ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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ども!!

心が折れずに済んだ舞翼です!!

今回は、あの話ですね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


第92話≪女神フレイヤと巨人王スリュム≫

逆ピラミッドになっている為、三層は上層のフロアに比べ狭く、通路も細く入り組んでいる。

普通に攻略しようと思ったら道に迷い右往左往(うおうさおう)したが、ここはユイの力を借り、地図データに指示に従って先へ進む。

途中で立ちはだかるギミック類も、ユイの指示に従い次々に解除し、全速力で駆け抜けて行く。

二回の中ボス戦を挟んでも、俺たちは僅か十八分で第三層ボス部屋まで到達した。

ボス部屋で俺たちを待ち受けていたのは、上層のサイクロプスやミノタウロスの二倍近い体躯(たいく)、しかも左右に十本もの足を生やした、大変気色悪いムカデ型巨人だった。

 

「しャああぁぁああ!」

 

「よし! 俺とユウキでタゲを取る! 皆は、足を一本ずつ集中して攻撃してくれ!」

 

俺の言葉と同時に、それぞれが行動を開始する。

その攻撃は天上知らずで凄まじく、直撃を受ければ大ダメージだ。

横目で見やると、彼女と視線が交錯した。

彼女の眼はこう言っていた。

 

『――ボクたちなら、この攻撃を捌くことが出来るよ!』

 

『――ああ、そうだな。 頑張ろうな』

 

視線でそう言うと、彼女は微笑み返してくれた。

俺は俄然やる気が増し、負ける気がしなくなった。

俺とユウキが攻撃を捌いている中で、クライン、ラン、アスナ、リズ、シリカ、リーファ、シノンが、奴の足一本に集中攻撃を仕掛けていた。

その時、クラインが放った一撃により、奴の足が吹き飛んだ。

 

「よし、いいぞ! 今吹き飛ばした片側から足を破壊するんだ! そうすればバランスを崩すはずだ!」

 

俺の言葉にクラインたちは頷き、攻撃を続けた。 俺とユウキは攻撃を捌きながら、タゲを取り続けた。

七分経過した頃、片側の足を全て破壊したことで、ボスがバランスを崩し、真横に倒れた。

その隙に、全員のソードスキルを叩き込み、全ての足を破壊した。

最後は動けなくなった所を、俺の剣技連携(スキルコネクト)を含む多重ソードスキルで仕留め、ポリゴン片へ爆散させた。

 

「みんな、お疲れ」

 

俺がそう言ってから、お馴染みのハイタッチをする。

それから、HPMPを全快にした後、第四層に踏み込んだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

ボス部屋の通路に踏み込んだ俺たちの眼前に――判断に迷う一つの光景が出現した。

 

「助けて……」

 

通路の壁際に、細長い氷柱で作られた檻の向こうに、一つの人影があった。

身長はアスナとほぼ同じ位で、粉雪のように白い肌と長く流れる深いブラウン・ゴールドの髪、漆黒の瞳、身体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸は、……この場に居る女性全員を圧倒している。 俺は、胸の大きさなんてどうでもいいが。

 

「お願い……。 私を……ここから、出して…………」

 

ふらり、と氷の檻に吸い寄せられた刀使いの、後ろ頭から垂れるバンダナの尻尾を、俺はがしっと掴み、引き戻した。

 

「罠だ」

 

「罠だね」

 

「罠ですね」

 

「罠だよ」

 

俺、ユウキ、ラン、アスナと続いた。

ぴくんと背中を伸ばして振り向いたクラインは、実に微妙な表情で頭を掻いた。

 

「お……おう……罠、だよな。……罠、かな?」

 

往生際の悪い刀使いに、俺は小声で「ユイ?」と訊ねる。 頭上の小妖精から、即時の応答。

 

「NPCです。 ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。――ですが、一点だけ違いが。 この人は、HPゲージがイネーブルです」

 

Enable(イネーブル)、即ち《有効化されている》ということだ。

通常、クエストの登場NPCはHPゲージが無効化されており、ダメージは受けない。

例外が、護衛クエストの対象となっているか、あるいは――。

 

「罠よ」

 

「罠だね」

 

「罠ですね」

 

「罠だと思う」

 

