舞翼です!!
今回は結構長く書きました。
原作と被り過ぎていたらごめんよ。
被らないように書いたけど…。多分、大丈夫のはず。
それでは、どうぞ。
第1層《はじまりの街》に降り立ったのは、デスゲームが始まって以来だ。
ここはアインクラッド最大の都市であり、冒険に必要な機能は他のどの街よりも充実している。
物価も安く、宿屋の類も存在し、効率だけを考えるならここをベースタウンにするのがもっとも適している。
ここの中央広場に立って大空を仰ぐと思いだす。
全てが終わり、全てが始まった場所と。
戦う事が出来るプレイヤーは、はじまりの街に留まっている者はいない。
俺たち四人は、転移門を出たところで立ち止まった。
俺は巨大な広場と、その向こうに横たわる町並を見渡した。
「……思い出してしまうな……」
俺がポツリと呟いた。
「……うん」
「……全てが終わり、全てが始まった場所ですからね……」
ユウキとランは、俺の呟きが聞こえていたようだ。
俺はランを見てから口を開いた。
「……デスゲームが始まったあの日……、声をk「キリトさん」」
ランが俺の言葉を遮ってきた。
ランは言葉を続ける。
「いいんですよ。 キリトさんにも事情があったはずです。私はキリトさんを責めたりはしません。 全プレイヤーには失礼ですが、私は今とても幸せです」
ランは優しい声音で言ってきた。
「ボクも幸せだよ」
俺の左隣りに立っていたユウキが言ってきた。
背にいたユイが、俺の顔を覗き込んで声を掛けてきた。
「パパ、元気だして……」
「ああ、そうだな」
ありがとう、三人とも。
俺は三人に笑顔を見せた。
「キリトは、笑っていた方がいいよ」
「そうですね」
ユウキとランは、俺の頬を撫でながら言ってくれた。
「パパ、やっと笑った」
俺はユイの頭に手を置きくしゃくしゃと頭を撫でた。
まったく、いい子だな。
早くお父さんとお母さんを探さないとな。
「ユイ、見覚えのある建物とかあるか??」
「うー……」
ユイは難しい顔で、広場の周囲に連なる石造りの建物を眺めていたが、やがて首をふった。
「わかんない……」
「はじまりの街はとっても広いしね」
俺の左隣に立っていたユウキがユイの頭を撫でながら言った。
「歩いていればそのうち何か思い出しますよ。 とりあえず、中央広場に行きましょうか??」
俺の右隣に立っていたランがユイの頭を撫でながら言った。
ユイはユウキとランに撫でられ、目を細めて気持ち良さそうにしていた。
「じゃあ、行くか?」
俺の言葉にユウキとランは頷き、大通りに向かって歩き始めた。
「ねぇ、キリト」
ユウキが俺に聞いてきた。
「んっ、どうした?」
「人が少ないような気がするのは気のせいかな……??」
「確かに……」
俺は、訝しげに広場を見渡した。
確かに、意外なほど人が少ない。
はじまりの街はアインクラッドで一番広く、
一般プレイヤー、戦えないプレイヤーは、はじまりの街に留まっているはずだ。
何で人が少ない??
「ここって今プレイヤー何人くらい居るんでしたっけ?」
ランが俺に聞いてきた。
「うーん、そうだな……。 生き残っているプレイヤーが約六千人、《軍》を含めるとその三割くらいがはじまりの街に残っているらしいから、二千弱ってとこじゃないか??」
「じゃあ、マーケットの方に集まっているのかな?」
ユウキが俺とランの会話に混ざってきた。
確かにマーケットの方に行けば、人が大勢集まっているのかもしれないしな。
大通りに入り、店舗と屋台が建ち並ぶ市場エリアにさしかかっても、相変わらず街は閑散としていた。
どうにか、通りの中央に立つ大きな木の下に座り込んだ男性プレイヤーを見つけた。
俺たち四人は、男に近寄り声を掛けた。
「あの、すいません」
ランが口を開いた。
妙に真剣な顔で高い梢を見上げている男は、顔を動かさないまま面倒くさそうに口を開いた。
「なんだよ」
男は、俺たち四人を遠慮のない目つきでじろじろと見てきた。
「なんだ、あんたらよそ者か?」
「ああ……、この子の保護者を探しているんだ」
俺は背中でうとうとしているユイを指し示す。
「……迷子かよ、珍しいな。……東七区の川べりの教会に、ガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでいるから、行ってみな」
「ありがとう。 おじさん」
