オンラインで行われるアマチュア同士のバトル大会。職業とする必要が無いため参加層が厚く、プロと肩を並べる選手も多い。
ただ、有名ファイターの名前をパクっただけの奴も多いので名前で本人かを判断するのは正確ではない。
現在のランキング
1:王寺帝/バイアラン・パラドックス
2:エース/アルカディゲルグ
3:ジノ/デュアルガンダム
4:ブラスト/ガンタンク・サイクロプス
5:?/ガンダム・アンビエント
18:CUBE/ゼタフラジール
19:ミツヒデ/備前長船
20:如月葉月/ザク・プレリュード
7500:3.5代目メイジン・カワグチ/ブルーウォーリアー
7501:イオリ・セイ/スタービルドストライク真
7530:羽黒戦/ガンダムデュナメス
権堂辰摩/ガンダムヴァーチェ
ホビーショップ
「いやしかし、スレッガーとジュンヤが仲良くしてるからお前がが闇墜ちしたのかと思ったぞ」
「逆だとは思わなかっただろ?」
戦は静岡のホビーショップでかつての友人と強敵に出くわした。それでしこたまバトルしたというわけだ。
一時的にいたガンプラ学園時代の友人、スレッガーことスガ・アキラと、彼と激闘を繰り広げたイノセ・ジュンヤ。ジュンヤからはかつて感じられた独特の殺気が無かった。戦としてはその殺気を気に入っていたので寂しい部分もある。
「へぇ、カミキ・セカイか。トライファイターズ……あれ? ホシノ・フミナって聞き覚えが……違うか、あいつはジム使いだったはずだし」
話を聞くと、ジュンヤは選手権で弟弟子に当たり、負けたらしい。それで、彼の中で何かが吹っ切れたのか。それより戦は、その弟弟子のいるチームのリーダーが気になった。何処かで見た顔と名前だったのだ。
「乗ってけよ、駅まで送っていく」
「お、悪いな」
「いや俺はいい……」
駐車場にはスガのものらしきオープンカーが。ジュンヤは逃走を謀るも、スガに取り押さえられてしまった。
「なんだ、ジュンヤ乗り物弱いのか? 酔い止めあるぜ」
「そういう意味じゃ……降ろせー!」
暴れるジュンヤを乗せた車が発進する。端からみれば単なる拉致現場だ。
「サガの手首は大丈夫かよ」
「転校する前に聞いた分にゃ、選手権までには治るらしいからもう大丈夫だろ」
震えるジュンヤを置いて、身内トークに移る戦とスガ。せっかくなのでジュンヤにも触れてやることにする。
「それよりあいつとバトってどうだったよ」
「最初見た時は腑抜けたのかと思ったが、随分真っすぐになったもんだ。かえって油断出来ん」
スガに感想を求められ、戦も率直な想いを述べる。ジュンヤも震え声で言い返した。
「ふ、ふん、お前も弱くなったんじゃないか黒……待てスレッガー、スピード違反だ! 法定速度より20キロも速い!」
「お前の口からスピード違反とか聞きたくねぇが、若者のドライブは集団自殺の名所だ。スガ、高速戦闘だ、目を回すなよ」
キャラ崩壊したジュンヤに飽きれつつ、戦はスピードアップを煽った。オープンカーだと風を感じられる。
「ウィルはジュリアン・マッケンジーに師事したらしいな。ありゃただでさえ強いのが相当強くなっただろ。今年のメンバーはウィルにサガは決定として、もう一人は誰になるんだ?」
「シアだよ。あいつ、代表になったんだ」
「シアちゃんが? ビルダー専攻じゃなかったのか?」
スガからガンプラ学園の近況を伝えられた戦は環境の変化に驚くばかりだ。
戦はもう一つ、気になった事を聞いてみた。
「そういえばスガ、お前免許いつの間に取ったんだ?」
「おとといだ」
「何ィ?」
「だから言っただろ! スピード落とせ初心者マーク付けろ!」
「だからお前そういうキャラじゃねぇだろ!」
こうしてガンプラ馬鹿達は町を駆け抜けた。
