ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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ども!!

舞翼です!!

眼を擦りながら書き上げたよ。
さて、小説の本編も、ラストスパートですね(^_^)

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


第94話≪聖剣エクスキャリバー≫

俺は小さく息を吐くと、クラインの隣に歩み寄り、肩に手を置いて言った。

 

「その、なんだ。 ドンマイ」

 

クラインは(すす)り泣いていた。

 

「フ、フレイヤさんが、オッサンに変わっちまったよ……」

 

ユウキもクラインの肩に手を置いて、言った。

 

「大丈夫だよ。 クラインさんにもいい人が見つかるよ」

 

「グハッ!」

 

クラインは座り込み、「どうせオレなんて」、と言いながら、床にのの字を書き始めた。

 

「ユウキさん、それ止めの言葉だから」

 

こいつの場合、無意識に言ったと思うが。

俺の言葉を聞いて、首を傾げているしな。

 

「この雷槌(らいつい)ミョルニルは、リズにやるか。 みんなはそれでいいか?」

 

「うん、それでいいと思うよ」

 

リーファの言葉に、皆頷いた。

俺はリズの前まで行き、アイテムストレージから雷槌ミョルニルを取り出し、リズに手渡した。

 

「みんな、ありがとう!」

 

その瞬間――。

スリュムヘイム城の床が激しく震えた。

 

「「「「「「「きゃああっ!」」」」」」」

 

女性陣が悲鳴を上げた。

シノンが尻尾をS字に曲げながら叫ぶ。

 

「う……動いてる!? いえ、浮いている……!」

 

居城スリュムヘイムが、左右に震えながら、少しずつ上昇しているようだ。

その時、首から下げたメダリオンを覗き込んだリーファが、甲高い声を上げた。

 

「お……お兄ちゃん! クエスト! まだ続いてる!」

 

「な……なにィ!?」

 

立ち上がり喚くクライン。

霜の巨人族の首領スリュムが死んだからには、当然クエストも完了したはず――。

その時、ユウキが声を上げた。

 

「聖剣を引き抜かないと!」

 

ユウキの言う通りだ。

俺たちにこのクエストを依頼した《湖の王女ウルズ》は、スリムヘイムに侵入し、聖剣エクスキャリバーを台座から引き抜いてくれ、と言っていたはずだ。

 

「さ、最後の光が点滅してるよ!」

 

リーファの悲鳴にも似た声に、ユイが鋭く反応した。

 

「パパ、ママ。 王座の後ろに下り階段が生成されています! 恐らく、その先には――」

 

「聖剣エクスキャリバーの台座か!」

 

「みんな、行こう!」

 

俺とユウキの言葉を合図に、全員が床を蹴り、走り出した。

裏に回り込むと、氷の床に下向きの小さな階段が口を開けていた。

仲間たちが追ってくる足音を聞きながら、薄暗い入り口に飛び込み、螺旋階段を駆け下りる。

その時、背後からリーファが声を掛けてきた。

 

「……あのね、お兄ちゃん。 あたしおぼろげにしか覚えてないんだけど……たしか、本物の北欧神話では、スリュムヘイム城の主はスリュムじゃないの」

 

その言葉に、俺の隣を走っているユウキが答えた。

 

「《スィアチ》のことだね。 スリュムヘイム城の主はスィアチのことだよ。 黄金林檎を狙っているのも、実際はスリュムじゃなくて、スィアチだったね。 ボクも今思い出したんだけど」

 

「いま検索を掛けてわかったことですが、今回の虐殺(スローター)クエストを依頼しているのは、ヨツンヘイム最大城に配置されたNPCの《大公スィアチ》のようです」

 

ユウキの説明に続き、俺の頭上に座っている小妖精ユイが、外部ネット検索の成果を教えてくれた。

このままスリュムヘイムがアルンまで浮上すれば、上の玉座の間には、そのスィアチがラスボスとして君臨することになるのだろう。

 

