2095年10月26日(水) -旧金沢バイパス
風を切りながらモンスターバイクは咆哮を上げていた。
旧金沢バイパスを北上し向かうは日本三大スラム街――能登島難民街。
2063年――大漢が内部崩壊し大亜細亜連合が強行的に吸収した年/日本では惨劇の年。
11月09日午後18:34――所属不明の大型爆撃機100機が大量のナパーム焼夷弾を積載し日本の主要都市を空爆。総死者数――5千万人。
日本全土を焼き尽くし――溢れかえった帰宅難民。少しでも被害の少ない地域に避難し生活が続く。
そんな中、大漢を吸収し勢いを増した大亜細亜連合の一部軍属が暴走/独断専行をし能登半島に侵攻。
大量に使用された劣化ウラン弾/浴びればすぐにでもあの世にいける放射性廃棄物をばら撒く――周囲の民家、施設。建物という建物に弾丸は撃ち込まれた。
半島を制圧し橋頭堡を建造の最中、日本軍の魔法師率いる2万人の国防軍が大亜細亜連合の一部軍属を殲滅した。
住処を失った住人たちは攻撃を免れた能登島に根を下ろす――半島に帰ることを願いながら。
しかしその願いは叶わない――放射性廃棄物の毒が周辺を汚す/不満と行き場のない怒りが市民を汚す。次第に犯罪が横行する――そこに目をつける暴力団関係/マフィア/アンダーグランドの住人。
一挙として集まる人間――人間が集まれば物も集まる。
毛布/食料品/衣服/医薬品/電気/機材/重機――ありとあらゆる物が集まる。その中には違法なものも。銃/麻薬/電子ドラッグ/違法義体。
そして徐々に物々交換が始まり利益、損得、商売が始まった――数十年掛けて能登島は改造をされた/今ではあるはずのなかった高層ビル群まで出来るしまつ――闇の世界の住人が育ち、日本随一のスラム街と姿を変えた。。
密入国者や戦争難民が能登島に拠点を作る――違法商売の見本市のようになってしまった。麻薬製造/銃密造/人身売買/臓器取引/エトセトラ。
いつの間にか日本三大スラム街/択捉経済特区/長崎生月島難民居住区/能登島難民街などともネットで言われている。
都市伝説では東京の地下にいまだ光化学毒素渦巻く旧メトロも入るそうだ。
現在進行形で行われる能登半島浄化計画――ナノマシンによる放射線除去技術の確立/魔法師の放射線収束技術。
全ては順調――ではなかった。
いざ出来るとなると、みな行きたがらない――健康被害の懸念/死の恐怖。足を竦ませ、決断を揺るがせる。
そん状況でも難民街は活気がある/今、そこに向かう最中、不謹慎だが心が高鳴った。
旧金沢バイパスを通るキャビネット――ゴミ収集車ばかり/理由は単純明快/人が集まらない場所にゴミ処理場があるからだ。広域行政に移行した現日本――止まらない都市部への人口の一極集中/おのずと増えだす過疎化地域。
都市から出されるゴミが増える/従来の処理施設が回らなくなり増築へ/都市部への増築は市民からの反対から目が付けられる過疎化地域――能登半島周辺は大規模な発電所や処理施設で埋め尽くされている。
《そんなに珍しい? 工場地帯を見るのは》
ウフコックが
《能登半島方面には行くなと教えられているんでな。こういった風景を見るのは初めてだ》
《今の内に楽しんどいたほうがいいわ。この先もっときつくなるから》
《スラム街はそんなに辛いのか?》
《
《そんなこの世の果て見たいな所に何の調査だ?》
《簡単よ。この事件を知り尽くしたロリコンに会いに行くのよ》
《ろ、ロリコン......?》
自傷気味に鼻を鳴らして笑うウフコック。《ロリコンはさすがに言いすぎじゃないか。ナナ?》
《あれの何所がロリコンじゃないのよ。完全なペドフィリヤよ》
《話中悪いが名前はなんて言うんだ?》
ウフコックが説明する――《デルク・フェンフール。我々が生まれた『失楽園』の元科学者だ》
《その科学者に何のようなんだ?》
《彼は『失楽園』を出た後、大亜細亜連合に亡命している。現在は能登島で情報屋をやっているそうだ》
《この事件に関わる敵国の情報を持っている訳か》
《そう言うことだ》
旧七尾市方面に入る――キャビネットに動力を供給する出力系は姿を消し、近距離公共交通システムは無くなりマニアル運転に切り替わっていた。
周囲を走る車もキャビネットではなく旧式の電気自動車や古代の遺産とも言っていいガソリン車が走っていた。
煙の匂いとゴムが擦れた生暖かい匂いが鼻を突いた――この時代では嗅げない泥臭く煙たい匂い/茶色く濁った海が眼前に広がる。
