メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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51.幕引きは木暮の終わりと共に

 

ガキィィィン!とミスティの槍がハルクの喉元を貫いた、のではなく直前にまで迫ったところで第三者の介入により彼女の攻撃は妨げられてしまう。

その人物はミスティもハルクもよく知る人物だった。

 

「な、おやっさん!?」

 

「ロブさん!?」

 

ミスティとハルクはほぼ同時に介入してきたロブ・ランダリーの名前を口にする。

全身に打撲や痣が目立ち、鼻が特に青く痛々しいことになっているが、ミスティの攻撃を二本の刀でいとも容易く受け止めた。

ミスティの槍は微塵も動くことはなく、先端の黒い色も徐々に薄くなったいった。

 

「いくら共同戦線を誓った者とはいえ、家族を傷つけるなら儂は容赦しないぞ、ミスティ」

 

「ぐっ.....」

 

「ハルクだけじゃねぇ、ゴルドスも破門にしたと言え儂にとっては兄弟のような特別な存在だ。こいつはただの俺たちの兄弟喧嘩、それだけのために命まで取ることはねぇだろ?」

 

「.....随分多くの人を巻き込んだ大喧嘩ね」

 

「そうだな、だからこそ早く終わらして仲直りしたいと思っている」

 

ミスティの返答に対してもほくそ笑んで、受け答える。

ギリリッ、と歯を噛みしめているのはミスティの方だった。

 

「それに少し落ち着け、お前さんは今ドス黒い感情に心を奪われている。少し冷静になれば考えも変わると思うぜ」

 

「...........」

 

「それに、ライムだってこんなことは望んでないはずだ」

 

「.....ッ!」

 

ミスティはライム、という名前に反応してハッと我に返った。

前方をよく見直すとライムがヨルダン達の所で治療魔術を使って負傷者の回復に急いでいた。

 

そう、互いに復讐を誓い合って旅をしている仲とはいえランダリーファミリーやゴルドス達はその対象ではない。

そもそもミスティ達は余所者、ランダリーファミリーのホームで彼女らが狼藉を働くわけにはいかない。

 

ミスティは杖の先端を元に戻して、カランカランと杖を手放して地面に落とした。

同時にゴルドスの拘束も解け、ドサッと前から倒れた。

 

「ミスティちゃん」

 

「ご、ごめんなさい、私、自分の都合ばかり押し付けて.....!」

 

ヒック、えぐ、とミスティは涙を流し二人に謝罪した。

ロブは倒れたゴルドスの元へ向かい、ハルクは小さく笑みを浮かべてミスティに歩み寄った。

 

(全く、初めて年相応の態度を見せてくれたな)

 

ハルクはミスティに手を伸ばした。

 

「行こう、ライム達のところに」

 

もう既に夜となった街は暗く、それでもミスティにはハルクが太陽、いや星のように輝き道標にも思えた。

 

ミスティはぐしゃぐしゃになった顔を上げて、ハルクの手を静かに力強く握り返した。

 

 

 

「それで、一体何でおやっさんが駆けつけて来たんだ?」

 

「旧大倉庫を出て、ゾブ達を追いかけていたらレッドの奴が倒れているロブさんを見つけたんだ。そこから俺が残った魔力を使って治療魔法で傷を塞いでいる途中で目を覚まして、治療が済んでいるわけでもないのに」

 

「あー、なるほど。だからあぁなってんのか」

 

ハルクが煙草を吸いながらくいっと親指を示した方向を見ると全身を痛めて壁にもたれかかっているロブがいた。

 

「まぁな、本来なら一生動けないような重体なのに無理して動いたから、ていうか動けることがおかしいんだけどな」

 

ライムがやや呆れ気味に呟く、実際ロブやゴルドスといったレベルの人物達の基礎体力だけでなく、人体の構造から疑うほどのタフネスと回復力を兼ね備えている。

.....世の中謎が多い、ライムは人という定義を少し疑いたくなったが、考え始めたらキリがなさそうなのでゴルドスの治療に専念した。

 

「つーか、本当に腕は治らないのか?この人なら自力で再生しそうだから怖いけど」

 

先ほどライムの治療により、意識を取り戻したヨルダンが心配そうに尋ねる。

そのことに関してはハルクも同じ心配をしていたようだった。

 

「切れ目が綺麗だから腕の先があればくっついたかもしれないけど、再生させることは無理だ。ま、その腕も行方がわからないからどうしようもないけど」

 

ちなみに、ゴルドスの腕はロブとの戦闘の余波で消し飛んでしまっている。

今となってはそのことをこの場にいる誰もが知る由もないが。

 

「とりあえず終わったんだな」

 

「だな、若も助けたし、ランダリーファミリーを名乗る輩もぶっ潰した。これで南イルバースはしばらく安泰だな」

 

「あぁ、これでしばらくギャンブルして暮らせるぜ」

 

「また借金増やすなよ」

 

「うるせーよ!」

 

 

 