「……つまり、後釜は最初から用意されていたってことか……。 それにしても、ユウキは神話に詳しいんだな」

 

「本棚にあった北欧神話の本を読んでたからね」

 

「なるほどな」

 

その時、ユイが叫んだ。

 

「――――――パパ、五秒後に出口です!」

 

「了解!」

 

ユイの言葉に答え、速度を上げて螺旋階段を下り、視界に入った明るい光目掛けて飛び込んだ。

そこは、ピラミッドを上下に重ねた形にくり抜いた空間、言うならば《玄室》だ。

壁は薄く、氷を透かせてヨツンヘイム全体が一望できる。

真円形のフロアの中央に、五〇センチ程の氷の立方体が鎮座しており、その内部には世界樹のものと思われる、細く柔らかそうな根があるのだが、しかしそれは黄金の剣によって綺麗に切断されている。

切断しているのは、微細なルーン文字が刻み込まれた薄き鋭利な刃――黄金の剣だ。

黄金の輝きを纏い垂直に伸びる長剣、精緻(せいち)な形状のナックルガードと、細い黒革を編み込んだ握り(ヒルト)柄頭(ボメル)には大きな虹色の宝石が輝いている。

俺はこれと同じ剣を、かつて一度見た。 いや握ったことがある。

ALOを己の野望の道具としていた男が、俺を切る為にGM権限で生成しようとした剣。

俺が代わりにジェネレートし、決着を付ける為に投げ与えた剣だ。

あの時俺は、世界最強の剣をたった一言のコマンドで作りだしたしまったことに、強い嫌悪の念を抱いた。

何時か正当な手段で入手に挑まなければ、この借りは返さないと感じた。

そして、ようやくその時が来たのだ。

 

「聖剣エクスキャリバー……」

 

俺は無意識に呟いていた。

俺は一歩踏み出し、両手で《聖剣エクスキャリバー》の柄を握った。

 

「ッ!!」

 

ありったけの力を込め、剣を台座から引き抜こうとするが、剣は城全体と一体化ようにびくともしない。

 

「く……ぬ……っ!!」

 

更に力を込めて引き抜こうとするが、結果は同じだ。

SAOやGGOと違い、ALOでは筋力や敏捷力などの数値は表示されない。

しかし、実際はシステム上で数値化されているので、つまり《隠しパラメータ》ということになる。

その時、俺の手が優しく包まれた。

 

「ボクも一緒に抜くよ!」

 

「おう、頼んだ!」

 

「ボクたちの共同作業だね!」

 

「お、おう。 そ、そうだな」

 

この会話を聞いた途端、後方からは溜息を吐く気配が。

てか、誤解を招く言葉だな。

俺とユウキは、『せーの』、と声を合わせて聖剣を引き抜く!

同時に、足許の台座から強烈な光が迸り、視界を金色染め上げた。

次いで、何かが壊れる破砕音(はさいおん)が発生し、手に剣の重さが一気に伝わってきた。

 

「「ぬ、抜けた……」」

 

皆が歓声を上げようとした、その時――。

氷の台座から解放された世界樹の小さな木の根が、空中に浮き上がり、育ち始めたのだ。

断ち切られていた上部の切断面からも新たな根が伸び、垂直に駆け上り、螺旋階段を粉砕してきた根と絡まり、結合した。

直後――。

凄まじい衝撃波が、スリュムヘイム城を呑み込んだ。

 

「おわっ……こ……壊れっ……!」

 

クラインが叫び、全員が片膝を突いたと同時に、周囲の壁に無数のひび割れが走り、分厚い氷の壁が次々に分離し、遥か真下の《グレートボイド》目掛けて崩壊していく。

 

「さて、どうしようか?」

 

「う~ん、どうしようか?」

 

「「「「「「「二人とも落ち着きすぎ(だ)(よ)(です)!!」」」」」」」

 

