ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

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 6年前にプラスフキーパーティカルシステムエンジニア、通称PPSEが所有していたプラスフキー粒子とバトルシステムの管理は、マシタ会長の消息不明と大元であるアリスタの紛失によって、粒子そのものを新たに開発したニルス・ニールセン博士を擁するヤジマ商事に移された。
 ガンプラの機能制限と引き換えに破損を抑えた『ダメージレベルB』の導入により、最大の懸念を取り払われ多くの子供達がガンプラバトルを始めた。
 天敵とも呼べる相手が出現してしまったロボットゲームは完全に廃れたか、といえば嘘になる。ガンプラバトルでは味わえない物を求め、シリーズの熱狂的ファンは未だロボットゲームから離れていない。ガンプラバトルは家で出来るものではないことも大きな原因だった。
 人型機動兵器、アーマード・コアを駆る傭兵『レイヴン』、時には『リンクス』、『ミグラント』達も、そんな中の一人だった。

 -Chapter1-


Chapter1 夢への旅
1.ラストレイヴン(前編)


 夕日ヶ丘市 暁中学校 教室

 

 暁中学校は田畑が並ぶ田園地帯にある中学だ。総生徒数は300にも及ばず、老朽化した校舎の耐震工事は予算が在籍する夕日ヶ丘市から降りてこない。

 近年、アホの市長が都市部を真似て学校選択制を導入したため、生徒数は激減していた。学校選択制においては、本来立地から不利が想定される学校を対象から除くなど配慮がされているが、所詮は猿の物真似なのでそんなことしようともしない。

 朝練の無い生徒はゆったりと登校するのだが、生徒の殆どが運動部である暁中では、この時間通学路を歩く人が少ない。桜がまだ散り切らないこの時期でも、新入りを早めに鍛えたい部活はウザったいくらい活発に動く。

 「眠……」

 そこを歩くのは、これといってわざわざ地の文に書くほどの特徴もない少年だった。強いて言えば、『ザ・現代っ子』と言うべき細身、中性的ではある。校門前では、教師が立っていた。ジャージに竹刀を持ったコテコテの体育教師だ。

 「羽黒戦、遅刻だぞ」

 「まだ10分前ですよ。自前の腹時計くらい直しといて下さい」

 体育教師を軽くいなし、羽黒戦は教室を目指す。廊下の掲示板には『ガンプラバトル選手権中高生の部』の開催を告知するポスターが貼られていた。

 「参加してほしいならバトルシステム買えよ」

 戦が不満げに呟く様に、暁中にはガンプラバトルのためのバトルシステムが無い。これでは、部活として立ち上げるのも困難だ。ガンプラを作っているらしきクラスメイトもいるが、どうしようもない宇宙世紀厨なのでアナザー系に知識不足で負けること請け合いだ。

 (あの虹か……)

 戦だって本当はガンプラバトルがしたいのだが、近くにバトルシステムが無いのでなかなか機会も無い。ガンプラは最近買って作ってみたが、それを動かす日はいつになるのか。

 廊下を歩いている途中、見慣れないながら暁中のセーラー服を着た女子を見つけた。

 (後輩……いや先輩か?)

 クラスメイトの顔を覚えていない戦には、先輩か後輩なんて尚更見覚えがない。だが、見た瞬間『見慣れなさ』が彼の中で高まった。

 切り揃えた前髪に、長く艶やかな黒髪。制服は指定通りキッチリ着込み、髪が揺れる度に鼻をくすぐる甘い香りは人工の香料ではない。大体の女子は安いガムみたいな匂いがするものだ。

