メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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22.再びアジトへ

「おい!俺っちを離せ!今すぐ解放しろ、ていうかせめて封魔の印を消せ!おい、お前ら、話を聞け!」

 

「.....こいつ、うるさいから捨ててもいいか?」

 

煙草を吸いながら片手で拘束されたジンを持ち上げながら、ハルクは呆れたように呟く。

というか本音である。

 

「気持ちはわかるが、そいつは昨日アジトに攻めてきた奴の内の一人だ。情報を手に入れるまでは不本意だが俺たちの手元に置いておかないとな」

 

「不本意なら今すぐ解放しろ!クロちゃんに言ってやるからな、クロちゃん呼ぶからな!」

 

「でも、本当にアジトに行ってもいいのか?」

 

ライムは先頭を歩くハルクとヨルダンに尋ねる。

現在、ライム達はハルクの提案でランダリーファミリーのアジトに正式な形で案内されている。

最初はヨルダンもかなり渋っていた様子だったが、イムの一声もあり渋々承諾していた。

ミスティは元から行く気満々だったようで先ほどから笑顔の練習をしていた。

 

振り返ったヨルダンがライムの問いに応える。

 

「若が決めたことだ。俺としては反対なんだが、坊主には傷を治してもらった恩もあるからな、これでチャラってやつだ」

 

「別に俺は見返りが欲しくてあんたを治したわけじゃないけどな」

 

「それでも感謝はしている。ボインの姉ちゃんに関しては相当の実力者だから俺の目に届くところに居てくれてある意味助かってるしな」

 

ヨルダンはニッと笑みを浮かべてライムの頭をワシャワシャと掻き分ける。

相変わらずサングラスをしているため表情は読みづらいが、敵意がないことはたしかだった。

 

「で、あの姉ちゃんの好みとかってわかる?」

 

「.....なんだよ、その質問」

 

「いいじゃねぇかよ、一緒に旅してる仲なんだろ?ちょろっと教えてくれたって損することないって」

 

フレンドリーに肩を組み始めたと思ったら、どうやら彼はミスティの体が目当てだったようだ。

先ほどの「目の届く所にいる」という発言もおそらく、下衆な下心を働かせたのだろう。

 

「知らないよ、興味ないし」

 

「んなこと言っちゃって、本当は知ってるんじゃないの?実はサイズもきっちりと把握してるんじゃねぇのか?んん?」

 

ヨルダンは止まることなくニヤニヤと笑みを浮かべながら、マシンガンのように質問してくる、全てミスティの肉体関連のことで。

何やらとんでもない奴を助けてしまった、ライムは心底ヨルダンを治療したことに後悔した瞬間だった。

 

 

 

「ハッ!ヨルダンさんが僕以上のナイスバディな女の体に興味を示している.....!気がする。もっと、もっと食べないと!」

 

アジトでムシャムシャ、シャリシャリとキャベツを頬張っている恋する少女、リリーは何やら得体の知らない電波を受信していた。

 

 

 

ライムがヨルダンに絡まれている頃、後方ではミスティとイム、レッドが会話をしていた。

 

「そういえばイム、お前の親父さんってどんな人なんだ?」

 

「普通の人だよ、何年もランダリーファミリーを支えていることだけは凄いって認めれるけど」

 

イムは頭を抑えながらハァと溜息をつく。

 

「実の息子のことを男の娘とか言うし、母さんには愛想をつかれて出ていかれるし、仕事とか戦闘以外のことをしている時は目が死んでるし、僕に何度も、何度も何度もフリフリの服を着せようとしてくるし!」

 

「お、落ち着け」

 

何やら踏み込んではいけない領域に行ってしまったようで、イムの勢いにレッドも心の底から罪悪感を感じてしまった。

ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁーと荒い息を吐くイムに更なる追い討ちがかけられる。

 

「でも、お父さんの気持ちもわからなくないかな。私もイム君と会った時最初女の子かな?って思ったし」

 

「ミスティ!?」

 

「頼むからやめてくれ!」

 

笑顔を向けられたイムは全力で否定した。

ちなみにミスティに悪気があるわけではない、本心で言っているので尚更タチが悪い。

 

「イム君、今度服屋に行かない?私と一緒に」

 

「ちょっと待って!何でそういう話になってるの!?僕の話聞いてなかったの!?」

 

「大丈夫よ、全部奢るから」

 

「そういう意味でもない!」

 

どうやら相当嫌なようで否定の仕方が尋常ではなかった。

まぁ、これが普通の反応なのだが、女性であるミスティは着せ替え人形を見るかのような下心のない澄んだ目でイムを見ていた。

 

そんな様子を見てレッドは溜息を吐くことしかできなかった。

 

