舞翼です!!
書き上げました。
今回は、シノンがメインですね。
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。
シノンを洞窟に残して外に出た俺たちは、この世界の夜空を見上げながら、サテライト・スキャンの時を待った。
数秒後、マップ中央に幾つかの光点が浮かび上がった。
「……これは……」
俺は呟いてしまった。
画面上に表示された光点の殆どが、死亡を意味するグレーで塗り潰されていたからだ。
《死銃――Sterben》は光歪曲迷彩でスキャンを回避しているとして、俺たち以外に砂漠地帯に表示されている光点は一つ。
指先で触れると、表示された名前は《闇風》だ。
マップを広域に広げると、都市廃墟エリアにも光点が二つされたが、直後暗転し、グレーに変わった。
「……どうなってるんだ?」
「多分、衛星スキャンが開始されるまで、二人とも相手の場所を知らなかったんだよ。 スキャン後初めて、例えば壁一枚隔てた隣の部屋に居ることを知って、お互いに驚いて、グレネードを投げた、ってことじゃないかな」
「そりゃ……南無」
大会終盤まで勝ち残ってきた猛者たちとしては、不本意な幕切れだろう。
これで、三十人から開始されたバトルロイヤルの生き残りは五人。
≪kirito≫、≪yuuki≫、≪Sinon≫、≪
最後に、全体に散らばる光点と暗点の合計数を数え、俺は低く声漏らした。
「……おかしいぞ」
「何がおかしいの?」
「光点の数だよ。 生存が三、死亡が二十三。 此処に映っていない、シノンと死銃、回線切断で消えたペイルライダーを足しても、二十九人だ。 何処かに隠れて居る?――何らかの理由で回線切断をし、姿を消した、ということか……?」
ユウキが口籠った。
「……可能性としてはゼロじゃないと思うけど……」
「どんな?」
「死銃さんが二人組じゃないって事だよ」
「ッ!?」
死銃の実行犯が複数居るなら、その一人がシノンの部屋に潜んでいて、別の構成員が動いている可能性があるかもしれないのだ。
《ラフィン・コフィン》の残党は、少なくとも十人以上居るのだ。
だが、奴らが集団で動いているとは考えにくい……。
「……シノンさんが居る洞窟へ戻ろうよ」
「……ああ、そうだな」
♦♦♦♦♦♦♦♦
洞窟に戻ると、シノンはバギーを隠した最奥部ではなく、角を少し曲がった辺りでライフルを肩に掛けて待っていた。
「どうだった!? 状況は!?」
顔の両サイドで結わえた水色のショートヘアを揺らし、急き込んで訊ねてくるシノンに、簡潔かつ丁寧に説明を試みる。
「スキャンの最中にも二人相討ちで退場して、残りは恐らく五人だ。 俺、ユウキ、シノン、闇風、画面に映らない《死銃》。 闇風は、此処から六キロ南西。 死銃もこの砂漠の何処かに居るはずだ。 グレーの点が幾つもあったから、死銃は俺たちを捜しならがら、片端から倒したのかもな。――人数のことなんだが。 もしかしたらもう一人、……回線切断をされた可能性が高い」
シノンは眼を見開き、首を左右に振った。
「………………まさか、死銃があれからまた、誰か殺したっていうの?――で、でも、そんなの不可能よ! だって、共犯者は私を狙ってるはずでしょ?」
ユウキが口籠りながら、
「……シノンさん聞いて。 もし、もしだよ。……死銃さんの共犯者が、一人じゃなかったら。 複数の実行部隊が居たら……」
「そ、そんな……。 こんなに恐ろしい犯罪に、三人以上が関わっているって言うの……?」
