メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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第二章 〜眠りの姫君〜
53.オーガの森


 

時間を少しだけ巻き戻し、ライム達とハルクが宿で初めて顔を合わせ部屋で自己紹介を済ませた後のこと。

 

「この件が終わったら、一つ頼みたいことがあるんだ」

 

「頼みたいこと?」

 

ハルクはライムが治療魔術師であると聞かされた時に反応したり、頼みごとといい何か抱えていることに違いない。

基本的に頼まれごとは来る者拒まずのスタンスのライムはハルクの真剣な目を見返す。

 

「実は、俺にルナっていう恋人がいるんだ」

 

「貴様、リア充か!」

 

「落ち着けミスティ!話が進まないから少し黙ってろ!」

 

背後に般若像の幻影でも現れそうな剣幕で青筋を寄せて怒りを露わにするミスティを黙らせて(物理)改めてハルクに向き直る。

 

「そのルナが、一年前倒れてから目を覚まさなくなったんだ」

 

「えっ」

 

「医者には見せた。けど、症状がわからねぇから治療方法もわからねぇんだ」

 

ハルクは心底悲しそうな、それでいてどこか焦っているような様子だった。

傍に座るイムもギュッと拳を握りしめていた。

 

「俺はルナといて楽しいし、幸せだ。婚約を結ぼうとした矢先にルナは倒れちまって、そこから」

 

「ハルク兄」

 

「だから、だから!」

 

ガバッとハルクはライムに頭を下げて泣きそうな表情を浮かべる。

 

「だから頼む!あいつを、ルナを助けてくれ!」

 

 

 

宴会の翌日、ライムは突然ロブの部屋に招かれた。

酒による酔いや戦闘による疲れよりも、二日酔いで唸っている連中に解毒魔法を行使した疲れの方が大きい。

若干フラつき、頭を抑えたままライムは用意された座布団に座る。

 

「何ですか、ご用というのは?」

 

「あぁ、まずは礼を言わせてくれ。あいつらが元気に酒を飲めたのはお前のお陰だ」

 

「いえ、そんな」

 

「本心だ。実際イムの気持ちを知ることもできたのも、ライム、お前のお陰だ。本当に感謝している」

 

というか、この人はあれだけ飲んだのに一切疲労の色や二日酔いの様子を見せない。

もちろんライムが解毒魔法でアルコールを除去したわけでもない。

 

ロブは真面目な顔をしてゆっくりと話し始める。

 

「それでだ、この件に協力してくれた例として、いや、報酬と言った方がいいか。お前の欲しい情報を儂の知る限り教えようと思う」

 

「.....!」

 

そういえばそんな約束してた、とライムは顔を強張らせて、ギュッと力強く拳を握り締める。

 

「二年前、メデルが滅んでから数ヶ月したある日のことだ。中央政府よりアルテナの無法人の序列が変動したと伝えがあった」

 

アルテナの無法人、中央政府機関が特に注意視する六人の危険人物で世界的に指名手配、及び捜索が行われている第一級の危険人物達。

国家に一人でも紛れれば一夜にして崩壊すると言われるほどの実力者であると同時に危険な思想と思いもよらない行動で世界を恐怖に陥れることができる者たちである。

その対抗勢力として中央政府は世界でも特に実力の優れた十人を集めて超天十人衆を設置し、来たるべき決戦に備えていることが伺える。

 

「それまでは危険視されていなかったある人物が、その期間で急成長し一気に序列三位にまでのし上がった。時期的にもその人物がメデルを襲撃したとも考えるのが有力であると儂は考える」

 

「.....そいつの、名前は?」

 

ロブはウム、と一つ頷いて目をカッと見開く。

 

「イブリ・M・アマテラス。現在中央政府はこいつを各国の主要都市に呼びかけて早急に捕らえる、もしくは殺害を許可している」

 

 

 

そして、出発の日。

ライムの魔力回復のために一日延期して泊めさせてもらったが、ハルクの話を聞く限り急いだ方がいいとライムが判断し、現在ランダリーファミリーの皆様と向き合っている。

 

「じゃあな、ライム。達者でな」

 

「ロブさんこそ、またこっちに来る時は尋ねさせてもらいますよ」

 

ガシッと二人は握手を交わし、

 

「ミスティちゃん、最後に、最後でいいからその巨乳を揉ませ」

 

「却下で」

 

明らかに骨が何本かいった音を立てて後方に倒れるヨルダンを横目にミスティは踵を返し、さっさと出発してしまう。

ライムの肩の上のレッドがリリーの不在に気がつき、倒れているヨルダンに尋ねる。

 