「流石パパとママです~」

 

俺とユウキは、他の七人から盛大に突っ込まれた。

ユイは感心していたが。

 

「よ、よおォし……こうなりゃ、クライン様のオリンピック級ハイジャンプを見せるっきゃねェな!」

 

がばっと立ち上がったクラインが、直径僅か六メートル程の円盤の上で精一杯の助走をし――。

 

「バカ、や、やめなさ……」

 

リズが止める間もなく、華麗な背面跳びを見せた。

当然、根っこまで手が届くはずもなく、急な放物線を描き、フロアの中心にずしーんと墜落した。

途端、そのショックのせいで周囲の壁に一気にひび割れが走り、玄室の最下部、つまり俺たちが居る場所が本体から切り離された。

 

「く……クラインさんの、ばかーっ!」

 

絶叫マシンが苦手のシリカの本気の罵倒の尾を引きながら、俺たちを乗せた円盤は自由落下に突入した。

周囲では、俺たちと同時に崩れ落ちた巨大な氷塊が互いに激突し、小さな塊へと分解いき、真下を見れば、千メートル、いや八百メートルまで近づいているヨツンヘイムの大地には、黒々と《グレートボイド》が口を開けている。

当然ながら、九人と一人(ユイ)が乗る円盤は、その中央目掛けて落ちている。

 

「いや~、落ちてるな。 そう言えば、ユウキって絶叫マシンが好きなんだっけ?」

 

「よく覚えてたね。ボクは絶叫マシンが大好き! これってスリルがあって楽しいね!」

 

「俺はお前と居られれば、何処でも楽しいけどな」

 

「えへへ~、照れちゃうな」

 

因みに、俺は聖剣エクスキャリバーを抱えながら胡座(あぐら)をかき、ユウキは体育座りをしている。

俺は気になったことがあったので、前で必死に円盤に掴まっているリーファに訊ねた。

 

「そういえば、虐殺(スローター)クエストはどうなったんだ?」

 

リーファは、自身の首に掛かっているメダリオンを見た。

 

「あ……ま、間に合ったよお兄ちゃん! まだ光が一個だけ残ってる! よ、よかったぁ……!」

 

不意にユウキが声を上げた。

 

「リーファちゃん、口笛吹いて!」

 

「その手があったか!」

 

ここに居る全員も気付いただろう、トンキーの背中に乗り移り、この円盤の上から脱出しようと考えている事に。

リーファが口笛を吹くと、ヨツンヘイムの大地に響いた。

口笛が吹き終わっても何の反応もない。と思ったその時――。

“くおおぉぉ――……ん”、という遠い鳴き声が届いた。

周囲を取り巻く氷塊の彼方、南の空に、魚のような流線型の身体と、四対八枚の翼――。

 

「トンキ――――ッ! こっちこっち――っ!」

 

リーファが此方に来るように手招きをし、他の女性陣も手を振っていた。

周囲には無数の氷塊が降り注いでいるせいで、トンキーの身体が横付け出来ずに、五メートルほどの間隙を開けてホバリングした。

それから順番に、リーファ、シリカ、リズ、アスナ、シノン、ラン、ユウキ、とトンキーの背中に降りて行く。

やや強張った顔でこちらを振り向くクラインに、俺は「お先にどうぞ」と手を振った。

 

「オッシャ、魅せたるぜ、オレ様の華麗な……」

 

そう言いながら、タイミングを計るその背中を思い切りどつく。

ジタバタの助走からのジャンプは、やや飛距離が足らないような気がしたが、トンキーが伸ばした鼻でくるりと空中キャッチ。

 

「お、おわあああ!? ここ怖ェええええ!?」

 

喚く声を無視して、俺は前を向き、短い助走に入ろうとした所で、一つの事実に気付いた。

――《聖剣エクスキャリバー》を抱えたままでは、とても五メートルは跳べない。

 