2年前 夕日ヶ丘暁町 商店
田舎町とはいえ、まるで店が無いというわけではないのが夕日ヶ丘。戦は今日から日曜日にかけての合宿に備えて差し入れを買っていたのだ。
校則で買い食いは禁止なので、私服に着替えて買い物に来た。背中や左胸に『グローバルコーテックス』のエンブレムがプリントされたパーカーを着ている。
「はいはい、パス出してね」
「こんな田舎にも浸透してっから面倒だな……」
戦が支払いの時にスキャンさせたのは、5年前に企業連が導入した『ショップパス』。電子マネーの様にかざしたが、電子マネーと違ってすることは支払いなどではない。データの収集だ。
これにデータを記録することで未成年への酒やタバコ販売を防止するだけではなく、店の端末にかざして過去に買った物のデータを照合、それが店にあるのか、再入荷の予定はあるのかなどを確認出来る。
当然、電子マネー機能とクレジットカード機能もあるが、未成年に配布されるのはそのどちらも無い機能制限版。無いと買い物出来ない不便なカードでしかない。
「これ導入しないと問屋が商品卸してくれないんだよー。ワシら年寄りは機械弱いから大変じゃ」
商店を経営するおじいさんがぼやく通り、これは法律上の義務でもないのに企業連が圧力を使って無理矢理導入させている。レジも専用の物に換えられ、会計の始めにカードをかざさないとレジが動かない。
普通は独占禁止法だが、政治家は巨大な票田である企業連を恐れて何も言えない。本来は違憲と声を上げるべき最高裁判官も、今まで一度もされた例が無い国民投票による罷免を恐れるほど企業連の力は大きいのだ。
「荷物重いけど大丈夫かい? 戦くんの膝はワシらより悪いから……」
「あー大丈夫大丈夫、このくらい……」
心配するおじいさんを余所に戦が荷物を持ち上げる。すると、戦が突然APが切れたACみたいに膝を着いた。
「いてて……今日曇りだしダメージ入ったからな」
「そんなことだろうと思いました。乗って下さい」
撃墜された戦の後ろから声をかけたのは、葉月だった。葉月は店の前に車を止めていた。ごく平凡なワゴン車である。葉月は制服から着替えて、ラフなTシャツとジーンズを着ていた。
「すまないな」
「あ、戦じゃない」
「戦、何してんの?」
車に乗ったら、桜と辰摩もいた。どうやら、あちこちで拾ってきているらしい。合宿なので当然私服なのだが、辰摩はオシャレするタイプではないのか学校の青いジャージだ。桜はというと、大人しめの印象から想像できる通り桜色の可愛らしいワンピースを着ていた。ただ、本人は慣れていない様子で落ち着かない。
助手席の部分から小さい女の子が顔を出した。パーカーにデニムのスカートという服装からしてごく普通の小学生らしい。
「あ、その子が戦くん? 聞いてたより地味だね。まー、乗ってきなよ」
「うおっ、ザックリとちびっこに傷えぐられた。では遠慮無く。あれ? 運転手さんは?」
戦が車に乗ると、運転手がいない。小さい女の子が運転席に移動し、葉月が助手席に座った。女の子は赤毛に青い目と、日本語が堪能ながら外国人な様だ。
「じゃ、出発!」
「え?」
その女の子が車を運転しているではないか。ハンドルを良く見ると変わった構造をしており、ハンドルでアクセルとブレーキが操作出来る様だ。
「無免許?」
「免許あるよ」
車は安全運転で山奥へ進んで行く。山を抜けて開けた場所に着くと、大きな家があった。漫画で見るような豪邸ではないが、現実では豪邸の部類に入る。
「大きな家だなぁ」
「葉月はキサラギの社長令嬢だったね」
戦は忘れているが、葉月はキサラギ社の社長の娘である。桜は覚えていた。キサラギはクレスト、ミラージュに劣るものの『技術のキサラギ』と呼ばれる技術者集団だ。
