ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

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ども!!

舞翼です!!

書き上げました。

ご都合主義発動です(笑)

それではどうぞ。


第79話≪死銃との邂逅≫

細く長く息を吸い込む。

仮想の肺を満たした冷たい空気をゆっくりと吐き出しながら、ボクは耳を澄ませ集中した。

僅かな音だけど、相手の大凡(おおよそ)の位置を把握することが出来た。

 

「ボクが隠れている木の陰から、一五メートルってとこかな」

 

足音は徐々に大きくなってきている。

距離が残り三メートルになった瞬間に、光剣のスイッチを親指でスライドさせ、青色のプラズマの刃を伸ばした。

ボクは木の陰から飛び出した。

 

「さ、最強姉妹」

 

烏丸さんはサブマシンガンの《フルオート射撃》で銃弾をボクに放ってくるけど、光剣を閃光のように振り回し銃弾を叩き落としていく。

右手で光剣を振り回しながら、左手でホルスターから《FN・ファイブセブン》を抜き取る。

残りの距離は約二メートル。

 

「此処からなら、一発くらい当たるよね」

 

グリーンの着弾予測円が縮小と拡大を繰り返しながらも、無鉄砲に銃のトリガーを引く。

五発撃った内の二発が右肩と脇腹に命中した。

当たった弾は、奴の防弾装備を貫通してダメージを与えた。

HPが一割弱減少してから、一瞬よろめき動きを止めた。

その瞬間ボクは地を蹴り、ダッシュのスピードを余さず乗せた全力の突きを放ち、振動と共に青色の刃は胸板を貫いた。

烏丸さんの身体の上に【Dead】の文字が浮かび上がった。

 

「うん、光剣での戦闘に慣れてきたね」

 

ボクは光剣を左右に振り、光剣のスイッチを親指でスライドさせ、青色のプラズマの刃を収納する。

光剣を右腰のスナップリングに吊るしてから、左手に携えてるファイブセブンをホルスターに戻す。

 

「早くキリトと合流しないと」

 

――バレッド・オブ・バレッツの開始から、すでに三十分が経過した。

ボクが敗退させた敵プレイヤーは、さっきので三人目。

だけど全体で何人生き残っているのかは、十五分ごとに上空の監視衛星から送信されるデータの情報を確認しないと判らない。

ボクは《サテライト・スキャン》の受信端末を取り出し、全体マップを表示させて情報の更新を待った。

マップ展開と同時にスキャンが開始され、マップに光点が表示させた。

ボクは食い入るように画面を眺め、現在の状況を頭の中に叩き込む。

周囲一キロ圏内に存在する光点は四つだった。

一つずつ指先でタッチして、名前を確認する。

 

「一キロ圏内には居るのは……。 《Sinon》、《ペイルライダー》、《ダイン》。――《Sterben》。……あれ、Sterbenの名前が消えた……」

 

何らかの方法で隠れてたのかな……??

ボクが考えていたら衛星のスキャン時間が終了し、マップ情報がゆっくり消滅した。

 

「キリトと合流しないと」

 

ボクは都市廃墟エリアに走り出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「待て」

 

「っ……!?」

 

シノンはFN・ファイブセブンを構える俺に、左腰のホルスターからMP7を抜き斉射しようとするが、俺は静かに囁いた。

 

「待つんだ。 提案がある」

 

「……何、命乞いをしろってッ……。 この状況で提案も妥協もあり得ない!! どちらが死ぬ、それだけよ!!」

 

シノンはごく小さな声で、しかし燃え上がる殺気を込めて言い返した。

 

「撃つ気なら、何時でも撃てた!」

 

シノンは思わず口を噤む。

この距離からなら背後から銃撃するなり、光剣で斬るなり出来たのだ。

だが、俺はそうしなかった。

押し黙ってしまったシノンに、俺は囁いた

 

「今派手に撃ち合って、銃撃を向こうに聴かれたくないんだ」

 

俺の視線の先では、今まさに一つの遭遇戦が始まろうとしていた。

 

「どういう意味……」

 

「あの橋で起きる戦闘を最後まで観たい。 それまで手を出さないでくれ」

 

あの遭遇戦が終われば、Sterbenが何処からか現れるはずだ。

 

「……観て、それからどうするの? 改めて撃ち合うなんて、間抜けたこと言わないでね」

 

「状況にもよるが……俺は此処から離れる。 君を攻撃しない」

 

