コトブキヤが展開するオリジナルのロボットプラモデル。組み立て済みの骨格『フレームアーキテクト』にアーマーパーツや武装を取り付ける。アーキテクトには組み立て済みのABS製のものと、組み立てキットのものがある。
拡張セットとして追加の武装が販売されている。基本的にジョイントが3ミリ径なのでガンプラの改造にもピッタリ。
ただ、バンダイ製品が変態的に安いので、相対的に高く見えてしまう。日本製であの値段、量販店なら3割引き、バンダイの安さがおかしいんや……。
「とりあえず、これで今日は乾燥待ちですね」
葉月は桜のアルケインの出来映えを確認していた。合わせ目を消すべきパーツは乾燥待ち。これを翌日、やすりで削って組み上げる。
合わせ目消しはパーツを組み合わせた時、合わせ目となる部分に接着剤を塗ってパーツを合わせた際、ムニュっとはみ出る分があるのでそれをやすりで削るのだ。ただ塗るだけではなく、一度塗って少し乾かしてもう一度塗る、を繰り返してたっぷり浸透させる必要がある。
コツがいる作業な上に最近のキットは合わせ目が出ない、合わせ目がそのままパネルラインになっている場合が多い。旧キットやHGグフなど昔のHGで練習しよう。今のキットでもさすがにライフルだけはモナカ割りなので、覚える価値がある技術だ。
「で、辰摩のヴァーチェが箱まみれなんだが……」
戦は辰摩のヴァーチェを眺めて驚愕する。なんだか、ヴァーチェのあちこちに大きな箱が追加されたのだ。
「そうそう。前から改造してたガンプラが完成したんだ。名付けて、ガンダムグライヴァーチェ!」
辰摩がグライヴァーチェと呼んだそのガンプラが装備する箱は、なんとミサイルポッド。言うなれば『ヴァーチェフィジカルミサイル装備』。戦は素材と思わしきプラモの箱を観察して驚愕した。
「ゲェ! これコトブキヤのフレームアームズ、グライフェンの拡張セットじゃねぇか! こんな高価なパーツを!」
素材となったのはコトブキヤから発売されているオリジナルロボットプラモデル、『フレームアームズ』の武器セット。エクステンドアームズというガンプラでいうところのビルドカスタムに当たるパーツだが、バンダイ製品が異様に安いだけなのだが基本的に大型HG1体に匹敵する値段である。
ガンプラバトルがブームになった影響でパーツの破損が相次ぎ、フレームアームズのパーツもガンプラ改造に使用されたり、フレームアームズ自体をバトルさせる様になったことで需要が増加。工場を日本に移し、大量生産大量販売が行われることで15年前より価格は下がっているが、まだまだガンプラの安さには及ばない。
エクステンドアームズの中でもグライフェン用の追加ミサイルポッドは輝鎚用の追加ブースターに次いで高価なアイテムなのだ。何せ、デカイからね。値段はだいたい、HGの初代ジム6体分くらいだ。
「さ、とりあえずここで休憩にしましょう」
「ご飯出来てるよ」
葉月は見切りを付けて休憩にする。レイモンドもこの間にご飯を作っていた。ここまで匂うスパイシーな香り、カレーだ。
「カレーか。給食室封印されてから食べてないな」
「あんな冷や飯食べてたら非行少年になってしまうよ。美味いもん食わないとね」
メイドらしい食へのこだわり。家に普段、親がいない戦には久々のインスタントではないカレーとなる。ダイニングはドッシリとした高級そうな机と椅子が陣取る、いかにも金持ちそうなインテリアだった。
金持ちの家らしからぬ普通の食器に盛られたカレーは、実にスパイシーな匂いを漂わせる。具は人参、ジャガ芋、玉葱、豚肉と一般的。付け合わせが福神漬とラッキョウで二つ用意されているのも気が利いている。
福神漬派とラッキョウ派の戦いは、かの有名なキノコタケノコ戦争にも勝るとされているからだ。
「いやー、すみませんね」
「いいって、ご友人の治療もメイドの仕事だし」
ご飯を食べて風呂に入った後、戦はレイモンドにダメージを受けた左膝を手当してもらっていた。左膝には何か怪我の様な痕があり、それが古傷になっているのではないかとレイモンドは見ている。