汚染された日本海――大亜細亜連合から流れ出た毒素の群れ。環境保護もへったくれない行動は日本海を汚し尽くし、魚はおろか微生物も入れば即お陀仏の死海に成り果てていた。
拡大を恐れた日本、UNSAは環境保護用のバイオナノ海藻を共同開発/日本海の出入り口を塞ぐようにナノマシンを散布。毒素は日本海だけでくい止めていた。
バイオナノ海藻は普段は雲のような海水蒸発防止膜を日本海に全体を覆い隠している――その雲の姿が見えない/昨夜の内に雨が降り海水蒸発防止膜を破ったのだろう。
バイクが旧金沢バイパスを降り、近場のコインパーキングに停車する。
ヘルメットを外しながら聞く。「バイクで行かないのか」
「行かないわよ。こんなバイクで行ったらスられる」
「こんな馬鹿でかい物をか?」
「大人数で引きずって、もしくはバラバラにされて」
「あー」脳内でこのバイクがバラバラにされ持ち去られるシーンが再生されて。「なんとなく理解した」
厳重に電子ロックなどを掛けるナナ/ウフコックがインカムから抜け出る/俺の肩に乗る。
「ウフコック、将輝の装備を出して」
「分かった」
ウフコックの腹からコートが出てくる――真っ黒な外套/所々に機械部品が内蔵されている。
「これは?」
「サーモスタット内蔵の耐環境コートよ。熱気、冷気、酸性雨。気休め程度だけど放射能からも守ってくれる」
投げて渡されるコートを受け取る/想像していたよりもずっと重く、ずっしりとしていた。
「いるか? これ」
「いるわよ、それに付いているガイガーカウッターを見て見なさい」
言われたとおり腕の袖部分に付いた液晶パネルを着ける/項目から放射能値を見る。
――2.8マイクロシーベルト/通常被爆の約25.5倍。その数値を見て急いでコートを着た。
「将輝、CADって持ってきてる?」
「あ......あぁ、一応」腰に収める紅の特化型CADを見せる。
ナナは自分のCADを背中に収めながら指示。「それはコートの背中の裏に納めて、見られたまずいことのなるわ」
「まずいこと?」
「ここの、と言うか大体スラム街ってのは魔法師反対派の巣窟よ。CADを持つそれだけで魔法師だって思われかねない」収め終えたナナ/整えながら腕のパネルを操作。「CAD金山する連中以外は殺されるわ」
指示通りコートの裏、背中部分に備えられている簡易ホルスターに収めた。
「CADもバイクのロックもよし。では、行きましょうか。――能登島難民街」
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能登島難民街に唯一繋がる橋、能登島大橋は難民や柄の悪い男達。中には新ソビエト連邦の人間や大亜細亜連合の人間まで混じっていた。
かなりの大人数が大橋を渡り、ごった返す橋――人を避けるようにナナの背に続く。
人々を見てわかった事が一つ/皆、意外に清潔な格好をしていた。
想像ではぼろ布を纏い痩せ細った人々を想像していた/現状は違い、ダウンジャケットやジーンズ、スーツやタイトスカートなど小綺麗な格好した人もいた。
「思っていたより、みんな綺麗な格好をしているんだな」
「人の尊厳って奴よ。どれだけ堕ちようと綺麗な服を着ていたのよ」
一キロ少しの大橋はすぐに渡りきる/眼前に見えるビルが昼間にもかかわらず光り輝いていた。
能登島難民街に流れる電気は全て旧志賀原子力発電所から流れていた――過去に一度、臨界事故を起こした旧志賀原子力発電所=寒冷化の影響で再稼動へ。
現在は魔法技術も進歩し放射線事故などは収束系魔法で被爆量を調整できる――魔法師20人態勢で稼働中。
わざわざ能登島難民街のためだけに日本にたった二機しかない原発が稼動している/未だに稼動している老原発であった。
電気発電も太陽光にほぼ全て移行していた――メタンハイドレート/メタンガス/ヒドラジン発電=循環型社会が叫ばれる。
能登島難民街に足を踏み入れようとする――あるものが目に入った。
死体だった。
『能登島にようこそ!』そう書かれている看板に括り付けられいた。
蜂の巣のように穴だらけになった顔が痛々しく、見るも無残な姿になっていた/穴の原因=足元にハンダゴテ――あれで顔を焼いていたことだろう。
首にぶら下げた白い粉袋から粉が漏れ出る。
「大麻を盗んだのよ。それの報復よ」
「こんなことが許されるのか......!」
「この国だけじゃない。綺麗な街で生まれたあなたにはショッキングだった」
然も愉快そうに答えたナナの精神を疑った――これを見ておかしいとは思わないのか?。
