「だらっ、シャァァ!!」
迫り来るオーガの群れにドケチはハンマーを振り下ろして纏めて叩き潰す。
ビキビキビキ、と大地に亀裂が入り周囲に衝撃が走る。
ハンマーの重さは約50キログラムで力自慢のドケチはそれを時には片手で振り回す。
一匹のオーガがドケチに向かって飛びかかるが、キラン!と瞳を輝かせたドケチはニヤリと笑みを浮かべてハンマーを後方に勢いよくスイングする。
「と、ん、で、ケェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
ハンマーはオーガに直撃し、上空を舞い星となった。
どこか遠くへと飛んで行ってしまった哀れなオーガの行方はもうわからない。
一方、オーガの弱点である目を狙い巨大な包丁を一文字に切り裂きながら意外にも惨いことをしているガンコはドケチとは対照的な方法でオーガ達の意識を奪っていっていた。
「全く、相変わらずあいつは華がないな。もっと師匠みたいに流れるような滑らかな、戦闘を、だな!」
スパン!とガンコが群れで迫ってきたオーガの目に斬撃を放つ。
ポタポタと包丁の刀身に血が滴り、オーガ達は目を抑えながらそのまま倒れる。
「それにしても、楽しいなぁ!」
「あぁ、まさか俺たちの力が喧嘩以外に使えることが来るとはな」
「姉さんに感謝だな!俺たちを頼ってくれて、俺たちに戦い方を教えてくれた!」
ドケチがハンマーを、ガンコが包丁を振り回し背中合わせにして嬉しそうに笑みを浮かべる。
昔からよく喧嘩する兄弟だった、そんなある日二人を上回る存在に出会うこととなる。
二人は完敗し、その場で弟子入りを志願し短期間だが指導を受けた。
「お、おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ツァ!」
−−−ドケチとガンコはそれぞれ最後となる正面のオーガの意識を奪い、数十体いたオーガの群れを全滅させた。
「うし!一丁上がりだ!」
「全く、明日は筋肉痛だな」
「おいおい、兄貴!いつの間にそんな軟弱になったんだよ」
「昔から俺は軟弱さ、弟よ。師匠に鍛えられてマシになったけどな」
「よし、明日から時間ができたら特訓だな!」
「勘弁してくれよ」
※
一方、三体目のオーガキングの意識も奪ったハルキは左右に二体のオーガキング、正面にオーガカイザーという状況であった。
(威圧感がすごい、今までやりあってきた魔物の中で一番強いかもね)
グーパー、グーパーと右手を開閉させながら魔力をこめる。
ロブやゴルドスも気と言いながら力を込めていたが、根源に向けて本筋を辿れば気も魔力も同じなのである。
ググ、と足にも力を込めてビュッと加速してオーガカイザーの背後に移動する。
そしてそのままオーガカイザーの体を足場にして上へ上へと向かっていく。
−−−次の瞬間、体を這うハルキの存在に気がついたオーガカイザーは驚くべき速さで身体を捻り始めた。
「な、早−−−ッ!?」
ハルキが気がついたときには既に足場は無くなっており、眼前にはオーガカイザーの拳が迫っていた。
ハルキは瞬時に迎え撃とうと右手を開き張り手を放つ。
拳と張り手がぶつかり合い、ビキビキビキ、と衝撃波が発生し大きな風を生む。
オーガカイザーは怯むことなく両手を大地への支えとしてハルキに向かって上段からの蹴りを放つ。
「いっ−−−ッぅ!!」
ハルキは凄まじい速度で叩き落される。
何とかガードはしたものの衝撃そのものは防ぎきれず、ダメージは大きい。
「っ、動きも機敏で速いんだ。思ったより厄介、ね!」
隙を見て両方向から拳を放ってくるオーガキングの一撃を軽くいなし、オーガキング同士互いにクロスカウンターをさせるように仕向ける。
その隙にハルキは二体のオーガキングの額に手形が残るほど強烈な張り手を放ち、意識を刈り取る。
スタン、と静かに地面に着地したハルキは改めてオーガカイザーを睨みつける。
オーガカイザーは興奮状態であり、真っ赤な目を更に真紅に染め上げていた。
−−−グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
オーガカイザーの叫び声は周囲の建物を破壊し、オーガやオーガキング達、油断していたドケチとガンコを吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。
ハルキは足を地面に固定して何とか耐えきるが、オーガカイザーを中心に小規模なクレーターが出来上がっていた。
オーガカイザーは腕を振り上げてオーガキングとは比べものにならない速度でハルキに殴りかかる。
ハルキはその攻撃を何とか回避し、オーガカイザーの隙を伺う。
(あの速度にしてあの威力と攻撃範囲。何とか今のはギリギリ避けれたけど、連続してやられたらマズイ。現役時代ならこんな心配する必要もなかったのに、ね!)