 後輩、と思ってから先輩かと思い直したのは、中学の制服を着ながらも毅然とした自立感を感じたからだ。

 教室には既に朝練を終えたクラスメイト達が集まっていた。汗くささに鼻を、わざと大袈裟につまみつつ、戦は席に着いた。後ろにはぽっちゃりした男子がいる。

 「朝練もねぇのに早いな辰摩。三文は今時銀行でも両替して貰えねぇぞ」

 「遅れない様にね。早起きの家系でさ」

 後ろの席にいる権堂辰摩は戦の友人である。周りで騒ぎ立てる男子達と違い、二人は落ち着いて話をする。

 「今日になるまで聞き忘れてたけどさ、アーマード・コアの大会どうだった?」

 「今水曜日だろ、忘れ過ぎ。そうだな、決勝トーナメントまでは行った。正直、ガンプラバトルに人口食われててあのレベルはさすがレイヴン達だ」

 まず、話題は数日前の大会。ロボットゲーム『アーマード・コアシリーズ』はロボットをカスタマイズして遊ぶアクションゲームだ。

 ガンプラバトルがブームの今でも根強い人気があり、大会も開かれる。世界中でガンプラバトルがブームとなっているが、その『自分で作ったガンプラで戦う』自由度以上に、ゲームであるが故にパーツの種類に制限があるものの、その世界観にハマるプレイヤーも多い。

 「で、今回の大会はどんな大会だっけ?」

 「『フォーミュラフロント杯』はUNACの大会だ。ほら前に言ったろ、自分より強いプログラム組んだ、って」

 戦が参加した『フォーミュラフロント杯』はその中でも特殊なルールで行われる。UNACと呼ばれる無人ロボを戦わせる大会なのだ。その地区大会に戦は出た。

 最新作『ヴァーディテクト・デイ』で追加されたUNACはプレイヤーがロボットを操作するのではなく、プレイヤーがロボットを動かすプログラムを作るのだ。つまり、事前に入れたプログラムだけで戦い、戦闘中の命令や操作は一切不能。

 これは制作スタッフがゲームには欠かせない敵キャラのAIを作る為に使ったプログラムを流用したもので、ぶっちゃけると社長すら『何がなんだかわからないがアリ!』と言って採用したレベルのもの。プロが扱う様なものなので、0から構築するのは大変困難だ。

 「なんか凄そうに聞こえるよね、プログラムっていうと」

 「それでもプレイヤーが扱える様になってるからな。要は『敵にこれだけ近付け』、『この武器をこの割合で使え』って数字を入れたりする感じだし」

 難しく聞こえるが、ゲームなので本格的過ぎるプログラムは要求されない。C言語は不要で、必要なフォーマットが始めから組まれており、プレイヤーは細かい調整をするだけ。戦にも出来るわけだ。

 「そういえば転校生が来るらしいよ」

 「サル山の様子からして、女子だろうな」

 しかしにわかに騒がしいクラスの様子が、戦には気になっていた。件のサル山から一人の男子がやって来た。戦が男子の群れをサル山というのにはそいつの風貌に原因がある。なるほど、正にサルだ。

 「おい戦! 生徒会長として話がある! これはどういうことだ!」

 サルは実は生徒会長らしく、一々大声を出して何かのプリントを見せる。それはツイッターのツイートを印刷したものだった。何か画像も貼られている。

 「わざわざコンピ部の平部員に用事とは、生徒会は暇なんだな。あと一々大声出すな、お前と違って小声でも聞こえる」

 「なんでこのロボットの肩に校章がマーキングされてるんだ! 答えろ!」

 そのツイートは先ほど戦と辰摩が話していた『フォーミュラフロント杯』を主催者が呟いたものだ。準々決勝の対戦カードを呟いている。

 「ロボットじゃない、アーマード・コア、ACだ。コンピ部の活動だから校章付けたに決まってんだろ」

 「ゲームの大会が部活に認められるか!」

 「UNACのこと話したら何か認められたんだから文句言うなよ。時代遅れのアタックNo.1め」

 こうした奇妙な活動が認められるのは、やはり暁中自体が特色を求めているからに違いない。弱小の癖に練習ばかり辛い運動部しかないのは魅力に欠ける。今ある部活は野球部、バレー部、剣道部、コンピューター部、吹奏楽部、文芸部、科学部、手芸部、美術部となんとも当たり障りの無い品揃え。あとは部活とも言えない様なアイドル研究部や地味に活躍している園芸部と技術部。これで田舎なのでは『家が近い』以外の理由でわざわざ選ばない

 田舎なのはいいが、最近ではマスコミが『町に住もう!』とキャンペーンを始め、田舎の悪いところばかり報じている。事件報道でも田舎で起きるものばかり取り上げ、戦は陰謀の臭いを感じずにいられなかった。

