ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

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 ミッション名:第一次メガリス襲撃
 依頼主:黒い鳥
 報酬:不明
 概要
 ラインアーク、なんだかきな臭い空気を感じる。それも、古参メンバーの預かり知らぬところでな。新参が組んで何かやらかす気なのかもしれん。
 真相はわからん。とりあえず、ラインアークを突っついて確かめるとするか。俺は本拠地をロイと襲うから、お前はメガリスでも揺すってくれ。


勢力戦4.罪人と白き閃光

模型屋 ヨーツンヘイム改二

 

はす向かいシリーズを終えた志帆達は、ヨーツンヘイムに戻ってゆっくりしていた。アッシュがガンプラを探していた理由は、バトルで大きく損傷したからだ。

「実は、このストライクも本命の機体ではないんですよ」

「え? こんな凄いのにか?」

志帆はアッシュの可変ストライクが本命でないと聞き、驚きを隠せなかった。これほどオリジナリティーに溢れた機体が予備に過ぎないとは、この小学生何者なのか。

「前のバトルで損傷してしまって、制作の練習で作った機体を使っているんです」

「そんな激しいバトルを小学生がするのか」

小学生なら普通、ダメージレベルBのバトルが普通のはず。ガンプラが破壊されるほどのダメージは無いはずだ。志帆はますますアッシュのことがわからなくなる。

「ネット対戦ですからね。勢力戦ですよ」

「勢力戦なのか。どことやりあった?」

アッシュは勢力戦に参加していた。もうこの辺りから氷霞は話についていけない。どこと聞かれても、外国の町の名前と同じ様に聞こえてしまう。

「ラインアークと、スローネシナーです」

「ラインアークガンダムとスローネシナーガンダム?」

何とかついて行こうとするが、志帆は「違う、そうじゃない」と言いたくなった。まだザクもガンダムもみんなガンダム状態の氷霞なのであった。見ていたのが『ガンダムW』だったため、まだリーオーの方が区別付くとのこと。

「ラインアークは、ユニコーングリントを駆る白葉光が率いる大規模チームだ。対して、フリーの傭兵であるのがスローネシナーの十月神無だ。どちらもリンクス上がりの実力者だな」

「その実力者と戦うために、機体の強化が必要なんです」

アッシュはメモに何かの番号を書いた。この番号は、勢力戦におけるバトルを記録したビデオの番号だ。勢力戦で起きた戦闘は自動で撮影され、参加者にビデオコードが渡される。このコードでバトルを記録した動画が見られるのだ。

「ビデオコードか。なら、アップデートされたバトルシステムの力を見ないとな」

志帆の提案で、アッシュと氷霞はちょっと変わった動画の鑑賞をすることになった。

最近のアップデートで、バトルシステムにもこのビデオ閲覧機能が追加された。平たく言えば、バトルシステムで戦闘を再現できるのだ。

「場所は、ラインアークのメガリスか」

戦闘していたのはタワー状のエネルギー供給施設『メガリス』。ラインアークの拠点にエネルギーを送る重要な設備なのだ。

海の上なので、飛行状態でガンプラが到着する。そのガンプラはスローネでもユニコーンでもなく、オーバーフラッグだった。

つまり、この機体がアッシュの本命なのだ。オーバーフラッグはランチャーストライクの主砲、アグニをリニアライフルの代わりにポン付けした、歪な機体だった。アグニの側面には、リニアライフルがつけられている。腕にはランチャーストライクからバルカンを移植。大きい主砲の取り回しの悪さをカバーするスタイルだ。

「ほう、この機体チョイスは渋いねぇ」

志帆が期待する中、戦闘が始まった。

 

数日前 ラインアーク領内エネルギー供給施設『メガリス』

 

メガリスは広大な領地を持ちながら個々の戦力差に大きな開きのあるラインアークにとって、それぞれの拠点を十分に活かすには必須の施設であった。ラインアークを狙うチームは、まずここを攻略する必要がある。

