メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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26.それぞれの一時

「ゴルドス、アム...」

 

クロフはブロスに告げられた名前を復唱した。

イリアもどこか悲しげな表情を浮かべていた。

 

「そうだ、そいつこそが父を殺した張本人。我が最も憎むべき存在」

 

ブロスは幼い瞳に確かな復讐の意を宿し、拳を固く握り締めていた。

クロフもゴクリと固唾を飲み込む。

 

「ブ、ブロスさん」

 

緊迫した空気の中、クロフは汗を流しながらおずおずとした様子で一切笑いのない雰囲気を漂わせているブロスの表情を和らげる一言を発した。

 

「.....その、ゴルドスって男なんですが、渡された資料には一切情報が書いてなかったのですが」

 

「え、マジ!?」

 

まさに衝撃の一言だった。

 

一瞬の沈黙の後、ブロスはだらだらと汗を流しながら資料を再確認すると、たしかに載っていなかった。

ブロスは資料を叩きつけて思いっきり叫ぶ。

 

「馬鹿な!?」

 

「それ、こっちのセリフですぜ」

 

クロフはジト目でブロスに疑念の目線を向ける。

その様子にイリアは溜息を小さな吐く。

 

「いやいやいや、それはないはずだ!我の調査によるとゴルドスなる男はランダリーファミリーに既存している最高幹部の筈だ!資料も我の信頼する者に作らせたのだぞ!」

 

「調査?それはどのように」

 

「資料はブロス様がお作りになったのでは?」

 

狼狽しまくるブロスにクロフ、イリアの順で尋ねる。

すると、ブロスはふふん、と誇らしげにドヤ顔を浮かべながら言い放つ。

 

「両方ともお祖母様だ!間違いはあるまい!!」

 

「あの、ブロス様?南部の人間への聞き込みは...」

 

「ていうかあんた、その後確認とかは」

 

「必要あるまギャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?刺さってる刺さってる、イリアよ、何かが頭に刺さってるぞ、めっちゃ痛い!」

 

ブロスが何かを言い終える前にヒュン、と勢いよく何かがブロスの脳天を突き刺した。

 

「以前、きちんと間違いはないか確認しましたよな、このクソガキィ?お前の頭の中にちゃんと入ってるか確認するため解剖してやろうか、ゴラァ!?」

 

「ク、ククククロフよ!ひ、秘書が、我が秘書が横暴だ!痛い痛い!!」

 

イリアはどこからか取り出した針でブロスの頭をザクザクと何度も刺していた。

クロフの前で騒ぐ二人をジト目で見つめながら一つ大きな溜息を吐いた。

イリア・メルポーズ、ブロスお付きの優秀な秘書という話だったのだが、その本性は中々の過激な教育者だったらしい。

 

ていうか、そんなことはどうでもいい。

 

「じゃ、俺はとりあえず失礼させてもらうぜ。また何かあったら報告する」

 

「お、おぅ、そうか。では我はゲームの続きを」

 

「ブロス様ぁ?ゲームは一日十分と言いましたよね?」

 

「痛い痛い!耳を引っ張るな、ていうか前々から思っていたがゲームしていい時間短くない!?普通一時間とか三十分じゃないの!?全然先に進まないんだけど!」

 

「貴方様はイルバースの街の安泰と書類を済まさないといけませんのにそのような時間の余裕がおありで?なんなら仕事量を今までの倍にしてもいいのですよ?」

 

「ギャー!クロフー!助けてくれー!」

 

ブロスは必死にクロフに助けを求めるが、既にクロフは館を後にしていた。

この後、ブロスはイリアの手によって(強制)眠りに誘われた。

 

 

 

館を後にしたクロフは北部の中でも大きい方に部類される病院にやって来た。

ノグ大陸の進んだ医療技術を取り入れ、僅かに残った治療魔法の文献を活用して医師を育てているこの病院は大陸の中でも医療技術が進んでいる方である。

 

本来なら面会時間も過ぎているのだが、特例で認められた。

音のない病院内の廊下を歩き目的の部屋を目指す。

 

そして、602とプレートの下げられた扉の前に辿り着き、ノックもせずに扉をガラッとスライドさせる。

 

「よぉ、パック。元気か?」

 

「い、いきなり入ってこないでよ!夜食が喉に詰まっちゃうでしょうが!」

 

ポッチャリと脂肪のついた体を横にしながらガツガツとパンらしき物を頬張っている男、パックは夜の病院内であるにも関わらず叫ぶ。

クロフはやれやれ、といった様子で肩を竦めて苦笑いを浮かべる。

 

