メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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36.多勢に無勢

 

落下したハルクとクロフは地面が固いコンクリートや鉄ではなかったため、致命傷を負うことなく無事に着地することに成功した。

 

「大丈夫か、ハルク」

 

「あぁ、何とか、な」

 

クロフは上を見上げて壁をよじ登ってでも何とか脱出できないか、と考えるが部屋は暗く壁の高さもどれほどのものなのか検討もつかないため諦める。

ハルクは小さく舌打ちをする。

 

「簡単に脱出はできそうにないな」

 

「あぁ、だがライム達を別行動にさせておいて正解だったな。全員がここに落とされたとしたら若を助けることができねぇ」

 

「だな、俺たちはここから脱出することに専念しよう」

 

クロフの言葉にハルクが頷くと、足元からガチャガチャ、と金属の擦れるような音が部屋に響き渡る。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

「な、なんだ?」

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ハルクが音を辿りながら目を動かす。

クロフは冷や汗を流しながらハルクと背中合わせになるようにして、ハルクの死角となる場所を見渡す。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ガチャガチャ、ガチャン。

 

「あ、あれは!?」

 

ハルクの目の前に変化が訪れた。

音を立てていた何かは形を成して立ち上がった。

いや、最初から形にはなっていたのかもしれない。

 

ガチャガチャ、と擦れる金属音を立てる甲冑は目を赤く不気味に光らせていた。

 

「まさ、か」

 

二つの赤い光はやがて数を増していく、ガチャガチャと鳴り四つに、ガチャガチャと更に鳴り六つに、ガチャガチャと鳴り続け八つに、ガチャガチャと鳴り止むことなく十つに。

 

「ゲ、ゲルマック...?」

 

ハルクとクロフの目の前に現れたのは無数のゲルマック・ビードラーだった。

 

「う、嘘だろ...?」

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

「.....気味が悪ぃな」

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

「ま、まだ増えるのか?」

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

「もういいだろ、まだ死人と戦ったことすら受け入れられてねぇのによ」

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

「な、何だ.....あの数は!?」

 

赤い両の瞳はやがて数を増やしに増やしていき、ハルクとクロフを囲うようにして円になっていた。

ハルクとクロフがそれぞれ対峙した甲冑姿のゲルマックも見られた。

しかし、全てが全て同じデザインではなく、それぞれがどこか微妙に装飾やデザインが異なっていた。

 

「こ、こんなことってあるのかよ.....!?」

 

「夢に出そうだな、オイ」

 

ハルクは煙草を握りつぶして、クロフは迎え撃つように構えながら数にして二十を越えるゲルマック・ビードラーを睨みつける。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

そもそも、全員が全員ゲルマック・ビードラーの保証はない。

だが、実際に戦ったことのある二人だからこそ、ここにいる全員がゲルマックだということはわかっていた。

 

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

 

甲冑を纏ったゲルマックの集団はゆっくりと構える者や武器を手にする者がハルク達との距離を詰める。

 

本来ならばあり得ない現実を前にして、ハルクとクロフはニヤリと笑みを浮かべ戦闘態勢に入る。

 

「先にダウンしないでくださいよ、クロフさん!」

 

「そっちこそ、大事な所でへばるんじゃないぞ、ハルク!」

 

ハルクとクロフはゲルマック達が攻撃を仕掛けてくる前に集団に突っ込み先手を取った。

 

 

 

「起動、成功だな」

 

「何の話だ!?」

 

ズガガガガガガガガガ!!とコグレが五指を振るいながら姿勢を低くし、ヨルダンの攻撃を回避する。

コグレの五指はコンテナに傷を入れ、傷からは炎が発火する。

 

(クソ、こいつの体柔らかすぎだろ!軟体動物なんじゃねぇのか!?)

 

ヨルダンは悪態を吐きながら発火したコンテナを蹴り飛ばしてコグレに放つが、コグレは滑るように走り出しコンテナを避けてヨルダンに急接近する。

 

「俺はこの辺りのコンテナを管理してんだ、ランダリーファミリー技術開発戦闘員としてな」

 

「知るか!ていうかテメェがランダリーファミリーを騙るんじゃねぇ!」

 

ヨルダンは接近してきたコグレに拳を放つが、ズガガガガガガガガ!!とコンクリートの床を削りながら滑走し、回避する。

 

「緑のA-46。そのコンテナの中身は火薬だ」

 

ヨルダンの拳はコンテナを破壊し、中の火薬と身に纏わせた雷の魔力が接触し、ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!と大爆発を引き起こした。

 

「ギィ、ガッ、ハァ!?」

 

ヨルダンは爆発自体の熱は防ぐことに成功したが、爆風による衝撃波は防ぐことは出来なかった。

雷迅は鎧と同じで物理攻撃や熱といったモノは防げるが衝撃までは吸収することができない。

 

「な?人の言うことはキチンと聞くものだぜ」

 

コグレはニヤニヤと笑みを浮かべながら火の粉に向かって咀嚼していたガムを吐き出した。

 

再び、ヨルダンを巻き込むための爆発が発生した。

 

 

 

「また爆発!待っててヨルダンさん!僕が今すぐ駆けつけ」

 

「なくていいですから!頼むから行かないでください!」

 

「何で!?僕が駆けつけずに誰が駆けつけるって言うの!?」

 

「とりあえず大前提として駆けつけることをやめて、俺に付いてきてください!」

 

