時間を掛けてしまい申し訳ありませんでした。
今回はあの方が出てきますが、今作では余り戦闘で活躍しません。
これはあくまでポニーテールへの物語、ツインテールの増加が一概に祐一への影響となる訳ではないのです。
「セイクリッドストーム!!」
「がっ____だが、童話の如き白兎を見れた以上、我が生涯に一片の悔いなし!……でもツイ___」
音速超過した光を纏う刃の嵐に、ラビリギルディは些か情けない言葉を共にして爆散する。
____だが、
「可愛いーー!ね、ね、一緒に写真撮らせて!」
「うへへへへへ、俺を蹴って下さい!」
「ちょ、やめ……」
わらわらと集まってきた観衆に矢鱈めったら触られたり希望されたりしてしまった。
これじゃあ、レッドの援護に向かえない。あの黒子達みたいに吹き飛ばす訳にもいかないし……。
集まってくる彼ら、その中でも
「綺麗だったよ……私と姉妹の契りを結ばないかい?大丈夫だよ痛くしないから」
「ひゃっ!?な、仲間が!レッドがピンチなんです!今は退いてーー!」
耳元にかかる生暖かさに変な声を上げ、しどろもどろになりながらもそこまで言うと、周囲の態度が大幅に変わっていった。ざわめく彼らの感情は混ぜこぜになり過ぎて表情からは読めないが、みんなはあっさりと道を開けてくれる。
「さ、早く行きなさい。相棒のピンチなんだろう?」
「あ……は、はい!」
さっきまで俺の耳元で囁いていた陽月学園の女生徒の言葉もあり、俺は一直線に空を駆ける。
………間に合え、観束のツインテールが奪われる前に!
◆◆◆◆◆◆
連絡の取れなくなったトゥアールの示した行く先に辿り着くと、その先では意外な人物が空を仰いでいた。
青を基調としたプロテクターに、どこか無理矢理着たような気がして否めない、胸の大きく開いたスーツ。
そして、若干の紺が混じった水色の
見たことのない姿だ____だが、間違えるはず無い。このツインテールは、観束に向けた愛とも恋とも取れない強烈な想いと魅力を持つツインテールは、津辺愛香。彼女しかあり得ない。
「あ、ゆう____ホワイト。遅かったわね、これからあたしも"テイルブルー"として、参戦するわ。宜しくね」
「………うん、よろしく」
溌剌とした笑顔で言ってのけるブルーに、俺は少し気圧されながらも微笑みを浮かべる。
何か、感慨深いものがあるな。まだ三日しか経ってないけど、彼女は頼もしい味方になってくれるだろう。
そうこうしていると、ブルーの瞳の中で人影のようなものが動いた。振り返ってみると、報道関係に身を置いているだろう人々が声を上げて駆け寄ってくる。
やばい、揉みくちゃになる……と身構えた俺とレッドの前にブルーは気負う事なく乗り出し、カメラを構える報道陣を前に三本指ピースを向けて微笑んだ。
「あたしも今日から参戦しま〜っす。三人揃って『ツインテイルズ』って事で、よろしくねっ!」
「お…私はポニーテールなんだけど」
細かい事気にしないっ!とブルーは笑い、そのままレッドを抱えて空中へ跳躍する。
俺もそれに続くように、記者達へお辞儀をしてから空を駆け上がった。
するとブルーは待ち構えたかのように手甲から属性玉を取り出すと、スライド展開した手甲の窪みにセットする。恐らく、これが
属性玉____
恐らくブルーが倒したエレメリアンの力を発揮したのだろう、テイルギアのリボンが変形し、ブレードのような翼が現れた。……リボン要素少なくね?
