ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

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 現在の情勢
 勢力戦ではイベント開始が間近。今回のイベントは『アロウズ残党殲滅』。各地に出現するアロウズ残党を撃破するのが目的だ。故に、人手が多いチームが圧倒的に有利。
 景品はGNソードⅣフルセイバー。これが目当てで確実に上位に入れてかつチーム加入のハードルが低いラインアークにプレイヤーが集中する事態となった。


勢力戦3.商店街の激闘

ヨーツンヘイム改二

 

ヨーツンヘイム改二のある商店街は、妙に騒がしかった。店番をしている志帆は、それに気付かず新製品を並べていた。今月の新製品はルーカス・ネメシス仕様の『クロスボーンガンダムフルクロス』にグラナダ学園の生徒が考案して商品化されたジャイアントガトリングガンだ。

ショーケースにもサンプルを並べ、準備万端。こうした大会入賞選手の作品がキット化されるのは第7回世界大会以来のお約束となった。元々はガンプラバトルが出来なくなることで冷え込む需要を回避するための企画だったが、好評なので続いている。

ショーケースには他にも同様の経緯で作られたガンプラが並べられていた。その中でトランジェントガンダムやGポータント、ガンダムジエンドと並んでいる『ジムスナイパー・イェーガー』、『ペイルライダー・イェーガー』は商品化されていないが、志帆の両親がジムの乗る『Gボンバー』含めて『幻のガンプラ学園チーム』として再現して並べているものだ。

 さほど自作パーツが多いわけではないイェーガーの機体は、羽黒戦というファイターのガンプラらしい。彼は自立兵器を使うため、ペイルライダーとジムが並んでいても不思議は無いと志帆の母が同時展開している。

 ジムスナイパー・イェーガーのベースはレナート兄弟のジムスナイパーK9。第7回大会の準々決勝でのバトルでメイジンを後一歩まで追い詰めたその機体は多くのファンがキット化を熱望した。

 意外にもレナート兄弟がノリノリでOKを出したことで一般発売されたそれをさらに改造したものである。カラーはK9の緑が黒くなったもので、細部に改造が加えられている。バックパックが特に大きく変更され、AC然としたシルエットになったが、そのACなら肩に装着されるエクステンションを脚に移動させるなどペイルライダーを参考にした改造もされている。ナイフをマウントしていた部分はバルカンポットシステムとなった。

 「幻のチームか、私のチームはあと1人……」

 氷霞がガンプラを始めたことで志帆のチームも集めるべき者も残すは1人。その時、氷霞が店に姿を現わす。珍しく息を切らしていた。

 「志帆!」

 「お、氷霞じゃん。今月の新製品はグラナダ学園のトミタ氏が考案した『BCジャイアントガトリングガン』だよ」

 「大変だよ! ここのはす向かいにおっきい模型屋が出来たんだ!」

 氷霞はそんなことを言っ志帆を連れ出す。ヨーツンヘイム改二のはす向かいに、それを超える大型の模型屋がいきなり出来ていた。昨日は無かったはずだが、まるで一夜城みたいに現れた。

 「なんじゃこりゃあ!」

 さすがに志帆も驚愕した。こうもいきなりライバル店が出現するとは。しかし、この敷地には薬局が入っていたはずだ。

 「おい、ここにあった薬局はどこ消えたんだ!」

 「薬局なら退いてもらいましたよ。四条志帆」

 薬局の行方を探す志帆に声をかける人物がいた。そこには、紫の髪をしてけったいな色のスーツを着たおばさんが立っていた。

 「うげぇ、元防衛大臣の平和! よりによって面倒なのに絡まれた! 無能だから面倒なだけだけど、無能だから面倒なだけだけど!」

 大事なことなので二回言いました。そう、この変なおばさんは元防衛大臣なのだ。ただ、サブマシンガンも一緒くたに機関銃扱いする様な軍事音痴で重度の軍事アレルギー。自衛隊すら無くそうとしていたくらいだが、政府がガンプラバトルを規制しようとしてしっぺ返しを喰らった『黒い鳥事件』で失脚したのだ。

