ガンダムビルドファイターズ ダークレイヴン   作:級長

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ベアッガイとは
『模型戦士ガンプラビルダービギニングG』に登場したアッガイの改造機。見た目からそうは見えないが、水陸両用型。宇宙にも適応可能。
バリエーション
ベアッガイ
記念すべき第一弾。目がメガ粒子砲になっており、背中のランドセルにはミサイルとたて笛サーベルがある。ホビージャパンの作例ではドラえもん的にサーベルを持たせたが、実際は指がニョキッと伸びる。

ベアッガイⅡ
より熊らしくなったベアッガイ。ランドセルがオミットされ、顔もガラリと変わった。手にサーベルが追加され、扱いやすい機体。
ベアッガイⅢ
コウサカ・チナが制作したバリエーション。カラーは黄色。リボンストライカーで機動力もある。中に綿が詰まっている。
ベアッガイF
ファミリー。カミキミライがユウマに手伝ってもらって作ったガンプラ。背中にはチェアーストライカーとそれに座るプチッガイが。



7.ベアハンター

暁中学 倉庫

 

 アイドル研究会とのバトルは、Gブレイカーズの拠点である倉庫で行われた。バトルシステムがあるのはここだけなので当然である。

 その会場でお菓子を広げているのは前祝いのつもりか。勝手にパソコンでテレビ番組を見ている。動画サイトからだろう。最近人気のアイドル『ストーム』が報道番組に出ている。

 アイドル研究会にして生徒会女子の4人は、勝手に人の部室で寛いでいる。

 「やっぱり結婚するなら家庭的な男子でしょ」

 そう発言したのは生徒会の副会長でもある女子。茶髪にピアスという明らかな校則違反だ。

 他の女子も似たような、否同じ外見なので見分けがつかない。ガンダムの背景に出てくる量産機だってもうちょっとバリエーションがある。作ったキンキンの声も同じなので、アニメなら声優が一人で済みそうだ。

 幸い、雑誌に載ってた流行りのメイクを真似したのか下手な化粧の下手具合がそれぞれ異なるのでそれで見分けることが可能かもしれない。リーダーなんかマスカラやアイシャドーの付け過ぎでパンダみたいになっている。

 バトルシステムの上にはラインストーンでデコられたデスクトップPCが置かれている。無駄にスピーカー周りの周辺機器は充実している。

 パソコンの動画サイトから流れるテレビ番組は、ストームが出演した報道番組のもの。動画タイトルは『ストームがまた不勉強で解説員を困らせる』であるが、ファンはまるで気にしていない。

 『でして、PPSEとヤジマ商事の正式発表では日本第五ブロック代表のレイジ選手はフィンランド代表のアイラ・ユルキアイネン選手を伴ってレイジ選手の祖国、アリアンへ里帰り。PPSE会長のマシタ氏は秘書と共に事故の責任を逃れるため雲隠れということになっております。レイジ選手とマシタ氏は同郷なんですよね』

 『事故の責任を逃れるために隠蔽してるんでしょう!』

 解説員の説明を掻き消す様にアイドルが噛み付く。解説員は呆れながら説明を続けた。

 『この発表を行い、現在のプラスフキー粒子開発の監督研究員である星影雪菜氏はガンプラ学園のバトル部顧問であるアラン・アダムス氏と共に第7回大会の決勝、引いては以前に起きた不正を糾弾しています。自らが属するPPSEへ不利な告発をし、ヤジマ商事へのPPSE統合の一因となった両名が今更PPSEを庇うとは考えられません』

 『ですが! 星影雪菜はニールセンラボでニルス・ニールセンの部下として研究を続けているではないですか! これは何か関係があるんじゃないんですか?』

勉強不足なのに噛み付くアイドルに、解説員も困惑状態。この呆れ顔を見て、ファンは『またストームが不正を暴いた』と悦に浸るのだ。大声で意味不明なことを喚いて相手が何も言えなくなれば勝利宣言。全く救えない。

 「仕事にしても今時投資以外で稼ごうなんて、社会舐めてるよね」

 「あたしらどんだけ金掛かると思ってんの? 養うんならそれなりに稼いで欲しいよね」

 社会を舐めてる本人が言うと滑稽だが、今投資が儲かるのは事実だ。好景気、というわけではないが、最近は何が売れているのか市場の様子を明確に知ることが出来るシステムがあるのだ。

 先日、戦が使ったカードだ。あれは個人情報が記録され、あのカードで買い物すると何処に住む何歳のどんな人が何を買ったか、詳細なデータが記録出来る。

 今までの電子マネーやクレジットカードとは違う。企業連が使用を義務化したため、この日本で行われた買い物のデータが全て集計されている。そのデータは使用料を払えば閲覧可能で、投資家の武器となっている。

 「ま、今時あのデータ閲覧出来ない奴に生きる資格ないでしょ」

 使用料がそれなりに高く、使えない投資家は当然不利。つまり、始めから金のある投資家は使えて更に儲けを出せるが、庶民がこれから投資を始めようとすると、このデータの有無が大きな差となる。