「で、この車運転出来る小学生は何者なんだ?」
「この人、メイドさん」
「え? またまた、冗談を……」
戦は車を運転する女の子が気になっていた。葉月はメイドと言っているが、なかなか怪しい。
「ほれ、執事同盟の会員証」
未だに疑う戦に、女の子は身分証明書を見せた。それはセレブの世界で最強の信頼性を発揮する執事同盟の会員証であった。
そこには『二代目レイモンド・ポーン(27)』と名前、年齢、そして女の子の顔写真が写っていた。
「な……マジか。これ見せられたら信用せざるをえないな」
「おや、意外。この会員証の力をご存知か」
「弟にも執事同盟から一人、担当が付いてるからな」
戦はその会員証が意味するものを知っている。年齢も偽りではないのだろう。
立ち話もなんなので、レイモンドは戦達を屋敷に案内する。
「ま、募る話は中でしようよ。そこのお嬢さんもいかが?」
全員が、特に戦と桜が素早くレイモンドの視線の先を確認した。そこには、白髪の少女が立っていた。
白髪に黒いゴスロリ服、間違いない。東京で戦の前に姿を現した謎の少女だった。
「お前! 東京といい何の用だ!」
「おや、お嬢様じゃなくて戦くん目当てかね? 隅に置けないな。でも、お嬢様のご友人をお守りするのも任務なんだよね」
「例えそれが、全てを焼き尽くす存在でも?」
レイモンドが臨戦体勢に入ると、少女は意味深な言葉と共に青い光と共に姿を消した。
「消えた? これは……ヤナさん的に言えば戦くん、君は未来で何かやらかすのかな?」
「そんなトータルリコールな未来知りません」
「ま、メンヘラ女のストーカーが怖いならうち来なよ。変な気起こしても止められるから安心してね」
レイモンドの軽口に付き合いながら、戦達は葉月の家に入る。中は掃除されており、本当に金持ちの家なんだという事を思い知らされる。
「パーフェクトです、レイモンド」
「勿体なきお言葉」
葉月からの称賛を受け取ったレイモンドは奥に入り、お茶の準備をしていた。
「な、何だか現実味が……」
「一気に漫画の世界だね」
桜と辰摩は突っ込みたいところがいっぱいあった。なんで二代目なのか、とかあの白い少女は何だったのか、とか。それにあれだけ疑っていた戦が会員証であっさり納得したのも謎だ。
ダイニングでお茶にしながら、戦達は目的を整理しながら話す。
「本当に普通のお家なんだね。それで執事同盟のメイドが付くんだから、よほどの人格者だよ、弟くん」
「よほどの人格者だったら『まことちゃんハウス』より酷いデザインの学校なんか通いませんよ」
「その学校が力持っちゃったから仕方ないさ。人格者でも体制には勝てないからね」
戦の弟にはレイモンドの所属する執事同盟からメイドが配属されているらしい。執事同盟はそれなりのレベルがある執事やメイドを然るべき場所に紹介するための労働組合みたいなものなので、優秀だからといって金を詰めば雇えるわけではない。
優秀な執事が無茶な要求をする主に使い潰されない様に、雇う側にもそれなりの『人格』が求められる。それが雇えるのだから、戦の弟は大したものだ。
「ここだけの話、あの三代目メイジン・カワグチことユウキ・タツヤ氏も執事同盟からメイドが付いてたんだ。私の知り合いで、クラモチ・ヤナってメイドが……」
「守秘義務は無いのか執事同盟」
「優秀であるほど変人、それが執事同盟です」
ペラペラ個人情報を話すレイモンドに戦は苦言を漏らすが、葉月は諦めていた。こんな変人を雇う度量も求められる。
「ふっふーん、しかしお嬢様。男子はともかく女子は収穫ありですな。ま、男子勢も恋人にするより夫にする方が向いている人らですが」
