メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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68.決着を着けるために

 

ピクリ、と目が覚めてしまったので一階で少し読書をしていたハルキは突如現れた不気味な二つの魔力に反応を示した。

−−−たしか、昼頃に同じようなことがあった。

 

魔力の反応は弱くなったが感知することのできる微弱な量が今でも放たれている。

その魔力の発生源である二つの反応が凄まじい勢いでこちらに向かってきている。

 

(愚弟は起きてるからいいとして、ライム君は治療魔術師で戦闘要員じゃない。ここはミスティちゃんを起こして体勢を整えるか、それとも)

 

−−−私が行って足止めを。

ググ、と拳を握りしめ、目を握りしめた小さな手に落とす。

既にハルキは戦闘事から身を引いている。

数年のブランクだってある、人間相手なら何とかなるかもしれないが魔族相手に通じるだろうか?

現役の頃こそはそれなりの実力もあった。

しかし、今はとてもではないが万全と言える状態ではない。

 

本と眼鏡を机の上に置き、立ち上がろうとしたところで弟であるハルクが凄い勢いで階段を駆け下りてきた。

 

「姉貴、この魔力は昼間の!」

 

「あぁ、どうやら狙いがルナちゃんなのは間違いなさそうね。まさかこんなに早く嗅ぎつけて来るなんて思ってなかったけど」

 

「なら、ライム達にもこのことを知らせに」

 

「そうね。相手は強大、私の力なしじゃ勝ち目はないでしょうね。ていうか私の力があっても勝てる見込みは薄いでしょうけど」

 

「ミスティちゃん」

 

いつの間にか目を覚ましたミスティは帽子を被り、杖を顕現させいつもの戦闘態勢を整えていた。

 

「あれだけ馬鹿みたいな魔力出してたら嫌でも気がつくわよ。それに一回相対したんだし、私」

 

「あぁ、そうか。ライムは?」

 

「準備中。何だかんだ言ってあいつも戦う気満々みたいよ、治療魔術師のくせに」

 

クスリ、とミスティは可笑しなものでも見たような笑みを浮かべる。

それにつられてハルキとハルクの姉弟もニヤリと笑みを浮かべる。

 

「だけど、全員総出で行くわけにもいかねぇ。ルナもそうだが、シャリーちゃんにティルナさんも戦える力を持っているわけじゃないからな」

 

「じゃ、私家残る。敵とはいえ人と会いたくないから」

 

「姉貴」

 

「それに、もう何年もまともに運動してないのよ?足手まといになるのはゴメンだからさ」

 

「.....昔はゴルドスさんとジョルノさんだけじゃなく、おやっさんとも肩を並べていた実力者が守ってくれるってんなら心強いな」

 

「もうあの馬鹿達に勝てる自信ないけどねー」

 

あははー、と笑いながら受け流しているがミスティはハルキがそこまでの実力者だとは知らずゴクリと固唾を飲む。

あのロブとゴルドスと肩を並べていた実力者、元ランダリーファミリー幹部ならあり得る話だった。

人は決して見た目では判断できない典型的な一例だった。

そんな様子を察したハルキが笑顔を浮かべながら手を振る。

 

「大丈夫よ、ミスティちゃん。たしかに私もあいつらと一緒にヤンチャ

してたけど今は普通の人見知りなお姉さんだから」

 

「俺より身長低いのにな」

 

「うっさい愚弟」

 

「ちょ、姉貴、背骨はやめてくれ!」

 

これから魔族と激突が始まるかもしれない、そんな時にも関わらず仲の良い姉弟の姿を見ながらミスティは皮肉げに悲しい笑みを浮かべる。

 

(家族、か)

 

それはもう遠い昔の話、彼女が旅をするキッカケを与えてくれた者たちとはもう会うことはないだろう。

 

−−−数分後、ライムとレッドが降りてきて空気が変わった。

 

「遅かったね、ライム君」

 

「まぁな。色々とあってな、準備ならできたぜ」

 

「無理はするなよ、あくまでもお前は治療魔術師なんだからよ」

 

