どよめき/悲鳴/歓声――混乱を喜ぶ若年層のモンスター。
男を押さえつける/両腕を背に回し、膝で踏みつける――呻き。怒りの悪罵。
「女! いきなり何しやがる! 放せクソ女!」
放さない/力を強める――男の肩を外す勢い/絶叫――こいつ自身は薬をやっていないようだ。
「あなたの言い方じゃあ『血浓于水』の運び屋はこの店の二階にいるのね?」
「くそったれ。食っちまおうなんて考えるじゃあなかったぜ! おめぇみたいのはあの二人に壊されちまったほうがいいな!」
叫び続ける男/ピアスを顔に付けた無頭竜の男を連想させる――力を込める。
「捜査官!」
急ぎ駆けつけてくる寿和/手に持った手錠/それを見た幾人かの客は逃げ出す算段を始める。
マズイことになる/利口なモノたちは既に店の裏口より逃げていた――さらに立ち位置=自分たち。
「放せこのクズ売女!!」
「黙ってろ。騒ぐなら取調室だ」
押さえつけている店主に寿和は手錠を嵌める。
「捜査官。あの良ければ......これを」
寿和の気遣い――安ぽいスカジャンを渡してくる。
何時までも下着姿で男に媚を売る気はない/素直に受け取り羽織る――年相応の匂いするが我慢する。
スカジャンに収まる重み/最たる気遣い――私のCAD、黒色の暴力の証――MOW。
ウフコックの次に頼りになる――今の私に最も必要な
やかましく聞える金具の音/足音――武装した従業員が殺到する。
拳銃、小銃、ライフル――機械化したモノも混じり一風変わった斧を持っている。
銃口がナナと寿和に向く/客たちが一斉に逃げ出す――“巻き込まれるのは嫌だ”“いい加減にしろ”。
表情から窺える非難の色/知ったことではなかった。
MOWを抜く――足元に転がっていた店主が寿和を跳ね除け逃げ出す――殺意が溢れた。
輝く銃口/二十グラムにも満たない弾丸が降り注ぐ。
寿和は弾丸を避けようと自己加速系の魔法を使用する/手でそれを封じる。
自ら避けている弾丸/銃声に反応する客――悲鳴と罵声が立ち籠める/入り口を塞ぐ稲垣が冷静になるように叫ぶ。
弾丸。効果なし――敵の装填を待つ。
寿和の驚きの表情――刑事が目にする初の楽園の力。
逸れた弾丸が地面を抉る――仮想映像を映し出す地面がひび割れ細かい粉末が煙となる/天井に吊られたミラーボールが落下する。
想定される時間/敵の弾切れはすぐそこに。
「千葉警部、相手側の弾切れがきます。反撃の準備を」
「わ、分かりました」
寿和は刀の柄を握りなおす――治まる銃声/弾倉が外れる音と共にナナと寿和は走り出す。
噴煙の中――視界は最悪に悪い。ナナには関係ない。
いつもなら
スポットライトを遠隔操作――強烈な光を敵に浴びせる/目を塞ぐ敵。CADが光を放つ。
敵の奇妙な振動/泡を吹き倒れる――スライドの金属音。カチリと噛み合う音。
従業員の幾人かは機械化している/義体の
従業員の手にする銃――安全装置が電子式/
引き金が引けない――顔一面に見える焦りの色/突っ立った木偶の坊にナナはCADを向ける――撃つ。
使い込まれた年代モノの義体/骨盤部位が振動で砕ける――従業員の幾人かは地面に突っ伏す。
作業的な戦闘行為――熱く滾る緊張感が抜け落ちている/それは虚無の戦闘だ。
寿和は銃弾の隙間を縫い接近する――「剣の魔法師」の本領とは程遠い/魔法師対魔法師を主眼する千葉家の白兵剣術/対サイボーグは「遊んで居た頃」に編み出した我流――一対多数。多勢に無勢はいつもの事だ。
警察省に正式配備された装備から逸脱した武装――伸縮機能内臓の刀/耐久性に難があるが魔法師には関係がない。
硬化の魔法――自己加速。
体勢を低くする/過度の魔法による加速は普通の人間には付いていけない/見るが側も使用する側も――寿和の、「剣の魔法師」の認識拡張はそれを可能にする。
外部アシストとして
迷いの無い動き――敵として認識する従業員/その手首に刀が走る――鮮血が舞う。
痛みの絶叫/動き回られても困る――片足の腱を切る。
何時どんな状況であろうとも人を斬るのは心が痛む――不要な感情を捨てきれない/エリカのように不要な感情を切り離せない。
右に避ける――振り下ろされる斧/地面が割れる。
紅色に光るスマートグラス/握り締める斧の柄が無茶苦茶に曲がっている。
「機械化か」
走る/金属の棒を曲げるような腕力は日常生活には不要――違法出力の義体/生死は問われない。
振り上げられる斧/動きは速い――動きは単純。見切りは容易。