『しかし、人数が増えるってのもいいことばっかじゃねぇな』

『そうだな』

メガリスを見張っていたガンキャノン初期型とガンダムアストレアが愚痴を溢す。彼らはラインアークの古参メンバーだ。

ガンキャノンは腕がマニュピレーターに変更され、黄色く塗られていた。腕の変更に比較的塗り難い黄色のカラー。制作技術は確かな様だ。右手に持っているのはマシンガン、左手には火炎放射器だ。

アストレアもエクシア系列には困難なバックパック増設を行い、ネクストAC風味に改造している。

他の警備ガンプラは、どれも素組。ラインアークはその強大さと加入条件の甘さから、イベント景品狙いの参加者が多い。制作、操縦共に覚束ない割に指示を聞かない新参者に、古参は頭を悩ませていた。

『このままじゃ、他のチームに首位取られちまうぜ』

『なんとかせねばな』

古参が話していると、メガリスの警報が鳴り響く。敵のガンプラがメガリスに接近しているらしい。

『よし、敵襲だ。新参共は無視だ、俺たちだけで片付ける』

『よしきた』

古参のガンタンクとアストレアが先陣を切ろうとする。しかし、新規参入の素組ガンプラ達が飛び出していく。

『ビルバとトランジェントか』

『ガタガタじゃねぇか。ありゃ死んだな』

中高生の部で激闘を繰り広げた傑作機は、ガンプラとして商品化された。だが、そのガンプラもキチンと作らねば意味がない。敵らしきフラッグに突っ込んでいくが、最早自殺行為だ。

『なんだ?』

『ブーストが!』

案の定、ブーストが吹かせなくなって海に落ちた。何時までも飛んでいられるガンプラとは、それなりに作り込まれたガンプラでもある。シールを手で貼っているうちはまだ無理だ。

フラッグはそこに狙いをつけた。直角の急降下で、ビルドバーニングを狙う。

「よし」

『そんな!』

アグニが火を吹き、ビルドバーニングは海の藻屑に消えた。フラッグはというと、アグニの反動で吹き飛び、海への墜落を防いでいた。オマケに反動でカッ飛びながら、メガリスへ接近している。

『よくも!』

ブーストが回復したトランジェントが海から飛び上がり、フラッグを追う。反動でスピンしているフラッグは、飛んだトランジェントをアグニで撃ち抜き、その反動で水平飛行に戻る。

『なんだあいつは!』

新参者はその無茶苦茶なバトルスタイルに見覚えがなかったが、ガンタンクとアストレアのファイターはフラッグの正体に気づいていた。

『灰色の疾風!』

『奴が駆け抜けていったは焼き尽くされて灰まみれ、ってか』

注意深く、二人はフラッグを見る。フラッグはぶつからん限りの速度でメガリスに接近していた。これは、特攻作戦なのか。

「違うね」

フラッグのファイター、アッシュには考えがあった。大規模過ぎるグループに、さらに人が集中するのは面白くない。乱戦混戦へと世界を陥れるため、メガリスの強襲を試みたのだ。

『まさかあいつ、特攻か?』

アストレアが慌ててフラッグを止めに入る。直進するフラッグの進行ルートを予測し、フラッグより少し前方に向かって射撃する。こうすれば、ちょうどフラッグに当たるはずだ。

その段階で、アッシュはアグニの引き金を引いた。アグニの反動がブレーキとなり、横から割り込んだアストレアの予測射撃を回避できた。

『クソッ! 狙いはメガリスへの射撃か!』

メガリスにビームが迫る。だが、ビームは途中で霧散してしまった。メガリスの前には、ユニコーングリントがアサルトアーマーを展開して控えていた。

「もう少しだったのになぁ」

アッシュはさすがに悔しがる。だが、敵の大将と戦う機会を得れた嬉しさの方が勝っていた。メガリスが沈まなくても、ラインアークの守護神、ユニコーングリントを撃破できれば世界に走る動揺は大きい。