「もしこいつが無理をしようというなら俺が止める。そのためにいるんだから」

 

「じゃ、ちゃちゃっと追い返して来な!夜食作って待ってるから」

 

それぞれの覚悟、決意を胸に。

倒すためではなく守る目的での戦いが幕を開けようとしていた。

 

−−−二人はもうそこまで迫っていた。

 

「あと、姉貴の料理はポイズンだからいらねぇ」

 

「まだ言うか愚弟が!」

 

 

 

「お」

 

「どうしたサル?」

 

「気づかれたみたいだ。ていうか俺はカラスだ」

 

「ま、屋敷で少し興奮して魔力出しちゃったからな」

 

ヒュンヒュンヒュン、と風を切りながらカラスとシャチの二人は林を突っ切って行く。

二人は特に気にする様子もなく進み続ける、魔族にとって人間など眼中に留めてないとばかりに。

 

「ルナ・シノハラは本当にいると思うか?」

 

「可能性は高い、でなきゃワザワザ向こう側が戦闘態勢を取るなんて考えられないからな」

 

「ならば、さっさと済ませるか」

 

と、二人が走りながら会話をしているとカラスが何か飛来してくることに気がつく。

目を凝らして見てみると、鉄球のようなものが真っ直ぐにカラスとシャチ目掛けて飛んできた。

 

「鉄球?」

 

シャチも気がつき、声を上げると同時に鉄球はぐにゃり、と歪み巨大な鋼鉄のオブジェに変わりカラスとシャチを分断するように二人の間に落下した。

 

「おっと、この魔法はあいつか!」

 

「フン、この程度...!」

 

次の瞬間、鋼鉄のオブジェから放たれた無数の鉄球がシャチを狙うように凄まじい速度で飛来する。

 

「この、程度ォ!」

 

ブワッ、とシャチの両手から赤黒いオーラのようなモノが纏わりつくと同時に凄まじい魔力が放たれる。

呪臓、彼女が両手を振るうたびに飛来してくる鉄球は粉々に砕かれバラバラと地面に落下する。

−−−落下した破片は鋭い棘に姿を変え、まきびしのようにシャチの足元に集中していた。

 

「ッ、小癪な!」

 

シャチは木にしがみつき、木から木へと移動するようにしてまきびしを回避する。

 

「カラス!そっちは大丈夫か!?」

 

「悪いシャチ、ちょっと別行動させてもらうわ!」

 

「おい!?どういう意味だ...!」

 

意味不明なカラスの返答に困惑しながらシャチに向けて放たれた剣を片手で受け止め、後方へとバックステップする。

 

「へぇ、あんたが魔族か」

 

「こ、の!」

 

剣を振るったのはハルク、受け止められた剣を振るい続けシャチの両手の呪臓とぶつかり合い唾競り合いが行われる。

呪臓を纏わせた両手は鋼鉄の硬度に匹敵しているようでハルクの剣とぶつかり合うたびに大きな金属音が鳴り響く。

 

ガキィン、という音を合図に二人は一旦距離を取った。

 

「調子に乗るなよ、人間風情がァ!」

 

「人間風情結構、俺は、いや、俺たちは守るべき人のために戦う!」

 

ハルクは剣を持ちながら器用に煙草を取り出し、咥えて吸い始める。

 

「心配すんな、お前の相方はミスティちゃんが相手してる。あんたの相手は俺たちだ」

 

「達?」

 

ハルクの言葉に疑問を抱いたシャチだったが、その言葉の意味をすぐに理解することとなった。

ギィィィン!と凄まじい速度で何かが飛来してきたのだ。

鉄球ではない、もっと大きな魔力の塊が。

 

「鳥ぃ!?」

 

「ォォォォォォォォォォ!!!」

 

全身に魔力を纏わせ突進してきた鳥、もといレッドに意表を突かれたのかわずかにシャチの反応が遅れる。

だからこそ、ハルクがシャチに迫って剣を振るい始めていることに気がつくのに少しのタイムラグが生まれた。

 

「俺たちは所詮人間だ。この程度のハンデキャップは問題ないだろ、魔族さんよ」

 

