ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

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 「膝に矢を受けてしまってな」
 スカイリムの衛兵が口にする台詞。数多くの衛兵が口にする言葉。かつてはプレイヤーのような冒険者だったが、衛兵になった理由を話している。
 これを話す衛兵が多いため、この世界の冒険者への膝の被弾率が心配になる。ネオサイタマ民の膀胱くらい心配だ。本来の訳し方なら「結婚したから」になるという噂もある。
 というか前回の次回予告からしてダークソウルネタと間違えてた疑惑。未プレイから見ると似たようなゲームだし(暴論) 親世代はモンスターが出ればポケモンもデジモンもドラクエモンスターズも妖怪ウォッチにしちまうのさ。ダークソウルとデモンズソウルで名前似てる奴あるし。でもブラットボーンは独特だよね。 


9.ダークソウル

(これは夢か……)

暁中学の弓道部、そのエースである高崎菊乃は度々悪夢にうなされる。突然巨大なカラスに攫われ、空高く持ち上げられる夢だ。

自分を引っ張っている重力が失せ、身体が地面を離れる。地球の拘束を振り切る浮遊感が全身を駆け巡り、不快だった。

まるで自分が何も入っていない抜け殻の様な、自分の重みを否定されているかの様な錯覚を覚える。

カラスは暁中学の上空へ到達する。そこの弓道場では、野次馬が取り囲むほどの騒ぎが起きていた。見下ろすと、弓道場から左膝を負傷した誰かが運ばれてきた。

(羽黒戦!)

それは、戦であった。その光景は、自分のミスで戦に怪我をさせてしまった時のものだった。本来ならば弓道部そのものが無くなりかねない事故であるが、隠蔽された。

長年、弓道部顧問を務めた先生の力もあった。何より、菊乃の才能は隠蔽までして守る価値があるとされていた。菊乃が弓道を始めたのは中学からだが、その当時から大人をも凌駕する成績を見せていた。

当の菊乃からすれば、責められた方が気楽だった。本当はさっさと謝って済ませたいのに、事故自体を無かったことにせねばならなくなっていた。

戦が上空にいる菊乃を発見したのか、こちらを向いてくる。戦はこの件を口止めされているし、菊乃の両親から多額の示談金を得ている。しかし、それで戦が終わるだろうか。何かやらかすのではないか、この一年という静けさが菊乃を恐怖させていた。

戦とは小学校も違うからよく知る相手ではない。自身のカラスに対するトラウマと戦がダブり、そんな思いに至っているだけだ。

 

カラスの鳴き声で菊乃は目を覚ます。今日も朝練だ。一人の人生を奪ってまで守られる毎日。こんなことがいつまで続くのか。自分が知らないだけで、裏では何人かライバルの選手が消されているのではないか。漠然とした恐怖が彼女の脳裏にはあった。

悪夢にうなされる度、このベッドを早く抜けたくなる。菊乃の部屋はベッドに勉強机と、一般的な中学生の部屋であった。

(もう、終わりにしないと)

菊乃はガタガタではあったが、ある決意をしていた。机に置かれた戦国アストレイ、それが決意の象徴であった。元生徒会長に言われて、ガンプラバトルの準備をしていた。元々才能に溢れた彼女は、ネットで作り方を漁るだけでガンプラをある程度完成させれていた。

 初めは誰しも戸惑う紙に塗るそれとは感覚の異なる塗装も、だだの一度試し塗りしただけで感覚を掴んだ。

 事前に準備を尽くすのは、菊乃の癖であった。なまじ才能があるばかりに、周りから下手な期待ばかりかけられる。それを裏切らないようにともがいてきた。

 今だって、戦を犠牲に弓道を続けている。本来なら弓道部そのものが廃部になりかねない事件なのだ。この人間一人の人生の重荷を背負うなど、菊乃には出来なかった。続ければ一人の未来を消したことがついてまわり、退けば弓道部が無くなり多くの人の期待を裏切る。

 退くも地獄、進むも地獄。この先の未来を占うのはやはりカラスしかいない、菊乃はそう考えていた。

 

暁中学校 体育館

 