 企業連は5年前、壊滅的被害を受けたが、復活を果たそうとしていた。

 

 「人のところを散らかすなぁあああああ!」

 突然、戦端は戦の一言で切られた。この光景を見れば当然の反応だ。

 そういう戦はエプロンに三角巾を装備している。手には何かゴミ袋を持っていた。言わずもがな、アイドル研究会が不法占拠している多目的室を片付けてきたのだ。

 週末に片付けたばかりなのに、再び占拠したのだ。

 「あ、また人の物をゴミみたいに!」

 「実際ゴミなんだから仕方ないだろ」

 ドサッと落とされた袋から、アイドル研究会はグッズを回収する。まあ、見事にグッズが分別ごとに分解されてしまっている。CDの冊子はご丁寧にページを留めるホッチキスも外してバラバラにした。陰湿だ。絶対戦だけは姑にしたくないと誰もが思うだろう。

 「やれやれ、話になりませんね。では、早速バトルにしましょう」

 これには葉月も呆れていた。早いとこ、こいつらを懲らしめねばならない。桜や辰摩も部室に来ていた。

 「で、あんたらは野崎さんだけで戦うはずだけど、本当に勝てると思ってるの?」

 「うん」

 桜はあっけらかんとしていた。4対1でも、負ける方が難しいと思っていた。当然だ。こちらは経験者からの指導付き、相手は素人。負ける要素が無い。

 『ガンプラヲセットシテクダサイ』

 桜はGアルケインをセットする。一方、アイドル研究会は素組のベアッガイⅡ。と思いきや、リーダーのガンプラだけ何か違う。ピンクに塗られており、バックパックに帽子の様なものがセットされていた。

 「ベアッガイⅡの余剰パーツにはアッガイの頭部がありますが、それを利用して帽子を作ったのですか? いや、でもそんな技術は……」

 葉月はこのガンプラがアイドル研究会の製作ではないことを見抜いた。校則違反の化粧を見てもわかる通り、彼女達はさほど器用ではない。自分に興味のあることですら上手く出来ないのに、わずか2日でこれを仕上げられるのか。

 アッガイのパーツを帽子にするには、パテで頭部のモノアイレールを埋めるなどの工作が必須だ。

 「気を付けて下さい、桜さん。何か裏があります」

 「うん、わかった」

『バトルスタート』

 「野崎桜、Gアルケイン、出ます!」

 Gアルケインがカタパルトから射出される。バトルフィールドは海上だ。アルケインは単独飛行が可能なので問題は無いが、ベアッガイⅡは水陸両用のガンプラ。どちらかといえばベアッガイⅡに有利だ。

 「こんな時に有利なフィールドが?」

 「全く陸の無いフィールドなんてあるの?」

 このフィールド、陸地が無い。普通、ガンプラバトルでは宇宙でもない限り陸地が少しはあるはずだ。そうで無ければ、今回の様なチーム編成では戦いにすらならないからだ。

 海から鉄砲水が噴き出し、ベアッガイⅡを押し上げた。それに乗り、アイドル研究会は上空にいるアルケインに肉薄する。このベアッガイⅡは素組だ。

 「フィールドギミックも!」

 アルケインは変形して攻撃を回避した。更に上空へ飛び、一気に下降して鉄砲水に棒立ちのベアッガイⅡを撃ち抜く。右手に構えたアルケインのライフルはロングレンジ。距離が離れても当たる。

 「何か変だぞ? こうも相手に都合のいいフィールドがあるか? 桜、リーダー機を狙え。妙に出来たそのガンプラは怪しい」

 戦は不自然に出来のいいガンプラを不可思議に感じた。あれに何かあるはずだ。リーダー機はピンクで帽子のベアッガイだ。

 「そこだ!」

 リーダー機のベアッガイがノコノコと海上から出て来た。背負った帽子の機能で飛んでいるのだ。手から出したビームサーベルで接近戦を仕掛けるも、アルケインはシールドでそれを防ぐ。

 「このシールドは、こう使う!」

 アルケインのシールドにはバーナーが内蔵されている。接近した相手を焼く牽制用の装備だが、アニメでは変形同様活躍の機会が無い。姫様がポンコツなのがいけない。

 「チッ、汚い真似を!」

 リーダー機は距離を取ると帽子をフリスビーの様に飛ばした。その帽子はアルケインが左手に持つビームサーベルで叩き斬られる。これで飛行は出来まい。

 「これで空は飛べないね!」

 「そいつはどうかな?」

 桜が落下中を追撃しようとしたら、ベアッガイは鉄砲水に乗って空を飛んでいるではないか。そこから不意打ちのパンチでアルケインが左手に持つサーベルを落とした。

 「やっぱ、ベアッガイに仕掛けがあるな」

 「そうだね」

 戦と辰摩はベアッガイⅡをますます怪しむ。確実に何らかの仕掛けがある。フィールドの水を操る機能だとしても、バトルフィールドが水場になるとは限らない。なのに都合よく海になったフィールド。非正規の方法で組み込んだシステムなのか。