ユウキが男性プレイヤーにぺこりと頭を下げた。
俺たち四人がこの場を離れようとした時、男が声を掛けてきた。
「お前さんたち、軍の徴税部隊には出くわすなよ」
「ああ、わかった」
俺は頷いた。
教会に向かっている時、ユウキが俺に声を掛けてきた。
「……ねぇ、もしだよ!! もしユイちゃんの保護者が見つかったら……」
ユウキの声がだんだんと弱くなっていく。
「ユイちゃんと別れたくないのね。 そうでしょ、ユウキ?」
ランがユウキに聞いた。
ランの質問にユウキはこくりと頷いた。
「別れたくないのは俺も一緒さ。 何ていうのかな……。 ユイがいることで、あの森の家が本当の家になったみたいな……。 そんな気がしたもんな……」
俺は背中で眠っているユイを見やった。
「ちょっ……、ユウキ泣かないで、会えなくなるわけじゃないんだから」
俺はユウキの左隣まで行き片手でユイを支え、空いた片手でユウキの頭を撫でてあげた。
「元気だせよ、なっ」
「……うん、わかった」
ユウキの声はまだ弱い。
ランはユウキの右隣まで行き、ユウキの頭を撫でた。
「ユウキはユイちゃんのママでしょ、泣いていたらダメでしょ」
「……うん」
ユウキはユイの頭を撫でて意を決して歩きだした。
「じゃあ、行くか」
俺はユイを支え直し、再び教会に向け足を進めた。
「そうですね」
俺の言葉に応じてくれたランは、寂しそうな顔をしていた。
♦♦♦♦♦♦♦
「どなたかいませんかー?」
ユウキは、教会のドアを開け言った。
だが、声の残響エフェクトの尾を引きながら消えていっても、誰も出てくる様子はない。
「……いや、人がいるよ。右の部屋に三人、左に四人……。二階にも何人か」
「……あっ本当だ」
ユウキも索敵スキルを使用したのだろう。
ユウキは索敵スキルを完全習得しているしな。
俺とランも完全習得しているけど。
俺たち四人は、そっと教会内部に足を踏み入れた。
静寂が周囲を包むが、なんとなくその中に息を潜める気配がある。
「あの、すいません、人を探しているんですけど」
ユウキがもう一度呼びかける。
すると、右手ドアが僅かに開き、その向こうから細い女性の声が響いてきた。
「……《軍》の人じゃ、ないんですか?」
「違いますよ。 上の層から来たんです」
と俺が言った。
俺もユウキもランも、剣はおろか戦闘用の防具ひとつ身に着けていない。
軍所属のプレイヤーは、常にユニフォームの重装備を纏っているので、格好だけでも軍とは無関係であることが解るはずだ。
やがてドアがゆっくり開くと、一人の女性プレイヤーがおずおずと姿を現した。
暗青色のショートヘア、黒縁の大きな眼鏡をかけ、その奥で怯えをはらんだ深緑色の瞳をいっぱいに見開いている。
簡素な濃紺のプレーンドレスを身に纏い、手には鞘に収められた小さな短剣。
「ほんとうに……、軍の徴税隊じゃないんですね……?」
ユウキとランは、安心させるように微笑みかける。
「私たちは人を探していて、今日上から来たばかりなんです」
とランが言い、
「軍とは何の関係もないですよ」
とユウキが言った。
――その途端
「上から!? ってことは本物の剣士なのかよ!?」
甲高い、少年めいた叫びと共に、女性の背後のドアが大きく開き、中から数人の人影がばらばらと走り出て来た。
直後、祭壇の左手の扉も開け放たれ、同じく数名が駆け出してくる。
どれもこれも少年少女と言っていいうら若いプレイヤーたちだった。
下は十二歳、上は十四歳といったところだろう。
「こら、あんたたち、部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」
慌てたように子供たちを押し戻そうとする女性だけが二十歳前後だと思われる。
もっとも、誰一人として命令に従う子はいないが。
だが、真っ先に部屋から走り出てきた、赤毛で短髪のつんつん逆立てた少年が失望の叫び声を上げた。
「なんだよ、剣の一本も持ってないじゃん。 ねぇあんた、上から来たんだろう? 武器くらい持ってないのかよ」
「いやっ……、ないことはないけど」
俺が答えると、子供たちの顔がぱっと輝いた。 見せて見せてと、口々に言い募る。
「こらっ、初対面の方に失礼なこと言っちゃだめでしょう。 ――すいません、普段お客様なんてまるでないものでしたから……」
いかにも恐縮したように頭を下げる眼鏡をかけた女性。