「いてて、集中していると忘れるけどな」

セレモニー襲撃の翌日、戦は膝を痛めていた。そのため、体育は見学である。シャンブロとの戦闘は長時間に渡ったため、膝に負担が掛かっていたのだ。

今日の体育は体育館でのバレー。生徒会長が調子に乗っているが、撃退した戦からすれば取るに足らないことだった。ちなみに、生徒会長は未だ部活と生徒会の両面で活動が許されていない。

「戦さん、昨日はお疲れ様。あのガンプラですが……」

試合を終えた葉月が戦に近付いてきた。戦は点数の記録をしていたのだ。葉月が話そうとしていたのは、昨日出現した謎のガンプラについて。

「私たちのチーム名を知ってましたね。まだ公式戦には出たことないのに。それに、我が校って……」

「間違いなく、この学校にいやがるな。管理者様がよ」

葉月も戦も、この学校にジャハナムを操縦していた人間がいるとみた。ジャハナム・アドミニストレータ、つまり『管理者のジャハナム』。中々に意味深な名前である。戦は、管理者と聞いてレイヴンの血が疼いていた。

「安心しな、管理者の天敵はレイヴンだ。俺がレイヴンである限り、管理者は焼き尽くす」

「何だか、黒い鳥みたいね、あなた」

葉月は戦の戦法を調べるため、アーマードコアの動画を見ていた。そこでPVに辿り着き、そのフレーズを知ったのだ。

全てを焼き尽くす黒い鳥。果たして戦がそうなのか、単にゲームのフレーバーテキストなのかはわからない。だが、単に初心者である戦がシャンブロをなぎ倒す姿は、葉月に脅威を感じさせた。

「そんなこと、マギーさんにも言われたな。あ、シャー芯切れた」

戦がマグノリア・カーチスのそっくりさんにされた話を思い出していると、シャーペンの芯が切れてしまった。これでは仕事にならない。

「仕方ない、取りにいくか」

試合も始まったばかりなので、シャー芯を取りに行くことに。わざわざ教室に戻るのも手間だが、あのジャージに竹刀のコテコテの体育教師はボールペンしか持っていないだろうし、戦は消せない筆記用具が嫌いなのだ。

「まったく、あいつ何で工事現場で使うボールペン持ってるんだ?」

あの体育教師は工事現場で使う様な、上向きに書いても大丈夫なボールペンを愛用していた。時計もGショックだし、使っているケータイも一昔前に出たGショックとのコラボアイテムで頑丈だ。ここまで来るとキャラ作り臭い。

「さて、教室に……」

戦が教室に戻ると、そこには上級生の女子がいた。その人物に戦は見覚えがあった。黒髪を伸ばした大和撫子、彼女は高崎菊乃。弓道部のエースだ。

類稀なる才能を持ち、オマケに美人。生徒会の副会長をも務めた暁中学の有名人だ。中学のジャージが似合わないほど、中学生にしては大人びた空気を持つ少女であった。ただし、胸の平坦さは年相応である。

戦は左膝が疼いた。彼にとっては忘れるほどに古い因縁ではない。だが、戦には笑うだけの余裕があった。その笑顔を見た菊乃の背筋に寒気が走る。空でカラスが騒がしい。

「こんなところで何の用ですかな、高崎先輩」

「……羽黒戦。時間はくれないのですね」

菊乃にとって、戦の登場は想定外だった。体育が終わるのを待つ予定であったためだ。菊乃のクラスもこの時間は体育であるが、彼女は気分が悪いと言って休んだ。

嘘は言っていない。これから立ち向かう相手のことを考えれば、気分の一つや二つ悪くもなる。

「昨日のバトル、あのザリガニを倒したのは貴方ですね?」

「ザリガニ? シャンブロか。デカ物はレイヴンの的だからな」

レイヴン、そのカラスを意味する言葉に菊乃は心臓が痛む。菊乃には、カラスに対する拭えないトラウマがあった。あの時も、こうして戦に負い目を持つこととなったあの日もカラスが全ての原因だった。

