舞翼です!!
今回は、サブタイトルを英語にしてみました。
誤字脱字があったらごめんよ。
それではどうぞ。
漆黒の夜空を貫いて、私は飛翔していた。
四枚の翅で大気を蹴り、空気を切り裂き、何処までも加速する。
以前なら、限られた飛翔力で最大限の距離を稼ぐため、最も効率のいい飛行手段など、色々なことを考慮しながら飛ばなくてはならなかった。
しかしそれは過去の話。
今はシステムの枷は存在しない。
世界樹の上に空中都市は無かった。
光の妖精アルフは存在せず、それはすべて偽りの妖精王の嘘であった。
この世界が一度崩壊し、新たに生まれ変わったことにより、この世界を調整する者たちが、あらゆる妖精に永遠に飛べる翅を与えたのだ。
私はこれで十分だった。
私は集合時間より一時間早くログインし、もう二十分近くも漆黒の夜空を飛翔し続けた。
ALOの飛行は根性の一つ。
恐怖に打ち勝ち、精神力を保ち続けること。
だけど大抵のプレイヤーは、恐怖と精神的疲労に負けて減速していくことになる。
先週開かれた《アルヴヘイム横断レース》では、私とキリト君とユウキちゃんが凄まじいデットヒートを演じた挙句、僅差でゴールに飛び込んだ。
負けてしまったけどね。 一位はキリト君とユウキちゃんであった。
全てのタイムが同じなんて、以心伝心でもしているのかな。
……あの時は、楽しかったな……。
私はそれを思い出し、飛びながら苦笑した。
ああいうイベントで飛ぶのもいいけど――頭の中を空っぽにして、ただ限界の先を目指して、加速していくのが一番気持ちいい。
数十分の飛翔で、すでに速度は限界ぎりぎりの所まで到達している。
暗闇に包まれた地上は最早流れていく縞模様でしかなく、前方の小さな灯りが現れては後方に消え去っていく。
頭上では、巨大な満月が輝いている。
輝く満月目指して、舞い上がっていく。
雲海を切り裂き、
もう少し――もう少し近づければ――。
しかしこの世界の限界まで到達してしまった。
加速が急激に鈍り、体が重くなる。
これ以上の上昇は出来ない。
私は満月を掴むように片手を差し伸べる。
――行きたい。 もっと高く。 どこまでも遠く、あの世界まで――。
上昇速度がゼロになり、次いでマイナスになる。
私は手を大きく広げたまま夜空を自由落下していく、月が徐々に遠ざかっていく。
私は瞼を閉じ、微笑を浮かべる。
――今はまだ、届かないけど、何時かきっと――。
このアルヴヘイム・オンラインも、より大きなVRMMOの≪
月面を舞台にしたゲームと相互接続するらしい。
そうすれば、あの月まで飛んで行くことが出来る。
やがて他のゲーム世界でも、それぞれ一つの惑星として設定され、星の海を渡る連絡船が行き来する日が来る。
――何処までも飛べる。 何処までも行ける。 けれど……絶対に行けない場所もある――。
私は雲海を落下しながら、両手で体を抱きしめる。
その寂しい理由は解っている。 今日――私の兄・和人、お義姉・木綿季ちゃん――に連れて行ってもらったパーティーのせい。
とても楽しかった。 この世界でしか会う事の出来なかった、新しい友人たちと初めてリアルで顔を合わせ、色々な話をした。 あっという間の時間だった。
でも、私は感じていた。 彼らを繋ぐ、目には見えないけれどとても強い、絆の存在。
今は無い《あの世界》、浮遊城アインクラッドで共に戦い、泣き、笑い、恋した記憶。
――それは、現実世界に帰ってきてもなお、彼らの中で強い輝きを放っている――。
あのパーティーで、お兄ちゃん、木綿季ちゃんが遠くに行ってしまうような気がした。
あの人たちの絆の中には、私が入ってしまったらいけない。 そんな気がしたのだ。
私には、《あの城》の記憶がないのだから。
このような事を考えながら、流星のように落下を続けた。
集合場所は世界樹の上部に新設された街、《イグドラシル・シティ》なので、そろそろ翅を広げ、滑空を始めないといけない。
でも、心を塞ぐ寂しさのせいで、翅が動かせない。
突然体が何かに受け止められ、落下が止まった。
「ッ!?」
驚いて瞼を開けた。
眼の前に、ユウキちゃんの顔があった。
両手で抱きかかえ、雲海をホバリングしている。
その横には黒衣の少年。