相手の脇を通り抜ける――仕込み刀の鞘走り/右わき腹を抉る。
白い血液が人間でないことを確信させる――元人間。慈悲は掛ける――即座に両腕を切り落とす。
アラート。
メインホールのポールダンスステージの陰に隠れる。
爆音――銃撃。
遠間に見えたテーブルが炸裂/バーカウンターの酒瓶が粉々になる。
「なんて無茶苦茶な野郎だ。客もまだ逃げ切れてないんだぞ!!」
落下したミラーボールに映る敵の影――ディスクジョッキーをやっていた従業員/クローズド型ヘットフォンをしているが手で扱っているものはターンテーブルではなく軽機関銃。
飛び込むのも遠慮したくなる――黒い影は飛び出る。
黒色のスカジャンに婬靡な下着/白色の肌が除く――捜査官は弾幕の中に驀進した。
先程にも見た奇妙な技/魔法の分類なのだろう――弾丸が勝手に避けていく障壁魔法にしてはサイオンの流れは一切感じない。ピリピリと肌に感じる感覚から放出系統の魔法であると思い込む。
瞬く間に距離を詰めた捜査官/相手も機械化をしている――スカジャンの襟を掴まれる。
振り回されそうになるが彼女は動かなかった――というより動かせなかったのだろう。
捜査官は壁に自らの左腕を突き刺した――コンクリートの壁をいとも容易く破る。身体を固定している。
従業員の胸倉を掴みあげる――少女の細腕からは考えられない怪力/従業員を頭から地面に叩きつける。
首があらぬ方向に――駆動停止。
****/***
男の強化骨格でも自身の体重と衝突時に発生するエネルギーは受け止められなかった。
右腕から伝わる人工頚椎が砕ける感触/左腕を壁から引き抜く――にわかに悪寒。背筋を舐める悪寒。
「なに~、うるさいと思ったら荒っぽいガサ入れじゃん」
状況にそぐわない軽い口調――ポールダンスステージの上/二階に通じる階段から聞える。
昂ぶらない心のままそれを見た。それを見て後悔した。
そこに居たのは――司波深雪その姿だった。
「あれ? いい子がいるじゃん。あの野郎可愛い子が居たら連れて来いつの」
混乱――なぜ彼女がこの様な場所に/いつものような他人を思いやるような、慎み深い可憐な少女はそこには無かった。
身を乗り出し階段の手すりに寄りかかる姿/男を誘うような赤色の透けたベビードール、透けた下には赤色のTバックショーツ/軽くカールさせた髪――その視線、その仕草はナナが知る司波深雪とは程遠い――淫婦の姿。
「いいわ~ねぇ連絡先教えて。見た感じ、あなたとは長く付き合えそう」
コツコツと音を鳴らし螺旋階段を下りるそれ――手すりに隠れたいた全体像が現れた。
見惚れていたであろう寿和の驚愕と落胆の混じる表情――無理もなかった/何せ彼女には女性は持ち得ない男根があった。
ペニスバンドでもあのように生々しく脈打ちはしない/成人男性の倍の多くさのそれがビクビク打ち震える。
「これで犯されてみない?」
返答は決まっている/そして恐らくあの少女は。
「お前が『血浓于水』の運び屋か」
「なに? あれでぶっ飛びたいの? いいじゃん、そっち系も私たちいけるよ」
少女は淫らな手付きな自身の身体を弄る――いきり立つそれを軽くしごき始めていた。
「
新たな声――二階からまた現れた少女/彼女もまた司波深雪と同じ「顔」をしている。
違う点/短く切りそろえた前下がりのショートボブ――着ないであろう白色の露出面が多いテディ/そして赤色の少女とは違った男根――異様に長い真性包茎/ふにゃふにゃのそれを下着の中に押し込んでいる。
「別にいいじゃん。ねぇ
奇奇怪怪な姿の少女二人の視線がナナに注がれる――その視線は獣のそれだった。
寿和の疲れた声。「いい加減にしてくれるかお二人方。今はガサ入れ中だ、そういった話は留置所で――」
「お、おっさん......」
遠慮のが一切無い罵声、愚弄――寿和は少々落ち込んでいる/ナナは少女たちに伝える。
「お前たちに私の身体は渡さない。薬の出所だけを吐け」
「あっそ。じゃあ――」
二人は背に隠していた武器を取り出す――両手に握られる奇妙な形状の刀剣/剣に似ているが穂先が?型になっている/ナックルガードは三日月状の刃が付いている。二人の声が重なる。
『だるまにして犯してやるよ』
二人はステージから飛び降りる――二対二の戦闘/近接格闘。
煌く?型の穂先が迫る――ナナは身を屈め
踊るような剣戟――演武でもしているよな動き/奇妙な形の剣がさらにそれを助長する。