練習中にカラスが騒ぎ、トラウマを刺激された彼女は自分でも信じられないくらい手元を狂わせ、矢を戦の膝に当ててしまった。

自分でも覚えていないくらい幼い時、菊乃は巨大なカラスに攫われたらしい。幸い命に別状も無くカラスの巣で発見されたが、カラス絡みの悪夢は絶えず見る。

「羽黒戦、私とガンプラバトルしなさい」

「へ? 高崎先輩もガンプラバトルするんですね。いいよ。じゃ、部活終わったら倉庫に来て下さい」

戦の返事は軽かった。戦は膝の怪我が原因で卓球部をやめた。ある意味、自分が人生を奪ったと菊乃は思っている。戦が今まで沈黙を守っていたのは、ガンプラバトル部を存続させるための切り札としてあの事故をカードにするためなのではないか、と恐怖していた。

正当な罰を受けないことがここまで恐ろしいことか。菊乃はあまりに拍子抜けした戦の態度に怯えていた。

 だが、菊乃が戦にバトルを挑んだのは彼の口を封じるためではない。逃げ回る重みに耐えられなくなりつつある彼女は、戦に救いを求めていた。はっきり言えば許されたい、最低でも断罪はされたい。このまま周りの権力に守られている方が安寧だが耐えがたくなっていたのだ。

 

給食の時間、戦は菊乃にガンプラバトルをしようと誘われたことを自慢げに葉月達に話した。

今日ばかりは冷たいカレーが極上のディナーに感じられた。葉月はカレーが冷たいのを『そういえばそんな給食でしたね』と再確認してガッカリしたが戦には関係無い。

新たにガンプラバトル部の部員となり得る存在が、あの暁中学の有名人、高崎菊乃なのだから。

「でもさ、戦って高崎先輩に膝を撃ち抜かれ……」

「シィー! 俺の膝はスケルトンに撃ち抜かれた、いいね?」

「アッ、ハイ」

過去の出来事を隣の席にいる桜が言及すると、それを戦は止める。詳しく知らない葉月も、触れないことにした。戦が黙っているということは何か事情があるに違いない。

「で、その高崎先輩は前期の生徒会副会長ですが、ガンプラバトル部の存続とは無関係なのですか?」

「そういえばそうだったな。多分無関係だろ」

葉月が気になったのは菊乃の肩書きだ。今期の生徒会が活動休止になり、代わりに前期の生徒会が招集されている状態。つまり、菊乃はバトル部の敵となりうる相手なのだ。

「上手く勧誘出来れば、流れがこちらに傾く存在だ。弓道部は練習のキツさに反して高崎先輩目当ての野郎が多くてな、退部率の高さに繋がっている」

戦としては上手く誘って仲間にするつもりだった。これだけの影響力を持った相手が自ら接近してくるのはチャンスなのだ。それ以前に、菊乃という美少女の誘いに心高鳴っていた。存外、戦は甘い男なのだ。

 

夕方、菊乃は戦の予想に反して部活の時間中に倉庫へ来た。Gブレイカーズは全員、息を飲んで見守る。葉月は菊乃の出方を伺い、辰摩と桜は相手のオーラに気圧されていた。

「この人が高崎菊乃先輩ですね、戦さん」

「その通り、予想より早かったですけど、練習は?」

戦は菊乃が練習をサボってここにいることを疑問に思っていた。予想に反した行動であり、彼女がただのガンプラバトルのために部活をサボる様な人ではないことくらい戦にもわかる。学校一の美少女が自分をガンプラバトルに誘う、そんな甘い話があるはずもない。そのくらい、戦にだってわかってはいたが、あえて考えない様にしていた。

