17時22分
戦闘――一方的な殲滅戦。虎の咆哮。
魔法協会支部の玄関口を守る義勇兵――虎にとっては木っ端も同然。
身に当たる弾丸は冬季の白雪そのもの/触れたことも気にしなければ気づかない。
バリケードのように並べた車=装甲車――機関砲。今の
素手で装甲車を押しのけ陰に隠れた腰抜け共を土俵に引きずり出す――頭を掴み投げ飛ばす。
木偶の坊――世界有数の近接格闘魔法師にとって小童/いくら数を揃えても凡作魔法師は塵芥――虎のように食い散らす。
顔に一撃――頭蓋の割れる感覚/裏拳――額がへこむ/腹に回し蹴り――水風船が割れる感覚と小枝を折る感覚。
興奮=
筋張った肉と骨の破片――徴兵組の青年は
大麻のせいで殺した――いい逃げ口実。最初はそれでいい/殺しの理由はそんなもので。
筋肉は解せた――凡作共も消え失せた/後は魔法協会支部を制圧するだけ。
行く先に見える影――破顔/愛おしい我が怨敵=渡辺摩利。
歓喜の叫び/報復の機会。駆け出す――喉笛を喰らってやる! 祖国のためにその命頂く!
闘気と殺気を身に纏い獲物に向かう――近接格闘に持ち込む。
横槍――躍り出た千葉エリカ。大蛇丸を上段で構え滑るように移動――巨大な刃が接近。
咄嗟の判断/両腕で防ぐ――身に着ける呪法具の強化の影響で両腕は切り落とされることはない/更なる敵――極薄の刃=
素早く身軽な動き――飛び上がり躱す。立ち位置の変更/西城レオンハルトの正面に――着地と同時に回し蹴り。敵の顔を潰れた柘榴のようにする。
三度の横槍――飛来する結晶=ドライアイス。足に着弾――軌道が反れる/反撃――叫び。
「
横ぶりの斬撃――ブリッチのような体勢で避ける。ぎらついた衝動が動く――兵士の本分を果たすとき/渾身の双手発勁/抉りこんだ手に感じる骨を割る感触。
西城レオンハルト=踏ん張りが利かず飛ばされる――バリケードに使われた車に激突。
敵の気配――獣同然の警戒心で見つける。
頭上――大蛇丸を構え飛び上がる千葉エリカ。振り下ろされる大蛇丸――体を横に逸らし躱す。
巨大な刃――地面に激突しなかった=バウンド/刃の軌道が不自然に変わる。不自然に軌道を変えた刃は
後ろに下がる刃先が胸の呪法具を削る――反撃。
虎の形相――身を反転さ掌打。
怪訝。
空を叩いたように手先に掌打を入れた感触がない――相手の沈黙。次の相手。
背後の音――敵。
害意――剥き出しの敵意/背後の敵=渡辺摩利。片手に三本のシリンダー――振り撒かれる。
体験済み――かすかに
敵の手から伸びる黒の蛇=三節刀/体を仰け反り回避。間合いはこちらの中/意趣返し――腹にとびきりの蹴りを入れる。
後ろの下がる――空気のうなり/頭上に集約=魔法。
撃ちだされる白氷――ドライアイス/野球選手の投球程度の速度。
懐疑――直感。
毛筋に走った警戒心――飛びのく/地面に刺さるドライアイス。魔法使用者を探す。
少し離れた位置=七草 真由美/
咆哮――駆け出す/装甲車のドアをもぎ取る――投擲。
回転/飛翔――まっすぐ飛び七草 真由美の胴体を両断するはずだった――更なる敵。
ベアリングの嵐――ドアを穿つ。ベアリングの中に人影。
ロザリオ/赤毛――大鉈=不気味な笑みの男。
肉薄した男の連撃――型のない動き/もっとも人の嫌う位置に切る込む大鉈。仮想敵の一端=スクランブル
「おお、虎だ。勇ましいですね」暢気な声で大鉈は
