ポニーテール、始めました   作:根無

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ちょっと滾ってしまった
後悔はしていない


プロ ポニーテール ローグ

ポニーテール、という髪型をご存知だろうか。簡単に言ってしまえば後頭部で長い髪を纏め上げた、馬の尻尾に喩えられるあの髪型である。

 

俺、白束 祐一(しらつか ゆういち)は、そんなポニーテールが好きだ。

それはもう、何物にも代えられないと言っても過言ではなく、ポニーテールというものが大好きだ。

先程紹介したポニーテールであるストレートポニーは勿論、サイドポニーや編み込みと組み合わせたポニーテールも、その全てが大好きなのだ。

具体的な理由なんかはどこにもない。気付いた時には、俺は心からポニーテールというものに好意を抱いていたんだ。

ポニーテールを目で追い掛け、ポニーテールの色彩に心奪われ、心の篭ったポニーテールに敬意を捧げ、ポニーテールのケアが出来るように毎日人形とカツラで練習を重ねる。

時には、バカな事にも自分で髪を伸ばしてポニーテールを作りもしたが、どうにも拭えない違和感に思わず整形を真面目に検討したこともあった。

それだけポニーテールは最高だ、今もその結論は変わらない。だが、それは世間全てに通用する訳では無く、過去の俺はそれを分かっていなかった。

思えば傲慢だったのだろう。世界中全ての人間が潜在的にポニーテールが好きで、その喜びを共有出来る事は当たり前だと思っていたのだ。

 

忘れもしない。それは小学校三年生になって、すぐの事だった。

俺は普段通りポニーテールを探し、その見識を深めようと日常を謳歌していた時のこと。給食の時間て自分達が好きなものは何か、という話題になっていた。

食べ物やテレビのキャラクター、少々ませた子なんかは異性の名を挙げて場を盛り上げる班のみんな。その場にいた俺にも、勿論その番が周ってきたのだ。この時、話を聞いていた俺は様々な感想を持ちながらも、隣の子からの質問に、心からの自信を持って答えたのだ。

 

「じゃあ、白束くーー」

 

「ポニーテール!」

 

条件反射だった。本能だった。口にしたこと自体に何の悔いもないが、質問の声に明らかに喰いついて空気の一切をぶち壊しにしたのは素直に反省している。ゴメンねガッちゃん。

勿論、幼い友人達はポニーテールという言葉の意味をまだ知ってはいなかった。無邪気にそれに対して質問する猛者もいた為、俺としてもポニーテールの素晴らしさを未熟な身ながら精一杯に語った。

しかし、返ってきたのは望んでいた共感では無く、不快感。同意では無く否定の声だった。

ガッちゃんは言った。

 

「ただの髪じゃん!きっもち悪りぃー」

 

ガッちゃんちょっとそこに直れ。

……失敬、回想で怒りが再燃するとは俺もまだまだ未熟。ポニーテールへの愛は寛大さにもなるのだ、俺自身が寛容にならなくてどうする。

兎も角、その時の俺は絶望した。何とも情けない話だが、己の至らなさを俺はこの時まで知らなかったのだ。

ポニーテールは好きだ。一度見たポニーテールは片時も忘れた事はないし、髪質も百メートル先から把握できるように目も鍛えた。将来、最高のポニーテールと出会った時の為に、最もよく似合うリボンの考察にも余念はない。瞼を閉じれば今まで見てきた春夏秋冬、どんなシュチュエーションのポニーテールだろうと脳裏に浮かぶ。

だが、誤ってはならないのだ。ガッちゃんのように、みんなが皆ポニーテールに対してそこまでの思い入れがあるという訳ではない、という事を。悲しい事実だが、ポニーテールはあくまで皆にとっての「その他一つ」でしかないという真実を。

 

そんな事があった次の日から、矢張り俺は排斥の憂き目にあった。当然だ、純粋な彼らにとって俺は異端であり、気持ちの悪い変態にも等しいのだから。

原因は俺にある。ポニーテールの持つ無限の魅力を、その一厘とて伝える事の出来なかった俺の不徳が悪いのであり、彼らが絶対的な悪という訳ではないのだ。全くもって愛情が不足している事を実感した。

結局、自らの戒めとして排斥を甘んじて受け続けた俺は、日に日に磨り減る肉体とは真逆にポニーテールへの思いを当然、高めていった。少々命を張るような事もあったのだが、今は五体満足で目も残っているので問題無い。その中で求めるものこそ違えど、俺と切磋琢磨できる良きライバルにも恵まれて、虐めと呼ばれていた彼らの防衛行動もなりを潜めたのだから。

 

少々長くなってしまったがそれも終わりにしよう。付き合ってくれたのなら心からの感謝を。

さて、これより始まり、俺が独白させて頂くのは、これから(・・・・)の俺達。新たな出会いと可能性に満ちた、新たな舞台での物語だ。


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