シノン、リズ、シリカ、リーファと続いた。

そう。 罠の可能性もあるのだ。 俺たちの背中から奇襲、或いは何処かに誘導など。

眉を八の字に寄せ、眼を見開き、口をすぼめるという複雑怪奇な表情で固まるクラインをの肩を叩き、俺は早口に言った。

 

「もちろん、罠じゃないかもしれないけど、今はトライ&エラーをしている余裕はないんだ。 一秒も早く、スリュムの所まで辿り着かないと」

 

「お……おう、うむ、まぁ、そうだよな、うん」

 

クラインは小刻みに頷き、氷の檻から視線を外した。

俺たちが、奥に見える階段に向かって数歩走った時、再び背後から声がした。

 

「……お願い……誰か…………」

 

その時、綺麗に揃っていた足音の一つが、乱れ、氷の床に擦れた。

振り向くと、クラインが両手を握り締め、深く顔を俯けて立ち止まっていた。

 

「……罠だよな。 罠だ、解ってる――でも、罠でもよ。 罠だと解っていてもよ……」

 

俺は頭をガシガシと掻きながら、

 

「……あーも、解った、解った。 助けようか。 それに、助けないで後悔するより、助けて後悔するがいいもんな」

 

「…………今度は、ボクがデジャブった気がするんだけど」

 

「気のせいだろ」

 

俺とユウキの言葉を聞いていたクラインは、がばっと顔を上げた。

 

「そうかそうか。 じゃあ、俺が助けてくるわァ」

 

勢いよく振り向き、氷の檻にどたどたと駆け戻って行くクラインの背中を、他のメンバーは追い掛けた。

両手で上体を持ち上げる囚われの女性に向かって、クラインは「今助けてやっかんな!」と叫ぶと、左腰の愛刀の柄を握り、居合い系ソードスキル《ツジカゼ》を放ち、氷柱の檻を横一線に薙いだ。

更にクラインが持つ刀が閃き、両手足を束縛する氷の鎖が断たれると、美女は力なく顔を上げて囁いた。

 

「……ありがとう、妖精の剣士様」

 

「立てるかい? 怪我ァねぇか?」

 

しゃがみ込み、右手を差し出すクラインは、もう完全に《入り込んで》いる。

まぁ、VRMMOのクエスト進行中なのだから、ストーリに没入するのは正しい態度だ。

俺も、女王ウルズの要請に従って巨人王スリュムの野望を打ち砕く、という目的を全力で遂行中なのだから、ここでクラインに一歩引くような態度を取るのは間違っている。 間違っているが、しかし、何と言うか――。

 

「ええ……、大丈夫です」

 

頷き、立ち上がった金髪美女は、しかしすぐに軽くよろけた。 その背中を一応紳士的手つきで支え、クラインは更に訊ねた。

 

「出口までちょっと遠いけど、一人で帰れるかい、姉さん?」

 

「…………」

 

その問いに対し、金髪美女は眼を伏せて考え込んだ。

カーディナル・システムが備えてる《自動応答言語化モジュール・エンジン》とは、簡単に言えば、プレイヤーにAと言われたらBと答える、というパターンリストの超複雑な奴だ。

高度な予測機能や学習機能を備え、それに接続したNPCは、プレイヤーとかなり自然な会話、もちろん擬似的なものだが。

そのモジュールが更に幾つかのブレイクスルーを起こし、遂に人間的な《感情》や、限りなく《知性》に近い振る舞いまでもを得たのが、俺の頭の上に乗っている小妖精ユイというわけだが、自動応答NPCのそれは現状、ユイの域には遠く及んでいない。

固定応答NPCの、何を言われても決まった台詞だけを繰り返す様と比べれば雲泥の差だが、それでもプレイヤーの言葉を認識出来ない場合が多々あり、その場合はプレイヤー側が《正しい問いかけ》を模索しなければならない。

今回の、金髪美女の沈黙もそういうことだろうと俺は思ったのだが、金髪美女は顔を上げ、クラインの問いに答えた。

 

「……私は、このまま城から逃げ出すわけにはいかないのです。 巨人の王スリュムに盗まれた、一族の宝物を取り戻すため城に忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり捕らえられてしまいました。 宝を取り返さずして戻ることはできません。 どうか、私を一緒にスリュムの部屋へ連れていってくれませんか」