もう一発、拳が飛んできたので張り手で空中に逸らして台地へのダメージを軽減する。
これ以上好き勝手に暴れられてしまってはグラッダの街が保たないだろう。
そのままハルキはオーガカイザーの伸びきった腕を駆け上がり、顎に向けて張り手を放つ。
−−−バキィ、と顎に出ていた神経の通っていない骨格部分が粉々に砕けただけだったので直接的なダメージはない。
落下するハルキをオーガカイザーは狙いを定める。
オーガカイザーは口を大きく開いて息を吸い始める。
「ヤベッ!?」
ハルキは瞬時に動こうとするが、何分落下中のため体を思うように動かせない。
オーガカイザーが鼓膜が破れそうな咆哮を放つ、思わずハルキは両手を使って耳を塞いでしまう。
−−−それが仇となり隙となった。
オーガカイザーは叫び声を上げたまま無防備のハルキに右ストレートをぶちかました。
ズガガガガガガガガガ、といくつもの建物を貫通する。
とっさにハルキは両足に魔力を込めて拳を受け止めたが、オーガカイザーのフォームのせいで拳に乗った攻撃力は凄まじいものだった。
−−−ドン、と明らかに建物にぶつかったのとは違う感触がハルキの背に触れた。
温もり、服越しにも伝わってくるその感覚に違和感を覚えてハルキはゆっくりと振り返る。
「無茶しすぎだぜ姉貴。俺に説教する前に自分が何とかしろよな」
「ハルク!?」
そこには煙草を吸う青年、ハルキの愚弟であるハルクがハルキのことを受け止めていた。
体制がキツイのかいつの間にかお姫様抱っこされていた。
「ったく、何なんだよあれは。あんな化物この近辺にいたか?」
「さぁ、ていうか下ろせ!恥ずい!」
「わかったから、頬っぺた抓るな、痛いから」
ハルクに降ろされたハルキはフラつきながらもしっかりと立った。
「魔族は!?」
「撤退した、何か緊急事態でもあったのか、それとも姉貴の相手してるアレから遠ざかったのかのどっちかだな」
「なるほど、となるとミスティちゃんも?」
「あぁ、酷い怪我を負ったが、何とか戻ってきたよ」
ハルクは咥えていた煙草を指で持って、改めてオーガカイザーを見据える。
「とりあえず、あのデカブツ潰していいんだよな?」
「あんた一人じゃ無理よ、何せ愚弟だからね」
「姉貴も苦戦してたくせによ、そういう台詞はもっと余裕があるときに言うもんだぜ」
ハルクとハルキは互いに無言で見つめ合う。
「「けど」」
次の瞬間、二人はニィィ、とゆっくり笑みを浮かべる。
「「一人じゃ駄目でも、二人なら勝てる!」」
−−−グラッダを守るため、自分たちの明日を守るため、ギース姉弟がオーガカイザーに立ち向かう。
同時にオーガカイザーもハルクとハルキに狙いを定めて、ゆっくりと唸り声を上げながら歩き始めた。
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