「明後日には退院できるんだってな?」

 

「えぇ、一応そういう予定の筈です」

 

「もう傷は癒えてるのか?」

 

「随分と、しかしあの亜人の女にはやりたい放題してくれたからな、次会ったらタダじゃおかねぇ!」

 

ギリィ、とパックは怒りの表情を露わにして力強く歯に力を込める。

 

「パック、お前は昔から亜人や魔族の者たちを挑発する傾向がある。また何かやったんじゃないのか?」

 

「何もしてませんよ、亜人如きが人間様に盾突いたことを思い知らせてやっただけです」

 

「.....返り討ちに遭ってる上にお前が悪い、ついでにその考え方も改善しておけ」

 

クロフは溜息を吐いて、テーブルに持ってきた紙袋を置いて立ち上がる。

 

「もう行くのか?」

 

「あまり長居するのも悪いし、ジンも行方不明なんでな」

 

「え、あのキザ野郎が行方不明?どうせその辺で女口説いてんでしょ?」

 

「.....だといいがな」

 

クロフはパックの言葉に応えて立ち去った。

 

 

 

その頃、ランダリーファミリーのアジトでは未だに宴会が続いていた。

ハルクとヨルダンも混じり、メイド服を着てでろんでろんに酔っ払ったリリーに驚きながらも何やかんやで盛り上がっている。

 

「今日は飲むぞコラァ!誰でもいいから掛かってこーい!」

 

ハルクが上半身を脱ぎ捨てて、ダン!と机に足を乗せグラスを掲げる。

ランダリーファミリーの面々たちがその様子に大笑いを浮かべながら音頭を取り始めると、何故かハルクは奇妙な踊りを踊り始めた。

 

「ありゃ相当酔ってるな」

 

「ハルク兄、楽しむ時は楽しむ人だからね」

 

その様子を遠目で眺めるライムとイム。

ちなみにイムはまだメイド服を着たままである、直ぐに脱ごうとミスティから逃げつつ部屋に向かったのだが、脱ぎ方がわからない上に元着ていた服が消えていたため仕方なくそのまま参加している。

ちなみにそのミスティは現在ハルクと同様上着を脱ぎ捨てて、下着姿になって男達の目を奪っていた。

近くにいたヨルダンも同じように目を奪われている。

 

「うっっっっっっひょー!やっぱミスティ、ナイスバディ、サイコー!俺の目に狂いはなかったぜ!」

 

うぉぉぉぉぉ!と一人ハイテンションに盛り上がっているヨルダンの襟を掴み、ぐいっと力強く引っ張る者がいた。

 

「よるふぁんすぁん、はぁ、ぼふのひゃひしゅぶぁりーをみへりゃーいーんでぃぇーすよー!」

 

「うぉ、リリー!絡むな、そしてそれ以上酒を飲むな!服を脱ごうとするんじゃねぇ!!」

 

リリーはえへへへ、と幸せそうな表情を浮かべながら引っ張り倒したヨルダンにしがみつく。

ヨルダンはそんなリリーを心底鬱陶しそうに引き剥がそうとする。

 

「ていうかリリーに酒飲ましたの誰だ!!出てこい!」

 

ヨルダンの叫びである三人がビクッと反応したのは気のせいだろう。

 

「くそ、こいつまだ未成年だってのにこんなにべろんべろんになりやがッッ!!?」

 

「ほらほら、のめのめよるふぁんすぁん、えへへ」

 

リリーは近くにあった酒瓶をヨルダンの口に無理矢理押し込んだ。

半ば強制的に酒を飲まされる態勢になってしまった。

 

「.....あっちも相当酔ってるな」

 

「ていうかライムさんって酒飲んでるけど何歳なの?」

 

「15」

 

「未成年じゃん!」

 

ライムがグラスに注いだ酒を飲み続けようとすると、イムに没収されてしまう。

 

「いいんだよ、昔から飲んでるから」

 

「よくないよ!リリー姉より年下なのにそんなに飲んじゃって!明日体調崩しても知らないよ!」

 

「大丈夫だ、俺には治療魔法がある。アルコールに含まれてる毒素をアルコールごと打ち消してるから酔うことはないから」

 

「何それ、凄い」

 

「こういう社交辞令の必要な場でしか使わないけどな」

 

ライムはそう言いながら新たなグラスを手に取り、酒を注いだ。

 

楽しい一時はまだまだ続く。

 




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