「……元《ラフィン・コフィン》の生還者は、少なくても十人以上いるんだ。 その人たちは、半年近くも同じ牢獄エリアに閉じ込められていた。……連絡手段を相談したり、この事件の計画を練る時間があったのかもしれないんだ。 十人全員が共犯者さんだと思わないけど。…………共犯者さんが一人だけと言う根拠もないんだ」
重い沈黙が暫し続いた。
その沈黙を、俺が破った。
「……もしかしたら、闇風も死銃のターゲットになっている可能性もあるんじゃないか……」
「ボクが死銃さんの注意を引くから、キリトは闇風さんを倒して」
俺は反論しようと思ったが、ユウキの強い瞳を見て、頷いた。
「闇風は、私が相手をする」
そう口にしたシノンの声音は、過去の亡霊に怯える少女ではなく、《氷の狙撃手》のものだった。
俺とユウキは頷いた。
「…………わかった、それで行こう。 シノンは闇風を倒してくれ」
「ボクたちは、死銃さんの相手をするね。 シノンさんは此処から出たら、狙撃出来そうな位置についてね」
「ええ、わかったわ」
「よし! 行こう!」
俺たちは拳をこつんと、打ち付けた。
♦♦♦♦♦♦♦♦
暗視モードに変更したへカートⅡのスコープを、シノンは右眼で覗き込んだ。
広大な砂漠には、今の所動く物は見当たらない。
だが、闇風と死銃は確実に接近している
シノンが狙撃位置に選んだ場所は、隠れていた洞窟がある、低い岩山の山頂だった。
地上からは見つかり難いが、移動出来るルートが一つしかない。
もし接近されれば、退避出来ずに撃たれる可能性がある。
でも今は、ネガティブな想像は捨て去る時。
心をフラットに保ちながら、そっとライフルを右に旋回させると、約百メートル離れた砂丘の天辺に、ひっそりと立つ二つの人影があった。
時折吹き抜ける風が、背中まで伸びる長い黒髪を揺らす姿は、銃を帯びた兵士と言うよりも、幻想的に佇む妖精の剣士のように見えた。
「(二人は、妖精の世界から銃の世界に来たんだっけ? 私も、妖精の世界に行ってみようかな?)」
シノンは大きく息を吐き、集中力を高めてから、ライフルの向きを戻した。
シノンの役割は、二人に最大限の集中力を与え、背後に接近する闇風を排除することだ。
前優勝者、ゼクシードが居ないこの大会では、誰もが優勝候補筆頭と認める相手を、一撃で沈めなければならない。
……今の私に、出来るだろうか?
シノンは、忍び寄ろうとする迷いや怖れを、懸命に振り払った。
今まで、GGOのシノンと、現実世界の朝田詩乃を、心の何処かで別の存在と区別していたのかもしれない。
強いシノンと、弱い詩乃。
そんな風に考えてしまったから、廃墟エリアではミスショットをしてしまったのだ。
シノンの中にも詩乃は居る。 詩乃の中にもシノンは居るのだ。――どちらも同じ《自分》。
――私はこの一弾を、詩乃として撃つ。 五年前の事件の時、そうしたように。
過去と向き合い、罪を見詰め直す。
そこから始め、歩き出さないといけないんだ。
シノンの右眼がスコープの彼方に、高速で移動する影を捉えた。 《闇風》だ。
トリガーに指を添える。
狙撃のチャンスは一度しかない。
もし外せば、闇風が二人に強襲するだろう。
死銃はその混乱に乗じて、シノンに接近し、もう一度
シノンが黒星に撃たれれば、共犯者が詩乃の心臓に薬液を注射し、心臓を止める。
――この一弾には、詩乃の命が掛っているのだ。
しかし、心の中は不思議と静かだった。
へカートⅡ。 数多の戦場を共に駆け抜けてきた、無二の分身。――《冥府の女神》。
「(……お願い。 弱い私に、力を貸して。 ここからもう一度立って、歩き出す為の力を)」
遂にスコープに闇風を捉えた。
――速い!!