「そういえば、幾つかアイテムストレージに入れっぱなしの武器があった気がする」
「私もあるわ」
ユウキとランはウインドウを開き、指を動かした。
たちまち十五個ほどの武器アイテムがオブジェクト化され、傍らの長机の上に積み上げられていく。
子供たちは、剣やメイスに手に出しては「重―い」「かっこいい」と歓声を上げてその周囲に群がった。
中には、武器で遊んでいる子供もいる。
だが、街区圏内では武器をどう扱おうとそれによってダメージを受けることは有り得ないので大丈夫だろう。
「……すみません、ほんとうに……」
眼鏡をかけている女性が、困ったように首を振りつつも、喜ぶ子供たちの様子に笑みを浮かべて言った。
「……あの、こちらへどうぞ。 今お茶を準備しますんで……」
礼拝堂の右にある小部屋に案内された俺たち四人は、振舞われた熱いお茶をひとくち飲んでほっと息をついた。
ユイは俺の膝の上で寝ているが。
「それで……、人を探していらっしゃるということでしたけど……?」
向かいの椅子に腰掛けた眼鏡をかけた女性プレイヤーが小さく首を傾げて言った。
「ええ、そうです。 あっそう言えば自己紹介をしていませんでしたね」
ランが眼鏡をかけた女性プレイヤーに言った。
「私はランと言います」
「ボクはユウキだよ」
「俺はキリトだ」
俺たち三人は、眼鏡をかけた女性プレイヤーに自己紹介をした。
「私はサーシャです」
ぺこりと頭を下げて言う。
「で、俺の膝の上で眠っている子がユイです」
俺はユイの頭を撫でながら言った。
俺は続けて言った。
「この子、22層の森の中で迷子になっていたんですよ。 記憶をなくしていて」
「まぁ……」
サーシャという女性の、大きな深緑色の瞳が眼鏡の奥でいっぱいに見開かれる。
「装備も、服以外は何もなくて、上層で暮らしていたとは思えなかったので……。はじまりの街にこの子のことを知っている人がいるんじゃないかと思って探しに来たんですよ。こちらの教会で、子供たちが集まって暮らしていると聞いたので」
ランがサーシャに言った。
「何か知りませんか?」
ユウキがサーシャに問いかけた。
サーシャは、お茶をひとくち飲んでから話し始めた。
「……この教会には、小学生から中学生くらいの子供たちが20人くらい暮らしています。 多分、現在この街にいる子供プレイヤーのほぼ全員だと思います。 このゲームが始まった時……」
サーシャは言葉を続ける。
「それくらいの子供たちのほとんどは、パニックを起こして多かれ少なかれ精神的な問題を来たしました。 勿論ゲームに適応して、街を出て行った子供もいるんですが、それは例外的なことだと思います」
このことは、俺にも言える事だった。
俺もゲーム開始時にパニックを起こしたから。
「当然ですよね。まだまだ親に甘えたい盛りに、いきなりここから出られない、ひょっとしたら二度と現実に戻れない、なんて言われたんですから……。 そんな子供たちは大抵虚脱状態になって、中には何人か……、そのまま回線切断してしまった子もいたようです」
サーシャの口元が固く強張る。
「私、ゲーム開始から1ヶ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げしていたんですけど……。 ある日、そんな子供たちの一人を街角で見かけて、どうしても放っておけなくて、連れてきて宿屋で一緒に暮らし始めたんです。 それで、そんな子供たちが他にもいると思ったら居ても立ってもいられなくなって、街中を回っては独りぼっちの子供に声を掛けるようなことを始めて、気付いたら、こんなことになっていたんです。 だから……、お三方みたいに、上層で戦っていらっしゃる方もいるのに、私はドロップアウトしちゃったのが申し訳なくて」
「そんなことないですよ、サーシャさん」
「サーシャさんは立派に戦っているよ」
「ええ、そうですよ」
俺たち三人は、サーシャに優しい声音で言った。
「ありがとうございます。 でも義務感でやっているわけじゃないんですよ。 子供たちと暮らすのはとっても楽しいです」
ニコリと笑い、サーシャは俺の膝の上で眠るユイを心配そうに見つめた。
「だから……。 私たち、二年間ずっと、毎日一エリアずつ全ての建物を見て回って、困っている子供がいないか調べているんです。 そんな小さい子が残されていれば、絶対気付いたはずです。 残念ですけど……、はじまりの街で暮らしていた子じゃあ、ないと思います」
