・一部のキャラクターの性格、設定が本編とは微妙に異なる場合があります。
・また、いk……一部のキャラクターの扱いが良くない場合もあります。
・そもそも風越って女子高だって?細かいことは気にしてはいけません。・
以上の注意書きを読んだ上で納得できた方のみ下へ進みください
【番外編】風闇の闘牌(前編)
7月の初旬となると、先日までのじめじめとした空気は突然嘘のように消え去り
代わりに現れた太陽は眠る者全てに寝苦しさを与えていた。
「起きなさい、しげる。朝ご飯ができたわよ」
そんな苦しみから解放するようにそっと男を揺り起こす女性の姿があった。
「また来てるのか……先輩」
朝から美女が優しく起こしてくれるという、男なら誰もが羨むシチュエーションだが、男……私立風越高校2年生赤木しげるはうんざりしたような声を出した。
赤木のそっけない態度に対して女性は
「もう!昔みたいに姉さんって呼びなさいって、いつも言ってるでしょ」
と、頬を膨らませるのだった。
ここで赤木の身の上話をしておく必要があるだろう。
10年前不慮の事故によって両親を亡くした赤木は親戚の間でたらい回しにされたあげく、
施設に預けられそうになっていたところをこうして世話を焼いている女性……風越高校3年生福路美穂子の祖母が赤木を引き取ったのだった。
美穂子は赤木を、実の弟のように接し、その様子は近所でも評判の溺愛ぶりだった。
しかし元々他人に迷惑をかけることを嫌う赤木は、中学校卒業を機に自立を宣言。
美穂子は涙ながらに引き留めようとしたが、赤木の頑なな意思にとうとう折れ赤木を見送った。
両親の残してくれた遺産でアパートを借入れ赤木の1人暮らしが始まった……かに思われたが、美穂子は雨の日も、風の日も、風邪の日も毎日こうして赤木の家に通うのであった。
最初こそ迷惑はかけられないと追い払っていたのだが、1カ月過ぎ、3カ月過ぎた頃には今度は赤木が折れ、今では毎日こうして朝食を作りに来るついでに、低血圧な赤木を起こしてあげるのが美穂子の日課となっていた。
アカギ外伝? 「愛」
恒例の挨拶を終えた2人は向かい合って朝食をとっていた。
赤木から話かけることはめったになく張られた話題に二言三言返すだけの傍から見れば、重苦しいことこの上ない雰囲気のはずだが美穂子は自分の作った料理を黙々と口に運ぶ赤木の姿を見てニコニコと微笑んでいた。
時々食べる手を止めてまで、じっと見つめてくる美穂子に対して文句の1つや2つも言いたくなるが、こちらを見つめる色違いの瞳を見ると全てを見透かされているようで、いつのまにかそんな気が失せてしまうのだった。
(……俺も甘いな)
そんな自分の弱さを誤魔化すように赤木は音を立てて味噌汁をすすった。
「ところで、今日はちゃんと部活に来るわよね?」
突然の話題に赤木はばつの悪そうな表情を浮かべた。
「……さあな」
「だめよ!そんなんじゃ」
そんな赤木の態度を美穂子は何度も叱ったが赤木は興味なしとばかりに聞き流すのだった。
「しげるも、もう少しまじめに来ないと……」
「……ごちそうさま、それじゃあ行ってくる」
美穂子の説教から逃げるように一気に緑茶をあおり足早に部屋から出て行ってしまった。
「まったく……しょうがない子ね……」
昔から変わることのない弟の姿を見て美穂子はただ溜息を洩らすのだった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「もう!少しくらい待ってくれてもいいじゃない!」
「……もう一緒に登校するような年じゃないだろう……」
1人で先に行ってしまう赤木に遅れること5分、ようやく赤木に追いついた美穂子はすぐさま文句を言うが赤木は特段気にする様子はなかった。
すると前から何者かがこちらに向かって来た。
「キャプテーーンおはよーございまーす!」
どこか猫を思わせる風貌を裏切らず、ハツラツとした声は美穂子達だけではなく近所中に響き渡った。
「おはようカナ、今日も元気ね」
「えへへ……」
池田華菜。赤木と同じく風越高校の2年生であり、守りよりは攻めに比重を置いた打ち手であり、風越のナンバー2の打ち手でもある。
「朝っぱらから騒がしい奴だな……」
そんな池田とは色々な意味で対照的な存在である赤木は不機嫌そうな声を出した。
「お前には、あいさつしてないしっ!勝手に話に入ってくんなよ!」
「そいつは悪かったな、謝るからもう少し静かにしてくれ。お前の声はうるさいんだよ」
「なんだとうっ!?」
それが理由かどうかは定かではないが、赤木と池田はすこぶる仲が悪かった。
……もっとも池田の方が赤木を目の敵にしているだけなのだが。
「カナはしげると仲がいいのね……」
そんな二人を見て美穂子はまた溜息を吐くのだった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「赤木ぃ!お前私と勝負しろ!」
授業も終わり帰り支度をすましたところへ駈け込んで来たものだから普通のなら面食らう場面だろう。
「またか……いい加減諦めたらどうだ?」
しかしそんな突然の強襲も何度も繰り返せば人は慣れるもので、今となっては月に2度程度の恒例行事化している。
周りも慣れたもので今となっては誰1人として注目するものはいない。
「うるさいっ!今日こそはキャプテンにしつこくつきまとう赤木を成敗して、2度と近づけないようにしてやるしっ!
