ポニーテール、始めました   作:根無

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お久しぶりです、ええ、本当に。
グダッてしまってすいません。エタりはしませんとも。



ポニーテールと裏事情

モスクワは赤の広場。人々が賑やかに声と声を交差させる大通りの中心で、獣の爪と少女の刃が交差していた。

画面の中で斃れ伏すチーターギルディに哀悼の表情を浮かべる白い少女____テイルホワイトのアップで映像は終了し、エレメリアンの一人が厳かに告げる。

 

「………以上、この二十日余りで撃破された同胞は隊員十名、戦闘員(アルテロイド)七十三名に及びます」

「___うむ」

 

頷いたのは先遣隊の部隊長であるドラグギルディ。彼は騒然とする会議ホールを見渡すと、躊躇するように顔を伏せた。

彼の暗澹とした内心の原因は勿論のこと、ツインテイルズ___その中でも異質なホワイト。

ツインテール以外に心をここまで占領される。その事に戦士としての彼には余りに屈辱的な痛みが奔っていたが、将としての彼は冷徹に次の戦いに向けて、重い覚悟を決めようとしていた。

 

「一方、この世界に降りてより我らが手に入れられた属性力エレメーラは皆無。一時捕獲した属性力も、全てツインテイルズに奪還されております」

 

その言葉に紛糾するエレメリアン達は、腕組みをするドラグギルディの不甲斐なさ故の悲憤が読み取れぬままに会議を進めていく。

確かに、焦りもあろう。

鋼鉄より強固な外殻に潜む内側の柔らかさを垣間見たドラグギルディは、鷹揚に部隊の現状を受け止める。

そして、部下達を制するように片手を上げた。

 

_____瞬間、その場にいる全てのものが玉座の将へと姿勢を正す。

 

気迫など、醸しだすことすらしていない。

それは単にドラグギルディへの将としての器、実績、信頼がそうさせるだけ。

必要以上の緊張を一挙手で最高の臨戦態勢へ整えた異形の将は、部下たちの練度にまた信頼を持って頷く。

 

「此度の侵略、相対する戦士たちの実力はどうやら中々の物らしい。略奪されまいと抵抗する勇者たちの勢いは破竹のものだ。現に我々は、少しばかり劣勢に陥っている。まずは我らアルティメギル、抵抗者への実力に賛辞を贈ろう」

 

ドラグギルディの拍手と共に異形の戦士達も各々、敬意すら篭った拍手を今は見ぬ敵へ贈り始めた。

 

だがこの男、不敬につき。

 

口惜しさに表情の暗い者もいる中、ドラグギルディだけは口元を歪め、泰然としたまま話を続ける。

 

「そして、散っていった同胞には悪いが、此れで我らの功もあるというもの」

 

僅かな愉悦すら浮かべて、異形の将は配下に問う。

 

「これ程までに手強い相手、そうはおるまい。故、属性力を手にした時の価値もまた芳醇となるだろう」

 

ゆっくりと、しかし力強く。武人、戦士としての側面で魅せながら、ドラグギルディは益荒男どもに勝利と征服、その美味さを語りかける。

 

 

「つまり、だ___貴公ら、己の力を、器を、愛を、魅せてやりたいとは思わんか?」

 

 

「………ちたい」

 

声が上がったのは、何処からだったか。

会議室のどこかで、確かにドラグギルディはその声を聞いた。

 

「勝ち、たい……」

 

「そう、だ……勝ちたい。勝って」

 

己の愛を証明したい、と。

それは歪んだ愛かもしれない、いや、歪んだ愛だろう。愛する心を喰らいたいと、価値ある輝きを奪いたいなど、正に征服者、侵略を目論む我執の塊に他ならん。

しかしそれが何とする、人間の価値観から生まれたとはいえ、それに迎合するのはまた違う。ゆえに本能のまま、その心を愛するように喰らおうぞ。

少しずつ盛り返してくる軍勢に、ドラグギルディは口角を上げる。属性力、心の輝きより生まれた彼等は、士気によって戦闘能力が劇的に向上するということを、彼は長年の経験より知っていたのだ。

だからこそ、ドラグギルディは楽しそうに笑ってみせる。それが将たる彼の、信頼の証だと言うように。

 

「まだ負けてすらおらんというのに、我の誇るべき部下たち(おまえら)は、勝ちたいのかと思わんのか?」

 

その言葉は、撃鉄となった。

 

『勝ちたいッッッ!!!!!』

 

恐るべき牙や爪を剥き出しにし、獰猛にも軍勢が吼える。

そこには当初の焦りや不安は無かった。もとより積極性に溢れた武士(もののふ)達だ、愉快と言わんばかりに大口を開け、戦場への渇望を謳い上げる。

ドラグギルディも凶悪な笑みを浮かべたまま、玉座から勢い良く立ち上がった。

 

