set your GUNPLA. BATTLE START』

『ノルバ・シノ、流星号!』

『昭宏・アルトランド、グレイズ改!』

「羽黒戦、デュナメスイェーガー!」

『如月葉月、ビルドアカツキ!』

戦のデュナメスは、左肩のアームに滑空砲を装備していた。右肩のアームは短くして、ミサイルに換装している。デュナメス本来のシールドもフルで装備し、防御特化仕様だ。両手にはサブマシンガンを装備している。

シノの流星号は右手にライフル、左手にショートバレルライフルを持ったダブルトリガー。昭宏のグレイズ改はライフルとシールドを装備した形だ。

「へぇ、葉月ってアカツキも使うんだ」

戦は葉月がアカツキを使っているところを見たことがなかった。

思えば、葉月が初めて戦の前で戦った時は破損したサテライトストライクを使用していた。その後、すぐザクプレリュードに乗り換えたため、以前の機体を知らなかったのだ。

「行くぞ!」

戦はシールドに左手のサブマシンガンを懸架、滑空砲を展開して遠距離から狙い撃つ。

『やるようだな!』

砲撃は昭宏に直撃したが、シールドで悠々と防がれてしまった。反撃に放った昭宏のライフルが、遠距離からも戦に当たる。

「あのライフルでこの距離を?」

『腕が立つようですね』

シールドで事なきを得たが、相手は油断出来ない実力者だ。

「つーか、あんま強くなってねぇな、俺」

今までの相手が弱すぎて、戦は最初より腕が上がっていなかった。デュナメスが小ジャンプで敵を翻弄するも、流星号は斧に持ち替えて接近戦を仕掛ける。

『そのくらい!』

「How do you like me now?」

接近に反応し、戦はサブマシンガンとミサイルを全て放った。咄嗟の反撃であった。しかし、流星号は上へ飛んで回避する。

「しまった!」

『今度はこっちから行くぜ!』

頭上から斧を振り下ろされ、デュナメスはそれをまともに受けてしまう。回避を試みたが、撃ち尽くしたミサイルポッドがデッドウエイトになって間に合わなかったのだ。

頭部が破損し、センサーが弱まる。

「パージする!」

戦はミサイルポッドとサブマシンガンをパージする。そして、滑空砲を手に距離を取った。

スコープを覗くも、先ほどの攻撃でノイズが掛かっている。これでは得意のクイックスナイプも不可能だ。

「無理か」

戦は即座に諦めたつもりだったが、既に流星号は再度接近していた。滑空砲を戻す余裕も無く、戦は斧による攻撃を当てられる。

「接近戦しかないか!」

戦は滑空砲とシールドもパージし、ビームサーベルを手にした。だが、斧とサーベルのぶつかり合いでは押されていた。

そして、遂にコクピットに直撃を受けてしまう。

「何ィ!」

戦が撃墜され、残るは葉月のみ。彼女はライフルを捨て、サーベルを手にした。

『どうしたんですか? 前生徒会長との戦いでは圧倒していたではないですか』

「あれは俺にもようわからん」

一斉に飛びかかるグレイズ達をいなしながら、葉月は疑問を持つ。自分に勝てない相手を倒した戦が、急に弱体化している。

(無理もないか。戦はいくら操縦技術があっても、まだガンプラを仕上げられていない。それに、デュナメスの戦法が戦に合っていない)

葉月は戦が根っこからのレイヴンであることを見抜いていた。戦はデュナメスと同じスナイパーであるものの、それはACを駆る前提での話。モビルスーツの操縦とは違う。

(少し調べましたが、アーマードコアというロボットは接近戦に弱いみたいですね……それを操る戦もまた然り)

葉月はアーマードコアについて、下調べをしていた。ACはモビルスーツと異なり、近接戦闘の手段に乏しい。

以前、戦が黒星を付けられた高崎菊乃との戦闘。その時は回転する敵の腕をサーベルでかい潜る対応を選んだが、ミスして直撃を貰い、そのまま撃墜された。

『戦さんもガンプラ、新しく作ったらどうです? いい機会です』

「新しいガンプラ……ね」

戦は葉月の勧告を、少し悩んで飲み込んだ。

 