「ま、いいか」

 

俺は聖剣の柄を握り、真横に投げ捨てた。

投げ飛ばした聖剣エクスキャリバーは、その重さの割には、ゆっくりと大穴目掛けて落下していく。

それを見てから、俺は軽く助走し、トンキーの背中に跳んだ。

俺の肩を、隣にやってきたユウキがぽんと叩いた。

 

「よかったの?」

 

「別にいいさ。 全員でクリアすることの方が大事だからな」

 

「また、いつか取りに行こうよ」

 

「わたしが、バッチリ座標固定します!」

 

ユウキの言葉に、ユイがそう続いた。

 

「ああ、そうだな。 ニブルヘイムのどこかで、きっと待っていてくれるさ」

 

だが、一人だけ諦めて居ない人物が、俺の前に進み出た。 水色髪のケットシーだった。

左手で肩から長弓なロングボウを下ろし、右手で銀色の細い矢をつがえる。

 

「――二百メートルか」

 

シノンはスペルを詠唱し、矢は白い光に包まれた。

俺たちが見守る眼前で、シノンは弓を引き絞り、下方で落下する聖剣エクスキャリバーの更に下方に向け矢を放ち、矢は銀色のラインを引きながら駆け抜けた。

このスキルは、弓使い専用の種族共通スペル、矢に強い伸縮性・粘着性を持つ糸を付与し、手の届かないオブジェクトを引っ張り寄せる魔法、《リトリーブ・アロー》だ。

糸の矢が軌道を歪める上にホーミング性ゼロなので、普通は近距離でしか当らない。

シノンの意図を悟りながらも、俺は内心で「幾ら何でも」と呟いた。

だが、飛翔する銀色の矢は、引き合うかのように近づいて、たぁん!と音を立てて衝突した。

 

「よっ!」

 

シノンが、右手から伸びる魔法の糸を思いっきり引っ張った。

すると黄金の剣は減速し、上昇を開始した。

みるみる長細くなり、剣の姿へと変わり、シノンの腕の中に納まった。

 

「うわ、重……」

 

「「「「「「「「「し……し……し……」」」」」」」」」

 

八人とユイの声が、完全に同期した。

 

「「「「「「「「「シノンさん、マジかっけぇ――――――!!」」」」」」」」」

 

全員の賞賛に、三角耳をぴこぴこ動かして応えたシノンは、最後に俺を見た。

 

「キリト、受け取って」

 

「え! いいのか!?」

 

俺にエクスキャリバーを渡してくるシノン。

正直、欲しくないと言えば嘘になるが。

 

「ええ、私の命を救ってくれた件と、大澤さんに会わせてくれたお礼よ。 受け取って」

 

「ああ、大切に使わせてもらうよ。 ありがとう」

 

このような言葉を貰い、受け取らない方が失礼と言うものだ。

俺はシノンからエクスキャリバーを受け取り、腕の中に抱えた。

 

「くおぉぉ――ん……!」

 

トンキーが長く鳴き声を放ち、八枚の翼を強く打ち鳴らして上昇を始める。

釣られるように上空を見ると、ヨツンヘイムの天蓋中央に深々と突き刺さっていたスリュムヘイム城が、遂に丸ごと落下を始めたのだ。

氷の巨城は轟音を響かせながら墜落していき、風圧に耐えかねて崩壊も激しさを増す。

 

「…………あのダンジョン、あたしたちが一回冒険しただけで無くなっちゃうんだね……」

 

リズが小さく呟き、隣のシリカが、ピナをぎゅうと抱きしめながら相槌(あいづち)を打つ。

 

「ちょっと、もったいないですよね。 行ってない部屋とかいっぱいあったのに……」

 

「マップ踏破率は、37.2%でした」

 

俺の頭の上に乗ったユイも、残念そうな声で補足する。

 

「ゼイタクな話だよなァ。――でも、ま、楽しかったぜオレは」

 

