ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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ども!!

舞翼です!!

書き上げました。
今回は、シノンがメインですね。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


第84話≪シノンの覚悟≫

シノンを洞窟に残して外に出た俺たちは、この世界の夜空を見上げながら、サテライト・スキャンの時を待った。

数秒後、マップ中央に幾つかの光点が浮かび上がった。

 

「……これは……」

 

俺は呟いてしまった。

画面上に表示された光点の殆どが、死亡を意味するグレーで塗り潰されていたからだ。

《死銃――Sterben》は光歪曲迷彩でスキャンを回避しているとして、俺たち以外に砂漠地帯に表示されている光点は一つ。

指先で触れると、表示された名前は《闇風》だ。

マップを広域に広げると、都市廃墟エリアにも光点が二つされたが、直後暗転し、グレーに変わった。

 

「……どうなってるんだ?」

 

「多分、衛星スキャンが開始されるまで、二人とも相手の場所を知らなかったんだよ。 スキャン後初めて、例えば壁一枚隔てた隣の部屋に居ることを知って、お互いに驚いて、グレネードを投げた、ってことじゃないかな」

 

「そりゃ……南無」

 

大会終盤まで勝ち残ってきた猛者たちとしては、不本意な幕切れだろう。

これで、三十人から開始されたバトルロイヤルの生き残りは五人。

≪kirito≫、≪yuuki≫、≪Sinon≫、≪Sterben(死銃)≫、≪闇風≫、と言う事になる。

最後に、全体に散らばる光点と暗点の合計数を数え、俺は低く声漏らした。

 

「……おかしいぞ」

 

「何がおかしいの?」

 

「光点の数だよ。 生存が三、死亡が二十三。 此処に映っていない、シノンと死銃、回線切断で消えたペイルライダーを足しても、二十九人だ。 何処かに隠れて居る?――何らかの理由で回線切断をし、姿を消した、ということか……?」

 

ユウキが口籠った。

 

「……可能性としてはゼロじゃないと思うけど……」

 

「どんな?」

 

「死銃さんが二人組じゃないって事だよ」

 

「ッ!?」

 

死銃の実行犯が複数居るなら、その一人がシノンの部屋に潜んでいて、別の構成員が動いている可能性があるかもしれないのだ。

《ラフィン・コフィン》の残党は、少なくとも十人以上居るのだ。

だが、奴らが集団で動いているとは考えにくい……。

 

「……シノンさんが居る洞窟へ戻ろうよ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

洞窟に戻ると、シノンはバギーを隠した最奥部ではなく、角を少し曲がった辺りでライフルを肩に掛けて待っていた。

 

「どうだった!? 状況は!?」

 

顔の両サイドで結わえた水色のショートヘアを揺らし、急き込んで訊ねてくるシノンに、簡潔かつ丁寧に説明を試みる。

 

「スキャンの最中にも二人相討ちで退場して、残りは恐らく五人だ。 俺、ユウキ、シノン、闇風、画面に映らない《死銃》。 闇風は、此処から六キロ南西。 死銃もこの砂漠の何処かに居るはずだ。 グレーの点が幾つもあったから、死銃は俺たちを捜しならがら、片端から倒したのかもな。――人数のことなんだが。 もしかしたらもう一人、……回線切断をされた可能性が高い」

 

シノンは眼を見開き、首を左右に振った。

 

「………………まさか、死銃があれからまた、誰か殺したっていうの?――で、でも、そんなの不可能よ! だって、共犯者は私を狙ってるはずでしょ?」

 

ユウキが口籠りながら、

 

「……シノンさん聞いて。 もし、もしだよ。……死銃さんの共犯者が、一人じゃなかったら。 複数の実行部隊が居たら……」

 

「そ、そんな……。 こんなに恐ろしい犯罪に、三人以上が関わっているって言うの……?」

 

「……元《ラフィン・コフィン》の生還者は、少なくても十人以上いるんだ。 その人たちは、半年近くも同じ牢獄エリアに閉じ込められていた。……連絡手段を相談したり、この事件の計画を練る時間があったのかもしれないんだ。 十人全員が共犯者さんだと思わないけど。…………共犯者さんが一人だけと言う根拠もないんだ」