闇色の風と言うべき強烈な移動速度で、二人の背後に接近していた。
恐らく、二人も闇風の接近に気付いているはず。
だけど二人は前だけを見据え、闇風が迫ってくる方向には眼を向けていない。
これは、私を信頼してくれている証。
私はその信頼に、精一杯答えたい。
闇風は二人を狙う瞬間に、一度制止するはず。
思考を完全に止め、全存在がへカートと一体化し、集中力を極限まで高める。
視界に映し出されたのは、疾駆するターゲットと、その心臓を追い続ける十字のレティクルのみ。
その状態で、どれだけの時間が経過したのかさえ解らなかった。
そして、その瞬間が訪れた。
視界の端を、白い光が右下から左上へと横切った。
銃弾。――へカートのものではない。
死銃が放った銃弾だ。
それをキリトが回避し、西側から接近する闇風の元に届いたのだ。
闇風も、突如銃弾が飛来するとは予想出来ていなかった為、その場で身を屈めて制動をかけ、次いで岩陰へと方向転換しようとした。
これが、最初で最後のチャンスだ。
「(……今だ!!)」
指がトリガーを引き始める。
視界に薄緑色の《着弾予測円》が表示され、それが一瞬で極小のドットまで縮小し、胸の中央をポイントさせる。
トリガーを完全に絞り、巨大な50BMG弾の装薬がチャンバー内で炸裂、弾頭を瞬時に超音速まで加速させ、――撃ち出した。
へカートのマズルフラッシュに気付いた闇風の両眼と、シノンの右の瞳が、スコープ越しに衝突する。
驚きと悔しさ、それに確かな賞賛の色を見た気がした。
直後。 闇風の胸に、眩いライトエフェクトが弾けた。
アバターは数メートル以上吹き飛ばされ、砂の上を数度転がり、腹部に【DEAD】の文字が回転を始めようとした時には、シノンはへカートごと身体の向きを百八十度変えた。
其処には、さっきの銃弾を躱したキリトが一直線に疾駆する姿が映った。
次いで、ユウキの行く先でオレンジ色の光が瞬いた。
二人は飛来した銃弾を光剣で弾き飛ばし、回避を繰り返して、視線の先に映っていると思われる死銃に接近している。
接近するのは、距離が縮まるほど困難を極める。
シノンはスコープの暗視モードを切ると、同時に倍率を限界まで上げ、銃弾の発射位置を捉えた。
――大きなサボテンの下。 布地の下から突き出す特徴的な減音器の付いた銃、《サイレント・アサシン》。
そして其処には、死銃の姿。
その姿を見た途端、湧き上がろうとする恐怖に、シノンは右眼を見開いたまま抗った。
「(……お前は亡霊じゃない。 《ソードアート・オンライン》の中で沢山の人を殺し、現実世界に戻って来ても、こんな恐ろしい計画を企む精神の持ち主であっても、生きて呼吸し、心臓を脈打たせてる人間だ――)」
――戦える。
死銃に十字レティクルを合わせ、トリガーを絞る。
瞬間、死銃の頭がピクリと動いた。
恐らく、闇風を銃撃した場所から、予測線を見たのだ。
だが、これで条件は対等だ。さぁ――。
「(勝負!!)」
死銃がサイレント・アサシンを動かし、シノンに銃口を向けたと同時に、シノンは予測円の収束を待たず、トリガーを引いた。
轟音と同時に、死銃のライフルも小さな火炎を迸らせた。
シノンはスコープから顔を離し、肉眼で飛来する銃弾を確かめる。 瞬間――。
くわぁん! と甲高い衝撃音を響かせ、へカートに装着した大型スコープが、跡形もなく吹き飛んだ。
右眼を付けたままだったら即死していただろう。
銃弾はシノンの右肩を掠り、背後へと消えた。
へカートから放たれた50BMG弾は、狙いを僅かに逸らし、銃のレシーバーへと命中した。
直後、銃の中心部がポリゴンの欠片となって吹き飛び、銃のパーツがばらばらと砂に落下する。
この瞬間、死銃が携えてたサイレント・アサシンは、破壊された。
この世界では稀少かつ高性能な銃の最期に、シノンは弔いの言葉を呟いた。
「(…………ごめんね)」
スコープが破壊されてしまった今、もう遠距離狙撃は出来ない。
「あとは任せたわよ。 二人とも」
シノンは、二人の光剣使いに囁きかけた。
次回は死銃と対決?かな。
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