「生徒会の仕事……ですか」

戦の予想は生徒会としてバトル部を潰しにきた、というもの。しかし、菊乃はそれを即座に否定する。

「それは断じて違う、と言わせてもらいます。私は個人的な事情で貴方に挑みます、羽黒戦」

「個人的な事情?」

予想が外れ、戦は戸惑う。彼としては個人的な理由で菊乃に挑まれる理由は無いと思っていた。単なる遊びだとすれば菊乃が部活をサボる理由がわからなくなる。

 『Please set your GP-Base. Beginning [Plavsky particle] dispersal』

「なんだか知らんが、受けて立とう!」

「そう、胸をお借りします」

『please! set youer GPbase! beginning

バトルシステムにガンプラをセットする。戦はいつものデュナメス。菊乃は戦国アストレイだ。戦国アストレイは祭ウエポンとレッドフレームの武装で強化されている。

 『GANPRA BATTLE.Combat Mode.Damage Level,Set to B』

「あの首の数珠、サブアームのハンマーと斧、右手のライフル、脚部の水蜘蛛、背中のフライトパック。レッドフレームと祭ウエポンですね。フライトパックと同時装備出来ない鬼の盾は左手に持ってますか。ただの戦国アストレイではありません」

「そうかい」

葉月はそれを見抜いて戦に忠告する。相手の出方がわからない以上、負けるわけにもいかない。

『Field11,Castle.Please set your GUNPLA』

「羽黒戦、ガンダムデュナメス・イェーガー!」

「高崎菊乃、戦国アストレイガンダム!」

フィールドは城だ。この日本的な天守閣、第七回大会のイオリ・セイとニルス・ニールセンの対戦を葉月は思い出していた。

『battle start!』

「作戦開始!」

「射抜きます!」

二機のガンプラがフィールドに放たれる。様式美なのか、互いに天守閣の上へ昇って相手を待った。

「戦国アストレイ、弓は無いようだが……」

戦のデュナメスは手持ち火器をGNスナイパーライフルに限定、脚部のハードポイントにはアームアームズからスラスターを装備、シールドの代わりに同じくアームアームズからスタビライザーを取り付け、機動力に重きを置いた構成だ。

「よく見て、あの祭ウエポンの輝き。素組じゃないよ」

辰摩は祭ウエポンの完成度から、相手の手強さを予想した。この祭ウエポンは艶出し黒を塗った上にメタリックカラーを乗せて発色をよくしている。艶消しスプレーを重ねて燻し銀な渋い仕上がりだ。

「本体は簡単仕上げだが、伊達じゃないね」

桜は本体の戦国アストレイに着目した。最低限の部分塗装やアンテナのシャープ化などを施してあるだけだが、逆に言えば基本工作が完璧に出来ている。

ガンプラバトルにおいて初心者が扱う場合、一番よいのがこうした基本工作を徹底的に施した機体だ。オリジナルカラーによる塗装はダメージで塗装が剥げた際、配合した塗料が切れると新たに塗料を配合する必要があり、完璧に元の色を手にすることは難しい。

ガンプラバトルには破損は付き物。オリジナルパーツなんて予備を作るだけでも途方も無い苦労なので、オリジナル機体を扱う大体のファイターはリペアの度に機体のシルエットが大幅に変わる。

反面、菊乃の戦国アストレイみたいな全て既製品で作られたガンプラは修繕が容易。壊れても既製品を買ってくればパーツが手に入る。

「近接特化型のアストレイにライフルで弱点補強か、ならば!」

戦はデュナメスを上空へ飛ばす。そして、スコープを覗かずライフルを乱射した。これには菊乃と葉月も戸惑うが、桜は戦の意図を読み取った。

「AC式のスナイパーライフル捌き! ほとんどのアーマードコアでは、スナイパーライフルはスコープを覗くんじゃなくて、単に長射程のライフルとして扱われるよ!」

アーマードコアにおけるスナイパーライフルは、殆どの作品でスコープを覗くことが出来ない。では、スナイパーライフルである優位性は無いのか。

答えはNO。レイヴンならば当然知っているが、ACの射撃はある程度なら火器管制システムがターゲットを捕捉し、勝手に標準を合わせてくれる。スナイパーライフルは他の武器と違い、その『ある程度』が左右上下に狭い分、奥には広いのだ。つまり、射程が長い上に勝手に狙ってくれる。

『なんて荒唐無稽な!』

乱射と呼んでも差し支えない攻撃。戦国アストレイも相手がこうも遠距離だと反撃出来ない。

アストレイが装備しているような、生半可な射程のライフルでは、戦に攻撃を届かせることさえ不可能。オマケに足元は狭い屋根。上を見上げながら戦うのは難しい。戦はタイマンということを考慮して、この戦術を取った。