二人とも笑みを浮かべながら私を見ていた。
なんで――、と言う前に、長い黒髪を揺らしながら、
「何処まで昇っていくか心配したよ。 もうすぐ時間だから迎えに来たよ」
「皆の所に行こうぜ」
「……うん。 ありがと」
私は笑みを浮かべると、翅を羽ばたかせ、ユウキちゃんの腕の中から抜け出した。
この新しいアルヴヘイム・オンラインを動かしている運営体が、レクトプログレス社から移管された全ゲームデータ、その中にはソードアート・オンラインのキャラクターデータも含まれていた。
運営体は元SAOプレイヤーが新ALOアカウントを作成する場合、外見を含めてキャラクターを引き継ぐか選択出来るようにした。
日頃一緒に遊んでいるシリカちゃんやアスナさん、ランさんリズベットさんたちは、妖精種族的特徴は付加されたものの、基本的に現実の姿に限りなく近い外見を持っている。
でも、キリト君とユウキちゃんは選択枠を与えられた時、以前の外見を復活させる事をせず、今の妖精の姿を使う事にしたのだ。
凄まじいまでのスターテスを二人はあっさりと初期化し、一から鍛え直している。
私はその理由が知りたくなり、同じくホバリングしながら二人に聞いた。
「ねぇ、キリト君……ユウキちゃん。 何で二人は、元のデータを引き継がなかったの?」
「「うーん……」」
キリト君とユウキちゃんは、腕を組んでから答えた。
「あの世界のキリトの役目は、もう終わったんだよ」
「そうだね。 ボクもキリトと同じかな」
「……そっか」
私は小さく笑った。
私も何と無く、その考えが解った気がするから。
キリト君とユウキちゃんの後ろに、長い黒髪を揺らしながら、
ランさんだ。
ランは私たちを見て、口を開いた。
「ユウキたちはこんな所に居たのね。 探しましたよ」
私は幸せだな、と思った。
自分が居なくなっただけで、探しに来てくれるなんて。
私は笑い、言った。
「ね、皆で踊ろうよ」
「「「へ(え)?」」」
私がランさんの右手を取り、雲海を滑るようにスライドする。
ホバリングしながらゆっくり移動する。
「こっ、こうかしら」
「そうです。 うまいうまい」
さすがユウキちゃんのお姉さんだ。 飲み込みが早い。
これを見ていたユウキちゃんが、リズムを取るように見ていた。
『うん。 OK』と言うと、キリト君の右手を取った。
「じゃあ、ボクたちも踊ろうか?」
「おう」
キリト君はたった数分で、ランさんと同じくマスターした。
私は腰のポケットから小さな瓶を取り出した。
栓を抜き空中に浮かせると、瓶の中から銀色の粒子が流れ出し、澄んだ音楽を奏でた。
「私たちも踊りましょうか。 一曲踊っていただけませんか?」
「はい。 喜んで」
音楽に合わせ、私たちはステップを踏み始めた。
大きく、小さく、また大きくと、空を舞う。
蒼く月光に照らされた無限の雲海を、私たちは音楽に合わせて滑る。
最初は緩やかだった動きを徐々に速く、一度のステップでより遠くまで。
私たちの翅が撒き散らす、黒い燐光と緑色の燐光、青い燐光が重なり、空にぶつかって消えていく。
これが最後になるかもしれない、そう思った。
お兄ちゃん、木綿季ちゃん、藍子さん――彼らの世界がある。
学校、仲間、そして大切な人。
手を伸ばしても届かない世界がある。
その背中に近づきたくて、妖精の翅を手に入れてみたけど、お兄ちゃんや、木綿季ちゃん、藍子さん。 今日パーティー会場に居たみんなの心の半分は、今でも幻の城にある。
私には決して訪れることが出来ない、夢幻の世界。
閉じた瞼から、一筋の涙が流れた。
「リーファさん?」
耳元でランさんの声がした。
キリト君とユウキちゃんも、私の元に近づいて来てくれた。
私は微笑みながら、三人の顔を見た。
同時に小瓶から溢れだしていた音楽が薄れ、フェードアウトし、瓶が微かな音と共に砕け、消滅した。
私はランさんの手を離し、言った。
「……あたし、今日は、これで帰るね」
ランさんが私に聞いてきた。
「なんでですか?」
涙が溢れた。
「だって……遠すぎるよ……お兄ちゃんたちが……みんなが居る所。 あたしじゃそこまで、行けないよ……」
ユウキちゃんが、軽く首を振った。
「スグちゃん、それは違うよ」
「ああ、ユウキの言う通りだ」
