メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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23.ライム VS ロブ

「と、父さん!?」

 

ざわわっ!と場の雰囲気はざわめき始め、ライム自身も困惑していた。

この場で一番冷静で静かなのは、ライムに声をかけたロブ一人だけだった。

 

「そのままの意味だ、本物かはわからんがゲルさんが関わっている以上弱者が生き残れる術はない。儂がお前の実力を直に判断してやる」

 

「待ってくれおやっさん、そいつは治療魔術師で戦闘はできない!だが、腕は」

 

「ハルク、儂が言ってるのはそういうことじゃねぇんだよ」

 

ロブがハルクを圧するように睨みつける。

ピリピリとした殺気がハルクを襲い緊張感は更に増した。

 

「こいつが治療魔術師なのはわかった。だが、それだけじゃ生き残れるはずないんだ。特にメデルの生き残りなら尚更な、そうだろ?」

 

ロブが立ち上がり、ライムに問いかける。

後ろに座るミスティは既にいつでも動ける態勢をしていた。

何か勘に触ったわけでもなさそうだ、ライムはそう判断して静かに応える。

 

「たしかに、身を守るための技術はありますが、大したものではありません」

 

「それでもいい。お前が協力者に相応しいか見極めてやる」

 

「.....ミスティはいいんですか?戦闘に関しては彼女の方が俺よりも上手ですよ」

 

「そいつはヨルダンと互角にやり合ったんだろ?なら、それだけで十分だ」

 

ロブは溜め息混じりに応えた、ミスティはいつの間にか双方に並ぶランダリーファミリーの列の中に紛れ込んでいた。

 

ここは素直に従うべきなのか、ライムの中で葛藤が生まれていた。

ランダリーファミリーと名乗る偽物を倒すためには、なるべく強者は多い方がいい。

ここで潰し合いはしたくないのが本音である。

 

「一つ、条件良いですか?」

 

「なんだ?」

 

ロブは忌々しげに問う、機嫌を損ねてしまったかもしれないが、これはライムにとっても重要なことである。

ライムはギュッと拳を握りしめて言葉を繋いだ。

 

「戦いが終わったら、俺の知りたいことを教えてください。知っていなければ別に構いません」

 

「知りたいこと?」

 

「二年前、メデルを襲撃した炎の魔術師についてです」

 

ライムは力強い瞳でロブを見上げた。

そう、ライムがこの街にやって来た本来の目的は炎の魔術師の情報を手に入れること。

もし、この街にいるならば今すぐにでも彼なら飛んで行くだろう。

 

「.....心当たりはある」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、だが、教えるのはランダリーファミリーを名乗る馬鹿どもを静粛してからでいいんだな?」

 

ロブが拳を握りしめ、傍に置いてある模擬刀を二本手に取る。

 

「安心しろ、こいつは木製だ。別に命まで取ろうってわけじゃないんだ」

 

ロブはゆっくりと部屋の中心に移動する。

ライムもそれに応えるように立ち上がり、拳を握りしめて全身に魔力を流すように纏う。

 

「えぇ、構いませんよ。元から簡単に教えてもらえるなんて思ってすらなかったですから」

 

ライムの言葉を聞いて安心したのか、ロブはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「テメェら、こいつは前夜戦だ!だが一対一でやる漢と漢の決闘だ、見学は不要だ、各自本戦に備えろォ!」

 

ロブが模擬刀の先を地面に叩きつけて、声を張り上げる。

頭領であるロブの号令を聞いた部屋の全団員、約50名は「応ッ!」と気合いの入った叫びを上げて部屋からスタスタと出て行く。

団員が入り混じっている中、ハルクとすれ違った。

 

「悪りぃな、おやっさんは自分の目で確かめないと気が済まない人なんだ」

 

ハルクは静かに謝罪した。

 

「構わないさ、俺も足手まといにはなりたくないからな」

 

「ライム.....」

 

「いいから早く行けよ、負ける気はないから!」

 

ライムの言葉にハルクは苦笑いを浮かべてその場を後にする。

ハルクが去った後には部屋の団員もイムもミスティもレッドも全員が部屋から退散した。

 

風の音もない部屋の中心には二人の漢が向かい合っていた。

 

「おぉ!」

 

先に動いたのはライムだった。

かつて父の知り合いだった格闘家の指南を受けていた頃から多くの実戦で独自に技術を磨いてきた。

相手は魔物の場合が殆どで対人戦は経験が豊富とは言えないが、それでも言い訳にするわけにはいかない。

 

ライムの勢いよく放たれた右ストレートはロブの溝に迫る。

ロブはそれをひらりと回避し、カウンターとして左の模擬刀を振るうがライムは魔力でコーティングされた腕で受け止める。

 