 

クラインは威勢良く宣言した。

 

「おっしゃ、引き受けたぜ姉さん! 袖すり合うも一蓮托生(いちれんたくしょう)、一緒にスリュムのヤローをブッチめようぜ!」

 

「ありがとうございます、剣士様!」

 

金髪美女がクラインの左腕に、むぎゅっとしがみつくと同時に、パーティーリーダーである俺の視界に、NPCの加入を認めるかどうかのダイアログウィンドウが表示された。

 

「おい、クライン。 ユイに妙なことわざを聞かせるなよな!」

 

「クラインさん。 ユイちゃんに変な言葉を教えないでね!」

 

俺とユウキがそう言ってから、イエスボタンを押す。

視界左上から下に並ぶ、仲間たちのHP/MPゲージの末尾に、十人目の【Freyja(フレイヤ)】のゲージが追加される。

俺はリーファが持つメダリオンを一瞥すると、宝石は九割以上が闇に染まりつつある。

残り時間は、三十分あるかどうかだ。

俺とユウキが、口を開く。

 

「ダンジョンの構造からして、あの階段を下りたら多分すぐラスボスの部屋だ。 今までのボスより更に強いだろうけど、あとは小細工抜きでぶつかってみるしかない。 序盤は、攻撃パターンを掴めるまで防御主体、反撃のタイミングは指示する。 ボスの攻撃パターンの変化は、黄色と赤ゲージへの突入で変わるだろうから、注意してくれ」

 

「みんな、これが最後の戦いだよ!! 気合いを入れていこうね!!」

 

「「「「「「「「お――!」」」」」」」」

 

俺たちは、右手を上に突き上げた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

階段を下りた先には、二匹の狼が彫り込まれた分厚い氷の扉が立ちはだかっていた。

この扉の奥が、《霜の巨人王スリィム》の玉座の間だろう。

扉は、俺たちが五メートル内に踏み込んだ途端、自動的に左右に開き、奥から冷気の風が吹き寄せてくる。

 

「アスナ、頼む」

 

「うん」

 

俺の問いに頷いたアスナは、全員に支援魔法を張り直し(リバブ)し始めると、先程パーティーに加わったフレイヤがそれに参加し、全員のHPを大幅ブーストするという未知の魔法を掛けてくれた。

全員で頷き交わし、ボス部屋に一気に駆け込む。

内部は、横方向にも縦方向にも、途轍もなく巨大な空間になっていた。

壁や床は、これまでと同じ青い氷。 同じく氷の燭台に、青紫色の炎が不気味に揺れ、遥か高い天井にも同色のシャンデリアが並ぶ。 しかし俺たちの眼を真っ先に奪ったのは、左右から奥へと連なる、無数の眩い反射光だった。

黄金。 その中には、剣、鎧、盾、彫像から家具まで、ありとあらゆる種類の黄金製オブジェクトが、無数に積み重なっている。

ユウキとアスナ、ランとリズ、リーファが周りを見渡し、言った。

 

「う~、眼がちかちかする……」

 

「凄い数の財宝ね」

 

「幾らあるんでしょうか?」

 

「…………総額、何ユルドだろ……」

 

「億万長者もビックリですよ!」

 

そんな風に話している五人に対し、残りの四人は部屋の奥を見据えた。

次の瞬間、広間の奥の暗がりから、地面が震えるような重低声が聞こえてきた。

 

「……小虫が飛んでおる」

 

地響きをたてながら、此方に近づいて来るのは、巨大な影だ。

その影は、通常の邪神や、この城で戦ってきたボス邪神の倍を優に超える大きさであり、脚は巨木のように太く、肌の色は鉛のような鈍い青。

両腕両足には、巨大な獣から剥いだ黒褐色の毛皮を巻き、腰回りには小舟ほどの板金鎧。

上半身は裸で筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)であり、胸には青い髭が垂れ、額に乗る黄金の冠と、瞳は寒々とした青。

いままで戦ってきたボスの中でも、最大級の大きさだ。

 

「ふっ、ふっ……アルヴヘイムの羽虫どもが、ウルズに(そそのか)されてこんな所まで潜り込んだか。 どうだ、いと小さき者どもよ。 あの女の居所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ()れてやるぞ、ンンー?」