首を捻っていると、ツインテールの二人が何やら神妙な空気になったのを感じ取る。
仕方がないので、宙を蹴っていた俺は少しだけ距離を取った。
幼馴染の二人だ、弱い所を見せ合える仲での会話を、デバガメする気にはなれない。
すると一足先に通信が回復したトゥアール(何故か掠れた声)からの復帰連絡が訪れる。
キツそうな所申し訳ないが、彼女に転送してもらい、俺はその場を後にした。
「お疲れートゥアール。でも、結局何だったんだ?あの通信障害。基地には異常なさそうだけど」
「き、気をつけて下さい。私は……あの蛮族の恫喝に屈し、最悪の兵器を、渡してしまいました。このままでは、総二様の……童貞がぁ……っ!」
「何言い出してんだお前は、蛮族とか兵器とか……津辺か」
何故か考慮の間も無く浮かんできた、ある少女のツインテールを思い出して、俺も唐突に身震いする。
あいつ…ツインテールは良いのに……。
産まれたての子鹿よりもやばそうな瀕死状態のトゥアールを担ぎ上げて、基地の椅子に収めてやる。
そして良い加減にボケを辞めさせようとした俺は、丁度良い位置にあった彼女の頭をぺしりと叩いた。
「ほら、ヒポポタマスギルディとラビリギルディの属性玉。お前から二人に渡しておいてくれ、俺はポニーテールへの愛があれば幾らでも強くなれるから、無用の長物だしな」
「ボケじゃなくて本当にダメージあったんですが……。でも、そこなんですよねえ」
「?何がだよ」
昨日のように帰ろうと踵を返した時、漏れたかのように呟いたトゥアールの声に、思わず振り向いた。
何故かは分からない。が、俺はそれを黙って聞かなければならないような気がした。
そんな事は露知らず、鈴の音のように口から言葉を溢す彼女は、何食わぬ顔でぴんと指を立てた。
「ポニーテールへの愛情で幾らでも強くなれる、という点ですよ。……ときに祐一さん」
「どうした、変身か?」
「はい、一つ約束を果たして貰おうかと」
そこまで言った所で、転送ポートから観束と津辺が現れ____そのままトゥアールの顔面が地に埋まった。
「うぉおおおおおおおおおい!!な、何してんの?何してんの津辺!?」
「何か微妙に不穏な気配がしたから
「お前は俺のお母さんか!つうか
椅子の肘掛けを起点に見事なU字を描くトゥアールの体を全力で引っ張りながら突っ込みを入れる。
何故か後ろで疲れ気味だった観束も、流石に津辺の蛮行に驚いたようで問いただしていた。………抜けねぇ!
「っぐぐぐ……どんな威力で、殴ってんだ……っあ」
「ぶはっ!なな、何てことするんですか愛香さん!私は祐一さんと約束した定期検診を済ませようとしただけですのに!」
「あぁ、そういえば言ってたなトゥアール」
「うぐっ……」
得心がいったようにぽん、と手をつく観束に、流石に逸り過ぎたのを自覚したのか津辺も言葉を詰まらせる。
だが俺は冷えた視線でトゥアールのドヤ顔をしているであろう後頭部を見た。絶対なにかあるだろ。
だがそれにしても……くぅっ、ポニーテールにしたいな。
「定期検診か……大体どんな感じだ?」
「はい、専用に作った部屋がありますのでそこのベッドに寝ていただければ、あとは私の方で様々な検査や変化を観測します」
観束以外には男に大した興味がなさそうなトゥアールだが、何故かウキウキとしながら説明を行ってくれる。
白衣の中から手術用の衣類、確か患者着とかいうのをたたまれた状態でぽんと手渡された。
観束は口を開けて呑気に話を聞いているが、津辺も俺と同じようにキナ臭さを感じたようで口をつむりながらも視線を尖らせる。
その意思を汲み取るように、俺も質問を重ねた。
「でも、本当にそれだけで分かるのか?もっとこう…肉体の変化が分かるように変身とかしたほうが」