『お前の相手は僕だ、雇われ』

「雇われてきているわけじゃないんだけどね」

アッシュとユニコーングリントが対峙する。その時、下の方で爆発音が聞こえた。

『ギャアアア!』

『敵か?』

アストレアが爆散しており、それを見たガンタンクが赤黒いビームに撃ち抜かれた。硬いはずのガンタンクが一瞬で蒸発し、消え去った。

『誰だ?』

「ガンダムスローネアイン? いや違う!」

ビームの方向から飛来したのは、ガンダムスローネアインだった。だが、細部が異なる。右手に持っているのはスローネアインのライフルだ。しかし、腕にはドライのハンドガンが取り付けられていた。頭部もドライのものだ。

左手にはサバーニャのライフルビットⅡを装備、腕にはツヴァイのハンドガンが付いている。アインのランチャーとシールドも標準通り装備。色合いもアインのもの。

スローネで改造機を作る時、大抵の者はランチャーとバスターソードなどスローネ系の武装をてんこ盛りにしがちである。しかし、このスローネは全部盛りの様に見えて、実は銃しか使っていないという特異な改造だった。その堅実ながら奇抜なカスタマイズを、アッシュとユニコーングリントの白葉光が知らないわけもない。

『スローネシナー、十月(とづき)神無!』

白葉光がスローネシナーのファイター、否、『リンクス』の名を呼ぶ。繋がれし者、リンクスは世界観に繋がれることなく、メガリスの前に姿を現した。

「とっつき?」

『とづきだ』

神無はアッシュの間違いを訂正する。それでは射突型ブレードになってしまう。

『なんの用だ』

『ラインアークという名前を付けておいて、リンクスに登場理由を聞くなよ。政治屋共め、リベルタリア気取りも今日までだな。貴様らには、水底が似合いだ』

神無はアッシュのフラッグがフラジールに見えたので、ちょっとテンションが上がっていた。

『行けるな、フラジール』

「ボクはアッシュです」

『まぁ、空気で構わんがな』

なし崩し的に、アッシュと神無は協力することに。目的は同じく、メガリスの襲撃らしい。

『オレがユニコーンを引きつける、灰色の疾風はメガリスをやれ!』

「はい!」

シナーがユニコーングリントにライフルを放つ。ライフルの直撃弾で足を止めさせ、そこにランチャーを撃ってプライマルアーマーを剥がす。

『させん!』

ユニコーングリントはライフルでメガリスへ向かうフラッグを狙う。メガリスには防衛のために、多くのガンプラが待機していた。

『おいおい、来るのか!』

『クソ、ここなら安全だと思ったのに!』

だが、その多くがイベント景品狙いの新規加入者。チームメンバーに課せられたノルマを熟すため、比較的防衛の深部で敵襲の無いメガリスに潜んでいたのだ。

ラインアークはその規模から、どのチームと戦ってもダメージレベルがA相当になってしまう。大規模チームに入るということは、単にランキング報酬が狙い易くなるだけではなく、破損の危険が増えるということだ。

「行け!」

アグニの側面につけられたリニアライフルでガンプラを破壊しつつ、変形してメガリスに接近する。リニアライフルでエクシアアメイジングが撃ち抜かれるなど、原作からすればありえない光景もガンプラバトルならでは。

「一つ! 二つ!」

エクシアを撃ち落とした後、近接戦を仕掛けてきたレッドフレームをプラズマナイフで切り裂く。

『なんだあのサーベルは!』

フラッグが細身の外見以上に、近接戦にも強いため、レッドフレームのファイターは驚愕した。同程度の作り込みなら、確かに他の機体に近接戦では譲るだろう。だが、そうでないのなら話は別だ。