「「そうですか……」」
ユウキとランは俯いてしまった。
「そういえば、毎日の生活費、どうしているんですか?」
俺が口を開いた。
「あ、それは、私の他にも、ここを守ろうとしてくれている年長の子が何人か居て……、彼らは街の周辺のフィールドなら絶対大丈夫なレベルになっていますので、食事代くらいはなんとかなっています。贅沢はできませんけどね」
「「「それは凄いね…」」」
俺たち三人は口を揃えて言った。
「だから、最近眼を付けられちゃって……」
「……誰に、です?」
俺が応じた。
サーシャの穏やかな目が一瞬にして厳しくなった。言葉を続けようと口を開けた、その時―
「先生! サーシャ先生! 大変だ!」
部屋のドアが開き、数人の子供たちが雪崩込んできた。
「こら、お客様に失礼じゃないの!」
「それどころじゃないよ!!」
先ほどの赤毛の少年が、目に涙を浮かべながら叫んだ。
「ギン兄ィたちが、軍の奴らに捕まったんだよ!!」
「――場所は?!」
別人のように毅然とした態度で立ち上がったサーシャが、少年に訊ねた。
「東五区の道具屋裏の空き地。 軍が十五人くらいで通路をブロックしている。 コッタだけが逃げられたんだ」
「解った、すぐ行くわ。――――すみませんが……」
「いや、俺たちも助けに行くよ」
俺はユウキとランを見た。
「「うん!!」」
ユウキとランは、俺の言葉に頷いた。
「――ありがとうございます。 お気持ちに甘えさせていただきます」
サーシャは深く一礼すると、眼鏡を押し上げ、言った。
「それじゃ、すいませんけど走ります!」
♦♦♦♦♦♦♦
「おっ、保母さんの登場だぜ」
「……子供たちを返してください」
硬い声でサーシャが言う。
「人聞きの悪いこと言うなって。 すぐに返してやるよ。 ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな」
「そうそう。 市民には納税の義務があるからな」
わははは、男たちが甲高い笑い声を上げた。 固く握られたサーシャの拳がぶるぶると震える。
「ギン! ケイン! ミナ! そこにいるの?!」
サーシャが男たちの向こうに呼びかけると、すぐに怯えきった少年少女の声でいらえがあった。
「先生! 先生!……助けて」
「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」
「先生……だめなんだ……!!」
今度は、しぼり出すような少年の声。
「くひひっ」
道を塞ぐ男の一人が、ひきつるような笑いを吐き出した。
「あんたら、ずいぶん税金を滞納しているからなぁ……。 金だけじゃ足りないよなぁ」
「そうそう、装備も置いていってもらわないとなぁー。 防具も全部……何から何までな」
男たちは
恐らくこの《徴税隊》は、少女を含む子供たちに、着衣も全て解除しろと要求している。
俺は、この屑野郎共に殺意にも似た憤りが芽生える。
だが、俺より先にユウキが動いた。
ユウキは爆発寸前だ…。
「……キリト。 姉ちゃん……」
ユウキの声には怒気が含まれていた。
ユウキはアイテムストレージから、愛剣《黒紫剣》取り出した。
「……私とキリトさんは、こちらに向かってきた軍のプレイヤーの処理をするわ」
「……おう」
俺とランは、ユウキの静かな怒りにとても驚いた。
普段の活発さが無いのだ。
「……じゃあ、武器を装備するか?」
俺はランに問いかけた。
「そうですね」
俺はユイを右手で抱き上げ、先程アイテムストレージから取り出した愛剣《エリュシデータ》の柄を握り鞘から抜剣し左手に装備した。
ランもアイテムストレージから自分の愛剣《青龍剣》を腰に装備し、腰に装備した剣の柄を握り鞘から《青龍剣》を抜剣した。
俺とランは、後ろに隠れているサーシャと子供たちの護衛をすることにした。
ユウキは無造作に地面を蹴り、敏捷力と筋力補正を全開にして跳躍し、軍のメンバーの頭上を軽々飛び越え、四方に囲まれた空き地へと降り立った。
「もう大丈夫だよ。 装備を戻して」
ユウキは子供たちに歩み寄り、微笑みかけながら言った。
少年たちはこくりと頷くと、慌てて足元から防具を拾い上げウインドウを操作し始めた。
「おい……。 オイオイオイオイ!!」
