2095年10月21日(金) - 日本陸軍地上兵器開発軍団第三開発所
トラックに積み込まれる
空を見つめる
兵器として哀れに感じてしまう――何も感じずただ人を殺す『物』/台風や地震と何も変わらない。
CAD片手に周囲を警戒/元も研究所では襲われないであろう。ルイスの鷹の言葉を思い起こす。
”
気まぐれなチェシャ猫の伝言。気に掛かる。
ざわつく心臓――虚無の囁き。
あなたの茶番好きは、よく知っているは
―――――――。嫌というほど
何かを意見すような/抑えた声。
積み込まれた
藤林の呼び声――「そろそろ港に行くわよ」
車に乗り込む。
「これで貴方達との共同捜査も終わりね」
「捜査期限は
車が動き出す/
「本星が見えても時間が無い......もどかしいものです」
「県警の方にも協力を依頼したけど。相手が
「警官に依頼を?」怪訝そうなナナ。「魔法師じゃない人間を巻き込むの」
「まさか。公安警察の魔法師さんよ。日本でもそれなりに名の通る家系のね」
CADを取り出し動作チェックをする。「そうですか」
「えらく警戒してるわね。何かあったの?」
「......知り合いのハッカーが警戒をと。
「何か? まさか大亜細亜連合の工作員」
「さあ、可能性ではヴェルミ・チェッリと言うこともありえます」
「嫌な可能性ね」いい加減にしてほしいていった表情――車が道を曲がる。
「最悪な状況を考えればそれが現実になる。そうなって欲しいと体が動くから――」ポツリとナナの口から出る。
「もっと嫌な言葉ね。誰の言葉?」
「私の持論です。嫌な考えは思考するだけでその可能性が生まれる。常に
「そうね。何もない事を祈りましょう」
国防軍が所有する港に入る/入り口に立つ警備と目が合う。
巨大なタンカー/脇に控えるイージス艦。何かあればタンカーごと撃沈などと考えているのだろう。
無数のコンテナ/兵器の詰まった火薬庫/社名がでかでかと刻印されている。
フォア・リーブス・テクノロジー/大和工業/セブロ/ミームナード。
車が止まる/トラックに積まれている
意思示さない保護証人――期限が切れるまで守るのが仕事。
だがどうにも腑に落ちなかった――キドニーたちが
本当にAIに枝だけをつけるためだったのか/
そして何より何故
もう捜査が出来ないことが心残りだった。
***/****
「なあ、あのトラックなんだ?」
軍港の玄関口を警備する一人が同僚に聞く/同僚が答える。
「そりゃあ。あれだろ。ここに来るつったら魔法兵器の分類だろ」箇所の監視カメラ映
像を見ながら適当に答える。「城跡から持ってきたのだろ」
小銃片手に話す。「城跡って、第三開発所か?。あそこ最近物騒だろ、馬鹿でかい犬見ただったり。発狂が多発してるだろ」
「ああ、頻発してるらしいな。ニュースでよくやってるな、薬物反応無しのとち狂った殺傷事件」
「怖いよな。変なうわごとを叫びながら刃物振り回したらしいぜ」
「何のホラーだよ。ゾンビよりたちが悪いな」
「相手は生きてるもんな。警官が銃ぶっ放そうにも実戦なしだろ。ビビるわな」
「俺たちも無いぞ、実戦経験。大戦中じゃなし、銃なんて使わんだろ」心底他人ごとのように言う。「魔法師が何とかしてくれるさ」
「あ? お前魔法師中心社会反対派じゃなかったか?」
「俺たちの仕事を減らしてくれるならそれでいい。見下すような態度は鼻につくがな」
「そうだな。新卒の魔法師は特に多いからな、一般階級の軍属は辛いな」
「ああ」
どうでもいい世間話が続く/警備はいたって平和。この軍港が出来て20年間事件と言える事件もなし。
隣に構える平塚市は大規模な難民街と化してはいるが、政府の対処が行き届き犯罪と言う犯罪もない。平和ボケしない方がおかしい。
そんな彼らの前に現れた――一匹の悪夢。
「あ、おい。難民のガキかあれ?」
ぽてぽてとゆっくりとした足取りで玄関口に向かってくる子供。
五歳程度/ぼろを纏い、透けた肌が見えていた。
ぼろを着ている割には顔や肌の汚れが無い――少児とは思えないほど理知的な顔立ち。
足元まで来て、顔を見上げてくる。
「どうした? 坊主? 迷子か」小銃を下ろし膝を折る。
同じ目線になった警備員は子供の目が綺麗なことに気づく/手が伸び警備員の顔をぺたぺたと触りる。
「ちょ、どうした? 俺の顔になんか付いてるか?」手が口や鼻の穴に突っ込まれる。
同僚は面白そうに眺めている/手が両頬に添えられる。
「バイバイ」子供がそう言うと真っ直ぐ腕を上に上げた。
警備員の首が引っこ抜かれる/パコっとコミカルな音を立て脊椎が外れ、首の皮が剥がれる。
五歳児とは思えない腕力――警備員の顔を胸元で眺め、潰す。
同僚は起こった状況がいまいち飲み込めなかった。
子供が仕事仲間の首を引っこ抜き、潰す姿が
子供と目が合う――ようやく何が起こったかを把握し、急ぎ警報のスイッチを押そうとする。
顔に向かい何かが飛んでくる=仕事仲間の血肉。べったりと顔を赤く染める。
足が震え、腰が抜ける/子供はぼろを脱ぎ捨てる。
幼い体/包み隠さず露にした姿態――犬のようなポーズをとる。
ぱきぱきと音を立て体が変化していく。
脊椎が大きく盛り上がり皮膚を裂く/隆起した筋肉が新たな形を形成していく。
