メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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52.終夜

ゴルドス一派との戦いから三日が経過した。

あの後、凄まじい爆発が発生し、騒ぎを聞きつけたブロスの部隊がやって来て騒動はさらに大きくなると思いきや、ジンが既にロブ達、ランダリーファミリーのことを話しており北イルバースの軍勢と全面戦争になることは避けられた。

 

結果としてゴルドス・アム、イリア・メルポーズの二人はブロスの部隊に連行され、マグラターゼ・ギアノスの死体はリリーの希望により北イルバースの墓地に埋葬されることとなった。

コグレの死体だけが発見されず、唯一現場にいたヨルダンは殺してはいないため逃亡したものと決定した。

その後、旧大倉庫は改めて閉鎖されることになった。

本来であれば破壊すべきなのだが、歴史ある建造物のため破壊されることはなくなった。

また、コンテナ地域の整備も本格的に行われ、危険なコンテナは撤去作業が始まった。

 

ライム達はそのままランダリーファミリーのアジトへ戻ったが、サイガだけが病院へ行くこととなった。

精神的に病んでしまっており、ライムの治療魔法でも完治させるのは困難だったため、長期的な治療に専念させることとなった。

また、ゲルマック・ビードラーの死体も発見され、元あった場所へと再び埋葬される形となった。

他にもミスティが魔力の暴走を抑えるため精神統一をする時間が増えたり、イムとロブが寄りを戻したことや、リリーが外出することが増えたり、ハルクがソワソワして落ち着かない様子になったり、ヨルダンが借金取りに追われることが多くなったりとそれぞれ変化の兆しが見え始めていた。

 

こうして、全てとはいかないが南イルバースを巻き込んだランダリーファミリーの抗争は幕を閉じたのだった。

 

 

 

一方、バーカイフの三人組はロブの屋敷に身を置いていざ出発、といった様子だった。

現在彼らはブロスの書斎(もといブロスの趣味趣向の娯楽物の多い部屋)で正式に報酬を受け取っていた。

 

「そうか、もう行ってしまうのか」

 

「えぇ、依頼は達成しましたし、もうここに留まる理由もありませんのでね」

 

荷物を背負ったクロフが代表して報酬である1,400,000uを受け取る。

 

「それで、ゴルドスとイリアの処遇はどのように?」

 

「.....はじめは追放を考えたが、奴らには聞きたいことがある。だが、これが中々口が堅くてな、少々難航しそうだ」

 

「.....そうですか」

 

ブロスとクロフの間に神妙な空気が漂い始めている中、クロフの傍に立つジンとパックは相変わらず睨み合っていて、一触即発の状態だった。

 

「.....今度は一体何で揉めておるのだ、二人は?」

 

「この後、娼館か魔術具の専門店のどっちに行くからしいですよ。ぶっちゃけ俺はどっちでも構わないんですけどね」

 

クロフの一言に、ジンとパックが聞き捨てならんなその言葉!と言いそうな勢いで睨みつけて、クロフの肩をそれぞれ掴む。

 

「何言ってんだよ、クロちゃん!男だったら娼館だろ!男のロマンではないか、仕事の疲れと日頃のストレスを吹き飛ばすのなら最適だぞ!」

 

「何言ってんだクロフ!魔術都市のイルバースにまで来て魔術具の店に行かないなんてバカみたいではないですか!色んなゴダゴダで行けませんでしたが、次いつ行けるかわからないのですから行くべきですよ!」

 

と、ジンとパックはそれぞれ同時に言ったため、クロフには聞き取ることができなかった。

二人は再び、「何だとコラ!?」と言いながら取っ組み合っている。

 

「.....お前ら、よくこれでチームが成り立っているな」

 

「ま、喧嘩するほど仲が良いとも言いますからね。そういやブロスさん、秘書の件は本当にウチから募集かけなくていいんですか?」

 

ブロスの秘書であったイリア・メルポーズはゴルドス一派の魔術師だったため、当然のことながら解雇となった。

ちなみに彼女の採用理由がブロスによる面接とかではなく、見た目が良かったというとんでもない理由だったことも判明した、主に乳が最高だったらしい。

 

「構わん、イリアには正直世話になっていたが、頼りすぎていた部分もあった。だからこそ、少しは秘書を置かずに自分の力でこのイルバースをできるだけいい方向へ導いていこうと思っている」

 

「ブロスさん」

 

幼い少年の言った言葉にはとても思えなかった。

クロフはこの街にやって来て強い少年と出会ったのはこれで三度目である。

このような少年達が次世代を担う人材となるだろう、とクロフは静かに笑みを浮かべたかった。

 

「.....ゲームやりながら言っても、まるで説得力ないですよ」

 

「うるさい!今いいところなの!」

 

 

 

その頃、ランダリーファミリーでは宴の準備が行われていた。

今回の勝利はそこまで気分が良いものとはいえないため、しなくても良いのでは?という意見もあったのだが、宴好きのロブが何が何でもやる!という頭領権限を行使し、ランダリーファミリーの面々とライム達も準備に追われていた。

 

最初はバーカイフの三人も誘ってはみたのだが、クロフとパックが拒んだため参加することはなくなった。

ちなみにジンは参加したかったらしい。

がやがやがや、とアジトの中が次第に騒がしくなってきた。

そろそろ宴が始まるのだろう。

 

「まさか、こんなに食費が浮くとは思わなかった」

 

「え、ライムさん達ってそんなギリギリで旅してたの?」

 

ライムがポロリと本音を漏らすと隣にいるイムが驚きながら応える。

 

「まぁ、主に私が魔術具を買い漁ったり、気に入った宿に長居してるのが原因なんだけどね」

 