 「しかもこれで負けたのか! お前、これ以上学校の恥を晒す気か!」

 「大会の勝敗に恥もあるか。決勝トーナメントまでは行ったんだよ、バレー部と違ってな」

 「何を……!」

 生徒会長はバレー部員でもある。随分と痛いところを突かれたものだ。何よりバレー部は毎日体育館を占領して、多数の予算を注ぎ込んでこの始末。一人で入賞までしてきた戦とは差が酷い。

 「ゲームしか出来ないくせに偉そうに……まずは成績を上げろ! お前自分が学年何位かわかってんのか!」

 遂に困って論点ずらしだが、戦も成績ばかりは平均程度。というか運動神経もそれほど高くはない。

 「はいそろそろ朝の会始めるぞ」

 担任が教室に入って来て、口論は中断される。担任はスーツを着た真面目そうな男性教師だ。

 「今日は皆さんに新しい仲間が加わります」

 転校生のお知らせにクラスが沸く。教室に入って来たのは、戦が廊下で見た女子だった。

 その女子は黒板にカツカツと名前を書く。女子特有の丸文字ではなく、習字の題字みたいな達筆だった。書き慣れない黒板とチョークでこの腕前。ただ者ではない。

 「はじめまして、如月葉月です」

 「では如月さん、羽黒くんの隣に座って下さい。そう、そこのエッーと、地味な男子です。ぽっちゃりした男子の前に座っている」

 その女子、如月葉月は戦の隣に座る。戦は担任にすら特徴を挙げられないほど地味なのだ。ついに周りの人まで目印にし始めた。

 「道理でなんか隣空いてると思った……」

 戦も地味扱いは慣れたもの。それより4月から空いていた隣が気になっていたのだ。

 「その羽黒戦くんは先日ゲームの大会で入賞しました。地区大会とはいえ凄いですね」

 「え? なんのゲーム?」

 「アーマード・コアってロボットゲームなんだ」

 「話すと長くなるのでその辺にして、出席取りますね」

 アーマード・コアの話はスルーされ、出席を取ることになった。

 

 朝の会が終わり、葉月は戦にさっきの話を聞こうとしていた。

 「さっきの話ですが……」

 「え? アーマード・コア?」

 「そう、それ。アーマード・コアっていうんだ……。他のロボットには興味ある? 最近流行りのアレとか」

 葉月はアーマード・コアを足掛かりに、何か他のロボットに戦を辿り着かせようとしているようだ。戦もそれを知ってか知らずか、話を進めた。

 「ああ、ガンプラバトル? 一応ガンプラは組んだけど、バトルシステムが近くに無くて」

 「そう。バトルシステムが近所に無いのは困るね」

 戦はガンプラバトルをする気自体はあった。だが、肝心のバトルシステムが無いので一度もバトルをしたことがない。この学校にも、ガンプラバトル部が無いためバトルシステムも無いと、戦と辰摩も思っていた。

 「そう、じゃあ……」

 「如月さん、次移動教室よ。一緒にいこう」

 話の続きをしようとしたら、葉月は女子に連れていかれてしまった。完全なアブダクトだ。葉月を拉致したのはアイドル同好会の部員だ。

 「ホラホラ、羽黒なんかと話したらロボットが移るよ」

 「ロボットって伝染病だったのか……」

 この年頃の女子は男子に敵対心があり、この学年では特に羽黒を警戒していた。

 「ロボットなんてどれも変わんないんだからさ」

 「それより『サイクロン』どうよ? 最近きてるんだって!」

 「いや、私はそういうの……」

 葉月はあまりアイドルに興味が無い様だ。戦はその気持ちがよくわかった。女子が手にするクリアファイルのアイドルなど誰が誰だかわからない。同じ種類同じ装備のモビルスーツを見せられている気分だ。

 「フラジールとゲルニカの違いが見抜ける様になってから口を出そうか」

 アーマード・コアのフラジールとゲルニカは出演作品こそ違えど、前者は全体の形を『穴』、後者は頭を『干』で示せるほど特徴的な機体で、ネタ的にもストーリー的にも印象に残る機体だ。

