ちょいキツの言葉を貰い、心が折れそうな舞翼です!!(空元気)
まぁ、でも、気合で書きました。
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。
トンキーの背に乗って移動を始めた俺たち。 そんな中、リズベットが言葉を漏らした。
「……ねぇ、これ、落っこちたらどうなるの?」
「飛べないからな。 間違えなくお陀仏だろうな」
ヨツンヘイムでは原則的にどの種族も飛行不可能であり、また高所落下ダメージが適用されるのだ。
スキル値などにもよるが、ダメージは十メートル程度から発生し、三十メートルを超えると確実に死亡だ。
俺の隣に座るユウキが、言った。
「でもでも、ボクとキリトは、昔アインクラッドの外周の柱から次の層に登ろうとして、落っこちたよね」
「どっちが早く登れるか競争してたんだよな」
リズベットが右手を額に当て、
「あんたたちは、何やってのよ……」
「いや、あの時は遊び心で。 転移結晶を使うのが後一秒遅かったら、生命の碑の名前に横線が引かれたな」
俺は頬をポリポリ掻いた。
次いでユウキが言葉を発した。
「だね~」
「……あんたたちって、本当に……」
「キリトさん、ユウキ。 後でお仕置きです」
「私も混ざるからね」
ランとアスナに笑顔で言われたが、眼が笑っていなかった……。
「「……はい」」
「…………高い所から落ちるなら、猫科動物の方が向いているんじゃないかな」
俺がそう言うと、猫科二人がぶんぶんと首を左右に振った。
そんなやり取りをしている間にも、トンキーは四対八枚の翼をゆっくり羽ばたかせ、空中を進んで行く。
目指す場所は、氷の空中ダンジョンの入り口だ。
このまま安全運転でお願いします。と願った瞬間だった。
トンキーが急降下ダイブしたのだ。
「「うわあああぁぁぁあああ!?」」
俺とクラインの太い絶叫。
「「「「「「きゃあああぁぁぁあああ!?」」」」」」
女性陣の甲高い声。
「やっほ―――――う!」
《スピード・ホリック》ことリーファは、とても気持ち良さそうにしていた。
皆は広い背中に密生する毛を両手で掴み、襲ってくる風圧に必死に耐える。
殆んど垂直の急降下で、下の地面にみるみる近づく。
トンキーは巨大な大穴《ボイド》の南の縁に来ると、急ブレーキを掛け、五十メートル上空で緩やかな水平巡航に入った。
その時、トンキーの頭を乗り上げるよう身体を伸ばしていたリーファが、声を上げた。
「み、みんな、あれ見て!」
言われるまま、全員一斉にリーファが指差した方向を凝視した。
俺たちはそれを見て驚愕した。
「どういうことなんだ?」
「なんで人型邪神さんが、プレイヤーさんたちと一緒に居るの?」
ユウキの言う通りなのだ。 攻撃しているのは、三十人を超える種族混合部隊のレイドパーティー。 これだけを見れば《邪神狩りパーティー》と言える。
だが、人型邪神もプレイヤーと一緒に、像水母邪神を攻撃していたのだ。
像水母邪神を倒し終えた後、両者は戦闘にならず、連れ立って移動を始めたのだ。
「あれは……どうなってるの? あの人型邪神を、誰かがテイムしたの?」
アスナの問いにユイが答えた。
「そんな、有り得ません。 邪神級モンスターのテイム成功率は、最大スキル値に専用装備でブーストしても不可能です!」
クラインが、逆立った髪をかき混ぜて唸った。
「あれは、なんつぅか……便乗してるようにしか見えねぇぜ。 人型邪神が像水母邪神を攻撃している所に乗っかって、追い打ちを掛けているみてぇな……」
「でも、そんなに都合良く
と、シノンが冷静にコメントする。 確かにシノンの言う通りだ。
邪神の行動パターンからして、接近して魔法スキルなどを連発すれば、人型邪神のターゲットはプレイヤー側に移動してもいいはずだ。
しかも大規模レイドパーティーの幾つかが、人型邪神と行動しているのが窺える。ということは……。
「……もしかして、さっき上でアスナが言っていた。 ヨツンヘイムで新しく見つかった
俺が呟くと、それを聞いていた八人が揃って息を吸い込む。
