ファッ!!
17時25分
魔法協会支部前――第一高校+09チーム。
大人しく包帯を巻かれるレオンハルト/殺されたはずの男を見ながら不思議がる。
「あんた死んだよな? 何で生きてんだ?」
殺されたはずの男、”再来者“リアム。
不気味さが抜けた笑顔。「科学の力ですよ。あなたたち魔法師も科学の延長線上、性質の違う親戚のようなものですよ」
手持ち少ない煙草に火を灯すアメリア。「何が性質が違うだ。今の魔法は科学超えてきたって話だよ」
冷たい瞳で第一高校の生徒を見るイライジャ。「仕事が上がったりね。私たち”エンハンサー“に仕事が回ってこないわ」
苦笑いを浮かべながら相槌を打つ七草真由美/メンバーを見渡し一人いないことに気づく。
「あの、お一人いないようですが――」
「あいつはヘリに乗れないよ。自分の
そういいアメリアは立ち上がり体を解す/ベアリングを確認。それに呼応し09全員が臨戦態勢に入った。
もう嫌だと言った表情のレオ。「まだやんのかよ、軍人上がりの体力は怖いな。それで敵さんはどこにいるんだよ」
「敵がいるかもだよ」マチェテをくるくると回し答えるリアム/静かに耳打ち。「......彼女、戦闘狂ふしあるから」
そういい残し大亜細亜が乗ってきたトラックに向かう/行進曲の鼻歌――素早くトラックを調べる。
アメリアが運転席を調べる=運転席――ドライアイスの刺さった死体だけ。
《死体だけだよ》
荷台を捜索するリアム。《こちらリアム、荷台を捜索完了。これでこの仕事も......―ちょっと待った》
《なんだい。敵かい?》
《いや、なんだこれ。西欧甲冑......?》
《なんだそりゃ、ベンジャミン見えるかい?》
《残念ですが。自動ドアでワームを入れる前にしまってしまった》
衝撃/車輛が大きく揺れる/車体が軋む――明らかに後ろで何かが暴れていた。
運転席を飛び出し荷台に向けベアリングをありったけ撃ち込む――リアムは死なないから巻き添えにしてもかまわない。
後方の自動ドアが蜂の巣のように穴だらけに――騒ぎに第一高校生徒も自然に戦闘態勢に動き出す。
手持ちの半分近いベアリングを消費――一時的に様子見/僅かな静寂――動き出す怪物。
爆音/穴だらけのドアが曲がる――内側から殴りつけ大きな膨らみを作る。
何度も内側から殴りつけてドアが拉げる――ボコボコに拉げるたドアから青銅色の石の板が生えてくる。
身構える――生えたものを見て荷台の中にいる猛獣を察する=ヴェルミ・チェッリ。
ベアリングの銃跡から漏れ出す水蒸気――ゆっくりと青銅色の石版がトラックの中に戻る。
爆発。
内側から大量の水蒸気が噴出しドアを吹き飛ばす――水蒸気の靄の中から
二メートルを優に越す巨体――赤色の装甲に覆われた西洋騎士/狂犬をイメージしたヘルム/間接の隙間からはみ出したぼろぼろの糸状の赤黒い人工筋肉/編まれた筋肉が剥き出しで白く濁る水が流れる/鎧の隙間隙間から噴流=
片手に携えた身長を越す剣――荒く、無骨/岩より削りだした、石の板=
「............」
無言の殺気――ヴェルミ・チェッリ=スチーム・バーサーク。
トラックの中は蒸れた血の匂いで満ち溢れている――肉塊に姿を変えたリアムがいた。
レオンハルトの自暴の言葉。「......またかよ」
騎士は石刀を担ぎトラックを飛び出す――後ろの装甲から噴出する水蒸気=ジェットのように勢いをつけ石刀を振るう。
唸る風――暴風のような石刀/敵の腹に飛び込む――騎士の腹に拳を叩き込む。
異質な感触――水の詰まったドラム缶を殴りつけているようだった/騎士の片腕がアメリアの顔を鷲掴み。
悲鳴を上げた頭蓋/敵の力みが頭を割る可能性がある――足を振り上げ肘を蹴飛ばす。
逆方向を向き、白く濁る水が噴出/怪物の腕から抜け出す――風の唸り/下段横切り――
助太刀――対等する巨大な刃=大蛇丸/下段振り上げ――騎士の石刀の軌道を変える。
石刀の間合いから抜け出すアメリア――エリカとスチームの剣技勝負。
左肩に大蛇丸の刃先/防ぐスチーム――石刀を体の回りに振り勢いを付ける/上段斜め切り――大蛇丸で受ける/衝撃――石刀と大蛇丸を滑らせる。