「貰った!」

アッシュはレッドフレームからガーベラストレートを回収すると、アグニを背中にマウントして敵を迎え討つ。スサノオのベースとなった機体だけに、刀がよく似合う。

立ち竦むガンダム達に、フラッグが斬り込んだ。棒立ちでサーベルを抜く瞬間、フラッグがガンダムを切り裂いた。

『量産機にガンダムが負けるものか!』

クアンタが地上を走りながら、フラッグに接近する。貴重なクアンタの陸上戦だ。フラッグの刀をソードで防ぎ、距離をとってソードビットを放つ。

しかし棒立ち。皮肉なことに、刹那の最終機体がミハイルの様な動きをしている。

「ファングを放ったら、突撃でしょ!」

ソードビットを刀で落としながら、アッシュはクアンタに斬りかかる。

『バスターソード!』

クアンタのファイターは慌ててビットを呼び戻そうとするが、間に合わない。クアンタは真っ二つとなり爆散した。

「ミサイル!」

警備を叩いても、簡単にはメガリスやらせてくれない。ユニコーングリントがミサイルを放ち、突撃してくる。このミサイルはホーミングがキツく、普通には避けられないのだ。

アッシュはフラッグにクアンタのソードを持たせ、二刀流でミサイルに対応した。信管を外す様にミサイルを斬り、間に合わない分はバルカンで落とす。最後のミサイルは剣を投げて迎撃した。

『なんだあいつら……』

倒されたファイター達の前で、想像を絶するハイレベルなバトルが繰り広げられていた。まるでアニメを見ているかの様な戦闘。それに比べ、自分達はなんとモブ臭いことか。

『メガリスを守りながら戦えるかね?』

神無は二丁のライフルで器用にユニコーンとメガリスを狙う。ユニコーンはクイックブーストでバラバラのライフルに追いつき、プライマルアーマーで防いでいく。

コンマ何秒の差を正確に見抜き、最初に守るべき場所を見極める鮮烈な動きだ。スローネとユニコーンの戦闘はネクストの領域に入っていた。

ユニコーンがライフルを受け、被弾の反応で動きが鈍る。そこをスローネは見逃さない。

『捉えた!』

『しまった!』

神無のランチャーがユニコーングリントに狙いを定める。白葉光には、被弾の反動など想定外だった。黒い鳥に破壊されたシールドは直っていないが、予備をつけているので防御力に問題は無いはず。

『腕か!』

腕にダメージが蓄積していたのだ。ユニコーンの腕関節は遊んでいるとわかるが、非常に取れ易い。白葉光は瞬間接着剤を垂らして乾燥させることで関節を固くしていたが、それでも限界があった。

腕のダメージが防御を手薄にしたのだ。

『貰った!』

神無はそこをランチャーで狙った。だがその時、遠くから極太のビームが飛んできた。スローネは咄嗟に防御するが、シールドが破損してしまう。ビームはメガリスに当たらないように、射線を考慮していた。

『なんだ?』

『これ以上はやらせん』

遠くの陸地から、ビッグガンを改造した大砲を放ったガンプラがいた。青と赤のツートンで塗られたティエレンの改造機だ。

『増援か!』

「ボクがやる!」

アッシュはラインアークの増援に対し、フラッグを変形させて対処しにいく。あれだけの大砲、再チャージに時間がかかるはずだ。

『再チャージが必要だと、いつから錯覚していた?』

だが、ビッグガンは二発目を即座に放つ。アッシュはギリギリでかわしたが、まさかの再チャージ無しで連射だ。

「あのビッグガン!」

アッシュはビッグガンを確認した。ジェネレーターの増設は当然、ガンダムXのリフレクターを利用したソーラーパネルにより、急速チャージが可能だ。

大型ラジエーターも追加され、連射のための工夫がされていた。ガトリングの様な砲身も、砲身の過熱に対応する工夫だ。砲身が回転し、次弾に備える。

(砲身は3連装、来る!)