万が一距離を詰められても、対処する方法なら戦にある。AC特有の戦法、つまり、レイヴンである戦にとっては使い古した戦法。対策の対策も出来ている。

「戦さんってあんな戦い方もするのですか?」

葉月は戦のバトルスタイルに驚愕した。上空をとんで距離のアドバンテージを取る戦術だが、一歩着地を間違えば天守閣から転落、再び飛翔することが困難になる。

戦は何度か着地しながら飛翔を繰り返す。的確なコントロールで、狭く水平ではない天守閣の屋根に降りている。

だが、菊乃は慌てない。天守閣を降りて、影に姿を隠す。流れを変えれば突破口が開けるはず、菊乃にはそうした期待があった。

「そう来るか、予想通り」

遮蔽物に姿を隠すのも戦には予想済みの対策だ。デュナメスを地上に下ろしながら、隠れた戦国アストレイを追いかける。

ブーストは永遠に続くわけではない。永続的に飛行するのは、ガンダムとはいえ難しい。戦はいつも通りにデュナメスを下ろしていた。ブーストを切り、一気に自由落下する。

『そこだ!』

菊乃は着地の瞬間を狙った。着地の直後は硬直する。人体の弱点は人型ロボットの弱点である。武道を嗜んだ菊乃には、その選択が当然であった。

戦国アストレイがサブアームの斧でデュナメスに斬りかかる。その対応も戦には慣れたものだった。

「させん!」

着地寸前、戦はブーストを蒸して少し飛び上がる。ACの基本技術、小ジャンプだ。

『何?』

小ジャンプで後退し、斧を回避する。そして、ライフルを構えて射撃する。戦には慣れた対応であった。だが、人型ロボットを人間として捉えていた菊乃には予想外の行動だった。

『くっ!』

地上に降りれば、フライトパックは単なる重り。そのせいで斧の踏み込みが甘くなり、回避も遅れた。

咄嗟にGNスナイパーライフルを自分のライフルで防ぐも、破壊されてしまう。ライフルの完成度のおかげで、それ以上の被害は無かった。

今のところは戦が優勢。だが、菊乃にはまだ武装が残されている。次は刀とサブアームのハンマーと斧だ。

戦国アストレイは身体を回転させ、独楽の様にデュナメスへ接近する。レイヴンが相手ということを考えた時、菊乃はこれがゲームだったら使えないだろう技を予想して放つしかなかった。

菊乃調べによるとアーマードコアはリアルなロボットゲーム。こんな無茶苦茶な攻撃は想定していないはず。レイヴンはスーパーロボット系に対処出来ない、菊乃はそう見ていた。

「近接戦はやらないよ!」

戦がライフルを放つが、菊乃は回りながら刀や斧でビームを打ち返した。武器の出来栄えの差が可能にした戦術だ。戦のライフルは素組、菊乃の武器はフル塗装。その差は歴然。

別にこの様な兵器がアーマードコアに無かったわけではない。通称『フレンチクルーラー』と呼ばれる回転兵器がアーマードコアには存在する。

『このまま細切れにしてやる!』

「そりゃ困る!」

上空に飛んだデュナメスがライフルで上から戦国アストレイを打つ。しかし、戦国アストレイ面積の広いハンマーを頭に被せて防御しているではないか。

「チッ、隙がねぇな。ならよ!」

地上に戦はライフルを捨て、ビームサーベルを取り出した。あの独楽はポンデリングより移動が早く、逃げ切れない。だが、回転して全身がレーザーブレードに覆われていたポンデリングと違い、アストレイの攻撃判定を生み出しているのはたった3本の腕だ。それに、レーザーブレードと違って回転で形が大きく変わったりしない、捉え易いものだ。

戦は両手に構えたビームサーベルで受ける選択をした。受け切れると考えたのだ。

「オラァ!」

戦国アストレイの独楽がぶつかる瞬間、戦はサーベルで刀を、斧を弾く。このままなら腕をすり抜けて本体を叩ける。戦の狙いは当たったのだ。

(マズイ)

