状況の変化――新たな
将輝の警護をジャックに引き渡す/そのまま別の捜査に。
旧金沢を離れ――相模/旧小田原市にある日本陸軍地上兵器開発軍団第三開発所へ。
旧北陸新幹線――向かいに座る藤林響子。
質問。「日本の国防軍が他国の機関に依頼するなんて珍しいですね」
藤林の答え。「そうね、私たちだけで解決したかったけど。最近密入国騒ぎに難民問題。色々問題が山積みなの」
「難民問題、密入国、挙句には国の重要施設に強襲を掛けられた......」
呆れ混じりの感慨を示す。「警備が甘かったって訳じゃないのよね。敵が規格外って言ったほうがいいのかしら」
「映像は見ました、巨大な犬の化け物。あれは<ウェンディ・エンジェルス>のキドニーですね」
「いつ見たの? 再生機なんて渡していないわよ」
自分の頭を指で叩く。「ハードに映像出力を合わせました」
「さすが機械化部隊といったところかしらね」
映像メディアを返す。事件内容を聞きなおす――疑問も聞く。
「日本政府も思い切ったことをしますね。嫌疑が掛かるとしたら真っ先に私たち連邦の人間か大亜細亜連合でしょう」
「確かに彼方達マルドゥック機関のような、連邦司法局に所属している人達に協力を仰ぐのには否定した人間は居たわ。でもマルドゥック機関は連邦の味方にならないことは調べがついているもの。『国の柵に左右されないスタンドアローンな機関』でしょ」
「兵器規制論で私たちは粛清されそうになりましたから、連邦政府とはそこまで仲良くはありません」
「そんな彼方達なら研究所を襲う理由もないし。それに
「何処まで調べているのか怖いくらいですね」
「全員の出生は無理でも捜査官になってからの経緯はわかるわ。何せ世界を飛び回ってる新カルタヘナの天使達なんて呼ばれてるんだから」
「その天使達がカルタヘナに抵触していたら世話ないです」
少々意外そうにナナの顔を覗く藤林/腕を組み、子供の顔を眺めるように。
「何です?」
「写真や特尉の言ってた印象とは大分違うから」
「写真?」
鞄をあさり写真を出す。「ほら、これ」
受け取り見る。ナナの顔写真――過去に撮った写真。
今思えばかなり酷い目つきをしている。
「この写真を見てもっと簡潔に話す子かと思ってた」
「昔はそうでしたよ」
「今は違うの?考えを変えたってこと」
「主体と客体の変化、てことなのかもしれません」
「ふーん、難しいこと考えるわね」
窓を見る/次々と変わる風景。眺めながら感じる、火種たちの囁きを。
2095年10月12日(水) -日本陸軍地上兵器開発軍団第三開発所
小田原市――石垣山城跡に建てられた日本陸軍地上兵器開発軍団第三開発所。
独立魔装大隊との共同捜査/監視の目が光る。
正式な捜査開始――保護証人との顔合わせ。
重々しいかと思った研究所――思いのほかすっきりした外見。
ロビーを抜け保護証人が居るという場所へ。
白を基調としたナナの居た研究所とは違う/僅かにちらつく過去の記憶。
清掃員が行ったり来たり――少女と狂犬のせい。
鼻を刺激する鉄の匂い=血液が固まった匂い。
藤林の案内に黙って着いて行く。
「ここよ」
大きな鉄の扉/巨大な引搔き跡――犬の爪跡。
入る――嫌なまでに澄んだ空気=無菌室。幾つもの待機中の兵器が佇んでいる。
周囲を見渡す――人の影が見当たらない。部屋には二人と一匹だけ。
「保護証人は?」
「これよ」
藤林が目の前の直立戦車に手を置く。
巨大な車体――流線的なフォルム/芸術的な彫刻のような兵器。頭部に付けられたカメラが動く。
「なんの冗談です?」
「冗談抜きよ、これを守ってもらいたいの」
「これの開発者かと思ったけど、まさか兵器の警護......、捜査方針も変わってくる」
「それのバックアップ担当が私って訳よ。事前に渡した書類に警護期間は21日、今日を合わせて9日よ」
「無茶苦茶な要求ですね」
半ば諦めた顔/こめかみを押さえる藤林。「上は犯人を挙げるより、これを早く移動させたいみたいよ」
機体を見る――通常の直立戦車よりも少し大きい。装甲も黒く見えて僅かに発光していた。
「日本の
「えぇ、詳しいスペックは知らされてないけど名前程度なら」
装甲に触れる――冷たい感触/微かに光る。「どんな名前」
「“
「日本神話の神の名前でしたか。いかにもって名前ですね」
「AIを作った人が好きでね。勝手に付けちゃったみたい」
周囲を見渡す――出入り口はさっき入った一箇所/監視映像でキドニーと娘が出て行ったものは残っていなかった。どうやって逃げる?
