メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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79.余所者

 

「暗くなってきたし、今日はそこの村に泊まろう」

 

「いい具合に人の住んでるところに来れてよかったわ」

 

「だな」

 

ノルドを加えたライム一行はそのまま南東に進むこと五時間。

やってくる魔物達を退けながらゆっくりと前へ前へと進んで行っていた。

もう日も沈み始め辺りが闇に染まろうとしているとき、運よく小さな村を発見することに成功したのだ。

 

「バルブの村だな。農業が盛んで住人の六割が畑仕事をしている、それ以外は宿で賄ってる感じかな」

 

「物知りだな」

 

「まぁな。俺も一応この付近は通ったからな、鳥の兄ちゃん達はこの辺初めてなのか?」

 

「まぁ、俺たちは北から南に下ってきているからな」

 

「ふーん」

 

どこで気があったのかわからないが、レッドとノルドは言葉を交わす回数が多い。

未だにライムの肩を地にしているためノルドは自然にライムに近づく形となっている。

 

「とりあえず行ってみよう、ここで止まってても仕方ない」

 

「そうね」

 

「おう」

 

ライムの掛け声につられて、ミスティとノルドもゆっくりと足を前へと突き出す。

バルブの村、家屋の数は十ちょっとで畑の数は二倍近くある。

南西には森が広がる真ん中を突くように大きな山が形成されており、その反対側には平原が広がっていた。

育てている作物まではわからないが、ビニールのようなものを被せているところからハウス栽培が行われているようだ。

一昔前までは中々見られない光景であったが、近年ノグの技術が取り入れられてからというものあちこちで知識や技術は分散して語り継がれている。

考えられるとするなら、旅人が村人に伝えた、もしくは技術者がそこに住んでいるかの二択になる。

ライム達は周囲の様子を観察しながら宿を探す。

時間帯が時間なのでもう作業を行っている者は見られないが、チラホラとガタイの良い筋肉質の男達の姿と数少ない女性の姿が見られる。

 

「.....ノルドさん」

 

「チビ助も気がついたか」

 

「チビ助はやめてください、でもやっぱり」

 

「ん?どうしたの、ライム君もノルド君も神妙な顔しちゃって」

 

ただ一人、違和感に気がついていない様子のミスティはきょとんとした様子で小首を傾げる。

そんなミスティの両肩をガシッとノルドは力強く乗せる。

 

「可愛い!!」

 

「ちょ、鼻息荒げないで!!怖いし近いし、いつまで見てんの!!」

 

「もちろん飽きるまで!」

 

「お前ら、ここ道の真ん中だぞ」

 

もう何度目かわからないノルドの変態的行動にライムは溜息を吐き、面倒なことになりそうなので放置して一人(と一羽)で先にスタスタと歩き続ける。

−−−改めて村をよく見渡す、人々の表情と体型、そして何より若者の少なさが目立った。

 

(やっぱり、この村はあまりにも活気付いてない。何かあったのかな?)

 

「ライム、また妙な気は起こすんじゃねぇぞ」

 

「.....わかってるよ」

 

ライムの僅かな異変に気がついたレッドは諌めるようにして小声で話しかける。

事情が気になるのも事実だが、まずは宿を見つけることが先決である。

ノルドがある程度金を持っていたため、安いところに拘る必要がない。

金があるとは何と素晴らしいことであろうか、今後ミスティには金の使い方を改めてもらおう。

 

「−−−ライム、何か聞こえないか?」

 

「何かって?」

 

「あの、山の方から地鳴りのような、気のせいかもしれんが、少しずつ大きくなってきてるような...」

 

ドドドドドドド、たしかに何やら地鳴りのような音が聞こえてくる。

それも、レッドの言うように少しずつ大きくなってきている。

 

「き、来た!」

 

「皆早く家の中に!貢物を用意せよ!」

 

「女子供は出てくるなよ、男共は絶対に武器だけは持つな!」

 

−−−そこからは一瞬だった、ライム達は置いてけぼりをくらったようにその場でただただ立ち竦んでいるだけで村の時間は流れていく。

 

村の西、正確には森の方向からバキバキバキ、と木々を薙ぎ倒す音が響く。

生い茂る森の中から姿を現したのは武装した巨大な黒牛だった。

 

「あれは!?」

 

「バイソンノワール!闘牛種だ!!」

 

バイソンノワールは角を突き立てて巨体に似合わぬ速度で一直線に村を駆けたと思えば村の端で急ブレーキを掛ける。

摩擦によって大地の草は焦げ、土は掘り返され鼻息を荒げながらこちらを真っ直ぐ見据えていた。

 

−−−そんなバイソンノワールの背に乗る一人の男の存在にそこで初めて気がついた。

 

「ゲヘヘ、今週もご苦労だな家畜共」

 

顔に生々しい切り傷を付けた明らかに悪人面の男は力強く村を圧するように一歩一歩と歩く。

その力強さゆえに足跡が残るほどである。

 

「ヘスト殿、貢物はこちらに」

 

「これはこれはご丁寧に、ま、当たり前だがな」

 

ヘスト、と呼ばれた男が一々嫌味たらしく声を一際大きくする。

村人達はそのたびに拳を握りしめ、悔しさ故に歯を噛み締める。

 

「どうぞ」

 

「−−−おい、ちょっとどころかかなり少なくない?」

 

「は、はぁ」

 

「困んのよねー、ウチの馬鹿共はよく食うし縄張りを広げるために遠出しようと思ってる大事な時期にたったコレだけっすか?オイオイ−−−勘弁してくれっての!」

 

ギラリ、ヘストの抜いた大剣が勢いよく老人の体を切り裂いた。

 

「ぬが!?」

 

「村長!」

 

「しっかり!」

 

村長は体から血をポタポタと流しながら静かに立ち上がる。

そして、駆け寄ってくる村人達を右手を上げて諌める。

 

「それは失礼した。しかし、ここ最近は天気も安定せず客も来ずに商売は上がったり。これほどの数を用意できた奇跡、来週には今日の倍貢物を用意するということで勘弁してはいただけぬか?」

 

ハァ、ハァ、と息を荒げながら村長は静かに力強い瞳でヘストを見上げる。

そんな村長の態度にヘストはニィィと口を大きく引裂き口を開いた。

 

「やなこった」

 

−−−再び、大剣は村長に向かって振り下ろされる。

 

「悪いレッド、これ以上は我慢できねぇ!」

 

「ライム!」

 

気がつけばライムは駆け出していた。

人混みを掻き分け、両手両足に魔力をまとわせてそのまま右手に魔力を集中させ、手を開き五指を揃え、張り手の構えを取る。

 

−−−ガキィィィィィン!!とヘストの大剣とライムの右の張り手が勢いよく激突する。

 

「.....あン?」

 

「もう、余所者だからって、大人しく見てるのも限界だ!!」

 

両者は静かに睨み合う。

決戦の火蓋が切られる刻は近い。




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