「それはもう!負担でなければして頂いた方が大助かりです!もう少し間を空けてからでも構わなかったのですが、大丈夫なんですか?」
_______あぁ、そういうこと。
オーバーリアクションに相槌を打つトゥアールに得心がいった俺は、勘付いてはいずとも身を屈めて合図を待っている津辺に向けてアイコンタクトする。
……ダメ押しするぞ
……オッケー
内心で嗤う津辺に恐怖を感じながら、それを悟られないようにあくまでトゥアールへ提案するよう、俺は餌となりそうな言葉を投げかけた。
「大丈夫、何なら今ここで変身しようか?幼女には暫くならないが」
「な、何ですってーー!?」
「やっぱりそういう事かーーっっ!」
直後、空中を見事に舞うトゥアール。
縦に四回転した彼女は、わざわざ途中で千切れそうなほど体を捻って観束の前へと崩れ落ちた。
そのまま這う這うの体で観束の足首に手を添えた彼女は、態々口でよよよ…と泣きながら辞世を告げるように呻き声をもらした。
「た、謀られました……折角合法的に可愛い幼女へ検査にかこつけて命令し、羞恥に身悶える様を鑑賞して満たされる予定だったものを……良いじゃ無いですかちょっとくらい私に得をくれたって!」
「命令するとか羞恥に身悶えるとか言ってるからだろ!?」
青筋を立てて絶叫する観束と全くの同意見だ、やられる側はたまったもんじゃない。
それでも駄々をこねるように津辺からのストンピングで悲鳴を上げながら抗議するトゥアール。
その姿を見て、俺は何か馬鹿らしくなってため息を吐いた。たった三日で、今までの人生のため息の総数と同程度、ため息を吐いんじゃないかな、俺。
「あーーまぁ、いいよトゥアール。検査や情報とかのお礼だ、検査中はお前の要望どおりに幼女になってやるよ」
「ちょ、ちょっと祐一!正気!?」
「正気もなにも、流石に恥ずかしい命令とかは聞かないけどな」
俺の言葉に、満身創痍だったトゥアールが三回転ジャンプをしながら奇声を上げて俺の手を取ってくる。興奮しているのか、かなり顔が赤いのが無駄に絵になるな。
美少女に手を握られて、しかもその顔が赤いというのは本来かなり良い状況なのに……何でだろう、小さな後悔が雨のように心を埋めるんだが。
そんな事もお構いなしに、手を取って感激した彼女はそのまま、クルクルと回って喜びを体で表す。
「有り難や……!ご本人からの了承とは、ならば逡巡は無用ですね!」
いつの間にかコンソールの所まで戻っていた彼女はそう言うと、手元のキーを何度か軽快に弾く。
マズイと思い、俺は確実にくる
突如現れた装飾のない機材の部屋を見て失敗を悟った。
よくある映画の白い実験室、そんなイメージがある広さも奥行きも分からないそこには、明らかに周囲の配色とは異なるベッドが置いてあった。検査する為の別室とは、ここの事なのだろう。
よく見ると、足元に患者着もある。流石に津辺とかトゥアールが見ている可能性は否めないため、俺はそれを広げると変身の要領で瞑目し、患者着を着た状態でテイルホワイトへと変身した。
……さて、何処かでトゥアールが見てるだろうな。
「おーい!着替えたぞトゥアール!あれに寝れば良いのかー!?」
『はい……それで結構です。それにしても自由度高過ぎませんかね、
『便利だな、確かに。ってお、おい愛香?』
『妬ましいっ!何なのあれ本当にDくらいあるじゃない、減らしなさいよ祐一ぃっ!』
「あいつら……」
割と自分って適応能力が最初から高かったんだな、と始めて思ったぞ。
届いてくる声にある種の達観を覚えながら、僅かに驚嘆の色を滲ませるトゥアールの指示に従って検査用のベッドに仰向けになる。