地面を抉る石刀――スチームの手首に大蛇丸を振り下ろす。
爆発。
身を焼くような熱風――スチームの名を持つ騎士が肉体に溜め込む莫大な
視界を塞がれる/靄の中、背筋に伝った圧倒的な自分に向けられているであろう殺意――飛び退く=先ほどまでいた場所に石刀が振り下ろされる。
荒い息を整える/敵の存在を見極める――大蛇丸を超える
その技量――計り知れない/剣技勝負で石刀の振りで足を動かすことはあっても殆どその場を動いていない――得物に一切振り回されていない。
巨大な武装を扱うにはそれなりの技術がいる/巨大故にそれを使うためさまざまな力を駆使する/体重移動、遠心力、慣性、摩擦力、仕手の体重/すべてを使い、物とする――スチームにはそれがなかった。
ただ振り回しているだけ/腕の力だけで物としている/違法出力の義体でも二メートル半の肉体でこのサイズの武装を振るのは不可能に等しい――この見立てが正しければエリカに勝算ができる。
腕力だけ――肉体が振り回されない=奴が途轍もなく重い。
重すぎればそれはただの足枷+スチームは鎧を纏っている=その場を動かないのではなく、動けない。
この勝算に光を見る――ツインポールの意趣返しも込めて。
息を吐き進行方向を睨む/敵の左手――石刀を持つ反対側。踏み込む。
疾走――すべり敵の懐に/身を低く地面に沿う様に、敵の上段で振り下ろしを誘うように――風音を鳴らし切りかかるスチーム=予想のように上段で振り下ろす/「山津波」の加速のほうが速い――右脇下を抜ける。
方向転換――「山津波・燕返し」の用量で肉体に反映――敵の背後に急速接近/敵は鈍
重で急には動けない。
「取ったッ!」
スチームの背に向け下段袈裟切り――大蛇丸は刃を敵の血で濡らすこは――――なかった。
水蒸気の奔流/地面に向けスチームが撃ち出した――嘘のように巨体が浮き上がり、空を舞った。
飛翔からの自由落下+超重量――荒く削りきる石刀が鋭利な刃物に。
援護――ドライアイスとベアリングの支援砲火/石刀の軌道が逸れる――石刀は地面を捲り上げる/深く突き刺さる。
ぎろりと砲火を向けた者たちを睨む騎士――鈍重な体で一歩を踏み出す。
敵の背を見たエリカ――恐慌の表情に変わる。「逃げてッ!」
言葉と共にスタートダッシュを決めるスチーム――クラッシャーと同じぐらいの速度。
重い体なのにその走速は不可能――可能にした要因=高圧で噴射する水蒸気。走速というより滑空に近い。
自分目掛けて飛んでくる弾丸たちを滑りながら軌道を予測し回避/浮く足――自身の軌道変更の時たま足を付く。
光る粒子――ベンジャミンの援護/銀のワイヤー――難なく突破した/飛び火する先はアメリア。
石刀を振り込んだ――反応が間に合わずアメリアは避けきれない/両腕で防ぐ。
腕との衝突で散った火花を石刀が吸い取り緋色に変化。
折れる音/散る
別の可燃物に――目標=七草真由美。水蒸気が噴射を始める。
気づけばすでに目の前――横ぶりの緋色の石刀/アメリアとは違う生身――死を覚悟する。
「ウオオオラアアアアア!」
大きな雄叫び――巨大な肉体/真っ黒な鉄拳――腕が金属質な光を放ちながら走り着た男。
七草の目の前にまで来ていたスチームの顔に渾身の
殴り飛ばされたスチーム/何度かバウンド――ノックダウン。
「大丈夫か? 保護証人」
相手を畏怖させる大きな声――魅力的に七草真由美は聞こえる/十文字克人とも違う=
「は......はい」
ヘリに乗らなかった、
***/****
「ほら、立てよ。
中指を立て挑発するノア――無言で応じたスチーム/石刀を支えに立ち上がる。
ヘルムの下に隠れた顔/どんな表情を浮かべているのか分からない――殺気だけはありありと感じる。
殴られても無言のスチーム。「............」
立ち上がったと同時に水蒸気を巻き上げ走り出す――構えも何もしないノア/横ぶりの斬撃――ノアは片腕で受け止める。
すぐ後ろで見ていた七草/彼が死んだと思い、眼を強く閉じた――肉の切れる音ではなく/金属同士が衝突する音が響く。
七草真由美が見た光景――白い白人特有の肌から、黒人の黒い肌を通り越し漆黒の色に染まったノアの背中。
