とりあえずジョーズとデイープブルー見ておけ。あとシャークネードとゴーストシャーク。それ以外はクソ映画だ気を付けろ。
夏の合宿ということで、Gブレイカーズはビーチに来た。ここは夕日ヶ丘市の隣にある、海に面した磯野市である。日本にしては珍しく透明な海が特徴なのだ。
「海だー!」
桜と葉月、辰摩が海へ突撃していく。戦は砂浜でその様子を見ていた。実は戦、泳げないのだ。水着にすらなっていない辺り、本気で泳げないとのこと。梅雨が明け、ギラギラ太陽が降り注ぐ。
男の水着はさておき、女子の水着を見て行こう。桜はアルケインカラーのツーピース、葉月は白のフリルが付いたワンピースタイプとなっている。桜の方は発育がいいが、葉月はそうでもない模様。どこかとは言わない言えない。
「水はACの天敵なんだよな……」
砂浜に残った戦は、辺りを見渡す。砂浜にサメらしきヒレが出ているが、ここは希少種の『サンドシャーク』がいることで有名だったりする。砂を泳ぐだけで、人は襲わない。そもそも、人を襲うサメが少数派なのだ。
「ゴーストシャークまでいる。一体何なんだこの海は……」
近くにあった水を溜めたバケツから、サメの幽霊が顔を出す。この海、サメだらけである。このビーチはサメと泳げるビーチとして有名で、世界からサメの愛好家がやってくるほどなのだ。
戦は一人、海の家へ向かっていった。ここの海の家はやけに人が少ない。あまり人混みが好きではない戦は、この海水浴場含めて人がいないのは好都合だった。
「とりあえず、なんかするか」
戦が海の家に入ると、そこにはガンプラバトルのバトルシステムがあった。だが、やはり海まで来てガンプラバトルをする人はいないのか、誰も使っていなかった。
「なんだこれ?」
戦は使われていないバトルシステムの上に、新聞が山盛り乗せられているのを見つけた。その新聞には、磯野市の海に関する記事が書かれていた。
「人食いサメ出現? あいつら、人は襲わないだろ?」
新聞には、人食いでないと周知されているサメ達を人食いと騒ぐ記事が書かれていた。
「おいおい、サンドシャークの主食は植物の根だろう」
「いらっしゃいませ。そうなんだ、最近、この新聞が辺りにばら撒かれる様になってな」
戦が一人で新聞に文句を言うと、後ろから女性の店員さんが話しかけてきた。よく焼けた肌と茶髪が特徴の、競泳水着の上からTシャツを着た女性だった。戦と同い年くらいの女の子である。
「新聞の名前は、宵越新聞か。相変わらず学の無い連中だ」
嘘の記事を書いているのは宵越新聞。どうせどこからか金を貰って書いているに違いない。ともかくサメというのは風評被害を受けやすい生き物で、あのジョーズが公開された時は人食いではないサメまで駆除されたのだ。
「話は聞いているよ、暁中学の皆さん。あたしは鮫島中学の青島牙子。夏はこの海の家を手伝ってるんだ」
「鮫島中学って、水泳が有名な?」
戦も鮫島中学の名前は聞いたことがあった。水泳、海の世界で知らぬ者無し、と言われる名門校だ。公立の中学だが、泳ぎが苦手な子供が通うと数ヶ月で素潜り出来る様になると噂だ。
「俺、泳げないから、そんな学校入ったら地獄だな」
戦は泳げないのに鮫島中学に入った場合を想像してゲンナリする。屋外、屋内にプールを持ち、一年中水泳の授業している様な学校は、泳げなければ地獄だろう。
「さすがに無理はさせないさ。何なら、鮫島式の水泳指導、受けていくかい?」
青嶋もその地獄出身。泳げない戦に泳ぎ方を教えてくれるらしい。
「というか、話って?」
