メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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46.勝者と敗者

ロブ・ランダリーが目を覚まし、一番最初に視界に入ってきたのは快晴の空だった。

 

「.........あれ?」

 

青く澄み渡る空、雲ひとつない光景はまさに快晴である。

起き上がろうとすると全身の節々が軋むように音を立てた。

周囲は瓦礫の山で人々は彷徨うようにしてうろうろと宛てもなく歩いているようにも見えた。

 

「お、ロブ。無事だったか、よかった」

 

「ゲル、さん?」

 

「いやぁ、三日も目を覚まさないから心配したぞ」

 

「三日、って、あぁ!」

 

上半身の服を脱ぎ、代わりに包帯を巻いているゲルマックの姿を見て、ロブの意識は完全に覚醒した。

 

「そ、そうだ!あの黒い野郎は!?ていうか三日!?え、え!!?」

 

「.....面白いくらいに動揺してんな」

 

ぷくくく、とゲルマックは必死に笑いを堪えながら腹を抱える。

 

「あの黒い野郎は三本目を出して、俺が一発拳を叩いたら帰って行ったよ。街は酷い有様だけどな」

 

「.....ゴルドス達は無事なのか?」

 

「あぁ、お前同様奇跡的に生き残ってる。ホント、よくあの攻撃の中で生き残れたもんだ」

 

ゲルマックの話によると、ゴルドスは現在破壊された外壁の修理のバイトに行っているらしい。

作るよりも壊す方が得意なゴルドスに少々心配を覚えるも順調らしい。

他にもグラハムは弟のことも考えてこの街ではこれから暮らしていけそうにもない、と判断し出て行った。

彼らの世話をしてくれていた親戚の方々はあの攻撃の被害に遭って亡くなったとのこと。

そして、現在南イルバースは四日後に来訪する国王を迎える式典のため大急ぎで復興を行っていた。

今回の一連の事件は北イルバースのお偉いさんが絡んでいたことから北からのバックアップを受けていた。

 

「そうか、グラハムとハーディが」

 

「悪いことじゃないとは思うぜ、あいつの実力があれば苦労することはないだろうし」

 

そして、もう一つ重要なこととしてイルバースの最高権力者であるジネット・イルバースが襲撃のドサクサで何者かにより殺害され、現在息子であるザルド・イルバースがイルバースを取り締まっているということ。

ザルドは南北を分ける壁を撤去しようと住民に呼びかけてはいるのだが、南北共に反対の声が上がっており難航しているらしい。

しかし、ザルドは南イルバースの人間一人一人に頭を下げ回り、その姿勢からジネットとは違い少しずつだが、南イルバースの人々から支持は得ている。

 

「で、ロブ。お前はこれからどうするんだ?」

 

「俺は、ゲルさんにまだまだ教わりたいことがあるので」

 

ロブは俯いて応えた。

本を読んで過ごすのもアリなのだが、それでは体が鈍ってしまう。

 

「.....そろそろ本格的な剣術でもやっていくか」

 

「はい!」

 

ゲルマックはニッと笑みを浮かべて立ち上がり、ロブは笑顔を浮かべた。

 

 

 

その頃、北イルバースのイルバース邸ではザルド・イルバースが眼鏡を掛けながら書類と格闘していた。

 

「.....父さんは毎日こんなことしてたのか」

 

「そうですね。基本的にあの方は外に出るということを知らないお方でしたので、出る時があるとしても一時間も経たない間に戻ってこられますし」

 

「.....うちの父親がインドアだった件について」

 

ハァ、と溜息を吐きながらも山のような書類を一枚一枚丁寧に片付けていく。

 

「それにしても、まさかリサさんがダルダスのことを捕まえたなんてな」

 

「一応武術も嗜んでいましたので」

 

そう、三日前にダルダスはジネットを殺害した後、偶然部屋の前を通った秘書であるリサによって無力化されたのだ。

片手に持った拳銃を撃つ前に弾き、見事な流れ作業でダルダスを牢屋へと入れた。

ジネットの死体も彼女が埋葬準備を進めていた。

 

ザルドは目が覚めないロブとしばらく一緒にいたところ、やって来たゲルマックにロブを任せて急いで北に戻り父の死を知った。

そして、ジネットの実の息子であり唯一の血族であるということからジネットの後継者として正式に活動するようになった。

 

「まさか、国王様がやってくる直前に代表者交代とか予想もしてませんでしたよ、正直不安だ」

 

「ご安心ください、私共々全面的にご協力させてもらいますので」

 

「その言葉が冗談でも頼もしいよ」

 

 

 

そして四日後、国王は来訪し、式典は無事に終了した。

南の外壁の修復も終わり、街並みも黒ローブが襲撃する前の姿に戻った。

 

そしてイルバースは都市として正式に認められ、首都であるリーノイアと直接繋がる交通路が約束された。

 

イルバースが魔法都市と呼ばれるようになるのは更に二年の歳月が必要だった。

 

 

 

