「行くぜ、レッド!」
「おう!」
ライムは襲い来る複数のオーガに対して、自身を纏う魔力をレッドに少量譲渡することで、レッドに攻撃力と防御力、更にはスピードを付加させて右腕に乗ったレッドをオーガの群れに向かって投げ飛ばす。
レッドはそのまま全速力で飛翔し、刃の如く魔力でオーガ達にダメージを与えていく。
本来、武器などに魔力を纏わせたりするのが戦闘の主流だが、ライムはそれを魔物であるレッドに纏わせることで自身の弱点である戦闘能力の低さを補いつつ、遠距離攻撃をも可能にした。
レッドによってダメージを負わされ、呻くオーガ達にライム自身が突っ込み、弱っている者達から順に追い打ちをかけていく。
レッドに対する魔力譲渡の効果は無限に続くわけではない、いつか分散して終わりを迎えてしまう。
だからこそ、その前にオーガ達を全て戦闘不能にする必要があった。
一方、ライム達の背後ではオーガキングの拳がハルクに迫る、ハルクはオーガキングの拳を大剣の側面で受け止め、被害を最小限にする。
そのまま拳を弾いて身の丈を越える一太刀でオーガキングの肉体を切り裂こうと下段からの一撃をアッパーのように上げるが、ダメージを負っている様子はない。
オーガキングはそのまま雄叫びを上げ、ボールを蹴るような感覚でハルクに向けて蹴りを放つ、ハルクはそれを横に回転することで回避する。
ハルクはミスティに目を向けて、アイコンタクトで合図を送る。
(頼むぜ、ミスティちゃん!)
ハルクは大剣の向きを変えて刃の部分を横にし、姿勢を低く構える。
ミスティは杖を持ったまま、ハルクの大剣に右足から順番に身を預ける。
ミスティがぐいっと姿勢を変えるとハルクが大剣を大きく斜め上に振るうことでミスティを飛ばす。
ミスティの杖の形状はぐにゃぐにゃ、と姿を変えて巨大な鉄槌となった。
ミスティはそのままオーガキングの頭上で勢いよく鉄槌と変化を遂げた杖を振り下ろす。
巨大な鉄槌による一撃はオーガキングの脳天を直撃し、目を回させるには十分なほどだった。
「いくらオーガキングといえど、頭を狙えば大したことはないわね」
「いや、まだだな。オーガって種族は目を閉じさせるか目の光を消すかでもしないと気絶したことにはならねぇ、こいつはまだ意識あるぜミスティちゃん」
「.....しぶとい奴」
ミスティが苦虫を潰したような表情を浮かべ、ギリリッと歯を噛みしめる。
「そういや、こいつを拘束することとかできないのか?鉄を操って」
「ダメね、イルバースじゃほぼ街中に鉄が溢れてたから操作できたけど、森に鉄資源なんてないし、感知もできない。私の杖の形状変化だけじゃコイツの動きを止めるだけの質量は確保できないわ」
仮に鉄資源があったとしても僅か、結局ミスティ自身がゼロから生成することとなってしまう。
しかし、こんなところで魔力を無駄遣いするわけにもいかなかった。
オーガキングはゆっくりと立ち上がり、ハルクとミスティを静かに見下ろした。
「しゃあねぇ、俺が一瞬で決めてくる!ミスティちゃんはライムとレッドの補助を頼む!」
「ハルク君!?」
「大丈夫だ、できるなら使いたくなかったがこれ以上時間をかけたくねぇ!」
ハルクはそう言うと大剣を仕舞い、ガチャリ、と両手に鋼鉄製のメリケンサックを装着しオーガキングに向かった。
「全く、無茶しちゃって!」
ミスティはライム達の所へ向かい、杖の形状をレイピアに変形させ鮮やかな乱舞でオーガ達を戦闘不能にしていった。
主にレッドが付けた傷の上から更には追撃を加えただけなのだが、この際誰も文句は言うまい。
ハルクは煙草を咥えたまま、機敏な動きでオーガキングに接近する。
ライム達がオーガの群れを止めてくれているとはいえ、それはあくまでも一方向のみである。
オーガキングの側にいた何体かのオーガはへし折った大木を武器にしてハルクに襲いかかる。
「遅いんだよ、ウスノロ共!」
それをハルクはヨルダンの雷迅にも匹敵する速度でオーガ達の攻撃を切り抜け、オーガキングに迫る。
ハルクの装備したメリケンサックは装備者の速度を上昇させるという追加効果のある魔術具である。
接近戦を想定して作成されたため、敵との距離を少しでも縮めるために改良に改良を重ね、鋼鉄製とは思えないほどの軽さにもなっている。
ちなみにお値段は値切りに値切り、原価15,000uのものをハルクは7,200uにまで値切ったという意外なスキルを持ち合わせていたのだが、ライム達がそのことを知ることはなかった。