レイモンドは桜に狙いを付けた。確かに桜は葉月ほどではないが、美少女の部類だ。眼鏡にボブカットがある種の野暮ったさを可愛さに変えている。
「レイモンド、ここは女子高ではないのですよ。とはいえ、あの面子では選べる男子も少ないですが」
「だよな。地味なだけの戦はまだしも会長や山田はハズレもいいとこだし」
一体何の話をしているのか。話題を切り替えて、合宿の目的を話す。
「では、来るべき対決に備えて桜さんのガンプラを作りましょう。三日あるので手を加えつつ」
葉月の言う通り、今回の目的は桜のガンプラを作ること。それには、桜の制作能力を知る必要がある。
「前に組んだプラモデル持ってきたよ。はい、ポケプラのメガルカリオ」
桜が取り出したのは、ポケプラのメガルカリオだ。素組ながらバリの処理、シール貼りなど基本はバッチリだ。
「これはいつ作ったんですか?」
「入院してたから……去年の秋かな?」
「ちょうど半年ほど前ですか。シールが剥がれてないということは、ピンセットを使いましたね。正しい選択です」
葉月はメガルカリオから桜の技術を読み取る。戦は既に、彼女の技術を知っていた。
「桜って型にはまるのは早いんだよな。さすがに天才剣道少女と呼ばれただけはある」
「天才剣道少女? 初めて聞いたよ!」
辰摩は桜の評判を知らなかった。何せ、桜は諸事情により新人戦にすら出ていないのだから。その事情こそが戦と知り合うきっかけになる。
「型にはまれば後は練習あるのみだからね。ポケプラだけならいくつ作ったことか」
「では、ガンプラを選んで早速作りましょう。うちにはたくさんガンプラありますから」
「そうだ。ちょうどいいガンプラがあるんだ」
戦は差し入れの中から、一つのガンプラを取り出す。それは東京のガンプラ大会で手に入れた、『HGガンダムGアルケイン』だ。
「おお、いいじゃん!」
「Gアルケインですか。これはいいキットです。うちにはありませんし。戦と辰摩もガンプラを強化しましょう」
桜と葉月が同意し、Gアルケインを作る事に決まった。Gアルケイン制作中、戦と辰摩も機体強化を行う事になった。
「今のデュナメスはほぼデフォルト装備だな」
「どう強化するかだな。気に入ったやつ買ったから、あんまりACの戦法には似てないよな」
戦のデュナメスは素組。これを何とかACに近づける手は無いものか。
「強化手段に悩んだら、実際に戦ってみませんか? 戦いの中からヒントを見つけることが出来るかもしれません。こういうの、ありますよ」
「なるほど。で、これはバトルシステムの台座?」
葉月が渡したのは、バトルシステムの台座に似た機械だ。ガンプラを乗せる場所と、GPベースをセットする場所しか無い。
「オンラインバトルシステムです」
「オンライン? これで世界の奴らと戦えるのか?」
葉月によると、この機械がオンラインバトルシステムというものらしい。とにかく、バトルを初めてみる事にした。
『Please set your GP-Base. Beginning [Plavsky particle] dispersal.GUNPLA BATTLE World Mode,Start up.Please set your GUNPLA. BATTLE START』
「行くぜ!」
戦がデュナメスで飛び出すと、コロニー近くの宇宙に出ていた。
「じゃあ、まずはミッションを受けてみましょう。簡単なものがあります」
葉月は一番簡単なミッションを受ける。すると、一旦デュナメスが着艦し、宇宙戦艦ごと移動した。
「今回のミッションは、資源衛星で盗掘を行う敵の討伐です。乱入無し、敵は全てNPCとなります」
「よし、機体投下、ミッション開始!」