「私が背中から狙撃するかもよ?」

 

「それは勘弁願いたいけどな……。 もう始まる!」

 

俺は再び橋の方を見ると、左手のファイブセブンを下ろしホルスターに収めた。

これを見てシノンは呆れ、肩の力を抜いていた。

 

「……仕切り直せば、今度はちゃんと戦ってくれる?」

 

「ああ」

 

頷く俺を確認したシノンは、MP7を下ろした。

まぁ、シノンは警戒してトリガーから指を離さなかったが。

俺は力を抜き、シノンの左隣に腹這いになった。

俺はベルトのポーチから小さな双眼鏡を取り出し、眼に当てる。

シノンは俺の態度に呆れを通り越したのか、MP7を左腰のホルスターに戻した。

シノンはへカートを構え、スコープを覗き込んだ。

俺の視線の先には長橋の、こちら側のたもとに伏射姿勢を取ったダインの姿が映った。

ダインは、SG550を小揺るぎもさせず構え続けた。

流石というべきか、BoB本戦に出て来た事はある。

集中力が切れない限り、ペイルライダーもおいそれと近づくことが出来ないだろう。

 

「……あんたがそうまでして見たがっている戦闘、このままじゃ起きないかもよ。 それにダインも、何時までもああして寝転がってないだろうし。 もしあいつが立って移動しようとしたら、私その前にあんたを撃つからね」

 

「ああ、そうなったら……、いや、待った」

 

向こうの岸から、ゆらりと一人のプレイヤーが姿を現したのだ。

痩せた長身を、青白い柄の迷彩スーツに包んでいる。

黒いシールド付きのヘルメットを被っているので顔は見えない。

武装は、片手に携えている軽量な《アーマライト・AR17》のショットガンだけだ。

――間違えなく、あのプレイヤーがダインを追っていたペイルライダーだろう。

伏せるダインの両肩に緊張が走る。

張り詰めた気配が、遠く離れた俺たちの所まで伝わってきた。

対照的にペイルライダーは、ダインの構えるSG550に怖れることなく橋に近づいてくる。

シノンが呟いた。

 

「……あいつ、強い……」

 

ペイルライダーは無防備のまま、滑るように橋に足を踏み込ませた。

ダインもそれを見て、戸惑いを隠せない。

その一秒後。

アサルトライフルが火を噴いた。

ペイルライダーは発射された弾丸を、橋を支えるワイヤーロープを飛びつき回避した。

ダインは照準を合わせようとするが、伏射姿勢からの上空の射撃は狙いにくい。

ペイルライダーはワイヤーロープへ飛びつき、ロングジャンプを繰り返し、ダインの近くに着地する。

 

「STR型なのに装備重量を落として、三次元機動力をブーストしているんだわ……。 しかも、軽業スキルがかなり高い」

 

シノンの呟きと同時にダインが膝立ちになり、トリガーを引いた。

しかし、この攻撃はペイルライダーに読まれていた。

ペイルライダーはコンパクトな前転をし、放たれた銃弾を回避した。

 

「なろっ……」

 

ダインは空になったマガジンを素早く交換しようとするが、先にペイルライダーが右手に携えているアーマライトの火が吐いた。

 

ダインは二十メートルから、ショットガンの銃弾を受け大きく後ろに仰け反る。

しかし、ダインは手を止める事無くマガジンの換装を終えて、再度頬付けしようとする。

だが、二度目の轟音が響いた。

距離を詰めていたペイルライダーの一撃は、再びダインの上体を大きく仰け反らせた。

再度距離を詰め、AR17をリロードし、三度目の散弾の嵐がダインのHPを0にした。

ダインのアバターは完全に動きを止め崩れ落ち、身体の上に【Dead】の文字が浮かび出上がった。

 

「あの青い奴強いな……」

 

シノンはへカートの安全装置を解除し、短く囁いた。

 

「あいつ、撃つわよ」

 

「ああ、解った」

 

シノンがトリガーを絞ろうとした瞬間、それは起こった。

ペイルライダーの青い迷彩服の右肩に、小さな着弾エフェクトが閃き、同時に痩身が弾かれ左に倒れ込んだのだ。

 

「「あ…………!」」

 

俺とシノンは同時に小さく声を上げた。

ペイルライダーが狙撃されたのだ。

川の対岸、深い森の奥に眼を向けた。

この方向から狙撃が行われたので、俺は反射的に全集中力を聴覚に向けた。

ライフルの発砲音の方向を捉える為だ。

だが、聞こえてくる音は川のせせらぎと、風鳴りだけであった。

 