強化心臓が作り出すナノマシン/硬化の真価を発揮――だが疑問にも思う=なぜ飛ばされていないのか? 正確にはあの一撃でなぜ宙を舞っていないのか。
その答えは七草が持つマルチスコープの映像で予想した――異様な付き方をした筋肉/ノアの足元のコンクリートの尋常ではないひび割れ方。
答え――彼も途轍もなく重い。
アメリアの言葉――”自分の
筋肉の重みは脂肪の重い――それに加えノアは自身の
ノアは元々筋肉密度は異様としか言いようのない数値を出している――平均的な重みは脂肪の約3倍/だが彼が出した数値は――約7倍。そんな猛獣じみたノアが筋肉の密度を強化する特殊検診受けた――結果のノアの体重は500kg/ポールタイニーミーカーの持ち上げたバーベルを超えたのだ。
まさに超重量の
足の指先でも地面をがっちりと掴み飛ばされないように踏ん張る――ギラついた眼が闘気を佩びる。
「ウㇻアッ!」
ノアの右フックがスチームのヘルムの右側に直撃/漆黒の拳が不動であろうスチームが殴り飛ばされた。
ふらつくスチーム/ノアに背を見せる――笑いながら近づいたノア/後ろを向くスチームの肩に手を置く――背中を殴りつける。
うめき声一つ上げないスチーム/ノアが正面を向かせる――掴み合い。引き合い、払い合い、殴り合う――ボクシングもへったくれもない――ただの喧嘩=ノアが体験してきた
身を屈めたノア/スチームの懐に飛び込み頭を両手で掴み押さえ込む。
無理やり押さえ込まれたスチーム――ノアが片手で顔を集中的に殴りつける。重苦しい音が辺りに響く/スチームのヘルムがベコベコになる。
水蒸気の噴流――前面部から水蒸気を噴出し後ろに逃げたスチーム/石刀の間合いにノアを引きずり出す――横振りの一閃。凄烈な一斬。
今まで以上に身を低く構えたノア――ファイティングポーズをとる。打ち上げた拳――石刀の刃先に重なる。鋼同士がぶつかり合う――ノアのアッパー/スチームの一斬を打ち上げる。
大きな反動――石刀は大空を仰ぐ――猛獣の眼が光った。
陸上選手がスタートダッシュを決める態勢――ノアは地面を割り走り出した。
ノアの走りは怪獣の一歩に等しく、一歩ごとに地面はひび割れる――ありとあらゆる走るために使われる筋肉が隆起しノアの体を加速させる――上半身はナノマシンがコーティング/金属塊に変化――両腕だけは生身。
腕を振り上げる――走り加速+自身の体重を乗せた一撃。拳が金属と化す。
危険を感じ取るスチーム/両腕で初めて石刀を握る――踏み込む=兜割り。
接近する超重量の
ノアの頭を叩く石刀――ノアの金属化ナノマシンを打ち破ることは――――できず。
頭で受けきったノア/砲弾の威力となった拳を打ち出した。
炸裂。
スチームの鎧にボーリング玉サイズのへこみ――大空を舞う騎士/石刀。
地面を揺らす/地面に激突/轟きを響かせたスチーム。動かなくなる。
「第一ラウンドの終了だ。
天高く拳を突き上げたノア/勝利の雄叫び――猛獣の勝利。
どうも皆さん、こんにちはこんばんは。運珍です。
久しぶりに後書きを書きます。書く理由としてはたぶん皆さんも知っての筈。
このクロス作品の一つマルドゥックシリーズの作者、冲方丁氏がまさかの逮捕です。
原因としては妻へのDV、前歯を折るという暴行を行ったというものです。
私としてはこれは冤罪であってほしい。
いくら書いている作品が過激な暴力シーンがあったとしても、夫婦喧嘩で冷血な罵詈雑言を浴びせあおうと暴力は振るっていないでほしい。
でももしDVを行っていたなら反省してほしい。
私の哲学として女性は愛でるものであって嬲っていいものではない、嬲る場合その相手の同意の特殊なプレイの場合のみです。
話が脱線してしまいましたが冲方丁氏は冤罪であってほしいということです。連載も開始したマルドゥック・アノニマスの続きも気になります。
他人である私が他者の夫婦に口を挟むことではありませんが、この問題の正しい判決と治り得るかぎりの関係修復を私は願います。
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。