恐らく、それに間違えない。 クエスト進行中なら、特定のモンスターと共闘状態になることがままあるのだ。
だがそうなると、そのクエストの報酬が《聖剣エクスキャリバー》だというのは、いったいどういう理屈なのだろうか。
あの剣は、人型邪神の本拠地である空中ダンジョンに封印されているのであって、つまり人型邪神を倒さなければ入手出来ない代物のはずだ。
そこまで考えていた俺は妙な気配を感じ、後ろを振り向いた。
俺に釣られて他のメンバーも後ろを振り向く。
トンキーの背中の一番後ろ、誰も座っていないあたりに光の粒が音も無く漂い、凝縮し、一つの人影を作り出したのだ。
ローブ風の長い衣装、背中から足許まで流れる波打つ金髪、三メートルを超える背丈、優雅かつ超然とした美貌の女性だった。
「私は、《湖の女王》ウルズ」
金髪のお姉さんは、続けて俺たちに呼びかけた。
「我らが眷属と絆を結びし妖精たちよ。 そなたらに、私と二人の妹から一つの
「へ~、君って長女なんだ」
「「「「「「「「って、そこ(ですか)(かよ)!!」」」」」」」」
他のメンバーは、ユウキに突っ込んでしまった。
「えへへ~」
ユウキは、俺たちの突っ込みを見て笑っていたが。
するとユイが俺の左肩に乗り、可愛らしい囁き声。
「パパ、あれ人はNPCです。 でも、少し妙です。 通常のNPCのように、固定応答ルーチンによって喋っていません。 コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しています」
「……つまり、AI化されているってことか?」
「流石パパです」
俺は彼女の言葉に耳を傾けた。
NPC――《湖の女王ウルズ》は、真珠色に煌く右手を広大な地下世界に向けると、言った。
「かつてこの《ヨツンヘイム》は、そのたたちの《アルヴヘイム》と同じように、世界樹イグドラシルの
その言葉と同時に、周囲の雪と氷に覆われたフィールドの光景が、音もなく揺れ、薄れる。
二重写しのように現れたのは、ウルズの言葉通りに草木と花々、そして清らかな水に溢れた世界だ。
女王ウルズの背後に存在する底無しの大穴《グレートボイド》も、本来は煌く透明な水を満たした広大な湖であり、天蓋からぶら下がっているだけの世界樹の根は、太く寄り集まって湖にまで達して全方向に広がっていた。
水面から盛り上がる太い根の上には、丸太で組まれた町が存在しており、その風景は地上の《中都アルン》ととても良く似ていた。
ウルズが右手を下ろすと、幻の風景も消え去った。 彼女はどこか悲しそうな表情を浮かべ、口を開いた。
「――ヨツンヘイムの更に下層には、氷の国《ニブルヘイム》が存在します。 彼の地を支配する巨人族の王《スリゥム》は、ある時オオカミに姿を変えてこの国に忍び込み、鍛冶の神ヴェルンドが鍛えた《全ての鉄と木を断つ剣》エクスキャリバーを、世界の中心たる《ウルズの湖》に投げ入れました。剣は世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間、ヨツンヘイムからイグドラシルの恩寵は失われました」
ウルズが左手を持ち上げる。 再び幻視のスクリーンが映し出され、その圧倒的な光景に、俺たちは声も無く見入った。
巨大な湖――《ウルズの湖》の全面に伸びていた世界樹の根が、のたうち、浮き上がり、天蓋の方へ縮小していく。 そして根の上に築かれた町々は、崩壊していく。
同時にあらゆる木の葉は落ち、草は枯れ、光が薄れる。 川は凍り付き、雪が降り、吹雪が荒れ狂う。 《ウルズの湖》を満たしていた膨大な水も一瞬で凍り付き、巨大な氷の塊となったそれを、世界樹の根を包みながら上空へ引き上げていく。 世界樹の根には巨大な氷塊がその半ばまで天蓋に突き刺さる。 その氷塊こそが、現在ヨツンヘイムの上空に
ウルズが左手を下ろすと、幻のスクリーンは消え去った。
「王スリュムの配下《霜の巨人族》は、ニブヘイムからヨツンヘイムへと攻め込み、多くの砦や城を築いて、我々《丘の巨人族》を捕え幽閉しました。 王は
これを聞いていたクラインが、憤慨したように叫んだ。
「な……なにィ! ンなことしたら、アルンの街が壊れちまうだろうが!」