両手をばしっと腰に当て、クラインが深く頷いた。

 

「俺も楽しかったさ。みんなはどうだ?」

 

「ボクは楽しかったよ!」

 

「ええ、私もです」

 

「私も楽しかったよ」

 

俺の言葉に、ユウキ、ラン、アスナと続き、他の女性陣も「楽しかった!」と続いた。

 

「みなさん、見てください!」

 

ユイが大きな声で叫び、スリュムヘイムが落下した、真下の大穴《グレードボイド》を指差した。

巨大な大空洞の奥から、青く揺れ、輝きを放ちながら、透き通るような水が大量に溢れ、大穴を水で満たした。

 

「あ……上!」

 

シノンが、さっと右手を上げた。

反射的に振り仰ぎ、上空を見てみると、天蓋近くまで萎縮していた世界樹の根が、スリュムヘイムが消滅したことで解放され、生き物のように大きく揺れ動きながら太さを増し、グレードボイドを満たした清らかな泉に根を下ろし、大波を立て放射線状に広がり、広大な水面を編み目のように覆い、先端は岸にまで達した。

泉に根が下ろされたことで、その根からは小さな若芽が息吹き、大木が立ち上がり、黄緑色の葉を次々に広げた。

これまでヨツンヘイム全体を吹き荒れていた、凍るような木枯らしは止み、暖かな春のそよ風が吹き渡る。

天蓋は、ずっとおぼろげに灯っていただけの水晶群が、小さな太陽のような強い白光を振り撒いている。

風と陽光にひと撫でされた大地の根雪や、小川を分厚く覆う氷が溶け、その下から現れた大地からは新緑が芽吹き、木は生い茂り、川がせせらぎ音を奏でる。

 

「くおおぉぉぉ――――ん…………」

 

突然トンキーが八枚の翼と広い耳、更に鼻いっぱいに持ち上げ、高らかな遠吠えを響かせた。

数秒後、世界の各所から、“おぉーん”、“くおおぉーん”、という返事が返ってくる。

泉の中に囚われていたと思われる、トンキーの仲間たちだ。

それだけではなく、多脚のワニのような奴、頭が二つあるヒョウのような奴、多種多様な動物型邪神たちが地面や水面から止めなく出現し、フィールドを闊歩(かっぽ)し始めた。

ヨツンヘイムが、かつての姿を取り戻したのだ。

 

「……よかった。 よかったね、トンキー。 ほら、友達がいっぱいいるよ。 あそこも……あそこにも、あんなに沢山……」

 

トンキーの背中に座り込んだリーファが嬉し涙を零しながら、トンキーの頭を優しく撫でていた。

シリカがリーファを抱くようにして、同じようにしゃくりを上げ始め、アスナとラン、リズも目許を拭い、腕組みしたクラインが顔を隠すようにソッポを向き、シノンも何度も瞬きを繰り返す。

ユウキも目許に涙を浮かべながら、座っている俺の肩に頭を乗せて、この美しい光景に見入っていた。

俺も胸に込み上げてくるものがあった。

最後に、俺の頭から飛び立ったユイが、ユウキの肩に着地すると髪に顔を埋めた。

あいつは最近、俺に泣き顔を見せるのを嫌がるのだ。

まったく、どこで学習したんだか……。

と、その時、声が聞こえた。

 

「見事に、成し遂げてくれましたね」

 

トンキーの頭の向こうに、金色の光に包まれた人影が浮いている、《湖の女王ウルズ》だった。

前回と違い、今回は実体化している。

隠れていたという泉から脱出出来たのだろう。

 

「《全ての鉄と木を斬る剣》エクスキャリバーが取り除かれたことにより、イグドラシルから断たれた《霊根》は母の元に還りました。 樹の恩寵(おんちょう)は再び大地に満ち、ヨツンヘイムはかつての姿を取り戻しました。 これも全て、そなたたちのお陰です」