大鉈――灼熱の色彩/超振動の熱――刃に触れないように捌く。
足払い――敵のバランスを崩す/頭を狙い鋭い蹴りを入れる――ヒット。
柘榴を割ったように――中身を散らす/白子のような赤い脳漿が中に飛び散る/無線通信機が地面に跳ねる。
ヘーゼルカラーの美しい眼球の後ろ――同じサイズのベアリングが飛来。
飛び道具――電磁式/二つに割れた機械の腕。
戦士の表情――冷静でいて興奮した表情の女/しっかりと体の中心を狙ってくる。
駆ける――虎のように四足で。敵の焦り――弾数が増える/字の通り嵐のように=鎧を穿つには火力不足。
女の浅黒い肌の首筋に牙を立てる――その血を啜ってやる!。
足を取られる――引っ張られる/足元=死んだはず男の再来/
「裁きを受け損ねました。おお、神よ。それがあなたの思し召しか!」
死んだはずの男は足にしがみつく――片足を振り上げ/下ろす=胴を貫く――心の臓を潰す。
これで終わる――訳はなかった。
男を振り払おうにも死後硬直でなかなか外れない/穴は塞がり出す――目に生気が宿る。
「ははっ、ははは! 主よ。私は裁きを受けなくてよろしいので?!」
神よ神よとうわずった声で叫び続ける”
風を切る音=前方――空を飛ぶドライアイス/避けられない。
迎え打つ――氷ぐらいなら自身なら容易く割れる――ただの氷なら。
掌に触れる寸前――突如ドライアイスが消失。衝撃/眩暈――頭痛/吐き気。
意識がぐらつく/二酸化炭素中毒の症状――状況が理解できない。すぐに気づく――ドライアイスであったと。
氷であると錯覚――容易に打ち砕けると武人としての自信=己のおごりが招いた状況。
死ぬことは許されない――残りの意識が叫びたてる。きらきら光る銀の粉塵/全身の力を振り絞り無理やり息を吸い込む。
虎の如き咆哮。「ガッあああああアア......アア......」
下顎に伝う血――鼻からも垂れる。
巨体が揺らぎ膝を付く――顔が垂れたと同時に血を吐く。尋常ではない量――何が起こったかわからない。
不意に気づく――口から伸びる血が滴る二本の銀色の糸。
糸が伸びる先=七草が用意した救出ヘリ/一人シガーを吹かし、機内に残る
「お疲れ様です。安らかに眠れ、虎よ」
「あ......あが......ああ」
目を見開き状況を理解する――あたりを見渡す/敵しかいない。味方がいない――あの青年は。
見つける――体から生えたドライアイス/驚いた表情を浮かべて絶命していた。
それを見て少しだけ安心した――あれだと痛みも感じる暇がなかったのだと。
虎が臥す――静かに死の火を迎え入れた。
***/****
石川町付近中華街門前。
外界を拒絶する巨大な門――門の前を埋める人々=魔法師協会の義勇兵。
先頭に立つ青年、少女/将輝とナナ――行動の開始。
門の向こうへ青年の警告。「門を開けろ! さもなくば侵略者と内通していたものと見做す」
無言の応対/僅かに金属音――銃火器の警戒/脇に控えるナナが静かに
あける気はないらしい/強行突破の実行――倏忽に変化した状況。
硬く閉ざされた門が動く――開け放たれた中華街への道。
出てきた男――細身の貴公子/どこを見ているのかわからない眼差し。
後ろに控えるスーツ姿の男たち/拘束された大亜細亜兵――細身の貴公子が一歩前に。
「
ふざけた名前に疑問。「......