「ああ、Gブレイカーズのリーダーさんからな。海ならではの特訓を用意しているらしいぞ」
青嶋は葉月から、何か相談を持ちかけられたらしい。海でする特訓とは何なのか、ガンプラバトルに関係のあることだと思われるが。
「名付けて! 海の家主催! ガンプラバトル勝ち抜き戦だ!」
「勝ち抜き戦?」
青嶋が宣言したのは、ガンプラバトルによる勝ち抜き戦。このバトルシステムを用いて、ビーチへの集客を図るというわけだ。
「ルールは簡単、ダメージレベルBのバトルで勝ち続ければ豪華景品をプレゼント!」
青嶋が用意していたのは、スイカやバーベキューセットだった。見事にプラモを作る層のライフスタイルとかけ離れたチョイスだった。
「肝心の参加者がいない様だが?」
「うーん。海に入らなくていいイベントなら来ると思ったんだけどなぁ」
ただ、挑戦者が誰もいなかった。青嶋は海に入らないイベントならサメを怖がる人も来るはずだと思っていた。これでは勝ち抜くことも出来ない。その時、後ろから二人に声が掛かる。
「ふふふ、このビーチへ通じる道は封鎖した!」
「誰だ!」
声の主は二人組のスーツの男。こんな暑いビーチにスーツとは、何をしに来たのか。
「我々は夕暮市の広報担当、磯野市のビーチを封鎖して観光収入を減らし、夕暮市へと合併させるために来た!」
「新聞の記事もこいつらの仕業か?」
スーツの男達は、夕暮市の広報担当だった。磯野市の観光を阻害して税収を減らし、財政危機にして合併を狙っていたのだ。恐らく市長の指示だ。
「では早速、景品をいただくとするか」
「そうはさせるかよ!」
男達は勝ち抜きバトルに参加して景品をせしめる気でいた。戦も彼らの好きにさせる気は無い。ガンプラを取り出してバトルの用意をする。
フィールドは荒野。戦のガンプラはある事情により、最新作『鉄血のオルフェンズ』から参戦する量産機、グレイズを改造したものだ。所々黒い塗装があり、緑の比重が大きいのもイェーガーシリーズでは異端だ。
「グレイズ・イェーガー、ミッション開始!」
装備はバルバトスのウエポンセットからシールドとランスを選択。ACの戦法を捨てたこのスタイルこそ、戦に課せられた課題でもあった。
『扱い難いガンプラだって話だが、新型が負けるわけねぇだろ! 行くぞぉぉ!』
相手は皮肉な事に、ガンダムバルバトス。ライフルやシールドではなくメイスを装備した、確かに扱い難そうなガンプラである。
敵はバルバトス2機に加え、ジムを複数連れていた。バイザーが赤く発光し、誰の操作も受けずに動く。
「UNACか、面倒だな」
『これが我々に支給された最新鋭のガンプラだ! お前達は勝てない!』
バルバトスやジムはかなり作り込まれていた。発言からして、誰かが用意したものなのだろうか。
『2対1は卑怯だろ。あたしもやるよ』
「青嶋か」
戦に青嶋も加勢する。使用するのは、ダンプや新幹線、ドラゴンに犬といった奇妙なロボット達。後ろから紫の潜水艦も迫っていた。
『手裏剣合体!』
ロボット達が合体していき、人の形になる。紫の潜水艦は分離してサーフィンしているロボットとなる。胴体となったダンプにはロボットが乗れるスペースがあった。そこに紫の潜水艦から分離したロボットが乗り込み、頭に手裏剣がくっつく。そして流れるどこかで聞き覚えある声での合体音声。
『ワッショイサーフィン! ワッショイサーフィン! シュリケンジン、サーファー!』
何と現行の戦隊が使用するロボットだった。手裏剣戦隊ニンニンジャーより、シュリケンジンのエントリーだ!