ビッグガンがおそらく最後だろう射撃を行う。アッシュは当初から動き回ることはせず、相手が撃った瞬間に大きく下降する。

『避けたか!』

ティエレンのファイターは即座に再チャージを行う。まだフラッグとビッグガンは距離がある。

「全力で向かっても、ギリギリ射程内でフルに再装填される。だったら!」

アッシュはチャージ時間を目測し、敢えて全速力ではなくスピードを緩めて、大きく迂回しつつビッグガンに接近した。

『何のつもりだ? 同士討ち狙いか?』

フラッグの不審な動きに、ティエレンのファイターが訝しむ。だが、フラッグはメガリスが射線に入る位置から離れていた。

蛇行しながら接近するフラッグ。フルチャージが余裕で行えた。

『撃って下さいってか!』

ティエレンはビッグガンを放つ。案の定というべきか、フラッグは極太ビームを回避する。

『俺だってむやみに撃ってんじゃねぇ。ギリギリで回避すりゃ、剛性の低いフラッグは熱と風圧で負荷がかかる!』

ティエレンのファイターはフラッグのガンプラの特性を知った上で避けられる射撃を敢行した。フラッグは関節にABS、ポリキャップが使われておらず、機体負荷には弱い。

どれほどフラッグが改修されているか知らないが、プラ製ポールジョイントの玉だけをポリキャップなりに変えても磨耗に強くはなるが剛性はあまりかわらない。関節が後付けだと、真鍮線を仕込んでも脆くなる恐れは払拭できない。

細身故の弱点を抱えたフラッグ。それを撃ち落とすのに直撃弾はいらない。

『3発目だ!』

フラッグはまた、全ての射撃を回避した。また再チャージが必要だ。

「今だ!」

そう、その距離。再チャージしても間に合わない距離に、確実に接近するためにアッシュは敢えて敵に撃たせ、エネルギーを使わせたのだ。わざと打たせる戦法は野球ならあるが、ガンプラバトルではまず見ない。

ティエレンのファイターにも、経験をいくら積もうが発想が違うので先読み不能だ。野球は打たせて取ることで、ピッチャーは一球でバッターを仕留められるので負担軽減になり、ポピュラーな戦法となる。しかし、ガンプラバトルでは撃たせて避けるなどしない。撃った回数が多ければそれだけ当たる確率も増えるし、避ける回数が増えれば集中力が落ちて当たりやすくなる。

アッシュには敢えてそれを選択出来る能力があった。ティエレンのファイターも、わざと撃たせてエネルギーを切らす戦法など考えてなかった。

『チャージが間に合わん! だが!』

ティエレンは左腕に付けたブレードを展開。右手に持ったガトリングでフラッグを狙う。

「当たるか!」

アッシュはガトリングを避け、プラズマナイフを出して攻撃する。ブレードとプラズマナイフがぶつかり合い、火花が散る。

「今日のボクは、地球くらい救えるよ!」

アッシュはわざとフラッグの勢いを落とし、ティエレンを前のめりにさせた。相撲の技術だ。敵も今度は相撲とは予想できない。

『うおっ!』

ティエレンが体勢を崩し、前のめりに転倒する。そのままフラッグが背中を突き刺して決着。二転三転した戦闘は、呆気ない幕引きとなった。

 

メガリスの前で戦闘をしていたユニコーングリントとシナーはビームサーベルのぶつかり合いになっていた。シナーはライフルを捨てたが、ハンドガンが腕に固定されており問題がない。ユニコーングリントも、ライフルは腰に引っ掛けた。

二本のビームサーベルがコジマ粒子を弾きながらぶつかり合う。

アッシュは敵の残したビッグガンのスコープを覗き、フルチャージを待った。3発撃てるフルチャージ、それを銃身の自壊と引き換えに放てる機能がビッグガンにはあった。ビッグガンに触れた時、情報が入ったのだ。

シナーとユニコーングリントが鍔迫り合いをして、互いのアサルトアーマーを発動させる。メガリスは何とか範囲外だったが、これでしばらく防御能力のプライマルアーマーは使えない。

「ユニコーン、撃つ!」

そのユニコーンを標準に収め、アッシュは引き金を引いた。シナーに気をとられていたユニコーンは、着弾直前まで味方の砲撃が自分に向いていることに気づかなかった。

『チッ!』

ユニコーングリントは咄嗟にライフルを撃って反撃する。ビームの発射と共に、ビッグガンが撃ち抜かれて爆散した。アッシュのフラッグはその爆発に巻き込まれ、撃墜された。

 

長篠高校 ガンプラバトル部

 

「惜しかったなー。あのユニコーングリントをここまで追い詰めたか」

「あのフラッグ、誰だったんだ?」

長篠高校は、かつて日本代表の直江遊人を輩出した学校である。しかし、学校として部を持っていなかったため、中高生の部には出場していない。今年になってある生徒の呼び掛けで設立されたのだ。

