メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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55.グラッダ

サル顔の男、もといカラスが二体のオーガキングの命を物理的に奪い食べられそうな部位を調達し、骨と、とてもではないが食べられそうにない臓器を残して背骨から生えている赤黒い触手のようなモノを引っ込める。

カラスは両腕に付いた血を拭いながらオーガキングだった遺骨の上に腰掛ける。

 

「.....相変わらず悪趣味だな、魔物なんぞ喰えたモノではないというのに。何故貴様は支給された食糧を食べずに魔物を食するのだ?」

 

「そんなの決まってんじゃん。俺たち魔族は基本的に喰えるモノは喰うことのできる胃が強い種族だ。それに魔物の成分を分解して呪臓にも栄養を回せる」

 

「興味がないな、呪臓がなくとも鍛え抜いた身体さえあれば戦闘に苦労はせん」

 

立ち上がったシャチ、と呼ばれる女性がマスクの上から口を抑えながらカラスに近づく。

魔族、現在では人間による迫害を受けて住む場所を失ったとされている人間と魔物の亜種。

人間とも魔物ともいえないどっちつかずの種族だからこそ、自分達と違うという理由で人間に忌虐げられ、数による暴力で長きの歴史においてもその溝は深い。

 

カラスは肉塊を喰らいながら足をぶらぶらさせながら空を見上げる。

 

「それで、これから向かうグラッダという所に俺たちの求めるモノがあるんだよな?」

 

「上からの情報が正確ならな。もし手に入れることができたら、我々が優位に立てる」

 

シャチがカラスにゴミでも見るかのような視線を送りながら小さく笑みを浮かべる。

それはカラスも同様だった。

 

「ま、別に急ぐ用でもないからな。ボチボチ行って必ず成功させるために念入りに用心するか」

 

「人間如きに用心など必要ないと、私は思うが?」

 

「油断しちゃダメダメだぜ、シャチ。たしかに人間は大したことはねぇが、何をしでかすかわかったもんじゃねぇ。しっかりと策を練る必要がある、ここを使ってな」

 

ここだ、ここ、とカラスが自身の頭を突きながらシャチを見下ろす。

その様子にシャチは小さな対抗心を芽生えさせた。

 

「サルの浅知恵か、くだらん」

 

「んだと!?」

 

とりあえず吐き捨てるようにして言い返してみたら、予想以上の反応にシャチはニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

グラッダの町、オーガの森を抜けた先にある坂道を登ったところにひっそりと点在する小さな町。

町自体は高地にあり、切り立った崖からは海が広がる山海の両方を兼ね備え、山の幸と海の幸の両方を収穫できることから行商人が訪れることも多い。

 

「いらっしゃーい!取れたての魚が安いよー!今なら破格の540u!」

 

「馬鹿野郎!うちの野菜が一番だ、さっき山で採ってきた山菜もあるぜ!今ならなんと、432u!」

 

「今なら取れたての魚、200u!」

 

「山菜、150u!」

 

「80!」

 

「50!」

 

「「なんだ、やんのかコラァ!?」」

 

.....しかし、あまりの価格競争が激しいため、このような光景は日常茶飯事である。

主に海派と山派で分かれており、互いに競い合っているというのも大きな特徴である。

最近ではこの喧嘩を見に来る物好きまで町を訪れることもあるらしい。

 

「まったく、相変わらず変わってないなぁ」

 

ハルクは一年振りの帰郷に懐かしみながらも呆れながら溜息を吐く。

この光景を見慣れていないライム達はポカン、としてしまっているが当然の反応であろう。

 

「おい、あの八百屋のおっちゃんハンマー持ち始めたぞ!?しかもあれめっちゃデカくね!?」

 

「あっちの魚屋は大型魚でも捌けそうな包丁持ち出したわよ、ていうかあれほぼ剣よね!?料理に使うようなモノじゃないわよね!?」

 

ライムとミスティは一触即発の状態にまでなってしまった、八百屋と魚屋の間に飛び散る火花がこちらにまで飛び火するのでは?という心配をしながら身を寄せ合う。

 

「というか、このままでは本当に怪我人が出るのでは?」

 

レッドも本気でヤバイと感じ取り、ハルクに何とかするようにおそるおそる声を掛けてみるが、当の本人は気にしていない様子で優雅に煙草を吸っている。

 

「大丈夫だ、あの二人の喧嘩は町の名物。中心部に建つ八百屋のドケチと魚屋のガンコは兄弟だし、何年もあんな感じだ。止めようにも止められねぇよ、とりあえず行くぞ」

 

ハルクはうぉぉぉぉぉぉ!!とハンマーと包丁で唾競り合いを行っている、もはや八百屋と魚屋に本来求められるはずのない戦闘をスルーし歩き始める。

ライムとミスティもハルクの後を急いで追いかけた。

 

 

 

ライム達はグラッダの町の外れにある一軒の二階建ての小屋の前に立っていた。

 

「俺ん家だ」

 