ウルズはその言葉に頷いた。
「彼等の目的は、アルヴヘイムを氷雪で閉ざし、世界樹イグドラシルの梢に攻め込み、其処に実るという《黄金林檎》を手に入れることです」
「ああ、確か天辺近くには、有り得ないくらいの強い大型鷲ネームドモンスターに守られて近づけないエリアがあるな。 もしかしたら、其処に黄金林檎があるのかもな。 でも、良い所まで行ったんだよな~」
「そうだね~、あと鷲さんを二匹倒せば、そのエリアに入れたんだけどね~」
「一瞬の油断が命取りになったんだよな」
「そうだ。 もう一回挑戦しようか!」
「おお、それいいな!」
俺とユウキの言葉を聞いて、他のメンバーは口をポカンと開けていた。
まぁそうなるのも仕方が無い。 そのエリアに入ろうとする奴は、自殺願望者だけだからな。
俺とユウキの会話を終わったのを確認してから、ウルズは続きを話した。
「我ら眷属たちをなかなか滅ぼせないことに苛立ったスリィムと雪巨人の将軍たちは、遂にそなたたち妖精の力をも利用し始めました。 エクスキャリバーを報酬に与えると誘いかけ、眷属狩りを尽くさせようとしているのです。 しかし、スリィムがかの剣を余人に与えることなど有り得ません。 スリュムヘイムからエクスキャリバーが失われる時、再びイグドラシルの恩寵はこの地に戻り、あの城は溶け落ちてしまうのですから」
「え……じゃ、じゃあ、エクスキャリバーが報酬っていうのは、全部嘘だってこと!?」
リズベットが女王に問うた。
「恐らく、鍛冶の神ヴェルンドがかの剣を鍛えた時出来た失敗作、見た目はエクスキャリバーにそっくりな、《偽剣カリバーン》を与えるつもりなのでしょう。 充分に強力ですが、真の力は持たない剣を」
「王様がそんなことするなんて、ずるい……」
リーファが呆然と呟く。
「ですが、配下の殆んどを、
このクエストの《女王の請願》の目的は、エクスキャリバーの奪還か。
♦♦♦♦♦♦♦♦
「……なんだか、凄いことになってきましたね……」
「……まったくだ」
《湖の女王ウルズ》が金色に光る水滴に溶けて消滅し、再び上昇を始めたトンキーの背中の上で、ランの呟きに応じていた。
続いて思考を立て直したらしいシノンが、水色の尻尾を振り動かしながら言った。
「これって、普通のクエスト……なのよね? でもその割には、話が大がかりすぎるっていうか……動物系の邪神が全滅したら、今度は地上にまで霜巨人に占領される、とか言ってなかった?」
俺とユウキは腕を組みながら、
「「……言ってた(な)(ね)」」
「でも運営側が、アップデートの告知もなくそこまでするかな? 他のMMOでも、《街をボスが襲撃イベント》くらいならよくあるけど、普通は最低でも一週間前には予告があるよなぁ……」
俺の問いに、全員が首を縦に振っている。
すると、俺の左肩に乗っていたユイが飛び立ち中央でホバリングしながら、皆に聞こえるボリュームで言葉を発した。
「これは推測なんですが……。 この《アルヴヘイム・オンライン》は、他の《ザ・シード》規格VRMMOとは大きく異なる点が一つあります。 それは、ゲームを動かしている《カーディナル・システム》が機能縮小版ではなく、旧《ソードアート・オンライン》に使われていたフルスペック版の複製ということです」
俺は思ったことを口にした。
「《クエスト自動生成機能》か!?」
「流石パパです。 本来カーディナル・システムには、シュリンク版では削られている機能が幾つかありました。 その一つが先程パパが言った、《クエスト自動生成機能》です。 ネットワークを介して、世界各地の伝説や伝承を収集し、それらを固有名詞やストーリー・パターンを利用・翻案してクエストを無限にジェネレートし続けるのです」
「てぇこたあ、オレたちがアインクラッドで散々パシられたあのクエは、全部システム様が自動で作っていたってことかよ」
「……どおりで多すぎると思ったのよ。 75層時点で、情報屋のクエスト・データベースに載っているだけでも一万個は軽く超えていたもの……」
「だからですか。 意味が解らないクエストが沢山ありましたからね」