その頃、リリーと合流することに成功したサイガはヨルダンの元へ飛び去ろうとする彼女を羽交い締めにして必死に止めていた。

 

「頼みますから、ヨルダンさんは一人でやるって言ってたんですよ!あの人の覚悟を無駄にしないでください!」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

「今は旧大倉庫に行って若を助けることが大切です!そのことを忘れな

いでください!!」

 

「.....わかった」

 

ぶぅー、と拗ねてしまったリリーにため息を吐きながらサイガはホッと安堵の息を吐く。

このままリリーが彼の元へ行ってしまえば場は収拾を付けられなくなってしまうだろう。

サイガはリリーから目を離さないようにと必死になってリリーを監視しながら旧大倉庫へリリーと共に向かった。

 

「ねぇサイガ、そういえばゾブとケイジは?」

 

「さっきミスティ姉さんと合流したって連絡来てました」

 

「ふーん」

 

「.....あの、頼みますから少しは言うこと聞いてくれませんか?何で方向を変えて爆発の場所に向かってんですか!?」

 

「それこそ、愛の為せる業!」

 

「俺もうやだ、この人!」

 

ウガァァァァァ!!と頭を抱えながら呻き声を上げているサイガに対してリリーは可哀想な子を見るような優しい視線を送る。

 

しばらく歩き、何度もヨルダンの元へ向かおうとするリリーを必死にサイガが止めるというやり取りが続き、旧大倉庫を前にして二人がある異変に気がつく。

 

「血の匂い」

 

「それと、何か異臭も!」

 

リリーとサイガは進路を変えて匂いの強い場所に向かう。

 

そこには全身から血を流しながら倒れている大柄でポッチャリ体型の男と半身に刺青を刻んだ細身の男が対峙していた。

ポッチャリ体型の男は息を荒くして仰向けに倒れている。

 

「.....あいつ!」

 

リリーは倒れている男、パックの姿を見るなり目の色を変える。

 

その僅かに漏らした殺気に細身の男が反応する。

 

「.....お前はランダリーファミリーのリリーか。ゴルドスさんに盾突く者」

 

「そういう君は?そこのブタ野郎の息の根を止めるなら協力しないでもないよ?」

 

「協力、か。悪いが断らせてもらおう」

 

ドガッ、とパックを蹴り飛ばし、細身の男はリリーとサイガを睨みつける。

 

「リリーさん、あいつヤバい!」

 

「わかってる。特に、あの右腕、あれからは嫌な感じしか感じられない!」

 

リリーとサイガは冷や汗を掻きながら細身の男の忌々しい雰囲気を漂わせる右腕を警戒する。

 

「俺はランダリーファミリー幹部の一人、マグラターゼ。ゴルドスさんに敵意を持つ愚か者は全員敵だ」

 

ゴォッ!とマグラターゼが右腕を前に差し出しただけで、リリーとサイガはゾッと背筋に冷たいモノが這いつくばった感覚を覚え、凄まじい勢いで後退してしまう。

その勢いで二人は壁に背中をぶつけてしまう。

 

「あ、あいつ!一体何を...!」

 

サイガは態勢を立て直してマグラターゼを睨みつける。

 

「俺は何もしていない。お前たちが勝手に俺の腕から避けただけだ」

 

「意味、わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」

 

「サイガ!」

 

サイガは短刀を構えてマグラターゼに突っ込む。

しかし、マグラターゼはサイガに右腕を向けると再びゾッとサイガは勢いよく後退してしまう。

 

(ち、近づけない!?)

 

サイガは自分の意思と反して無意識に後退してしまっていることに気がつく。

何故かはわからないが、あの右腕に近づきたくないという意思の方が近い気もした。

 

「この腕が恐ろしいか?忌々しいか?汚らわしい、だろうなァ!」

 

ダッ、とマグラターゼは助走を付けて走り出し、サイガに向けて右腕を振るった。

マグラターゼの拳はサイガの腹部に直撃し、サイガの体内から酸素が勢いよく吐き出される。

 

「い、あがぁぁぁぁぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「苦しいか?憎いか?悲しいか?触れるのすらも我慢ならんだろ?」

 

マグラターゼが言葉をかけるたびにサイガは涙を流し、次第に目は焦点が合わずに虚ろな状態になっていた。

 

「あ、ひぃ、あひ、が」

 

「消えろ」

 

マグラターゼが止めを刺そうと右腕を振りかぶると、リリーが脚の爪でマグラターゼの右腕を引っ掻いた。

 

「ほぅ、亜人か」

 

リリーはマグラターゼに目を合わされるとバサッと翼を大きく広げて空中へと逃げるように後退した。

 

「なるほど、同じ気持ちが少しでもあると腕の影響を受けにくいようだな。いいことを知れた」

 

「あんた、その腕、一体!?」

 

リリーは鬼気迫る表情で冷や汗を流しながらマグラターゼに尋ねる。

 

「.....生まれつきだ。生まれつき、俺の腕は呪われている。望まぬ体と共に生を授かった、それだけだ」

 

リリーの質問に応えたマグラターゼの表情はどこか悲しげだった。

 

「降りてこい、貴様とはサシで勝負を着けたい」

 

「........」

 

マグラターゼの言葉に従い、リリーはゆっくりと地上に着地した。

 

「あんたになら、俺の全てをぶつけられそうだ。俺の人生の苦を、俺の呪われた右腕と共に」

 

マグラターゼはリリーを睨みつけると右腕をギュッと握りしめた。

 




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