艶めいた漆黒の体毛が生える/飾りのように長い耳/分厚い唇の間からとんでもない量のよだれが垂れる。
黄色く濁った白色の歯がハサミのようにがちがちと打ち鳴らされる。
冗談のように大きくなった子供の巨体/犬の形をした化け物の変身――そう言うしかない。
「おい、おいおいおい! 冗談だろ!」小銃を構えようとする。
警報のスイッチを押すと言う考えはもう浮かばなかった。
死にたくない/食べられたくないと言う考えしが頭を埋め尽くし、自然と銃に手が伸びる。
ベルトが引っかかりうまく出来ない/ようやくベルトが解け銃口が犬に向く。
「あ、」
犬はすでに飛び掛り、男の首を食いちぎっていた。
***/****
傾いた太陽を海が反射し赤く染まる/潮の匂いが鼻を突く。
ウフコックは潮の匂いを嫌いチョーカーの奥へ潜ってしまった。
「~♪」
視線の先に広がる
前に見たような焔を着込んだ姿ではない/ちゃんとした人の姿。
視線の先に遊具室――私の隣に座る男/私の認識が見せる
青灰色の目――冷淡な印象を受けた/爆弾――同時に受けた印象。
静かに隣に座る姿は仰々しく/人間と言うよりもっと大きなものに感じた。
だが同時にナナと遠くない存在/似た存在であるとも感じる。
遊具室に視線を戻す/男が口を開く。
それがお前の
重々しい声/どこかで聞いたことがあった。
ふいに思い出す――あの声だ=おお、
ああ、あれか位にか感じなかった/質問の答えを考えた。
「
――定義か
「脳が出すドーパミンの量で幸せを考えるなら私は幸せじゃないわね。でも21世紀的価値観でも私は幸せじゃないかも」
ただ黙って男は聞き続ける/遊具室から聞こえる笑い声が懐かしかった。
「09の仕事は昔も今も変わらずに何かを守って何かを殺しての繰り返し。それで私はウフコックとドクターが少しでも楽になるように手伝ってきた。でもウフコックはそれを望んでない、
あれは昔からそうだ
「彼を知ってるの?」
生まれた時から
「ふーん......」
タンカーの大きな影をなぞるように人差し指を伸ばす/肌が何かを捉える。
巨大な姿態――形からして犬/男が立ち上がりる。
ウフコックを頼む
そう言い残し虚無に溶けていく。
軍港に響いた小銃の咆哮――遊具室が薄れていく/反射的に手を伸ばす。気づく。
(七人しかいない……)
遊具室が消える/子供達の姿が心に残る――木霊する悲鳴。
コンテナの陰から飛び出てくる。無数のブロックで碁盤のように区切られている。
絶え間なく銃声と怒号、悲鳴が木霊していた/無線通信――藤林の秘匿回線。
《ナナさん。最後の最後に招かれざる客よ》
《分かってます。東Bコンテナ区ですね》
《ほんと、何処から見てるのかしら。飛び回る目でも付いてるのかしら?》
《それは別のメンバーです》駆け足で東Bコンテナ区に向かいながら返す。
《本当に何でもありなのね、機械化わ。援護するは》
それを最後に通信を切る/銃声と悲鳴の数が徐々に少なくなる。
絶叫――左の曲がり角から。閃光――銃口から出るマズルフラッシュの光。
轟音と叫びが響き渡る――硬いものが砕ける音
コンテナに鮮血が飛び散る。僅かに血に混じる肉=脳漿。
恐る恐る角を曲がる――広がる地獄。食い散らかされた人だった『物』。
千切られ/裂かれ/潰された死体たち。
生きた証であるかのように、体の中に内包していた血を一心にぶちまけ周囲を染め上げる。
現実離れした光景/オーバー表現のB級サイコ系映画を見ているようだった。
ウフコックを
一歩を踏み出す/血の海――その表現がぴったりだった。靴底を赤く濡らし侵入者を探す。
警備員は皆、驚き、恐怖の表情を浮べて死んでいる/四肢が千切れ真上の虚空を覘き続ける。
周囲を調べながら奥へ/足にぶつかる物――警備員の一人の首。
相当苦しんだのか涙を浮かべ絶命していた。
「......お疲れ様」自然と出た言葉/目を閉じようと目蓋に手を当てる。
警備員の眸/反射して後ろが写る。コンテナの上にいたそれ。
怪物/巨大な犬――漆黒の体毛が日光に照らされる=キドニー。
爪を打ち鳴らし飛び降りる/口を大きく開け、黄ばんだ歯をナナに突き立てる。
身を翻し、右上に
キドニーは唸り声を上げ、巨大な肉体を走らせる――飛び上がる。馬鹿の一つ覚えのように噛付こうとする。
身を横にかわす――足場にしていたコンテナが噛み砕かれる。中から溢れ出る
軍事用のアンドロイド/ガシャガシャ音を立て、血に落ちていく。
マグナム弾はキドニーの頭を引き裂きながら貫く――逃げようともせず突っ込んでくる。
屈み横に転げ込む――キドニーは器用に前足二本を軸に回転し方向転換。
顔に流れる赤い血――笑っているかのような目。顔に命中した傷口が塞がっていく。
キドニーの腹筋が盛り上がる――唾でも吐き出すようにマグダム弾が吐き出される。
「たちの悪い犬ね、汚い歯をブラッシングしてあげましょうか?」挑発気味た言葉が漏れる。
咆哮を上げる――ばねの様に跳ね回りながる突っ込んでくる。
背が盛り上がる――体毛を掻き分け肉芽が飛び出る。急速に伸び――長細い腕が出来上がった。
落下速度よりも速く、背から生えた腕はナナの足を掴む。力任せに振り回すタンカーに投げ捨てる。
身をひねり回転――タンカーの側面に着地。起きたことが理解できず混乱する。
――ウフコック見た?
