ソードアート・オンライン ~黒の剣士と絶剣~   作:舞翼

71 / 144
ども!!

舞翼です!!

今回は、サブタイトルを英語にしてみました。

誤字脱字があったらごめんよ。

それではどうぞ。


第71話≪Fairy Dance≫

漆黒の夜空を貫いて、私は飛翔していた。

四枚の翅で大気を蹴り、空気を切り裂き、何処までも加速する。

以前なら、限られた飛翔力で最大限の距離を稼ぐため、最も効率のいい飛行手段など、色々なことを考慮しながら飛ばなくてはならなかった。

しかしそれは過去の話。

今はシステムの枷は存在しない。

世界樹の上に空中都市は無かった。

光の妖精アルフは存在せず、それはすべて偽りの妖精王の嘘であった。

この世界が一度崩壊し、新たに生まれ変わったことにより、この世界を調整する者たちが、あらゆる妖精に永遠に飛べる翅を与えたのだ。

私はこれで十分だった。

私は集合時間より一時間早くログインし、もう二十分近くも漆黒の夜空を飛翔し続けた。

 

ALOの飛行は根性の一つ。

恐怖に打ち勝ち、精神力を保ち続けること。

だけど大抵のプレイヤーは、恐怖と精神的疲労に負けて減速していくことになる。

 

先週開かれた《アルヴヘイム横断レース》では、私とキリト君とユウキちゃんが凄まじいデットヒートを演じた挙句、僅差でゴールに飛び込んだ。

負けてしまったけどね。 一位はキリト君とユウキちゃんであった。

全てのタイムが同じなんて、以心伝心でもしているのかな。

 

……あの時は、楽しかったな……。

 

私はそれを思い出し、飛びながら苦笑した。

ああいうイベントで飛ぶのもいいけど――頭の中を空っぽにして、ただ限界の先を目指して、加速していくのが一番気持ちいい。

 

数十分の飛翔で、すでに速度は限界ぎりぎりの所まで到達している。

暗闇に包まれた地上は最早流れていく縞模様でしかなく、前方の小さな灯りが現れては後方に消え去っていく。

 

頭上では、巨大な満月が輝いている。

輝く満月目指して、舞い上がっていく。

雲海を切り裂き、(そび)える世界樹の尖端に到着した。

 

もう少し――もう少し近づければ――。

 

しかしこの世界の限界まで到達してしまった。

加速が急激に鈍り、体が重くなる。

これ以上の上昇は出来ない。

私は満月を掴むように片手を差し伸べる。

 

――行きたい。 もっと高く。 どこまでも遠く、あの世界まで――。

 

上昇速度がゼロになり、次いでマイナスになる。

私は手を大きく広げたまま夜空を自由落下していく、月が徐々に遠ざかっていく。

私は瞼を閉じ、微笑を浮かべる。

 

――今はまだ、届かないけど、何時かきっと――。

 

このアルヴヘイム・オンラインも、より大きなVRMMOの≪連結体(ネクサス)≫に参加する計画があるそうだ。

月面を舞台にしたゲームと相互接続するらしい。

そうすれば、あの月まで飛んで行くことが出来る。

やがて他のゲーム世界でも、それぞれ一つの惑星として設定され、星の海を渡る連絡船が行き来する日が来る。

 

――何処までも飛べる。 何処までも行ける。 けれど……絶対に行けない場所もある――。

 

私は雲海を落下しながら、両手で体を抱きしめる。

その寂しい理由は解っている。 今日――私の兄・和人、お義姉・木綿季ちゃん――に連れて行ってもらったパーティーのせい。

 

とても楽しかった。 この世界でしか会う事の出来なかった、新しい友人たちと初めてリアルで顔を合わせ、色々な話をした。 あっという間の時間だった。

でも、私は感じていた。 彼らを繋ぐ、目には見えないけれどとても強い、絆の存在。

今は無い《あの世界》、浮遊城アインクラッドで共に戦い、泣き、笑い、恋した記憶。

 

――それは、現実世界に帰ってきてもなお、彼らの中で強い輝きを放っている――。

 

あのパーティーで、お兄ちゃん、木綿季ちゃんが遠くに行ってしまうような気がした。

あの人たちの絆の中には、私が入ってしまったらいけない。 そんな気がしたのだ。

私には、《あの城》の記憶がないのだから。

 

このような事を考えながら、流星のように落下を続けた。

集合場所は世界樹の上部に新設された街、《イグドラシル・シティ》なので、そろそろ翅を広げ、滑空を始めないといけない。

でも、心を塞ぐ寂しさのせいで、翅が動かせない。

 

突然体が何かに受け止められ、落下が止まった。

 

「ッ!?」

 

驚いて瞼を開けた。

眼の前に、ユウキちゃんの顔があった。

両手で抱きかかえ、雲海をホバリングしている。

その横には黒衣の少年。

二人とも笑みを浮かべながら私を見ていた。

なんで――、と言う前に、長い黒髪を揺らしながら、闇妖精族(インプ)の少女が口を開いた。

 