菊乃は負けを確信した。まさかこの回転を掻い潜ってくるとは。思えば、自分は『負けない』ための戦いに徹していた。近接戦特化の戦国アストレイにライフルを持たせ、弱点を補強した代わりに強みも失っていた。

反面、戦は一歩間違えば敗北というリスキーな戦法を取った。菊乃は昔から才能に溢れていた。周りからの期待を裏切らないための戦い、それが単なる遊びにさえ出ていた。

 一方の戦は勝つことが期待されたことが無い分、自由自在に無茶をやらかす。ゲーマーのトライ&エラー精神も手伝い、その戦法は変幻自在かつ奔放。

戦のデュナメスが迫る。回転する3本の腕を三回ほど防御し、遂に戦国アストレイへ肉薄した。

「あっ」

しかし、四回目の攻撃を戦は防御し損ねた。ウカツ! なんたる凡ミス! 戦のデュナメスはそのまま戦国アストレイの独楽に巻き込まれて木っ端微塵。

「アバーッ! サヨナラ!」

戦=サンはしめやかに爆発四散。菊乃も予想外の勝利で、全然勝った気がしなかった。

『battle ended!』

「戦さん、コジマ粒子に包まれてあれ」

これが生徒会との戦いだったら、と葉月含むGブレイカーズは冷や汗をかいた。あんな処刑用BGMが流れていそうな状況で普通負けるか。レイモンドから聞いた忍殺ネタを呟きつつも、葉月はため息が出た。

「くっそー、次は成功させてやる! 独楽捌き!」

「目的変わってない?」

戦は全然違う方面で悔しがっていた。対戦結果を全然考慮しない戦にさすがの桜も呆れていた。

「……私は、これでいいのか?」

和気藹々としたGブレイカーズに対し、菊乃は葛藤していた。期待に応えようとする度、失敗しないように自分を縛っていく。このままでは、自分はどうなってしまうのか、わからなかった。

「うーん、戦国アストレイにライフルとフライトパックは合いませんね」

「え?」

葉月は菊乃の言葉を聞いたのか聞いてないのか、彼女のガンプラを精査し始めた。そういう意味では無いのだが、何だかこの戦国アストレイが自分自身の様に見えた。

「一回、ライフルとフライトパック外してみましょう。鬼の盾を背中に戻せば殆ど初期状態ですし」

その日の部活は、時間も忘れて菊乃の戦国アストレイの改造プランをみんなで練ることとなった。

 

春先だというのに、戦達は暗くなるまでバトルに没頭していた。家の方向が違う葉月、桜、辰摩らと別れた戦と菊乃は日の暮れた道を2人で歩いていた。

菊乃は戦しかいない状態で、気まずさを感じていた。先ほどまでは他のメンバーがいて緩衝材になっていたが、2人きりというのは初めてだ。

「あの……膝、大丈夫?」

「膝? あ、ああ、膝ね」

菊乃が話を切り出すと、戦は思い出したかの様に返す。戦は弓道部の顧問から事故のことを口止めされていたが、特にこれといった感情は持っていなかった。せいぜい、このことが、自分が何かやらかす時にカードに出来るかくらいの感想であった。

「あの、なんというか……ごめんなさい。謝って許される様なことじゃないと思うけど……」

「んー、手じゃないからなんともなぁ。ゲーマー的にはセーフだし」

菊乃の謝罪にもこの態度。大物なのか、変わり者なのか。菊乃には戦という人物がわからなかった。

「でも……怪我のせいで卓球部やめなきゃいけなくなって……」

「卓球部やめてなきゃ、今バトル部はできてなかっただろうよ。それにさ、あの時不思議なものが見えたんですよ」

戦は謝り倒す菊乃に、その時見たものの話をした。怪談チックにすれば空気も変わろう、そんな気分だった。

「なんか俺の周りに度々、変な女の子が出るんですよ。多分幽霊ですねアレ。ちょうど膝に矢を受けてしまった時にですね、そいつが現れて『これで運命から逃げられなくなった』とか言い出すんですよ。アレなんでしょうかね」