資源衛星が見えると、再びデュナメスは戦艦から射出された。
資源衛星奪還
ミッションの目的地となる資源衛星には少数の敵MSが取り付いている。デスペラードという、『機動戦士ガンダムAGE』に登場する人気の作業用MSだ。
『MSだ!』
『話が違うぞ! 作業用MSで戦闘を強いられているのか!』
デスペラードはヒートスコップかヒートピッケルしか持っていないため、近づかなければ大した脅威にならない。戦もスナイパーライフルで姿を晒しながら狙い撃ちだ。遠距離武器を持たない相手なら、これで問題は無い。
『く、来るな!』
デスペラードは素組のライフル一発で倒せるほど弱い。スナイパーライフルは少し威力が高いので、通常のビームライフルならHPの端数が残って2発必要だろう。
最後のデスペラードをスナイパーライフルが貫いた。これで敵は全滅となる。
『助けてくれ!』
『作戦目標クリア。帰艦して下さい』
オペレーターの指示に従い、デュナメスが帰艦する。目標を達成して帰艦、これがオンラインのミッションの流れだ。
この調子で戦はいくつかミッションを攻略していく。彼の後ろでは桜が葉月達とアルケインを組み上げていた。
地球の都市で潜伏していたゲリラを倒すミッションを終えた戦に、オペレーターが告げた。
『他のファイターから連絡です。緊急の依頼が入りました。受諾する場合はヘリコプターと合流して下さい』
「ん? なんだこれ? 連戦?」
「あ、他のファイターから依頼ですね。あなたにです。よほど切羽詰まっているのでしょう」
戦はミッションを確認する。葉月によれば、他のファイターが依頼を出す事もあるようだ。
「では、目的地に向かって下さい。荒野の様ですね」
依頼の場所は荒野にある『油田プラントK-4』。戦が都市に来たヘリコプターと合流すると、ヘリコプターはデュナメスを吊り下げて目的地まで飛んだ。
油田プラントK-4防衛作戦
「既に始まっているか!」
荒野の真ん中にある油田に到着すると、既に辺りでドンパチが始まっていた。敵の対空攻撃が激しく、どうにも油田まで近付けない。
『来てくれたか! すまない、対空攻撃でヘリコプターは近付けない。付近の敵を倒しつつ合流してくれ!』
「了解」
依頼を出したらしい司令官に従い、戦は歩いて油田プラントへ合流する事になった。
『なんだこいつ?』
『所詮は素組だ、負けるか!』
敵は部分塗装を施したザク。戦のデュナメスはミッションの合間にバリの処理は部分塗装、武装追加などが行われた。バトルアームアームズからアックスとソードライフルをライフルモードにして持ち、スナイパーライフルは肩に装着してある。フルシールドも完備だ。
「出たよ、プラモ自信ニキ。ここは戦場だ!」
戦は慣れた動きでザク2機を切り裂き、辺りを確認する。まだ敵はいる。
「武器か。これ持ってくには今の武器パージしないとダメだな」
デュナメスには武器をマウントするハードポイントが無いため、ザクのバズーカやマシンガンを持っていくには今の武器を捨てるしかない。
「ならば!」
そこで戦はこの場に留まることにした。ソードライフルとアックスを一旦捨て、マシンガンやバズーカを適当に撃つ。
「マズイな、足を止めたら敵が集まってくる!」
マシンガンを撃ち尽くさないうちに捨て、戦は自分の武器を拾って油田へ急ぐ。マシンガンのマガジンだけは抱えて持っていく。
『こっちだ、傭兵!』
「なかなか強そうなガンプラだな」
油田プラントに到着すると、ガンメタル塗装のスーパーカスタムザクF2000が戦を呼んだ。敵の進攻は激しく、旗らしき物まで迫ろうとしていた。旗を中心とした光の円の中にスーパーカスタムザクとジムスナイパーⅡがいた。
葉月が状況を解説する。