 

「いや、トールの助けがなかったら、スリュムは倒せなかったよ」

 

俺の言葉に、ウルズはそっと頷いた。

 

「かの雷神の力は、私も感じました。 ですが……気をつけなさい、妖精たちよ。 彼らアース神族は、霜の巨人の敵ですが、決してそなたらの味方ではない……」

 

「あの……スリュム本人もそんなこと言っていましたが、それは、どういう……?」

 

涙を拭いて立ち上がったリーファが訊ねた。

しかし、その曖昧な質問はカーディナルの自動応答エンジンに認識されなかったのか、ウルズは無言のまま僅かに高度を上げた。

 

「――私の妹たちからも、そなたらに礼があるそうです」

 

その言葉と共に、ウルズの右側が水面のように揺れ、人影が一つ現れた。

身長は姉よりやや小さく、髪は短めの金髪で、深い長衣を着た、《優美》な顔立ちの女性だ。

 

「私の名は、《ベルザンディ》。 ありがとう、妖精の剣士たち。 もう一度、緑のヨツンヘイムを見られるなんて、ああ、夢のよう」

 

甘い声でそう囁きかけると、ベルザンディはふわりと右手を振り、俺たちの眼の前に大量のアイテムやらユルドが出現し、テンポラリ・ストレージに消えていった。

九人パーティーなら容量にかなりの余裕があるはずだが、スリュムとの戦いで相当埋まっているので、そろそろ上限が気になってくる。

今度はウルズの左側につむじ風が巻き起こり、鎧兜姿でヘルメッドの左右とブーツの側面から長い翼が伸び、金髪は細く束ねられ、美しくも勇ましい顔の左右で揺れている。

身長は、俺たちと同じ妖精サイズだ。

 

「我が名は《スクルド》! 礼を言おう、戦士たちよ!」

 

凛と張った声で短く叫び、スクルドも大きく右手をかざし、報酬アイテムの滝。

視界右側のメッセージエリアに、容量注意の警告が点滅された。

妹が左右に退くと、ウルズが一歩進み出た。

 

「私からは、その剣を授けましょう。 しかし、決して《ウルズの泉》には投げ込まぬように」

 

「了解した」

 

これまで俺が両手で抱えていた聖剣エクスキャリバーは、俺のアイテムストレージに格納された。

 

「よかったね。 キリト」

 

「おう、ありがとな」

 

俺とユウキの会話が終わった後、三人の女神たちは距離を取り、声を揃えて言った。

 

「「「ありがとう、妖精たち。 また会いましょう」」」

 

視界中央にクエストクリアを告げるメッセージが表示されると、三人の女神は身を翻し、飛びさろうとした。

その直前、どたたっと前に飛び出したクラインが叫んだ。

 

「すっ、すすスクルドさん。 連絡先をぉぉ!」

 

――NPCがメルアドなんてくれるわけないだろ!!

俺は突っ込んでいいか判らずフリーズしていると、スクルドさんはくるりと振り向き、気のせいか面白がるような表情を作り、もう一度手を振った。

直後、スクルドさんは消滅し、あとには沈黙と微風だけが残された。

やがて、リズが小刻みに首を振りながら囁いた。

 

「クライン。 あたし今、あんたのこと、心の底から尊敬している」

 

同感だった、まったく同感だった。

ともあれ、二〇二五年十二月二十八日の朝に始まった俺たちの大冒険は、こうして終わりを向かえた。

 

「よし! この後、打ち上げ兼忘年会でもやらないか?」

 

「「「「「「「「賛成!!」」」」」」」」

 

みんなが真っ直ぐ、右手を上げた。

取り敢えず、今後の予定が決まった。




遂に聖剣エクスキャリバーを入手しましたね。
キャリバー編もあと一話かな(予定)

あと、階段は二人が走れる幅だったということで。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!

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