池田と赤木はある誓約のもと勝負を行っている。
それは負けた方は勝った方のいうことをなんでも聞くという単純なものだ。
「……何度も言うが俺がつきまとってるんじゃない、あっちから近づいてくるんだ」
「ウルサイッ!いーわけするなんて男らしくないしっ!」
何度も説明はしているが、池田が納得してくれる気配はなく、赤木の努力が報われる望みは限りなく薄かった。
なお、何でも言うことを聞くと言っても、そこは良識をわきまえているのか過激な要求はなく、たいていはジュースをおごらせるだけである。
(一度課題を押し付けたらでかでかと『わからないしっ』と書かれたのでそれ以降池田に期待することはなくなった)
「今日の私はいつもと違ってとっておきの秘策があるしっ」
(夏の暑さで頭でもやられたのか?いや……よく考えてみればいつもこんな感じだったな……)
「今までの私に足りなかったもの……それは背水の陣!」
(今日習ったことを積極的に使うのはいいことだとは思うが、それは秘策とは呼ばないぞ……)
池田のテンションについて行けず赤木は内心辟易していた。
「つまり私が今回負けるようなことがあれば……」
何やら話が変な方向に進んでいるが、部活を辞めるとか言い出されたら面倒なことになる。そろそろ止めるべきだろうか。
「ジュースの代わりに学食のご飯をおごってやるよ!」
訂正。そんな心配は無用なようだ。
得意げに鼻をならしてみせる池田を見て、赤木は渋々この勝負を受けるのであった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「ロン」
赤木手牌 二三三四七八九⑥⑦⑧中中中 ロン三萬
「中のみ逃げ切りだな……」
「くうっ……」
またもや微差で逃げ切られ池田は卓上に突っ伏した。
「なんだよっそれは!そんな悪い待ちで私の清一を……」
「……運がなかったんだろ、それじゃあな」
「え、もう帰っちゃうの?今日はランキング戦だよ?」
席を離れようとする赤木を池田に付き合わされ相席していた吉留末春が赤木を呼びとめた。
ここで風越高校には校内ランキングという制度がある。
その名のとおり部活内での強さを示す1つの指標となるランキングを決める制度のことで、大会に出場する5名もそこから選出される。
このランクこそが部活内での地位を示すと言っても過言ではなく、そこには先輩も後輩もない、まさに下剋上の世界なのだ。
「ああ……ちょっと野暮用があってなキャプテンには適当に言っておいてくれ」
それだけ言うと自分のカバンを掴み、部室から出て行ってしまった。
「あーもう!なんで赤木の奴はいつもいつも私の切る牌で待ってるんだよっ!」
ため込んでいた怒りが爆発したのか池田の叫び声が部室に木霊した。
「た、たまたまだってたんに相性が悪かったんだよ……」
見るに見かねて未春がフォローを入れるが池田の怒りが収まる様子はない。
「だいたいランキング78位のくせにキャプテンと仲良くしようとするし!今日も私のことを6回もうるさいって言ったし!髪白いしっ!」
「いや、ランキングと髪の色は関係ないんじゃ……」
同じ髪の色を持つ者として弁護したかは定かではないが、未春は常識的な見解を述べるがヒートアップした池田には逆効果だった。
「とにかくあいつムカツクしっ!」
もし池田が猫だったら全身毛を逆立てて怒りを表現していただろう。
そういえば昔ネコとネズミが喧嘩をするアニメがあったなと、未春は思った。
「その……たしかキャプテンと赤木先輩って恋人同士らしいですし仲良くするのは当然なんじゃ……」
「なにぃッ!?」
恐る恐る口出したのは一年の文堂だ。しかしその言葉も池田の鋭い眼光によって中断を余儀なくされた。