クラインは肩を落とし、アスナは呆れを見せ、ランは納得していた。
こう言い合っていると、旧アインクラッド愚痴大会になってしまうので、咳払いして話を戻す。
「ってことは、ユイ。 このクエストも、カーディナル・システムが自動生成したものなのか?」
「先程のNPCの
ユイは、何かを怖れるような表情で囁いた。
「……私がアーカイブしているデータによれば、該当クエスト及びALOそのものの原形となっている北欧神話には、《最終戦争》も含まれるのです。 ヨツンヘイムやニブルヘイムから霜の巨人族が侵攻してくるだけでなく、更にその下層にある、《ムスペルヘイム》という灼熱の世界から炎の巨人族までもが現れ、世界樹の全てを焼き尽くす……という……」
「…………そうか、≪
「そ、そんな……幾らなんでも、ゲームシステムが、自分の管理しているマップを丸ごと崩壊させるようなことが出来るはずが……!」
「「可能(だ)(です)」」
妖精の世界の崩壊。 その説明を受けたリーファが否定しようとするが、俺とユイがさらに否定した。
他の全員も驚愕している。
「……オリジナルのカーディナル・システムには、ワールドマップを全て破壊し尽くす権限があります」
「旧カーディナルの最終任務は、浮遊城アインクラッドを崩壊させることだったからな」
今度こそ、誰も言葉を発することは無かった。
口を開いたのは、シノンだった。
「もし、仮にその《ラグナロク》が本当に起きても、運営側が望まない展開なら、サーバーを巻き戻すことは可能じゃないの?」
「お……おお、そうか、そりゃそうだよな」
クラインがうんうんと頷いた。
だがユイは首を左右に振り、それを否定した。
運営サイドが手動で全データのバックアップを取り、物理的に分割されたメディアに保管していれば可能だが、カーディナルの自動バックアップ機能を使用していればそれは不可能だと言った。
GMに連絡を取ろうにも年末の日曜日の午前中は、人力サポート時間外だ。
俺は息を吐き、上空を振り仰いだ。
すると、氷の巨大ピラミッドは眼と鼻の先にまで接近している。
「黄金の剣を手に入れてラグナロクを止めれば、何の問題もないよ」
「ま、そうだな」
俺はユウキの問いに頷いた。
「そうだね。 クリアしちゃえばいいことだし」
「そうですね」
「そうね」
「ですね」
アスナとランの言葉に、シノンとリーファが続いた。
「はぁ~、あんたらは楽観的なんだから」
「それが皆さんのいい所ですから」
リズベットが大きく息を吐き、シリカがニコニコ笑いながら言っていた。
クラインがニヤリと笑い、言った。
「オッシャ、今年最後の大クエストだ! ばしーんと決めて、明日のMトモに載ったろうぜ!」
リーファがトンキーの頭を撫でながら、言った。
「待っていてね、トンキー。 絶対、あなたの国を取り戻してあげるからね」
リーファが、右手にぶら下げた大きなメダリオンを高くかざした
《湖の女王ウルズ》から与えられたそれは、綺麗にカットされた巨大な宝石が嵌め込まれている。 しかし今、カット面の六割以上が漆黒の闇に沈み、輝きを失い掛けている。
この石が暗黒に染まる時、地上の動物型邪神は全て狩り尽くされ、ウルズの力も完全に消滅する。 その時こそ、《霜の巨人の王スリュム》のアルヴヘイムの侵攻が開始されるのだ。
俺はウインドウを開くとロングソードを交差して吊った。 他の皆も各自の武器を装備する。
トンキーはピラミッドを横切り、上部の入り口に身体を横付けし、俺たちは扉の前に降り立った。
そして扉がゆっくりと開く。
前衛に俺とユウキ、クライン。 中衛にリズとリーファ、ラン。 後衛にアスナとシノン、シリカというフォーメーション。
ユイが俺の胸ポケットに入ったのを確認してから、俺たちは氷の床を蹴り飛ばして、巨城《スリュムヘイム》へと突入した。
今回は、説明会でしたね。
特に変わったとこは無しですね。
さて、次回からはダンジョン攻略ですね。
まぁ、モチベが持てばいいんですが……。
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