メデル・プルーフ   作:Cr.M=かにかま

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17.雷迅

 

静かな朝の噴水前で、二人の人物が睨み合っていた。

東方は右手に銀色の杖を持ち、露出の多い黒い服を着ている紫髪の少女。

西方は拳をパキパキと鳴らしながらサングラスの奥の瞳を光らせたスーツと茶髪の男。

 

まさに一触即発の状態、ピリピリとした空気が辺りを支配する。

西方の男、ヨルダンがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「いくらボインの姉ちゃんであってもよ、若を拉致るような奴には容赦するつもりはねェ!!」

 

「あら、私は迷子になっていたあの子をこの街まで送っただけよ?」

 

東方の少女、ミスティはフッと微笑みながら髪を靡かせる。

 

「そいつは、ご丁寧な冗談ご苦労様ってことで!」

 

ヨルダンが足に力を込めた瞬間、ギュン、とヨルダンはその場から音を残して姿を消し去った。

彼のいた場所には焦げた跡のような黒いモノが地面に残っていた。

 

(彼はハルク君と同じ側のランダリーファミリー、本来なら戦うべき相手じゃないんだけど仕方ないわね!)

 

ミスティは杖を構えてヨルダンの居場所を探る。

 

ギィィィィィィィン...

 

精神と感覚を研ぎ澄ましてヨルダンの正確な位置を探る。

 

「そこ!」

 

ミスティが杖を下から上に振り上げると、大地が割れ光沢を帯びた巨大な拳のオブジェが天を撃ち抜いた。

ヨルダンはあまりの規模の広さに拳による攻撃をモロに喰らってしまう。

 

「ガハッ!」

 

「まだまだ!」

 

ミスティが杖を横薙ぎに払うと、拳のオブジェの中腹部分から、大量の球がヨルダンを襲う。

 

「チィ!」

 

ヨルダンはそれを一つ一つ、丁寧に躱す。

時には球を足場に利用して自身の速度を更に上昇させる。

 

「お前、魔術師だったのか!」

 

「そういう貴方もね!」

 

ミスティの飛ばした球は辺りの民家に直撃してしまい、大きな被害をもたらしてしまっている。

だが、今の二人はそんなことを気にすることなく互いにぶつかり合っている。

 

ヨルダンはそのまま、民家すらも足場に利用し拳に魔力を集中させ、ミスティの出現させた拳のオブジェに殴りつける。

 

「おぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ヨルダンの拳はオブジェを真っ二つに破壊し、オブジェは音を立ててガラガラと崩れ始める。

 

オブジェの破片がバラバラと上から落下してくる。

ヨルダンはその場にゆっくりと着地する。

 

「俺の魔法は雷迅。雷の魔力を身に纏わせることで速度を上昇させることができる!」

 

「解説どうも、教えてくれてありがとうね」

 

ヨルダンは笑いながら説明した。

だが、ミスティとしては好都合だった、敵が自分から自分の能力を懇切丁寧に解説してくれたお陰で今後の戦闘で対策を取りやすい。

 

「さぁ、次はテメェの番だ!テメェの魔法は一体何なんだ!?中々面白い魔法のようだが!」

 

ヨルダンはミスティをビシッと指差して叫んだ。

 

「え、何で言わないといけないの?」

 

「え?だって俺言ったし、お前が言わないと不公平だし」

 

「貴方が勝手に喋っただけじゃない。別に話さないといけないルールがあるわけでもないし」

 

「...........。」

 

........................................。

 

場に何やら気不味い空気が漂う。

もちろん、ミスティはその隙を見逃すはずもなかった。

 

「えい!」

 

「うぉ!?危ねェ!」

 

ヨルダンに接近し、拳(物理)で攻撃するも、間一髪のところで回避されてしまった。

しかし、ミスティの拳は壁に直撃し、壁は粉砕した。

 

「.....お前本当に魔術師なのか?」

 

「貴方もできるでしょ?ていうか魔法は物理じゃないってルールはないわよ」

 

「いや、そういうことじゃないんだけどね」

 

ヨルダンは冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべた。

 

(敵でよかったー)

 

でなければ、巨乳だという理由でナンパしていたかもしれない。

もし彼女に何らかの間違いがあって殴られたりしたら、生きていける自信がなかった。

 

 

 

その頃、ランダリーファミリーのアジトでは恋する少女リリーが何かを察知したように目をカッと見開いた。

 

「ヨルダンさんが、僕以外の女とイチャイチャしている気がする.....!」

 

わなわなと震えながら戦慄していた。

この場にいない想い人の手作り等身大人形を抱きかかえながら。

 

女の勘とは恐ろしいものである。

 

 

 

(うぉ、何か寒気が!?)