菊乃はその話を聞いて、呆然とした。一体何を意図してそんな話をしたのか。戦の考えがわからなくなっていた。当の戦は場の空気を変えるために心霊体験として語ったまでだが。

「なんであの時弓道場の近くににいたかっていいますとね、そいつにしつこく止められたからなんですよ。『今日は学校に行くな』とか『弓道場に近寄るな』とか。ダチョウ倶楽部的なアレですよ。結局、学校休めるほど熱もなかったですし、なんか変な偶然が重なって弓道場の近くに置いてあった箒片付ける羽目になって行く必要出たから行ったまでですが」

「なんか、不思議な体験ね。その女の子って、どんな幽霊だったの?」

菊乃に聞かれて、戦は自分に警告してきた女の子のことを思い出す。東京で、先日の合宿にも現れた相手だ。思えば、アレが初めて彼女と遭遇した出来事だった。あの年の正月にお年玉でガンプラを買い、作ってみたのだ。それが今のデュナメス・イェーガーだ。

外見を聞かれ、戦は彼女の姿を思い出す。服に詳しくない戦は、その少女が着ている服をなんと言っていいかわからず悩んだ。すると、ちょうど良く目の前にその少女が現れたではないか。

「そうそう、こんな白い髪でフリフリの黒い服着たあるぇえ?」

戦は説明しておきながら驚愕した。まさか目の前に、その死神めいた少女がいるとは。

「ゆ、幽霊?」

菊乃は戦の背後に隠れる。実は菊乃、カラスの他にお化けとかも苦手なのだ。というか全体的にメンタルが弱い。少女は戦に向かって口を開いた。

「本当なら、あなたはあの時死んでいるはずだった」

「俺を殺しにきたのか死神め。ニンポだ! ニンポを使うぞ!」

こいつの警告を無視したら死にかけたので、戦からすれば当然の反応だった。少女は悪びれることなく、話を続けた。

「あなたが死ねば、隠蔽騒ぎはもっと大きくなった。それを利用して市長も暁中学を廃校に追い込んだ。Gブレイカーズは生まれなかったはず」

「それは無理よ。教育機関と地方行政は分離してるから、市長が公立の学校を廃校にすることは出来ないはず」

少女がしたのは、彼女にとって本来訪れるはずだった未来の話だ。菊乃は戦の後ろで反論した。市長とはいえ、学校を潰すことは色々あって出来ないはずだ。いくら弓道部顧問が隠蔽騒ぎを起こしたとしても、廃校にまではなるまい。

学校絡みの事件は時折報道されるが、それで学校が無くなったという話は聞かない。

「それでも、やったのよ。市長は」

「ええい! 何が目的だ! 警察を呼ぶぞ!」

一向に肝心の目的を話さない少女に戦は業を煮やした。このままでは埒があかない。

「私だって、本当ならあなたなんかに用は無い。本当に会いたい人には、本当に警告すべき人には辿りつけない、何故かあなたの場所に来てしまう。時間みたい。今度こそ、二度会わないことを誓うわ」

少女は青い光に包まれて消えた。ストーカー紛いのことをしておきながら、本当は用など無いとはあまりに酷い。

謎の少女のせいで、菊乃はすっかり戦への負い目を忘れていた。

 「羽黒くん、手伝ってくれる?」

 「ん? レイヴンなら敵拠点の破壊から輸送車両の護衛までなんでもござれですぞ?」

 菊乃が頼んだ依頼をレイヴンとして戦は聞いた。レイヴンであることは、駆る機体がACからMSに変わっても変化しない生き様であった。

 菊乃は戦いを通して、戦になら頼めると直感していた。戦なら、自分と同じく大人の都合に振り回された彼なら一緒に来てくれるかもしれないと思っていたのだ。

 「弓道部を、潰します」

 「そうこなくっちゃな。派手にいこうぜ」

 戦は大層嬉しそうに笑った。




 次回予告
 戦「よう、菊乃先輩。弓道部を廃部にする、付き合わないか? 教育委員会の連中、温過ぎる。革命とは、結局焼き尽くすことでしかないのさ。だろう?」
 葉月「次回、『管理者の天敵』」
 戦「殺しているんだ、殺されもするさ」

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