 それと比べたら最近の量産型アイドルは実に無個性だと戦は思う。当然だ、アイドルなんて全員軽量二脚なのだから。

 「はーやれやれ、女子が全員アイドル好きなわけないのになぁ」

 「はいはい、女心がわからない奴は黙ってる」

 わざと聞こえる様に愚痴をこぼしても、それが当たり前だと思う人間には効果がない。次の授業は音楽。戦には音楽の心得が無いのだが、リコーダーのテストがあるので練習はしてきた。

 「おい」

 「なんだ懐古厨」

 音楽室に移動している最中、後ろから一人の男子生徒が声をかけてきた。生徒会長とよくつるむ山田だ。

 「アナザーとかいうSF考証無視のご都合主義機体でガンプラバトルを汚そうとするのはやめるんだな」

 「は? お前第7回の決勝戦がストライクとエクシアだったの忘れたの? ていうかロボットが2本足の時点で細かい事気にしたら負けだ」

 「あんな『おれのかんがえたさいきょうのがんだむ』大会を引き合いに出すな。まともだったのはレナート兄弟くらいだ。ケンプファーから乗り換えたメイジンには失望した」

 この山田はガンダムが好きな戦と辰摩からは『懐古厨』と呼ばれるほどの宇宙世紀原理主義者だ。二人はどの作品でも好きだが、山田は宇宙世紀しか認めない。新しいものを叩いて通ぶる、悪いガノタの見本だ。

 「お前らごときが大会に出ようなど考えるな。目立つ真似をすればこの学校の評価に関わる」

 「かーっ、評価ですか。子供の癖に大人の真似事ったー生意気な。ビビってんのを隠してるだけじゃねぇの?」

 戦の不満な点は、この学校の多くの人間が学校選択制が導入されて以来、評価を気にしていることだった。評価を純粋に気にしているのではなく、自分の臆病の言い訳に評価を持ち出すのが尚苛ついた。

 「お前と違って俺は考えて動けるんだよ」

 「動くとこまでやってから言えよ」

 子供の未熟さに大人みたいな理屈をくっつけるもんだから、結局何も出来ないばかりか他人の足を引っ張る。戦は何かをやらかしたくてウズウズしているのに、邪魔が入る。

 

 「じゃあ、ガンプラバトルに興味はあるの?」

 「あるっちゃあるんだがな……」

 「俺もー」

 給食の時間、葉月は戦と辰摩にガンプラバトルのことを聞いた。席が近いおかげで、こういう時に助かる。

 「ガンプラかぁ……なんだか難しそうなのよねぇ」

 近くに座るのはこの三人だけではない。背の順では最前列になるだろうほど小柄な女子の野崎桜も近くにいた。眼鏡にボブカットが特徴的な女の子で、葉月と比べると目立たないが可愛い部類である。

