メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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時間ができたので執筆、執筆〜


77.もしこの出会いを運命と名付けられるのなら

 

夜になる、ハルキとシャリー帰宅、ハルクに事情説明。

 

「ハァ!?俺がシャリーちゃんの補佐!?」

 

そしてイマココ。

あの後、トントン拍子に話は進みハルクが適任であると多数決で決定したのだった。

勿論、本人の知らぬところで。

 

「そゆこと、推薦しといたよん」

 

「いや、何勝手に話進めてんだよ!?いない人間勝手に推薦しといて結果だけ持って帰ってきやがってよ!」

 

ギャーギャー騒ぐハルクの後ろではライム達余所者一行が静かにお茶を飲んでいる。

さすがのミスティも他所様の事情にまで深入りしない常識は弁えている。

 

ルナの体を支えるティルナが抗議、というかハルキに意見する。

 

「で、ですがさすがに本人の意思確認もなく決定するのはさすがに横暴なのでは?」

 

「いいのよ、こいつは私の愚弟だから。私のものは私のもの、愚弟のものも私のものよ。よってハルクの決定権や人権も私のもの」

 

「うわ出た!俺を面倒ごとに巻き込む時は昔っからそれ言うよな!」

 

「ハルキさん...」

 

「ま、冗談は置いといて」とハルキはソファに腰掛け、シャリーを隣に座らせる。

先程とは打って変わってハルキは真面目な表情に変化させる。

目の色の変化にハルクも感付き、ごくりと固唾を呑む。

 

「今はグラッダの代表者を早急に決めなきゃいけない状況なのよ、他所との交渉や行商人の管理然り代表をたてることで町民と町自体の後ろ盾を作らなきゃいけない。正統な血縁的後継者はまだ幼いシャリーちゃんなのよ」

 

ハルキはシャリーの頭をうりうりと撫でる。

くすぐったそうにしているが、不快な思いはしていない様子だった。

 

「私がやってもよかったんだけど、面倒だし何より幼くて可憐な女の子二人でやっていくには無理があるでしょ?やっていけたとしても、確実に舐められる。そこであんたよ、ハルク」

 

「なるほど」

 

ハルキの言うことに間違いはなかった。

だからこそ、ティルナは納得し一歩身を引いた。

ハルクは未だにどこか納得できない様子だった。

 

「けどよ、おやっさん。ランダリーファミリーはどうすればいいんだよ?あっちもあっちで今は大変−–-」

 

「さっきロブさんに連絡したら、オッケーもらえたよ。何でも人手には宛があるらしいから」

 

「手回し早ェな!!」

 

普段見せない実の姉の仕事の早さに恐怖を抱きながら、それでもまだハルクにはやるべきことがある。

 

「ルナ」

 

「.....?」

 

声をかけても表情を変えることなく可愛らしく首を傾げる恋人が最後の砦だった。

そう、まだルナの体調が安定しない限りは離れることはなるべく避けたい。

ティルナもいるが、やはり彼氏としては心配してしまう。

 

---ふと、足元に違和感を感じ下を向くと悩むハルクのズボンをくいくいとシャリーが引っ張っていた。

 

「私と一緒にいるのは、いや?」

 

「.....!!」

 

瞬間、ハルクの中で何かが決壊した。

 

 

 

その頃、イルバース。

南イルバースにあるランダリーファミリーのアジトの一室では頭領であるロブ・ランダリーが愛刀の手入れをしながら、小さな溜息を吐いていた。

 

ガラ、と横開きの扉が開かれ幹部であるヨルダンが入室してくる。

 

「頭、さっきの電話は?」

 

「あァ、ハルキのやつだ。どうやらハルクはしばらくこっちに戻れないそうだ」

 

「ハルクが?また面倒ごとにでも巻き込まれたんですかね?」

 

「かもな、今度はライム達も一緒に行ってるしな」

 