しばらく歩くと、ランダリーファミリーのアジトの入り口でもある大門の前にまでやって来ていた。

太陽は真上にまで上がっており、昼時であることを示していた。

 

「着いたぞ、ここだ」

 

「と言っても、一回来てるけどな」

 

「俺は初めてだ」

 

「あんたは無事だったもんね」

 

ミスティの圧のある一言でレッドは俯いて黙ってしまう。

ライムは改めてアジトの大きさに圧巻されていた。

 

「うぉー!ちくしょー!助けてクロちゃん、俺っちは敵陣に捕虜として連れてこられてる!」

 

「ミスティちゃん、こいつの口も塞いでもらっていいか?」

 

ハルクは抱えているジンの騒がしさに限界が訪れたようで、ミスティに彼の口に口枷を付けるように要求する。

 

「んじゃ、俺は頭を呼んでくるから、しばらくここで」

 

「ヨーーーーーーーーーーーーーーーーーールーーーーーーーーーーーーーーーーーーーダーーーーーーーーーーーーーー、へぶ!?」

 

「客人の前で飛び込んでくるんじゃねぇよ!」

 

アジトの中から何やら少女が飛来してきたため、ヨルダンは片手で顔を鷲掴みにして受け止める。

心なしか、少女の顔がミシミシと音を立てている気がする。

 

「ちょ、ヨルダンさん?これシャレになりませんよ、僕の顔聞こえちゃいけない音鳴ってますよー!?」

 

「どうでもいい、それより頭呼んでこい。話をしたい」

 

「ま、まずは手離してください」

 

ヨルダンがリリーを解放すると一つ溜息を吐いて、その場に座り込む。

 

「いいのかい?君が必死に守ろうとしていた女性なんだろ?」

 

隣で無様な格好で転がされたジンがヨルダンに話しかける。

どうやらさっきのやり取りを見られたようだ。

 

「いいんだよ、いつも通りだからな」

 

「君はそれでいいのかもしれないが、彼女の気持ちも考えてあげた方がいいんじゃないかい?」

 

「.....余計なお世話だよ、敵に説教される筋合いはねぇ」

 

「関係ない。俺っちはただ、あの女性のことが放っておけないだけだ。彼女のような者は数多く見てきたからね」

 

ジンは格好こそ情けないが、言っていることに筋は通っていた。

ヨルダンはサングラスをかけ直してゆっくりと立ち上がる。

 

「いいんだよ、これで。世の中には俺よりもイイ男が腐るほどいるからな」

 

ジンに背を向けて言ったヨルダンの一言はどこか哀愁漂い、悲しそうに見えた。

 

 

 

ランダリーファミリーのアジトに正式に案内されたライム達は頭領である、ロブと向かい合って座る形になっていた。

ハルク達やランダリーファミリーのメンバーは両端に静かに座ってライム達を見守るような姿勢だった。

 

「なるほどな、それでイムと一緒にいたわけか」

 

「えぇ、こちらとしては誘拐なんて気は毛頭ございませんでしたので」

 

ライムは最低限の礼儀を守った上で言葉を慎重に選んでいた。

機嫌を損ねてしまえばこの場にいる全員を敵に回すような最悪の事態になりかねないからだ。

 

「そこはいい、息娘、いや、息子をここまで送り届けていただき感謝する」

 

「い、いえ」

 

何やらイントネーションが違った気がするが、気にしてはいけないだろう。

ロブの隣に座るイムは眉をわずかにピクリと動かしていたが。

 

「それで?儂ら以外にもランダリーファミリーを名乗る不届きな輩がこの街にいると?」

 

「えぇ、実は街に着いてハルク達と出会ってから少し違和感を感じていました。街に来る前にも、ある人からランダリーファミリーには気をつけろ、と言われていたのですが彼らと出会ってもそこまで気をつけるほどの極悪人には感じられませんでした。そこでハルクに確認を入れたところ、やはり知らないと」

 

「なるほど、な」

 

「俺はその一派の幹部格の一人と会ったぜ」

 

ハルクが煙草を吸いながら挙手して発言した。

 

「どんな奴だ?」

 

「ゲルマックっと名乗った全身甲冑野郎だった」

 

「ゲルマック、だと!?」

 

名前を聞いた瞬間、ロブの顔は青ざめ、目を大きく見開いた。

 

「それは確かなのか?」

 

「間違いねぇ、でも、たしかそいつ随分前に死んだんだよな?」

 

「.....そういうことか」

 

ロブは一人、合点が言った様子で頷いた。

 

「お前、ライムだったか?どのくらい戦える?」

 

「俺ですか?俺は治療魔法が専門なので戦いは」

 

「儂と一戦して、実力を見せてみろ」

 

「.....ハイ?」

 

ライムの言葉を遮り、ロブは静かに告げた。

 




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