微笑みが返ってくる。「本名ですよ」
慣れた対応――ナナが一層警戒心を強める。
「失礼した。一条将輝だ」
非礼を装った侘び――相手の反応を窺う。静かな微笑み/化け狐を見ているようだった。
「私たちは侵略者とは内通していません。むしろ私たちは被害者です。そのことをご理解いただく為に、協力させいていただきました」
善良な愛国者――忠実な日本国一員を訴える。その反応がどうにも引っかかる。
なぜ受け入れた/なぜ門を閉じた――なぜナナの言うとおり
それ以前にどうやって兵士を拘束したのか。化け狐を見ているのではなく化け狐そのもの――疑念は消えず膨れ上がる/耳につけたナナから受け取ったインカムから声が届く。
魂の声を嗅ぎ取るネズミの天啓。《一旦引くべきだ。そいつは嘘をついてはいるが、この場での戦闘は不本意だとも思っている。敵から感じる敵意の匂いもそいつに向いている》
眉を潜めながらウフコックの提案を受け入れる。
「協力に感謝する」
兵士を引き取る――貴公子の微笑み顔が頭にこびりつく/胸の奥に不安の種を植え付けられる気がした。
大人しく敵兵士を連れていく――国防軍に引渡し。
不安――拍子抜け/そういった感じだった――ナナのいう
隣に立つナナを見る――冷たく重苦しい雰囲気がましている。こんなの初めてだ/人が爆弾のように感じられたのは――唐突にナナがウフコックから銃を取り出す。
投げて渡される。
「どうした急に」
「おかしいとおもわない? あいつらの態度。何かを隠している」
「何かって、何だ?」
「最悪の爆弾を投げて渡されたわね」
そう言った途端、兵士に向かい発砲――大柄な兵士の肩に着弾。
目を疑った/拘束中の兵士への攻撃行為は交戦規定違反だ――狂ってしまったのか。
「ナナ!」
「みんな離れて!」
その言葉に応じるように撃たれたはずの兵士が跳ね上がる――ドスンっと重量のある巨体が音を立てる。
兵士の顔がちらりと見える――見たことある顔=能登難民街のアウトロー。
「ブラックドック......!」
ブラックドックの眼光が赤く輝く――体を拘束する縄を引き千切る/作業服の裾が破け巨大なローラーブレードが姿を現す。
犬の咆哮――空に向け蹴りを放つ/摩訶不思議な風が吹き荒れ全身に不可視の壁が叩きつける。
突き飛ばされる――受身をとり犬に銃口を向ける。片足を地面につけた姿勢――引き金を引く。
衝撃――閃光が視界を一瞬塞ぐ/反動で銃が跳ね上がる。
銃口がブレうまく敵に弾が当たらない――獣は真っ直ぐ将輝の首目掛けて走る。
撃つたびに弾丸が反れる――そのたびに体を打つ風/壁。一瞬こいつもナナと同じ
獣は直向に家族の復讐を望む――逃げなければ/首をあのローラーブレードで刎ねられる。うまく体が動かない。
どこかから聞こえた音/金属が軋む音――銃の撃鉄が引かれる音に似ていた。
爆音。
全身に叩きつける音。空気が大きくたわみ振動がくる――この音は知っている。彼女が俺の前で始めて使った銃の音――怪物の喚声=五六口径。
ビー玉サイズの弾丸が壁を突き破る――弾丸で押しのけられた風が身を打つ/ビルの壁面に信じられないほどの風穴が開く。
犬の憤怒/信頼の狂気に取り付かれた犬は殺意の方向をナナに向ける。
叫換の音を上げたモーター――コンクリートを巻き上げナナに急接近/渾身の上段唐竹蹴り。
屈んで回避――五六口径の銃口を黒犬の体にぴったりつける/引き金を絞る。
クーラーファンの軋む音/黒犬の義体から異様な音が響く。
迸発。
ブラックドックを中心に円形状に不可視の壁が外敵を押しのける――跳ね除けられた五六口径/空に向け怪物の悪意が吐き出される。
ナナの懐に飛び込む黒犬――回転ノコギリのように鋭利なローラーブレードがナナの腹目掛けて一閃。
後方に
クーラーファンのうなりと共に不可視の壁が黒犬の周囲を取り囲む――五六口径の弾丸はその威力を発揮/ナナにしか撃てない実在しない銃の弾丸は難なく突き破る――黒犬の右肩を撃ち抜く。
火花と
体重移動とローラーブレードの回転力を奇妙な力加減で調整/ナナの
黒犬は指先の力だけで体を支える――ひねり蹴り/ブレードと合わさり凶悪な威力に昇華されていた。
軽やかな動きで避けるナナ――腰に収める
素早く動き、綺麗な姿勢で地面に着地――犬は壁面の”徘徊少女“を睨み付ける。
「人間じゃ付いていけねぇな」
将輝は過激なアクション映画さながらの戦闘を見ながら銃に新たな弾丸を装填する/別方向からモーターのうねり――ため息が出た。
ちらりと見る/40人近い黒犬の従犬たち――ぎらぎらした眼光で将輝を見ていた。
「......勘弁してくれよ、マジで」
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