フフフ、とロブは何が可笑しいのか口元を緩めて笑い始める。

ヨルダンはサングラスの位置を調整しながら壁に体を預ける姿勢に体制を整える。

 

「–--それで、リリーは見つかりそうか?」

 

「いんや、ここ数日街中探してるが手掛かりどころか、見たって奴もいない」

 

あの日以来、行方不明となってしまった少女リリーの行方をヨルダンは追っていたのだったが一向に見つかる気配はなかった。

亜人である彼女は翼と脚さえ隠してしまえば普通の人間と変わりないが、必ずどこかでボロは出る。

目撃情報の一つや二つあってもいいと睨んでいたのが甘かったのかもしれない。

 

「頭、そのうち俺もあいつを探すためにここを出発するかもしれねぇ。けど、ハルクが戻ってこれないってなら話は別だ。あいつが戻ってきたらそこんとこ相談しようと思う」

 

「そうしてくれるとありがたい。幹部が一気にいなくなったとなればこちらの経営にも支障が出てしまうからな。しばらくは今まで通りにリリーを探しながら、イムに戦闘のイロハを教えてやってくれ」

 

「へいへいっと」

 

 

 

さらに場所は変わり北イルバース。

イルバースの統治者、ブロス・イルバースの屋敷に隣接している大型で強固な石壁の建物がある。

主にイルバースで何らかの悪事を働いた者達を収容する監獄であり、最下層のフロアの檻には片腕を失ったゴルドス・アムが壁に背を預け微動だにせず佇んでいた。

その隣ではイリア・メルポーズがペタンと座りながら同じようにして佇んでいた。

 

---ぴくり、とゴルドスは肩を僅かに震わせた。

 

カツン、カツンと静寂な空間に一定のリズムが刻まれる。

ゴルドスはそのことにいち早く気がつく。

静かに目を開き前を睨む。

 

「ゴルドス.....」

 

「クソガキ」

 

鉄格子越しに立っていたのは、イルバースの幼き統治者であるブロス・イルバースと左右に新たに雇った二人の瓜二つな美人秘書だった。

おそらく彼女らは双子と思われる。

 

「何の用だ?」

 

「用件はわかってるはずだ」

 

「.....何度も言うが、身に覚えがねェよ。決定的な証拠と根拠があるわけじゃあるまい」

 

興味を削がれたのか、ゴルドスは視線を落とす。

 

「だが、聞かねばならぬ。お前がノグ大陸と繋がっていたこととお前らの組織をバックで支えていた者の存在を」

 

「........」

 

あの事件は終結した、しかしいくつかの謎は残ったままだった。

まず、ゴルドス一派の管理していたノグ大陸との密輸を行っていた交易場。

それによって、ゴルドスとノグ大陸との繋がりがあったことは明白である。

 

次にゴルドス一派の活動を支援していた者の存在、ノグ大陸との密輸に関しても組織の規模にしてもたった八年以内で準備できる範疇を超えていた。

そのことを聞き出すまで、ブロスはゴルドスの元にまで足を運ぶつもりだった。

 

「で、結局お前はどうしたいんだ?」

 

「どう、とは?」

 

「仮に俺がお前の望む情報を持っていたとしよう、そこから真実を知ったお前は何をするんだ?何かできることがあるのか、世界を変えることができるとでも言うつもりじゃあるまい」

 

「.....」

 

「結局のトコは自己満足だろ?何かできるわけでもないし、何をするでもない。知ったところでゴールインだ。お前は目先のことに囚われすぎてんだよ」

 

ゴルドスは表情を変えることなく淡々と的確に指摘する。

イルバースの若きカリスマといっても所詮はクソガキ、それがゴルドスの抱くブロスの印象だった。

 

「.....なら、そのことについてはもう何も聞かないことにする。だが、最後に一つだけ聞かせてくれ」

 

ブロスは消え入りそうで泣きそうな表情を浮かべて、やっとのことで言葉を絞り出した。

 