先頭に立っていた軍のプレイヤーの一人が喚き声を上げた。
「おい……。 嬢ちゃん……、《軍》の任務を妨害すんのか!」
「まぁ、待て」
それを押し留め、ひときわ重武装の男がユウキの前に進み出てきた。
どうやらリーダー格らしい。
「あんたら見ない顔だけど解放軍にt「おじさん、うるさい……」」
ユウキの声は先程より怒気が増していた。
ユウキは、腰に装備している黒紫剣の柄を握り鞘から抜剣する。
「おぉ、解放軍と戦おうってかい、戦うんなら《圏外》でやるか!?」
軍のリーダー格がユウキに向かって言った。
「……うん……、戦おうか。 圏外でやってもいいけどね……」
ユウキは黒燐剣、最上位剣技『マザーズ・ロザリオ』計十一連撃を放った。
軍のリーダー格は、ユウキが放った攻撃を受けて思いっきり後方へ吹き飛んだ。
俺とランの横を通り過ぎ、後方にある小屋に激突し大きな爆発音を立てた。
「安心していいよ、HPは減らないから……」
ユウキは、残りの軍の連中に言った。
犯罪防止コード圏内では、武器による攻撃をプレイヤーに命中させても不可視の障壁に阻まれるのでダメージが届くことは無い。
だが、ソードスキルの威力によっては、わずかながらノックバックが発生する。
慣れない者にとっては、HPが減らないと解っていても耐えられるものではない。
「……ねぇ、おじさん達、戦う?」
「ひあっ……、た、助けて」
ユウキの奴、今の攻撃で完全に恐怖を植え付けたな……。
軍の連中はリーダー格を見捨て、この場から逃走した。
ユウキは、軍の連中の逃走と、俺とランが相手をしていた数人の軍のプレイヤーの
「スッキリしたー」
ユウキは伸びをしていた。
先程の戦闘を見ていた、サーシャと教会の子供たちは絶句して立ち尽くしていた。
「あ……」
ユウキは、先程の戦闘を思い出し息を詰めて一歩後ずさった。
だが突然、子供たちの先頭に立つ赤毛で逆毛の少年が、目を輝かせながら叫んだ。
「すげぇ……、すげぇよ姉ちゃん!! 初めて見たよあんなの!!」
「このお姉ちゃんは無茶苦茶強いだろう」
俺は、子供たちに向けて言った。
「どうだユイ、ママはすごく強いだろ」
俺は、ユイの顔を見て言った。
「うん!! ママは強い」
ユイは、嬉しそうにしていた。
俺とランは、ユウキのもとへ歩き出した。
俺はユイを右手で抱き、左手には剣を下げている。
ランはすでに、青龍剣の刀身を腰に装備している鞘に収めていた。
俺はユウキの隣まで移動し、剣をアイテムストレージに収納してから頭を撫でてあげた。
「えへへ~」
子供たちも一斉に飛びついてきた。
主にユウキにだが……。
その時だった。
「みんなの……みんなの、こころが」
俺の腕のなかで、ユイが宙に視線を向け、右手を伸ばしていた。
俺とユウキとランは、その方角を見やったが、そこには何もない。
「みんなのこころ……が……」
「ユイ! どうしたんだ! ユイ!」
俺が叫ぶとユイは二、三度瞬きして、きょとんとした表情を浮かべた。
ユウキは、ユイの手を握る。
「ユイちゃん……。 何か、思い出したの?!」
ユウキが声を上げて言った。
「……あたし……あたし……」
眉を寄せ、俯く。
「あたしは、ここには……いなかった……。 ずっと、ひとりで、くらいところにいた……」
何かを思い出そうとするかのように顔しかめ、唇を噛む、と、突然ー
「うぁ……あ……あああ!!」
その体が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。
SAO内で初めて聞くノイズじみた音が俺の耳に響いた。
直後、ユイの硬直した体のあちこちが、崩壊するように激しく振動した。
「ゆ……ユイちゃん……!」
ユウキが悲鳴を上げ、その体を両手で必死に包み込む。
「ママ……ねぇねぇ……こわいよ」
かぼそい悲鳴を上げるユイをユウキは、俺の右腕から抱き上げ、ユウキはぎゅと胸に抱きしめた。
ランは、ユイの頭を心配そうに撫でてあげてた。
数秒後、怪奇現象は収まり、硬直したユイの体から力が抜けた。
「なんだよ……今の……」
俺のうつろな呟きが、静寂に満ちた空き地に低く流れた。
どうでした?
あと、ランちゃんの武器の名前を出しました。
やっぱり、ユウキちゃんといえば『マザーズ・ロザリオ』ですよね~。
また出しちゃいました(笑)
ご意見、ご感想よろしくお願いします!!