 

重い沈黙が暫し続いた。

その沈黙を、俺が破った。

 

「……もしかしたら、闇風も死銃のターゲットになっている可能性もあるんじゃないか……」

 

「ボクが死銃さんの注意を引くから、キリトは闇風さんを倒して」

 

俺は反論しようと思ったが、ユウキの強い瞳を見て、頷いた。

 

「闇風は、私が相手をする」

 

そう口にしたシノンの声音は、過去の亡霊に怯える少女ではなく、《氷の狙撃手》のものだった。

俺とユウキは頷いた。

 

「…………わかった、それで行こう。 シノンは闇風を倒してくれ」

 

「ボクたちは、死銃さんの相手をするね。 シノンさんは此処から出たら、狙撃出来そうな位置についてね」

 

「ええ、わかったわ」

 

「よし! 行こう!」

 

俺たちは拳をこつんと、打ち付けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

暗視モードに変更したへカートⅡのスコープを、シノンは右眼で覗き込んだ。

広大な砂漠には、今の所動く物は見当たらない。

だが、闇風と死銃は確実に接近している

シノンが狙撃位置に選んだ場所は、隠れていた洞窟がある、低い岩山の山頂だった。

地上からは見つかり難いが、移動出来るルートが一つしかない。

もし接近されれば、退避出来ずに撃たれる可能性がある。

でも今は、ネガティブな想像は捨て去る時。

心をフラットに保ちながら、そっとライフルを右に旋回させると、約百メートル離れた砂丘の天辺に、ひっそりと立つ二つの人影があった。

時折吹き抜ける風が、背中まで伸びる長い黒髪を揺らす姿は、銃を帯びた兵士と言うよりも、幻想的に佇む妖精の剣士のように見えた。

 

「(二人は、妖精の世界から銃の世界に来たんだっけ? 私も、妖精の世界に行ってみようかな?)」

 

シノンは大きく息を吐き、集中力を高めてから、ライフルの向きを戻した。

シノンの役割は、二人に最大限の集中力を与え、背後に接近する闇風を排除することだ。

前優勝者、ゼクシードが居ないこの大会では、誰もが優勝候補筆頭と認める相手を、一撃で沈めなければならない。

……今の私に、出来るだろうか?

シノンは、忍び寄ろうとする迷いや怖れを、懸命に振り払った。

今まで、GGOのシノンと、現実世界の朝田詩乃を、心の何処かで別の存在と区別していたのかもしれない。

強いシノンと、弱い詩乃。

そんな風に考えてしまったから、廃墟エリアではミスショットをしてしまったのだ。

シノンの中にも詩乃は居る。 詩乃の中にもシノンは居るのだ。――どちらも同じ《自分》。

――私はこの一弾を、詩乃として撃つ。 五年前の事件の時、そうしたように。

過去と向き合い、罪を見詰め直す。

そこから始め、歩き出さないといけないんだ。

 

シノンの右眼がスコープの彼方に、高速で移動する影を捉えた。 《闇風》だ。

トリガーに指を添える。

狙撃のチャンスは一度しかない。

もし外せば、闇風が二人に強襲するだろう。

死銃はその混乱に乗じて、シノンに接近し、もう一度黒星(ヘイシン)を向け発砲する。

シノンが黒星に撃たれれば、共犯者が詩乃の心臓に薬液を注射し、心臓を止める。

――この一弾には、詩乃の命が掛っているのだ。

しかし、心の中は不思議と静かだった。

へカートⅡ。 数多の戦場を共に駆け抜けてきた、無二の分身。――《冥府の女神》。

 

「(……お願い。 弱い私に、力を貸して。 ここからもう一度立って、歩き出す為の力を)」

 

遂にスコープに闇風を捉えた。

――速い!!