 「では、ガンダムに興味は?」

 「うーん、無いかも」

 「意外だ。二人と仲がいいから興味あるとばかり」

 桜はガンダム自体に興味はない。戦や辰摩と仲いいのは一年生の頃、初めての席替えで単に近くなったから。

 よく見ると、辰摩もぽっちゃりしているだけで特徴は少ないし、桜も小さいがやはり目立たない。この三人、地味グループなのか。

 「それより、ここの給食室は何かあったのですか?」

 「それだったらいくらマシか。今日もキンッキンに冷えてやがるッ……!」

 葉月は会話をやめ、給食の内容に話を移す。戦は暗に葉月の予想をハズレと示した。

 給食はなんと仕出し弁当。これでもかというくらい冷えており、おまけに薄味。弁当というのは冷めた状態を想定しているため味を濃いめにしているものだ。

 その『冷めた』というのも常温で冷めただけの話。わざと『冷やした』のとはわけが違う。

 「今日は筑前煮か……」

 「一番素材の味出さなきゃいけないメニューだよね……」

 もう慣れた、といわんばかりの態度で辰摩と桜は、箸で蒟蒻を摘む。戦と葉月も筑前煮を箸で摘んで食べていく。

 ふと見ると、この四人は他のクラスメイトより上手く箸が使えているみたいだ。

 「昨日の高野豆腐といい、嫌がらせか!」

 「……、食べながら喋るな!」

 口に固形物を含んだまま喋る生徒会長を戦が叱る。戦はちゃんと飲み込んでから喋っている。

 「なんでそんな素材の味重視なものばかり弁当で……」

 「給食室使わせろよ!」

 葉月はこの状況に戸惑いを隠せなかった。食べ終えた戦が虚しさを隠し切れていない。この学校、何があったのか。

 「なんで給食室は使えないんです?」

 「うちの馬鹿市長が『他の学校は給食室無いから使うな』ってさ。学校選択制導入しておいて武器奪うなよ……。しかも他は給食センターとはいえ『給食』なのに……」

 戦は大体の事情を知っていた。これは不満が出ても仕方ない。しかも弁当ではおかわりが出来ないではないか。

 給食というのは一人当たりの量こそ平等だが、少食の生徒から大食いが余分を貰うことで何とか釣り合いが取れていたのに。

 「さて、それより、ですね」

 葉月が咳ばらいをして、気を取り直す。何か話したいことがあるのだろうか。

 「転校の予定が知らされてから、既にガンプラバトル部を作る手続きは進めていました。後は部員です」

 葉月は既にガンプラバトル部の設立準備を進めていた。それに戦、辰摩、桜は乗った。

 「よっしゃ! ガンプラバトル出来る!」

 「入る入る!」

 「何だかわからないけど、人数水増しなら協力するよ!」

 「ありがとう。バトルシステムなら実はあるらしいから、今日の夕方にでも引っ張り出そう」

 葉月の情報によれば、バトルシステムも実は学校にあるようだ。それなら何故、その情報が生徒に伝えられていないのか。

 「さ、冷や飯のことは忘れて放課後のことを考えましょう」

 「放課後……?」

 「え、放課後ですよ」

 葉月が弁当箱を閉じて放課後と言い放った。桜を始め全員が首を傾げる。この地域では休み時間を『放課』というのだ。

 意味合いとしては『放課後』が『課』から『放』った『後』、『放課』が『課』から『放』たれる、といった感じだろうか。

 「とにかく、まずはガンプラバトル部を作る! そして部室とバトルシステムの確保!」

 「あ、スマン。俺今日は用事でいないんだ。5時間目終わったら早引きだ。東京へ出張なんだ」

 葉月が予定を述べるが、今日の戦には用事があった。それも、かなり面倒な用事だ。

 「用事か、なら仕方ないですね。今日は申請しても部室がどこになるか決めるのは夜中の職員会議になりそうですし、申請だけで終わりそうだから大丈夫です」

 「戦は筋肉無いからバトルシステム運ぶにしても戦力にならないよ」

 辰摩はフォローになっていないフォローをする。今日はあまりやることもなさそうなので、戦の出番も無いだろう。

 