 それ以前に平和は志帆の母親のクラスメイトで、実は同い年。志帆母の方が圧倒的に若くみえるため、いかにストレスが美容に悪いか志帆は思い知らされた。

 「誰このおばさん?」

 「ほら、閣僚の写真で1人だけ明らかに場違いな腐臭とバグを放つ脳波コントロールできないラフレシアがいただろ。あれだよ」

 「ああ、あれ」

 氷霞は志帆に教えられ、ようやく思い出す。殆ど仕事などしていないので、平のことを知っているのはごく一部の平和主義者と軍事マニアくらいだ。まぁ、平和主義者からは自分達の立場を悪くする無能な味方、軍事マニアからはただの馬鹿としか見られていないのだが。

 「誰がラフレシアよ! 薔薇とお呼び!」

 「オロロロロ」

 うぬぼれ過ぎな反論に志帆は吐いた。氷霞に背中をさすってもらっている。メンタルの強い志帆が精神的な理由で吐くとは、よほど気持ち悪かったに違いない。

 「し、失礼な! これだから軍事オタクは! 軍事オタクなど、兵器の活躍が見たくて戦争を望んでいるんでしょ!」

 平の発言はミリオタである志帆に聞き逃せないものだった。志帆は兵器が大好きだ。だからこそ、戦争を嫌う。 「馬鹿野朗! 戦争なんかしたら兵器が壊れるだろうが! うちの子に人殺しをさせる気か!」

 奇妙なことに、軍事マニアにはこういう人間が多い。そもそも、兵器というのは使われないのが一番だ。

 「話してもラチがあきません。我が模型屋では常時7割引きセールして一流のホテルマンによる接客をしていますから、今のうちに赤字の決算をしておくのですね」

 「うちでも3割引きだぞ? 死ぬ気か?」

 平は志帆の忠告を聞かず、店の奥に消えていった。店にはスーツのホテルマンが並んでいた。平は採算度外視でヨーツンヘイムを沈めにきている。ヨーツンヘイムが轟沈したら撤退して、この地域から模型屋を無くすつもりか。

 「ありゃダメだ。経営に政治思想持ち込むと死ぬぞ」

 「うん」

 志帆と氷霞は平の頭を諦めて、店の前で客待った。すると、早速お客様だ。黒髪の中性的な少年だ。歳は志帆や氷霞より下で、小学生くらいか。

 「え? 7割引き? 予備パーツ買っていこ」

 その少年は7割引きに反応して平の店に入った。様子を見るべく、志帆と氷霞も追跡する。

 「なんじゃこりゃ」

 「ショーケース」

 店にはいると、商品が悉くショーケースの中に入っていた。これでは自由に手に取れない。何をしているのか。

 「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

 「……」

しかもいきなりこれ。ホテルなら正解だろうが、模型買う人は暫く1人にしてほしいのだ。少年も少し困った様子だ。

「ああ、妖怪ウォッチのプラモデルならございますよ」

 「子供がみんな妖怪好きだと思うなよ! 言うに事欠いてロボニャンでないとは、ふざけているのか~!」

ホテルマンは妖怪ウォッチのプラモデル、ジバニャンを勧めようとする。志帆は既に、少年の正体に気づいていた。それより、彼女はロボニャンを奨めないホテルマンにマスクめいて憤る。

 (予備パーツという発言、そしてズボンのベルトに付けたポーチ。バトルの経験者だな?)