治療魔術師は魔力の絶対量が他の魔術師に比べて多い、その性質を利用した戦闘方法である。

腕は魔力により岩のように硬くなり、衝撃はややあるものの致命傷には至らなかった。

バキバキバキバキ!と何の変哲も無い木製の模擬刀には亀裂が走る。

 

「.....お前みたいな治療魔術師もいるのだな」

 

「あんたの言った通り、治療魔術師ってだけで狙われることもあったからな、ッ!!」

 

ライムは足に纏わせた魔力をバネ代わりに使い、通常よりも早い速度でロブに接近する。

 

ロブはそれを二本の模擬刀で迎え撃つ態勢を取る。

拳が放たれれば、受け止めるのではなく受け流し突きによる一撃を放った。

勢いよく放たれた突きはライムの体を捉えて、突き飛ばす。

今度は先ほどとは違い模擬刀は無傷だった。

 

「儂も少し、本気を出させてもらったぞ」

 

「ケホッ、ケホッ!さすが、ランダリーファミリーの頭領ですね」

 

「フン、まだまだ若造に負ける気はないわ」

 

ロブは模擬刀をその場に静かに置いた。

 

「.....もう終わりですか?」

 

「あぁ、実力は判ったし、いい運動になった」

 

「まさか、俺の実力をたしかめるっていうのは建前ですか?」

 

「そのまさかだ」

 

こうして、決着は着かなかったがライムとロブの一騎打ちは終わりを告げた。

 

「お前とは一度本気でやってみたいの」

 

「勘弁してくださいよ、俺は治療魔術師ですから」

 

軽口を叩き合い、二人は握手を交わした。

 

 

 

その日の夜、何故かランダリーファミリーで宴会が行われた。

決戦前の前夜祭らしい、もちろん主催者はロブだ。

 

「オラオラオラ!どんどん食うぞ!」

 

「おーい、こっち酒足りないぞ!」

 

「テメ、それ俺の肉!」

 

「早い者勝ちだよ、バーカ!」

 

一時間もすれば、どんちゃん騒ぎもいいことに皆が皆本音をぶつけ合うようになった。

普段は聞けない上司への愚痴とか愚痴とか愚痴とか。

 

ミスティも馴染んでおり、あちこちから口説かれている姿が確認できた。

 

「ライム、さん」

 

ライムが一人で静かに食事をしていると、イムがやって来た。

しかし、彼の服装は普段着ている少年らしい服ではなく、頭の上に可愛らしいブリムをちょこんと乗せ、フリルが多く装飾された白と黒を基調としたミニスカートのメイド服だった。

いや、似合ってはいるのだがライムは思わず吹いてしまった。

 

「ちょ、笑うことないだろ!」

 

「おま、まさかロブさんにやられたのか?」

 

「違うよ、今回は」

 

今回ということは毎回やられているのか、とライムは呆れてしまった。

イムがもじもじしていると、イムの背後からひょこっと同じく長袖のメイド服を着た水色の髪をした少女が現れた。

 

「僕でーす、今回は!」

 

「えっと、たしかヨルダンといつも一緒にいる」

 

「リリーって言います!ヨルダンさんに色目使う輩は片っ端から潰していくスタンスなのでよろしく!」

 

「怖いわ!?」

 

思わず叫んでしまった、見た目は結構可愛いのだが性格が残念そうだった。

 

「ほらほら若様!早く頭領の所に行って「おかえりなさいませ、お父様☆」的なこと言いましょうよ、ていうか言え」

 

「もうそれほぼ脅迫じゃん!ていうか嫌だよ、リリー姉こそヨルダン兄のとこに行ってやってきなよ!」

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

「マジで行きやがった!」

 

俊足のごとく、その場を後にしたリリーはヨルダンの名を大声で叫びながら探していた。

リリーが退場したことにより、ライムとイムの間に奇妙な沈黙が流れた。

 

「.....なんだ、その、似合ってるぞ」

 

「.....いくらなんでもそれはないよ、ライムさん」

 

イムの言葉にライムは思い出したようにハッとしてイムに話しかけた。

 

「ていうかイム、お前俺の名前呼んでくれたよな」

 

「そう、かな?でもこれから一緒に戦う仲だからね」

 

イムはフッと笑みを浮かべる。

イムの笑みは照れ隠しであり、本音を言えばライムの背中に憧れを抱き始めていたのだ。

火災の時、一人飛び込んで二人を助けた時から。

そして、今日ロブと一騎打ちをして笑い合っていた姿を見てその憧れは確信に変わった。

 

「.....とりあえず着替えてきた方がいいんじゃないか?ミスティがこっちを獣のような目で見てるぞ」

 

イムはサーッと顔を青ざめさせたのと同時に頬を真っ赤に染めて、こちらに全速力でやって来るミスティから涙目で逃げるように去って行った。




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