とはいえ、まだメンバーが足りない。今も、他の学校から来た人と勢力戦の映像を見ていたのだ。

部室では、バトルシステムに映された戦闘の様子を三人の男子学生が見ていた。シナーは様子見の目的を果たしたので、そのまま撤退していった。

「あのフラッグ、アグニ付いてたぞ?」

褐色肌の少年がフラッグに注目する。細身のフラッグに大型砲を付けるという改造は、本来しないものだ。

神無もアッシュのフラッグが気になっていた。あんな荒唐無稽な改造機があれだけの活躍をしたのを、まさにその現場で見たのだ。

「やっぱりロイも気になるか。とんでもねぇファイターだったぜ」

褐色肌の少年はロイと呼ばれていた。アメリカから来た少年で、どこか第7回世界大会の出場選手に似ている。

「あれが灰色の疾風か。黒、というには少し淡いな」

「黒い鳥って機体の話じゃないだろ?」

もう一人の少年が、色について言及する。ロイは黒い鳥という単語が、機体のカラーを指しているわけではないことを知っていた。

「このままラインアークのワンサイドゲームになるのはつまらん。次のイベント、大いに荒らすぞ」

「次のイベントは人数が鍵だ。とはいえ、ラインアークみたいな大きなチームに初心者が入るのはガンプラの破損が増えるだけで得が無いと気づく奴がいてもいいのにな」

もう一人の少年は、次のイベントが人数を揃えたチームに有利なことから大規模かつ制限の少ないラインアークがトップを取ると踏んでいた。

神無は大規模チームに付与されるハンデを知っている。そのため、こうも制限無しとはいえ初心者が大量参入することに疑問を持っていた。

「確かに、オンライン環境まで整えてバトルする奴が単なる素組なのは変だ。武装変更もしている奴が少ない」

「ふん、誰か何か企んでるな?」

ロイは現在のラインアークによからぬ予感を感じていた。恐らく、ラインアークのメンバー全員が意図しない形で何かが起きている。

神無、ロイともう一人はそこに何かを感じていた。これがリンクス、レイヴンの勘なのか、単なる杞憂か、まだわからない。

 

模型屋ヨーツンヘイム改二

 

「なるほど、それでこんなガンプラが粉々に」

志帆はアッシュが見せたフラッグの残骸を確認し、凄惨なバトルを一通り見終わった。フルチャージ分のエネルギー爆発を至近距離で受ければ、あまり剛性の高いとは言えないフラッグはダメージレベルBでもバラバラになる。

「ラインアークって、初心者のチームなの?」

氷霞は、ラインアークのメンバーが殆ど素組の無改造であることに疑問があった。自分でもウイングガンダムの改造を考えているのに、ある程度バトルしている人が改造を試みないのは奇妙でもあった。

最近はビルドカスタムのおかげで簡単に改造出来るというのに。

「そこはわからんが、とにかく次のイベントではラインアークが壁になるはずだ。まずはイベント前にラインアークに重大なダメージを与えるぞ」

志帆はこの三人でチームを組むことを決めていた。両親不在のチームには、信頼出来る親友と、出自は不明だが実力のあるファイターがピッタリだと考えたのだ。

「よし、応急傭兵チーム『スカーレット』! グフ・スカーレットとウイングガンダム、そしてアッシュの新型でラインアークを打倒するぞ!」

「おー」

「え? ボクも入っているんですか?」

氷霞は志帆の急で強引な面は知っているので対応できた。しかし、アッシュは今日が初対面。そんなチームで大丈夫か。

そんなこんなで、新たなチームが結成された。このチームが勢力戦の世界を揺るがすのかは、まだわからない。




 勢力戦の動き
 志帆らが応急チームを結成。黒い鳥のペイルライダー・イェーガー、ロイ・ニールセンのジェスタ・アサルトカスタムがラインアーク本拠地を襲撃したものの、制圧せずに撤退。十月神無のスローネシナーとアッシュのフラッグがラインアークのエネルギー拠点メガリスを襲撃。制圧せずに撤退。

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