ハルクが胸を張って言った。

何でもハルクの姉が人付き合いが苦手な上に人間不信のために住宅街からわざわざここまで引っ越してきたらしい。

.....逆にここが彼の家でなければライム達は一体どこに連れてこられたのだろう?という疑問もある。

グラッダの住宅街から距離はあるが、町は見える位置にある。

ハルクはノックもせずに小屋の扉を開いて中に入っていく。

この遠慮のなさからここが本当にハルクの家なんだとライム達は再認識した。

 

「姉貴、今帰ったぜ」

 

ハルクが入るのに続いてライム達も玄関先にまで続く。

ライム達が扉を潜り、入ろうとした瞬間に先に入ったはずのハルクが勢いよく後方に吹っ飛んだ。

そう、言葉通り吹っ飛んだのだ。

 

「.....え?」

 

ライムは思わず後ろを振り向く、やはりハルクが大の字で倒れていた。

腹部のあたりに足跡が刻まれているところから、彼は蹴り飛ばされたのだろう。

ライム達が顔を青ざめさせていると、玄関先から大きな声が聞こえた。

 

「こ、んのォ、馬鹿愚弟がァ!家の中は禁煙だって言ってるだろ!忘れたとは言わせないぞ、あン!?ていうかノックくらいしろや、ゴラァ!!」

 

何かがライムとミスティの脇を通り抜けたと思えば、通り抜けた人影は勢いよくジャンプし、ハルクの股間に踵を落とした。

 

「☆°|$*♪<!!!?」

 

「全く、一年近くも帰ってこないで!ロブさんに迷惑かけてたんじゃないでしょうね!?」

 

もちろん、ハルクは答えることはできない。

あまりの痛みで今にも意識を手放してしまいそうな必死な状態なのだから。

ライム達がおそるおそる振り返ると、そこにはライムよりも若干背の低い少女がハルクに向かって仁王立ちしていた。

ハルクと同じ髪色と腰にまで伸びるストレートヘア。

 

「あ、姉貴、ちょっとは手加減して」

 

「黙りな!」

 

そう、このハルクの股間に更なる追撃を加えた少女こそがハルクの実の姉であるハルキ・ギース。

かつてはランダリーファミリーの幹部としてゴルドスとも肩を並べていた存在らしい。

 

 

 

ともかく、こうしていては話が一向に進まないため、ライムがハルキに声をかけることになった。

ミスティとどちらが先に話すかを揉めたのだが、ジャンケンで負けてしまっては仕方がない。

 

「あ、あの〜」

 

「ん?君誰?」

 

ハルキはぐりぐりとハルクの股間を右足で踏みつけながらキョトンとした様子で振り返る。

 

「ていうかマジで誰?うわー、怖!うちの前にも何かいるよ、魔物もいるじゃん!何なの一体!?愚弟が帰ってきたと思ったら、一緒に変なのもついてきてんじゃん!」

 

.....めっさドン引きされてしまった。

遠慮という言葉を知らなさそうなハルキはマシンガントークのように次々と言葉を連ねていく。

 

「そ、そいつはライム。で、あっちがミスティちゃんとレッドだ、イルバースで世話になった連中だ」

 

いつの間にか復活していたハルクがハルキに説明をする。

 

「ふーん、まぁ、ハルクの知り合いなら大丈夫そうね」

 

「姉貴、どんなけ信用ねぇんだよ?」

 

ハルクがポケットから新しく煙草を一本取り出して吸い始める。

ハルキはジト目でハルクを睨みながら溜息を吐く。

 

「あんた、そういやまだ吸ってたのね。いい加減やめたら?」

 

「悪りぃな、ここまで来たらやめられる気はしねぇ」

 

「ハァ、ゴルドスの馬鹿のマネだか何だかしらないけど、後悔するのはあんただよ」

 

ハルキは諦めたように溜息をもう一つ吐いた。

 

一方、扉の前で立ち竦んでいるミスティとその肩に乗っているレッドはひそひそと小声で話をしていた。

 

「あの人、相当な実力者みたいね。ライム君は気がついてないみたいだけど」

 

「あぁ、見た目に騙されがちだが、ハルクの姉らしいからな」

 

ハルキ本人が聞いていれば無事では済まなさそうな会話をしていた。

 

ライムはそろそろいいか、とタイミングを見計らってハルクに声をかける。

 

「ハルク、そろそろルナって人の容体を確認したいんだが」

 

「あぁ、そうだな。いつまでもこんな馬鹿やってる場合じゃなかった」

 

ハルクは股間に走る痛みを抑えながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「ん?何でこの子がルナちゃんのことを知ってるの、しかも容体を確認ってどういうこと??」

 

ハルキは二人のやり取りについていけずにクエスチョンマークを浮かべる。

あぁ、そうか、とハルクはうっかりした様子でポリポリと頭を掻く。

 

「姉貴、もしかしたらルナを助けられるかもしれねぇんだ!」

 

「はぁ?」

 

「何たって、ライムは治療魔術師だからな!何とかできるかもしれねぇんだ!」

 

ハルクは笑顔で嬉しそうに告げたのだった。

同時にライムに物凄いプレッシャーが一気にのしかかったのは言うまでもあるまい。




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