「なかなか危ないじゃない。敵をその旗に近付けないで。旗の周りに光で輪が書かれているけど、そこに敵が一定時間いると制圧される。つまり、ミッション失敗よ」
「よし、わかった。とにかく奴らを足止めするぞ」
今、スーパーカスタムザクとガンダムデュナメスが
戦は地面にマガジンをばらまいた。敵のザクⅡ改が2機、旗に迫っていた。丸いマガジンはコロコロとザクに向かう。戦はスナイパーライフルに武器を持ち替えた。
『何をする気だ、傭兵!』
「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」
ザクⅡ改にマガジンが近付いた瞬間、戦がそれを撃ち抜く。すると、弾が誘爆して散弾の様にばらまかれる。ザクⅡ改は大したダメージを受けてないが、ブレーキをかけた。
『素組が……小癪な真似を!』
『足を止めるのは命取りだな』
スーパーカスタムザクが停止したザクⅡ改にマシンガンやミサイルを乱射する。これで2機撃破だ。
「よし!」
『ふむ、ルーキーにしてはいい腕だ』
とりあえず目の前の敵を倒して一安心。と思った矢先、何かがスーパーカスタムザクを頭上から垂直に撃ち抜いた。
「何ィ!」
その一撃でスーパーカスタムザクは爆発する。円の中に、バイアランらしきガンプラが降り立った。葉月はその機体を知っている。
「ランカーガンプラ確認! これは……バイアラン・パラドックス? ランク1、王寺帝!」
そのバイアランは深紅に塗られていた。逆脚のバイアランはただでさえゲテモノ風味なシルエットを異質なものへと変化させていた。
『ランク1がなんでこんな油田プラントを?』
『気にするな、戯れだ』
ジムスナイパーⅡがバイアランを撃つも、明らかに直撃して見えるのに弾がバイアランを貫通する。
「なんだありゃ?」
「瞬間的に避けて、元の位置に戻しているんです。これが王寺帝が『停滞(ステイルス)』と呼ばれる理由……!」
「ステイシスじゃなくてか? どうもパクリ臭せぇ……」
困惑する戦に葉月が解説する。まるで透ける様に停滞する。それこそバイアラン・パラドックスの脅威。
突然、ジムスナイパーⅡが爆発した。やはり、目にも止まらぬスピードで撃ち、手を戻しているのか。
『世界の壁を知るがいい、ルーキー』
バイアランが腕からのビームサーベルでデュナメスに切り掛かる。デュナメスも二本のビームサーベルで防いだが、バイアランの力が強くて押し切られそうだ。
さらに、ビームサーベルがバイアランのサーベルでジワジワ斬られているではないか。このままでは、デュナメスも真っ二つだ。
『これが世界の実力だ、ルーキー』
「そうかい、そりゃよかったな。ならよぉ!」
随分と偉そうな王寺だが、戦は負けるつもりなどなかった。デュナメスが急に力を抜き、バイアランは体勢を崩す。
『何?』
「ちぇいさー!」
さらに、腰のバーニアを動かしてデュナメスはバイアランの股下を潜る。拘束は解除した。
『フン、少しはやる様だな』
バイアランが再び立ち上がると、旗の色が変わった。いつの間にか、制圧に必要な時間が過ぎていた。
『制圧、完了。油田プラントK-4はチーム「タイムアルター」の所有となります』
『制圧されました。ミッション失敗です』
バイアラン・パラドックスはそのまま上空に飛び上がり、ベースジャバーに乗って油田を脱出した。
『これが世界の実力だ』
「チッ、なんだあいつは……」
確かに世界の壁は厚い。だが、所詮はオンラインモードのランク1。戦は井の中の蛙が暴れた跡を眺めていた。
次回予告
辰摩「出来た! これが俺のガンプラ!」
戦「これは……なんとも贅沢な」
葉月「次回、『グライヴァーチェ』」
戦「弾幕、薄くなかったですか?」