ただ、メイドの仕事は治療まで。詮索しないのが基本だ。
葉月と桜も風呂から上がり、次の作戦に移る。
「ふう、では辰摩さんと戦さん、アリーナに行ってみてはどうですか?」
「アリーナ?」
葉月はアリーナ行きを戦と辰摩に奨める。アリーナとはオンラインバトルの形態の一つで、戦場での乱戦ではなく一対一のバトルでランキングを競うのだ。
「グライヴァーチェの試運転と、戦さんは改修案のテストですね」
戦のデュナメスはミサイルを両手に持ち、スナイパーライフルは肩にマウントしている。デュナメスをどう改造するかが、今後の課題だ。
「オンラインバトル用の機械なら二つありますし、二人で潜るといいですよ」
「レイモンドさんもバトルするんですか?」
葉月によると、オンラインに繋ぐ機械は二台あるようだ。金持ちらしくただ持っている、というわけではなさそうだ。戦はレイモンド用のものと判断した。
「ヤナがガンプラ始めたからね。私もやってみたくなったわけよ」
度々名前が挙がる三代目メイジン・カワグチのメイド。何者なのか。
アリーナ ランクマッチ7530
アリーナはファイターが保有するポイントを奪い合う方式でランキングを決める。下のランクに負ければ大量のポイントを失い、当然上のランクの敵を倒すほどポイントは大量に手に入る。自分より下位の敵はいくら倒してもポイントにならない。また、ポイントは戦わない日が続くと勝手に減少していく。
上位ランカーとなるには自分より上のランカーに勝ち続けないといけない、過酷なバトルだ。
『イクサ&タツマVS3.5代目メイジン・カワグチ&イオリ・セイ』
「イオリ・セイにメイジン・カワグチ?」
「偽者なんじゃない?」
対戦相手の名前に2人が困惑したのも無理はない。この2人は第7回ガンプラバトル選手権世界大会で決勝を戦った。それが何故、ビギナーの戦達と同じランクで戦っているのか。
「辰摩さんの予想通り、偽者です。いるんですよ、こういうの」
葉月が言うには、やっぱり偽物とのこと。みんなもソシャゲでアニメキャラの名前付けた厨房見たことあるよね。それと一緒。本人からすればいい迷惑だ。
闘いのフィールドは宇宙。出て来たのは青いレッドウォーリアーとほぼ素組のスタービルドストライク。レッドウォーリアーは背中にバズーカ二つとガトリング二つを装備し、両手にロングのガンブレードを持っていた。
「最低限の武装で戦うレッドウォーリアーに武器だけ追加なんて、機動力が死んでます。バズーカにジョイントを付けてガトリングを追加するなど、取り回しも最悪です」
ロマンに振り切るならまだしも、ただ単にレッドウォーリアーの旨味をかなぐり捨てただけの改造に葉月は苦言を呈す。スタービルドストライクの方も単にシールドとライフルを増やしただけ。あまり強い相手ではない。
「冗談は名前だけにしておけ。すぐに楽にしてやるよ」
戦が敵二機に向かってデュナメスを進める。青いレッドウォーリアー、ブルーウォーリアーはモタモタしていた。当然だ。両手とバックパックに武器を満載した状態では、武器の持ち替えなど不可能。一方のデュナメスは両手のミサイルコンテナを早々に撃ち切ってパージする。
ブルーウォーリアーがミサイルを受けて爆散する。素組より弱いんじゃないだろうか。残るはビルドストライクだけ。デュナメスはハンガーから武器のライフルを取った。
「これがグライヴァーチェの力だ!」
辰摩はグライヴァーチェからミサイルを大量に飛ばした。スタービルドストライクは棒立ちでアブゾーブシールドを構えたが、吸収出来ないため撃墜された。
『battle ended!』
初戦は難無く突破。戦達は始めたばかりだからこの順位にいるのだが、奴らはずっと底辺。実力差はお察しの通りだ。
その後も下位ランカーは楽々突破。戦も下位ランカーに多い素組の機体だが、長年のレイヴン生活で鍛えた腕がある。操縦技術で勝っている。