「さて、ランダリーファミリー幹部として鮮やかな勝利を飾ってやるよ」
状況が巨大な闇組織だとか、昔からのライバル対決だとかなら格好ついたのだろうが、魔物相手ではイマイチ格好がつかなかった。
ハルクはドヤ顔になりながら、咥えた煙草を落とすことなく更に加速し、オーガキングの体を駆け上がり、眼前にまで迫る。
ニヤリ、と悪い笑みを浮かべた瞬間にハルクはメリケンサックを装備した両拳でオーガキングの両目を殴りつける。
もう一度言う、先端が若干鋭利に尖っており速度上昇効果のある魔術具であるメリケンサックでオーガキングの開いた両目を突いたのだ。
痛くないはずがない。
「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
オーガキングは両目を抑えて痛みを和らげようと必死になるが、痛みは増すばかりか涙まで流れる始末である。
散々野垂れ打ちまわった結果、オーガキングは木々をなぎ倒しながら森の彼方に姿を消してしまった。
残っているオーガの群れもオーガキングに続くように走り去ってしまった。
「.....中々えぐいことしたな」
「少しオーガキングに同情するわ」
「魔物の敵め」
そんなハルクは何故かライム達から白い目で睨まれる結果となった。
「し、仕方ないだろ!オーガの弱点は目なんだからよ、他の部位は筋肉が強固すぎて並みの武器じゃないとダメージを与えられないんだからよ!」
ライムとレッドの攻撃でダメージを与えたことはハルクの名誉のために黙っておく。
ハルクがポケットから二本目の煙草を取り出し、浮かない顔をしていた。
「だが、気になるな」
「何が?」
「オーガって魔物はたしかに気性は荒いし、人だって普通に襲う。だが、オーガキングは違う。奴はどちらかというとオーガが倒されたらやっと戦闘態勢を取るような魔物のはずなんだ」
だからこそ、初めから興奮状態でライム達に襲いかかってきたオーガキングは異常だった。
それにオーガの群れを引き連れることも本来ならばあり得ないことである。
「ルナのこととは関係ねぇが、嫌な予感がする」
「.....とにかく急ごう、オーガは森を出ることはないんだろう?でも、もしかしたら」
「そうだな、姉貴がいるから大丈夫だと思うが」
最悪の事態を避けるべく、ライム達はハルクの先導のもと急ぎグラッダを目指した。
※
同時刻、オーガの森の西側。
ライム達がオーガキングと交戦をしていた丁度反対側の場所では二人の人物が多くのオーガの死体を椅子にしてオーガだった肉塊を食べていた。
「ん〜、味は最悪だけど腹は膨れるね。このまま上質なオーガキングも出て来てくれればしばらく飯には困らないんだけどな」
「.....よくこんなモノを食う気になれるものだな。私は持参した食糧があるので遠慮する、というかその臭い息で私に話しかけるな」
「ひっどいな〜、その言い方はないんじゃねぇの?」
くちゃくちゃ、とオーガだったモノの内臓を食い散らかす目元をマスクで覆い、無精髭を生やした猿顏の男がケラケラと笑う。
対して視線だけで人を殺せそうな冷たい目をしており、口元を露出した骸骨のようなデザインのマスクを付けた女性は静かに立ち上がる。
ズシン、ズシンと大きな足音が彼女の耳に入ってきたからだ。
「見ろサル、お前がオーガを食いすぎるから望み通りのオーガキングが出て来たぞ」
「誰がサルだ、誰が!ま、でも好都合だな。こいつを潰せば七日は飯に困らない」
コキ、コキ、と手首を鳴らす男を見下ろすオーガキング。
真紅の瞳は怒りに燃えており、凄まじい殺気を放っている。
両目が開いていることから、ライム達が交戦したオーガキングとは別個体だと考えられる。
「さて、食後の運動でも.....ん?」
男が後ろを振り向くと、また別のオーガキングが二人を見下ろしていた。
女はフフ、と笑い慣れないような笑い声を上げる。
「見ろよサル、お前の飯がまた来たぞ、喜べよ」
「だから、俺はサルじゃねーってんだろうが、シャチ!俺のコードネームはカラスだ!」
自らをカラスと名乗った猿顏の男はニヤリと笑みを浮かべるとボコボコボコ、と背骨の中心部辺りから赤黒い触手のような何かが一本出現した。
「私は手伝わないからな」
「必要ねーよ」
数秒後、二人の側には二つのオーガキングの死体が転がることとなった。
感想、評価、批評、罵倒、その他諸々お待ちしてます(^^)