《ああ、腕が
元々異様であった姿がさらに変わった――背中から生えた二本の手足を地に着く=蜘蛛に似た怪物に変身した。
――エンブリオ細胞?
《そう言った匂いはしない。恐らくただの代謝だ》
「新陳代謝だけで肉体形状を変化させた、進化に近いわね......」にわかに信じがたい真実/現実に存在している事象。
巨大な体をのそのそと動かす――腹にためる空気/雄叫びを上げる。
六本になった手足を使い地面を叩くようにナナに接近する――腕を伸ばす。
真上に飛翔するナナ――懐からCAD。MOW/”
キドニーの後方に放物線を描き自然落下――MOWの銃口が変形――内部構造を露出させる。
『膨張』をキドニーの右後ろ足に向かい発射――サイオンの弾頭が着弾。
『膨張』が作用を開始し広がっていく――キドニーが動いた。
体を曲げ右後ろ足に噛み付いた――背中の腕も使い後ろ足の根元を噛み千切る。
胴体に作用が開始る前に後ろ足を食い千切ってしまった。
「動物の勘ですか、本当に性質が悪い」キドニーの傷口が塞がることが姿を見て漏れた愚痴。
キドニーは本当に楽しいのかにたにたと笑いっているようだった。
「黙って出航まで大人しくしなさい。キドニー」
CADとリボルバーを構えながら問いかける――戻ってくるのは唸り声とよだれが地面に落ちる音だけ。
《なら、大人しくしましょう》藤林の無線通信――キドニーの姿が陰る。
轟音を響かせ落下してくるコンテナ――キドニーの下半身を下敷きにする。
あまりのうるささに耳を押さえるナナ――通信。
《もう少し穏便に出来なかったんですか》不満が最初に出る。
《ごめんなさい。でも相手は大人しくなったでしょ》得意げな声が返ってきた。
目を動かしコンテナを落下させたであろうクレーンを見る――無人=遠隔操作。
電子・電波魔法が得意な藤林ならではの戦術――通信機器を搭載した機械の操作/それでの戦闘。
恐らく安全な場所でクレーンを操作しコンテナをキドニーに落とした。
《陸軍がそっちに向かってる、出航の準備はもう出来たわ》
その言葉と同時にタンカーが動き出す。
徐々に速度を上げ軍港を離れようとする――うめき声。
上半身だけのキドニーが這いずり/逃げていく――下半身を切り離し、背中の腕と前足で全力で。
そちらに目が行く。爆音。
タンカーの甲板が爆発した。
《藤林少尉。何があったんですか?》
《分からない! 積荷が爆発したって連絡が――》
タンカーの後部甲板にそれが見えた――動かない筈の
悠然と立ち――英雄の石像のような立ち姿。
己の体を確かめるように手を動かし足を動かす/唖然とする。
《なんで
護衛艦のイージスから発射されたミサイル――一直線に
ミサイルの弾道がぶれだす――タンカーには当たらず海へ消えていく。
ナナはその姿を見て感じた――
どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。
終わりです。火之迦具鎚に関する事件は。
解決してないやん!終わりちゃうやん!と思った方そうです終わってません。
火之迦具鎚には今後もがんばってもらいます。
歩く棺桶なんて呼ばれてる直立戦車に日の目を当てたいのです。
通称先行者なんて呼ばせるにはもったいない原作設定なのでもっと出張ってもらいます。
次回、時系列日数的に入るか分からないけど。さんざん引っ張ってきた事件の一つに関してやります。
ではまたバイバイ!
誤字脱字報告。感想、意見、要求などはどんどん受け付けます。