新しいガンプラを作る。そう決まればガンプラ選びが始まる。

「一度、レイヴンの戦い方から離れた方がいいのか?」

戦は、自分の可能性を広げるためにレイヴンとしての戦法を捨てることを考えた。だが、葉月はそれを肯定しない。

「私達はチームで戦っています。近接戦闘が苦手なら誰かに任せて、長所を伸ばした方がいいですね」

中高生の部はチーム戦。戦が一人ですべて担う必要は無い。近接戦闘ならば葉月、元剣道部だという桜が得意だ。もし菊乃が加入すれば、さらにショートレンジ対応が厚くなる。

葉月はどちらかといえば接近戦を得意とするが、チームメンバーの得手不得手に合わせてレンジを変えるくらいの柔軟さはある。

桜はまだ初心者で、その様な期待は葉月もしていない。元、天才剣道少女がどんなものか知らないが、近接戦寄りの能力だと葉月は仮定している。アルケインに仕込まれたシールドのバーナーを活用し、継続時間の短いバスターソードを使いこなす様子から判断した。

辰摩はグライヴァーチェの性能から、中距離での支援が得意と葉月は考えている。あまり近距離に人が増えても困るため、戦と辰摩の男子チームにはそのままこのレンジに残って貰うことにした。

チーム戦のいい所は、何より『一人ですべてしなくていい』ところだと葉月は考える。漫画作品『機動戦士クロスボーンガンダム』において、木星帝国はクロスボーンに優るモビルスーツを作ることが出来なかった。ではどうしたか。

簡単な話である。三つのモビルスーツを作り、それぞれ一点だけにおいてクロスボーンに優る機能を与えたのだ。それを死の旋風隊という優れたチームで運用し、クロスボーンを追い詰めた。

一人で相手を超える必要は無い。二人で越えればいいのだ。よって、戦が今苦手な近接戦闘を克服する必要は無い。

「戦さんが得意な戦い方に合わせて選んでください」

チーム戦のイロハを踏まえ、葉月は戦に告げる。レイヴンの戦闘というのは、レイヴンである戦にしかわからないところもある。自分で指示するよりも彼の自由に任せた方が確実と葉月は思った。

「レイヴンの戦い方ねぇ……」

戦はグレイズ改の箱を手に取り、その姿を確認した。

「こいつの頭なんかクレスト製っぽいな」

「インスピレーションは大事です」

グレイズ改の角張った頭部がクレスト頭の様で、戦は実家の様な安心感を感じていた。

「よし、じゃあこいつをベースにしてみるか」

グレイズはオプションも多く、カスタムがしやすい。葉月もオススメの機体だ。

「おやっさん、今日は賑やかだね」

戦のガンプラが決まったところで、新たに人がやってきた。今度は三日月・オーガスに似た少年である。

「三日月か。遅かったな。アトラの嬢ちゃんは?」

アトラのそっくりさんまでいるのか、雪之丞が所在を聞く。

「パチンコ屋で赤ん坊の放置があってね。窓ガラス割って助けたからアトラに任せてきた」

「相変わらずやることが思い切ってるな」

雪之丞は三日月の発言を軽く流す。その三日月は戦達を確認した。

「ああ、この人達ね。Gブレイカーズって」

そして、早速懐からバルバトスのガンプラを取り出す。既にやる気満々だ。

「ちょうどこいつの練習したかったんだ。メイスと違って、まだ太刀は慣れてないからね」

「太刀? 私剣道部だったから練習付き合えるかも」

太刀と聞いたのか、その話に桜が割り込んだ。そういえば桜は元剣道部だったと戦は思い出す。

「そうなんだ。じゃあ、練習相手頼もうかな」

三日月も桜に付き合ってもらうことにしたようだ。

「俺は、こいつのカスタムをしないとな」

戦はグレイズ改を手に、新たな決意を固める。やっと始まるGブレイカーズの挑戦、そのためのガンプラ制作だ。




 次回予告
 戦「ついにお披露目! 俺の新戦力!」
 葉月「練習試合の相手は手始めに、仙堂中学校の『レッドバロン』です」
 桜「私達も新しいの作っておくね」
 葉月「次回、『グレイズイェーガー』」
 戦「まぁちょうどいい腕かな? 初陣の相手にはさ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。