「何処まで昇っていくか心配したよ。 もうすぐ時間だから迎えに来たよ」

 

「皆の所に行こうぜ」

 

「……うん。 ありがと」

 

私は笑みを浮かべると、翅を羽ばたかせ、ユウキちゃんの腕の中から抜け出した。

この新しいアルヴヘイム・オンラインを動かしている運営体が、レクトプログレス社から移管された全ゲームデータ、その中にはソードアート・オンラインのキャラクターデータも含まれていた。

運営体は元SAOプレイヤーが新ALOアカウントを作成する場合、外見を含めてキャラクターを引き継ぐか選択出来るようにした。

日頃一緒に遊んでいるシリカちゃんやアスナさん、ランさんリズベットさんたちは、妖精種族的特徴は付加されたものの、基本的に現実の姿に限りなく近い外見を持っている。

でも、キリト君とユウキちゃんは選択枠を与えられた時、以前の外見を復活させる事をせず、今の妖精の姿を使う事にしたのだ。

凄まじいまでのスターテスを二人はあっさりと初期化し、一から鍛え直している。

私はその理由が知りたくなり、同じくホバリングしながら二人に聞いた。

 

「ねぇ、キリト君……ユウキちゃん。 何で二人は、元のデータを引き継がなかったの?」

 

「「うーん……」」

 

キリト君とユウキちゃんは、腕を組んでから答えた。

 

「あの世界のキリトの役目は、もう終わったんだよ」

 

「そうだね。 ボクもキリトと同じかな」

 

「……そっか」

 

私は小さく笑った。

私も何と無く、その考えが解った気がするから。

キリト君とユウキちゃんの後ろに、長い黒髪を揺らしながら、水妖精族(ウンディーネ)が姿を現した。

ランさんだ。

ランは私たちを見て、口を開いた。

 

「ユウキたちはこんな所に居たのね。 探しましたよ」

 

私は幸せだな、と思った。

自分が居なくなっただけで、探しに来てくれるなんて。

私は笑い、言った。

 

「ね、皆で踊ろうよ」

 

「「「へ(え)?」」」

 

私がランさんの右手を取り、雲海を滑るようにスライドする。

ホバリングしながらゆっくり移動する。

 

「こっ、こうかしら」

 

「そうです。 うまいうまい」

 

さすがユウキちゃんのお姉さんだ。 飲み込みが早い。

これを見ていたユウキちゃんが、リズムを取るように見ていた。

『うん。 OK』と言うと、キリト君の右手を取った。

 

「じゃあ、ボクたちも踊ろうか?」

 

「おう」

 

キリト君はたった数分で、ランさんと同じくマスターした。

私は腰のポケットから小さな瓶を取り出した。

栓を抜き空中に浮かせると、瓶の中から銀色の粒子が流れ出し、澄んだ音楽を奏でた。

音楽妖精族(プーカ)の吟遊詩人が、自分の演奏を詰めて売っているアイテムだ。

 

「私たちも踊りましょうか。 一曲踊っていただけませんか?」

 

「はい。 喜んで」

 

音楽に合わせ、私たちはステップを踏み始めた。

大きく、小さく、また大きくと、空を舞う。

蒼く月光に照らされた無限の雲海を、私たちは音楽に合わせて滑る。

最初は緩やかだった動きを徐々に速く、一度のステップでより遠くまで。

 

私たちの翅が撒き散らす、黒い燐光と緑色の燐光、青い燐光が重なり、空にぶつかって消えていく。

 

これが最後になるかもしれない、そう思った。

お兄ちゃん、木綿季ちゃん、藍子さん――彼らの世界がある。

学校、仲間、そして大切な人。

手を伸ばしても届かない世界がある。

 

その背中に近づきたくて、妖精の翅を手に入れてみたけど、お兄ちゃんや、木綿季ちゃん、藍子さん。 今日パーティー会場に居たみんなの心の半分は、今でも幻の城にある。

私には決して訪れることが出来ない、夢幻の世界。

閉じた瞼から、一筋の涙が流れた。

 

「リーファさん?」

 

耳元でランさんの声がした。

キリト君とユウキちゃんも、私の元に近づいて来てくれた。

私は微笑みながら、三人の顔を見た。

同時に小瓶から溢れだしていた音楽が薄れ、フェードアウトし、瓶が微かな音と共に砕け、消滅した。

私はランさんの手を離し、言った。

 

「……あたし、今日は、これで帰るね」

 

ランさんが私に聞いてきた。

 

「なんでですか?」

 

涙が溢れた。

 

「だって……遠すぎるよ……お兄ちゃんたちが……みんなが居る所。 あたしじゃそこまで、行けないよ……」

 

ユウキちゃんが、軽く首を振った。

 

「スグちゃん、それは違うよ」

 

「ああ、ユウキの言う通りだ」

 

「そうですよ。 行こうと思えば、何処だって行けるんですよ」

 

「さ、行こうぜ」

 