「そうですよ。 行こうと思えば、何処だって行けるんですよ」
「さ、行こうぜ」
キリト君が先頭に立ち、身を翻してから、翅を大きく鳴らし、加速を始めた。
雲海の彼方の世界樹に向かって。
「私たちも行きましょうか」
「うん、そうだね。 姉ちゃん」
ユウキちゃんとランさんが、私の手を握ってから翅を鳴らし、加速を始めた。
ユウキちゃんとランさんは、繋いだ手を緩めず加速した。
世界樹は近づくに連れ、天を覆うほどの大きさになった。
幹が幾つもの枝に分かれている中心に、無数の光の群れがあった。
イグドラシル・シティの
その中央を、私たちは一際大きく翔けて行く。
その時、幾重にも連なった鐘の音が響いた。
アルヴヘイムの零時を知らせる鐘だ。
先頭のキリト君が翅を大きく広げ、制動をかけた。
私の手を握っていてくれていた二人も、制動をかける。
私は驚きの声を上げた。
「わあっ!?」
「間に合わなかったな」
「だねー」
「そうですね」
私は三人の話している意味が解らなかった。
キリト君が私たちの隣まで移動し、空を指差した。
「――来るぞ」
指差した先は、巨大な満月が蒼く光っている。
「月が……どうしたの?」
「ほら、よく見ろ」
私は目を凝らした。
輝く銀の真円、その右上の縁が――僅かに欠けた。
「え……?」
私は眼を見開いた。
月を侵食する黒い影は、どんどん大きくなっていくからだ。
その形は円形ではない。
不意に、ゴーン、ゴーンと重々しく響く音。
遥か遠くから聞こえてくる。
近づいて来たそれは、円錐形の物体で、幾つもの薄い層を積み重ねて作られているようであった。
底面からは三本の巨大な柱が垂れ下がり、その先端も眩く発光している。
一つの層が幾重にも重なるように出来ている。
あれは――。
「あ……まさか……まさかあれは……」
ユウキちゃんが私の顔を見た。
「そうだよ。 あれが――浮遊城アインクラッドだよ」
「……でも……なんで?なんでここに……」
キリト君が静かな声で言った。
「決着をつけるんだ。 今度こそ一層から百層まで完璧にクリアして、あの城を征服する」
「そうですね。 前は、誰かさんが四分の三で終わらせてしまいましたからね」
「う、まぁ、俺がズルしちゃったんだけどな……」
キリト君はランさんの言葉を聞き、肩を落としていた。
ユウキちゃんが、私の頭に手を置き、
「ボクたち、弱くなったからね。 ボクたちと一緒に、攻略手伝ってくれるかな」
――行こうと思えば、何処だって行けるんですよ。
ランさんの言葉が胸に落ちた。再び、涙が零れ落ちた。
「――うん。 行くよ……何処までも……一緒に……」
私たちが浮遊城を眺めていると、眼の前に長い青い髪を揺らした
アスナさんだ。
「さ、行こう」
「さて、行くか」
「「「うん!!」」」
すると、足元から声がした。
赤い髪に黄色と黒のバンダナを巻いた、クラインさんだ。
「おーい、遅ぇぞ、おめぇら」
その隣に、
「お前らも早く来い。 俺たちで第一層のボスを倒しちまうぞ」
「ほら、あんたらも早く来なさい。 置いてくわよ」
艶やかに茶色い耳と尻尾を伸ばし、肩に水色のドラゴンを乗せたシリカちゃん。
「リズさん~、待って下さいよ~」
手を繋いで飛ぶ、シンカーさんとユリエールさん。
スティックを握ってふらふら飛ぶサーシャさん。
手を振って上昇するレコン。
その後ろにシルフの領主サクヤ、ケットシーのアリシャ・ルーも続く。
ユージーン将軍とその部下たち。
ユイちゃんが、キリト君の肩に乗った。
「ほら、パパ、はやく!」
「おう!!」
キリト君はアインクラッドを見詰め、微かな声で誰かの名前を呼んだようだった。
キリト君は不敵な笑みを浮かべ、ユウキちゃんと手を握ってから、翅を大きく広げ、真っ直ぐに天を目指す。
再び、あの城へ
ALO編 ~完結~
今回は、リーファちゃん視点が多かったですね(笑)
ランちゃんはウンディーネにしました~。
ALO編が完結いたしました!!
読者の皆さんが観覧してれたおかげです!!
ありがとうございます!!
さて、次回はGGO編にすぐに行っちゃおうか、それとも何かを挟もうか。
ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!