「ならば!先立つ名誉をくれてやる!逆境を覆さんとする、愛すべき愚か者は居らぬのか!」

 

『我こそが!その愚か者でありますとも!』

 

粗野で不謹慎な掛け声に、一糸乱れず答えが返される。

中でも強く主張するのは先の戦いでドラグギルディに食ってかかった看護服(ナース)の神童、スワンギルディ。その瞳には、血気盛んな戦士の炎が宿っていた。

 

「成る程、これまた特大の愚者がでたものよ!スワンギルディ、貴様が逝くか⁉︎?」

 

「いえ、征くのであります隊長殿!さすれば、必ずや首級をとって見せましょう!」

 

それはいい、と軍勢が笑う。レイヴンギルディの件から一転、更に力を磨いてきたスワンギルディは猛々しく笑い返してみせた。

しかし、ここでその勢いは大きく揺れる。

なぜなら、立ち上がったスワンギルディの真後ろ。彼の影となるように、もう一人の愚者が舞い降りたからだ。

 

「貴公は、スワロウギルディか!」

 

「左様、某も参上仕った」

 

動揺に揺れる会議ホール。スワロウギルディの参入は、彼らにとっても予想外だった。

スワロウギルディはそもそも、ドラグギルディ部隊の更に細分化された部署、先の戦で逝ったレイヴンギルディが所属していた、掃討部隊の戦士である。

風流と共に流れる汗へ愛を抱く『汗属性』の武士。彼は生粋の武人たるドラグギルディすら唸らせる達人であり、亡きレイヴンギルディの直弟子であった。

彼はエレメリアンにしては珍しい、細く流線型の肉体をライトに晒すと振り返るスワンギルディへ話しかける。

 

「済まぬが、スワンギルディ殿。ホワイトの相手は某に任せて貰いたい」

 

「なに……?」

 

「はは、そう気を荒げるな。ノロマな簒奪ゆえ掃討に属した愚か者が、師の仇をついでにとってこようと言うだけだ。それに、お主はまだ一人でも伸びしろがある。故、構わぬか?隊長殿」

 

視線を投げかけられたドラグギルディは、泰然自若を体現するように笑う闖入者に睨みを効かせる。若輩のスワンギルディ、スワロウギルディには重すぎる覇気が両者の体を叩いたが、スワロウギルディは一人、柳のように龍の気迫を受け流した。

その姿に仕方がない、といった様子で嘆息するドラグギルディ。

 

「よかろう!貴公の参戦を許可する。……腕を磨けよ、スワンギルディ。貴様の啖呵、もう一度聞きたいのでな」

 

そう語りかける言葉は厳粛なものであったが、スワンギルディは確りと噛み締めて礼を行う。

彼の向上心と真摯なその姿に部隊の面々たちも、嘲りの感情など微塵も持たずに三者へと拍手を送った。

仲間たちからの応援に再度礼をしたスワンギルディは、隣に立つスワロウギルディへ向けて激励の意でもって右手を差し出す。

 

「私も戦士、潔く引きましょう。スワロウギルディ、お前の師は……勇敢で高潔だったぞ」

 

「ほう、知ってくれる者がいたとは、それは師も喜ぶだろう。某としてはお主も、その姿を引き継いで欲しいものだな」

 

「はは、それは難しいな。なにせ私は、ドラグギルディ殿を師のように思っておりますので」

 

お互いにニヤリと笑みを浮かべ、硬い握手が結ばれる。

その姿にドラグギルディは大きく頷いた後、若輩二人を見据えて披露するように手を広げた。

 

「ならば次の戦い、我も出よう」

 

その宣言に、今度こそ会議ホールは揺れ動いた。

 

「ドラグギルディ様自らが⁉︎」

 

「偉大なる首領より実権を預かる我らが統率者ドラグギルディ様、あなたが自ら行かれるなど!」

 

「く、ふふ……済まぬな」

 

慌てふためく配下達に自らの属性とは異なる愛着を覚えつつも、彼は苦笑と共にそれを一蹴する。

 

「我も少し、愚かになってみたくなったのだ。赤き少女と剣を交え、ツインテールについて語り合い、戦士として、勝ってみたくなったのだよ」

 

覇気を充溢させながら牙を剥き出しにする異形の将は、言外に不満ならば止めてみせろと挑発してみせる。

それは、己の身勝手に獲物を取られる彼らへの裏切り行為。糾弾されてもおかしくないものであった。

 

だが、そんなものは信も義ない愚将だけが受ければ良い。ドラグギルディとは、そこらの将と一線を画す、猛将であるのだから。

よって当然の如く、会議ホールには異形の咆哮が響き渡った。

 

「それならば仕方ありますまい!」

 

「惜しくもレッドは我が手で愛でられそうにもありませんな!」

 