「……聞き逃した……」

 

呟いたシノンに俺が小さく応じた。

 

「いや、間違えなく何も聞こえなかった。 どういうことだ……?」

 

「考えられるのは……作動音が小さな光学ライフルか……あるいは、実弾銃ならサプレッサ付きだけど……」

 

「さ、サプ……?」

 

「減音器のことよ。 銃の先っぽに付けて発射音を抑える装置」

 

「あ、ああ……サイレンサーのことか」

 

「そうとも言うけど。 ともかく、それを付けたライフルなら相当発射音が抑えられるわ。 命中率や射程にマイナス補正がかかるし、消耗品のくせに馬鹿高いけどね」

 

「な、なるほど……」

 

俺は再びペイルライダーを見た。

だが、ペイルライダーは起き上がる気配すら見せない。

もし一撃で死亡したなら、身体の上に【Dead】の文字が浮かび上がるはずだ。

生きているのに、何で其処から逃げようとしない……?

シノンが囁いた。

 

「……そういえば、キリト。 あんたいったい何処から現れたのよ? 衛星スキャンの時には、この山の周囲には居なかったでしょ」

 

「あ、ああ、そのことか。 俺は川を泳いでいたからな」

 

「ど、どうやって……?」

 

俺は肩を竦めて答えた。

 

「装備は一旦全部外したよ。 スターテス窓から解除した武装はアイテム欄に戻るから、手で運ぶ必要が無くなるのは、《ザ・シード》規格のVRMMOの共通ルールだからな」

 

「………………」

 

シノンに驚き呆れられた。

 

「そのアバターでアンダーウェア姿を披露したら、外の中継を見ているギャラリーは大喜びだったでしょうね」

 

「外部中継ってのは、原則的に戦闘以外は映さないんだろ」

 

シノンは『フン』と鼻を鳴らした。

 

「……ともかく、川を潜っていれば《サテライト・スキャン》に補足されないってことね。 覚えとくわ。 でも、あんたはペイルライダーを追って来たんでしょ。 あいつは強いと思うけど、大した奴ではなかったみたいよ。一発大きいのを喰らっただけでビビって立てなくなるようじゃ、とてもこの先……」

 

『勝ち残れない』、と続けようとシノンの言葉を、双眼鏡を両目に付けた俺が遮った。

 

「いや……、違うようだぞ……。 よく見ろ、あいつのアバターに、妙なライトエフェクトが……」

 

シノンはスコープの倍率を上げる。

 

「あれは、電磁スタン弾よ」

 

「な、何だそれ?」

 

「名前通り、命中したあと暫く高電圧を生み出して、対象を麻痺させる特殊弾よ。 でも大口径のライフルでないと装填出来ないし、そもそも一発の値段がとんでもなく高いから、対人戦で使う人なんかいない。 パーティでもMob狩り専用の弾なのよ」

 

ペイルライダーの拘束するスパークも薄れ始めてきていた。

その時、橋を支える鉄柱の陰から黒いシルエットが姿を現した。

ボロマントが歩を進め、これまで体に隠れていた主武装が露わになった。

それは《サイレント・アサシン》。

正式名は、《アキュラシー・インターナショナル・L115A3》。

この銃は対物ライフルではなく、人間を狙撃する為に作られた銃なのだ。

撃たれた者は射手の姿を見ることなく、死に逝く間際にも銃声を聞くことない。

与えられた通り名が――≪沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)≫。

 

奴はペイルライダーに向かって近づいていく。

それから、奴はハンドガンを取り出した。

だがハンドガンでは、ペイルライダーのHPを一撃で吹き飛ばす事は不可能だ。

奴はフードに額を当ててから、胸に動かし、さらに左肩、右肩へ持っていこうとする。

いわゆる、十字を切る行為だ。

――あれは、Sterben(死銃)だ。

 

「……シノン、撃て」

 

「え? どっちを?」

 

「あのボロマントだ。 頼む早く撃ってくれ、早く!」

 

シノンはヘカートのトリガーに人差し指を移動させ、トリガーを絞った。

次いで轟音。

命中してボロマントのアバターが、吹き飛ぶと思った。

――しかし。

ボロマントは上体を大きく後ろに傾け、ヘカートの弾丸を回避したのだ。

 