そして、更に9年の歳月が流れロブとゴルドスは三十路を迎えた。

イルバースは魔法都市として多くの魔術師が集まるようになり、北と南は未だ分かれたままに壁の撤去というザルドの努力も虚しく実現することはなかった。

 

ゲルマックは突如急病を患い、動くことすらままならない体になってしまい静かに隠居することを決意し、南イルバースのとある住居でひっそりと暮らし始めた。

 

そして、ロブとゴルドスは二人で互いに助け合いながら生きていくことを決めていた。

 

「俺たちの腕っ節を利用して、人の役に立てねぇかな?」

 

「どうだろうな。でも、俺らに出来ることといえばそれくらいだろうな」

 

サングラスを着け、葉巻を吸うようになったゴルドスはロブの提案に肯定する。

 

「でも俺たちでやっていくには限界がある、仲間を集めないといけねぇ」

 

「仲間、ねぇ」

 

「言い方を変えるなら、家族だな」

 

「家族、だぁ?」

 

ロブの発言にゴルドスはプッと吹き出し、大笑いし始める。

 

「まさか、あの本と拳法以外に興味のなかったロブが家族を欲するなんてな、年を取ったな!」

 

「お互いにな、俺たちはもうガキじゃねぇ」

 

ロブはゲルマックから授かった二本の刀を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。

 

「そうだな、俺の家族だからランダリーファミリー。俺たちの組織の名前だ」

 

「ちょっと待て。何でお前がボスみたいな組織名にしてんだ、コラ」

 

「いいだろ、実際俺の方が適任だし」

 

「自分で言うのか、それ!?」

 

ゴルドスは口に咥えた葉巻をギリリッと噛み潰し、立ち上がりロブをキッと睨みつける。

ポトリ、と葉巻はゴルドスの足元に落下した。

 

「俺はお前の下になるつもりはない、これだけは譲れねぇ!ゲルさんの意思を継ぐのは俺だッ!!」

 

「面倒な奴だな、俺もお前みたいな馬鹿の下で動くのはごめんだ」

 

「誰が馬鹿だ!馬鹿にしやがって!!」

 

「そのままの意味だよ、馬鹿野郎!」

 

こうして、二人は拳と剣をぶつけ合い南イルバースの街中で戦ったことにより、街は半壊に追い込まれてしまった。

騒ぎを聞きつけたゲルマックに止められ喧嘩は引き分けに終わった。

 

「ちくしょう!この喧嘩はノーカンだからな!次は俺が勝つ!」

 

「言ってろ、だが、ランダリーファミリーの改名は認めねぇ、俺についてこいゴルドス!」

 

「ざけんなコラ!」

 

こうして、ランダリーファミリーが結成された。

 

 

 

そして、15年の時を経て、ロブとゴルドスはかつてゲルマックの介入する直前の同じ状態で向かい合っていた。

 

ロブは二本の刀を鞘に収めて、抜刀の態勢に。

 

ゴルドスは拳を握りしめて今にも飛びかかりそうな、狂犬のような殺気を丸出しにして、構える。

 

おそらく、生半可な覚悟で近づけば殺気に当てられただけで気を失ってしまうだろう。

ピリピリとした空気は周囲にも影響を及ぼしはじめていた。

 

そして、ゴルドスが籠手にエネルギーを充填させロブに飛びかかった。

ゴルドスは生身でヨルダンの雷迅を遥かに上回る速度を体現させることに成功しており、凄まじい速度と殺気を放ちながらロブに拳を放つ。

対するロブは機を伺いながら抜刀のタイミングを図っている。

動くことはなかった、汗だけが彼の額を伝い力を集中させている。

 

ゴルドスの拳が迫る、ロブの眼前にまでやってくる。

 

ロブに吸い込まれるように近づく、近づけば確実に斬られてしまう。

 

ゴルドスの拳がロブの垂れた前髪に触れる、ロブはカッと目を開き二本の刀を同時に抜刀する。

 

スパァン!という音とともにゴルドスの片腕が宙を舞った。

 

しかし、その腕は囮だった。

 

(まさか、こいつワザと!?)

 

ゴルドスの拳が容赦なくロブの顔面に突き刺さる。

 

「.....ッ!!!」

 

「オ、ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

強大なエネルギーを纏わせた拳はロブの鼻を折り、頭蓋骨にヒビを入れるには十分すぎる威力だった。

 

(ザルド、それにイム、ハルク、ヨルダン、リリー)

 

ズドム!とゴルドスが拳を振るうとロブは後頭部から地面にめり込んだ。

ビキビキビキ、とロブを中心とし大地に亀裂が走り、周囲が軽く震動した。

 

(それと、ライム...)

 

カランカラン、とロブの手から手放された二本の刀が宙を舞い、重力に従い落下する。

 

(すまなかった)

 

左腕を無くしたゴルドスは息を荒げながら、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ザマァ見ろってんだ、ロブゥ。俺は、お前を超えた!」

 

ゴルドスは意識を失ったロブを見下ろし、歓喜の表情を浮かべる。

 

15年前の決着が今、ゴルドス・アムの勝利で幕は閉じられた。

 




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