「知らねぇな、あいつ今日は朝から姿見てないし」

 

とのことだった。

ライムとハルクは顔を見合わせ、互いに首を傾げていた。

 

「ライムさん、僕次会う時はもっと強くなってるから!ハルク兄も早く戻ってきてね」

 

「おう、楽しみにしてるよ」

 

「安心しな若、そんなに長くいるわけじゃねぇからよ」

 

ライムはイムとも握手を交わし、ハルクは煙草を吸いながら笑顔で告げた、心の底の笑顔ではなく明らかに無理をした作り笑いで。

 

「ハルク、ハルキの奴によろしくな」

 

「えぇ、もちろんですよ」

 

ハルクとロブは何やらアイコンタクトで話していたようにも思えたがライムは気にすることなくミスティを追いかけ始めた。

 

こうしてライム達は魔術都市イルバースを後にした。

 

 

 

イルバースの壁を抜け、壁の外側に出てからはハルクを先頭にし道なき道を進んでいく。

ある程度道は舗装されているのだが、それはあくまでも行商人などが通れるように必要最低限に舗装されているだけである。

 

これからライム達の向かうハルクの故郷、グラッダに行くにはオーガの森を通り抜ける必要があった。

その名の通りオーガが多く生息しており、どこかに彼らの村があるのでは?という伝説もあるくらいだ。

 

「言っておくが、オーガは魔物の中でもそこそこ強い方に分類されている。個体なら大したことはないが、奴らは最低でも三体のチームを組んで襲ってくる」

 

「そいつは厄介だな」

 

知能ある魔物の多くが集団で戦闘を挑んでくるのはこの世界の常識である。

逆に知能のない魔物は単体で襲ってくることが多い、集団で来たとしても所詮寄せ集めである烏合の衆、統率や連携がないため仕留めるのは容易い。

 

「ま、あいつらも馬鹿じゃねぇ。俺はここよく通ってるから何回も返り討ちにしてる」

 

「それは頼もしいわね、もしかしたら遭遇せずに通り抜けれるなんて奇跡もあるのかしら?」

 

「運が良ければの話だ、俺もここ一年近く通ってない」

 

と言いながらもライム達は既に森の中に侵入しており、周囲からオーガらしき魔物達の視線を感じる。

どうやらこちらの様子を伺っているようだった。

 

「.....おかしい」

 

「何がだ?」

 

しかし、ハルクは煙草を咥えながら観察し、それでも周囲のオーガ達に違和感を覚えていた。

 

「本来オーガってのは興味本位で人間に近づく魔物じゃない、しかも目が赤いってことは明らかに警戒し興奮している。それにこんなに集団で囲まれたことなんて今までないぞ」

 

ハルクの解説が終わったところでガサガサガサ、と木々がざわめき、森が異様な雰囲気に包まれる。

森を駆け抜ける殺気の塊、通常のオーガの比にはならない殺気。

サイズは体長3メートルにも及ぶ巨大な魔物がハルク達の目の前に立ち塞がったのだ。

この体躯で森を駆け抜けてここまでやって来たという事実にも信じ難いモノもあった。

 

「デカ!?」

 

「何なのあれ!?」

 

「馬鹿な、オーガキングだと!?」

 

オーガキング、ハルクは何度かこの森を通っているが実際目の当たりにしたのは初めてである。

出現率の低さと発見できても報告する前に死体となって帰還することすら許されないため、その存在は伝説ともされたオーガ達の中でも桁違いの実力を誇る魔物である。

オーガキングが大きく叫び声を一つあげた。

それだけで周囲の木々はへし折れ、ハルク達は後方へ吹き飛ばされた。

 

「チッ、面倒な奴が現れたモンだな!」

 

ハルクが大剣を構えてオーガキングと向かい合う態勢となった。

 

「やるしかなさそうね!」

 

ハルクに続きミスティも杖を構えて臨戦態勢に入る。

 

グォォォォォォォォォ!!という叫び声を上げ、オーガキングは拳を握りしめてハルク達に襲いかかる。

オーガキングの真紅の瞳は怒り、もしくは興奮している証である。

繁殖期にはまだ早い、だとすれば何者かが彼らを刺激したと考えるのが妥当である。

 

オーガキングに続き、周囲でハルク達を警戒していたオーガ達も一斉に襲いかかる。

どうやら戦闘を避けることはできなさそうであった。

 

「ったく、しょうがないな!」

 

ライムも全身に魔力を流し込み、構えてオーガキングには向かい合わず、周囲のオーガを対処しようと飛びかかってくる複数のオーガ達と殴り合いが始まった。

 




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