「....小癪な!」

 

「おォ!」

 

ハルクが走り始めると同時に、別方向から両手両足に魔力を纏わせたライムが拳を握りしめて突進してくる。

ガキィン、とハルクの剣とシャチの呪臓がぶつかり合い、ライムの拳や脚がシャチの呪臓とぶつかり合う。

レッドも頭上からシャチに狙いを定めて凄まじい速度で落下を始める。

 

しかし、シャチはレッドの急降下による一撃を回避し、ライムとハルクをそれぞれ片手で弾き飛ばす。

 

「もう終わりか?ハンデキャップがあってもこれでは話にならんな」

 

コキコキ、と首を鳴らしながらシャチは構える様子もなくゆったりと立ち尽くす。

 

(強い、呪臓だけじゃなくても肉弾戦も比べ物にならないくらい強い!)

 

(こいつは予想もしなかったな。片手剣の他にももう少し持って来るんだった。でも、こいつの速度じゃ武器を持ち換える暇なんて与えてくれそうもないし、変わらねぇか)

 

ジリリ、とライムとハルクは互いに距離を詰め合いシャチの次の動きを見計らう。

 

「どうした人間、私はまだ準備運動すらもできてないぞ?」

 

ハルクは額の汗を拭う、次の一手で一撃加えないとまともに戦い続けるのは困難であろう。

ハルクが悩んでいる間にライムはダッと足に魔力を集中させ駆け出した。

 

ビキビキビキ、と両手に纏わせた魔力を集中させライムはシャチの攻撃を躱し、しゃがむ。

地面に手を当てて魔力で削り、手にした土埃を一瞬にしてシャチの顔目掛けて投げる。

不意を突かれたシャチは防ぐことができずに目に受けてしまう。

 

「こ、の!」

 

(今だ!)

 

その瞬間に隙ができた。

ハルクは剣を下段に構えて一閃の如く駆け出し、シャチの体をズバン!と斬りつける。

 

「が、はっ」

 

この一撃が今後の戦闘の活路となった、人間でも魔族に抗うことができるという活路が開かれた瞬間であった。

 

 

 

その頃、カラスはミスティと向かい合っていた。

 

「よぉ、まさかまた出会うとはな」

 

「そうね。どうやら縁があるようね、貴方はワザワザ来たみたいだけど」

 

「バレたか」

 

そう、あの時カラスはワザワザミスティの元へと向かった。

魔力を感じたから、あの時着けることのできなかった決着を着けるために。

 

「まぁいい。さっきの分断は中々良かったぜ。魔力の質もさっきより上がってる気もする、やっぱ人間ってのは侮れないな」

 

「一つ聞かせて、貴方達がルナちゃんを狙う理由は何?」

 

「やっぱルナ・シノハラはそっちにいるのか」

 

「そうね、いずれバレることだし話しても問題ないでしょう。私を倒せたら確認できるんじゃない?」

 

「.....こりゃ参ったな。どうやら昼とは状況が大分違うらしい」

 

ククク、と可笑しく笑うカラスは全てを汲み取ったとばかりに頭を抱える。

 

「そうだな、目的は言えないがざっくり言うなら世界を変えるためだな」

 

「世界を?」

 

「おっと、これ以上の詮索は無用だ。互いに知られてはマズイことの一つや二つあって当然だからな、後は口じゃなくて魔力で語り合おうぜ」

 

「そうね、気が合いそう」

 

「全くだ、こういう対立関係じゃなきゃ酒でも飲みながら語り合いたいくらいだぜ」

 

「それって口説き?」

 

「冗談、あんたの本気を見たいだけさ。足止めとか時間稼ぎとか周りの被害を気にしながら戦うんじゃない純粋なあんたの力を!」

 

ニヤリ、と笑みを浮かべてカラスはボコボコボコと呪臓を背骨から出現させる。

そこから会話はなかった。

 

−−−ミスティとカラスによる二度目の戦闘の幕が開かれた。

互いの全身全霊をかけた、純粋な戦士としてのぶつかり合いが始まる。




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