 

ヨルダンはミスティの素手の威力以外に何か感じたのか、背筋がゾクゾクとしていた。

 

「し、仕切り直しだ!」

 

「何を?」

 

突如、意味不明なことを言ったヨルダンに対して疑問を抱きながらも杖を構え直した。

ヨルダンはボクシングスタイルを基とした構えで態勢を整える。

 

「レッド」

 

「何だ?」

 

ヨルダンがミスティには何かと見えない一人戦っている間に戦闘中もずっと肩にいたレッドに小声で話しかける。

 

「ライム君たちのところに行って、私は何とか彼を説得してみる」

 

「それは構わないが、俺が行く意味は?」

 

「ライム君と一緒にいるハルク君たちを連れてきてほしいの、もし今後のことを考えるなら彼とは戦わない方がいい」

 

そう、ミスティ達の敵はランダリーファミリーの名を偽っている何者かである。

ヨルダンも本来ならこちら側なのだが、彼は一切事情を知らない。

 

レッドはミスティの考えを理解して頷いた。

 

「わかった。無茶はするなよ」

 

「誰に物言ってるのよ」

 

ミスティとレッドはクスリと笑い合う。

レッドはミスティの肩から飛び立った。

ミスティは目の前でシャドーボクシングをしているヨルダンに声をかける。

 

「そろそろいいかしら?」

 

「お、おぉ!上等だ!俺に誘惑とかそんなのは効かないからな!」

 

意味不明なことを口走りながらミスティの胸をビシッと指差すヨルダンに冷ややかな視線を送る。

 

「そ、そんな目で俺を見るんじゃない!惨めになるじゃねぇか!」

 

「.....変態」

 

「チクショーが!」

 

ヨルダンは魔力を体に纏わせてミスティに接近する。

拳を握りしめて雷の如くスピードでミスティの身体を狙う。

ミスティは拳の来る場所を予測して杖を盾にする。

 

しかし、その拳は何者かによって阻まれてしまった。

 

「全く、女性に手を出すなど、最悪だろ」

 

ミスティとヨルダンは間に突如現れた男を警戒し、バッとバックステップで距離を取った。

 

シルクハットを被り、長い金髪を靡かせた男はミスティの方を見てニッコリと笑みを浮かべた。

 

「これはこれは麗しきレディだ。どうです?この後食事にでも」

 

「え、っと?誰??」

 

ミスティの質問に男はハッとして自己紹介を始めた。

 

「これは失敬、俺っちはジン・マルターブ。バーカイフってチームの一人で今街にはある仕事で来てるんだよね〜」

 

「ちょっと待てや、乱入者!!」

 

ジンが現れてから放置されていたヨルダンが痺れを切らして叫び始める。

 

「そいつは俺の獲物だ。横取りしてんじゃねぇよ!」

 

「何を言っている。世の女性は全て俺っちに色目を使えばいいんだ」

 

「いや、何言ってんだ?お前」

 

「まぁ、いい。さっきから君の行為は見させてもらったが、女性の扱いが全くなってないな」

 

「見てたのかよ」

 

「あの辺からこっそりとね」

 

「ストーカーかよ!」

 

ジンが指差した場所はここよりも更に暗い路地裏だった。

 

「だから、さぁ」

 

ジンがパチン!と指を鳴らすとヨルダンは腹部に違和感を感じた。

スーツの上から刃物が突き刺されており、腹から背中にまで貫通していた。

ミスティは目の前から急に消えたジンを信じられないモノを見たかのような目で見ていた。

 

「ガハッ!?」

 

「君には女性をエスコートする資格はないよ、ランダリーファミリーの幹部さん」

 




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