闇色の風と言うべき強烈な移動速度で、二人の背後に接近していた。

恐らく、二人も闇風の接近に気付いているはず。

だけど二人は前だけを見据え、闇風が迫ってくる方向には眼を向けていない。

これは、私を信頼してくれている証。

私はその信頼に、精一杯答えたい。

闇風は二人を狙う瞬間に、一度制止するはず。

思考を完全に止め、全存在がへカートと一体化し、集中力を極限まで高める。

視界に映し出されたのは、疾駆するターゲットと、その心臓を追い続ける十字のレティクルのみ。

その状態で、どれだけの時間が経過したのかさえ解らなかった。

そして、その瞬間が訪れた。

視界の端を、白い光が右下から左上へと横切った。

銃弾。――へカートのものではない。

死銃が放った銃弾だ。

それをキリトが回避し、西側から接近する闇風の元に届いたのだ。

闇風も、突如銃弾が飛来するとは予想出来ていなかった為、その場で身を屈めて制動をかけ、次いで岩陰へと方向転換しようとした。

これが、最初で最後のチャンスだ。

 

「(……今だ!!)」

 

指がトリガーを引き始める。

視界に薄緑色の《着弾予測円》が表示され、それが一瞬で極小のドットまで縮小し、胸の中央をポイントさせる。

 

トリガーを完全に絞り、巨大な50BMG弾の装薬がチャンバー内で炸裂、弾頭を瞬時に超音速まで加速させ、――撃ち出した。

 

へカートのマズルフラッシュに気付いた闇風の両眼と、シノンの右の瞳が、スコープ越しに衝突する。

驚きと悔しさ、それに確かな賞賛の色を見た気がした。

直後。 闇風の胸に、眩いライトエフェクトが弾けた。

アバターは数メートル以上吹き飛ばされ、砂の上を数度転がり、腹部に【DEAD】の文字が回転を始めようとした時には、シノンはへカートごと身体の向きを百八十度変えた。

 

其処には、さっきの銃弾を躱したキリトが一直線に疾駆する姿が映った。

次いで、ユウキの行く先でオレンジ色の光が瞬いた。

二人は飛来した銃弾を光剣で弾き飛ばし、回避を繰り返して、視線の先に映っていると思われる死銃に接近している。

接近するのは、距離が縮まるほど困難を極める。

 

シノンはスコープの暗視モードを切ると、同時に倍率を限界まで上げ、銃弾の発射位置を捉えた。

――大きなサボテンの下。 布地の下から突き出す特徴的な減音器の付いた銃、《サイレント・アサシン》。

そして其処には、死銃の姿。

その姿を見た途端、湧き上がろうとする恐怖に、シノンは右眼を見開いたまま抗った。

 

「(……お前は亡霊じゃない。 《ソードアート・オンライン》の中で沢山の人を殺し、現実世界に戻って来ても、こんな恐ろしい計画を企む精神の持ち主であっても、生きて呼吸し、心臓を脈打たせてる人間だ――)」

 

――戦える。

死銃に十字レティクルを合わせ、トリガーを絞る。

瞬間、死銃の頭がピクリと動いた。

恐らく、闇風を銃撃した場所から、予測線を見たのだ。

だが、これで条件は対等だ。さぁ――。

 

「(勝負!!)」

 

死銃がサイレント・アサシンを動かし、シノンに銃口を向けたと同時に、シノンは予測円の収束を待たず、トリガーを引いた。

轟音と同時に、死銃のライフルも小さな火炎を迸らせた。

シノンはスコープから顔を離し、肉眼で飛来する銃弾を確かめる。 瞬間――。

くわぁん! と甲高い衝撃音を響かせ、へカートに装着した大型スコープが、跡形もなく吹き飛んだ。

右眼を付けたままだったら即死していただろう。

銃弾はシノンの右肩を掠り、背後へと消えた。

へカートから放たれた50BMG弾は、狙いを僅かに逸らし、銃のレシーバーへと命中した。

直後、銃の中心部がポリゴンの欠片となって吹き飛び、銃のパーツがばらばらと砂に落下する。

この瞬間、死銃が携えてたサイレント・アサシンは、破壊された。

この世界では稀少かつ高性能な銃の最期に、シノンは弔いの言葉を呟いた。

 

「(…………ごめんね)」

 

スコープが破壊されてしまった今、もう遠距離狙撃は出来ない。

 

「あとは任せたわよ。 二人とも」

 

シノンは、二人の光剣使いに囁きかけた。

 




次回は死銃と対決?かな。

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