 「そら落ちろ!」

 「そりゃそっち!」

 ベアッガイⅡは口からビームを放つが、アルケインは左手からビームワイヤーを出して先にベアッガイⅡの顔面を貫いた。

 「何?」

 「ビームワイヤーって、眩しいんだから!」

 そのままロングレンジライフルをバスターソードに変形させてベアッガイⅡを真っ二つにした。バラバラになったベアッガイⅡから、デジタルチップの様なパーツが出てきた。

 「あれは! 5年前の?」

 「知ってるのか葉月!」

 葉月はそのチップに見覚えがあった。5年前、そのチップを使って暴れ回った集団がいたのだ。

 「バトルシステム用のハッキングチップ。5年前、企業連のワークスチームが使用していた、バトルシステムにハッキングしてガンプラの性能を出来映え以上に引き上げる違法パーツよ」

 「なんでそんなもんが田舎のボンクラ風情の手に渡ってんだ?」

 「わからない、けど、どの道問いただすしかないね」

 戦は葉月の言葉で思い出した。5年前、自分がガンプラバトルをしたいと思ったキッカケのバトル。あのバトル中に発生した虹を中継で見たことがキッカケだったが、本題のバトルは企業連とファイターの衝突であった。

 企業連のワークスチームが違法なパーツで大会を荒らし、ガンプラバトルを潰そうとした。今もしつこくマスコミが追及している第7回世界大会でのアリスタ暴走事故は、まさに企業連が声高にガンプラバトル廃止を訴える材料となっていた。

 「そうか、もうハッキングチップはアップデートで対策されたけど、このバトルシステムは最初期型だもんね」

 辰摩はこのバトルシステムがヤジマ製の前に流通していたPPSE製、その最も古いタイプであることを思い出した。 だから既に対策されたハッキングチップが効果を持つのだ。

 「残るは二匹!」

 『エラーハッセイ、フィールドヲヘンコウシマス』

 ハッキングチップを失い、フィールドがファクトリーに変更された。水場が無くなり、潜っていたベアッガイⅡは姿を現わす。

 水中で固まっていた残りのベアッガイⅡは、アルケインのバスターソードに横っ腹から二匹とも一気に貫かれた。

そのまましめやかに爆散。これにてバトルは終了だ。

 『Battle ended!』

 「やった!」

 バトルが終了すると、葉月と戦は即座にハッキングチップを回収した。素組のベアッガイⅡにも箱の様なパーツがバックパックに付いており、それを解体すると中にハッキングチップが入っていた。

 「効果の違うハッキングチップか?」

 「調べる必要がありそうね」

 ハッキングチップをバトルに用いるとは、もはや不正アクセスのレベル、すなわち犯罪だ。葉月はアイドル研究会を問いただした。

 「このガンプラをどこで手に入れたのです?」

 「知らないよ。郵送で送られてきて、バトル部とのバトルにはこれ使えって書いてあったんだもん」

「そんな頭の悪い言い訳を信じると思ったのか?」

 戦はあまりに言い訳が馬鹿なので信用できなかった。こういう手合いの奴は保身のために嘘をつき、次第にその嘘が本当のことかの様に頭に刷り込まれて、自分でも嘘をついていたことがわからなくなるのだ。

 「まったく。これは処分を先生に任せるしかありませんね」

 葉月もこれには頭を痛めた。とにかく桜の初勝利を祝って、馬鹿なことは忘れよう。それがバトル部の総意だった。

 

 暁中学 生徒会室

 

 バトルの様子をベアッガイⅡのカメラから見ていた者がいた。前生徒会長の眼鏡だった。生徒会室のパソコンから、バトルを全て見ていた。

 普通の教室の半分ほどの部屋で、机やロッカーが並んだ狭い部屋だ。ただでさえ狭いのに机の上にまで物が散乱していた。奥には生徒会の猿達が経費で買ったガンプラが置かれていた。まさに、今季生徒会の負の遺産が山積みというわけだ。

 「まさか、あのハッキングチップがあって負けるとはな」

 彼にもアイドル研究会の敗北は予想できなかった。多勢に無勢。しかも素組をプロ製作レベルの性能に引き上げるハッキングチップ付きで負けるとは、よほどの馬鹿に違いない。

 「だが、私には切り札がある」

 パソコンの横にはガンプラの箱らしきものが置かれていた。これこそ、生徒会の切り札だ。

 「あとは、彼女がどう動くか……」

 生徒会長は部屋の窓から弓道場を見つめる。窓は物で埋まっており、何も見えないが、自分が生徒会をしていた頃の記憶ではここから弓道場が見えたのだ。

 生徒会とGブレイカーズの戦いは最終局面に差し掛かろうとしていた。




 次回予告
 戦「開会セレモニー?」
 葉月「選手権の開催を祝したオンライン上のイベントよ」
 戦「おい、様子がおかしいぞ!」
 桜「みんなやられ……あの機体は!」
 葉月「次回、『混乱、開幕セレモニー』」
 戦「お前もファイターなら、戦場で死ぬ覚悟は出来ているな」

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