キリト君が先頭に立ち、身を翻してから、翅を大きく鳴らし、加速を始めた。

雲海の彼方の世界樹に向かって。

 

「私たちも行きましょうか」

 

「うん、そうだね。 姉ちゃん」

 

ユウキちゃんとランさんが、私の手を握ってから翅を鳴らし、加速を始めた。

ユウキちゃんとランさんは、繋いだ手を緩めず加速した。

世界樹は近づくに連れ、天を覆うほどの大きさになった。

幹が幾つもの枝に分かれている中心に、無数の光の群れがあった。

イグドラシル・シティの()だ。

 

その中央を、私たちは一際大きく翔けて行く。

その時、幾重にも連なった鐘の音が響いた。

アルヴヘイムの零時を知らせる鐘だ。

先頭のキリト君が翅を大きく広げ、制動をかけた。

私の手を握っていてくれていた二人も、制動をかける。

私は驚きの声を上げた。

 

「わあっ!?」

 

「間に合わなかったな」

 

「だねー」

 

「そうですね」

 

私は三人の話している意味が解らなかった。

キリト君が私たちの隣まで移動し、空を指差した。

 

「――来るぞ」

 

指差した先は、巨大な満月が蒼く光っている。

 

「月が……どうしたの?」

 

「ほら、よく見ろ」

 

私は目を凝らした。

輝く銀の真円、その右上の縁が――僅かに欠けた。

 

「え……?」

 

私は眼を見開いた。

月を侵食する黒い影は、どんどん大きくなっていくからだ。

その形は円形ではない。

不意に、ゴーン、ゴーンと重々しく響く音。

遥か遠くから聞こえてくる。

近づいて来たそれは、円錐形の物体で、幾つもの薄い層を積み重ねて作られているようであった。

底面からは三本の巨大な柱が垂れ下がり、その先端も眩く発光している。

一つの層が幾重にも重なるように出来ている。

あれは――。

 

「あ……まさか……まさかあれは……」

 

ユウキちゃんが私の顔を見た。

 

「そうだよ。 あれが――浮遊城アインクラッドだよ」

 

「……でも……なんで?なんでここに……」

 

キリト君が静かな声で言った。

 

「決着をつけるんだ。 今度こそ一層から百層まで完璧にクリアして、あの城を征服する」

 

「そうですね。 前は、誰かさんが四分の三で終わらせてしまいましたからね」

 

「う、まぁ、俺がズルしちゃったんだけどな……」

 

キリト君はランさんの言葉を聞き、肩を落としていた。

ユウキちゃんが、私の頭に手を置き、

 

「ボクたち、弱くなったからね。 ボクたちと一緒に、攻略手伝ってくれるかな」

 

――行こうと思えば、何処だって行けるんですよ。

ランさんの言葉が胸に落ちた。再び、涙が零れ落ちた。

 

「――うん。 行くよ……何処までも……一緒に……」

 

私たちが浮遊城を眺めていると、眼の前に長い青い髪を揺らした水妖精族(ウンディーネ)が姿を現した。

アスナさんだ。

 

「さ、行こう」

 

「さて、行くか」

 

「「「うん!!」」」

 

すると、足元から声がした。

赤い髪に黄色と黒のバンダナを巻いた、クラインさんだ。

 

「おーい、遅ぇぞ、おめぇら」

 

その隣に、土妖精族(ノーム)の証である茶色い肌を光らせ、巨大なバトルアックスを背負ったエギルさん。

 

「お前らも早く来い。 俺たちで第一層のボスを倒しちまうぞ」

 

鍛冶妖精族(レプラコーン)専用の銀のハンマーを下げ、純白とブルーのエプロンドレスを(なび)かせたリズベットさん。

 

「ほら、あんたらも早く来なさい。 置いてくわよ」

 

艶やかに茶色い耳と尻尾を伸ばし、肩に水色のドラゴンを乗せたシリカちゃん。

 

「リズさん~、待って下さいよ~」

 

手を繋いで飛ぶ、シンカーさんとユリエールさん。

スティックを握ってふらふら飛ぶサーシャさん。

手を振って上昇するレコン。

その後ろにシルフの領主サクヤ、ケットシーのアリシャ・ルーも続く。

ユージーン将軍とその部下たち。

ユイちゃんが、キリト君の肩に乗った。

 

「ほら、パパ、はやく!」

 

「おう!!」

 

キリト君はアインクラッドを見詰め、微かな声で誰かの名前を呼んだようだった。

キリト君は不敵な笑みを浮かべ、ユウキちゃんと手を握ってから、翅を大きく広げ、真っ直ぐに天を目指す。

 

再び、あの城へ

 

ALO編 ~完結~

 




今回は、リーファちゃん視点が多かったですね(笑)
ランちゃんはウンディーネにしました~。

ALO編が完結いたしました!!
読者の皆さんが観覧してれたおかげです!!
ありがとうございます!!

さて、次回はGGO編にすぐに行っちゃおうか、それとも何かを挟もうか。

ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。