「アイエエエエ? シュリケンジン? シュリケンジンナンデ?」
戦はニンジャリアリティショックを起こした。というか、なんでミニプラのシュリケンジンを持ち出したのか。単色形成だからシールによる色分けで、結構作り込むのは大変なはず。青嶋はキッチリ塗装して仕上げている。
「なんでそれなんだ?」
『ロボットでサーフィンしたくてな。あんまりいないだろ? 戦隊にも水系メカは少ないだろ』
「最強形態からハブられて泣いているハリケンドルフィンだっているんですよ!」
青嶋がこれを選んだのは、ロボットでサーフィンをするため。戦隊には水系メカが少ないというが、ニンニンジャーの前にニンジャの……戦隊! をしていた人たちの水系メカは最強合体から仲間外れだったりする。ハリケンドルフィンは初期形態の旋風神で右腕を務めあげ、二号ロボとの合体である轟雷旋風神では右腕をリストラされても健気にバルカンを務めたのに、最強合体の天雷旋風神では完全リストラ。
レッドのメカであるハリケンホークなんて頭部とかいうハリケンレオンにでも格納しておけばいいものしかせず、そのくせ新合体が出る度にサポートメカがわざわざ兜の追加パーツになってくれるという優遇っぷりだ。本当ならハリケンホークも頭部の変更に伴ってリストラされても仕方ないというのに。
『へぇ、そんなメカもいたんだ』
ただ、青嶋はそんな悲しみを背負ったメカは知らなかった。戦隊マニアではなく適当に見繕ってシュリケンジンサーファー持ってきただけなので知らなくて当然だ。
製作側も反省したのか、翌年のアバレンオーでは爆竜プテラノドンがなくても形にはなるデザインだったが、劇中でプテラノドン無しの合体をやるもいつもより弱いという展開があり、プテラノドンの有用性を見せつけた。リデコ商品のバクレンオーにはプテラノドンに対応したメカいなかったけどね。
戦隊ロボの話はそれくらいにして、バトルが始まる。プラ粉が空気を読んでAC2よりフライトナーズのテーマを流してくれた。
『何人来ようが同じこと!』
「そりゃこっちのセリフだ」
自信満々だった男達だったが、先行したジムがグレイズのランスとシュリケンジンの剣に貫かれる。シュリケンジンはそのままジムを捨て、敵に突撃した。グレイズはジムを刺したまま進む。
「そらよ!」
戦は敵のど真ん中にジムを投げ込み、爆発させる。ジムの爆発が煙幕となり、バルバトスとジムは前が見えない。
『なんだ? あいつ、どこへ……』
バルバトスを操縦している男が辺りを見回すと、何かが破壊される音がする。そして、グレイズが煙幕から飛び出る。
『うぉぉ!』
「チッ、さすがにこいつまでは無理か」
バルバトスはなんとか回避したが、ジムは全滅していた。一方、青嶋と戦っているバルバトスは必殺技でジムごと潰されていた。シュリケンジンがサーフィンしながらジムを洗い流す。
『なんだと?』
『はい、残念』
これであっという間に残るはバルバトスのみ。とうとう追い詰められたというわけだ。
『何故だ! このバルバトスは最強のはず!』
「てーい」
男が混乱している間に、バルバトスはグレイズに貫かれた。実に呆気ない幕引きだった。
「お、覚えてろよ! 夕暮市は合併で覇権を手にするのだ!」
男達は涙目で逃亡した。合併で覇権とはなんぞや。とにかく、海の平和は守られた。
「ミニプラをここまで塗るとはな。関節もポリキャップで補強してある」
「ルアー作る技術が役に立ったな」
青嶋は海の家でルアーを販売していた。その技術でミニプラのシュリケンジンを作り込んだのだ。当然、サーファー形態以外も作っていた。
「忍者の戦隊ってハリケンが丁度世代だな」
「他のオトモ忍も集めちゃったよ。シノビマルと合体でシュリケンジン、ドラゴマルが搭乗してシュリケンジンドラゴ、パオンマルとでシュリケンジンパオーン、UFOマルと合体でシュリケンジンUFO、あとこのスレイヤマルと合体でスリケンジン!」
「オリジナルオトモ忍……」
中には、オリジナル形態のパーツまで。一体どんな合体音が鳴るというのか。
こうして、無事に磯野市は夕暮市の策略を乗り越えた。ちなみに景品は葉月を倒した緑のズゴッグ使いが持っていった。
青嶋牙子
『学園軍記スクールブラッド』よりゲスト参戦。水を操る15級長だ! 誰もが口をつぐむ悲惨な『鮫島事件』を起こしたシリーズの重要人物だぞ!
なお本編。
シュリケンジン
青嶋が選んだガンプラ、というより食玩のミニプラ。関節を改造して稼動範囲を広げた。結果、腕になるシノビマルとドラゴマルが中央部に搭乗できなくなり二セット用意したのは内緒。もっぱらサーファー形態で使用。
スレイヤマルとの合体形態ではスリケンジンとなり、合体すると『ワッショイニンジャ! ワッショイニンジャ! ドーモ、スリケンジンです』と音声が流れる。
また音声解析の結果、『ワッショイレイヴン!』とかいう音声も……。