「い、いや……あくまで噂であって実際そうだとは……」
ちなみにこの噂は発信者は不明だが、麻雀部なら池田以外誰もが知っている情報である。
「キャプテンがあのバカギと付き合うなんて、そんなこと絶対にありえないしっ!」
感情が高ぶった時にしか出てこない耳(未春命名)も飛び出しもの凄い剣幕で文堂に迫った。
「あ、あの……」
「落ち着いてったら文堂さんに文句言っても仕方ないでしょ」
未春は慌てて興奮冷めやらぬ池田をたしなめた。いつでも池田のブレーキ役を務めるのは彼女なのだ。
「でも実際キャプテンと赤木君ってよく一緒にいるよね」
「本当にわからないしっ!性格も最悪だし麻雀も弱っちいし。どーしてキャプテンがかまってあげてるんだろ」
「いやいや、その赤木君にカナちゃんは負けてるんでしょーが」
「なんだとう!?」
赤木の校内ランキングは80位中の78位ほぼ最下位に位置いていた。
追記すれば美穂子は断トツの1位で部長を務めているし、この未春も3位とかなりの実力者なのだ。
「それにしてもおかしいですよね……過去の成績を見る限りで赤木先輩って守りが堅い方じゃないし、切り間違いとかのミスも多いですし……どうして赤木先輩がいつも勝ってるのか、わかりませんよ……」
池田のリーチ宣言牌が赤木の待ちとなっている場合が多く、ここまでくれば2人の相性が問題としか言いようがなかった。
「コラァッそこ!いつまでも無駄口叩いてんじゃねえ!特に池田!さっきからお前うるさいんだよ!」
オーバーアクションも交えて大声で話しているのをコーチである久保にばれないわけなく池田はビクッと身を震わせたのだった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「どこへ行くのしげる?部室はあっちよ?」
池田が震えあがっている一方で赤木は今現在最も会いたくない人物と遭遇してしまった。
美穂子は相変わらず微笑みを浮かべているもののそこには怒りの色が見て取れた。
「……課題が多く出たんだ」
「ウソつきなさいあなたが課題に取り組んでいるところなんて見たことないわよ」
苦し紛れについた嘘もたやすく見破られ2人の間に沈黙が流れた。
「しげる……毎日来なさいとは言わないわ。けど、もう少し……」
「嫌なんだよランキングがどうのこうので一喜一憂するのも、それを見るのも……」
美穂子は何度繰り返したかわからない問答を繰り返すが、いつも平行線を行くだけで、赤木は黙って美穂子の隣を通り過ぎようとした。
「ああ、そうだ。明日は弁当を作る必要はないから、家でゆっくり寝てていいぞ」
「……どうしてかしら?」
ちなみに、赤木がいつも持たされているのは美穂子の手作り弁当であったりする。
「いや、なんでも明日は池田の奴が昼飯をおごってくれるんだ、だから弁当はいらない」
それだけ言い残すと今度こそ赤木は美穂子の隣を通り過ぎて行った。
(カナがしげるをご飯に誘うなんて……やっぱりカナはしげるのことを……)
その時たまたま廊下を通り過ぎた軽音楽部の1人が、美穂子のまわりに黒いオーラが出ている幻覚を見たという。
ちなみに今日の池田の成績はなぜか、散々であったことをここに明記する。
アカギ・咲のSSは数あれど赤木のことをしげると呼んたキャラクターを登場させたSSはこれが初めてだと思います。
このSSにおける赤木は原作に比べ非常に丸くなってます、人それぞれ感じ方は異なると思いますが、これが真面目に学生生活を営む赤木の姿なのかもしれませんね。
ちなみに、今回の風闇の闘牌は実は、咲闇の闘牌の没案だったりします。どうでもいいですね。