その頃、ミスティとレッドと目を覚ましたジンは未だに目を覚まさない者達の側で座っていた。

その近くにはロブも壁にもたれて全身に痛みが走っているようで、静かに悶えていた。

 

「まさか、俺っちが寝ている間に全て終わっていたとはね」

 

「そういうこともあるさ」

 

「だが納得できんね、まさか君が俺っちが不意をつかれたとはいえイリアさんを倒すなんて」

 

フフフ、とジンは笑いながらミスティに声をかけるが、彼女は依然として体育座りの状態から反応を示すことはなかった。

 

「レッド君、あれは一体どうしたんだ?」

 

「俺に聞くな、だが、あいつは魔力が暴走すると歯止めが利かないときがある。その影響だろ」

 

「なるほど、しばらくそっとしておいた方がいいのかね?」

 

「.....そこは察してやれ」

 

ひそひそひそ、とジンとレッドは顔を見合わせながらミスティには聞こえない声で話す。

 

「まぁ、いいか。俺っちはクロちゃんとパックが目を覚ましたら、また北に行かないといけないし」

 

「そうか、たしか雇われてたんだったな」

 

「あぁ、クライアントには念のため今回のことは報告しないといけないからな」

 

ジンが立ち上がり、体を伸ばしながら北イルバースの方向に目を向ける。

 

「ていうか、一人見知らぬ野郎がいるんだが、こいつ誰だ?」

 

「俺に聞くなよ」

 

ジンはマグラターゼを指差して至極当然の質問をしたが、レッドも疑問に思っていたため謎が解けることはなかった。

 

 

 

その頃、ライム達のいる場所から少し離れたコンテナが密集している地帯では、意識を取り戻したコグレが左腕を垂らしながらコンテナを支えにして立ち上がろうと息を荒げていた。

 

「あンの、クソ野郎が!絶対に許さねェ、絶対ぶっ殺してやる!」

 

くちゃくちゃ、と怒りを鎮めるようにガムを咀嚼しながら右手で触れたコンテナに焦げ跡を刻む。

 

そのまま焦げて耐久性が弱まった部分を握力で握りつぶし、大声で叫び声を上げる。

 

だからこそ、コグレは周りが見えておらず二人の人物の接近に気がつくことができなかった。

 

「無様なやられ様だな、その様子ではゴルドス・アムも敗北したのか?」

 

「キャハ、だっさいわねぇ。せっかく私たちが力をあげたって言うのにあっさり負けやがって☆」

 

「て、テメェら、まさか見ていたのか!?」

 

コグレは突如現れた二人組に向き合う様に体制を変えて、コンテナを背もたれにする。

 

「見ていたも何も、密輸の航路が破壊された報告を受けたんだ。様子を見に来ない方が不思議ではないのか?」

 

コキコキ、と首を鳴らしながら眼帯をした男が応える。

 

「それに俺たちとてゴルドス・アムを完全に信用していたわけじゃない、だからこそスパイとしてお前を送り込み、様子を見ていた。ま、その様子では実験の方も失敗したと上に報告しておかねばならんな」

 

「待て、この件は俺がッ!!」

 

バン!という一つの銃声が鳴り響き、コグレは右足が撃たれたことに遅れて気がつく。

戦闘の苦痛と疲労と片腕が使えずバランスを失ったコグレはドサッと倒れる。

 

「黙れ役立たずが」

 

「ご、が、テメェ、オロチィ!」

 

「相変わらず口の利き方がなってないな、オロチ様だ」

 

バン!とオロチと呼ばれた男が更にもう一発発砲する。

二発目はコグレの眼前の地面目掛けて放たれた。

 

「誰がお前を拾ってやった?誰がお前に力を与えた?誰がお前に生きる意味を与えてやったんだ?ん?」

 

「.....俺だって、好きでテメェらの言いなりになってたと思うなよ!」

 

「そうか、では来世では自由になれることを願っておくんだな、コグレ。いや、ユースケ・コグレ」

 

くすり、とオロチの隣の女性が笑うと同時にコグレの頭に銃弾が放たれた。

 

「じゃ、さっさと回収しちゃうわね。摩擦力を操ることのできる手袋と足袋だっけ?試作品とはいえ中々いいデータが取れたんじゃね?」

 

「無駄口はいい、ゲルマック・ビードラーの蘇生実験も失敗したんだ。やはり人体の蘇生など不可能、あの魔法を手に入れる以外はな。クローン実験も失敗したと伝えねばプランが次に進まん。急いで戻るぞカグヤ」

 

「はいは〜い☆」

 

カグヤ、と呼ばれた女性は携えていた刀でコグレの四肢を切断し、手袋と足袋を回収する。

 

「ほいじゃ、さよなら☆」

 

ブン、カグヤの振るった刀は斬撃に変わり、コンテナを破壊し、大爆発が発生した。

 

「全く、証拠隠滅とはいえもう少し穏便にできないのか?」

 

「無理無理ぃ〜、何事も派手じゃねぇと生き甲斐感じれんから、さ☆」

 

轟々と燃え上がる炎に包まれたコグレを背にオロチとカグヤは静かにその場を去っていった。

 




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