メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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81.守るべき者たちへ

 

ライム達は村長であるカルナの好意で彼の悪友であり、昔馴染みであるシドニーの経営する宿に泊めてもらうことになった。彼女自身もヘストを追い払ったライム達を泊めることに渋ることなく、むしろ大歓迎してくれた。

 

「あんたら、肝っ玉座ってるよ!あのヘストに立ち向かうなんて並みの奴じゃできやしないよ!」

 

「は、はぁ」

 

「とりあえず泊まってきな!他の奴らが何と言おうともあたしゃ歓迎するよ!」

 

バシバシと背中を平手で叩かれるライムは若干引き気味だった。大らかで豪快な性格のシドニーはライム達を部屋に案内するや否や厨房へと走り去って行ってしまった。

ライム達、特にライムはシドニーに気に入られてしまったようで一番話しかけられていた。

部屋に到着し、夜食をいただいたライム達は各々自由に寛いでいた。

 

「あれ?ライムの小僧とミスティちゃんは?」

 

「ミスティは風呂、ライムは何やら村長に呼び出されたようだ」

 

「なるほどね」

 

部屋には現在、ノルドとレッドだけが残されていた。なんだかんだで気の合う二人(正確には一人と一羽)であった。ノルドは身の丈を超える包みを壁にもたれさせて腰をゆっくりと下ろす。

 

「そういや鳥の兄ちゃんって出生はどこなのよ?」

 

「俺の?」

 

「そうそう。ソニックバードなんてこの辺りにはそうそういないからね、少なくともこの大陸生まれじゃないんだろ?」

 

ノルドは酒を飲みながら世間話をするノリで話し始める。まぁ、話す話題に困ったから切り出したのだろうが、レッドは返答に詰まってしまう。

 

「.....すまん、覚えてないんだ」

 

「覚えて、ない?」

 

「あぁ」

 

そう。実際レッドに昔の記憶なんてほとんどない。覚えているのはライムの父と出会い、メデルにやって来たときくらいからである。それ以前の記憶が全くないのだ。

忘れてる、そういうのではない感覚。だから何故自分が魔物であるに関わらず言葉を話すのか、自分がどこで生まれて誰に育てられたのか。

 

「.....なんか、悪かったな」

 

「気にしないでくれ。俺もライム達と一緒に世界を巡るついでに自分を取り戻してみせるさ」

 

室内には再び沈黙が訪れる。それから数分、ミスティが風呂から戻ってくるまで特に会話をすることなく過ごしたのだった。

後にノルドが自分が原因とはいえ気まずいことこの上なかったと心の中で呟いていたことも念の為に記しておこう。

 

 

 

一方、カルナの小屋に呼び出されたライムとビートは村長であるカルナと向かい合う形で座っていた。

カルナの隣には孫娘のエルナが一歩下がった位置で座っていた。

 

「−−−改めて礼を言わせてくれ、ライム殿。エルナを、皆を一時的とはいえ救ってくれてありがとう」

 

片手で体をしっかり支えながらカルナはライムに頭を下げる。しかし、ライムとカルナの表情は真剣そのもの、明るい様子は見られなかった。

 

「.....ですが、ここからが正念場です」

 

「.....うむ、巻き込んでしまってすまない」

 

「村長が謝ることじゃねーよ!コイツが勝手に来て騒ぎをデカくしたんだ!」

 

「黙ってろビート!」

 

カルナはビートを叱責する。ビートはライムを一睨みすると視線を素早く逸らしてしまった。

 

「奴の所には俺一人で行きます。それで可能な限りここから遠くに移動してそこで戦うように、それで後から俺の仲間たちに来てもらう。それでいけるはずです」

 

「悪くないが、奴に部下がいればどうする?奴らに対抗できるほどの実力者は既に全員殺されてしまった」

 

「でしたら、俺の仲間の一人を村に置いて−−−」

 

「だぁぁぁぁ!!ちくしょう!!」

 

「ビート!?」

 

「ビート君!?」

 

ライムとカルナが作戦を練っているとビートは竹槍を持って外へ飛び出そうとする。

 

「待て!ビート!」

 

「待たねーよ!村長らしくねぇ、何で余所モンに俺たちが頼らなきゃならねぇんだ!俺たちの村は俺たちが守る!親父ならそう言うはずだ!」

 

「バカタレ!実力差を考えろ!」

 

「−−−んなもん、守りたい想いがあれば関係ねぇ!」

 

「待ってビート君!」

 

「エルナは、村は、俺が守る!」

 

ビートの覚悟は本物だった、カルナも突然のことで対応が遅れる。しかし、ライムが扉の前に立ち塞がる。時間がないから、無謀な突撃がどれほど虚しいものか、ライムは知っている。

 

「.....そこどけよ余所者」

 

「退くわけにはいかねぇな」

 

「ビート!この、バカタレがぁ!!」

 

ライムが道を塞いでる間にカルナが勢いよく立ち上がり、ビートの襟首を掴んで壁に投げつける。壁に穴が空くのではないかと疑われるほどの豪速球で投げ飛ばされたビートはカルナにあっさりと押さえつけられる。

装備したばかりの竹槍はポッキリと綺麗に真っ二つに折れてしまっていた。

 

「お前が行けばヘストの怒りを買うことになるのがわからんのか!?感情論だけでは人は救えんのだぞ!」

 

「知るか!今行かなくていつ行くってんだ!?俺はあの余所者をぶっ飛ばしてでもヘストの顔面を殴りに行くぞ!」

 

「−−−もうやめて!」

 

ハァ、ハァ、と荒い息を漏らしながらエルナはガチガチと歯を震わせながら止めに入った。

 

「おじいちゃんも、ビート君も、こんなときにやめて!私はどうなってもいいから!私がヘスト様のとこに行けば済む話だから!」

 

「いや、それはない」

 

「ライム殿」

 

「あいつはもうあんたらと約束とか甘っちょろいことをするつもりなんてない。多分俺だけで行かないと本当にここは滅びる、全員死ぬことになる」

 

これはもう確実である。ヘストの気が変わるとかそんな甘いことを言ってられる状況ではない。事態は切迫しており、時間も限られている。

 

「−−−ビート、どうしてもお前が行くっていうなら夜明けまでに俺を倒してみろ」

 

「.....なんだと?」

 

「俺は治療魔導師だ。戦闘は専門じゃない、そんな奴に負けるようならヘストにだって勝てない。俺が行って負けても村は救われるかもしれんが、お前が行ったら勝たない限りは村は救われない」

 

「.....!」

 

「どうする、村の英雄になるか、村を滅ぼす厄病神になるか、お前の嫌いな余所者に全部預けるか」

 

ライムが場を支配する、老年のカルナを差し置いて。それでも、ビートは大切な者を守るために、拳を握り締める。カルナとエルナが何か言ってる気がするが、ビートは立ち上がる。

折れた竹槍を両手に携えて、たしかな敵意をライムに向けて。答えは決まっている。

 

「−−−そこをどけ。ヘストは俺がぶん殴る」

 




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