「ドラグギルディ様、レッドはこのホールで属性力を奪いましょうとも!」

 

「生け捕りという事か。数日前のお言葉、まさか御自身で決行なさるとは!」

 

今が多少劣勢だろうと、現状幾らか辛かろうと、明日はきっと光がある。

自棄になったのではない。彼らはもともとそういう怪物(もの)で、そういう性質(タチ)だ。

ドラグギルディは歴戦の猛者、それに加えて彼の気迫を受け切れるスワロウギルディ。

彼ら二人の出陣が、異形の軍勢を本来のカタチに戻しているに過ぎないのだ。

 

故に、覚悟するがいい創造主(ニンゲン)諸君、愛すべき敵対者よ。

我らはまだまだ終わりはしない、此方とて生きる為の侵略戦争。先立つエサとなってくれ。

アルティメギル、ドラグギルディ部隊。異形の軍勢たちは、歓声と共に次の戦いへ向けて戦意を高めていった。

 

 

会議ホールから出た後で、興奮冷めやらぬ戦士たちの声が響く連絡通路の中、次の戦士たるスワロウギルディの隣でドラグギルディも基地を進んでいく。

彼等は、一切視線を交わさぬままに一つの決断を行おうとしていた。

 

「……失礼ですが、今、なんと?」

 

「礼を失するのは我の方だスワロウギルディ。なにせ我は皆から快勝という至宝を、奪おうとしているに等しいのだからな」

 

ドラグギルディは表面上は変わらないまま、そういうもの(・・・・・・)に長けたスワロウギルディでさえ読み間違えかと思う鉄面皮で、沈痛な内心を彼に吐露していた。

あれだけ部下を慕い、慕われているドラグギルディの言葉とは思えぬ言葉は、スワロウギルディの聴覚が悪くなったのでは無ければありえない、と断言しても良いもの。

 

連絡通路の先、転送用のワープポイントから二人が着いたのはドラグギルディの私室。

機密保持のために与えられたそこで、ドラグギルディは悲愴な決意をもって断言した。

 

「スワロウギルディ。貴公にツインテイルズ、テイルホワイトの殺害を命ずる」

 

放たれた言葉は、言うまでもなく心を奪う、彼らの最大の禁忌(タブー)であった。

馬鹿な、とスワロウギルディは内心でさえ絶句しかける。

アルティメギルという組織の都合上、テイルホワイトに対する急的な対処は仕方のない事ではある。 しかし、ドラグギルディの決断は余りに早過ぎると言えたからだ。

それは分かっているのだろう、書斎ようにも見える彼の部屋の書机に腰掛けたドラグギルディは、自分を見下ろす形になったスワロウギルディに諭すような口調で話を始めた。

 

「理解が追いつかんのだろう、だが事態は深刻になりつつある。より純度の高いツインテール属性の大幅な阻害、それに映像越しでも分かる敵勢力の成長力。これは、生半な戦力で対抗できるものでは無いのだ」

 

「よもやそこまで、という奴ですかな?」

 

「茶化さずとも分かろう、スワロウギルディ。ただひたすらに肉体を鍛えた非合理の塊よ」

 

その言葉にこそ、スワロウギルディは苦笑を禁じ得ない。

健全な精神は健全な肉体に宿る。その言葉と彼の鍛錬は何も変わりはないのだ。

素晴らしい汗は素晴らしい運動に通ずる。ただそれだけだと。

結果、強大な属性力とドラグギルディに伯仲する剣の腕を手に入れたスワロウギルディは、何の気紛れか余り力を揮う機会のない掃討部隊に異動したのだが。実力を知るもの達は、実に惜しいと口を揃えて言うだろう。

故に一度引き分けた(・・・・・)ドラグギルディは、恥を偲ぶように彼へと命ずることができるのだ。

実力を二分する良き好敵手として、同じ敵を掲げた仲間として。

 

「……仕方ない、と言う他無く、他の芽が出ぬうちに摘み取れ、と」

 

「我の見立てでは、既に種は芽吹きつつある。向こうが蒔いてくれた種とはいえ、都合が悪ければそういう事もあろうよ」

 

「強大な属性力で我らに匹敵する戦士。それだけで絶対値は保証されてるというのに……」

 

諦めたであろう溜息と共にスワロウギルディは窓を仰ぐ。

そこには風情の欠片もない、濃霧のような空間だけが広がっていた。

これは後の巨大組織アルティメギルに残る「第一陣ツインテール決戦」における、前日の話である。




書いてたらめっさ長くなったので分割しました。
ドラグギルディ隊長がカリスマブーストし過ぎですね、はい。
あと、作者は書き溜めできないタイプの人間ですので、そこら辺ご了承してお気に入り小説に登録して頂ければと思います。
では、また次回。

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