 5時間目の後、戦は早退していった。どうやら、編入試験とやらがあるらしい。親が決めたことなので、戦本人のやる気は推して知るべし。

 バトル部を結成することになった葉月、辰摩、桜はバトルシステムを運び出す事にした。体育倉庫にバトルシステムは眠っており、完全に倉庫の肥やしだ。

 体育館ではバレー部が練習をしていた。これだけ練習しても強くならないのだから弱小は悲しい。

 「17年ほど前、この学校は中古でバトルシステムを買っているの。まだ普及していない、その時期にね」

 「だったらなんで使わないんだ?」

 葉月はこのバトルシステムの事を知っていた。だが、辰摩は高値だっただろうそれを使わない理由がわからなかった。それでは完全に、使った資金が無駄になる。

 「これで動けば儲けものね。とにかく運びましょう」

 葉月が運び出そうとするが、バトルシステムはわざとマットや跳び箱で隠されていて出すのは大変そうだ。

 「うんとこしょー、どっこいしょ」

 「それでもカブは抜けません」

 いつの間にか、バトル部の面々は園芸部の畑でカブを抜いていた。学校の外に、園芸部が誰も使わなくなった農地を借りて畑をしているのだ。

 「いやー、ありがとうね。カブ抜いてくれたから約束通りバトルシステムの運搬手伝うよ」

 辰摩と桜が苦戦したカブを園芸部の部長の女子は軽々引っこ抜く。頭に巻いたタオルとジャージがよく似合う先輩だ。

 葉月は人手不足の園芸部と交渉し、カブの収穫を手伝う代わりにバトルシステムの運搬を手伝って貰うことにしたのだ。

 「ほい完了」

 バトルシステムは園芸部の手ですぐに体育倉庫から運び出された。さすが、園芸部は筋力が違う。バトルシステムは六角形のユニットが一つだけの小さなものだ。

 「よし、早速動作テストね」

 コンセントを繋いで電源を入れると、バトルシステムは起動した。まだタンクにプラスフキー粒子が残っているらしい。

 『アナタノ ガンプラヲ セットシテクダサイ』

 「システム音声が初期型のものね」

 葉月が白いアカツキガンダムとGPベースをセットする。正常に起動し、アカツキガンダムは発進した。ステージはコロニー内の町だ。

 「わぁ、綺麗!」

 ガンダムをよく知らない桜は粒子の美しさに感嘆する。バトルが開始されると、CGではなくシステムに内蔵されたガンプラが敵として現れる。

 「ん? ガンプラが内蔵されている?」

 「ストライク……いや違う?」

 辰摩が出て来たガンプラ、ストライクガンダムをよく観察する。アンテナが改造され、なんと背中にサテライトキャノンを背負っているではないか。

 「ただ組み替えただけじゃない。基本に忠実に、墨入れや艶消しまでしてある……なんでこんなガンプラが中古の装置に?」

 そのガンプラは謎に満ちていた。中古の装置に入っていたのだが、それが学校に買い取られて17年も経つ。そのガンプラが装置の所有者の手で仕込まれたのか、それともかつて装置を使った先輩が仕込んだのか。見当が付かない。

 「撃ってきた! さすがに威力はサテライトキャノンほどではないか……」

 ストライクは何らかのエネルギーを受信し、キャノンを撃つ。機体が古いからか、設定のせいか、ビームは太いが威力はそれなり程度だ。

 アカツキはビームを避けて距離を詰める。

 「デューテリオンビームを利用した送電システムでチャージ。なるほど、コズミック・イラっぽい」

 アカツキがサーベルを抜くと、ストライクもサーベルを出して来る。背負い物が邪魔臭そうだが、接近するアカツキに対してストライクも怯むことなく突撃する。

 ストライクの鋭い突きをアカツキは二本のサーベルで防いだ。

 「まさか、ビルダーは突撃戦が本領か?」

 キャノンの時以上に生き生きとした動きを見せるストライクに、葉月は気付いた。ビルダーの癖がコンピューターに出ている。

 「だが!」

 アカツキは足でサーベルを蹴り飛ばし、ストライクの首筋にサーベルを突き付けた。

 『ショウシャ キサラギハヅキ』

 「ここまでとしよう」

 ガンプラの破壊を避けてバトルを終える。だが、葉月も勝ったとは思ってなかった。

 (ストライクがサテライトキャノンを撃った時、突撃戦に切り替えた時、性能が落ちていなければこちらがやられていた。17年か、このビルダー、今頃どれほどの強さを……)

 「やったね葉月!」

 「これでガンプラバトル部設立だ!」

 桜と辰摩はとにかく、バトル部設立の目処が立ったことを喜ぶ。葉月も次にやるべきことはわかっていた。

 「じゃ、早いところ粒子タンクの申請と、システムのアップデートを受けないとね。ダメージレベルBが無いと、毎回練習でガンプラを壊すことになる」

 ガンプラバトル部は戦抜きで着々と発進しようとしていた。だが、それを快く思わない者も何故かいた。

 「バレー部の練習の邪魔しやがって……先生、何故あいつらを放っておくんです?」

 猿みたいな生徒会長だ。練習をしながらもバトル部を気にしている辺り、練習に身など入ってはいない。

 「話くらい聞いとけ。ガンプラバトル部が正式に認められて、部室が決まるまであそこを使わせる事にしたと言っただろう。あそこにボール転がすなよ。コントロールの練習だ」

 先生に追及しても軽くかわされる。練習の前に説明されたのをまるで聞いていなかった様だ。

 「ガンプラバトル部……学校の秩序を乱す奴は生徒会長の俺が許さん!」

 逆恨みがバトル部に危機を招こうとしていた。




 次回予告
 桜「羽黒くんって東京で何してるの?」
 戦「頭がおかしくなりそうな校舎で編入試験。秋葉原に寄らないと損した気分だ!」
 葉月「次回、『ラストレイヴン(後編)』」
 戦「よく見ておくんだな!」

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