「あ……あいつ、最初から気付いていた……私が此処に隠れていることに……」

 

「まさか……! 奴は一度もこっちを見ていなかったはずだ!」

 

シノンは小刻みに首を振る。

 

「あの避け方は、弾道予測線が見えていなければ絶対に不可能。 つまり、何処かの時点で私の姿を目視して、それがシステムに認識されたってこと……」

 

Sterbenはハンドガンをペイルライダーに向けると、親指でハンマーをコッキング。左手にグリップ添え、半身の状態でトリガーを引いた。

小さな閃光と、乾いた銃声の音が聞こえた。

ペイルライダーはスタンから回復し、全身をバネのように起こし、ARショットガンをボロマントの胸に突き付けた。

だが、ペイルライダーは苦しみだし、ARショットガンを地面に落とした。

ゆっくりと傾き、地面に横倒しになった。

胸の中央を掴むような仕草を見せた、その直後――。

ペイルライダーはノイズを思わせる不規則な光に包まれ、消滅した。

最後に残った光が、【DISCONNECTION】という文字を作り、溶けるように消えた。

 

「あいつ……他のプレイヤーをサーバーから落とせるの……?」

 

シノンの呟きに俺が答えた。

 

「いや、違う。 そうじゃない。そんな生温い力じゃない……」

 

「ぬるい? どこがよ、大問題でしょ。 チートもいいところだわ。 運営は何してるの……」

 

「そうじゃない。……あいつは、サーバーを落としたんじゃない。 殺したんだ。 たった今、ペイルライダーは……ペイルライダーを操っていた人間は、現実世界で死んだんだ!!」

 

「…………な…………」

 

「あいつは……、《死銃》――《デス・ガン》だ」

 

「……デス……ガン。 それって変な噂の……? 前に大会で優勝した《ゼクシード》と《薄塩たらこ》を撃って、撃たれた二人がそれっきりログインしてないっていう……」

 

「ああ、そうだ。 現実世界で二人は死んでいた。 あいつが何らかの方法で、本当にプレイヤーを殺せるのは確かだ。 俺とユウキは死銃と接触を図るため、この世界に来たんだ」

 

「でも、私には信じられない。 ゲームの中で撃たれただけで、本当に死ぬなんてこと……。 その話が真実なら、あのボロマントは自分の意志で人を殺せるんでしょ? 有り得ない……信じたくない、そんな人がGGOに……VRMMOに居るはずがない……。 私は認めたくない。 PKじゃなく、本当に人殺しをするVRMMOプレイヤーが居るなんて……」

 

「いや、居るんだよ。 あのボロマント、《死銃》は、俺の居たVRMMOで沢山の人を殺した。 相手が死ぬと解っていて剣を振り下ろしたんだ」

 

この言葉で、俺がSAO帰還者という事が知られてしまったのは確実だ。

シノンがこの言葉を受け取り、大会イベント中、安全な場所に隠れてくれれば……。

シノンは小さく息を吐き、答えた。

 

「……正直……あんたの話をすぐに信じられないけど……。 でも、全部が嘘や作り話だとは思わない」

 

「ありがとう、それだけで充分だ」

 

俺が頷いたと同時に、三回目のサテライト・スキャンが行われた。

俺は急いでマップを表示させ、光点を数えた。

まだ生き残っているプレイヤーが十七人。

死亡したプレイヤーが十一人。

合計二十八人。

 

「数が合わないぞ」

 

BoB本戦に参加している人数は三十人居たはず、回線切断で消えたペイルライダーの他に、もう一つ光点が足りない。Sterbenだ。

そいつは遠ざかっているか、それとも近づいているか解らない。

後者の場合は、奇襲という可能性も捨てきれない。

 

「それで、あんたはこれから如何するの?」

 

「ああ、死銃を追う。 これ以上誰かを、あの拳銃で撃たせるわけにはいかない」

 

「……私も一緒に行くわ。――それに、《死銃》が何処に行ったか判らないんだから、一緒に居ようが居まいが、危険度は同じでしょ」

 

確かに、シノンの言う通りなんだが……。

俺は一瞬迷ってから肩の力を抜き、

 

「……ああ、解った。 俺と行動しよう。 死銃を追うと同時に、ユウキと合流する」

 

「了解」

 

俺とシノンは、走り出した。

 




次回は、ユウキちゃんと合流ですね。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!

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