 

今の台詞からして、コイツこそが《霜の巨人王スリュム》であるのは最早間違いなかった。

大巨人に向かって、真っ先に言葉を返したのはクラインと俺とユウキだ。

 

「……へっ、武士は食わねど高笑いってなァ! オレ様がそんな安っぽい誘いにホイホイ引っかかって堪るかよォ!」

 

「お前を倒して、ヨツンヘイムを元に戻す!」

 

「君は、今日ここで倒されるんだよ!」

 

言葉が終わると同時に、全員が武器を抜き放ち、構える。

奴は、俺たちを遥か高みから睨め付けた後、先程パーティに加わったフレイヤに眼を向けた。

 

「……ほう、ほう。 そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。 檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心が付いたのかな、ンン?」

 

クラインが半ば裏返った叫びを漏らす。

 

「は、ハナヨメだぁ!?」

 

「そうとも。 その娘は、我が嫁としてこの城に輿入(こしい)れたのよ。 だが、宴の前の晩に、儂の宝物庫を嗅ぎ回ろうとしたのでな。 仕置きに水の獄へ繋いでおいたのだ、ふっ、ふっ」

 

やや、状況が複雑になってきたので、脳裏で整理してみる。

フレイヤという名の金髪美女は、先程『一族から盗まれた宝を取り戻す為にこの城に忍び込んだ』と言っていた。

だが、考えてみれば、空中に浮かぶスリュムヘイム城の一箇所しかない入り口をすり抜けるのは困難だ。

そこで、スリュムの花嫁になると偽って堂々と城の門を潜り、夜中に玉座の間に侵入、宝を奪還しようとした。 そこで門番に発見され、牢屋で鎖に繋がれてしまった――という設定なのか?

そもそも、フレイヤの《一族》とはアルヴヘイムの妖精九種類の内どれなのか?

奪われた宝とは何なのか?と内心で考えていたら、リーファが、俺の服の袖をくいくいと引っ張る。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。 あたし、この展開に覚えがあるような……。 スリュムとフレイヤ……盗まれた宝……あれは、ええと、確か……」

 

しかし、リーファが記憶再生に成功するより早く、後ろでフレイヤが毅然と叫んだ。

 

「誰がお前の妻になど! かくなる上は、剣士様たちとお前を倒し、奪われた宝を取り戻すまで!」

 

「ぬっ、ふっ、ふっ、威勢の良いことよ。 さすがは、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。 しかし、気高き花ほど手折る時は興深いというもの……小虫どもを捻りつぶしたあと、念入りに愛でてくれようぞ、ぬっふふふふ……」

 

クエストとはいえ、こんな下劣な言葉使いは不愉快になる。

 

「…………弱い犬ほどよく吠える」

 

「…………負け犬の遠吠えだね」

 

俺とユウキの言葉を聞いた皆は、ぐっと親指を立てた。

 

「こ、小虫風情が! 儂になんて言葉を!――まぁよい、ヨツンヘイムが儂の物となる前祝に、まずは貴様らから平らげてくれようぞ……」

 

ずしん、とスリュムが一歩踏み出した瞬間、俺の視界右上に、長大なHPゲージが三段積に重なって表示された。

スリュムの見た目からして、相当なステータスが設定されているはずだ。

HPゲージが見えない、新生アインクラッドのボスたちと比べれば、ペース配分が掴めるからまだマシだが。

 

「――来るぞ! ユイの指示をよく聞いて、序盤はひたすら回避!」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

皆が俺の言葉に答えた直後、スリュムが巨大な右拳を天井近くまで高々と持ち上げ、猛然と振り下ろした。

俺たちと、霜の巨人王スリュムとの戦闘が開始された。




無理やり感があったかな。
うん、無い事を祈ろう。

第三層のボス戦もオリジナルですよ。
アニメを参考にしました~。(なんか、スカルリーパー戦みたくなったが)
さて、この小説の本編もラストスパートですね(^^♪
一応、後日談までの流れは出来ています。
まあ、この先どうなるかわかりませんが。
あと、気になったことが活動報告に書いてありますので、暇があったらご覧ください(^◇^)

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!

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