何か妙に各種の柄がファンシーな辺り、本当に俺を幼女に変身させたかったのが垣間見えた。
『さて、では検査を開始します。よって祐一さん、ホワイトちゃん(幼女)になって下さい』
「真面目な声で言うことかよ、もう……」
色欲に塗れたトゥアールの声に寒気が走りながら、変身しようと瞑目する。
何と無く、何と無くだがそのままでは変身出来ない気がしたので、俺は一度ベッドから降りると、その場で一回転した。
____ん、瞼の裏が光に包まれるこの感覚は、成功の証だ。
広げた手の小ささを確認すると、確かに幼女。今度はベッドに飛び込むと、マイクの向こうで少女たちの声が漏れてきた。
『はぁぁぁん可愛いすぎます!変身する為にくるっとターンとか私を萌え殺す気ですかホワイトちゃん!』
『た、確かに可愛いわね……ちょっと後で撫でさせて貰おうかしら』
『すげぇ……やっぱり凄えポニーテールだ。っていうか、何で態々ターンしたんだ?』
「フィーリングだよ、フィーリング。何と無くね」
感嘆の声を上げる観束にちょっと気分が良くなりながら返す。女子達は反応が怖いので無視だ。
その後は、意外とつつがなく検査が進行した。
本来なら暴走するはずのトゥアールも、昨日本人が称したように「僅かな原材料で都市を作る」ような俺の変身能力に本気で興味を得たのだろう。津辺が見張っているにしても、驚く程いざこざは少なかった。
まぁやっぱり途中で観束が爆弾発言をしたり、トゥアールが恥ずかしい指示をしたり、トゥアールの体で津辺の稽古が始まったりしてたが、ここ数日では大分穏やかな方じゃないのだろうか。
……流石に、お腹を見せたりするのは恥ずかしかったけどな。
そして完全にひと段落ついたらしい辺りで、トゥアールから元の部屋へと転送されてきたのは、もう夜中の六時に差し掛かった頃だった。
まだ春の範疇とはいえ、六時といったら空も暗くなる。
急いで帰ろうとした矢先に、一通りの処理を終えたトゥアールが軽い調子で声をかけた。
「あ、祐一さん、今日の分の検査結果です。残念ながら変身のメカニズムは強大な
「そうか、やっぱり非常識なんだなぁ……この心。まぁ心に常識をもつより、心の強さが証明されているのは純粋に嬉しいよ。ありがとな、トゥアール」
そう言って受け取った書類をヒラヒラと振ると、困ったようにトゥアールも微笑む。
彼女にとっては決死の思いで調べた事なのだろうが、まぁ発動者の俺でもフィーリングでしか理解してない事を一日で解析できる訳はないのだ。悲観する必要はない。
そう伝えると彼女も苦い笑みを転じて、観束家から離れる俺に対して津辺や観束と一緒に小さく手を振ってくれて、小さく言葉を残した。
「ですが、生体情報を見る限り祐一さんは確実に人間である事が分かりました。実のところ、エレメリアンかと疑っていたのですが……済みません」
それを聞いた帰り道、リフレインするその言葉を思い出しながら、俺は頬が釣り上がるのを抑えられなかった。
俺は、
………くそ、嬉しい。嬉しいんだこの野郎。
俺は、俺が好きなポニーテールを奪う事でしか愛を感じられないような存在じゃなかったという事実は、本当に俺にかかっていた僅かな"しこり"を完全に取り除いてくれた。
別に嘘でもいい。
だけど疑ってた相手であり疑っている相手に、疑われながらも認められた今の一瞬は、誰からも理解されずに非難されてきた俺にとって、一つの安息を与えてくれたのだ。
だからなのだろうか。
その日食べた夕食は、いつもと比べて少し美味しかった。
この作者のブルーさんいぢめは、基本使わない事にある!
愛香さんだと最高のツッコミなのに。
次回は、遂に一巻のラストにあたる第三章です。
ちょっと長めになる、かも