どうすることも出来ずその場を去る/死体を晒し者にすることは心苦しかった。
足を進めるにつれどうにも蒸してくる=街中に張巡らされたスチーム管が蒸気を上げる。
それに合わされるように肉や魚/潮や薬の匂いが混じり、言い表し難い強烈な匂いになっていた。
バリッと足が何かを踏み潰す――使用済みの注射器だった。
「薬は当たり前か......」
今まで見てきたものが嘘のように感じてしまう――今の日本の別の側面を。
「ナナ、これからどうやってその情報屋を探すんだ?」
「そうね、まずは電脳技師からね」
「電脳技師?」
「そう。あれは体の殆ど、脳の海馬以外は
そういい闇の奥へ進んでいく――その後姿は俺とはかけ離れた/この住人に限りなく近いものだと思ってしまう。そんな事はないはずなのに。
すれ違う子供たち――十歳になったぐらいの幼い子供たちが鬼ごっこに笑顔を咲かしていた。
「子供も大勢いるな」
「当たり前よ、スラムでも生活はあるんだから結婚もある。結婚をすればセックスもして子供も生まれるわ」
「そ、そうだな......」
ナナが一人の子供に話しかける。
「在这个附近不知道大的市?」いきなり中国語を話したことに驚く。
子供はナナの言葉に反応しどこかに指を指す。「在对面」
「謝謝」ほんの僅かに話しただけであった。
(何国話せるんだ?)
北アメリカの留学生であるナナは英語を話せて当たり前だ/日本語も話せる/中国語も話せるとは聞いていなかった。
「向こうに大きな市があるそうよ、行きましょう」
「あ、あぁ」
もう一般的な街ならば見なくなった上にある電線。
鳥籠――そんな単語が思い浮かんだ/逃げ場を無くす――電線が退路を塞ぐそんな事を。
「ナナは何国語を話せるんだ?」
「唐突ね――そうね、日本語、英語、中国語にロシア語かしら」
「よくそこまで言語を覚えれるな、俺は英語だけで精一杯だ」
「仕方ないわ、その辺りはよく行くから嫌でも覚えるから」
「よく行く?」
「そう、機械化の事件でね。北米、欧州とは違って東欧とアジア圏は機械化に対する規制とか法整備が出遅れてるからそういった事件が多いの」
「機械化に対して認識が甘いって事なのか?」
「宗教とかの関係が大きいかな、
「古典的な考えだな」
「宗教に関しては私達じゃどうしようもないからね。人の考えまで
「それでもだろ」
「そうね」
ナナは腕時計を見る――思い立ったように提案。
「そろそろ昼食にしましょう」
「昼食?」
飯の事まで考えていなかった/ナナは俺の手を引き近場のぼろぼろの食堂に向かう。
店の内装――清潔、とは言いがたかった。と言っても汚いとも言えない。中途半端に汚れている。
「合成食品が多いな」
「天然物はここじゃ高級品よ。合成食品で我慢して」
ナナが適当に頼んだものが数分もしないうちに出てくる/僅かに黄ばんだ丼に入ったうどんであった。
使い回しているであろう割り箸二つを手に取る。
「衛生面とか大丈夫か、これ?」
「そんな事考えていたら何も出来ないわよ」
コートの内ポケットから錠剤を取り出す。
「当たったらこれ飲んで」
腹痛を抑える薬――当たること前提に考えていたのか......。
ぬるい出汁に浸った合成うどんを啜る。
天然物の食品とは違ったくすんだ味――別の物で味をぼかしている。
天然物も寒冷化や戦争で大きく数を減らした。人工繁殖が確立し市に出回ってはいるが、こういった場所では安価で手に入る合成食品が人気があった。
何も考えず啜り続ける。向かいの机で異様な物が出されていた。
馬鹿でかい貝/黒い何かを揚げたもの。
「あれなんだ?」
「どぶ貝とゴキブリのから揚げね」ナナは平然と答える。
それを聞きここから先の雲行きが怪しくなった気がした。
どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。
久しく書いていなかった後書きを書きます。正直これを聞く終わるときには後書きに書くことを忘れているんですよね。
さてさて私事なのですが友人の誘いで今回書いた能登島に行きました。
現地で物を見るのは楽しかったです。参考になりました。イルカおるでー!言ってこの歳になって興奮しました。
日記見たいになりましたね。
…書くことないな…
次回予告!
この先も続く難民街。情報屋を探しあちこちをナナと将輝は走り回る。
長く書くのも疲れる!
では次回 バイバイ!
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。