「自分で言うな、ていうか自覚あるなら少しは自重しろ!」

 

二人の後ろに立つミスティが笑顔で付け足す。

ちなみにミスティはこの三日間で精神的にも安定してきており、以前と変わらない様子で接していた。

 

「ライム君、レッドは?」

 

「さぁ、多分リリーと一緒にいるんじゃないか?最近よく話してるみたいだし」

 

ライムが少し離れた場所にいたリリーとヨルダンの方向に目を向けるとイムとミスティは納得して頷いた。

 

「ま、いいじゃねぇか。正直リリーが俺たち以外とあんなに話してる様子は珍しいからな」

 

「ハルク兄」

 

「ていうかハルク君、また煙草の数増えたんじゃない!?」

 

「いーだろ、別に。こんな日に吸うなっていうのかよ!?」

 

「じゃあ、せめて本数減らしなさいよ!」

 

ギャアギャア、と喚くミスティとハルクを見てライムとイムはホッと息を吐く。

ライム自身、あの後ミスティとハルクの関係が崩れてしまうのではないか、と危惧していたが心配は無用だったようだ。

 

一方、リリーは相変わらずヨルダンにアプローチを仕掛けていた。

 

「ヨールダーンさーん!乾杯しましょうよ、乾杯!」

 

「馬鹿野郎、まだ頭が音頭取ってないだろうが!乾杯はそっからだ」

 

ヨルダンの左腕に絡みつきながらワイングラス片手にニヤけるリリーを見てレッドは溜息を吐いた。

 

「リリー、積極的なのはいいことなのだが、ヨルダンが困ってはいないか?」

 

「僕が困ってないからいいの!」

 

「何でそうなるんだよ!!」

 

こちらも相変わらずといった様子でリリーが一人勝手に妄想に耽り、ヨルダンがそれに対してツッコミを入れるという具合だった。

リリーの左腕はライムの魔法により完治しているため、両腕を使ってヨルダンに迫る。

 

「なぁ、レッド。お前はライム坊達の所に行かなくていいのか?」

 

「え、それって、ヨルダンさん!?僕と二人きりになりたいっ」

 

「違うからな!断じてそんなことはないからな!!!」

 

やがて、中央にグラスを持ったロブがやってきた。

全身には包帯が巻かれており、怪我もまだ完全には回復してはいない。

最初はライムの治療魔法で回復させるつもりだったのだが、ロブがそのことを拒んだため、中途半端な治療で終わっているのだ。

本人曰く、放っておけば勝手に治るらしい。

 

ロブがグラスを天に掲げて声を張り上げる。

 

「あー、そうだな。儂は小難しいことや長い話は嫌いだから、さっさと始めるぞ!かんぱーい!」

 

かんぱーい!とロブに続くようにしてランダリーファミリーの面々がグラスを天に掲げて叫び声を上げた。

 

宴会は夜通し続けられ、翌朝には当然のことながら二日酔いになる者が多発した。

その後、ライムが治療魔法を使いすぎてもう一日滞在することとなったのは余談である。

 

 

 

時を少し戻して二日前、ミスティと同様、マグラターゼの死の影響で心身が少し不安定だったリリーが一人夜の南イルバースを散歩していた時の出来事。

 

マグラターゼの墓は北イルバースにあるため墓参りには行けないが、マグラターゼが殺された場所に赴いていた。

 

「.....本当、僕は弱いなぁ」

 

守られてばかりで誰一人として救うことができない。

かつて故郷を追われた時も、八年前にヨルダンに助けられたことも、そして今回もまたヨルダンに助けられた。

リリーはたしかにヨルダンに好意を抱いている。

 

しかし、形としてはリリーの理想とはかけ離れすぎていた。

 

(.....あの人の隣に立ちたい、でも今のままじゃあの人の背中しか見ることができない)

 

いつか、いつか隣に立って対等な関係に、そう思うリリーだったが、南イルバースにいる限りは不可能に近い。

ランダリーファミリーという組織に所属している以上、ランダリーファミリーという組織に守られている限り、リリーは強くなることはできないだろう。

 

「.....強くなりたい」

 

リリーはぺたりと地面に座り込んで嗚咽の混じった声を漏らす。

 

「強く、なりたい!」

 

「ならば、俺が誘おう」

 

「ッ!!」

 

リリーの呟きはリリー以外の何者かによって拾われた。

リリーの背後に立つ人物は長身で黒ローブが特徴でフードを被っているため顔は確認することはできないが声のトーンからして男だと推測される。

 

「お前、は!?」

 

「この世界が憎いか?」

 

「.....は?」

 

「今や世界は人類が支配する世界となった。魔族や亜人などは迫害され、差別を受けている」

 

リリーは男の語る言葉を静かに聞く。

 

「可哀想だと憐れむ者もいるが、所詮それは表だけ。我々は童話の主人公ではない、内情を知らぬ者たちが我々のことを同情してくれるなど期待することはできない」

 

「.....」

 

「俺はそんな世界を変えるために戦う、いつの日かの戦争で全種族が手を取り合う未来を信じて」

 

男はフードを脱いで名を名乗った。

 

「俺はガルジアス・ドルヴェルグ、三日後またこの場にてお前の返事を聞こう」

 

リリーはガルジアスと名乗った男の顔を見て驚愕と悲壮の表情を浮かべた。

 

「この街は相変わらずだな、昔と同じことを繰り返している」

 

その一言を最後にガルジアスは夜の闇に姿を消した。

 

しかし、この一抹の会話がリリーの心を動かしたのはたしかなことであった。

 

 




第一章 〜魔術師の集う町〜 完。

NEXT 〜眠りの姫君〜

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