「なぜ、なぜ、父を殺した?」

 

その問いに対してゴルドスは微動だにさせなかった口元を少し緩ませた。

 

 

 

翌日、ライム達はハルキに頼まれて買い出しに駆け出していた。

荷物が多くなると予想されるため、大人数の買い出しとなった。

ちなみにハルクはルナに付きっきりのため家に残っている、今いるのはライムとミスティとレッドのいつものパーティである。

 

「ライム君、グラッダを出発したら次はどこに向かうの?」

 

「そうだな、もうイルバースも行ったから正直宛がないんだよな。このままのんびり南を目指すか、港を目指して海を渡るか」

 

「でも、まだこの大陸全部回ったわけじゃないんでしょ?」

 

「そうなんだよなぁ、でも、あいつもいつまでもノレオフィールに留まってるとは思えないし」

 

かつて故郷を火の海地獄へと変えたイブリ・M・アマテラスなる者だって命を狙われている身である。

いつまでもノレオフィール大陸に滞在しているとは考えづらい。

 

「じっくり情報を集めてからでも遅くないんじゃないか?」

 

「そう思うんだけど、移動時間も含めるとあまり悠長にしてるとすれ違いになる可能性があるからなぁ」

 

レッドの提案に意見し、再び頭を抱える。

そんなライムの肩にポンとミスティが手を添える。

 

「まぁ、目的が決まるまではここでお世話になりましょう。ハルキさんの厚意なわけだし」

 

「.....そうだな!」

 

しばらくはハルキの厚意に甘える、それもそうだとライムは小さく笑みを浮かべる。

先日、正式にハルクがシャリーの補佐になることが決定(その際、ルナはハルクの足を踏んだとか踏まなかったとか)し、手続きやら何やらと忙しい中でも居てもいいと言ってくれたのだ。

厚意に甘えなければ失礼な気もする。

それに、仮にライム達が街を出発し旅立ったとしても宿代がないため野宿をする羽目になってしまう。

 

ミスティが鉄資源の生成で資金を少しずつ稼いではいるのだが、それでも今後のことを考えるとまだまだ少ない状態だった。

 

目的の店で買い物を済ませたライム達はそのまま商店街を歩きながら、いつものペースでギース家に戻る。

あの襲撃から日が経ち、街の修復も徐々にだが進んできている。

完璧な状態には戻らないかもしれないが、人々は活気で満ち溢れていた。

 

(.....あの時、もっと他に仲間が生き残っていたら!)

 

ぐぐぐ、とライムは無意識のうちに拳に込める力が強くなっていた。

そのことにミスティとレッドはもちろん、当の本人ですら気がつかないほど無意識のうちに。

 

---商店街から出ようと曲がり角に差し掛かったところで何やらフードを被った人物とミスティがドン!と音を立ててぶつかった。

ライムは身長が低いために無事だった、解せぬ。

 

「うぉ、悪い!」

 

「いえいえ、こちらこそすみません!」

 

声からして男性だった。

カランカラン、とぶつかった衝撃で男性が持っていた長い棒状の物体が地面に落下する。

 

「いやぁ、さすがはグラッダだ。あらゆるところから行商人が集まるだけある」

 

はははは、と男性は笑いながらゆっくり立ち上がり棒状の物体を拾い上げる。

ミスティもゆっくり立ち上がり、帽子を被り直す。

 

その時だった、男性は何やら体を仰け反らして奇声を上げ始めた。

 

「「「は?」」」

 

あまりにも突然だったので素っ頓狂な声が出てしまう。

男性はミスティの両手をガシッと握りしめ鼻息を鳴らしながら興奮した状態だった。

 

「あの、お名前は!?」

 

「ミ、ミスティですが」

 

「グレーーーーーーーーーーーーーーーーーーイト!」

 

男は勢いよくガッツポーズを決め、どこからか取り出した薔薇の花束を差し出す。

 

「俺の嫁になってください!」

 

---ドン引きである。




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