目を走らせる。
監視カメラが無い部屋。
壁――綺麗もいいところ/傷の一つも入っていない。
床――引搔いたあと/キドニーの爪跡。他に無し。
天井――蛍光が照らす/排気用のダクトが一つ。
近づき見上げる――娘一人なら通れそうなダクト。壊された形跡。
だがキドニーが通れない。ダクトの可能性が消える――別の可能性。
ふいに疑問――侵入経路。
「藤林少尉、キドニーたちの侵入経路ってどう言う感じだったんですか」
「生存者の堂々と正面からだったそうよ。でも逃走経路さっぱり、監視データ見せましょうか?」
「お願いします」
保管庫を出る/監視サーバ室へ――監視映像の確認/改竄の形跡を探す。
疑問が残る犯行――ただ殺戮が目的?
なら何故”
キドニー/ワンピースの娘/”
せめて逃走経路でも必要――追跡の目処。
サーバ室――無数のコンピューター/冷房の音/冷気。
「これが2日の施設監視映像よ」
記録メディアを持ってくる藤林。受け取る――ハードの出力にあわせる。
前に見た犯行映像――何も写らないカメラも/キドニー一行が”
二分――二十分/空き巣の犯行時間は過ぎている。盗難以外が目的?
到着する別働部隊――突入。何も居らず出てくる。
別の場所の映像――ダクトの出口。何も起こらない――違和感。
僅かに感じる不信感。
――ウフコック、映像データ調べたいの。脳波アシストに
(ばれないのか?)
――見えないようにする。
藤林が別の映像を探しに行っている間にウフコックが
掛ける/脳波アシストと映像を繋ぐ。
視界に広がる映像の構造=2進法。細かく区分けされた映像/膨大な数字。
「やっぱり」
数字に不自然な痕跡/見つけるのに苦労するような、ほんの僅かな綻び。
戻ってくる藤林。「何か見つかった?」
「解析不足ですね、ここの記録、独立型じゃないんですか」
「映像記録はこっちが持ってるけど、一部が民間に委託しているは」
溜め息が出る――その一部が民間の映像なのだろう。
オンラインになっているコンピューターを
見つからない――外部からの繋いだ形跡が。さらに深く調べる――一部に繋いだ形跡/施設内。
(これ、”
位置データが割り出される――無理やりに繋いだようだった。
「藤林少尉、”
「いいえ、演算思考はしているけど。オフラインのはずよ」
「”
「研究者が、新しい戦術が出来てるからダメだ! って騒ぐわ、言ってみるけど」
「お願いしします」
”
ビジョン/ワンピースの娘――四葉の研究所/遊具が置かれた部屋。
虚無の囁き――”
”
”
脳波アシストを外そうとする――喪失感。データ消失。
何かからハッキング――監視映像が次々消えていく。
「ウフコック。少尉に報告。私しは逆探知する」
「ナナ待て脳波アシストに繋がったままだ。攻撃を受けたら脳に障害が出るぞ!」
ウフコックの忠告を無視。「データが消えるよりましよ」
意識を機械にむける――さらに奥に。ナナのイメージ/
オンライン端末に
関連情報を選び取っていく――ハブの存在を検索。ハブを押さえようとする。
施設内/枝がつけられた”
厳重に固められたファイアーウォール――解析。突破る。
”
回路が複雑に広がり――蟻の巣のような――もっと複雑。人の神経系を彷彿させる。
思考が流れ込む。
《101111111010111111000110111111101011100010100001110000111100111010100001101000011100001011010000101110101111011010110011101010111011101111001111》=侵入検知、対策開始。
ラインの切断に掛かる
「ウフコック。
藤林に連絡を終えたウフコック。「
さらに深く――ハッキング元を探す。思考をかき分ける。
流れ込んでくる思考――期待。待ち望むような。
一貫性の無い考え――その中でデータを消しているものを発見。
追跡――位置検索/意識に流れ込むメッセージ。鷹の鳴き声。
――デットライン超えたぜ
にわかに逆流してくるデータの波。
咄嗟にラインを自ら切断する――オンライン端末が火花を上げる。
急ぎ戻ってきた藤林。「大丈夫?」
ハッカーの反撃に冷や汗をかく。「何とか。それよりこれ」
急いで書き込んだ記録メディア――渡す。
「ここにハッキングした相手の大まかな位置です、急いでたんで大体のことしか」
「脳波アシストを通して情報戦。無茶するわね」記録メディア受け取る。「今日はもう切り上げましょう、脳波アシストは負担が大きいわ」
ナナは無言。
警戒の信号――鷹の鳴き声が頭の中に響き続けた。
どうも、こんにちはこんばんは。運珍です。
リアルが少々忙しくなり始め投稿が遅れた運珍です。
今回は無理やり話を繋げた感があります。
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