ウフコックが類似する武器を検索する――横から迫る/MOWで防ぐ。反対側よりもう一つが迫る。
足払い――飛び上がる
背後に回られる――スカジャンの襟首に剣のフックが引っかかている。
浮遊感――宙に投げられている/
狙い――ナナと寿和を引き離す事/遠巻きで寿和が二人に攻撃を受けている。
鮮やかな連携/寿和に反撃をさせていない。
寿和が
鳥籠のように嬲っている――寿和が上段で仕込み刀を切り込む。
少女たちのクロスさせた剣は同時にそれを受け止めた――左右同時に飛び退く/仕込み刀に擦れる奇妙な剣――?型の穂先が左右からぶつかる瞬間――仕込み刀がぽっきりと折られた。
仕込み刀の継ぎ目を狙われたのだろう――金切り鋏と似た要領で折られたのだ。
即座に反転した二人が穂先を寿和の首筋に――出し渋る気が失せる/ウフコックから五六口径を取り出す。
二人は跳び、避ける――天井に張り巡らされたパイプに剣が引っかける。俯瞰して淫靡な笑いを浮けべていた。
「捜査官。あれは双鈎だ、中華の短器械だ」
「剣の魔法師」は冷静に敵を見る――床に転がる色とりどりの武器から得意な刀状の鉈を取る。
闘気は失せていない――だが今は邪魔だ。
「下がっていて」
「ですが......!」
静かに言う。「邪魔です」
寿和に目にほんの僅かに映る怒り――すぐに失せる/稲垣の対応が追いついてないことを悟る。向かう。
「あんたって以外に冷たいね」
二人は既に地に降りている/ポールダンスステージのポールに双鈎を引っ掛けくるくると回っている。
打撃用マズルスパイクが付いた拳銃/ブラのホックから二挺ほど抜け落ちる――受け取り撃つ。
少女たちは多少驚いた表情を浮かべる――拳銃がどこからともなく現れれば当たり前/左右から攻めてくる。
双鈎の剣舞――無骨なマズルスパイク付き拳銃で受け止める/
両者の動きに付いていく――拳銃が火を吹く/ほぼ同時に聞える銃声――少女たちの下着に穴が開く。
赤いベビードールは無残に裂ける――深紅の少女に怒りが見える/単調になった瞬間を狙う。
大振りの攻撃/
マズルスパイクの出番――殴打、殴打、殴打/わき腹に三回――あばらが折れる感触/
「
純白の少女が激怒――一対一に縺れ込む。
顔を狙い双鈎が振るわれる――恨みを晴らす為の剣/顔を引き裂き悦ぶ気だ。
拳銃を盾に使い双鈎を伏せぐ――斬る、弾く、斬る、弾く/剣と銃の風変わりな戦い。
足先を狙う/銃撃――飛び退いた
双鈎の穂先が連結する――猿の手を繋ぐおもちゃを想像する――攻撃範囲が伸びる双鈎の刃。
手元を守っていた三日月状の刃はこのためのモノ――鞭でも扱う手付きで足元や腹を狙うが動きが遅すぎる。
驚きの声が聞える――マズルスパイクが
肺の空気が抜ける/肉に突き刺さる感触――不意に別の殺意が身を焼いた。
純白の少女を投げ捨てる/その場を飛び退く、天井に落下――瓶のコルクを抜く音/にわかに爆発。
何事か――周囲を見渡す/そいつは居た。
とうの昔に堪忍袋は切れている/そういった形相――密輸入したであろうグレネードランチャーを握った店主の男だった。
「ふっざけんな! 死にやがれ!」
いくら広いとはいえ室内でぶっ放すものではない――怒れている。
頭に血の上った人間は馬鹿になる――すぐにグレネードの弾は尽きる/天井から落下――銃で男を殴りつけ気絶させる。
すぐに背中を警戒する――銃を向けるが何ももういなかった。
****/***
警官たちが青年たちを車に詰め込む。
店主を制圧した数分後に警官隊が飛び込んできた――逮捕者多数。
麻薬所持、銃刀法違反、公務執行妨害――さまざまな容疑で連れて行かれる。
「捜査官。大丈夫ですか」
寿和がナナの体調を気にかける。今夜は動きすぎた疲れはあったが――やはり睡魔は一向にこない。
「『血浓于水』はありましたか」
「二階の個室にどっさりと。店主は今病院に護送中です」
「そうですか」
掴み足りなかった――見失う少女二人/混乱に紛れて闇に消えた。
空振りの予感した。寿和の携帯端末に着信――出ている。
魔法犯罪課の公用車の後部座席に深く腰掛ける――力が抜ける。眠気はこない。
寿和の焦った声が聞える。
「どうしました?」
寿和が戸惑ったような表情――言う。
「吸血鬼事件で捜査協力を頼んだ学生が倒れたと」
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