 少年が探し物を言った時にも、ホテルマンの知識不足が露呈した。

 「あ、マスターガンダムと風雲再起下さい」

 「マスターガンダムと、ふ……何ガンダムかな?」

 「Gガンダムのマスターガンダムと風雲再起、馬のセットです」

 少年が詳細を伝えたのにも関わらず、ホテルマンはピンと来ていない様だ。勉強不足だ。これでは接客どころではない。

「ダメだありゃ。全く話にならん」

 志帆は見るに見かねて、ショーケースから少年が探しているものを見つけようとした。しかし、だいたいは作品ごとに並んでいる様なものなのに、並びがおかしくて探せない。

 「おいおい、なんでGレコの並びだと思ったらキングゲイナーが混ざってんだ? 最新イングラムとHGケンプファーなんて箱のサイズから違うぞ。同じ出渕メカだけどさ」

 これには志帆もお手あげ。少年のトラウマに模型屋が刻まれない内にこちらへ誘導する。

 「少年、うちの店においでよ。値引き率は悪いが、いいものあるよ」

 「え? 他にも模型屋さんあるんですか?」

 少年の言葉から嫌な予感がした志帆は商店街の地図まで行って確認した。ここまで来て商店街では古株のヨーツンヘイムに来ないことと、この発言は明らかに危険な匂いがする。

 建て付けの地図を確認すると、ヨーツンヘイム改二の場所がペンキで塗り潰されていた。

 「げぇ! おいおいペンキかよ。仕方ない。ヨーツンヘイム改二のシールでも貼っておくか」

 ここはシールを貼って事なきを得たが、シャレにならない営業妨害だ。

 

 店に戻った志帆は少年と話し込んでいた。愛機だというビルドストライクガンダムはエアマスターのバックパックを改造して取り付け、変形出来るようになっていた。白い部分を灰色に塗り替えたため、本格的に戦闘機みたいだ。

 それだけじゃない。各部のディテールアップやマーキングからして、戦闘機のスケールモデルの技術が落とし込まれている。それだけではない。

 「なるほど、これは可変機か」

 「肩のスラスターを後ろに向けて、それこそウイングみたいにすれば……」

 ガンダム初心者の氷霞は話についてこれてないが、とりあえずこのガンプラがそれなりに強力であることを察していた。

 「隣の店は安いけど気をつけろよ。この辺で模型屋といえばうちかピースミリオンだ」

 「もう使いませんよ、あんな店」

 志帆はちゃっかりライバル店のネガキャンをしていた。少年もあの店は懲り懲りみたいだった。

 「で、どうするの? あんな店、放ってはおけないでしょ」

 氷霞は志帆に今後のことを聞いた。いくら変な店とはいえ、あの長年続いた薬局をどうやって退かしたのか。きっとロクな方法では無いに違いない。このままでは商店街の運営にも問題が出るだろう。志帆の答えは単純明解だった。

 「決まってるだろ」

 

 「これより、従業員によるデモ走行を行います」

 平の店ではガンプラバトルのシステムを使い、レースゲームをしていた。行き過ぎた平和主義者としては、ガンプラバトルなどという戦争ごっこを認めるわけにはいかなかった。そこで、車のプラモでレースをしているのだ。

 ただ、お客はスッカラカンである。レースにしても安全運転で面白みに欠けるのだ。

 「なんだ?」

 レース中の車がガトリングで穴だらけにされて爆発した。突然どうしたというのか。コースにミサイルが飛んでくる。

 「殴り込みじゃー!」

 コースへ進入してきたのは赤いグフとウイングガンダム、そして飛行機だった。飛行機は変形してビルドストライクになった。

 「グフ・クインテット、四条志帆!」

 「ウイングガンダム、彼方氷霞……」

 「ビルドストームストライクガンダム、アッシュ・ライト!」

 三機が揃ってポージング。少年の名前はアッシュというらしい。

 武装のない平和主義者は太刀打ち出来ない。平は『武器を持たねば攻撃されない』と本気で信じていただけに驚愕する。

 「武装してないのに攻撃された!」

 「世の中、そんなもんよ! 衛生兵だって条約では武器持ってはいけない代わりに攻撃されないことになってるけど、だいたいみんな武器持つ方選ぶし」

 武装していないから攻撃されないというのは甘い考えだ。戦場では疑心暗鬼故に武装してないことを信用できないため、武装してなくても攻撃される。また、防衛機能すら全く武装していないのは侵略者にとって好都合過ぎる。戦場では安全地帯で決められた口約束よりも、銃が信頼できるのだ。

 平和は大事だし戦争はいけないが、平の様な思考停止に陥ってはいけないよ。こっちがそのつもりなくても、家康が鐘の刻印に言い掛かり付けた様に攻撃機会伺っている奴らもいるし。