しばらく戦っていると、辰摩一人に対して乱入があった。
『タツマVSジョーカー』
その名前に葉月は聞き覚えがあった。ただ、どのジョーカーかはハッキリしていないが。
「辰摩さん、そのジョーカーかはわかりませんが、ジェガン使いなら気を付けてください。ジェガンのジョーカーは初心者狩りをするために何台ものGPベースを持っているとの噂……」
「初心者狩りか、感心しないね」
その話を聞いて、戦は溜息をつく。アーマードコアのプレイヤー達は初心者に基本親切だ。元々黙っていても人が寄って来るジャンルではない上に、操作が難解で投げ出す初心者が多いからだ。コンテンツの長寿命化は初心者の参入率にかかっていることをレイヴン達は過疎気味な作品を愛する故に心得ている。
ガノタの様に初心者を取り除いても大丈夫、などと傲慢な考えはしていられない。
『貴様らにジェガンの力を見せてやろう!』
相手はスタークジェガンを使っていた。ただ、戦や辰摩が店でガンプラとして見たものとは装備が異なる。肩のミサイルポッドの横に大型のミサイルは無かったはずだ。
「あれはプレミアムバンダイ限定のCCAMSV版スタークジェガンですか。逆襲のシャアのモビルスーツバリエーション……」
「なるほど、つまり補給は困難か。壊せ」
店に売ってないなら予備パーツの確保も難しい。破壊すれば少しは大人しくなるだろうと踏んで、戦は辰摩に破壊を命じた。
フィールドは砂漠。重装型には不利だが、装備をいかに扱うかがバトルのポイントだ。
「そのくらい想定内だ!」
辰摩はグライヴァーチェの脚部にホバーを付けており、砂漠でも問題無く動く。装備が重いと、砂漠では足を取られるのだ。
一方のスタークジェガンは装備のパージすらせずに歩いていた。グライヴァーチェを確認したスタークジェガンはミサイルをひたすら撃つ。グライヴァーチェはGNフィールドでミサイルを防御しつつ回避。武装を実弾に頼ることでGN粒子を防御に回し、回避と併用して節約する作戦だ。
「ミサイルを撃ち尽くしてデッドウエイトを排除、大推進力を活かして近接戦がセオリーですが、果たして」
ガンダムユニコーンの冒頭でも見られたスタークジェガンの活躍だが、そこではミサイルを撃ち切ったジェガンがミサイルポッドをパージ、追加ブースターの推進力はそのままに増加した重量を失うことで加速、そのままクシャトリアとの近接戦に持ち込んだ。
パージ出来るミサイルポッドを追加した機体は、このパージからの加速こそ真骨頂。果たして、辰摩とジョーカーは活かせるか。
ジョーカーは武装をパージ。早速ビームサーベルでグライヴァーチェに切り掛かる。その瞬間、グライヴァーチェがミサイルを乱射した。
まさに、装甲となる武装を脱ぐのを待っていたかの様に。
「だが、相手は軽量加速、当たるかどうか」
「いや無理だろ。『アーマードコア3』の訓練補助ミッションくらいならまだしも、スピリットオブマザーウィルかの如き弾幕、ネクストでもなけりゃデコイ無しステルス無しバルカンのみで避けれんわ」
葉月は五分五分と見ていたが、戦は回避を諦めていた。案の定、スタークジェガンはミサイルの餌食になった。バルカンすら撃ってない辺り、腕はお察しか。
しかも全てGNミサイル。スタークジェガンが内部から膨張して破裂した。
「比較的扱い難い黄色であれだけのミサイルを塗るなんて……」
黄色は塗料としては扱い難い部類。それで大量のミサイルを塗り分けた辰摩の地道さに葉月も感服していた。
『battle ended!』
「合宿が終わったらアイドル研究部を潰しましょう」
バトルを終えた後、葉月はそう言った。桜のアルケインは現状、乾燥待ちで合わせ目消しが終われば完成となる。
これで生徒会は全滅のはずだ。ガンプラバトル部のスタートは、近い。
次回予告
葉月「やっと終わりですか」
桜「私のアルケインが斬り開くよ!」
葉月「次回、『ベアハンター』」
戦「すぐに楽にしてやるよ」