 「こんなこともあろうかと! 戦争屋共を撃滅する武器はあるんですよ」

 「武装しないんじゃなかったのか」

 平がいくつかプラモデルを投入してくる。志帆は、こういう団体のダブルスタンダードはデフォだし、と諦めた。差別はいけないという市民団体が、当事者すら気付かない些細なことで相手を差別主義者と差別するなんてことはよくある。そんなことよりちびくろサンボの復刊はよ。

 飛んできたのは大きめの戦闘機。操縦するのは店のサンプル作りに雇われたモデラーだ。

 「スケールモデルの力を見るがよい! 所詮ガンプラなんぞオモチャよ!」

 「あれはアメリカのレベルモノグラム社から発売された32分の1スケール、ファントム2! あんな高価なキットを……」

 志帆は瞬時にキットを見抜いた。どんな観察眼だ。とはいえ、ファントム2だけなら一般的な72分の1スケールで結構出ているが、このサイズとなるとそれなりに絞れる。

 「追いついて見せなさいよ!」

 アッシュは変形してファントム2に対し、先行した。だが、それはドッグファイトにおいて厳禁だ。

 「馬鹿め! 戦闘機でケツをとらせるとは!」

 戦闘機には後方へ攻撃する手段がない。故に戦闘機は後ろを取られたら終わりだ。

 「これは戦闘機ではない、モビルスーツだ!」

 しかし、アッシュはモビルスーツに変形させて急に振り向いた。こういう動きが出来るのは可変機ならではだ。

 「何ぃ!」

 そのまま戦闘機をライフルで撃墜する。地上から戦車が狙っているが、愚か。第二次大戦で戦車を最も破壊した男は飛行機乗りなのだ。

 ただのライフルで戦車を上空から撃破していく。これで敵は全滅だ。相手がガンプラでないと、余程操作が上手でないとさすがに相手にならない。

 

 殴り込みを終えて満足げな志帆達が平の店を出ると、弁護士らしきスーツの男と薬局のおばあちゃんが外に立っていた。隣にはアロハっぽいシャツを着た、髪を染めた男がいる。

「あ、私あの人テレビで見たことある。弁護士の北岡先生だよね」

志帆がテレビでしか見たことない弁護士の北岡がいたのだ。これは完全に訴訟の構え。

「あら、弁護士の北岡先生ではないですか。今日は何の用ですか?」

「ああ、ここのおばあちゃんが入院している間に土地を取られたというので調査に来たのですよ。いや、まさか詐欺でもなくいない間を狙って勝手に店建てるとは」

北岡は薬局を取り戻すためにやって来た様だ。隣の男は最近、社会復帰のために北岡に助手をやらされている浅倉威だ。ゴローちゃんの忙しい時に、こうして仕事をしている。

「さぁ、訴訟ですよ。私に任せておきなさい」

平はまさかの北岡登場に絶望した。この男、黒を白にする能力を持つといわれ、どんな被告人でも無罪に出来る。逆もまた然り。

 

こうして、はす向かいの模型屋騒動は一応解決した。そして、この場に揃った三人が今後巻き込まれる戦いは、大きなものとなるだろう。

まずはラインアーク陥落を目指せ!




 責任者お茶会
 雪菜「参りましたね」
 ニルス「さすがにゲーム部門の人は口を出してこないと思っていましたが……」
 雪菜「こうなるとアケ勢流入どころじゃなくなるよね」
 ニルス「ガンプラでバトルしてる中に違うゲームのCGモデルをゲーム中の性能そのままに参加させるなんて、ビルダーには不利過ぎますよ」
 雪菜「ただのゲームならまだしも、インフレ上等のオンラインゲーム。さて、どう出るよみんな」
 セイ「そんなの、こっちのガンプラを見せつけてガンプラの魅力に引き込むまでです!」
 セカイ「簡単ですよ、負けなきゃいいんです!」
 ユウセイ「ま、そういうことだ。戦い方ならある」
 メイジン「多少不利な方が、燃え上がる!」
 駿河改「コンピューター程度では、俺を倒せん」
 雪菜「だってさ。君はどう? 黒い鳥」

 ???「いつも通りだ。楽しむなら楽しむ、邪魔するなら全てを焼き尽くすまで」

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